経済循環マトリックスと四面等価原理

2021/06/30 5:00

生島さん

>お返事できなくすみません。今、AI系の仕事でアップアップなので経済系はお休みしています。

どうぞ,ごゆっくり.経済循環グラフのマトリックス(接続行列)からGDPを簡略に計算するための表を作ってみました.内閣府が公表している「基準国民経済計算の作成方法」とはまったく違うアプローチになりましたが,減価償却など「取引によらない資産・負債の量的移動」は計算するすべがありませんのでやむを得ません.経済循環グラフはノードと枝がそれぞれ一つの値を持っているだけなので,この表を作るためには,個々のトランザクションの内容についてのもう少し詳しい付加的情報が必要です.一つのセルにはセクターAに属するノードからセクターBに属するノードへの複数のトランザクションが合算して詰め込まれますが,マトリックス上のセルC(i, j)は,「i行のセクタ-iからj列のセクターjに通貨が移動する」のようにお読みください.

横軸で集計すると支出合計となり,縦軸で集計すると収入合計になりますから,表全体を縦横で累計すれば総支出と総収入が一致することは間違いありませんが,「国民経済計算」というのは実体経済にのみ関わる計算なのでそれを切り分ける(ヴェルナーの用語で“deaggregate”する)のが,かなり厄介なところです.下表は今のところその「試作段階」というところですが,赤字は国民総生産に関わる項目,青と茶は国民総所得に関わる部分というつもりで作りました.黒の細字の項目はGDP計算[国民経済計算]に関わりのない[金融経済にのみ関わる]数字として計算から除外します.ざっと描いてみただけの段階なので,あちこち間違っているところがあると思います.かなり興味深いものになってきたような気もしておりますので,ご批評頂ければ幸甚です.

公共 企業 金融 家計 支出合計
公共 貸付,返済
補助金,
利子補給

交付金
資産購入,
借入利息
補助金
インフラ,資本財
消費支出
資産購入,
借入利息
返済
公債償還
資産購入,
借入利息
人件費
給付金
資産購入,
借入利息
歳出
財政支出
公務員給与
企業 租税
資産購入,
地代家賃
仕入れ・外注費,運賃
資本財,消費支出
資産購入,
借入利息
貯蓄,返済
資産購入,
借入利息
人件費
資産購入,
借入利息

貸付,返済
企業支出
営業費用
事業所得
民間人給与
金融 租税,公債購入
貸付,返済
資産購入,
借入利息
貸付,預金引出
資本財,消費支出
資産購入,
借入利息
貸付,返済
資産購入,
借入利息
人件費
貸付,
預金引出

資産購入,
借入利息
金融支出
営業費用
銀行員給与
家計 租税
保険料,手数料
水道料金,
通行料

資産購入,
借入利息
住宅購入,
消費支出

資産購入,
借入利息

貸付,返済
貯蓄,返済
資産購入,
借入利息
人件費
資産購入,
借入利息
家計支出
生活費用
使用人給与
収入合計 歳入
公租公課
払い下げ
企業収入
純消費額
企業収益
金融収入
企業収益
家計収入
企業収益
個人所得
通貨循環量
国民総生産
事業所得

国民総生産国民総所得=国民総支出
国民総所得個人所得事業所得
国民総支出純消費額財政支出営業費用生活費用

  • 輸出入に関わる外部取引はすべて無視するものとする
  • 耐久消費財・資本財は買い切りとし,減価償却は行わない
  • 在庫計算・廃棄物計算は行わない
  • 自社開発ソフト・社内の研究開発などによる産出成果は無視される
  • 取引によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される

公共:政府・地方政府・公的企業

企業:法人・団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・自営業者・フリーランサーの営業活動

人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬

消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療),耐久消費財,サービスの購入

耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車

インフラ:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水

資本財:工場・機械(ロボットを含む)・設備・船舶・航空機・建物などの新規築造 / 取得

資産購入:転売:土地・資本財・有価証券(金融資産)→財産所得:地代・家賃・金利・配当

借入利息:資産の賃借料など(地代・家賃・金利・配当)

この表が完全に仕上がったら,もう少し詳しい説明を付けたいと思います.それができれば,ダグラスの等式も改めて再検証できるのではないかと思っているのですが…

2021/07/01 4:22

生島さん,下田さん

少し整理してみました.多少分り易くなったのではないかと思います.

国民経済マトリックス

国民総生産国民総所得=国民総支出
国民総所得個人所得事業所得
国民総支出純消費支出財政支出営業費用生活費用

  • 公共:政府・地方政府(地方自治体)・公的企業(独立行政法人など)
  • 企業:法人・各種団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・個人事業主など何らかの生産・サービス活動を行うすべての経済主体 個人事業主は企業部門と家計部門の両面に出現する
  • 人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬
  • 消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療,その他),耐久消費財,サービスの購入
  • 耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車など比較的耐用年数の長い商品
  • 資本財(固定資本財):工場・機械(ロボットを含む)・設備・車両・船舶・航空機・建物など耐久性があり,生産活動に用いて将来の収益を生み出す資本となるもの 
  • 基盤投資:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水などの大規模公共建造物(インフラストラクチャ)の築造・整備
  • 資本投資:将来の生産活動のために必要とされる資本財(生産設備)の購入
  • 融資返済:融資(ローン)は現金の貸付であり,返済にはローン元本の返済と金融債権(額面のみ)の償還が含まれる(金利・配当は別途,資産配当として計上する)
  • 資産投資(資産・債権の購入):投資を目的とする不動産・金融資産(株式,有価証券)の購入,資産配当(財産所得)の源泉となる 不動産は第三者に貸し付けることによって初めて配当を生じるが,金融資産はそれ自体が有利子債権である 資産の再貸付(又貸し)ないしその資産を担保とする融資なども行われる 投資の目的が配当を得ることよりも資産の価格変動による売買差益を狙う場合には投機と呼ばれる 金融債権の償還は返済に含まれる
  • 資産配当:融資債権,金融資産などの資産保有者の得る財産所得(地代・家賃・金利・配当)金融資産はすべての部門の任意の当事者間で取引可能であり,蓄蔵性を併せ持つので,流通速度の遅い通貨の一種とみなされる  

国民経済計算との相違点

  1. 対象領域は閉じた経済循環系であるとする.従って圏外の外部取引(輸出入など)はすべて無視される.
  2. 経済循環グラフのノードは独立の経済主体であり,ノードをつなぐ枝は1個の取引を表示する.グラフの枝リストとしてブロックチェーンを持ち,枝(トランザクション)に相当するブロックにはリアルな取引情報が記載される.
  3. 内閣府の国民経済計算では1年を四半期に分けて,2期遅れくらいで各省庁が収集・整理した各種の産別統計を突き合わせながら推計値の計算を行っているが,本試算表では国民経済の時点表示である経済循環グラフの接続行列表現(マトリックス)を用いるので任意の時点でリアルタイムに計算を完了することができる.
  4. 計算はブロックチェーン上のトランザクション情報のみを参照する.従って,「取引」によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される.つまり,①耐久消費財・資本財はすべて買い切りとし,取引に対応しない減価償却計算などは行わない.②流動資本財(原材料,仕掛品,製品在庫)は計数しない.原材料は購入時点で全量消費されたものとみなす.③取引実績のない資産は計量できないので研究開発費などの資産評価は行わない.
  5. 国民経済計算では国民経済を①非金融法人企業,②金融機関,③一般政府,④家計,⑤対家計民間非営利団体の5部門に分割している.本試算表では⑤を①と合併して「企業」とし,①公共,②企業,③金融,④民間の四部門に分割した.民間非営利団体(政府は公的非営利団体である)は一般企業と同様に財貨・サービスを生産・販売し,役員報酬や従業員給与の支払い,外注など外部主体との取引その他あらゆる点で,一般事業者との相違を見出すことは難しい.異なるところは(規模・目的・税制などは別として)事業収益を配当として分配するか否かの点だけと考えられるが,一般事業者でも無配どころか赤字経営というところはいくらでもあり,特に分離する意味はない.
  6. 以前に投稿した「日銀マネー循環図」では①政府,②日銀,③銀行,④国民という4部門に分割していたが,今回の試算表では「国民」を「企業」と「家計」に分割し,「銀行」を「金融」にリネームしている.「日銀マネー循環図」の「日銀」はこのマトリックスのどこにも出現しない.これは国民経済循環グラフ,つまり経済循環システムそれ自体が中央銀行システムであり,システムの全体であるために見えなくなっているものと理解される.
  7. なお,この経済循環システムでは,すべての経済主体は中央銀行に直接当座預金口座を持ち,現金(硬貨・紙幣)はすでに廃止されていることを仮定している.また,中央銀行は「近未来的貨幣中立論」の立場から経済循環系の中の参加メンバーとして振る舞うことを想定していない.

国民経済試算表の考え方

  1. 三面等価原理により,①国民総生産,②国民総所得,③国民総支出の三面が一致しなくてはならない.このうち,国民総生産は期間内に生産された財貨をカウントすればよいので,比較的簡単に計算できると考えた.国民経済を上記のような方針で部門分割しているので,すべての財貨は企業部門でのみ生産されるとしてよい.従って,企業部門で販売された最終消費財の総計が国民総生産に相当すると言える.→上の表の赤色枠で囲まれたブロック.
  2. 赤色枠の中の赤太数値の合計が純消費支出であり,それを部門ごとに集計したものが,財政支出営業費用生活費用であるから,国民総支出純消費支出財政支出営業費用生活費用となることは明らかである.
  3. 試算表の計算では企業部門で販売価格に転化されない自家消費分は消費支出として純消費支出に算入する.また,仕入れ,外注費,運賃は販売価格(消費支出)に転化される(含まれる)ものとして計算から除外する.
  4. 他の3部門(公共,金融,家計)における経済活動は主として「サービス」のカテゴリに入るものと考えられるが,そのうち家計部門の活動は主として「労働(知的生産活動を含む)」であり,これらの生産量は最終消費財の価格の中に含まれる.金融部門のサービスの貨幣価値は経済システム全体の規模と比較して相対的に十分小さいと考えられるのでゼロで近似しても大きな誤差は発生しない.
  5. 政府部門のサービスの規模は国民経済のかなりの割合を占めると考えられるが,分節するとそのほとんどすべては企業部門が生産する財貨に含まれている.政府部門の提供する公的サービスは(一部受益者負担はあるとしても)原則として「無料」であることが仮定されていると考えられるので国民総生産にはカウントしない.
  6. 国民経済は大きく分けて実体経済と金融経済に二分される.通貨の純粋な移動は基本的に金融経済的な活動とみなされる.融資,返済,資産投資,資産配当,貯蓄と預金引出し,公債の発行と償還などがそれに該当する.これらはすべて国民経済試算の対象外とする.
  7. 国民総所得の等式の右辺の「個人所得」は青色枠で囲まれた家計部門収入のうち,各部門で支出された「人件費」の総額と見てよいはずだ.
  8. 問題は「事業所得」をどうやって計算するか?という点にある.企業部門の支出合計を企業支出,収入合計を企業収入とすれば,事業所得=企業収入-企業支出となるはずだが,この計算は実物計算と金融経済の混合計算になってしまうため検証が難しい.そこで,企業部門の全支出のうち,金融経済に関わる部分だけが事業所得と推定されるという仮説を立てた.これは他部門に通貨を移転するためにはそれだけの所得がなければ実行不能と考えられるからである.→茶色枠で囲まれたブロック.所得を計算するのに支出から推定するというのはやや逆説的だが,おそらくこれしか方法がないのではないか?
  9. 青色枠の合計を個人所得茶色枠の合計を事業所得とすると国民総所得個人所得事業所得となる.問題はこの2つ,国民総所得国民総支出が一致するか否か?という点にある.もし,この計算が一致すれば,ダグラスのA+B理論は否定されることになる.ダグラスは事業所得の一部は必ず貯蓄に回るはずであり,もしそうであるとすれば純消費支出C個人所得A)+事業所得Bであり,等式を修正して純消費支出=国民総支出=個人所得+国民配当+事業所得としなくてはならないと主張している.
  10. この試算表の構成が正しいとすれば,国民総所得個人所得事業所得となるのはマトリックスの構成から見てもかなり特殊な場合に限られる.むしろ,逆にこの等式が成立する条件を見つける方が早いかもしれない.
  11. 公共部門支出にはこの他にも補助金交付金給付金などの項目がある.給付金はダグラスの国民配当に該当すると考えられるが,これらは基本的に「所得の再分配」なので,国民総生産には算入しない.(もちろん給付金の支給が国民総生産にまったく影響しないと主張するものではない.適切な所得再配分は経済成長に寄与するだろう.
  12. 家計の支出項目にベビーシッタなど家庭内の家事などのために雇った使用人に対する報酬を人件費として計上してみたが,この金額を国民総所得に算入することに関しては疑問がある.もし,これが正しいとすると専業主婦の家事労働に給与を支給することで国民総所得が増加することになってしまう.ベビーシッタの雇用を事業とみなして企業会計で処理することにしても実情は変わらない.しかし,使用人への報酬が所得計算から外されるというのもおかしい.どうすればよいか?→ベビーシッタの雇用は営利を目的とするものではないが,やはり,企業会計で扱うしかない.企業会計なら損金処理されるのでたとえば,その分貯蓄が減少するなどの形で帳尻が合う.

政府のGDP統計には「対家計民間非営利団体」というのが独立の部門として入っていますが,むしろ,「不労所得者・ギャンブラー」,「横たわり族」,「超富裕層・財団法人」などの部門を設けてその動態を分析した方が興味のある結果を得られるかもしれません.このマトリックスに「外国」という部門を設ければ一応輸出入などを扱うこともできますが,為替の問題などが発生するのでその前に複数の経済循環系が含まれる複合系(開かれた経済循環系)の経済循環グラフを描く必要があります.今回そこまで手を広げられるかどうかは,ちょっと分かりません…

「公共サービスは基本的に無料」という原則(多少の手数料は徴収される)があると思いますが,確かに「無料サービスの領域」というのはかなりの速度で拡大しているようにも感じられます.そこまでゆくとマクロ経済学は環境経済学と地続きになります.無料サービスは構成的に国民総生産に貢献しないというのも多少疑問はありますが,無料サービスに値付けをするとなると宗教の領域に入ってゆくことになるかもしれません… 政府部門に属する経済活動には「現業部門」というのがあり,これが国民総生産に入っていないのは手抜きです.健康保険料,手数料,水道料金,通行料などに対応する事業がそれに該当します.これらを取り除くと上のマトリックスは「現業部門の完全民営化」に等しい状態になりますが,むしろ方向としては,民営化ではなく無料化というのが正しいのではないでしょうか?(完全無料化には弊害もありますが,救急車が有料化されたら119番をコールするのにためらう人も出てくるでしょう)金融部門収入のセルにもピンクで着色された手数料がありますが,これも無料化するべきでしょう.

「環境」が万人を包摂する「無料サービス」であるとして,その「価値」をどのように計量・評価するか?という視点から見ると,「宗教は無料サービスの価値に関する経済学」であるとみなすことも可能である.言ってみれば,宗教は「公共経済学 / 政策」の一種である.ネオリベラリストが推進するあらゆる公共サービスの民営化というアィディアをどう評価すべきか?⇒参照:パートⅢ

かなりまとまって来たように思いますが,まだ間違っているところがあるかもしれません.お気づきの点,ご不明の点などありましたらお知らせください.このテーブルを実体経済マトリックスと呼ぶとすれば,その裏面の金融経済マトリックスというのも存在しなくてはなりません.それがどういうものになるのか?ちょっと見当も付きません.完全に「双対」なものになればおもしろいのですが…

馬場英治

2021/07/01 12:59

訂正:前便の記述にはほぼデタラメに近い致命的な誤りがあります.再考には相応の時間を要する見込みです.しばらくの冷却期間をお許しくださいますようお願い申し上げます.英治

2021/07/02 4:41

生島さん,下田さんE

どうもお騒がせしました.お手数ながら前便は速攻で破棄してください.あまりひどいので,どこが間違っていたのかの説明は致しません.さて,気を取り直してもう一度最初からやり直すことにしましょう.

目標はブロックチェーンを枝リストとして持つ経済循環グラフの接続行列を使ってある期間のGDPを求めるというものです.ブロックチェーンには該期間内のすべての取引情報がリストとして保持されているとします.ブロックチェーンのブロック一つがグラフの枝に相当し,ブロックには少なくとも以下の情報が記録されています,①取引種別,②債務者,③債権者,④債務額.取引種別では少なくとも,その取引の目的が「仕入れ」であるのか,「最終消費」であるのかが識別できる必要がありますが,それ以上の詳細情報は今のところ必要ではありません.売買取引の場合,物品がすでに引き渡されていると仮定すれば,債務者は物品の受取人,債権者は送出人,物品の価格が債務額になります.

使用する経済循環グラフはこれまでと同様ですが,以下のような拡張を行います.グラフのノードと枝の重みとして「純消費」と「仕入れ」という項目を追加します.移動量はこれらの欄のいずれかに直接書き込みます.たとえば,その取引が原材料や中間財,ないし最終財の「仕入れ」に当たるときには「仕入れ」に金額を格納し,「純消費」にゼロを記入します.取引が消費を直接の目的とする場合には,「純消費」に金額を記入し,「仕入れ」をゼロとします.それ以外の場合はどちらもゼロとします.※移動量と取引種別とした方がわかり易かったかも…

グラフのノード数をNとしたとき,グラフの接続行列(隣接行列)はNNのマトリックスとして表現されます.マトリックスの要素(セル)はグラフの枝E(i, j)に対応します.マトリックスのセルには(純消費,仕入れ)の対を格納しますが,枝が存在しないセルは(0, 0)のままとします.枝の向きはV(i)→V(j)なので,マトリックスの行がそのノードからの「支出」を表し,列はそのノードへの「収入」を表しています.マトリックスには集計用に行2つと列を3つ追加します.集計用の行は「売上合計」,「所得合計」,「最終消費」,集計用の列は「支出合計」,「仕入合計」呼ぶことにしましょう.

「売上合計」には,各ノードごとに「純消費+仕入れ」を縦に集計して格納します.「所得合計」には,付加価値=売上合計-仕入合計の値を計算して格納します.「最終消費」には「純消費」だけを加算します.「支出合計」には各ノードごとに「純消費+仕入れ」を横に集計して格納します.「仕入合計」には「仕入れ」だけを加算します.簡単なサンプルを作ってみましょう.

企業A, B, Cとその従業員a, b, cがいるとします.A, B, Cは従業員a, b, cのそれぞれに給与50円を支払って製品の製造・販売を行います.A100円の原材料をBに販売します.Bはそれを加工して200円でCに卸します.Cはこの200円の製品に100円上乗せして販売総額300円とし,A, B, a, b, cのそれぞれに60円で販売しました.Aは従業員a50円支払い,原価50円のところをB100円で売っているので,50円の収益があります.Bは原材料100円を加工するためにbに50円支払い,それに50円上乗せしてCに卸しました.Cは仕入れ価格200円の商品を300円で売っていますが,c50円支払っているので,取り分は50円です.つまり,Acのすべての当事者の所得は50円均一になります.

以下の表では(純消費,仕入れ)の形式ではなく,具体的な取引種別を示して(取引種別,価格)の形式で表示しています.「給与」,「原材料」,「製品」が「仕入れ」に該当し,「販売」が「純消費」に該当します.例えば,セル(B,A)の場合,「A100円分の原材料をBの仕入れ用に販売し,BAに代価100円を送金する」のように読んでください.※やっぱりね!そうなると思った.

A B C a b c 支出合計 仕入合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 給与50 250 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

付加価値(所得合計)=売上高(売上合計)- 仕入れ(仕入合計)

国民総支出=∑∑純消費(表の赤数字)=∑最終消費=300
国民総所得=∑∑付加価値=∑所得合計=300
国民総生産=国民総支出=国民総所得=300

A, B, Cは先日提示したマトリックスで言えば,企業部門,a, b, cは家計部門に属するので,上の表から部門別のマトリックスに転換してみましょう.難しい操作ではありません.単純に各セルを累計するだけです.まず,行を圧縮すると下図のようになります.

A B C a b c 支出合計 仕入合計
企業 原材料100 製品200 販売120 給与50 給与50 給与50 570 450
家計 販売180 180
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

これをもう一度横方向に圧縮します.ここでは本来の(純消費,仕入れ)の形式で表示しています.

企業 家計 支出合計 仕入合計
企業 純消費120,仕入れ300 仕入れ150 570 450
家計 純消費180 180
売上合計 600 150 700 全取引量
所得合計 150 150 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

国民総所得=個人所得+事業所得=150150

となっているので,明らかにダグラスのA+B等式は成立しています.ただし,家計は収入が150に対し,支出が180なので30円の赤字になっています.逆に企業は60057030円の黒字です.どうも,ダグラスの言ってることは本当なのではないでしょうか?下記(3番目の「損益」を追加した表)のように,損益=売上-支出をすべてのノードについて合計すると(∑損益),トータルはゼロになります.つまり,赤字と黒字はつねにバランスしています.ダグラスがこの意味で言っているのだとすれば,ダグラスの完全な誤解ということになるかもしれません.

上の表は部門別になっていますが,これをさらに,企業と家計を合併するとセルは一つだけになり,総計が表示されます.

国民 支出合計 仕入合計
国民 純消費300,仕入れ450 750 450
売上合計 750 750 全取引量
所得合計 300 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

一つ気になる点があります.ループ(自己取引)が存在するときにどうなるか?という問題です.最初のマトリックスに戻って試してみることにしましょう.C→Cの枝を追加して,100円分を自家消費してみます.

A B C a b c 支出
合計
仕入
合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 自家消費100 給与50 350 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 400 50 50 50 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 50 400 国民総所得
最終消費 400 400 国民総支出

特におかしなことは起きていないように見えます.国民総支出も総所得も同額増えています.売上も所得も同額だけ増加します.実際のところ,これはまさに「内需拡大」という言葉が意味しているところです.個人(家計部門)の場合はどうでしょうか?

A B C a b c 支出合計 仕入合計 損益
A 販売60 給与50 110 50 -10
B 原材料100 販売60 給与50 210 150 -10
C 製品200 販売100 給与50 350 250 +50
a 販売60 60 -10
b 販売60 60 -10
c 販売60 自家消費30 90 -10
売上合計 100 200 400 50 50 80 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 80 430 国民総所得
最終消費 400 30 430 国民総支出

これも問題ありません.国民総所得も増えています.つまり,GDPは拡大しています.損益を計算してみました→上表の最右列.Cを除いてすべてのノードが赤字になっています.ただし,これは当たり前のことですね.売上合計=支出合計なのだから,トータルでは必ずゼロになります.つまり,誰かの赤字は誰かの黒字ということでしょう.しかし,誰かが必ず赤字になるとしたら,その経済では年がら年中デフォルトが発生しそうな気がするのですが,そうならないのはなぜでしょう?わたしは前々から,貿易赤字国はなぜ存続できるのか?という疑問を抱いてきました…(まだ解けていません)所得=売上総利益=粗利=売上高-売上原価はどのノードも黒字になっています.

自家消費ではなく,給与を支払ったらどうなるでしょう?

A B C a b c 支出合計 仕入
合計
損益
A 販売60 給与50 110 50 -10
B 原材料100 販売60 給与50 210 150 -10
C 製品200 販売100 給与50 350 250 +50
a 販売60 60 -10
b 販売60 60 -10
c 販売60 家内報酬30 90 30 -10
売上合計 100 200 400 50 50 80 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 50 400 国民総所得
最終消費 400 400 国民総支出

c→cの自己ループとして,家内報酬30というのを追加してみました.売上が+30,仕入も+30で所得には変化がありません.この設定は「専業主婦に家庭内報酬を出す」という課題と等価ですが,売上は増えても所得は変化しないので,生活には何の変化もないということになります.逆に言えば「名目的には」いくらでも「報酬」が出せるということを意味します.ただし,(家計全体で)買えるものの量は変わりません.上の自家消費と比較して異なるところは,「家内報酬」では何も買えない,「自家消費」の場合は自家生産したものが消費できる,つまりGDPが拡大するという点です.

必要なら,部門をもっと細分化して集計することも容易に可能です.たとえば,鉱工業,水産業,製造業など産業別統計を計算するとか…あるいは,地域別統計を取るなどいくらでも応用が効きます.この経済循環マトリックス計算の利点は,対象ノードの属性に関わりなく例外なしに,まったく同じルールが適用できるところです.政府,金融機関から,利益を出さない非営利団体を含めて末端の一個人まで,経済主体の大小に関わりなく一律,統一的な操作で計算することができます.ただし,内閣府の国民経済計算でやっているような,「非市場生産者(無料ないし経済的に意味のない価格で財貨・サービスを供給する生産者であり、一般政府と対家計民間非営利団体を指す)によるサービスの産出と需要先別配分については、決算書等の基礎統計により別途推計する」ようなことはできません.

いや,やろうと思えばできないこともないとは思いますが,それをやると数値的な不整合があちこちで発生するおそれがあるのであまり推奨できません.この方式のメリットはどれほど大規模な循環経済系であっても1円の誤差もない精密計算がどこまでも可能であるというところにあるので,あえてそのメリットを捨てる必要はないと思います(実際,これは「中央銀行決済システム」の設計書ですから,現実の取引と「完全」に一致している必要があります).このアルゴリズムの計算量はたかだか多項式時間ですから(アルゴリズムをきっちり書いてみないと分かりませんが,O(N^3)を超えることはないでしょう),エストニアくらいの国家の規模なら,リアルタイム(毎分?)でGDP統計を更新できるのではないでしょうか?少なくとも毎時くらいなら楽勝ですね!

2021/07/06 5:10

生島さん,下田さん

どこでどう間違えたのか?シズカちゃんの素朴な疑問に応えるというところから始まったスレッドですが,いつの間にか,中央銀行が分散型CBDCを発行し,すべての国民が中央銀行に当座預金口座を持つというモデル上で,経済循環グラフのマトリックスを用いて国民総生産をリアルタイムで計算するというシステムの概念設計を行うという流れになってしまいました.ここまでの議論の最大の収穫は「真に持続可能な経済社会とはグラフ理論的にはオイラー有向閉路を持つような経済循環グラフであり,絶対に停止(デフォルト)しない決済システムがあればそれを実現できる」という確証を得られたことです.

この構想は比較的小規模の国家であれば,今日にでも実現可能ですが,人口一億人を超えるような「大国」で採用するためには量子コンピュータの登場を待たなくてはならないかも知れません.(計算量が参加ノード数Nの累乗に比例して増大してしまう…)

経済循環グラフはある閉じた経済圏のすべての経済単位(独立の経済主体,ないしその集合)をノード集合とし,時点における取引を枝集合とする有向グラフで,それ自体がその経済圏で通用する貨幣(ないし疑似通貨)を用いた取引の「決済システム」を表現しています.決済システムでは「時点」におけるすべての取引の決済が完了すると,待ち行列に入っていたすべての取引からなる新しいグラフを生成して,次のセッション(時点決済)に移ります.(もちろん,トランザクションを一つづつ逐次処理してゆくという方法[即時決済]でも差し支えありません)グラフのノード(経済単位)は主体的に経済活動を行う取引主体(個人・法人・銀行・政府など)ですが,独立経済主体の集合(産業部門,地域,国家など)をノードとすることもできます.

経済循環グラフの接続行列は経済循環マトリックスと呼ばれ,国民総生産統計を求めるなどの統計処理に用いることができます.通常経済循環マトリックスにはある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを蓄積・圧縮(時間軸で合併)したものが使われます.経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作です.圧縮された経済循環マトリックスを略して計算表ないし試算表,その上で実施される(国民総生産などの)統計処理を経済循環マトリックス計算と呼んでいます.

ある経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを空間軸で合併して1つのノードにまとめる操作です.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列のセルの値とB列のセルの値を取引種別ごとに合算してC列を生成してから,A列とB列をマトリックスから除去します.次にA行のセルの値とB行のセルの値を取引種別(仕入れ|純消費)ごとに合算してC行を生成してから,A行とB行をマトリックスから除去します.合算は取引種別ごとに行われるので,一つのセルの中に複数の値が残る場合があります.合併によって外部取引が内部取引になる場合もありますが,それによる取引種別の変化は起こりません.つねに横方向の合併と縦方向の合併を同時に実行し,正方行列を構成するようにします.

マトリックスの圧縮ないし縮約の操作を対応する循環グラフ上で行うこともできます.この場合はまず,対応するノードを合併し,次に,この操作によって発生した(向きの同じ)多重枝を合併して1本にまとめます.圧縮ないし縮約では自己ループが発生する場合がありますが,基本的に経済循環グラフは自己ループと多重枝の存在を許すグラフであり,圧縮ないし縮約をしなくても最初から自己ループや多重枝が存在する場合があります.自己ループは同一経済単位内の内部取引(自己取引)を意味し,2つの経済単位の間で同時に複数の(同方向の)取引が並行して発生している場合には多重枝が発生します.自己ループはマトリックスの対角線上にあるセルを意味します.多重枝の場合,マトリックスのセルには複数の値が格納されます.

前回はこの方法を使って,企業A, B, Cと個人a, b, c6つの経済単位から構成される経済循環マトリックスを,企業セクタと家計セクタの2経済単位からなるマトリックスに縮約できることを見てきました.これを応用して,経済循環マトリックス計算が一国経済だけでなく,多国間の貿易を伴う大域経済圏においても適用可能であることを見ておきたいと思います.最初に前便の冒頭で提示した企業A, B, Cとその従業員a, b, cからなるサンプルを開始地点として再掲します.企業A, B, Cはそれぞれの従業員a, b, cに給与50円を支払い,BAから供給された原材料100円を加工して,製品をC200円で売却し,Cはそれを分割してA, B, a, b, cのそれぞれに60円(総額300円)で売却します.各当事者の売上は50300円とまちまちですが,所得はすべて50円均一です.

A B C a b c 支出
合計
仕入合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 給与50 250 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

まず,このサンプルの(A, a),(B, b),(C, c)という(企業,従業員)のペアをそれぞれ,A村,B町,C市に見立てた地域経済モデルを作ってみましょう.A村,B町,C市で構成される経済圏をD県として,県単位の経済循環マトリックスを構成します.A村で生産された野菜は,B町で加工され,C市の販売業者によって,D県全体をマーケットとして広域販売され,最終消費されるというイメージです.

A B C 支出合計 仕入合計 損益
A 給与50 販売120 170 50 -20
B 原材料100  給与50 販売120  270 150 -20
C 製品200  販売60
給与50
310 250 +40
売上合計 150 250 350 750 総経費450
所得合計 100 100 100 300 県民総所得
最終消費 300 300 県民総支出

結構簡単にできました.マトリックスには損益という列を追加しています.損益=売上合計-支出合計で,∑損益はつねにゼロになります.損益はいまのところ設定しただけで使っていません.それぞれの市町村は独立の経済単位として相互に取引していますから,これを外国取引まで拡張するのは難しくありません.A村をA国,B町をB国,C市をC国と読み替えてみましょう.A国は英国で,B国が米国ならC国はチャイナかもしれません.経済循環系グラフはそれ自体「決済システム」を表象しているので,系が国家単位であるときには,システム全体は中央銀行を表します(政府はその中の一プレーヤであるに過ぎません).国境を超えた大域経済圏には複数の中央銀行が存在し,異なる通貨が流通していますが,為替レートは安定で,通貨の等価交換がつねに可能であることを前提とし,各国中央銀行システムを統合した仮想的な統一決済システムの存在を仮定します.

A B C 支出合計 仕入合計 消費合計 輸入 損益
A 人件費50 消費輸出120 170 50 120 -20
B 中間財輸出100  人件費50 消費輸出120 270 150 120 100 -20
C 中間財輸出200  国内消費60
給与50
310 250 0 200 +40
売上合計 150 250 350 750 470
所得合計 100 100 100 300 総所得
最終消費 300 総支出→ 300
輸出 100 200 300
純輸出 100 100 -200 0
純生産 100 100 100 300 総生産

数字的にはまったく変化はありませんが,集計用にいくつかの列と行を追加しました.いずれも輸出入に関係するものです.「輸入」はその行の国家の外部からの「純消費」を除く輸入の合計,「輸出」はその列の国家の「純消費」を除く輸出の合計,「純輸出」は「輸出」と「輸入」の差額とし,純生産は以下の式のように,「最終消費」と「純輸出」の和として与えられます.

純生産=最終消費+輸出-輸入=最終消費+純輸出

C国には消費輸出120というのが2件ありますが,これらは輸出入には勘定されません.これはアマゾンなどの大域企業(グローバル企業)が行っている海外に居住する消費者への直接販売を意味しています.通常のケースでは最終消費財の輸出では輸入国側の販売業者を経由して国内販売することになるので,そのようなパターンでどうなるかを見ることにします.上の表をアレンジしてC→Bの輸出は「消費輸出」のままとし,C→Aの輸出では財貨を中間財(仕入れ/卸し)として輸出して,A国内で販売するというパターンにしてみます.

A B C 支出合計 仕入合計 消費合計 輸入 損益
A 人件費50
財貨消費120
財貨輸出120 290 170 120 120 -20
B 中間財輸出100  人件費50 消費輸出120 270 150 120 100 -20
C 中間財輸出200  国内消費60
給与50
310 250 60 200 +40
売上合計 270 250 350 870 570
所得合計 100 100 100 300 総所得
最終消費 120 180 総消費→ 300
輸出 100 200 120 420
純輸出 -20 100 -80 0
純生産 100 100 100 300 総生産

A国では(マージンを取らず)輸入額と同じ金額で販売しているので,A国の所得合計には変化がありません.表の対角線上にあるA国の自己取引セル内に追加された財貨消費120を取り除くと,A国ではC国から輸入した財貨が売れ残っている状態になるため,売上と所得がその分減少し,大域的な総消費=総所得=総生産もその分連動して減少します.経済循環マトリックスでは最終消費された製品・サービスのみが純生産としてカウントされる(価格が付いていない商品,つまりまだ売れていないものはその時点では無価値とみなされる)ためです.

外国貿易を扱うために,「輸入」,「輸出」などの項目を追加しましたが,これを国内経済計算に応用することはできないでしょうか?上の表では,経済単位が国家なので,「所得合計」は「国民総所得」に相当し,「純生産」は「国民総生産」を表すものと見ることができます.「純生産」の値を得るためには,「純輸出」を計算しなくてはなりませんが,国内経済でも外部取引を移出・移入と捉えれば,翻案できるのではないかと思います.それができれば,国内経済についても,もう少し詳しい議論が可能になる上,国内経済と外部経済を一つの計算表上で完全に同じレベルで解析できるようになります.

該サンプルをアレンジして,企業A, Bと従業員a, bから構成される経済圏をX国,企業Cと従業員cからなるY国に分割してみましょう.Y国は1国を経済単位とし,X国ではすべての構成メンバーがそれぞれ独立の経済主体であるようなモデルを考えます.Y国にはアマゾンのようなグローバル企業が存在し,世界中に商品を直販しています.ただし,A社は外販を目的としてY国から輸入していますが,「時点」では販売実績がないため「在庫」の状態になっています.B社ではそれを外販せず,Y国から輸入した製品の全額を社内消費して内販60とします.aとbは個人なので最終消費の目的でY国から直接購入します.やってみましょう.

A B a b Y 出金額 仕入高 移入財 消費額 損益 総支出
A 給与50 製品輸出60 110 110 110 -10 -10
B 原材料100 内販60 給与50 製品輸出60 270 210 210 60 -10 50
a 消費輸出 60 60 60 -10 50
b 消費輸出 60 60 60 -10 50
Y 輸出200 国内販売 60
給与50
310 250 200 60 40 100
入金額 100 260 50 50 350 810 570 0
総所得 -10 50 50 50 100 240
移出財 100 200 50 50 120 520
純消費 60 180 240
純移出 -10 -10 50 50 -80 0
総生産 -10 50 50 50 100 240

できました.このマトリックスは外国貿易を伴う外部経済と内国経済が混合した広域循環マトリックスですが,完全に汎用的な(ありとあらゆるケースに適応可能な)循環マトリックス計算が確立できたと思います.内容的には一番最初に提示した33雇用者のマトリックスと「ほぼ」同じですが,A社ではY国から製品輸入した商品をまだ販売していないため,総所得が-10という赤字の状態になっています.

すべての財貨・サービスの売買取引は経費(仕入れ)純消費(最終消費)に二分されます.これらの区分はその取引が国外(輸出入)であるか国内(移出入)であるかによりません.自己取引(経済単位内の内部経済)の場合でも同じです.つまり,その経済単位がどのような規模のものであっても例外なく同一のルール・手順によって計算されます.海外への報酬支払い(送金)はサービスの輸入,国内における出稼ぎもサービスの移出としてまったく同じ扱い(移出/入財)になります.海外からの観光客の現地での買い物は消費移出財です.

上の三国経済循環マトリックスの輸入,輸出,純輸出,純生産となっていた項目をそれぞれ,移入財,移出財,純移出,総生産に改め,新たに消費額,損益,総支出という項目を追加しました.また,一行を短くするために,売上合計,所得合計,最終消費,支出合計,仕入合計,消費合計をそれぞれ,入金額,総所得,純消費,出金額,仕入高,消費額のようにリネームしました.

集計行と集計列の各項目は以下のように定義されます.

出金額=∑(行の全要素)
入金額=∑(列の全要素)
仕入高=∑(行の仕入れ)=(内部経費)+移入財

損益=入金額-出金額
総所得=入金額-仕入高

移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

消費額=∑(行の純消費)
純消費=∑(列の純消費)

総支出=消費額+損益
純移出=移出財-移入財
総生産=純消費+純移出

(入金額)=∑(出金額)
(損益)=0
(純消費)=∑(消費額)=∑(純生産)
(移入財)=∑(移出財)
(純移出)=0

∑(総所得)=∑(総支出)=∑(総生産)=∑(消費額)=∑(純消費)
  = 全所得 = 全支出 = 全生産 = 全消費

今回は個別経済単位ごとに,総所得,総支出,総生産を計算し,それらが完全に一致していること(三面等価の原理)が確認されました.広域的には,∑総所得,∑総支出,∑総生産,∑消費額,∑純消費がすべて完全一致しています.(上表でで塗りつぶされている部分).個別経済単位に業種・地域などの属性が与えられていれば,それに従ってあらゆる種類の統計(産業別・地域別などなど)がたった一つのブロックチェーン(取引台帳)から導き出せることが確認されました.しかも,それを全自動で実行することができます.取引の品目が分からなくても,また,その製品の生産プロセスに立ち入らなくても,その取引が仕入れ(経費)であるか純消費であるかを見るだけでここまでできるというのはある意味,すごいことであるような気がします.

2021/07/06 13:57

前便でもご説明したように,循環マトリックスの対角線上にあるセルは内部取引(自己取引)を意味します(グラフでは自己ループ).これは主にマトリックスが縮約マトリックスである場合に起きる現象ですが,その(自己)取引が仕入れ(経費)であれ,純消費であれ,適用されるルールには変わりありません.B社は内販によって所得が+50になっているのに対し,A社の所得は-10になっています.B社の社内販売では資金はB社の内部で動いている(出金と同額が入金している)だけで収支には関わりなさそうに見えますが,ABの相違点は,A社で保有している製品在庫はまだ評価されていない(販売されていない)ため,値が付いていないのに対し,B社ではどの部門かがその製品を購入したことによって値が確定し,その製品が「使用できる状態」になったためと言えます.

内部取引については,前にも「専業主婦の家庭内労働賃金は誰が支払うのか?」という「難問」として何度か触れていますが,この場合も,家事労働に(名目上)賃金を支払えば,その家計の所得は増加します.これは「その労働が評価されたこと」を意味するもので,逆に言えばどっちみちお金は動かないのだから,主婦にはいくらお金を払ってもよい,とも言えます(夫と妻が別財布ではそうも言えませんが…).この「労働が評価されたこと」=「所得が増加すること」の意義は,たとえば,子どもに「お小遣いやるから~やって」と頼むようなケースを考えれば分かります.この場合はお金をやらなければその仕事はなされなかったと考えられるので,「お小遣い」によってその金額相当の「労働」が実行され,それが「生産」として評価されたと言えます.もっとわかり易い例で言えば,「最近やってないけど,これでどう…」と言って妻にお金を渡し,それに妻が応じたとすれば,明らかに家庭内売買春という完全な経済行為(貨幣的取引)が成立すると考えられます.サービス残業などは企業内で起きている「無賃の家事労働」かも知れません.

本システムでは「在庫」を価格的に推計するのはかなり難しいような気がします…多分,できません.仕入れ額がどの製品にどれくらいの割合で分配されているかを推計する手段が存在しないからです.もちろん所得がマイナスになれば,販売不振という状況にあるくらいは推定できますが…まぁ,これは「決済システム」ですから,そこまでやる必要もありません.※イクシマさんのデジタルレーニン主義ではそこまでやるのだろうか?AIを使えばそれも可能になる?(少なくとも現状を見る限りではデジタルマオイズムもそこまで成功しているようには見えない…)

B.A.

訂正:用語の使用,特に集計行および集計列で用いられる項目名の見直しを行い,経済循環マトリックスの構成と整合するような名称に統一するための修正を行った.経済循環マトリックス上のセルは1つないし複数の貨幣的取引を表示し,通貨は最左列のノードから最上行のノードに移動するので,「行」は最左ノードの支出,「列」は最上ノードの収入を意味している.純消費→最終財,消費額→純消費とし,総支出,総所得,総生産はそれぞれ,支出額,所得額,生産額に改めた. (2022/05/12)

2021/07/07 4:01

生島さん,下田さん

GDPを算出するための経済循環マトリックス計算の核となる部分はほぼ固まったのではないかと思いますが,もう少し調べてみたいと思います.もっとも興味深いのは,生産額が,

生産額 = 純消費 + 損益 

という式で与えられるという点です.この損益という値は,ある経済単位の収入と支出の差分をあらわすもので,経済循環グラフ的に言えば,グラフの各ノードの重み(持ち分,中央銀行の当座預金残高)の増減を表します.国民経済計算の解説の中ではあまり見かけない数字ですが,これはなぜかというと,ある閉じた経済循環系においては,∑損益は必ずゼロになると考えられるからです.つまり,「損益」の出番がありません.同じ様にトータルでつねにゼロになる数字に純移出(純輸出=輸出高-輸入高)という数字があります.ただし,開いた経済循環系ではむしろゼロにならない方が普通なので,国民経済計算の中ではかなり重要な役どころです.※この等式は,「働かざるもの食うべからず」という命題を数式化したものに他ならない

一部の教科書はこの「損益」の代わりに「貯蓄」という用語を使っている場合があります.家計部門などでは 所得=消費+貯蓄(可処分所得のうち消費しなかった金額),企業部門では貯蓄の代わりに投資という用語を用いて,所得 =消費+投資のように表現されたりします.循環マトリックス上の時点ではまだこれらの資金の処分(貯蓄や投資)は実現されていないので,あくまで損益と見ておいた方がよいと思います.

売上高=∑(列の全要素)=∑中間財の販売+∑最終財の販売
支払高=∑(行の全要素)=∑中間財の仕入れ+∑最終財の購入
純消費=∑(行の純消費)=∑最終財の購入
損益=売上高-支払高=∑中間財の販売+∑最終財の販売
      -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
支出額=純消費+損益
   =∑最終財の購入+∑中間財の販売+∑最終財の販売
           -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
   =∑中間財の販売+∑最終財の販売-∑中間財の仕入れ
   =∑最終財の生産額+∑中間財の生産額-∑中間財の仕入れ
   =∑最終財の純生産額+∑中間財の純生産額=生産額

支出額=生産額は確かに成立しているようです.マトリックス上で実際に確認して見ましょう.Y国の場合に注目します.下表では,Y国の支出側(行)に純消費項目が出現するように,A社からY国に燃料60の輸出を追加しました.これにより,Y国の純消費は120,損益は-20に変化して支出額は100になりました.以下の表から数字を拾い出し,上の式に代入してチェックしてみます.

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与50 製品輸出60 110 110 110 50 50
B 原材料100 内販60 給与50 製品輸出60 270 210 210 60 -10 50
a 消費輸出 60 60 60 -10 50
b 消費輸出 60 60 60 -10 50
Y 燃料60 輸出200 国内販売 60
給与50
370 250 200 120 -20 100
売上高 160 260 50 50 350 870 0
卸売高 100 200 50 50 170 570
所得額 50 50 50 50 100 300
移出財 100 200 50 50 120 520
最終財 60 60 180 300
純移出 -10 -10 50 50 -80 0
生産額 50 50 50 50 100 300

売上高=製品輸出60x2+消費輸出60x2+国内販売60+給与50350
支払高=燃料60+輸入200+国内販売60+給与50370
損益=(製品輸出60x2+消費輸出60x2)-(燃料60+輸入200)-20
純消費=燃料60+国内販売60120
支出額=純消費120+損益-20
  =国内販売60+消費輸出60x2+製品輸出60x2-輸入200
  =∑最終財生産額180+∑中間財生産額120-∑中間財仕入れ200
  =∑最終財の純生産額180+∑中間財の純生産額-80
  =生産額100

Y国で販売されたすべての財貨(仕掛りの中間財を含めて)はY国の生産物としてカウントされます.ただし,それらの財貨を生産するために外部から移入ないし輸入した中間生成物のコストを控除しなくてはなりません.上の計算式はこれらのことを抜かりなく実行するための手順書になっています.純消費+損益から生産額が直接算出できるというのはまったくもって直感的ではありませんが,恒等的に成立する(マクロ経済学の原理の一つ)ことが示されました.生産額=支出額の等式は,支払高=移入財+最終財+内部経費,売上高=移出財+純消費+内部経費の関係を使って,もう少しスマートに証明できます.

支払高=移入財+純消費+内部経費
売上高=移出財+最終財+内部経費
損益=売上高-支払高=(移出財+最終財+内部経費)
              -(移入財+純消費+内部経費)
  =移出財-移入財+最終財-純消費
  =純移出+最終財-純消費
支出額=純消費+損益
   =純消費+純移出+最終財-純消費
   =最終財+純移出
   =生産額

さて,気になるのはこのマトリックスに含まれている2つの「ゼロサムゲーム」です.明らかにこのゼロサム式は恒等的に成立します(※⇒上表からも明らかなように「損益」と「純移出」のそれぞれの累和はつねにゼロになる.つまり,参加メンバーの一方がプラスになれば,他方はかならずマイナスになる).「競争社会」とはよく言われますが,まさに生きるか死ぬかの弱肉強食の世界ですね.経済がこんなにシビアなものだとは思いませんでした.平均すれば常時半分くらいの人は損益マイナスの状態にあり,国家の半数あるいはそれ以上の国家が貿易収支の赤字で悩んでいる姿が目に浮かびます.損益マイナスの状態から脱出するのは容易いことではありません.それにしては,破綻して自殺を選ぶ人がそれほど多くはないというのはどういうことでしょうか?※

※⇒個人は収入に合わせてなんとか生計をやりくりしているので,帳簿尻は中小零細企業にしわ寄せされているものと推定される.これは構造的と言うより,むしろ原理的と言うべきものだろう.未開発ないし発展途上国がODAを必要とするのも同じ原理だ.財政赤字国に対するIMF融資が逆にその国の経済を破壊する結果に陥りがちな理由もそこにある.農業国が貧しいのもそれが原因と言えるだろう.すべては経済循環マトリックスがゼロサム・ゲームであるためだ.

この2つのゼロサムゲームは相互に影響し合うことはあり得ますが,かならずしも連動しているものではありません.実際,対外収支(貿易収支)赤字でも損益黒ということはあるし,その逆も真です.わたしの感覚ではどちらがシビアかと言えばやはり損益の方ではないかという気がします.というのは,損益はあからさまな資金ショートを意味しますが,純移出(純輸入)の赤字では資金的には赤字でもそれに見合った財貨を輸入(移入/購買)しているのだから,必ずしも悲観するまでもないのではないかと見ています.※⇒実際のところ,国際収支における最大の「赤字国」はアメリカである.「赤字」に対する「見方」を変える必要があるのかもしれない…

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与60 製品輸出60 120 120 120 40 40
B 原材料100 内販60 給与60 製品輸出60 280 220 220 60 -20 40
a 消費輸出 60 60 60 0 60
b 消費輸出 60 60 60 0 60
Y 燃料60 輸出200 国内販売 60
給与60
380 260 200 120 -20 100
売上高 160 260 60 60 360 900 0
卸売高 100 200 60 60 180 600
所得額 40 40 60 60 100 300
移出財 100 200 60 60 120 540
最終財 60 60 180 300
純移出 -20 -20 60 60 -80 0
生産額 40 40 60 60 100 300

このサンプルは企業3社と個人3人でうち11名はY国という構成になっていますが,すべての家計で赤字になっています.これは給与が50円に対し,消費が60円掛かっているためです.仮に60円というのが労働力再生産のための最小限のコストであるとすれば,そこまで給与を上昇させない限り,この経済は持ちません.そこで,とりあえず,給与を一律10円アップして60円としてみました.個人cはY国の中に入ってしまっているため見えませんが,ともかくすべての家計で損益ゼロという状態を確保することができたと言えます.さて,その尻拭いはどこへ行くのでしょう.個人の損益がすべてゼロないし黒字であるとすれば,そのしわ寄せはすべて企業セクタに回るしかありません.なるほど,少し分かりかけて来ました.

日本全体の企業の99.7%は中小企業であると言われていますが,そのうちの7割が赤字という数字があります.わたしはこれまでどんな企業でも経営努力しさえすれば黒字転換は可能なはず,赤字決算のかなりの部分は脱税のための粉飾ではないかと思っていましたが,どうも,そういうことではなかったようです.総和がゼロのゲームでは,誰かしらが貧乏くじを引くしかありません.もし,この赤字が「変動」であって,平均すればゼロというのならまだよいのですが(「持ち分」のベースラインを一律引き上げて残高がマイナスにならないようにするなどの方策があり得る),大きいところはまず赤字にはなりませんから(もちろんときどきニュースで耳にしますが,大概は脱出できます),小さいところがそのあおりでほぼ恒久的に赤字を出し続けるのは避けられないように思われます.しばしば「時代遅れのビジネスはとっとと市場から退出しろ」という声が聞こえますが,それも違うのではないでしょうか?確かに廃業して賃金労働者になれば最低限食ってゆくことはできるかもしれませんが…

「ウィンウィン」ということばがありますが,原理的にあり得ない話です.これが現実であるとすればどんな手を使ってでも相手を出し抜くしかないということになってしまいます.「金融システム」云々より以前にこの原始的な競争社会を転換する必要があるのではないでしょうか?まぁ,赤字経営を続けていても,それが「常態」であるという悟りを開けば存続可能なのかもしれませんが…日本経済の過半の部分はボランティア経済である,つまり採算の取れないビジネスで何とか回しているとは前々から思っていましたが,確かに日本経済の現状,というより世界経済と言っても同じですが,原理的にそうなるしかないような気がしてきました.クリフォード・ダグラスが説いていたのはおそらくそのことなのだろうと思います.だとすれば,ベーシックインカムはむしろ企業にこそ分配すべきものであるのかもしれませんが,企業にはデット・エクイティ・スワップ(企業の債務を債権者が債権による現物出資をおこない株式化すること,もしくは、債権者が金銭出資をおこない株式を取得し、その出資で債務の弁済を受けること)という奥の手もあります…

日本の中小企業は従来から運転資金を銀行等からの借入のローリング(半永久的な借り換え)で賄う傾向があり、これは中小企業の資本性借入れ(擬似エクイティ融資)として問題視されてきた。銀行等の融資は、満期には完全に返済されることを想定しており、恒常的に必要な資金は、本来は株式で調達する(株主からの出資で賄う)べきである。出典:増田安良(東洋大学)

考えられる最善手は,おそらく「経済循環システムの持ち分の変動を許容範囲内に収めるような仕組み」を構築することではないでしょうか?そのためには富の再配分しかないような気もします…つまり極端に過剰な持ち分を削って平坦化する…もちろん,異常に落ち込んでいるところはその原因を突き止めて対処する必要はありますが…損益を改善するためにはやはり輸出しかありません.当然ですが,内需拡大は[GDPを増加させる効果はありますが]損益[対外収支]にはまったく反映されません.下図ではY国の内需を200まで拡大した上で,Y国からA社への輸出を100に増加させてみました.この結果,これまで+40あったA社の損益が0になり,Y国の損益は+20になりました.輸出が伸びたので純移出のマイナスもその分だけ減少しています.

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与60 製品輸出100 160 160 160 0 0
B 原材料100 内販60 給与60 製品輸出60 280 220 220 60 -20 40
a 消費輸出 60 60 60 0 60
b 消費輸出 60 60 60 0 60
Y 燃料60 輸出200 内需 200
給与60
520 260 200 260 20 280
売上高 160 260 60 60 540 1040 0
卸売高 100 200 60 60 220 640
所得額 0 40 60 60 280 440
移出財 100 200 60 60 160 580
最終財 60 60 320 440
純移出 -60 -20 60 60 -40 0
生産額 0 40 60 60 280 440

PS:多少修正が入っているのでアップデートしました.これは経済循環マトリックス計算のルールブックです.

支払高=∑(行の全要素)=移入財+純消費+内部経費=純消費+仕入高
売上高=∑(列の全要素)=移出財+最終財+内部経費=最終財+卸売高
仕入高=∑(行の仕入れ)移入財+内部経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財+内部経費
損益=売上高-支払高
所得額=売上高-仕入高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

純移出=移出財-移入財
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益

(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
(卸売高)=∑(仕入高)
(移入財)=∑(移出財)

所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

2021/07/07 22:23

生島さん

>いよいよGDPになってきて嬉しいと思います。

確かに,このスレッドはある程度まで生島さんのご要望に沿う方向で進めているところがあるというのは事実です(バックキャスティングってやつですね).ただ,そのリクエストのレベルが高過ぎて…なかなか…

>ここはある意味マクロ経済学のキーだと思いますのでありがたいです。

サンプルとして示している計算表は,「スプレッドシート」があれば造作もなく書けるものですが※,この簡単な図表から読み取れることはとても深いものがあります.わたし自身思わぬ発見がいくつもありました.セルの数字をあちこちいじると色々なことがわかってくるのですが,これを自動化したいですね.30年前に「イカロス」という名前の「シミュレーションソフト」を開発したことがあります.そのころは中学校の職業家庭科に「情報基礎」という領域があって,その授業の教材として使うためにBTRON-OS向けに開発されたものですが,非関税障壁だとかなんだとかアメリカから難癖を付けられてBTORON自体が葬り去られてしまったため,陽の目を見ることがありませんでした.もし,これがいま手元にあったら,わたしは何のためらいもなく「経済循環マトリックス計算」をこのソフトの上に乗せていたことでしょう.イカロスにはそのために必要な機能がすでにすべて備わっていました.

経済循環マトリックスの計算表では一つのセルが複数の値を持つ場合があります.スプレッドシートで表現する場合には複数行に分けるしかないかもしれません…

GDPギャップもよく言われているのできちんと見たいと思っています。

えええ,もう次のご注文ですか!ま,待ってください.というか,こういう部分はたとえばイカロスのようなソフトがあればカバーできますよね.イカロスでは「数式入力」もサポートしていたので,「数式」を直接入力してそれを「コード」として動かすことができます.誰か作ってください!

>などとも用語統一というか、オントロジーですね。定義したいところです。

用語の統一は重要なポイントですが,まだ,何がどうなっているのか完全に把握しきれていないので,わたし自身ぐらぐらしています.昨日のメールでは純生産=純消費+損益としましたが,読み直してみると,やはりこれは「純生産」ではなくて「純支出」でした.というか,「純生産」とか「純支出」なんて用語は普通使いませんよね.「純輸出」というのはありますね.「純消費」ということばもどこかで使われていたと思います.用語はできるだけ統一したいと思っているのですが,わたしはグラフ理論を昔の古い教科書で学んでいるので,たとえばグラフの「辺」を「枝」と呼んでみたり,あるいは,「隣接行列」を「接続行列」と呼んでしまったり…グラフの「頂点」もわたしは「ノード」と呼んでいますが,グラフ理論家には嫌われるかもしれません(以前は「点」という呼び方をしていました).ネットワーク理論では「頂点」を「ノード」と呼ぶ方がむしろ普通だと思いますが…この辺りは完全に主観的な「こだわり」の部分なので,できるだけ「世間一般」に通用するように心がけてはいるのですが…

ただ,用語は厳密な定義を与えてから使用するべきですが,そうすると,定義部分のボリュームばかり大きくなって,テキスト全体が過剰に堅苦しいものになり,結果的に読者側に余分な負担を掛けるようになってしまう恐れもあって,まぁ,(いまのところ)アバウトに読み取ってもらえればというつもりで書いています…用語に厳密な定義を与えると間違っているところが見つかったりして,それもまた必要なのですが…

>問題は政府ですが、これが魑魅魍魎の世界です。

デジタル庁などと言っていますが,まず,政府財政をガラス張りにするところから始めないことには…

>山口先生の本でも2章でその関係の話が出てくるので用語整理しておくとありがたいです。

イカロスはインタプリータ言語を内蔵したシミュレータで,数式を含む任意のコードを直接入力し,クロックに同期して擬似的な並列プロセスを実行して,その結果を画面に描画することができます.複数のレイヤー上に矩形・円弧・線分などの各種図形,テキストの他,透過ビットマップも表示できるのでそれぞれのオブジェクトが独立に動作するようなアニメーションも表示できます.システムダイナミックスもかなり高度なことができるようですが,この2つをミックスしたようなものができるとさらにおもしろいかもしれません.

数理研究所でやりませんか?たしか,20年度の予算が4兆円くらい残っていたような…いや,もっとありますね.4兆円というのは新規発行国債の減額分で,それ以外に予算執行不用額が3.9兆円,国債償還や補正予算に充てる純剰余金が4.5兆円もあります!

2021/07/08 0:18

誤:1nYLH)=1nA+a1nKSLH
正:lnYLH)=lnA+alnKSLH

上の式は,生島さんご紹介の「内閣府 付注1-2GDPギャップの推計方法について」に出てくる「コブ・ダグラス型生産関数」を対数変換したものですが,致命的なタイプミスがあります.いや,わたしも最近急速に視力が落ちているので,間違っていたらゴメンナサイ.

2021/07/09 20:30

生島さん,下田さん

前便のタイプミスはわたしが書いたものではありません.内閣府のサイトの「GDPギャップの推計方法について」で見つけたものです.わたしはプログラマなのでこういうのは得意なんですよ.プログラマがコードの中でこんなもの見落としてたら,それこそ生命いくらあっても足りません.些細なミスですが,この1文字の誤記を見ただけでもかなりのことが分かります.①担当部署はこのホームページ作成を外部業者に丸投げしている,②検収をほとんど無検査で通している,③担当者はこの記事が読まれることをほとんど期待していない,④実際,この分野を専門とする研究者でこの記事を閲読したものはほとんどいなかったのだろう,⑤発注価格はおそらく腰を抜かすくらい高額で,直接作業者の日当はおそらく青ざめるくらい安かったものと推定される,⑥当然,作業者はほとんど何も知らない字が読めるというレベルのアルバイトだ,⑦これもまた,どうせ,パソナか,電通がらみ?

>なかなかついていけてません。

済みません.「誤りを含む証明」を読むときの苦痛は身に覚えがあります.確か,ロシアのノーベル賞受賞者がこんなことを言っていました.「わたしは人の論文を読むときは,頭の部分としっぽしか読まない.もし,その命題が正しいとすれば,自分で証明を考えてしまった方が早い」.こんな偉い人でもそうなのですから,まして「整理されてない論」を読むのは,(生島さんのような方であっても)大変なことは重々承知しています.本論で分かりづらいところは多分,「移入財」と「移出財」の定義の辺りではないかと思います.「輸出入」と言ったのでは国家間の国際取引しか扱えないので,あえて「移出入」という用語を用いている点に関してはご理解頂けるものと思いますが,本論で定義された「移入財」,「移出財」は通常の「輸入材」,「輸出財」とは微妙なところで差異があります.ルールブックには以下のようにあります.

移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

「取引」は「通貨」と「財貨」の等価交換なので,つねにグラフの枝の両方の向きで移動が発生しますが,経済循環グラフでは「通貨」の移動だけに着目しているので,片側だけの「有向グラフ」として表現します.グラフをマトリックスに転換すると,「セル」はグラフの枝(取引)に相当しますが,「行」はそのノードからの「支出」を表し,「列」がそのノードへの「収入」になります.「財貨」はその逆向きに動いているので(通貨の動きと反対方向),たとえば,計算表上で「輸出」と書いてあるときには,「上」のノードから「左」のノードへの「輸出」であるということになります.「外部からの」としているのは,この集計には「自己取引」,つまり,「内部経済」を含まないという意味です.ここまではいいと思うのですが,問題は「仕入れ」としている点です.明らかにこれはかなり直感に反する定義になっているのではないでしょうか?※つまり,最終財の移出入は計数に含まれない!

「仕入れ」と呼ぶものの中には「中間財」の購買と,給与など報酬(労働サービスの対価)の支払いが含まれます.つまり,最終消費財の価格の中に転化される(埋め込まれる)と考えられる財貨・サービスがすべて含まれます.これらを控除しないと正しい生産額を計算できません.「最終消費財」の価格は「仕入れ」+「収益」で,この収益分が「付加価値」と呼ばれるものです.輸出入の用語では,純輸出=輸出-輸入となりますが,この「輸出」ないし,「輸入」は通常の理解では,「最終消費財の輸出を含めた全輸出」あるいは,「最終消費財の輸入を含めた全輸入」となります.しかし,「移入財,移出財には最終消費財を含めない」というのが我々の与えた定義です.この定義を従来の定義に戻して,「移入財=移入されたすべての財貨,移出財=移出されたすべての財貨」のように補正して再計算すると,

移出入=移出財-移入財=売上高-支払高=損益

という結果になり,結果的に,財貨的ゼロサムゲーム貨幣的ゼロサムゲームが完全に一致するようになります!確かに,これはわたし達が直感的に感じる「語感」とマッチしています.つまり,「貿易収支が赤字なら損益もマイナスになるはずだ(その逆も真)」という理解です.むしろ,逆に「財貨的ゼロサムゲーム」と「貨幣的ゼロサムゲーム」が交叉しているという方が分かりづらいと言ってよいと思います.下記のような定義を「移出入の古典的定義」ないし,古典的移出入と呼ぶことにしましょう.

移入財=移入されたすべての財貨
移出財=移出されたすべての財貨

確かに,近来までの外部経済取引は「古典的定義」と一致するような動きになっていたのだと思います(産品は一度「仕入れ」されてから国内で販売・加工される).今回の議論で初めてそれが修正されようとしているのですが,そのことは実体経済の最近のトレンド,つまり,グローバル企業による国境を超えた財貨の取引が急速に増加してきたという変化が背景にあるのではないかと推測しています.これらの企業,主にGAFAMなどですが,かれらは外国居住者に直接財貨・サービスを販売することができます.いま,OECDで議論になっている巨大IT企業に対する「デジタル課税」というのはこのような状況変化を直接反映したものです.実際,貿易収支,経常収支などの用語の定義でさえ,近年になって大幅改訂(IMF国際収支マニュアル,2014)されています.このことが意味するものをもう少し,俯瞰的に考えてみます.

経済循環グラフのノードは独立した経済主体ないしその集合,枝はノード間の貨幣的取引と定義されます.経済主体と呼ばれるものには,個人,企業,政府,金融,非営利団体などすべての個人・団体が含まれます.これらの経済主体がその規模の大小・属性・目的などに関わりなく完全に同一レベル・同一ルールのもとに取引を行っている状況を表現することがこのモデルの目標です.国民総生産や国民総所得などは国家単位で計算されますが,ここではすべての経済主体が同一レベル(同じテーブル)で経済活動を行っていると考えられるので,すべての経済単位について,それぞれ,総生産(生産額)や総所得(所得額)が同時並行的に計算できなくてはならないというのが我々の立場です.このことと,上のような問題が起きていることには深い関わりがあります.

通常,輸出入と言えば海外からなにかの財貨を輸入(仕入れ)して,それを直接ないし加工して販売(国内消費,ないし再輸出)するというプロセスを考えますが,現状はすでに国境を超えた個人・企業の取引が実行されている,つまり,企業や個人が国家と肩を並べるような状況になりつつあります※.これは生島さんがよく言われている,国家→企業→個人のような潮流と関わりがあるように思われます.このような状況はすべての経済主体を擬人化したモデルで考えるとわかり易いかもしれません.企業にとって,工場や設備,運搬車両などは人間の肉体に相当するものであり,いわば増強された肉体(サイボーグのようなもの)ですが,それ自体が意思決定能力を持っているという点において,主体であると言えます.「経済」とは,これらスケールの異なる「主体」(蟻ん子から象さんまで)がミックスして生息・活動するエコシステム,ある種の自然環境であると言えるでしょう.

※地域経済主体間の財貨の移動を「移出入」,国家経済間のトレードを「輸出入」と呼ぶとして,多国籍企業によるボーダーレス取引をなんと呼べばよいのだろう?なかには,個人輸入ビジネスなどというものもあるが,その個人の国籍,居住地はもはや主要ファクタではない.

「損益」は資金の増減であり,通常,「損益」がマイナスでも「所得」は立っています.所得=生産ですから,所得がないということはすでに経済活動終了しているということになるので,赤字企業と言っても操業している限り所得はプラス水準にあります.税務的な赤字というのは損益がマイナスになることですが,これまで見てきたように損益がマイナスというのは原理的・数理的に「ノーマル」な状態であり,ほぼ半数の経済単位が損益マイナスになるのは「どうやっても」避けることはできません.従って,ギリシャやウクライナが破綻に追いやられるというのはかなりおかしな話です.仮にこれらの国が債務国から脱却したとしても,それは単に赤字を他国に移転したことにしかなりません.IMFのように債務国の経済をぎりぎり締め上げて財政再建するというスキームは明らかに基本的なところで間違っています.それをやっていたら,世界中が窒息してしまいます.

三面等価原理が恒等的に成立するというところも国民経済計算で分かりづらいところかもしれません.生産・所得・支出の3面はそれぞれ完全に独立の活動であるように見えるからです.これに関しては説明してもなかなか分かりづらいところがあるので,簡単な「証明」でそれに代えたいと思います.純支出=純生産というところは既出ですが,再掲します.ただし,「純支出」と「純生産」という用語は多少紛らわしい(というより混乱していた)ので,「生産額」と「支出額」にリネームしました.生産額=最終財+純移出支出額=純消費+損益で,生産額は,その単位経済で生産され,最終消費ないし移出された正味財貨の合計,支出額はその経済単位が最終消費財として消費ないし移入した財貨+損益(剰余)です.これはよく見る,所得=消費+貯蓄という(教科書的)記述に対応するものです.以下では赤字は最終消費,青字は仕入れ中間消費)です.

単位経済の三面等価原理:所得額=支出額=生産額

証明:単位経済の三面等価原理

支払高=移入財経費純消費仕入高純消費
売上高=移出財経費最終財=支払高+最終財
仕入高=移入財経費
損益=売上高-支払高
=(移出財経費最終財)-(移入財経費純消費

  =移出財移入財最終財純消費
  =純移出最終財純消費

支出額純消費+損益
   =純消費純移出最終財純消費
   =最終財純移出
   =生産額

所得額=売上高-仕入高
   =(移出財経費最終財)-(移入財経費
   =最終財移出財移入財
   =最終財純移出
   =生産額

総体経済の四面等価原理:総生産=総所得=総支出=総消費

証明:単位経済の三面等価原理より明らか

総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)

総生産総所得総支出

ただし,総消費に関しては別途証明を要する

支払高=∑仕入高+∑純消費 から
∑純消費
=∑支払高-∑仕入高
    =∑(支払高-仕入高)
    =∑(所得額)
    =総所得

総消費=∑純消費)=∑(最終財)=総所得

QED

上記で,赤字は最終消費財・サービスの移転,青字は中間消費財・サービス(内部経費を含む)の移転,経費(内部経費)は製品価格に含まれる内部取引額(社員給与など).

単位経済では所得=支出=消費は成り立ちません.これは当然の理(失業中に競艇場に走ったり…)と言えますが,生産=所得=支出であるとすると,不労所得者の経済はどうなっているのだろう?というのが次の宿題(金融経済マトリックス)です.

比較参照用にサンプルを出しておきます.参考データとしてX国={A社,B社,a, b}の集計を入れました.セルの取引種別には供給者から需要者に送られる財貨の種別が書いてありますが,この計算表ではトップ行が供給者,最左列が需要者を示しているので,個人aA社に「給与」を送るというのは意味が通りません.そこで,給与→労働に改めました.つまり,個人aA社に労働サービスを提供し,その対価として給与60を受け取っています.XA+B+a+cの計算を実行しておくと,あとの集計はXYを計算するだけで簡単に終わります.

A B a b X Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 支出額
A 資材40 労働60 100 輸出60 160 100 60 100 60
B 原材料100 内販60 労働60 160
60
輸出60 280 220 60 220 80
a 輸出 60 60 0 60 0 60
b 輸出 60 60 0 60 0 60
X 100 40 60 140
60
560 320 240 320 260
Y 燃料60 輸出200 60 60 内販 60
給与60
380 260 120 200 100
売上高 160 300 60 60 580 360 940 総取引
損益 0 20 0 0 20 -20 0
卸売高 100 240 60 60 460 120 580 重複
所得額 60 80 60 60 260 100 360 総所得
最終財 60 60 0 0 120 240 360
移出財 100 240 60 60 460 60 520
純移出 0 20 60 60 140 -140 0
生産額 60 80 60 60 100 360

経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14

支払高=∑(行の全要素)=移入財経費純消費仕入高+純消費
売上高=∑(列の全要素)=移出財経費最終財卸売高+最終財
仕入高=∑(行の仕入れ)移入財経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財経費

所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ
移出財=∑(列の外部からの仕入れ

純移出移出財移入財卸売高仕入高
生産額=最終財純移出
支出額=純消費+損益

純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
(純損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
卸売高)=∑(仕入高
移入財)=∑(移出財

所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑純消費)=∑(最終財
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

2021/07/14 1:54

生島さん,下田さん

応用問題をやってみましょう.下図↓は,富山大学経済学部岸本研究室のサイトで見つけたものですが,貿易収支を見るときの「国籍基準」と「企業基準」の違いについての説明図です.経済循環マトリックスを試す格好の材料なので,2つの場合(国籍基準|企業基準)の計算表を書いてみたいと思います.(以下では数字の単位は10億ドル)

企業基準で見た米国の貿易収支の例

この図版で具体的な数字を明示されている取引は8つで,米国の輸出(581),輸入(609)の中にはこれらの取引が含まれているものとします.とりあえず,これら8つの取引の数字を元に「国籍基準」によるマトリックスを書いてみました.下の表では図中の米国をX国,外国をY国,米国本社をA社,外国企業をB社,米国系企業をα,外資系企業をβのように表記しています.各企業の所在地(居住地)から国内・A社・β社がX国籍,国外・B社・α社をY国籍とします.

国内 A β X 国外 B α Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 内販
1066
外商
1066
1066
1066
[輸入]
318
318 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
β 仕入
993
993 逆輸出
182
182 1175 1175 1175 -9 -9
X 993
1066
1066 2059
1066
318 291
609
3734 2668 1066
609
-28 1038
国外 [輸出]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 1189 1189 1189 0 0
α 輸出
140
輸出
100
240 仕入
1115
1115 1355 1355 1355 125 125
Y 341 140 100
581
1115 1189 1189 2304
1189
4074 2885 1189
581
28 1217
売上高 2400 140 1166 3706 1433 1189 1480 4102 7808 0
卸売高 1334 140 1166 2640 1433 1480 2913 5553
所得額 1016 31 -9 1038 1092 0 125 1217 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1166
581
1433 1480
609
5553
1190
純移出 -50 31 -9 -28 1092 -1189 125 28 0
生産額 1016 31 -9 1038 1092 0 125 1217 2255

輸出額と輸入額として与えられた581609という数字に合わせるために,差額として国内→国外[輸出]341,国外→国内[輸入]3182つを図面上には見えない取引として追加します.β社の国内販売(1065.6)B社の現地販売(1188.5)の末端価格は不明なので,仕入れ価格と同一としておきます.これで一応与えられた数字をすべて使った計算表ができました※.これをアレンジして「企業基準」によるマトリックスを書いてみます.α社はA社の子会社,β社はB社の子会社です.

総輸出=∑移出財,総輸入=∑移入財とするとき,経済循環マトリックス計算では,移入財=仕入高-経費,移出財=∑卸売高-経費のように計算されるので,複数の経済単位を縮約して作った計算表(上表ではX国,Y国の行と列に該当)では,経済主体の合併によって「内部取引=経費」が増加するため,縮約前の総輸出/総輸入の値と縮約後の総輸出/総輸入の値は一致しない.今の場合,縮約前の値は総輸出=総輸入=5553,縮約後は1190に変化している.※⇒(移出財,移入財)のセル

この図面の下には国籍基準と企業基準で収支がどう変化するかを説明する式↓が掲載されています.

米国の貿易収支

かなりややこしい式ですが,これで見ると,企業基準では輸出額は2523,輸入額は2499になるとされるので,輸出額-輸入額=24の黒字になると考えられます.国籍基準では-28の赤字だったので,貿易収支は24+28=52だけ「増加」していることが,523億ドルという数字に現れています.(企業基準で算出した実際の貿易収支黒字額は240億ドルです)ともかく「企業基準」の計算表を出してみましょう.

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 販売
1066
1066 [輸出]
318
外商
1066
1384 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
輸出
100
1215 1355 1355 1355 125 125
X 1066 140 109 249
1066
1433 1166
2599
3914 2848 1066
2599
106 1172
国外 [輸入]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 1189 1189 1189 0 0
β 仕入
993
逆輸出
182
1175 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1371
2705
1189 1189 3894 2705 1189
2705
-106 1083
売上高 2400 140 1480 4020 1433 1189 1166 3788 7808 0
卸売高 1334 140 1480 2954 1433 1166 2599 5553
所得額 1016 31 125 1172 1092 0 -9 1083 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1480
2705
1433 1166
2599
5553
5304
純移出 -50 31 125 106 1092 -1189 -9 -106 0
生産額 1016 31 125 1172 1092 0 -9 1083 2255

米国の輸出が2705,輸入が2599で純輸出106となり,与えられた数値と一致しません.「総所得」などの縦横集計(複式簿記的な計算)はすべて一致しているので,計算自体には誤りはないはずですが,どこかで「図の解釈」を間違えているように思われます.輸出で+182,輸入で+100の差額が出ています.数値を突き合わせてみると,この差異はおそらく,α社→β社の逆輸出182β社→α社の輸出100が関係しているように思われます.上に掲示した式の中では,どちらも輸入額から控除されている金額です.輸入額から控除されているということは,国籍基準では輸入項目だったということになるので,国籍基準の計算表でどうなっているのかを見てみましょう.

α社→β182というのはおそらく,図の読み間違いと思われます.つまり,「在来外資企業の輸入(182.2)」というのは,α→βではなく,B社→βと思われます.在米外資企業の輸出(▲100.0)というのも,「⇒」はα社のサークルに掛かっているように見えますが,真意はβ社→Bということなのでしょう.これを修正してもう一度作り直してみます.ただし,これをやるとおそらく,輸出入の調整額も変化することになるので,もう一度一からやり直すしかなさそうです.いや,それは不用かも知れません.この修正を行っても,国籍基準の輸出入額には変化はないはずです.(「在来外資企業の輸入」と「在米外資企業の輸出」は国籍基準計算表ではどちらも「内部取引」になっているため)

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 販売
1066
1066 [輸出]
318
外商
1066
1384 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
1115 1255 1255 1255 43 43
X 1066 140 109 249
1066
1433 1066
2499
3814 2748 1066
2499
24 1090
国外 [輸入]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 輸出
100
100 1289 1289 1289 82 82
β 仕入
993
993 逆輸出
182
182 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1189
2523
182
1189
100 282
1189
3994 2805 1189
2523
-24 1165
売上高 2400 140 1298 3838 1433 1371 1166 3970 7808 0
卸売高 1334 140 1298 2772 1433 182 1166 2781 5553
所得額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1298
2523
1433 182 1166
2499
5553
5022
純移出 -50 31 43 24 1092 -1107 -9 -24 0
生産額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255

できました!X国の移出財=2523,移入財=2499で完全に上記に記載された数字と一致しています.これはほんの一例ですが,経済循環マトリックス計算により,国家,地域,政府,企業,個人,団体などあらゆる属性を持った経済主体とその集合からなる経済循環において,それぞれの経済単位の対外収支を完全に計算できる(場合によっては,不足するデータを補うことすらできる)ことが示されました.

ただし,ここまではすべて財貨の移転を伴う実体経済マトリックスにおける計算なので,これに金融取引(財貨の移転を伴わない純貨幣的取引)を加えなくてはなりません.

PS:経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14

支払高=∑(行の全要素)=移入財経費純消費仕入高+最終財
売上高=∑(列の全要素)=移出財経費最終財卸売高+消費財
仕入高=∑(行の仕入)移入財経費
卸売高=∑(列の仕入)=移出財経費

所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

純移出移出財移入財卸売高仕入高
生産額=最終財純移出
支出額=純消費+損益

(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)=仕入高-経費

所得額=純支出=純生産(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

※現行のマトリックス計算では,純移出には仕入れ=中間財の移出入しか含まれていません.つまり,最終消費財の輸出入はこの計算からは除外されています.これを移出入に算入するために,純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加してみます(セル中の最終消費を意味する「純消費」とは異なるものです).∑消費財=∑最終財なので,∑純消費=0となります.これを使うと,損益=純移出+純消費となるので,仮に,純輸出=純移出+純消費とすれば,

∑損益=∑純輸出=0

が成立するため,財貨的ゼロサムゲームと貨幣的ゼロサムゲームの差異が消失し,貿易収支の赤字=損益の赤字という「伝統的解釈」と一致することになるので,確かにこの方が直感的であるような気もします.しかし,生産額と支出額の計数ではいずれ消費財・最終財を算出しなくてはならないので,最終消費・中間消費を区分することは,このマトリックス計算上不可欠であると判断されるため,最終的な結論は保留したいと思います.見通しとしては,「国際収支発展段階説」がヒントになるのではないか?という感触を得ています.

国際収支発展段階説では,国際経済循環が一種のゼロサムゲームであるということを認めた上で,それぞれの国が①未成熟の債務国,②成熟した債務国,③債務返済国,④未成熟の債権国,⑤成熟した債権国,⑥債権取り崩し国の各段階を経由するというものです.この説によれば,ブラジル,アルゼンチン,スペインなどは未成熟の債務国,イギリスや米国などは債権取り崩し国なのだそうです.

※クローサーは,「国際収支がゼロサムゲームであること」に気付いているとは思われるが,この理論を単純に適用すると,「奨学金借りたら人生こうなった」のような悲劇の再現で終わりそうな気もする…

前記したように,わたしはときに各経済主体を擬人化して見ることがあるので,それが幼児期から青年期を経て老年期に至るという説明は合点が行きます.ただし,老年期のあとには「死」しかないということではありません.人間の場合,次の世代を養育するのは親の義務であり,未来に対する投資と考えられますが,同様のことは国家や企業体についても言えるのではないでしょうか?(そのような国家の世代交代のようなものがあるとすれば,おそらくそれは何かしらの「政治変革」を伴うようなものになる可能性はあるかも知れません)

後書き(2022/05/17)上記では,「純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加」することによって,「∑損益=∑純輸出=0」が成立するような「移出入の古典的定義」に回帰することを提案しているが,最終的な結論は保留している.しかし,常識的に考えても,移出入(輸出入)から最終消費が除外されているというのはおかしいと考えられるので,ここでこの問題を再考察しておきたい.移出入から最終消費を除外すると,たとえば,「インバウンド収入」が輸出にカウントされない,あるいは,「地域外の電力会社に支払った電気料が地域の生産物にカウントされてしまう」などの不都合がある.

「移出入から最終消費を除外する」ようになった経緯というのはよくわからないが,それでも計算上は整合し,三面等価原理も成立していることから主に「問題の複雑度を軽減する」という動機から採用された方式であるように思われる.以下では「経済循環マトリックスのルールブック」を大幅改訂した「最終案」と呼べるものを提案したい.最終消費を移出入に算入するために新たにいくつかの用語を定義した.また,語義的な混乱を避けるためいくつかのパラメータを以下のようにリネームしている.①経費→内部経費,②自家消費→新規,③純仕入れ→新規,

経済循環マトリックスと総体経済の四面等価原理

2021/06/30 5:00

生島さん

>お返事できなくすみません。今、AI系の仕事でアップアップなので経済系はお休みしています。

どうぞ,ごゆっくり.経済循環グラフのマトリックス(接続行列)からGDPを簡略に計算するための表を作ってみました.内閣府が公表している「基準国民経済計算の作成方法」とはまったく違うアプローチになりましたが,減価償却など「取引によらない資産・負債の量的移動」は計算するすべがありませんのでやむを得ません.経済循環グラフはノードと枝がそれぞれ一つの値を持っているだけなので,この表を作るためには,個々のトランザクションの内容についてのもう少し詳しい付加的情報が必要です.一つのセルにはセクターAに属するノードからセクターBに属するノードへの複数のトランザクションが合算して詰め込まれますが,マトリックス上のセルC(i, j)は,「i行のセクタ-iからj列のセクターjに通貨が移動する」のようにお読みください.

横軸で集計すると支出合計となり,縦軸で集計すると収入合計になりますから,表全体を縦横で累計すれば総支出と総収入が一致することは間違いありませんが,「国民経済計算」というのは実体経済にのみ関わる計算なのでそれを切り分ける(ヴェルナーの用語で“deaggregate”する)のが,かなり厄介なところです.下表は今のところその「試作段階」というところですが,赤字は国民総生産に関わる項目,青と茶は国民総所得に関わる部分というつもりで作りました.黒の細字の項目はGDP計算[国民経済計算]に関わりのない[金融経済にのみ関わる]数字として計算から除外します.ざっと描いてみただけの段階なので,あちこち間違っているところがあると思います.かなり興味深いものになってきたような気もしておりますので,ご批評頂ければ幸甚です.

公共 企業 金融 家計 支出合計
公共 貸付,返済
補助金,
利子補給
交付金
資産購入,
借入利息
補助金
インフラ,資本財
消費支出
資産購入,
借入利息
返済
公債償還
資産購入,
借入利息
人件費
給付金
資産購入,
借入利息
歳出
財政支出
公務員給与
企業 租税
資産購入,
地代家賃
仕入れ・外注費,運賃
資本財,消費支出
資産購入,
借入利息
貯蓄,返済
資産購入,
借入利息
人件費
資産購入,
借入利息

貸付,返済
企業支出
営業費用
事業所得
民間人給与
金融 租税,公債購入
貸付,返済
資産購入,
借入利息
貸付,預金引出
資本財,消費支出
資産購入,
借入利息
貸付,返済
資産購入,
借入利息
人件費
貸付,
預金引出
資産購入,
借入利息
金融支出
営業費用
銀行員給与
家計 租税
保険料,手数料
水道料金,
通行料
資産購入,
借入利息
住宅購入,
消費支出

資産購入,
借入利息
貸付,返済
貯蓄,返済
資産購入,
借入利息
人件費
資産購入,
借入利息
家計支出
生活費用
使用人給与
収入合計 歳入
公租公課
払い下げ
企業収入
純消費額
企業収益
金融収入
企業収益
家計収入
企業収益
個人所得
通貨循環量
国民総生産
事業所得

国民総生産国民総所得=国民総支出
国民総所得個人所得事業所得
国民総支出純消費額財政支出営業費用生活費用

  • 輸出入に関わる外部取引はすべて無視するものとする
  • 耐久消費財・資本財は買い切りとし,減価償却は行わない
  • 在庫計算・廃棄物計算は行わない
  • 自社開発ソフト・社内の研究開発などによる産出成果は無視される
  • 取引によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される

公共:政府・地方政府・公的企業

企業:法人・団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・自営業者・フリーランサーの営業活動

人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬

消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療),耐久消費財,サービスの購入

耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車

インフラ:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水

資本財:工場・機械(ロボットを含む)・設備・船舶・航空機・建物などの新規築造 / 取得

資産購入:転売:土地・資本財・有価証券(金融資産)→財産所得:地代・家賃・金利・配当

借入利息:資産の賃借料など(地代・家賃・金利・配当)

この表が完全に仕上がったら,もう少し詳しい説明を付けたいと思います.それができれば,ダグラスの等式も改めて再検証できるのではないかと思っているのですが…

2021/07/01 4:22

生島さん,下田さん

少し整理してみました.多少分り易くなったのではないかと思います.

国民経済マトリックス

国民総生産国民総所得=国民総支出
国民総所得個人所得事業所得
国民総支出純消費支出財政支出営業費用生活費用

  • 公共:政府・地方政府(地方自治体)・公的企業(独立行政法人など)
  • 企業:法人・各種団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・個人事業主など何らかの生産・サービス活動を行うすべての経済主体 個人事業主は企業部門と家計部門の両面に出現する
  • 人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬
  • 消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療,その他),耐久消費財,サービスの購入
  • 耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車など比較的耐用年数の長い商品
  • 資本財(固定資本財):工場・機械(ロボットを含む)・設備・車両・船舶・航空機・建物など耐久性があり,生産活動に用いて将来の収益を生み出す資本となるもの 
  • 基盤投資:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水などの大規模公共建造物(インフラストラクチャ)の築造・整備
  • 資本投資:将来の生産活動のために必要とされる資本財(生産設備)の購入
  • 融資返済:融資(ローン)は現金の貸付であり,返済にはローン元本の返済と金融債権(額面のみ)の償還が含まれる(金利・配当は別途,資産配当として計上する)
  • 資産投資(資産・債権の購入):投資を目的とする不動産・金融資産(株式,有価証券)の購入,資産配当(財産所得)の源泉となる 不動産は第三者に貸し付けることによって初めて配当を生じるが,金融資産はそれ自体が有利子債権である 資産の再貸付(又貸し)ないしその資産を担保とする融資なども行われる 投資の目的が配当を得ることよりも資産の価格変動による売買差益を狙う場合には投機と呼ばれる 金融債権の償還は返済に含まれる
  • 資産配当:融資債権,金融資産などの資産保有者の得る財産所得(地代・家賃・金利・配当)金融資産はすべての部門の任意の当事者間で取引可能であり,蓄蔵性を併せ持つので,流通速度の遅い通貨の一種とみなされる  

国民経済計算との相違点

  1. 対象領域は閉じた経済循環系であるとする.従って圏外の外部取引(輸出入など)はすべて無視される.
  2. 経済循環グラフのノードは独立の経済主体であり,ノードをつなぐ枝は1個の取引を表示する.グラフの枝リストとしてブロックチェーンを持ち,枝(トランザクション)に相当するブロックにはリアルな取引情報が記載される.
  3. 内閣府の国民経済計算では1年を四半期に分けて,2期遅れくらいで各省庁が収集・整理した各種の産別統計を突き合わせながら推計値の計算を行っているが,本試算表では国民経済の時点表示である経済循環グラフの接続行列表現(マトリックス)を用いるので任意の時点でリアルタイムに計算を完了することができる.
  4. 計算はブロックチェーン上のトランザクション情報のみを参照する.従って,「取引」によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される.つまり,①耐久消費財・資本財はすべて買い切りとし,取引に対応しない減価償却計算などは行わない.②流動資本財(原材料,仕掛品,製品在庫)は計数しない.原材料は購入時点で全量消費されたものとみなす.③取引実績のない資産は計量できないので研究開発費などの資産評価は行わない.
  5. 国民経済計算では国民経済を①非金融法人企業,②金融機関,③一般政府,④家計,⑤対家計民間非営利団体の5部門に分割している.本試算表では⑤を①と合併して「企業」とし,①公共,②企業,③金融,④民間の四部門に分割した.民間非営利団体(政府は公的非営利団体である)は一般企業と同様に財貨・サービスを生産・販売し,役員報酬や従業員給与の支払い,外注など外部主体との取引その他あらゆる点で,一般事業者との相違を見出すことは難しい.異なるところは(規模・目的・税制などは別として)事業収益を配当として分配するか否かの点だけと考えられるが,一般事業者でも無配どころか赤字経営というところはいくらでもあり,特に分離する意味はない.
  6. 以前に投稿した「日銀マネー循環図」では①政府,②日銀,③銀行,④国民という4部門に分割していたが,今回の試算表では「国民」を「企業」と「家計」に分割し,「銀行」を「金融」にリネームしている.「日銀マネー循環図」の「日銀」はこのマトリックスのどこにも出現しない.これは国民経済循環グラフ,つまり経済循環システムそれ自体が中央銀行システムであり,システムの全体であるために見えなくなっているものと理解される.
  7. なお,この経済循環システムでは,すべての経済主体は中央銀行に直接当座預金口座を持ち,現金(硬貨・紙幣)はすでに廃止されていることを仮定している.また,中央銀行は「近未来的貨幣中立論」の立場から経済循環系の中の参加メンバーとして振る舞うことを想定していない.

国民経済試算表の考え方

  1. 三面等価原理により,①国民総生産,②国民総所得,③国民総支出の三面が一致しなくてはならない.このうち,国民総生産は期間内に生産された財貨をカウントすればよいので,比較的簡単に計算できると考えた.国民経済を上記のような方針で部門分割しているので,すべての財貨は企業部門でのみ生産されるとしてよい.従って,企業部門で販売された最終消費財の総計が国民総生産に相当すると言える.→上の表の赤色枠で囲まれたブロック.
  2. 赤色枠の中の赤太数値の合計が純消費支出であり,それを部門ごとに集計したものが,財政支出営業費用生活費用であるから,国民総支出純消費支出財政支出営業費用生活費用となることは明らかである.
  3. 試算表の計算では企業部門で販売価格に転化されない自家消費分は消費支出として純消費支出に算入する.また,仕入れ,外注費,運賃は販売価格(消費支出)に転化される(含まれる)ものとして計算から除外する.
  4. 他の3部門(公共,金融,家計)における経済活動は主として「サービス」のカテゴリに入るものと考えられるが,そのうち家計部門の活動は主として「労働(知的生産活動を含む)」であり,これらの生産量は最終消費財の価格の中に含まれる.金融部門のサービスの貨幣価値は経済システム全体の規模と比較して相対的に十分小さいと考えられるのでゼロで近似しても大きな誤差は発生しない.
  5. 政府部門のサービスの規模は国民経済のかなりの割合を占めると考えられるが,分節するとそのほとんどすべては企業部門が生産する財貨に含まれている.政府部門の提供する公的サービスは(一部受益者負担はあるとしても)原則として「無料」であることが仮定されていると考えられるので国民総生産にはカウントしない.
  6. 国民経済は大きく分けて実体経済と金融経済に二分される.通貨の純粋な移動は基本的に金融経済的な活動とみなされる.融資,返済,資産投資,資産配当,貯蓄と預金引出し,公債の発行と償還などがそれに該当する.これらはすべて国民経済試算の対象外とする.
  7. 国民総所得の等式の右辺の「個人所得」は青色枠で囲まれた家計部門収入のうち,各部門で支出された「人件費」の総額と見てよいはずだ.
  8. 問題は「事業所得」をどうやって計算するか?という点にある.企業部門の支出合計を企業支出,収入合計を企業収入とすれば,事業所得=企業収入-企業支出となるはずだが,この計算は実物計算と金融経済の混合計算になってしまうため検証が難しい.そこで,企業部門の全支出のうち,金融経済に関わる部分だけが事業所得と推定されるという仮説を立てた.これは他部門に通貨を移転するためにはそれだけの所得がなければ実行不能と考えられるからである.→茶色枠で囲まれたブロック.所得を計算するのに支出から推定するというのはやや逆説的だが,おそらくこれしか方法がないのではないか?
  9. 青色枠の合計を個人所得茶色枠の合計を事業所得とすると国民総所得個人所得事業所得となる.問題はこの2つ,国民総所得国民総支出が一致するか否か?という点にある.もし,この計算が一致すれば,ダグラスのA+B理論は否定されることになる.ダグラスは事業所得の一部は必ず貯蓄に回るはずであり,もしそうであるとすれば純消費支出C個人所得A)+事業所得Bであり,等式を修正して純消費支出=国民総支出=個人所得+国民配当+事業所得としなくてはならないと主張している.
  10. この試算表の構成が正しいとすれば,国民総所得個人所得事業所得となるのはマトリックスの構成から見てもかなり特殊な場合に限られる.むしろ,逆にこの等式が成立する条件を見つける方が早いかもしれない.
  11. 公共部門支出にはこの他にも補助金交付金給付金などの項目がある.給付金はダグラスの国民配当に該当すると考えられるが,これらは基本的に「所得の再分配」なので,国民総生産には算入しない.(もちろん給付金の支給が国民総生産にまったく影響しないと主張するものではない.適切な所得再配分は経済成長に寄与するだろう.
  12. 家計の支出項目にベビーシッタなど家庭内の家事などのために雇った使用人に対する報酬を人件費として計上してみたが,この金額を国民総所得に算入することに関しては疑問がある.もし,これが正しいとすると専業主婦の家事労働に給与を支給することで国民総所得が増加することになってしまう.ベビーシッタの雇用を事業とみなして企業会計で処理することにしても実情は変わらない.しかし,使用人への報酬が所得計算から外されるというのもおかしい.どうすればよいか?→ベビーシッタの雇用は営利を目的とするものではないが,やはり,企業会計で扱うしかない.企業会計なら損金処理されるのでたとえば,その分貯蓄が減少するなどの形で帳尻が合う.

政府のGDP統計には「対家計民間非営利団体」というのが独立の部門として入っていますが,むしろ,「不労所得者・ギャンブラー」,「横たわり族」,「超富裕層・財団法人」などの部門を設けてその動態を分析した方が興味のある結果を得られるかもしれません.このマトリックスに「外国」という部門を設ければ一応輸出入などを扱うこともできますが,為替の問題などが発生するのでその前に複数の経済循環系が含まれる複合系(開かれた経済循環系)の経済循環グラフを描く必要があります.今回そこまで手を広げられるかどうかは,ちょっと分かりません…

「公共サービスは基本的に無料」という原則(多少の手数料は徴収される)があると思いますが,確かに「無料サービスの領域」というのはかなりの速度で拡大しているようにも感じられます.そこまでゆくとマクロ経済学は環境経済学と地続きになります.無料サービスは構成的に国民総生産に貢献しないというのも多少疑問はありますが,無料サービスに値付けをするとなると宗教の領域に入ってゆくことになるかもしれません… 政府部門に属する経済活動には「現業部門」というのがあり,これが国民総生産に入っていないのは手抜きです.健康保険料,手数料,水道料金,通行料などに対応する事業がそれに該当します.これらを取り除くと上のマトリックスは「現業部門の完全民営化」に等しい状態になりますが,むしろ方向としては,民営化ではなく無料化というのが正しいのではないでしょうか?(完全無料化には弊害もありますが,救急車が有料化されたら119番をコールするのにためらう人も出てくるでしょう)金融部門収入のセルにもピンクで着色された手数料がありますが,これも無料化するべきでしょう.

「環境」が万人を包摂する「無料サービス」であるとして,その「価値」をどのように計量・評価するか?という視点から見ると,「宗教は無料サービスの価値に関する経済学」であるとみなすことも可能である.言ってみれば,宗教は「公共経済学 / 政策」の一種である.ネオリベラリストが推進するあらゆる公共サービスの民営化というアィディアをどう評価すべきか?⇒参照:パートⅢ

かなりまとまって来たように思いますが,まだ間違っているところがあるかもしれません.お気づきの点,ご不明の点などありましたらお知らせください.このテーブルを実体経済マトリックスと呼ぶとすれば,その裏面の金融経済マトリックスというのも存在しなくてはなりません.それがどういうものになるのか?ちょっと見当も付きません.完全に「双対」なものになればおもしろいのですが…

馬場英治

2021/07/01 12:59

訂正:前便の記述にはほぼデタラメに近い致命的な誤りがあります.再考には相応の時間を要する見込みです.しばらくの冷却期間をお許しくださいますようお願い申し上げます.英治

2021/07/02 4:41

生島さん,下田さんE

どうもお騒がせしました.お手数ながら前便は速攻で破棄してください.あまりひどいので,どこが間違っていたのかの説明は致しません.さて,気を取り直してもう一度最初からやり直すことにしましょう.

目標はブロックチェーンを枝リストとして持つ経済循環グラフの接続行列を使ってある期間のGDPを求めるというものです.ブロックチェーンには該期間内のすべての取引情報がリストとして保持されているとします.ブロックチェーンのブロック一つがグラフの枝に相当し,ブロックには少なくとも以下の情報が記録されています,①取引種別,②債務者,③債権者,④債務額.取引種別では少なくとも,その取引の目的が「仕入れ」であるのか,「最終消費」であるのかが識別できる必要がありますが,それ以上の詳細情報は今のところ必要ではありません.売買取引の場合,物品がすでに引き渡されていると仮定すれば,債務者は物品の受取人,債権者は送出人,物品の価格が債務額になります.

使用する経済循環グラフはこれまでと同様ですが,以下のような拡張を行います.グラフのノードと枝の重みとして「純消費」と「仕入れ」という項目を追加します.移動量はこれらの欄のいずれかに直接書き込みます.たとえば,その取引が原材料や中間財,ないし最終財の「仕入れ」に当たるときには「仕入れ」に金額を格納し,「純消費」にゼロを記入します.取引が消費を直接の目的とする場合には,「純消費」に金額を記入し,「仕入れ」をゼロとします.それ以外の場合はどちらもゼロとします.※移動量と取引種別とした方がわかり易かったかも…

グラフのノード数をNとしたとき,グラフの接続行列(隣接行列)はNNのマトリックスとして表現されます.マトリックスの要素(セル)はグラフの枝E(i, j)に対応します.マトリックスのセルには(純消費,仕入れ)の対を格納しますが,枝が存在しないセルは(0, 0)のままとします.枝の向きはV(i)→V(j)なので,マトリックスの行がそのノードからの「支出」を表し,列はそのノードへの「収入」を表しています.マトリックスには集計用に行2つと列を3つ追加します.集計用の行は「売上合計」,「所得合計」,「最終消費」,集計用の列は「支出合計」,「仕入合計」呼ぶことにしましょう.

「売上合計」には,各ノードごとに「純消費+仕入れ」を縦に集計して格納します.「所得合計」には,付加価値=売上合計-仕入合計の値を計算して格納します.「最終消費」には「純消費」だけを加算します.「支出合計」には各ノードごとに「純消費+仕入れ」を横に集計して格納します.「仕入合計」には「仕入れ」だけを加算します.簡単なサンプルを作ってみましょう.

企業A, B, Cとその従業員a, b, cがいるとします.A, B, Cは従業員a, b, cのそれぞれに給与50円を支払って製品の製造・販売を行います.A100円の原材料をBに販売します.Bはそれを加工して200円でCに卸します.Cはこの200円の製品に100円上乗せして販売総額300円とし,A, B, a, b, cのそれぞれに60円で販売しました.Aは従業員a50円支払い,原価50円のところをB100円で売っているので,50円の収益があります.Bは原材料100円を加工するためにbに50円支払い,それに50円上乗せしてCに卸しました.Cは仕入れ価格200円の商品を300円で売っていますが,c50円支払っているので,取り分は50円です.つまり,Acのすべての当事者の所得は50円均一になります.

以下の表では(純消費,仕入れ)の形式ではなく,具体的な取引種別を示して(取引種別,価格)の形式で表示しています.「給与」,「原材料」,「製品」が「仕入れ」に該当し,「販売」が「純消費」に該当します.例えば,セル(B,A)の場合,「A100円分の原材料をBの仕入れ用に販売し,BAに代価100円を送金する」のように読んでください.※やっぱりね!そうなると思った.

A B C a b c 支出合計 仕入合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 給与50 250 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

付加価値(所得合計)=売上高(売上合計)- 仕入れ(仕入合計)

国民総支出=∑∑純消費(表の赤数字)=∑最終消費=300
国民総所得=∑∑付加価値=∑所得合計=300
国民総生産=国民総支出=国民総所得=300

A, B, Cは先日提示したマトリックスで言えば,企業部門,a, b, cは家計部門に属するので,上の表から部門別のマトリックスに転換してみましょう.難しい操作ではありません.単純に各セルを累計するだけです.まず,行を圧縮すると下図のようになります.

A B C a b c 支出合計 仕入合計
企業 原材料100 製品200 販売120 給与50 給与50 給与50 570 450
家計 販売180 180
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

これをもう一度横方向に圧縮します.ここでは本来の(純消費,仕入れ)の形式で表示しています.

企業 家計 支出合計 仕入合計
企業 純消費120,仕入れ300 仕入れ150 570 450
家計 純消費180 180
売上合計 600 150 700 全取引量
所得合計 150 150 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

国民総所得=個人所得+事業所得=150150

となっているので,明らかにダグラスのA+B等式は成立しています.ただし,家計は収入が150に対し,支出が180なので30円の赤字になっています.逆に企業は60057030円の黒字です.どうも,ダグラスの言ってることは本当なのではないでしょうか?下記(3番目の「損益」を追加した表)のように,損益=売上-支出をすべてのノードについて合計すると(∑損益),トータルはゼロになります.つまり,赤字と黒字はつねにバランスしています.ダグラスがこの意味で言っているのだとすれば,ダグラスの完全な誤解ということになるかもしれません.

上の表は部門別になっていますが,これをさらに,企業と家計を合併するとセルは一つだけになり,総計が表示されます.

国民 支出合計 仕入合計
国民 純消費300,仕入れ450 750 450
売上合計 750 750 全取引量
所得合計 300 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

一つ気になる点があります.ループ(自己取引)が存在するときにどうなるか?という問題です.最初のマトリックスに戻って試してみることにしましょう.C→Cの枝を追加して,100円分を自家消費してみます.

A B C a b c 支出
合計
仕入
合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 自家消費100 給与50 350 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 400 50 50 50 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 50 400 国民総所得
最終消費 400 400 国民総支出

特におかしなことは起きていないように見えます.国民総支出も総所得も同額増えています.売上も所得も同額だけ増加します.実際のところ,これはまさに「内需拡大」という言葉が意味しているところです.個人(家計部門)の場合はどうでしょうか?

A B C a b c 支出合計 仕入合計 損益
A 販売60 給与50 110 50 -10
B 原材料100 販売60 給与50 210 150 -10
C 製品200 販売100 給与50 350 250 +50
a 販売60 60 -10
b 販売60 60 -10
c 販売60 自家消費30 90 -10
売上合計 100 200 400 50 50 80 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 80 430 国民総所得
最終消費 400 30 430 国民総支出

これも問題ありません.国民総所得も増えています.つまり,GDPは拡大しています.損益を計算してみました→上表の最右列.Cを除いてすべてのノードが赤字になっています.ただし,これは当たり前のことですね.売上合計=支出合計なのだから,トータルでは必ずゼロになります.つまり,誰かの赤字は誰かの黒字ということでしょう.しかし,誰かが必ず赤字になるとしたら,その経済では年がら年中デフォルトが発生しそうな気がするのですが,そうならないのはなぜでしょう?わたしは前々から,貿易赤字国はなぜ存続できるのか?という疑問を抱いてきました…(まだ解けていません)所得=売上総利益=粗利=売上高-売上原価はどのノードも黒字になっています.

自家消費ではなく,給与を支払ったらどうなるでしょう?

A B C a b c 支出合計 仕入
合計
損益
A 販売60 給与50 110 50 -10
B 原材料100 販売60 給与50 210 150 -10
C 製品200 販売100 給与50 350 250 +50
a 販売60 60 -10
b 販売60 60 -10
c 販売60 家内報酬30 90 30 -10
売上合計 100 200 400 50 50 80 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 50 400 国民総所得
最終消費 400 400 国民総支出

c→cの自己ループとして,家内報酬30というのを追加してみました.売上が+30,仕入も+30で所得には変化がありません.この設定は「専業主婦に家庭内報酬を出す」という課題と等価ですが,売上は増えても所得は変化しないので,生活には何の変化もないということになります.逆に言えば「名目的には」いくらでも「報酬」が出せるということを意味します.ただし,(家計全体で)買えるものの量は変わりません.上の自家消費と比較して異なるところは,「家内報酬」では何も買えない,「自家消費」の場合は自家生産したものが消費できる,つまりGDPが拡大するという点です.

必要なら,部門をもっと細分化して集計することも容易に可能です.たとえば,鉱工業,水産業,製造業など産業別統計を計算するとか…あるいは,地域別統計を取るなどいくらでも応用が効きます.この経済循環マトリックス計算の利点は,対象ノードの属性に関わりなく例外なしに,まったく同じルールが適用できるところです.政府,金融機関から,利益を出さない非営利団体を含めて末端の一個人まで,経済主体の大小に関わりなく一律,統一的な操作で計算することができます.ただし,内閣府の国民経済計算でやっているような,「非市場生産者(無料ないし経済的に意味のない価格で財貨・サービスを供給する生産者であり、一般政府と対家計民間非営利団体を指す)によるサービスの産出と需要先別配分については、決算書等の基礎統計により別途推計する」ようなことはできません.

いや,やろうと思えばできないこともないとは思いますが,それをやると数値的な不整合があちこちで発生するおそれがあるのであまり推奨できません.この方式のメリットはどれほど大規模な循環経済系であっても1円の誤差もない精密計算がどこまでも可能であるというところにあるので,あえてそのメリットを捨てる必要はないと思います(実際,これは「中央銀行決済システム」の設計書ですから,現実の取引と「完全」に一致している必要があります).このアルゴリズムの計算量はたかだか多項式時間ですから(アルゴリズムをきっちり書いてみないと分かりませんが,O(N^3)を超えることはないでしょう),エストニアくらいの国家の規模なら,リアルタイム(毎分?)でGDP統計を更新できるのではないでしょうか?少なくとも毎時くらいなら楽勝ですね!

2021/07/06 5:10

生島さん,下田さん

どこでどう間違えたのか?シズカちゃんの素朴な疑問に応えるというところから始まったスレッドですが,いつの間にか,中央銀行が分散型CBDCを発行し,すべての国民が中央銀行に当座預金口座を持つというモデル上で,経済循環グラフのマトリックスを用いて国民総生産をリアルタイムで計算するというシステムの概念設計を行うという流れになってしまいました.ここまでの議論の最大の収穫は「真に持続可能な経済社会とはグラフ理論的にはオイラー有向閉路を持つような経済循環グラフであり,絶対に停止(デフォルト)しない決済システムがあればそれを実現できる」という確証を得られたことです.

この構想は比較的小規模の国家であれば,今日にでも実現可能ですが,人口一億人を超えるような「大国」で採用するためには量子コンピュータの登場を待たなくてはならないかも知れません.(計算量が参加ノード数Nの累乗に比例して増大してしまう…)

経済循環グラフはある閉じた経済圏のすべての経済単位(独立の経済主体,ないしその集合)をノード集合とし,時点における取引を枝集合とする有向グラフで,それ自体がその経済圏で通用する貨幣(ないし疑似通貨)を用いた取引の「決済システム」を表現しています.決済システムでは「時点」におけるすべての取引の決済が完了すると,待ち行列に入っていたすべての取引からなる新しいグラフを生成して,次のセッション(時点決済)に移ります.(もちろん,トランザクションを一つづつ逐次処理してゆくという方法[即時決済]でも差し支えありません)グラフのノード(経済単位)は主体的に経済活動を行う取引主体(個人・法人・銀行・政府など)ですが,独立経済主体の集合(産業部門,地域,国家など)をノードとすることもできます.

経済循環グラフの接続行列は経済循環マトリックスと呼ばれ,国民総生産統計を求めるなどの統計処理に用いることができます.通常経済循環マトリックスにはある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを蓄積・圧縮(時間軸で合併)したものが使われます.経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作です.圧縮された経済循環マトリックスを略して計算表ないし試算表,その上で実施される(国民総生産などの)統計処理を経済循環マトリックス計算と呼んでいます.

ある経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを空間軸で合併して1つのノードにまとめる操作です.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列のセルの値とB列のセルの値を取引種別ごとに合算してC列を生成してから,A列とB列をマトリックスから除去します.次にA行のセルの値とB行のセルの値を取引種別(仕入れ|純消費)ごとに合算してC行を生成してから,A行とB行をマトリックスから除去します.合算は取引種別ごとに行われるので,一つのセルの中に複数の値が残る場合があります.合併によって外部取引が内部取引になる場合もありますが,それによる取引種別の変化は起こりません.つねに横方向の合併と縦方向の合併を同時に実行し,正方行列を構成するようにします.

マトリックスの圧縮ないし縮約の操作を対応する循環グラフ上で行うこともできます.この場合はまず,対応するノードを合併し,次に,この操作によって発生した(向きの同じ)多重枝を合併して1本にまとめます.圧縮ないし縮約では自己ループが発生する場合がありますが,基本的に経済循環グラフは自己ループと多重枝の存在を許すグラフであり,圧縮ないし縮約をしなくても最初から自己ループや多重枝が存在する場合があります.自己ループは同一経済単位内の内部取引(自己取引)を意味し,2つの経済単位の間で同時に複数の(同方向の)取引が並行して発生している場合には多重枝が発生します.自己ループはマトリックスの対角線上にあるセルを意味します.多重枝の場合,マトリックスのセルには複数の値が格納されます.

前回はこの方法を使って,企業A, B, Cと個人a, b, c6つの経済単位から構成される経済循環マトリックスを,企業セクタと家計セクタの2経済単位からなるマトリックスに縮約できることを見てきました.これを応用して,経済循環マトリックス計算が一国経済だけでなく,多国間の貿易を伴う大域経済圏においても適用可能であることを見ておきたいと思います.最初に前便の冒頭で提示した企業A, B, Cとその従業員a, b, cからなるサンプルを開始地点として再掲します.企業A, B, Cはそれぞれの従業員a, b, cに給与50円を支払い,BAから供給された原材料100円を加工して,製品をC200円で売却し,Cはそれを分割してA, B, a, b, cのそれぞれに60円(総額300円)で売却します.各当事者の売上は50300円とまちまちですが,所得はすべて50円均一です.

A B C a b c 支出
合計
仕入合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 給与50 250 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

まず,このサンプルの(A, a),(B, b),(C, c)という(企業,従業員)のペアをそれぞれ,A村,B町,C市に見立てた地域経済モデルを作ってみましょう.A村,B町,C市で構成される経済圏をD県として,県単位の経済循環マトリックスを構成します.A村で生産された野菜は,B町で加工され,C市の販売業者によって,D県全体をマーケットとして広域販売され,最終消費されるというイメージです.

A B C 支出合計 仕入合計 損益
A 給与50 販売120 170 50 -20
B 原材料100  給与50 販売120  270 150 -20
C 製品200  販売60
給与50
310 250 +40
売上合計 150 250 350 750 総経費450
所得合計 100 100 100 300 県民総所得
最終消費 300 300 県民総支出

結構簡単にできました.マトリックスには損益という列を追加しています.損益=売上合計-支出合計で,∑損益はつねにゼロになります.損益はいまのところ設定しただけで使っていません.それぞれの市町村は独立の経済単位として相互に取引していますから,これを外国取引まで拡張するのは難しくありません.A村をA国,B町をB国,C市をC国と読み替えてみましょう.A国は英国で,B国が米国ならC国はチャイナかもしれません.経済循環系グラフはそれ自体「決済システム」を表象しているので,系が国家単位であるときには,システム全体は中央銀行を表します(政府はその中の一プレーヤであるに過ぎません).国境を超えた大域経済圏には複数の中央銀行が存在し,異なる通貨が流通していますが,為替レートは安定で,通貨の等価交換がつねに可能であることを前提とし,各国中央銀行システムを統合した仮想的な統一決済システムの存在を仮定します.

A B C 支出合計 仕入合計 消費合計 輸入 損益
A 人件費50 消費輸出120 170 50 120 -20
B 中間財輸出100  人件費50 消費輸出120 270 150 120 100 -20
C 中間財輸出200  国内消費60
給与50
310 250 0 200 +40
売上合計 150 250 350 750 470
所得合計 100 100 100 300 総所得
最終消費 300 総支出→ 300
輸出 100 200 300
純輸出 100 100 -200 0
純生産 100 100 100 300 総生産

数字的にはまったく変化はありませんが,集計用にいくつかの列と行を追加しました.いずれも輸出入に関係するものです.「輸入」はその行の国家の外部からの「純消費」を除く輸入の合計,「輸出」はその列の国家の「純消費」を除く輸出の合計,「純輸出」は「輸出」と「輸入」の差額とし,純生産は以下の式のように,「最終消費」と「純輸出」の和として与えられます.

純生産=最終消費+輸出-輸入=最終消費+純輸出

C国には消費輸出120というのが2件ありますが,これらは輸出入には勘定されません.これはアマゾンなどの大域企業(グローバル企業)が行っている海外に居住する消費者への直接販売を意味しています.通常のケースでは最終消費財の輸出では輸入国側の販売業者を経由して国内販売することになるので,そのようなパターンでどうなるかを見ることにします.上の表をアレンジしてC→Bの輸出は「消費輸出」のままとし,C→Aの輸出では財貨を中間財(仕入れ/卸し)として輸出して,A国内で販売するというパターンにしてみます.

A B C 支出合計 仕入合計 消費合計 輸入 損益
A 人件費50
財貨消費120
財貨輸出120 290 170 120 120 -20
B 中間財輸出100  人件費50 消費輸出120 270 150 120 100 -20
C 中間財輸出200  国内消費60
給与50
310 250 60 200 +40
売上合計 270 250 350 870 570
所得合計 100 100 100 300 総所得
最終消費 120 180 総消費→ 300
輸出 100 200 120 420
純輸出 -20 100 -80 0
純生産 100 100 100 300 総生産

A国では(マージンを取らず)輸入額と同じ金額で販売しているので,A国の所得合計には変化がありません.表の対角線上にあるA国の自己取引セル内に追加された財貨消費120を取り除くと,A国ではC国から輸入した財貨が売れ残っている状態になるため,売上と所得がその分減少し,大域的な総消費=総所得=総生産もその分連動して減少します.経済循環マトリックスでは最終消費された製品・サービスのみが純生産としてカウントされる(価格が付いていない商品,つまりまだ売れていないものはその時点では無価値とみなされる)ためです.

外国貿易を扱うために,「輸入」,「輸出」などの項目を追加しましたが,これを国内経済計算に応用することはできないでしょうか?上の表では,経済単位が国家なので,「所得合計」は「国民総所得」に相当し,「純生産」は「国民総生産」を表すものと見ることができます.「純生産」の値を得るためには,「純輸出」を計算しなくてはなりませんが,国内経済でも外部取引を移出・移入と捉えれば,翻案できるのではないかと思います.それができれば,国内経済についても,もう少し詳しい議論が可能になる上,国内経済と外部経済を一つの計算表上で完全に同じレベルで解析できるようになります.

該サンプルをアレンジして,企業A, Bと従業員a, bから構成される経済圏をX国,企業Cと従業員cからなるY国に分割してみましょう.Y国は1国を経済単位とし,X国ではすべての構成メンバーがそれぞれ独立の経済主体であるようなモデルを考えます.Y国にはアマゾンのようなグローバル企業が存在し,世界中に商品を直販しています.ただし,A社は外販を目的としてY国から輸入していますが,「時点」では販売実績がないため「在庫」の状態になっています.B社ではそれを外販せず,Y国から輸入した製品の全額を社内消費して内販60とします.aとbは個人なので最終消費の目的でY国から直接購入します.やってみましょう.

A B a b Y 出金額 仕入高 移入財 消費額 損益 総支出
A 給与50 製品輸出60 110 110 110 -10 -10
B 原材料100 内販60 給与50 製品輸出60 270 210 210 60 -10 50
a 消費輸出 60 60 60 -10 50
b 消費輸出 60 60 60 -10 50
Y 輸出200 国内販売 60
給与50
310 250 200 60 40 100
入金額 100 260 50 50 350 810 570 0
総所得 -10 50 50 50 100 240
移出財 100 200 50 50 120 520
純消費 60 180 240
純移出 -10 -10 50 50 -80 0
総生産 -10 50 50 50 100 240

できました.このマトリックスは外国貿易を伴う外部経済と内国経済が混合した広域循環マトリックスですが,完全に汎用的な(ありとあらゆるケースに適応可能な)循環マトリックス計算が確立できたと思います.内容的には一番最初に提示した33雇用者のマトリックスと「ほぼ」同じですが,A社ではY国から製品輸入した商品をまだ販売していないため,総所得が-10という赤字の状態になっています.

すべての財貨・サービスの売買取引は経費(仕入れ)純消費(最終消費)に二分されます.これらの区分はその取引が国外(輸出入)であるか国内(移出入)であるかによりません.自己取引(経済単位内の内部経済)の場合でも同じです.つまり,その経済単位がどのような規模のものであっても例外なく同一のルール・手順によって計算されます.海外への報酬支払い(送金)はサービスの輸入,国内における出稼ぎもサービスの移出としてまったく同じ扱い(移出/入財)になります.海外からの観光客の現地での買い物は消費移出財です.

上の三国経済循環マトリックスの輸入,輸出,純輸出,純生産となっていた項目をそれぞれ,移入財,移出財,純移出,総生産に改め,新たに消費額,損益,総支出という項目を追加しました.また,一行を短くするために,売上合計,所得合計,最終消費,支出合計,仕入合計,消費合計をそれぞれ,入金額,総所得,純消費,出金額,仕入高,消費額のようにリネームしました.

集計行と集計列の各項目は以下のように定義されます.

出金額=∑(行の全要素)
入金額=∑(列の全要素)
仕入高=∑(行の仕入れ)=(内部経費)+移入財

損益=入金額-出金額
総所得=入金額-仕入高

移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

消費額=∑(行の純消費)
純消費=∑(列の純消費)

総支出=消費額+損益
純移出=移出財-移入財
総生産=純消費+純移出

(入金額)=∑(出金額)
(損益)=0
(純消費)=∑(消費額)=∑(純生産)
(移入財)=∑(移出財)
(純移出)=0

∑(総所得)=∑(総支出)=∑(総生産)=∑(消費額)=∑(純消費)
  = 全所得 = 全支出 = 全生産 = 全消費

今回は個別経済単位ごとに,総所得,総支出,総生産を計算し,それらが完全に一致していること(三面等価の原理)が確認されました.広域的には,∑総所得,∑総支出,∑総生産,∑消費額,∑純消費がすべて完全一致しています.(上表でで塗りつぶされている部分).個別経済単位に業種・地域などの属性が与えられていれば,それに従ってあらゆる種類の統計(産業別・地域別などなど)がたった一つのブロックチェーン(取引台帳)から導き出せることが確認されました.しかも,それを全自動で実行することができます.取引の品目が分からなくても,また,その製品の生産プロセスに立ち入らなくても,その取引が仕入れ(経費)であるか純消費であるかを見るだけでここまでできるというのはある意味,すごいことであるような気がします.

2021/07/06 13:57

前便でもご説明したように,循環マトリックスの対角線上にあるセルは内部取引(自己取引)を意味します(グラフでは自己ループ).これは主にマトリックスが縮約マトリックスである場合に起きる現象ですが,その(自己)取引が仕入れ(経費)であれ,純消費であれ,適用されるルールには変わりありません.B社は内販によって所得が+50になっているのに対し,A社の所得は-10になっています.B社の社内販売では資金はB社の内部で動いている(出金と同額が入金している)だけで収支には関わりなさそうに見えますが,ABの相違点は,A社で保有している製品在庫はまだ評価されていない(販売されていない)ため,値が付いていないのに対し,B社ではどの部門かがその製品を購入したことによって値が確定し,その製品が「使用できる状態」になったためと言えます.

内部取引については,前にも「専業主婦の家庭内労働賃金は誰が支払うのか?」という「難問」として何度か触れていますが,この場合も,家事労働に(名目上)賃金を支払えば,その家計の所得は増加します.これは「その労働が評価されたこと」を意味するもので,逆に言えばどっちみちお金は動かないのだから,主婦にはいくらお金を払ってもよい,とも言えます(夫と妻が別財布ではそうも言えませんが…).この「労働が評価されたこと」=「所得が増加すること」の意義は,たとえば,子どもに「お小遣いやるから~やって」と頼むようなケースを考えれば分かります.この場合はお金をやらなければその仕事はなされなかったと考えられるので,「お小遣い」によってその金額相当の「労働」が実行され,それが「生産」として評価されたと言えます.もっとわかり易い例で言えば,「最近やってないけど,これでどう…」と言って妻にお金を渡し,それに妻が応じたとすれば,明らかに家庭内売買春という完全な経済行為(貨幣的取引)が成立すると考えられます.サービス残業などは企業内で起きている「無賃の家事労働」かも知れません.

本システムでは「在庫」を価格的に推計するのはかなり難しいような気がします…多分,できません.仕入れ額がどの製品にどれくらいの割合で分配されているかを推計する手段が存在しないからです.もちろん所得がマイナスになれば,販売不振という状況にあるくらいは推定できますが…まぁ,これは「決済システム」ですから,そこまでやる必要もありません.※イクシマさんのデジタルレーニン主義ではそこまでやるのだろうか?AIを使えばそれも可能になる?(少なくとも現状を見る限りではデジタルマオイズムもそこまで成功しているようには見えない…)

B.A.

訂正:用語の使用,特に集計行および集計列で用いられる項目名の見直しを行い,経済循環マトリックスの構成と整合するような名称に統一するための修正を行った.経済循環マトリックス上のセルは1つないし複数の貨幣的取引を表示し,通貨は最左列のノードから最上行のノードに移動するので,「行」は最左ノードの支出,「列」は最上ノードの収入を意味している.純消費→最終財,消費額→純消費とし,総支出,総所得,総生産はそれぞれ,支出額,所得額,生産額に改めた. (2022/05/12)

2021/07/07 4:01

生島さん,下田さん

GDPを算出するための経済循環マトリックス計算の核となる部分はほぼ固まったのではないかと思いますが,もう少し調べてみたいと思います.もっとも興味深いのは,生産額が,

生産額 = 純消費 + 損益 

という式で与えられるという点です.この損益という値は,ある経済単位の収入と支出の差分をあらわすもので,経済循環グラフ的に言えば,グラフの各ノードの重み(持ち分,中央銀行の当座預金残高)の増減を表します.国民経済計算の解説の中ではあまり見かけない数字ですが,これはなぜかというと,ある閉じた経済循環系においては,∑損益は必ずゼロになると考えられるからです.つまり,「損益」の出番がありません.同じ様にトータルでつねにゼロになる数字に純移出(純輸出=輸出高-輸入高)という数字があります.ただし,開いた経済循環系ではむしろゼロにならない方が普通なので,国民経済計算の中ではかなり重要な役どころです.※この等式は,「働かざるもの食うべからず」という命題を数式化したものに他ならない

一部の教科書はこの「損益」の代わりに「貯蓄」という用語を使っている場合があります.家計部門などでは 所得=消費+貯蓄(可処分所得のうち消費しなかった金額),企業部門では貯蓄の代わりに投資という用語を用いて,所得 =消費+投資のように表現されたりします.循環マトリックス上の時点ではまだこれらの資金の処分(貯蓄や投資)は実現されていないので,あくまで損益と見ておいた方がよいと思います.

売上高=∑(列の全要素)=∑中間財の販売+∑最終財の販売
支払高=∑(行の全要素)=∑中間財の仕入れ+∑最終財の購入
純消費=∑(行の純消費)=∑最終財の購入
損益=売上高-支払高=∑中間財の販売+∑最終財の販売
      -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
支出額=純消費+損益
   =∑最終財の購入+∑中間財の販売+∑最終財の販売
           -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
   =∑中間財の販売+∑最終財の販売-∑中間財の仕入れ
   =∑最終財の生産額+∑中間財の生産額-∑中間財の仕入れ
   =∑最終財の純生産額+∑中間財の純生産額=生産額

支出額=生産額は確かに成立しているようです.マトリックス上で実際に確認して見ましょう.Y国の場合に注目します.下表では,Y国の支出側(行)に純消費項目が出現するように,A社からY国に燃料60の輸出を追加しました.これにより,Y国の純消費は120,損益は-20に変化して支出額は100になりました.以下の表から数字を拾い出し,上の式に代入してチェックしてみます.

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与50 製品輸出60 110 110 110 50 50
B 原材料100 内販60 給与50 製品輸出60 270 210 210 60 -10 50
a 消費輸出 60 60 60 -10 50
b 消費輸出 60 60 60 -10 50
Y 燃料60 輸出200 国内販売 60
給与50
370 250 200 120 -20 100
売上高 160 260 50 50 350 870 0
卸売高 100 200 50 50 170 570
所得額 50 50 50 50 100 300
移出財 100 200 50 50 120 520
最終財 60 60 180 300
純移出 -10 -10 50 50 -80 0
生産額 50 50 50 50 100 300

売上高=製品輸出60x2+消費輸出60x2+国内販売60+給与50350
支払高=燃料60+輸入200+国内販売60+給与50370
損益=(製品輸出60x2+消費輸出60x2)-(燃料60+輸入200)-20
純消費=燃料60+国内販売60120
支出額=純消費120+損益-20
  =国内販売60+消費輸出60x2+製品輸出60x2-輸入200
  =∑最終財生産額180+∑中間財生産額120-∑中間財仕入れ200
  =∑最終財の純生産額180+∑中間財の純生産額-80
  =生産額100

Y国で販売されたすべての財貨(仕掛りの中間財を含めて)はY国の生産物としてカウントされます.ただし,それらの財貨を生産するために外部から移入ないし輸入した中間生成物のコストを控除しなくてはなりません.上の計算式はこれらのことを抜かりなく実行するための手順書になっています.純消費+損益から生産額が直接算出できるというのはまったくもって直感的ではありませんが,恒等的に成立する(マクロ経済学の原理の一つ)ことが示されました.生産額=支出額の等式は,支払高=移入財+最終財+内部経費,売上高=移出財+純消費+内部経費の関係を使って,もう少しスマートに証明できます.

支払高=移入財+純消費+内部経費
売上高=移出財+最終財+内部経費
損益=売上高-支払高=(移出財+最終財+内部経費)
              -(移入財+純消費+内部経費)
  =移出財-移入財+最終財-純消費
  =純移出+最終財-純消費
支出額=純消費+損益
   =純消費+純移出+最終財-純消費
   =最終財+純移出
   =生産額

さて,気になるのはこのマトリックスに含まれている2つの「ゼロサムゲーム」です.明らかにこのゼロサム式は恒等的に成立します(※⇒上表からも明らかなように「損益」と「純移出」のそれぞれの累和はつねにゼロになる.つまり,参加メンバーの一方がプラスになれば,他方はかならずマイナスになる).「競争社会」とはよく言われますが,まさに生きるか死ぬかの弱肉強食の世界ですね.経済がこんなにシビアなものだとは思いませんでした.平均すれば常時半分くらいの人は損益マイナスの状態にあり,国家の半数あるいはそれ以上の国家が貿易収支の赤字で悩んでいる姿が目に浮かびます.損益マイナスの状態から脱出するのは容易いことではありません.それにしては,破綻して自殺を選ぶ人がそれほど多くはないというのはどういうことでしょうか?※

※⇒個人は収入に合わせてなんとか生計をやりくりしているので,帳簿尻は中小零細企業にしわ寄せされているものと推定される.これは構造的と言うより,むしろ原理的と言うべきものだろう.未開発ないし発展途上国がODAを必要とするのも同じ原理だ.財政赤字国に対するIMF融資が逆にその国の経済を破壊する結果に陥りがちな理由もそこにある.農業国が貧しいのもそれが原因と言えるだろう.すべては経済循環マトリックスがゼロサム・ゲームであるためだ.

この2つのゼロサムゲームは相互に影響し合うことはあり得ますが,かならずしも連動しているものではありません.実際,対外収支(貿易収支)赤字でも損益黒ということはあるし,その逆も真です.わたしの感覚ではどちらがシビアかと言えばやはり損益の方ではないかという気がします.というのは,損益はあからさまな資金ショートを意味しますが,純移出(純輸入)の赤字では資金的には赤字でもそれに見合った財貨を輸入(移入/購買)しているのだから,必ずしも悲観するまでもないのではないかと見ています.※⇒実際のところ,国際収支における最大の「赤字国」はアメリカである.「赤字」に対する「見方」を変える必要があるのかもしれない…

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与60 製品輸出60 120 120 120 40 40
B 原材料100 内販60 給与60 製品輸出60 280 220 220 60 -20 40
a 消費輸出 60 60 60 0 60
b 消費輸出 60 60 60 0 60
Y 燃料60 輸出200 国内販売 60
給与60
380 260 200 120 -20 100
売上高 160 260 60 60 360 900 0
卸売高 100 200 60 60 180 600
所得額 40 40 60 60 100 300
移出財 100 200 60 60 120 540
最終財 60 60 180 300
純移出 -20 -20 60 60 -80 0
生産額 40 40 60 60 100 300

このサンプルは企業3社と個人3人でうち11名はY国という構成になっていますが,すべての家計で赤字になっています.これは給与が50円に対し,消費が60円掛かっているためです.仮に60円というのが労働力再生産のための最小限のコストであるとすれば,そこまで給与を上昇させない限り,この経済は持ちません.そこで,とりあえず,給与を一律10円アップして60円としてみました.個人cはY国の中に入ってしまっているため見えませんが,ともかくすべての家計で損益ゼロという状態を確保することができたと言えます.さて,その尻拭いはどこへ行くのでしょう.個人の損益がすべてゼロないし黒字であるとすれば,そのしわ寄せはすべて企業セクタに回るしかありません.なるほど,少し分かりかけて来ました.

日本全体の企業の99.7%は中小企業であると言われていますが,そのうちの7割が赤字という数字があります.わたしはこれまでどんな企業でも経営努力しさえすれば黒字転換は可能なはず,赤字決算のかなりの部分は脱税のための粉飾ではないかと思っていましたが,どうも,そういうことではなかったようです.総和がゼロのゲームでは,誰かしらが貧乏くじを引くしかありません.もし,この赤字が「変動」であって,平均すればゼロというのならまだよいのですが(「持ち分」のベースラインを一律引き上げて残高がマイナスにならないようにするなどの方策があり得る),大きいところはまず赤字にはなりませんから(もちろんときどきニュースで耳にしますが,大概は脱出できます),小さいところがそのあおりでほぼ恒久的に赤字を出し続けるのは避けられないように思われます.しばしば「時代遅れのビジネスはとっとと市場から退出しろ」という声が聞こえますが,それも違うのではないでしょうか?確かに廃業して賃金労働者になれば最低限食ってゆくことはできるかもしれませんが…

「ウィンウィン」ということばがありますが,原理的にあり得ない話です.これが現実であるとすればどんな手を使ってでも相手を出し抜くしかないということになってしまいます.「金融システム」云々より以前にこの原始的な競争社会を転換する必要があるのではないでしょうか?まぁ,赤字経営を続けていても,それが「常態」であるという悟りを開けば存続可能なのかもしれませんが…日本経済の過半の部分はボランティア経済である,つまり採算の取れないビジネスで何とか回しているとは前々から思っていましたが,確かに日本経済の現状,というより世界経済と言っても同じですが,原理的にそうなるしかないような気がしてきました.クリフォード・ダグラスが説いていたのはおそらくそのことなのだろうと思います.だとすれば,ベーシックインカムはむしろ企業にこそ分配すべきものであるのかもしれませんが,企業にはデット・エクイティ・スワップ(企業の債務を債権者が債権による現物出資をおこない株式化すること,もしくは、債権者が金銭出資をおこない株式を取得し、その出資で債務の弁済を受けること)という奥の手もあります…

日本の中小企業は従来から運転資金を銀行等からの借入のローリング(半永久的な借り換え)で賄う傾向があり、これは中小企業の資本性借入れ(擬似エクイティ融資)として問題視されてきた。銀行等の融資は、満期には完全に返済されることを想定しており、恒常的に必要な資金は、本来は株式で調達する(株主からの出資で賄う)べきである。出典:増田安良(東洋大学)

考えられる最善手は,おそらく「経済循環システムの持ち分の変動を許容範囲内に収めるような仕組み」を構築することではないでしょうか?そのためには富の再配分しかないような気もします…つまり極端に過剰な持ち分を削って平坦化する…もちろん,異常に落ち込んでいるところはその原因を突き止めて対処する必要はありますが…損益を改善するためにはやはり輸出しかありません.当然ですが,内需拡大は[GDPを増加させる効果はありますが]損益[対外収支]にはまったく反映されません.下図ではY国の内需を200まで拡大した上で,Y国からA社への輸出を100に増加させてみました.この結果,これまで+40あったA社の損益が0になり,Y国の損益は+20になりました.輸出が伸びたので純移出のマイナスもその分だけ減少しています.

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与60 製品輸出100 160 160 160 0 0
B 原材料100 内販60 給与60 製品輸出60 280 220 220 60 -20 40
a 消費輸出 60 60 60 0 60
b 消費輸出 60 60 60 0 60
Y 燃料60 輸出200 内需 200
給与60
520 260 200 260 20 280
売上高 160 260 60 60 540 1040 0
卸売高 100 200 60 60 220 640
所得額 0 40 60 60 280 440
移出財 100 200 60 60 160 580
最終財 60 60 320 440
純移出 -60 -20 60 60 -40 0
生産額 0 40 60 60 280 440

PS:多少修正が入っているのでアップデートしました.これは経済循環マトリックス計算のルールブックです.

支払高=∑(行の全要素)=移入財+純消費+内部経費=純消費+仕入高
売上高=∑(列の全要素)=移出財+最終財+内部経費=最終財+卸売高
仕入高=∑(行の仕入れ)移入財+内部経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財+内部経費
損益=売上高-支払高
所得額=売上高-仕入高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

純移出=移出財-移入財
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益

(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
(卸売高)=∑(仕入高)
(移入財)=∑(移出財)

所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

2021/07/07 22:23

生島さん

>いよいよGDPになってきて嬉しいと思います。

確かに,このスレッドはある程度まで生島さんのご要望に沿う方向で進めているところがあるというのは事実です(バックキャスティングってやつですね).ただ,そのリクエストのレベルが高過ぎて…なかなか…

>ここはある意味マクロ経済学のキーだと思いますのでありがたいです。

サンプルとして示している計算表は,「スプレッドシート」があれば造作もなく書けるものですが※,この簡単な図表から読み取れることはとても深いものがあります.わたし自身思わぬ発見がいくつもありました.セルの数字をあちこちいじると色々なことがわかってくるのですが,これを自動化したいですね.30年前に「イカロス」という名前の「シミュレーションソフト」を開発したことがあります.そのころは中学校の職業家庭科に「情報基礎」という領域があって,その授業の教材として使うためにBTRON-OS向けに開発されたものですが,非関税障壁だとかなんだとかアメリカから難癖を付けられてBTORON自体が葬り去られてしまったため,陽の目を見ることがありませんでした.もし,これがいま手元にあったら,わたしは何のためらいもなく「経済循環マトリックス計算」をこのソフトの上に乗せていたことでしょう.イカロスにはそのために必要な機能がすでにすべて備わっていました.

経済循環マトリックスの計算表では一つのセルが複数の値を持つ場合があります.スプレッドシートで表現する場合には複数行に分けるしかないかもしれません…

GDPギャップもよく言われているのできちんと見たいと思っています。

えええ,もう次のご注文ですか!ま,待ってください.というか,こういう部分はたとえばイカロスのようなソフトがあればカバーできますよね.イカロスでは「数式入力」もサポートしていたので,「数式」を直接入力してそれを「コード」として動かすことができます.誰か作ってください!

>などとも用語統一というか、オントロジーですね。定義したいところです。

用語の統一は重要なポイントですが,まだ,何がどうなっているのか完全に把握しきれていないので,わたし自身ぐらぐらしています.昨日のメールでは純生産=純消費+損益としましたが,読み直してみると,やはりこれは「純生産」ではなくて「純支出」でした.というか,「純生産」とか「純支出」なんて用語は普通使いませんよね.「純輸出」というのはありますね.「純消費」ということばもどこかで使われていたと思います.用語はできるだけ統一したいと思っているのですが,わたしはグラフ理論を昔の古い教科書で学んでいるので,たとえばグラフの「辺」を「枝」と呼んでみたり,あるいは,「隣接行列」を「接続行列」と呼んでしまったり…グラフの「頂点」もわたしは「ノード」と呼んでいますが,グラフ理論家には嫌われるかもしれません(以前は「点」という呼び方をしていました).ネットワーク理論では「頂点」を「ノード」と呼ぶ方がむしろ普通だと思いますが…この辺りは完全に主観的な「こだわり」の部分なので,できるだけ「世間一般」に通用するように心がけてはいるのですが…

ただ,用語は厳密な定義を与えてから使用するべきですが,そうすると,定義部分のボリュームばかり大きくなって,テキスト全体が過剰に堅苦しいものになり,結果的に読者側に余分な負担を掛けるようになってしまう恐れもあって,まぁ,(いまのところ)アバウトに読み取ってもらえればというつもりで書いています…用語に厳密な定義を与えると間違っているところが見つかったりして,それもまた必要なのですが…

>問題は政府ですが、これが魑魅魍魎の世界です。

デジタル庁などと言っていますが,まず,政府財政をガラス張りにするところから始めないことには…

>山口先生の本でも2章でその関係の話が出てくるので用語整理しておくとありがたいです。

イカロスはインタプリータ言語を内蔵したシミュレータで,数式を含む任意のコードを直接入力し,クロックに同期して擬似的な並列プロセスを実行して,その結果を画面に描画することができます.複数のレイヤー上に矩形・円弧・線分などの各種図形,テキストの他,透過ビットマップも表示できるのでそれぞれのオブジェクトが独立に動作するようなアニメーションも表示できます.システムダイナミックスもかなり高度なことができるようですが,この2つをミックスしたようなものができるとさらにおもしろいかもしれません.

数理研究所でやりませんか?たしか,20年度の予算が4兆円くらい残っていたような…いや,もっとありますね.4兆円というのは新規発行国債の減額分で,それ以外に予算執行不用額が3.9兆円,国債償還や補正予算に充てる純剰余金が4.5兆円もあります!

2021/07/08 0:18

誤:1nYLH)=1nA+a1nKSLH
正:lnYLH)=lnA+alnKSLH

上の式は,生島さんご紹介の「内閣府 付注1-2GDPギャップの推計方法について」に出てくる「コブ・ダグラス型生産関数」を対数変換したものですが,致命的なタイプミスがあります.いや,わたしも最近急速に視力が落ちているので,間違っていたらゴメンナサイ.

2021/07/09 20:30

生島さん,下田さん

前便のタイプミスはわたしが書いたものではありません.内閣府のサイトの「GDPギャップの推計方法について」で見つけたものです.わたしはプログラマなのでこういうのは得意なんですよ.プログラマがコードの中でこんなもの見落としてたら,それこそ生命いくらあっても足りません.些細なミスですが,この1文字の誤記を見ただけでもかなりのことが分かります.①担当部署はこのホームページ作成を外部業者に丸投げしている,②検収をほとんど無検査で通している,③担当者はこの記事が読まれることをほとんど期待していない,④実際,この分野を専門とする研究者でこの記事を閲読したものはほとんどいなかったのだろう,⑤発注価格はおそらく腰を抜かすくらい高額で,直接作業者の日当はおそらく青ざめるくらい安かったものと推定される,⑥当然,作業者はほとんど何も知らない字が読めるというレベルのアルバイトだ,⑦これもまた,どうせ,パソナか,電通がらみ?

>なかなかついていけてません。

済みません.「誤りを含む証明」を読むときの苦痛は身に覚えがあります.確か,ロシアのノーベル賞受賞者がこんなことを言っていました.「わたしは人の論文を読むときは,頭の部分としっぽしか読まない.もし,その命題が正しいとすれば,自分で証明を考えてしまった方が早い」.こんな偉い人でもそうなのですから,まして「整理されてない論」を読むのは,(生島さんのような方であっても)大変なことは重々承知しています.本論で分かりづらいところは多分,「移入財」と「移出財」の定義の辺りではないかと思います.「輸出入」と言ったのでは国家間の国際取引しか扱えないので,あえて「移出入」という用語を用いている点に関してはご理解頂けるものと思いますが,本論で定義された「移入財」,「移出財」は通常の「輸入財」,「輸出財」とは微妙なところで差異があります.ルールブックには以下のようにあります.

移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

「取引」は「通貨」と「財貨」の等価交換なので,つねにグラフの枝の両方の向きで移動が発生しますが,経済循環グラフでは「通貨」の移動だけに着目しているので,片側だけの「有向グラフ」として表現します.グラフをマトリックスに転換すると,「セル」はグラフの枝(取引)に相当しますが,「行」はそのノードからの「支出」を表し,「列」がそのノードへの「収入」になります.「財貨」はその逆向きに動いているので(通貨の動きと反対方向),たとえば,計算表上で「輸出」と書いてあるときには,「上」のノードから「左」のノードへの「輸出」であるということになります.「外部からの」としているのは,この集計には「自己取引」,つまり,「内部経済」を含まないという意味です.ここまではいいと思うのですが,問題は「仕入れ」としている点です.明らかにこれはかなり直感に反する定義になっているのではないでしょうか?※つまり,最終財の移出入は計数に含まれない!

「仕入れ」と呼ぶものの中には「中間財」の購買と,給与など報酬(労働サービスの対価)の支払いが含まれます.つまり,最終消費財の価格の中に転化される(埋め込まれる)と考えられる財貨・サービスがすべて含まれます.これらを控除しないと正しい生産額を計算できません.「最終消費財」の価格は「仕入れ」+「収益」で,この収益分が「付加価値」と呼ばれるものです.輸出入の用語では,純輸出=輸出-輸入となりますが,この「輸出」ないし,「輸入」は通常の理解では,「最終消費財の輸出を含めた全輸出」あるいは,「最終消費財の輸入を含めた全輸入」となります.しかし,「移入財,移出財には最終消費財を含めない」というのが我々の与えた定義です.この定義を従来の定義に戻して,「移入財=移入されたすべての財貨,移出財=移出されたすべての財貨」のように補正して再計算すると,

移出入=移出財-移入財=売上高-支払高=損益

という結果になり,結果的に,財貨的ゼロサムゲーム貨幣的ゼロサムゲームが完全に一致するようになります!確かに,これはわたし達が直感的に感じる「語感」とマッチしています.つまり,「貿易収支が赤字なら損益もマイナスになるはずだ(その逆も真)」という理解です.むしろ,逆に「財貨的ゼロサムゲーム」と「貨幣的ゼロサムゲーム」が交叉しているという方が分かりづらいと言ってよいと思います.下記のような定義を「移出入の古典的定義」ないし,古典的移出入と呼ぶことにしましょう.

移入財=移入されたすべての財貨
移出財=移出されたすべての財貨

確かに,近来までの外部経済取引は「古典的定義」と一致するような動きになっていたのだと思います(産品は一度「仕入れ」されてから国内で販売・加工される).今回の議論で初めてそれが修正されようとしているのですが,そのことは実体経済の最近のトレンド,つまり,グローバル企業による国境を超えた財貨の取引が急速に増加してきたという変化が背景にあるのではないかと推測しています.これらの企業,主にGAFAMなどですが,かれらは外国居住者に直接財貨・サービスを販売することができます.いま,OECDで議論になっている巨大IT企業に対する「デジタル課税」というのはこのような状況変化を直接反映したものです.実際,貿易収支,経常収支などの用語の定義でさえ,近年になって大幅改訂(IMF国際収支マニュアル,2014)されています.このことが意味するものをもう少し,俯瞰的に考えてみます.

経済循環グラフのノードは独立した経済主体ないしその集合,枝はノード間の貨幣的取引と定義されます.経済主体と呼ばれるものには,個人,企業,政府,金融,非営利団体などすべての個人・団体が含まれます.これらの経済主体がその規模の大小・属性・目的などに関わりなく完全に同一レベル・同一ルールのもとに取引を行っている状況を表現することがこのモデルの目標です.国民総生産や国民総所得などは国家単位で計算されますが,ここではすべての経済主体が同一レベル(同じテーブル)で経済活動を行っていると考えられるので,すべての経済単位について,それぞれ,総生産(生産額)や総所得(所得額)が同時並行的に計算できなくてはならないというのが我々の立場です.このことと,上のような問題が起きていることには深い関わりがあります.

通常,輸出入と言えば海外からなにかの財貨を輸入(仕入れ)して,それを直接ないし加工して販売(国内消費,ないし再輸出)するというプロセスを考えますが,現状はすでに国境を超えた個人・企業の取引が実行されている,つまり,企業や個人が国家と肩を並べるような状況になりつつあります※.これは生島さんがよく言われている,国家→企業→個人のような潮流と関わりがあるように思われます.このような状況はすべての経済主体を擬人化したモデルで考えるとわかり易いかもしれません.企業にとって,工場や設備,運搬車両などは人間の肉体に相当するものであり,いわば増強された肉体(サイボーグのようなもの)ですが,それ自体が意思決定能力を持っているという点において,主体であると言えます.「経済」とは,これらスケールの異なる「主体」(蟻ん子から象さんまで)がミックスして生息・活動するエコシステム,ある種の自然環境であると言えるでしょう.

※地域経済主体間の財貨の移動を「移出入」,国家経済間のトレードを「輸出入」と呼ぶとして,多国籍企業によるボーダーレス取引をなんと呼べばよいのだろう?なかには,個人輸入ビジネスなどというものもあるが,その個人の国籍,居住地はもはや主要ファクタではない.

「損益」は資金の増減であり,通常,「損益」がマイナスでも「所得」は立っています.所得=生産ですから,所得がないということはすでに経済活動終了しているということになるので,赤字企業と言っても操業している限り所得はプラス水準にあります.税務的な赤字というのは損益がマイナスになることですが,これまで見てきたように損益がマイナスというのは原理的・数理的に「ノーマル」な状態であり,ほぼ半数の経済単位が損益マイナスになるのは「どうやっても」避けることはできません.従って,ギリシャやウクライナが破綻に追いやられるというのはかなりおかしな話です.仮にこれらの国が債務国から脱却したとしても,それは単に赤字を他国に移転したことにしかなりません.IMFのように債務国の経済をぎりぎり締め上げて財政再建するというスキームは明らかに基本的なところで間違っています.それをやっていたら,世界中が窒息してしまいます.

三面等価原理が恒等的に成立するというところも国民経済計算で分かりづらいところかもしれません.生産・所得・支出の3面はそれぞれ完全に独立の活動であるように見えるからです.これに関しては説明してもなかなか分かりづらいところがあるので,簡単な「証明」でそれに代えたいと思います.純支出=純生産というところは既出ですが,再掲します.ただし,「純支出」と「純生産」という用語は多少紛らわしい(というより混乱していた)ので,「生産額」と「支出額」にリネームしました.生産額=最終財+純移出支出額=純消費+損益で,生産額は,その単位経済で生産され,最終消費ないし移出された正味財貨の合計,支出額はその経済単位が最終消費財として消費ないし移入した財貨+損益(剰余)です.これはよく見る,所得=消費+貯蓄という(教科書的)記述に対応するものです.以下では赤字は最終消費,青字は仕入れ中間消費)です.

単位経済の三面等価原理:所得額=支出額=生産額

証明:単位経済の三面等価原理

支払高=移入財経費純消費仕入高純消費
売上高=移出財経費最終財=支払高+最終財
仕入高=移入財経費
損益=売上高-支払高
=(移出財経費最終財)-(移入財経費純消費

  =移出財移入財最終財純消費
  =純移出最終財純消費

支出額純消費+損益
   =純消費純移出最終財純消費
   =最終財純移出
   =生産額

所得額=売上高-仕入高
   =(移出財経費最終財)-(移入財経費
   =最終財移出財移入財
   =最終財純移出
   =生産額

総体経済の四面等価原理:総生産=総所得=総支出=総消費

証明:単位経済の三面等価原理より明らか

総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)

総生産総所得総支出

ただし,総消費に関しては別途証明を要する

支払高=∑仕入高+∑純消費 から
∑純消費
=∑支払高-∑仕入高
    =∑(支払高-仕入高)
    =∑(所得額)
    =総所得

総消費=∑純消費)=∑(最終財)=総所得

QED

上記で,赤字は最終消費財・サービスの移転,青字は中間消費財・サービス(内部経費を含む)の移転,経費(内部経費)は製品価格に含まれる内部取引額(社員給与など).

単位経済では所得=支出=消費は成り立ちません.これは当然の理(失業中に競艇場に走ったり…)と言えますが,生産=所得=支出であるとすると,不労所得者の経済はどうなっているのだろう?というのが次の宿題(金融経済マトリックス)です.

比較参照用にサンプルを出しておきます.参考データとしてX国={A社,B社,a, b}の集計を入れました.セルの取引種別には供給者から需要者に送られる財貨の種別が書いてありますが,この計算表ではトップ行が供給者,最左列が需要者を示しているので,個人aA社に「給与」を送るというのは意味が通りません.そこで,給与→労働に改めました.つまり,個人aA社に労働サービスを提供し,その対価として給与60を受け取っています.XA+B+a+cの計算を実行しておくと,あとの集計はXYを計算するだけで簡単に終わります.

A B a b X Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 支出額
A 資材40 労働60 100 輸出60 160 100 60 100 60
B 原材料100 内販60 労働60 160
60
輸出60 280 220 60 220 80
a 輸出 60 60 0 60 0 60
b 輸出 60 60 0 60 0 60
X 100 40 60 140
60
560 320 240 320 260
Y 燃料60 輸出200 60 60 内販 60
給与60
380 260 120 200 100
売上高 160 300 60 60 580 360 940 総取引
損益 0 20 0 0 20 -20 0
卸売高 100 240 60 60 460 120 580 重複
所得額 60 80 60 60 260 100 360 総所得
最終財 60 60 0 0 120 240 360
移出財 100 240 60 60 460 60 520
純移出 0 20 60 60 140 -140 0
生産額 60 80 60 60 100 360

経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14

支払高=∑(行の全要素)=移入財経費純消費仕入高+純消費
売上高=∑(列の全要素)=移出財経費最終財卸売高+最終財
仕入高=∑(行の仕入れ)移入財経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財経費

所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ
移出財=∑(列の外部からの仕入れ

純移出移出財移入財卸売高仕入高
生産額=最終財純移出
支出額=純消費+損益

純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
(純損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
卸売高)=∑(仕入高
移入財)=∑(移出財

所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑純消費)=∑(最終財
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

2021/07/14 1:54

生島さん,下田さん

応用問題をやってみましょう.下図↓は,富山大学経済学部岸本研究室のサイトで見つけたものですが,貿易収支を見るときの「国籍基準」と「企業基準」の違いについての説明図です.経済循環マトリックスを試す格好の材料なので,2つの場合(国籍基準|企業基準)の計算表を書いてみたいと思います.(以下では数字の単位は10億ドル)

企業基準で見た米国の貿易収支の例

この図版で具体的な数字を明示されている取引は8つで,米国の輸出(581),輸入(609)の中にはこれらの取引が含まれているものとします.とりあえず,これら8つの取引の数字を元に「国籍基準」によるマトリックスを書いてみました.下の表では図中の米国をX国,外国をY国,米国本社をA社,外国企業をB社,米国系企業をα,外資系企業をβのように表記しています.各企業の所在地(居住地)から国内・A社・β社がX国籍,国外・B社・α社をY国籍とします.

国内 A β X 国外 B α Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 内販
1066
外商
1066
1066
1066
[輸入]
318
318 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
β 仕入
993
993 逆輸出
182
182 1175 1175 1175 -9 -9
X 993
1066
1066 2059
1066
318 291
609
3734 2668 1066
609
-28 1038
国外 [輸出]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 1189 1189 1189 0 0
α 輸出
140
輸出
100
240 仕入
1115
1115 1355 1355 1355 125 125
Y 341 140 100
581
1115 1189 1189 2304
1189
4074 2885 1189
581
28 1217
売上高 2400 140 1166 3706 1433 1189 1480 4102 7808 0
卸売高 1334 140 1166 2640 1433 1480 2913 5553
所得額 1016 31 -9 1038 1092 0 125 1217 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1166
581
1433 1480
609
5553
1190
純移出 -50 31 -9 -28 1092 -1189 125 28 0
生産額 1016 31 -9 1038 1092 0 125 1217 2255

輸出額と輸入額として与えられた581609という数字に合わせるために,差額として国内→国外[輸出]341,国外→国内[輸入]3182つを図面上には見えない取引として追加します.β社の国内販売(1065.6)B社の現地販売(1188.5)の末端価格は不明なので,仕入れ価格と同一としておきます.これで一応与えられた数字をすべて使った計算表ができました※.これをアレンジして「企業基準」によるマトリックスを書いてみます.α社はA社の子会社,β社はB社の子会社です.

総輸出=∑移出財,総輸入=∑移入財とするとき,経済循環マトリックス計算では,移入財=仕入高-経費,移出財=∑卸売高-経費のように計算されるので,複数の経済単位を縮約して作った計算表(上表ではX国,Y国の行と列に該当)では,経済主体の合併によって「内部取引=経費」が増加するため,縮約前の総輸出/総輸入の値と縮約後の総輸出/総輸入の値は一致しない.今の場合,縮約前の値は総輸出=総輸入=5553,縮約後は1190に変化している.※⇒(移出財,移入財)のセル

この図面の下には国籍基準と企業基準で収支がどう変化するかを説明する式↓が掲載されています.

米国の貿易収支

かなりややこしい式ですが,これで見ると,企業基準では輸出額は2523,輸入額は2499になるとされるので,輸出額-輸入額=24の黒字になると考えられます.国籍基準では-28の赤字だったので,貿易収支は24+28=52だけ「増加」していることが,523億ドルという数字に現れています.(企業基準で算出した実際の貿易収支黒字額は240億ドルです)ともかく「企業基準」の計算表を出してみましょう.

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 販売
1066
1066 [輸出]
318
外商
1066
1384 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
輸出
100
1215 1355 1355 1355 125 125
X 1066 140 109 249
1066
1433 1166
2599
3914 2848 1066
2599
106 1172
国外 [輸入]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 1189 1189 1189 0 0
β 仕入
993
逆輸出
182
1175 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1371
2705
1189 1189 3894 2705 1189
2705
-106 1083
売上高 2400 140 1480 4020 1433 1189 1166 3788 7808 0
卸売高 1334 140 1480 2954 1433 1166 2599 5553
所得額 1016 31 125 1172 1092 0 -9 1083 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1480
2705
1433 1166
2599
5553
5304
純移出 -50 31 125 106 1092 -1189 -9 -106 0
生産額 1016 31 125 1172 1092 0 -9 1083 2255

米国の輸出が2705,輸入が2599で純輸出106となり,与えられた数値と一致しません.「総所得」などの縦横集計(複式簿記的な計算)はすべて一致しているので,計算自体には誤りはないはずですが,どこかで「図の解釈」を間違えているように思われます.輸出で+182,輸入で+100の差額が出ています.数値を突き合わせてみると,この差異はおそらく,α社→β社の逆輸出182β社→α社の輸出100が関係しているように思われます.上に掲示した式の中では,どちらも輸入額から控除されている金額です.輸入額から控除されているということは,国籍基準では輸入項目だったということになるので,国籍基準の計算表でどうなっているのかを見てみましょう.

α社→β182というのはおそらく,図の読み間違いと思われます.つまり,「在来外資企業の輸入(182.2)」というのは,α→βではなく,B社→βと思われます.在米外資企業の輸出(▲100.0)というのも,「⇒」はα社のサークルに掛かっているように見えますが,真意はβ社→Bということなのでしょう.これを修正してもう一度作り直してみます.ただし,これをやるとおそらく,輸出入の調整額も変化することになるので,もう一度一からやり直すしかなさそうです.いや,それは不用かも知れません.この修正を行っても,国籍基準の輸出入額には変化はないはずです.(「在来外資企業の輸入」と「在米外資企業の輸出」は国籍基準計算表ではどちらも「内部取引」になっているため)

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 販売
1066
1066 [輸出]
318
外商
1066
1384 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
1115 1255 1255 1255 43 43
X 1066 140 109 249
1066
1433 1066
2499
3814 2748 1066
2499
24 1090
国外 [輸入]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 輸出
100
100 1289 1289 1289 82 82
β 仕入
993
993 逆輸出
182
182 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1189
2523
182
1189
100 282
1189
3994 2805 1189
2523
-24 1165
売上高 2400 140 1298 3838 1433 1371 1166 3970 7808 0
卸売高 1334 140 1298 2772 1433 182 1166 2781 5553
所得額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1298
2523
1433 182 1166
2499
5553
5022
純移出 -50 31 43 24 1092 -1107 -9 -24 0
生産額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255

できました!X国の移出財=2523,移入財=2499で完全に上記に記載された数字と一致しています.これはほんの一例ですが,経済循環マトリックス計算により,国家,地域,政府,企業,個人,団体などあらゆる属性を持った経済主体とその集合からなる経済循環において,それぞれの経済単位の対外収支を完全に計算できる(場合によっては,不足するデータを補うことすらできる)ことが示されました.

ただし,ここまではすべて財貨の移転を伴う実体経済マトリックスにおける計算なので,これに金融取引(財貨の移転を伴わない純貨幣的取引)を加えなくてはなりません.

PS:経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14

支払高=∑(行の全要素)=移入財経費純消費仕入高+最終財
売上高=∑(列の全要素)=移出財経費最終財卸売高+消費財
仕入高=∑(行の仕入)移入財経費
卸売高=∑(列の仕入)=移出財経費

所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

純移出移出財移入財卸売高仕入高
生産額=最終財純移出
支出額=純消費+損益

(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)=仕入高-経費

所得額=純支出=純生産(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

※現行のマトリックス計算では,純移出には仕入れ=中間財の移出入しか含まれていません.つまり,最終消費財の輸出入はこの計算からは除外されています.これを移出入に算入するために,純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加してみます(セル中の最終消費を意味する「純消費」とは異なるものです).∑消費財=∑最終財なので,∑純消費=0となります.これを使うと,損益=純移出+純消費となるので,仮に,純輸出=純移出+純消費とすれば,

∑損益=∑純輸出=0

が成立するため,財貨的ゼロサムゲームと貨幣的ゼロサムゲームの差異が消失し,貿易収支の赤字=損益の赤字という「伝統的解釈」と一致することになるので,確かにこの方が直感的であるような気もします.しかし,生産額と支出額の計数ではいずれ消費財・最終財を算出しなくてはならないので,最終消費・中間消費を区分することは,このマトリックス計算上不可欠であると判断されるため,最終的な結論は保留したいと思います.見通しとしては,「国際収支発展段階説」がヒントになるのではないか?という感触を得ています.

国際収支発展段階説では,国際経済循環が一種のゼロサムゲームであるということを認めた上で,それぞれの国が①未成熟の債務国,②成熟した債務国,③債務返済国,④未成熟の債権国,⑤成熟した債権国,⑥債権取り崩し国の各段階を経由するというものです.この説によれば,ブラジル,アルゼンチン,スペインなどは未成熟の債務国,イギリスや米国などは債権取り崩し国なのだそうです.

※クローサーは,「国際収支がゼロサムゲームであること」に気付いているとは思われるが,この理論を単純に適用すると,「奨学金借りたら人生こうなった」のような悲劇の再現で終わりそうな気もする…

前記したように,わたしはときに各経済主体を擬人化して見ることがあるので,それが幼児期から青年期を経て老年期に至るという説明は合点が行きます.ただし,老年期のあとには「死」しかないということではありません.人間の場合,次の世代を養育するのは親の義務であり,未来に対する投資と考えられますが,同様のことは国家や企業体についても言えるのではないでしょうか?(そのような国家の世代交代のようなものがあるとすれば,おそらくそれは何かしらの「政治変革」を伴うようなものになる可能性はあるかも知れません)

パートⅡ後書き (2022/05/20)

上記では「純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加」することによって,∑損益=∑純輸出=0が成立するような「移出入の古典的定義」に回帰することを提案しているが,最終的な結論は保留としている.しかし,常識的に考えても移出入(輸出入)から最終消費が除外されているというのはおかしいので,ここでもう一度再考してみたい.移出入から最終消費を除外すると,たとえば「インバウンド収入」が輸出にカウントされない,あるいは「地域外の電力会社に支払った電気料」が地域の生産物にカウントされてしまうなどの不都合がある.

「移出入から最終消費を除外する」ようになった経緯というのはよくわからないが,それでも計算上は整合し三面等価原理も成立しているので,主に「問題の複雑度を軽減する」という動機(手抜き)から採用された方式であるように思われる.以下では「経済循環マトリックスのルールブック」を大幅に改訂した「最終案」と呼べるものを提案する.最終消費を移出入に算入するために新たにいくつかの用語を追加した.また,語義的な混乱を避けるためいくつかの既存パラメータを以下のようにリネームしている.①新規→自家消費,②新規→純仕入れ,③新規→内需要,④新規→外需要,⑤新規→中間益,⑥新規→販売益,⑦経費→内部経費,⑧純消費→全消費,⑨移出財→中間財

この新しい定義に従って,上記の「米国の貿易収支」のマトリックスを書き換えてみよう.その前に,まず,用語の日本語定義を与えておく.

  • 経済:経済とはある圏域において独立に取引を行う決定権ないし代表権を有する経済主体が相対で行う経済的取引の総体であるとする.ここでは「経済的取引」を通貨を媒介とする「貨幣的取引」に限定する.経済主体には,個人,企業,非営利団体,各種機関,政府・地方政府,およびそれらの集合を含むものとする.「経済主体の集合」には,家計,企業,銀行,地域,地方,国家,産業分類,職業分類など任意の区分に従う各種の「セクター」ないしその混合が含まれる.
  • 経済循環グラフ:個別の経済主体をノードとし,取引(トランザクション)を枝(辺)とする重み付き有向グラフ(ネットワーク).有向グラフの枝の向きはつねに,通貨の移動方向とする 経済循環グラフはループ(自己取引)ないし多重枝(同時並行取引)を持つ場合がある.経済循環グラフはブロックチェーン(分散台帳)や中央銀行準備金口座台帳などの取引情報をベースに構築され,取引の全時間リアルタイム決済システムとして機能することを予定する.経済循環グラフ上の取引はすべて「貨幣的取引」であると仮定する.財貨の無償提供などの非貨幣的取引は,①代価1円(最小貨幣単位)の取引とみなすか,ないし,財貨の受け渡しに先行して,財貨の提供者が財貨相応の通貨を財貨受領者に給与し,受領者はその通貨をもって財貨を購買するという「擬似貨幣的取引」として扱うことにしてもよい.
  • 経済循環マトリックス:経済循環グラフの接続行列として表現された計算表 参加メンバー(経済主体)数をNとするとき,N x N の2次元正方行列(マトリックス)として構成される.マトリックスの1個の「セル」は経済循環グラフの1個の枝(トランザクション)に相当する.経済循環マトリックスの主な目的は国民総生産統計などの経済循環統計を計算することにある.このためには,すべての取引が①仕入れ,②最終消費純消費)のいずれかに区分されなくてはならない.内部経済において生産・サービス提供のために消費されたコスト(経費)は①仕入れに区分される.経済循環マトリックス上の通貨移動は,つねに最左列のノード(経済主体)から最上行のノードに向かうものとする.
  • 経済循環マトリックスの圧縮と縮約:経済循環マトリックス上のデータを加工して所望の計算結果を得るための手法として,マトリックスの圧縮と縮約が用いられる.ある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを時間軸で合併する操作を「圧縮」,空間軸で合併する操作を「縮約」と呼ぶ 経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作,経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを合併して1つのノードにまとめる操作である.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列とB列のセル値を合算してC列とし,ついでA行とB行のセル値を合算してC行を生成する.縮約によって外部取引が内部取引になる場合もある.
  • 実体経済と金融経済:経済循環マトリックスを取引の様態によって,(1)実体経済循環マトリックスと(2)金融経済循環マトリックスに大別する.(1)には「財貨の移動を伴う取引」が含まれ,財貨の移動を伴わない「純貨幣的取引」は(2)金融経済循環マトリックスで扱う.
  • 集計項目:経済循環計算を実施するために,マトリックスに以下のような集計項目を追加する.以下では,ある経済主体の内部で完結する取引を内部経済,それ以外の取引を外部経済(対外取引)と呼ぶ.
  1. 内部経費:該ノードの生産活動の内部コスト(給与など)
  2. 自家消費:該ノードが生産し自ら消費した最終消費財(純消費)
  3. 純仕入:該ノードが外部経済から購入した中間財(仕入れ)
  4. 内需要:該ノードが外部経済から購入・消費した最終財(純消費)
  5. 輸入財:該ノードが外部経済から購入した財貨の総額
  6. 全消費:該ノードが最終消費した財貨の総額(純消費)
  7. 仕入高:該ノードが購入した内部経費を含む中間財の総額(仕入れ)
  8. 支払高:該ノードが購入・消費した自家取引を含む財貨の総額
  9. 中間財:該ノードが生産し外部経済が購入した中間財(仕入れ)
  10. 外需要:該ノードが生産し外部経済が消費した最終財(純消費)
  11. 輸出財:該ノードが生産し外部経済が購入した財貨の総額
  12. 最終財:該ノードが生産した最終消費財の総額(純消費)
  13. 卸売高:該ノードが生産した内部経費を含む中間財の総額(仕入れ)
  14. 売上高:該ノードが生産した自家取引を含む財貨の総額
  15. 中間益:該ノードによる中間財の売買における利得(仕入れ)
  16. 純輸出:該ノードの輸出入(対外取引)財貨の差額
  17. 販売益:該ノードによる最終財の売買における利得(純消費)
  18. 所得額:該ノードの経済活動により増加した付加価値の総額
  19. 生産額:該ノードが生産した財貨の総額
  20. 支出額:該ノードが最終消費した財貨の総額+損益
  21. 損益:該ノードの対外取引による最終利得(帳尻)

※内需要・外需要は通常の内需(国内需要)・外需(海外需要,財貨・サービスの輸出)とは微妙に異なる意味で使われていることに注意.また,ここでは個人対個人の場合を含めて,すべての対外取引に「輸出入」という用語を割り当てている.この結果,純輸出=損益となる.

前出の「米国の貿易収支」サンプルに「最終案」を適用して,その妥当性を検証してみよう.以下のマトリックスでは「仕入れ」を青字,「最終消費(純消費)」を赤字で表示する.下表は「国籍基準」のマトリックスで,X国は,{ 国内,A社,α社 }を合体(縮約)したもの,Y国は{ 国外,B社,β社 }の合体(縮約)である.対角線上の自己取引セルはピンクで塗り潰した.

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純仕入 輸入財 全消費 損益 支出額
国内 販売
1066

1066
輸出
318
外商
1066
1384 2450 1384 1384 1384 1066 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
1115 1255 1255 1255 1255 43 43
X 1066 140 109 249
1066

1433 1066 2499
3814 2748 (2748)
2499
(2748)
2499
1066 24 1090
国外 輸入
341
341 販売
1189
1189 1530 341 341 1530 1189 -97 1092
B 納品
1189
1189 輸出
100
100 1289 1289 1289 1289 82 82
β 仕入
993
993 輸出
182
182 1175 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1189 2523 182
1189
100 282
1189
3994 2805 (2805)
2523
2523 1189 -24 1165
売上高 2400 140 1298 3838 1433 1371 1166 3970 7808
卸売高 1334 140 1298 2772 1433 182 1166 2781 5553  
中間財 1334 140 1298 (2772)
2523
1433 182 1166 (2781)
2499
  (5553)
5022
輸出財 1334 140 1298 (2772)
2523
1433 1371 1166 (3970)
2499
    (6742)
5022
最終財 1066 1066 1189 1189
  2255
純輸出 -50 31 43 24 -97 82 -9 -24   0
所得額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255
中間+
最終財
2400 140 1298 (3838)
3589
1433 1371 1166 (3970)
3688
 
生産額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255

上掲のマトリックスで黄色で塗り潰したセルはそのセルでクロスする行と列のトータルが一致していることを示している.これは,下記ルールブックで①∑(支払高)=∑(売上高),②∑(卸売高)=∑(仕入高),③∑(中間財)=∑(純仕入),④∑(輸出財)=∑(輸入財),⑤∑(損益)=∑(純輸出)=0としているところと照応する.緑色で塗り潰したセルは「総体経済の四面等価原理」の成立を示すもので,総支出=総所得=総生産=総消費が完全に一致していることが看て取れる.

支出額,所得額,生産額を集計した各行,各列のフィールドは個別ノードごとにそれぞれ完全に一致している.これは「単体経済の三面等価原理」が成立していることを示している.濃いグレーで塗り潰された行と列(X国・Y国)はこれらのノードが複数の単体経済の「縮約」であることを意味する.このような「ノードの縮約」によって,「対外取引」が「内部経済」に転化することによって影響を受ける項目には背景色として薄いグレーを用いている.このような項目には,①純仕入,②輸入財,③中間財,④輸出財がある.⑤中間+最終財は計算上の便宜を図るために導入された作業用パラメータである.

これらの項目ではそれぞれの取引が「対外取引」であるのか,「自己取引(内部経済)」であるのをチェックしなくてはならないので,集計はやや厄介なものになるが,自動計算は可能である.これら以外の項目では集計は単純な「加算」のみで完全に整合的な計算を実施できる.これらの「圏域に依存するタイプの集計項目」では,参考値として集約計算前の「原マトリックス」上での集計値を「(,)」で括って示した.

上記したようにすべての集計行と集計列はそれぞれに対応する項目を持ち,それぞれの集計値は完全に一致する.この水平計算と垂直計算が一致するという経済循環マトリックス計算の性格は,この計算方式が「複式簿記」という会計計算法の「拡張」となっていることの証左である.三面等価原理が個別ノードについて成立していることから鑑みると,「複式簿記」が2次元の平面計算であるとすれば,3次元の立体計算になっていると言ってよいのではないだろうか?

経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/20)

内部経費=対角セルの仕入れ
自家消費=対角セルの純消費

純仕入=∑(行の対外仕入れ
内需要=∑(行の対外純消費
輸入財=∑(行の対外支払い) 
   =∑(行の対外仕入れ)+∑(行の対外純消費
   =純仕入内需要
全消費=∑(行の純消費)=内需要自家消費
仕入高=∑(行の仕入れ)= 純仕入内部経費
支払高=∑(行の全要素)=仕入高全消費

中間財=∑(列の対外仕入れ
外需要=∑(列の対外純消費
輸出財=∑(列の対外売上げ)
   =∑(列の対外仕入れ)+∑(列の対外純消費
   =中間財外需要
最終財=∑(列の純消費)=外需要自家消費
卸売高=∑(列の仕入れ)=中間財内部経費
売上高=∑(列の全要素)=卸売高最終財

中間益=中間財純仕入卸売高仕入高
純輸出=輸出財-輸入財
   =(中間財外需要)-(純仕入内需要
   =(中間財純仕入)+(外需要内需要   =中間益販売益
販売益=最終財全消費外需要内需要
   =純輸出-中間益

所得額=売上高-仕入高
   =(中間財内部経費最終財)ー(純仕入内部経費
   =中間財純仕入最終財中間益最終財
損益=売上高-支払高=(卸売高最終財)-(仕入高全消費
  =(中間財内部経費最終財)-(純仕入内部経費全消費)
  =中間益販売益=純輸出
生産額=最終財中間財純仕入
   =最終財+(中間財内部経費)-(純仕入内部経費)
   =最終財卸売高仕入高最終財中間益=所得額
支出額=全消費+損益
   =全消費+(卸売高最終財)-(仕入高全消費 
   =最終財卸売高仕入高最終財中間益=所得額

∴所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

∑(損益)=∑(純輸出)=0(経済循環的ゼロサムゲーム)
∑(支払高)=∑(売上高)
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(中間財)=∑(純仕入)
∑(輸出財)=∑(輸入財)

総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)
総消費=∑(全消費)=∑(最終財) =∑(支払高-仕入高) 
   =∑(支払高-(売上高-所得額)) 
   =∑(所得額-(売上高-支払高)) 
   =∑(所得額-損益) =∑所得額-∑損益=総所得

∴総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

 

エコロジカルに持続可能な経済循環系グラフ

経済循環系グラフと経済循環マトリックス

パートI   エコロジカルに持続可能な経済循環系グラフ
パートII  実体経済循環 / 金融経済循環マトリックス
パートIII 国際的 / 宗教的 / 環境的経済循環マトリックス

2021/05/09 20:06

下田さん

こんにちは.馬場英治と申します.75歳の老プログラマです.

再生リストで全編を視聴させて頂きました.よく整理されたとても分かり易い動画だと思います.Youtubedeで「みんなのお金 その4 万年筆マネー」の下にコメントを付けてみましたが,PCで読めなくなっているのでこちらに転記します.

シズカちゃん冴えてますね~ 「万年筆マネーなら銀行は貸したお金が回収できなくても損はしませんね?!」 ハカセはなんとかこれに受け答えしていますが,もし「現金」が廃止されれば(全国民が中央銀行に当座預金を持つ場合)それも起こり得ると考えなくてはなりません.つまり,この議論の延長には「準備率ゼロ%」もあり得るということが想定されます.イクシマさんの言う「貨幣は消滅する」とはこのことを言うのでしょう.

「準備率ゼロ%」なんてあり得ないと思われるかもしれませんが,昨今の「ポイントシステム」の乱立などを見ているとあながち荒唐無稽な話ではないような気がします.聞くところによると「給与をポイントシステムに直接振り込む」ことが公的に認められたとか…労働関係法規には「賃金は現金で支給されなくてはならない」という規定がどこかにあったような気がするのですが…「準備率ゼロ%」とは貨幣発行の裏付けとなる物的裏付け(担保)は一切不要という究極の場合ですが,政府が貨幣を無制限に発行できるようになるとすれば,それもまた「準備率ゼロ%」の一形態になるような気も致します.

盛り上がっているバンドワゴンの列に水を掛けるつもりは毛頭ありません…ちなみにわたしは部分準備銀行システム」は「複式帳簿」や「株式会社」などと同様,人類史上の経済的大発明(傑作)の一つに数えられるべきではないかと思っています.

株式会社馬場研究所
馬場英治
babalabos@gmail.com

2021/05/09 23:58

下田さま

ご返信ありがとうございます.前に下田さんも書いておられますが,わたしの投稿も自分のところに戻ってきません.ご返事頂いたので公開されていることは確認できましたが…

2つご質問※頂きましたがどちらも,YESです.この場合,それでは,銀行Aから銀行Bへの送金はどうなるのか?という疑問が湧いてきます.たとえば,銀行Aの個人口座aに銀行Bの個人口座bから振り込むような場合です.準備率ゼロですから,銀行間の準備預金の移動は発生せず,単に口座aに口座bから送金された金額が追加されるだけ(口座abの残高を書き換えるだけ)になると思います.明らかに無茶な手順のように思われますが,これが準備率ゼロの意味ではないでしょうか?もし,仮にこのようなシステムが実稼働することがあり得るとすれば,それは「100%の信用」の上で運用されるものとなります.

※2つご質問:⇒ ①「準備預金」を準備する主体は「市中銀行」と考えているのか?,②「準備率ゼロ%」とは,市中銀行が好きなだけ「要求払い預金(負債)」を発行できる状態と考えているのか?

そんなことはあり得ないと思われるかもしれませんが,実際の「信用システム」は(皮を剥ぎ取って見れば)このような「信用」の上に成り立っているとも言えます.わたしはこの命題を「背理」ないし「逆理」として提示しているつもりですが,逆に「100%信用」という世界が存在することを仮想することも不可能ではありません.現実的には,イクシマさんがしばしば言及される「信用スコア」というようなものが必要になってくるのかもしれませんが…

これは個人の信用だけでなく,銀行の信用という問題でもありますが,仮にそのようなシステムが成立したとしてもそれがディストピアを招来するものではないと約束できるものではありません.(たとえば,その100%信用システムから排除された人間は生きるすべを失うことになるでしょう…)この意味で下田さんが後半部で「市場」ということを強調されているのは理解できます.

馬場英治

PS:下田さまの個人メアド宛に送信してしまったので,再送します.

2021/05/10 17:01

下田さん,生島さん

返信ありがとうございます.この件※に関しては追って(後日)ということでご了承ください.

※この件:⇒ 「次々回くらいの公共貨幣オンラインセミナーで準備率をテーマに問題提起してみないか」というお申し出の件

馬場英治

2021/05/12 23:50

下田さま

準備率ゼロ%というシステムが現実にあり得るのかどうかはわたしにもよく分かりませんが,一種の「思考実験」と捉えて頂ければ幸いです.わたしはプログラマーですが,プログラミングの世界に「限界テスト」というのがあります.限界テストというのは負荷テストの一種で「テストデータの許容範囲(上限ないし下限)」で正しく動作するかどうかを検証するテストです.通常データが許容範囲内に収まっている場合には,システムはノーマルな挙動を示すと考えられますが,このテストを怠るとかなり厄介なことが起こる可能性もあります.つまり,許容範囲の上・下限近くでは予測不能の動作になることがしばしばあります.

法定準備率の範囲を100≧準備率≧0としたときの上限は100%,下限は0%です.このとき,「法定準備率の範囲が100>準備率>0のときには部分準備銀行システムは概ねノーマルに動作する」ということでよろしいでしょうか?準備率が100%の近傍に近づいたときの挙動というのはまだ解析できていませんが,少なくとも大なり小なりの「信用創造」が可能であることは確実です.また,準備率100%のときには「諸悪の根源である信用創造」の息の根を止めることができるのも確かです.

下田さんを始めとして多くの公共貨幣論者は「準備率を100%にすればすべての問題は解決する」と唱えておられます.準備率100%というのは,法貨以外は通貨として認めない,つまり,銀行マネーを駆逐して発券銀行マネーに統一するということを意味すると考えられますので,銀行システムを廃絶することと等価になるように思われます.いや,そうじゃないよ.投資銀行と預金銀行を分離するんだ,ないし,預金口座と投資口座を区分すればよいというご意見であるのかもしれませんが,それでは結局元の木阿弥になってしまうのではないでしょうか?実質,1000万円までの預金は保護するという現行方式,ないしグラス・スティーガル法などの考え方と大差ないのではないかという気がします.

私自身にはこのあたりの議論にやや「ついていけない部分があります」が,この疑問に取り組む前に,まず100%という極の反対側にある[準備率]ゼロ%というところから考えてみたいというのがこの設問を設定した動機です.このような極限における相転移はいろいろな場面で見られます.たとえば,国債は国の負債ですが償還期限と利子率を操作してその極を考えれば,無期限無利子国債のようなものを考えることができます.このとき,この国債は政府貨幣(現金)とほぼ等価なものになるでしょう.同様に株式会社が発行する債務証書である株式は償還不要の負債と考えられるので見方を変えれば(私製)貨幣の発行とみなすこともできます.(渡辺穣二さんの「資本通貨」という概念はこの辺りから来ているのではないかと拝察しています)

2021/05/13 23:49

下田さま 丁寧なご応答ありがとうございます.わたしのざっくりとしたというより,やや乱暴な議論にお付き合い頂き,まことに恐縮です.3点※のそれぞれについてのご趣旨はよく理解できましたが,もう少し深堀りしてみたいと思います.

※3点:⇒ (1)準備率100%(信用創造の廃止)は「銀行システムの廃止」と等価「銀行システム」=「信用創造による貨幣発行」と見るなら等価だが,「銀行そのもの」の廃止にはならない(金融仲介機能と決済機能は残る).(2)無利子永久国債は、政府貨幣(現金)とほぼ等価政府貨幣は政府の純資産(貨幣発行益)であり,国債はたとえ無利子無期限であっても負債であることには変わりはない.信用創造を廃止するかどうかが問題.(3)株式発行は、(私製)貨幣の発行とみなすことができる株式発行は通用する貨幣量を増やさないから,貨幣ではない.貨幣としての「一般受容性」と「転々流通性」を欠いている.

当面の議論は中央銀行がホールセール型のデジタル通貨を発行するというモデル上で考えてみます.中銀当座預金にはCBDCが格納されているものとします.この場合には流通通貨は法貨だけとなるので,決済はつねに法貨をもって実施されることになりますから,実質的には銀行の三機能のうちの「決済機能」も自然消滅するとみることができます.(すべての国民が中央銀行に当座預金口座を持つようになれば当然そうなりますが,そうでない場合でもたとえばソラミツのような決済専門サービスが銀行に取って代わるでしょう.わたしは以前どこかでゆうちょ銀行をそのような「決済銀行」に仕立てることを提案したことがあります.)

最後に残る「金融仲介機能」というのがおそらく,準備率100%論で言う,(元本を保証しない)投資口座ないし投資銀行に該当するのではないかと思いますが,よろしいでしょうか?ここで,たとえばABから債権M1を買ったとします.通貨はAの口座からBに移動しますが,通貨の総量には変化がありません.Bはこのお金でCから同額の債権M2を購入します.お金はA→ B→ C→…と転々するので通貨の総量には変化がありませんが,発行債券の総額はM1+M2+…のように増加してゆきます.これはわたしの目には「実質的な」信用創造であるように見えます.落語に「饅頭怖い」という話がありますが,それとやや類似した現象です.有価証券は「貨幣」そのものではありませんが,「貯蔵性」があり,市場を介してではありますが「流通性」も有します(広義流動性).

マルクス資本論の剰余価値説では産業資本において生産過程の労働量は,労働者の生活に必要とする労働(必要労働)と,それを超える剰余労働(不払労働)から構成され,この剰余労働によって生み出された価値が剰余価値であるとし,これが資本家の取り分となることを以って不当にも労働者からの不当な搾取であるとしていますが,クリフォード・ダグラスが指摘したようにこの説には不備があります.もし,生産価値が生産された商品の価格として表示されるとすれば,労働者の賃金ではそれを全量買い取ることが不可能だからです.あ,下田さんは「ダグラス説は誤り」であるというポジションでしたね.

ダグラスの名前はエズラ・パウンドとのつながりで知ったのですが,確かにイタリア・ファシスト政権の経済政策の理論的支柱であった訳ですから,異端と言えば異端であると言えます.しかし,現在の経済環境などを見るとかなりよく妥当するところもあるように思われます.実際,住宅や車のローン,クレジットなどの金融システムがなければ現在の経済システムは成立しないのではないでしょうか?だとすれば,これはまさにA+B理論がかなりの程度妥当することの例証と言えませんか?この意味でダグラス説を正とする立場,誤とする立場のいずれにも理はあるのではないかという気がします.

産業資本家の利得がどこから来るのかは,ダグラスのA+B理論からは分かりませんが,少なくともビル・ゲイツの資産がどこから来たものであるかははっきり分かります.彼はわたしと同様大学中退者でプログラマですが,わたしと似ているというのはそこまでです(爆)彼は本業のソフトウェア開発でも成功していますが,それは事業としては「ほぼ」まっとうなものだった(あこぎなことはしていない)と言ってよいと思います.彼の途方もない資産はすべて株式などの金融資産です.この実物経済と金融経済のアンバランスが最大の問題であると認識しています.

三木さんからの又引きですが,ダグラスは「現在の価格システム自体が生み出す需給ギャップ(商品の価格の中に購買力が価格として含まれるために常に生産される総商品価格よりも購買力が少なくなるという原理的なギャップ)が生まれる。そのギャップを現在は、債務貨幣制度によって銀行が貨幣を恣意的に作ることで埋めている。それによって経済のみならず社会全体の銀行の支配が進んでいる。」と述べています.商品の価格は一般に需要と供給のバランスによって決定するとされていますが,需要=購買力は流通貨幣量にも影響されます.

公共貨幣論でわたしがもっとも危惧していることは,(原理的に)制約のない貨幣(公共貨幣)の発行が価格に及ぼす影響です.つまり,恣意的な価格変動(価格の吊り上げ)により富[貨幣的価値]の偏在が発生する可能性があります.リーマンショックの引き金となったリーマン・ブラザーズの負債総額は64兆円に上るということですが,シズカちゃんの素朴な疑問にポジティブに応えるためには「この巨額債権を棒引きしても実物経済に影響しない」ことを証明しなくてはなりません※.そんなことできるのでしょうか?

※「万年筆マネーなら回収できなくても銀行は損しませんね!」→もちろん,金額がいくら大きくても大丈夫→ただし,銀行間の取引では準備金が移動するため連鎖反応が発生する可能性があるので,そこのところを調べる必要があります→「実物経済」と「金融経済」を完全に「デカップリング」できれば,「実物経済には影響しない」と言えます.

2021/05/14 12:31

誤:饅頭怖い
正:二人の饅頭屋が登場する落語,演題不明

ネット中探しまくりましたが,(この落語についての記事が)見つかりません.すでに廃れてしまったのでしょうか?だとしたら,若い方などにはまったく知られていない話ということになりますね.これは古典落語の中でも最高傑作と呼ばれるべきものです.「まんじゅうこわい」はまったく別の他愛もない話です.かいつまんであらすじを述べます.

登場人物:二人の饅頭屋

あらすじ:朝,行商に出かけた饅頭屋Aが一日足を棒のように歩いても1個も売れず,くたくたになって道で休んでいるともう一人の饅頭屋Bも同じように売れ残りの饅頭を担いでやってきて隣に座った.Aが「腹減った,一つ饅頭を売ってくれ」と言ってBに一粒の硬貨(仮に5厘とする)を渡し,受け取った饅頭をその場でむしゃむしゃ食べた.それを見ていたBは「俺にもひとつくれ」と言って手の中の5厘玉をAに渡して饅頭1個をむさぶるように食べた.「おう,それならもうひとつ」と言ってABに5厘玉を渡してもう1個食べた.それからは二人とも無我夢中で,「もう一つ」,「もう一つ」と言いながらあっと言う間に全部の饅頭を食べきってしまった.ようやく二人は立ち上がり「今日はよく売れたな.よかった,よかった」と軽くなった荷物を担いで帰りましたとさ.

この話は経済学的に見てとても深い含蓄を含んでいるように思われます(たとえば株式の持ち合い構造など).もしこの落語作家が落語を書くのではなく,経済論文としてこれを発表していたら,間違いなくノーベル経済学賞を授与されていたことでしょう.

B.A.

2021/05/15 0:41

生島さん

おもしろいお話※ありがとうございます.ちょうど「自給自足経済」のことを考えていました.饅頭を客に売るというのはそれ自体は単純な商行為ですが,「取引」が「循環」しているためにかなり奇妙な話になっています.しかし,問題は「循環」にあるのではなく,その取引が「相対」であるというところがポイントです.当事者が3以上であれば通常の経済行為と考えられます(三角貿易など…).経済というのは貨幣循環ですから,その中にはつねに無数の循環経路が存在します.つまり,当事者数>0として,当事者数=2という特殊な場合に限ってある種の相転移が起こっているように思われます.(いや,違うかもしれません.これは単純に饅頭屋が饅頭を買うという行為の自己矛盾ですか?)

※おもしろいお話:ある米作農家が、500kgの米を収穫し、そのうち400kgを出荷して、残り100kgを家族で消費した。この農家が作り出した付加価値は500kgと考え、家族分100kgにも価格があるものと仮定して付加価値額を算出する。(自給自足も経済活動)GDPを大きく見せるためには自家消費をカウントしたほうがいいが、食糧自給率を少なく見せるためには自家消費をカウントしないほうがいい。

株式の持ち合いの場合,A社とB社が互いに同額Mの株を発行してそれを購入したとすれば(行って来いになりますから)現金を1円も動かすことなくM円の資産を持つことになります.(この株式持ち合いというのは日本企業の強力な防具だったのですが…)当事者数=1なら自給自足経済です.ダグラスのA+B式に戻りましょう.

商品価格=AB
A=賃金、給与、配当によって個人に支払われるもの。
B=機械・原料の買入れや銀行からの借入れに対する利子支払い等々で、他の組織体に支払われるもの。

ダグラスは「Bは購買力を形成しないので,生産物全量をAのみによって購買することは不可能であるから,このような経済は成立しない」としていますが,「いや,Bも購買力を形成する」というのが下田さんのご主張です.[この点に関しては同意します.]また,「貯蓄に回されるマネーがゼロだった場合にも、同様の差異は発生する」というダグラスの言を引いておられますが,もし,そう書いてあったとすれば多分それはダグラスの誤りだと思います※.

※後出するダグラスのA+B等式の暫定修正版で左辺の資本/負債増分には,当然生産財ないし資本財が含まれる.右辺の消費に向けられる資本家利得(の一部ないし大部分)は当然これらの財の購入に向かっているものと推定されるので,C:貯蔵貨幣がないとすれば,等式が成立すると考えても矛盾はない.ダグラスの本意は,C:貯蔵貨幣の源泉が金融資本による信用創造にあると考えたところにあるのではないだろうか?

ダグラスの主張は金融資本の存在を前提とします.たとえば,産業革命以前の経済では明らかに等式は成立しています.

全収穫物=A:小作人労働(生計のための取り前)+B:大地主不労所得(現物納付農産物)

すでに貨幣経済に入っているとすれば,農産物の一部は貨幣と交換されるかもしれませんが,大枠は変わりません.マルクスの剰余価値説もまったく同じ構成です.

生産過程の労働量=A:必要労働(労働者の賃金)+B:剰余労働(資本家の利得)

上式は,生産がすべて商品生産であり,資本家の利得がすべて消費に向けられない限り成立しません.ある程度商工業が発達した段階,たとえばフランス革命前期なら,富裕層向けの金銀宝飾品その他の贅沢品を消費することで等式が成立するかも知れませんが,産業革命後の「工業生産の時代」は基本的に大衆向け製品の大量生産ですから,富裕層がそれらを買い切ることはできず,金銀宝飾品に代えて貯蔵性のある貨幣を取得することが産業資本家の経済活動の主たる目的になります.従って上式は以下のように書き換えられなくてはなりません.

全商品価格=A:労働者の賃金+B:消費に向けられる資本家利得+C:貯蔵貨幣

しかし,全商品価格はA+Bより大きくすることはできないので,Cがゼロでない限りこの式は成立しません.このC:貯蔵貨幣がどこからもたらされたものであるのかが問題です.ここでは暫定解として,以下の式を提示しておきます.

全商品価格+資本/負債増分
   =A:労働者賃金+B:資本家利得(消費分)+C:貯蔵貨幣

この式の解釈は後日として,ダグラスの等式[産業革命以前の経済]からB項を取り除くと,下記のような自給自足経済になります.

全収得物 = 部族の狩猟・採集活動

アイヌ,インディアン,遊牧民などに見られる原始共産経済等式です.この式を見れば穀物生産の開始とクニの成立がなぜ同時期に発生するのかという理由が分かります.少なくともマルクスの考察から金融資本の存在が完全に抜け落ちていることは明らかです.これに対し,ダグラスの関心はストレートに金融資本の存在とその不条理に向けられています.ダグラスの式に照らしてみたとき,マルクスの論説が産業革命以前の経済状態にしか対応していないとすれば,共産革命がなぜ先進工業国では不発に終わり,むしろロシア・中国のような後進農業国で発生したのかという疑問も解けるかも知れません.

2021/05/15 21:29

下田さま

どうも,「ここまで噛み砕いて話しているのに…」という徒労感を感じておられるのではないかと懸念しております.元々,シズカちゃんのウィットに富む質問にからめて,一つジョークでも飛ばしてみようかなというところから始まっておりますので,あしからずご了承ください.逐条的なレビューを頂いておりますが,要点のみピックアップしてコメントを試みます.

(1)銀行の「決済機能」:決済手数料の低廉化(それによる銀行の利益率の低下)は、早晩避けられない⇒銀行貸出減少の現況下で,手数料は無視できない銀行の収入源泉になっています.日銀は各国中銀の動向を睨みながらCBDCの導入に重い腰を上げてきたように見えますが,CBDCは法貨となるものですから,24時間即時無料決済(ファイナリティ)が要求されます(電子化するというだけなら,既存システムで間に合います.単に日銀当座預金をこれはCBDCであると宣言することで足ります.厳密には準備率100%でなくてはなりませんが…).

(2)既存貨幣の流通過程で有価証券が増えたとしても、貨幣が増えたことにならず、したがって、それは「信用創造」を意味しません。日銀が、マネーストックに広義流動性を含めているのは問題があります。⇒わたしは,有価証券が貨幣であるとは申しておりませんが,確かに日銀は金融債,社債,金銭信託など「広義流動性」の発行元を「通貨の発行主体」としていますね.

お金で饅頭は買えても、饅頭でお金は買えないということです。⇒饅頭とお金を交換することができれば,お金と饅頭を交換することもできますが…

(3)マルクスの労働価値説の問題⇒価値と価格を混同されているように感じます.値段が付かなくてもその生産物の「価値」が損なわれる訳ではありません.

ダグラスのA+B理論:「購買力を構成するものは賃金だけではない」という現実をうまく説明できていないと思います。⇒ダグラスの説明が不十分であることは認めます.暫定的に,

全商品価格+資本/負債増分=A:労働者の賃金+B:消費に向けられる資本家利得+C:貯蔵貨幣

という式を考えてみました.所得格差拡大の真因はこの「貯蔵貨幣」にあるのではないかという感触を得ています.

これを、私は「みんなのお金」シリーズのなかで「妖怪マネー」と呼びました。⇒共産党宣言の冒頭の一フレーズが想い出されます.曰く「妖怪がヨーロッパを徘徊している.共産主義という妖怪である.」

(4)(これまでの異次元緩和がほとんど物価上昇効果を持たなかったのは、増加した貨幣が比較的貧困層には行きわたらずに、比較的富裕層に偏在したためだと推測されます。)⇒[その通りですね!]マネタリストの「貨幣数量説」は理論的にすでに完全に破綻しました.

(5)「明示的な財政ファイナンス」やいわゆる「政府紙幣の発行」にたして、「節度のない貨幣発行によって悪性のインフレを招く」という懸念が長年に渡り示され続けてきましたが、その懸念は、現行の「隠然たる財政ファイナンス」に対しても同様に示されるべきものです。⇒ もちろんです.しかし,同時に「隠然たる財政ファイナンス」に対する「懸念」はそのまま「明示的な財政ファイナンス」への懸念として残ります.わたしはむしろこちらの側の「懸念」を心配しています.すでに「隠然たる財政ファイナンス」と「明示的な財政ファイナンス」の間は隆起して地続きになり徒歩で渡れるようになっていますが,「地獄への道はつねに善意で敷き詰められている」とも言われます.

市場原理に貨幣発行の制約を求める考えはすでに破綻しています、むしろ、権力分立に基く民主主義的でオープンな貨幣発行量の決定に貨幣発行の制約を求めるべきものと思います。⇒最大の問題は「市場原理」を放棄したとき,どのようなプロセスで「価格」が決定されるのか(できるのか)?という点にあります.これを実現する最短路は「国家資本主義」ないし「国家社会主義」となるのではありませんか?

(6)下記のおっしゃる意味が理解できないので、コメントできません。もう少し詳しくご説明いただけたら幸いです。⇒「万年筆マネーなら貸し倒れしても損はしませんよね(全部紙に書いた数字でしょ?)」という問に「イエス」と答えるには,リーマン・ブラザーズの負債総額64兆円を棒引きしても世界は崩壊しないということを示さなくてはなりません.しかし,そのためにはもう少し準備が必要です.

2021/05/16 22:21

馬場英治です.長文コメントありがとうございます.

マルクスの「労働時間」という用語に躓いておられるのではないでしょうか?労働者=人間,労働時間=時間=生命,生産=生命活動のように読み替えると多少マルクスの真意に近くなるのではないかと思います※.ただし,その人間としての活動を商品として売り渡してしまうしかないところに労働者の悲哀があります…これは現象的には,極貧の中で描かれた絵画が死後途方もない価格で売買されるなどと同曲の話です.クリエイターとかミュージシャンなどの場合も同じです.しかし,これはこの世が分業社会である以上ある程度避けられない面もあります.

※下田氏は「いくら大量の労働をつぎ込んだとしても、買い手がつかなければその価値が実現しない」ことを以って「労働価値説の問題」とされている.「労働(時間)」を「商品」として売り渡すしかないことは現実であり,「工場の機械」は「安く使える労働者」だが,「工場」や「機械」を含むすべての生産物が「労働の産物」であることにも疑いの余地はない.パートIIIの終わりでは「環境経済循環の生産者は植物のみである」という結論を得た.もちろん,この世のすべての「価値」を労働者が単独で作り出している訳ではないというのも事実ではある…

商業活動では製品を右から左に転売しているだけでなんの付加価値も付け加えていないように見えますが,「(実店舗の場合)そこに行けば買える」というのは付加価値であり,「(ネット通販の場合)スマホで注文できる」というのも付加価値です.ただし,商業の場合,店を開いていてもお客さんが来なければ一日お茶を引くことになりますから,「時間=生産価値」と見るのは多少無理があります.しかし,そういうロスタイムを含めて販売価格が決められているとしたら,ただ待っているだけの時間も生産活動の一部と見るべきかもしれません.

2021/05/18 0:41

生島さん

レスにはなっていませんが,頭の体操として読み飛ばしてください.ある時点で当事者数nのトランザクションm個が未決済になっています.このトランザクションを5厘玉1個あれば正しく計数できるということにご同意頂けるでしょうか?つまり,1単位の流動性(通貨)があれば任意個数の取引の決済を過不足なく実施可能であるという命題です.答えはもちろん,イエスですよね!ただし,このトランザクションは総体としてデフォルトを発生しないものと仮定します.

n個のノードがm個の枝(辺)で連結した有向グラフを考えます.ノードにはそれぞれ初期値(重み)V(i).wを与え,各枝(トランザクション)にも初期値(重み)E(j).wが与えられているとします.貨幣的取引行為は加法性を有するので,m個の枝のどこから計算し,どこで計算終了しても同じ結果になります.従って,任意の枝E(j)を取り出して決済(枝の重みE(j).wを枝の始点ノードVsの重みVs.wから減じて,枝の終点ノードVeの重みVe.wに加算)する操作を枝数分反復すればつねに一意の計算結果を得られます.ただし,この計算方式ではどこかでノードの重みが負になる可能性があります.これを避けるためには次のような方法(リスクの高いノードから片付ける)が考えられます.

まず,すべてのノードをスキャンして入次数ゼロのノードを見つけて,存在すればそのノードから出る枝をすべて処理します.もし,この時点でそのノードの重みが負になれば,このノードにおいて「デフォルト」が発生していることになります.ただし,このトランザクション総体ではデフォルトは発生しないと仮定しているので,そのようなことは起こらないとします.もし,入次数ゼロのノードが存在しない場合には(本当はどこからやってもよいのですが)入次数最小のノードを見つけてそのノードの入枝を「決済」することにします.

この計算では各トランザクションをシリアルに実行しているので必要な最小限の流動性は枝の最大重みということになりますが,各枝を1単位のマルチ枝に分割してやれば一度に移動する通貨量は1単位あればよいということになります.そんな計算方式は現実的ではないと思われるかもしれませんが,十分高速な通信網とコンピュータがあれば特に問題にはなりません.つまり,5厘玉1個あれば,この世界の「経済」を動かすことは論理的に可能です.さて,それではデフォルトが発生する可能性がある場合に,どう対処すればよいのか?

これに答えることは,おそらく,シズカちゃんの素朴な質問に答えることになるのではないかと思います.経済というのは結局において,トランザクションの総和ですから,数値的に必ず解析可能であると思います.トランザクションとは,ブロックチェーンにおけるブロックに他なりませんから,当然「グラスクリーンな統計」も可能であると思います.もちろん,この計算を並列実行することに問題はありませんが,少なくとも「計数の正しさ」という観点からは,流動性の多寡(数量)はまったく問題にはならないということをご理解ください.

馬場英治

2021/05/21 21:56

下田さま

>信用創造による自由な貨幣市場はそもそも原理的に存在しえない

「みんなのお金」シリーズの第5回~では,それと相反することを言われていたような気もします…先を急ぎたいので,この点はパスされても結構です.わたしの聞き間違えかも知れません.

>「利子」がなければ「貨幣市場(借金市場)」も存在しません。「利子率」を経済分析の中心に据える経済学というものは、いったい何なんでしょう?

利子率が投資収益率より高ければ余剰資金は貯蓄に向かい,そうでなければ投資に向かうというのが(多分)ケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論の解くところ(まだ読んでません)ですが,実際には(ほぼ)すべての資金は「投資(実物経済)」ではなく,「投機(金融経済)」に向かっています.マクロ経済学者は,なぜ貨幣流通量を極大まで増加させても物価が上昇しないのかという問の前に立ちあぐんでいますが,答えはあまりにも明瞭です.すなわち,金融経済と実物経済の絶望的な乖離ということに尽きます.

この状態が続けば所得格差の拡大は留まることを知らず,社会の活力は失われ,不安定性は不可避的に増大するでしょう.「グレート・リセット」とはこのような状態に終止符を打ち,新規巻き直して出直すしかないという「彼ら」の危機意識を示すものと考えられます.その脱出口が「公共貨幣」以外にないという認識は徐々に広まりつつあるように思われますが,わたしが「懸念」しているのは,そのこと(政府貨幣の発行)によって「価格形成のメカニズム」が毀損する可能性があるという点です.少し議論を巻き戻すと,

>「明示的な財政ファイナンス」やいわゆる「政府紙幣の発行」にたいして、「節度のない貨幣発行によって悪性のインフレを招く」という懸念が長年に渡り示され続けてきましたが、その懸念は、現行の「隠然たる財政ファイナンス」に対しても同様に示されるべきものです。

つまり,「隠然たる財政ファイナンスを続けてもさっぱりインフレにはならないではないか,これはつまり,政府紙幣の発行に対して長年示されてきた懸念には根拠がない」ということを主張されているものと理解しますが,わたしはこれに対し,

>しかし,同時に「隠然たる財政ファイナンス」に対する「懸念」はそのまま「明示的な財政ファイナンス」への懸念として残ります.

とお応えしました.ここで言う「わたしの懸念」とは,「制約のない政府貨幣発行によって価格形成のメカニズムが毀損する可能性がある」という点です.このような懸念を抱かざるを得ない事象は(隠然たる財政ファイナンスを実質的に行っている)現況の財政政策の元ですでに顕著に現れているというのがわたしの認識であり,強く危惧しているところです.「価格形成のメカニズム」についてはもう少し掘り下げる必要がありますが,ここでは問題を提起するに留めます.一つだけ付け加えておくと,高橋是清の財政再建は確かに成功しましたが,その後是清は殺害され(二・二六事件),日本は坂道を転がるように戦争への道を突き進みます.虎を野に放ったのは是清だったのではありませんか?

ここで,一旦「振り出し」に戻ることをお許しください.このセッションは,シズカちゃんの「万年筆マネーなら銀行は貸したお金が回収できなくても損はしませんね?!」という謎めいた問い掛けに始まりますが,この宿題にそろそろケリを付けなくてはなりません.

以前の投稿で,「ある時点で当事者数nのトランザクションm個を決済するためには5厘玉1個あれば十分である」ということを図解しました.グラフ理論ではあるノードから出て同じノードに戻る路を「閉路(サイクル,循環)」と言いますが,このグラフでは1個の5厘玉が同じノードを何度も通過することになるので,「経済とは貨幣循環である」ということが強く再確認できます.ここでは,さらにそれを進めて5厘玉1個すら必要ない.つまり,「流動性(通貨)」というものは「貨幣的取引」では不用であるということを示したいと思います.

前回と同じようにn個のノードがm個の枝(辺)で連結した有向グラフを考えます.このグラフのノードは1個の経済主体であり,その種別は問いません.つまり,このグラフには個人・商店・企業・銀行から政府までのあらゆるレベルの経済主体が参加することができます.

グラフの枝は1個の取引(トランザクション)を表しますが,この決済を実行する時点ではすでに物品・サービスの受け渡しは完了しているものと仮定すれば,1個の枝を処理することは枝の始点・終点ノード間の「債務」関係の精算と考えることができます.このような仮定を置いても,この手順の一般性は失われません.また,かなり重要なポイントですが,このことから,このグラフは物品の売買・サービスに伴う代価の支払いだけでなく,金銭貸借を含むすべての貨幣的取引(実物経済と金融経済)を同一の図式でカバーできることが確認できます.

各ノードにはそれぞれ初期値(重み)V(i).wを与え,各枝(トランザクション)にも初期値(重み)E(j).wが与えられているとします.貨幣的取引行為は加法性を有するので,m個の枝のどこから計算し,どこで計算終了しても同じ結果になりますが,今回は各ノードのすべての入枝と出枝をまとめて処理(グロス決済)する方法で行います.まず,任意のノードVを選択してそのノードに入るすべての枝の重みを加算します.次にそのノードから出るすべての枝の重みを加算します.この結果

ノードVの重み=Vの重み初期値+∑Vの入枝の重み-∑Vの出枝の重み

として計算されます.これをすべてのノードについて実行すれば計算完了です.この方式では明示的な資金移動はまったく行われず,単にノードの重みを更新するだけ,つまり,メッセージ交換だけで決済が完了します.(国際為替決済システムであるSWIFTは単なるメッセージ交換システムであり,実際の資金移動は行わないとされていますが,多分このような仕掛けになっているのでしょう.ソラミツにはSWIFTとの接続を経験した技術者がいるという話なのでお聞きしてみたいですね.CLS銀行では各国中央銀行に当座預金を持っています.)

このグラフのイメージを掴むためには,約束手形交換所のような「クリアリングハウス(精算所)」を考えればわかり易いかもしれません.この場合,グラフの枝は「約束手形」という文書つまり,メッセージです.銀行システムであればグラフの枝は「振替指示書」というメッセージになります.約束手形交換所で一日一回の精算が実施されるとすれば,「時点」は1日を単位とする時間軸上でスケジュールされます.もちろん,これを一週間に一度としても,あるいは一時間に一度,一分間に一度,ないし毎秒あるいはそれ以上(リアルタイム)に高速化したとしても論理的にはなんら異なるところはありません.

この計算が完了したときに,ノードの重みが負になった場合にはそのノードは「デフォルト」したということになります.通常このようなデフォルトは初回は許容されますが,6ヶ月以内にもう一度デフォルトした場合には,システムからパージ(取引停止処分)されることになるでしょう.ここではデフォルトが発生した時点で直ちにパージされるものとします.さて,このようなデフォルトが発生したときに「場」では何が起こるのかを見てみることにしましょう.最初に仮定したように,すべての物品・サービスの受け渡しはすでに完了しているので,物的な対価物の再移動(巻き戻し)は実施されないとします.デフォルトしたノードを除外した生き残りノード(サバイバルノード)の重みを合算すると,

場の重み=∑サバイバルノードの重み=初期状態の場の重み+デフォルトノードの負債残高

となり,場の重み合計は決済開始前よりも増加しています!場の重みとはこの閉じた経済システム全体が保有する(金融)資産と考えられますが,それが「デフォルトの発生」により増加するということが起きています.mmm…何か不思議ですね!?では,次の問に答えてください.①この資産増加は誰によってもたらされたのか?②資産増加が利得と考えられるとしたらその利得は誰にどのように配分されているのか?

2021/05/22 20:16

下田さん

早速のご回答ありがとうございます.必ずしも題意に即したものにはなっていないような気もしますが,当たらずと言えども遠からずと言ったところでしょうか?下図はサム・ロイドの「消える妖精(TheVanishingLeprechaun)」という「騙し絵」を頭の高さで並び替えてGIFアニメ化したものですが,(クリックすると)最初14人だった小人が13人に減ったり,15人に増えたりします.

サム・ロイドの消える妖精

この図では全体の身長の総和は同じなのに人数が増減します.本題のグラフでは資金総額は決済の前後では不変ですから,デフォルトノードの負債がチャラになった時点で資金総額が増えたことになります.しかし,精算自体はノーマルに実施されているはずですから,「特別に得をした人」は見当たりません.では誰が得をしたのか?と言えば,残債をチャラにしてもらったデフォルトノードということになるのでしょう.ではその資金は誰が拠出したのかと言えば,場を仕切っている「胴元(親)」と考えられます.

このカジノ(賭場も一種のクリアリングハウスとみなします)の胴元は,箱天になったノードの決済を続けるためには,チップをそのノードに貸し付ける必要があります.このチップの「発行」によってシニョリッジ(通貨発行益)が発生します.実際には数値を記帳するだけですが,決済完了後,デフォルトしたノードの重み(負債)のマイナス値をゼロにリセットしたタイミングでその金額相当の「信用創造」がなされたと考えられます.通常の世界では誰かが破産した場合には,債権者会議などが招集され残資産をどう配分するかというややこしい手続きが発生しますが(しかも,その結末はすべての参加者に不満を残すものとなる),ここではそのような混乱もなくすべての人が損も得もない状態で滑らかに経済を再始動させることができます.

通常はここでデフォルトノードは退場することになりますが,そのままゲームを続行することも不可能ではありません.リアルな金融界でも6ヶ月以内にもう一度デフォルトしなければ留まり続けることが可能であり,デフォルト即退場というものではありません.(悪質なプレーヤであれば退場処分も当然かもしれませんが,すべてのプレーヤは合理的な判断のもとに善意を持って行動しているものと仮定します)胴元(親)が信用創造できる経済システムではデフォルトが発生してもつねにそれを円滑に解決することが可能と言えます.実際のところ,累積国債を政府貨幣で一掃するという「公共貨幣システムへの移行スキーム」は,この「マジック」の壮大な実演に他なりません.

リーマンショックのような金融危機が発生したときには,政府が国債を発行して巨額ベールアウト(尻拭い)資金を調達し破産企業を救済するようなことが起こりますが,そのような不公正な措置に反対する国民や議会をなんとか説得しなくてはなりません.そのために「あとどのくらい不良債権が隠れているか分からない」と言って恐怖を煽り立て,「Too Big to Fail」というおまじないで無理やり信じ込ませようとします.不良債権は発生した時点で粛々と処理すればよいというだけで,「ある人の負債はある人の資産」ですから(放置しておいても)経済環境には影響を与えません.バブル崩壊時の政府(財務省)の取った金融政策上の最大の誤りは,スタート時における「損金処理を5年間先送り」するという行政指導にあったのではないかと考えています.

この最初の躓きが「失われた10年」をもたらし,さらに20年,30年と尾を引いて今に続きます.債権者との協議が整い,「もう一度ゼロからやり直そう」としても,5年間は(帳簿上の)負債を消すことができないとしたら,事業再建の見込みはありません.もし,その5年間で事業が順調に伸びたとしても,弁済でそっくり吹っ飛んでしまうのでは事業意欲は消し飛んでしまいます.この5年が経過したあと元の事業を復活させることができるでしょうか?多分見込みはないと思います.

ちょっとはぐらかしという感はあるかもしれませんが,一応これをもってシズカちゃんの謎々に答えたということにしたいと思います.

馬場英治

2021/05/24 15:25

下田さん、ご応答ありがとうございます。事情により、現在PCOS再インストールを行っているところです。いましばらくのご猶予を賜りますれば、幸甚です。

2021/06/03 21:31

下田さん,生島さん:返信が遅れてしまったことをお詫び申し上げます.何とか収まりましたので続けさせて頂きます.

>下田:どうも腑に落ちない部分があるので、

と思われるのはごもっともなことと思います.わたしの論がきわめて「アバウト」なもので,厳密性を欠くところがあることは自覚しております.他人の書いた「誤りを含む証明」を読むことが苦痛以外のなにものでもないことも承知しております.さらに悪いことには,わたし自身なにか確としたこと(お伝えすべき知識/理論)を持ち合わせている訳でもありません.通常,物理学(自然科学)の世界では「仮説」を立ててそれを「実証」するために「実験」を行いますが,わたしが試している「思考実験」は,一種のシミュレーションのようなもので,そのモデルの挙動(どのように振る舞うか)をあらかじめ仮定/想定した上で行っているものではないということをご了解ください.

「レスにはなっていませんが,頭の体操として読み飛ばしてください」では,「1単位の流動性(通貨)があれば任意個数の取引の決済を過不足なく実施可能である」という命題の証明を試みました.さらに,それを敷衍して,「グラフ理論ではあるノードから出て同じノードに戻る路を閉路(サイクル,循環)と言いますが,このグラフでは1個の5厘玉が同じノードを何度も通過することになるので,経済とは貨幣循環であるということが強く再確認できます.」と述べていますが,この辺りもかなりアバウトなところですので,少し補足しておきたいと思います.

このグラフのノードは独立の経済主体で,ノードをつなぐ枝は1個の貨幣的取引を示すものであるとします.ノードないし枝(辺)が重みを持つグラフは一般にネットワークと呼ばれますが,以下ではこのグラフ(システム)をエコシステム(経済循環系)と呼ぶことにしましょう.ここでは前回と同じように重みwの枝をw本の多重枝に分割した多重グラフGを考えます.このような系(システム)がエコロジカルに持続可能(完全経済循環系)であるための条件は,Gが有向オイラー閉路を持つ,つまり,「一筆書き可能」であることであると言えます.

グラフGが有向オイラー閉路を持つための条件は,すべてのノードで入次数=出次数となることであることは知られていますから,結局,すべてのノードの入枝の重みの和と出枝の重みの和が等しいことがその条件であるということが分かります.言い換えると,エコロジカルに持続可能な経済循環系が成立するための条件は,すべてのノードの収入と支出が等しい(持ち分の増減がない状態)という単純な図式に帰着します.

収入 = 支出

というのは会計学的には必ずしも特殊(例外的)な条件/事象ではありません.むしろ,健全な家計では支出を収入の範囲に抑えることが目標(というより必須)であり,これは国家の歳入と歳出の関係にも妥当します.「江戸っ子は宵越しの金を持たない」というのはこれを別の言葉で表現したものです(この金離れの良さが百万都市江戸の経済的基盤であったとも言えます).しかし,たとえば,国家間の貿易収支の場合には輸出額と輸入額がバランスするということはむしろ稀であり,一方が輸出超過になれば,他方で輸入超過が発生することは避けられません.(輸入超過分を関税で補うという策はあり得ません.賦課された関税は結局輸入価格に転化され内国民が負担することになります.)

同様に外部経済に移出できる産品の少ない地域/地方が移入超過になることは避けられず,貧乏県/富裕都府県や貧困/過疎地域などの発生もほとんど不可避と見るしかありません.出稼ぎは住民が外部経済に進出して「外貨」を稼ぐための手段※,観光は逆に外部住民を呼び込んで「外貨」を獲得する方策ですが,外部資本の誘致(投資)は一時的には「外資」を取り込むことにはなっても最終的には持ち出しになるというのがありふれたパターンです.もちろんそれが,経済活性化の起爆剤になることもあり得ますが…

※もちろん地方住民は「地域経済の移入超過を解決するため」に県境をまたいで長距離通勤しているつもりもないし,「自国の外貨不足を補うため」に家族を置いて海外に出稼ぎに出る訳でもありません.まして,「異国に売られた少女たち」がそのことを自覚するはずもありません…

わたし自身が「腑に落ちない」ところというのは,ご指摘にもある「デフォルトノードの負の残高」とはなにか?という点です.明らかにこれは「負債」ではありません.負債となるのは場主(システム本体)がデフォルトノードの負の残高をチャラにした場合にのみ発生します.各ノードの重みを「資産」と位置付けるとすれば,負の資産なのだから「負債」だろうということになると思いますが,一般の金銭貸借における「債務」とここで言う「負の資産」は区別されなくてはならないのではないかと考えています.(一般の商行為としての「取引」の場合も,物品の受け渡しが完了済という条件のもとでは支払い義務=債務です)

PS:獏とした予想ですが,この議論を延長すると最終的には「準備率100%論の否定(準備金は負になってもよい)」から「シニョリッジの全否定」に至るような気がしています(公共貨幣論がシニョリッジの国家独占を意味するものであるとしたら,再考を求められることになるでしょう).もしそれが,中央銀行システムの倒壊を意味するのであるとすれば,それは第二次バベルの塔の崩壊のような事態をもたらすものであるかもしれません.言語」と「通貨」は「領土」や「国民」と並ぶ国家の主要ファクタと言えますが,バベルの塔1.0で起きたようなことが,バベルの塔2.0で起こる可能性は十分あると見ています.「主はそこで,全地の言葉を乱し,そこから人を全地に散らされ」ました.

2021/06/04 20:00

下田さん,お付き合い頂きありがとうございます.

>ご提示いただいているグラフ理論では貨幣にかかわる経済問題は解けない、

もちろん,この簡単な図1枚ですべての経済問題が説明可能であるとは思っておりません.

>確かに「負の残高」は、会計でいうところの「負債」でもなく、法律でいうところの「債務」でもありません。それは単なる「数の減少」です。

この部分がおそらく,この議論の肝ではないかと思います.

>もし、「重み(貨幣)」を支払い手段と考えれば、逆方向に商品が移動していることを想定しなくてはなりません。これは、いわば等価交換であり、複式簿記の考え方になります。

この考え方は,「負債」の場合にも適用可能です.「負債」の場合には,貨幣の移動方向と逆向きに「債務証書」が移動します.これを一種の「商品」と捉えればまったく等価な図式で説明可能です.「利息」の支払いはこれとは別に「金融サービス」への対価としての商行為(別取引)とみなすこともできます.

>ここで、もし「負債」というものを考えるならば、商流と貨幣移動のタイムラグを考えなければなりません。モノが移動したにもかかわらず、貨幣による支払いがなされていないことによって「負債」が発生します。このような現実を、ご提示いただいたノード理論では表現できないものと思います。

わたしがこの図によって(説明/考察を)意図している範囲では,貸借関係と売買関係を同一図式で示すことが可能であると考えますが,もちろん,それだけでは説明しきれない部分は残ります.もっとも決定的な点は商行為の場合には一回の決済で取引が完結するのに対し,貸借関係は弁済完了するまでは完結しないというところにあります.このような特異性(時間遅延)は例示したグラフでは表現することはできません(時間を導入することは可能ですが,あまり明快とは言えません).

「金融に関わる諸問題」を考察するためには,少なくとも,①貯蓄,②貸付,③利子の三つの要素を導入する必要がありますが,わたしにはまだそこまでの用意がありません.しかし,当面の課題に当たっては当初の図式を多少詳細化すれば足りるのではないかと考えています.

それに掛かる前に,蛇足となるかもしれませんが,(ダメ押しとして)「負の残高」に関わるもう一つの図式を提示することをお許しください.これまで通り,独立の経済主体をノードとし,一個の取引を枝とする重み付き有向グラフ(ネットワーク)を考えます.ただし,今回はすべてのノードの重みはゼロで初期化されます.計算方式は前回と同様各ノードごとのグロス決済の方法で実施します.つまり,各ノードの入枝の重みの和と出枝の重みの和の差分をノードの重みに加算します.

これをすべてのノードに関して実行することで「時点」における決済は完了します.この結果,あるノードの重みは正の値を持ち,他のノードの重みはマイナスとなりますが,すべてのノードの重みの合計はゼロのまま変化しません.「決済方式」としてはこれで完結している(完全である)と考えるのですが,いかがでしょうか?

以下ではノードの重みを「持ち分」,枝の重みを「移動量」と表記することにします.「持ち分」は±∞の任意の値を取ることができるものとします.「移動量」はつねに正の整数値であると仮定します.また,ノードには持ち分の他に,「債務」という項目を設けます.枝には-10+1の値を持つ「フラグ」を設置します.つまり,ノードは(持ち分,債務)の対として表示され,枝は(移動量,フラグ)の対として表示されます.一つの取引(トランザクション)はブロックチェーン上では一個のブロックとみなすことができるので,ブロックに記載される項目が二つ追加されたと見ることもできます.

通常の商行為における決済では枝は(商品価格,0)のように表記され,貸付では(貸付金額,+1)のように表記します.返済では(返済金額,-1)のようになります.「送金」のように商品の移動を伴わない貨幣移動もフラグ0として(送金額,0)のように表示します.フラグがゼロであるということはその決済がその時点において完結していることを意味します.決済の実行時には,「持ち分」の計算はこれまで通りの方法で実施されますが,別途「債務」に関わる計算を実行します.「債務」の初期値は上例にならってゼロとします.

ノードの債務 = 債務 + ∑入枝のフラグが+の移動量
          - ∑出枝のフラグがの移動量

「売り掛け」のように金銭の移動を伴わない債務の発生はこの図式では表現できないので,当決済システムの範囲外の商慣行とみなされますが,もし必要なら次のようにアレンジすることも不可能ではありません.①売り掛けの場合の枝を(-売掛金額,+1)とする.②枝の(移動量)が負の場合には資金移動は行わない.③売掛金額を売却先の債務に加算する.上記では「移動量はつねに正の整数値であると仮定」していますが,この場合は「移動量=正(資金移動あり)ないし負の整数値(資金移動なし)」となります.

さて,これで一応準備は整ったのではないかと思います.グラフ上ノードの「持ち分」残高と「債務」残高には相関はないと考えるのですが,いかがでしょうか※?仮に「債務」の弁済でデフォルトが起きたとしても,それは(個別当事者間の)法律上の「取り立て」の問題であり,決済システムの(健全性に関わる)問題ではないと考えているのですが…

※「決済」に関わる計算を計算1,「債務」に関わる計算を計算2とすると,計算2を新たに導入するときに計算1はまったく方式変更されていないから,計算1と計算2がまったく独立な計算であることは明らか.つまり,「資金の移動=債務精算」の実務と「債務弁済の履行/不履行」の裁定は次元の異なる事象である.

2021/06/06 2:17

下田さん,応答ありがとうございます.

>ご提示いただいたモデルに、全体的な理論的整合性はあると思いますが、これで経済の現実が説明できる気がしません。

これが「経済の現実を説明する図」になっていないというのはおっしゃる通りです.ただし,それはボイルの法則を満たす「理想気体」のようなものはどこにも存在しないという意味での「説明できない」であり,むしろ,「本質的な意味での説明」にはなっているのではないかと考えています.これに関しては後述します.

>たとえば最も単純な例として、ノードAがノードBにリンゴを現金100円で販売する場合は、このモデルではどう表現されるのでしょうか。

痛いところを突かれましたね!想定外,というか,その点こそこの図面の「肝の肝」であり,最重要なポイントです.もともとこの図式は「決済システム」を対象とするもので,CBDCが発行された近未来において現金が消滅した状態を想定して描かれています.「現金取引」はこの「決済システム」の守備範囲外であり,ある意味でこの「経済圏」の外部であると考えるしかありません.というのは,一度発行された「現金」は発行者のコントロールを完全に離脱して,何がどこにいくらあるのかも分からないという状態になってしまうからです.これは本質的に物々交換と同様の「相対取引」であり,第三者の立ち入る余地はありません.

ただし,図式的には「現金取引」を導入すること自体が難しいというわけでもありません.このグラフの構成要素は①ノード(独立の経済主体)と②枝(貨幣的取引)の2つしかありませんから,任意の2点(ノード)を枝で連結すれば「現金取引」を表示したことになります.この枝の「属性」と取引の「ルール」に関しては補足が必要ですが,それほど難しいものではありません.この図面の難しさは別のところにあります.以前フォーラムに提示した図版を再掲してみます.

日銀マネー循環図

この図面では右上の「国民」という楕円に「キャッシュ循環」というラベルが付けてありますが,C1というラベルの付いた円の右肩にある「現金取引」という「自己ループ」がそれ(現金取引)を表示しているところです.この図版「日銀マネー循環図」は「概念図」であり,その中にはかなりの「省略」があります.たとえば,「国民」から「政府」には「歳入」という矢印が付いていますが,これは実際の取引/決済を大幅に省略したものであり,本来なら,「国民」→「銀行」→「日銀」→「政府」という経路を辿らなくてはならないところを(わかり易さを優先して)「国民」→「政府」のように直結で描いています.

しかし,今回の「経済循環系」グラフではある種の「システム設計」のようなことを意図している訳ですから,もっと厳密な(省略なしの)記述でなければなりません.どうなるか,試して見ましょう.

まず,手始めに物々交換モデルというのを考えてみます.下田さんは「物々交換が歴史上存在したという事実はない」との見方をされていると思いますが,たとえば,米や衣が租税公課の納付に用いられたなどの事例もありますので,一応ご同意頂けるものと思います.グラフのノードは独立の経済主体,枝は交換取引であるとします.これまでの図では有向グラフが使われましたが,物々交換では枝の向き(通貨の移動方向を示す)のない無向グラフとして描画します.

この物々交換では任意の産物が交換されますが,対象物が「蓄蔵財」と認められる場合には枝に矢印を付してその移動方向を示します.蓄蔵財には,米,衣,宝玉,貝殻などが該当します.この蓄蔵財が「鋳貨」に置き換わった時点でグラフ全体は有向グラフになり「鋳貨経済循環系」が完成します.ただし,この時点では「鋳貨」の発行者は不明です.

和同開珎が本邦初の鋳造貨幣と言われますが,それ以前にも無文銀銭,富本銭などの私銭が使われていました.また,皇朝十二銭が廃れたあとに流通した宋銭,元銭,明銭などはすべて輸入通貨(外貨)であり,内国的には発行者不明に近いものと言えます.

このグラフに欠けている「通貨発行者」をグラフに明示的に追加したものが次の「公鋳貨経済循環系」になりますが,追加されるのは発行者ノード1個で「鋳貨経済循環系」と大きく変わるものではありません.「経済循環系」は「経済」に他なりませんから,このことは,「発行者」が他の当事者ノードと同等の「(鋳貨)供給者」以外の何者でもないということを示しています.ここで一気に発券銀行システム(銀行経済循環系)にジャンプするのですが,どうしたらよいでしょうか?

これまで描写してきた「銀行経済循環系」には(中央)銀行は当事者(独立の経済主体)として現れていません.これは非常に重要なポイントで,中央銀行経済主体(システムを構成するノード)ではなく,「決済システムそのもの」と考えられるからです.しかし,「経済の現実を説明する」ためにはそれを避けることはできません.

やってみます.まず,既成の「銀行経済循環系」に「現金取引」の枝を追加します.これは単にいくつか/ほとんどのノードを矢線で結ぶだけですが,既存取引と区別するために「赤線」で描画することにします.(色が異なるということは2種の貨幣が併用されていることに当たるとご理解頂いても結構です)さて,問題はその「現金通貨」をどうやって供給するか?という点です.

まず,このシステム全体を囲む大きな円を描きます.これは中央銀行=中銀決済システムを表しています.次に,円の内部にあるノード(経済主体)と外部円周上の点の最短距離を結ぶ線分(枝)を描いて,それに矢印を付加します.円周からノードに向かう枝は中銀からの出金,ノードから円周に向かう枝は中銀への入金を示します.次に,この円周の内部にあるすべてのノードを各点を連結した状態のまま,円周の外に放り出します.円周の内部が空っぽになったら,円の直径を縮小して1点になるまで縮約します.これでシステム全体であり,同時に当事者ノードでもある中央銀行をグラフに追加することができました.

この図面はお求めの「現金取引を含む銀行経済循環系」つまり,「現実経済の表式」になっているのではないでしょうか?

※「現金取引を含む銀行経済循環系」とは「システムそれ自体が当事者となっているようなシステム」と要約できる.「中央銀行システム」がなぜ,「私企業の国際シンジケートのような形態を取っているのか?」という疑問は,上記のような銀行システムの成り立ちを考えれば理解できる.我々が考えている「近未来的貨幣循環システム」では「現金」は廃止され,中央銀行は完全に経済中立な存在に変容する.この意味では「金本位制への復帰」というコースはレーンの逆走のように見える.

2021/06/06 22:22

下田さん,

前便の続きです.前便では4つの経済モデルを提示して,経済循環系グラフに「現金取引」を導入することを試みました.

  1. 物々交換モデル
  2. 私銭経済循環系
  3. 公銭経済循環系
  4. 銀行経済循環系

物々交換モデルは基本的に1対1の現物交換であり,対象物は通常そのまま消費されるので,「経済循環」は発生していないか未発達の段階と考えられます.私銭経済循環系は交換媒体として蓄蔵財が用いられる段階から貨幣経済に移行する中間的段階で,交換媒体としての鋳貨にはまだコモデティの性格が残っているため,大量の購買者(仕入れ)にはディスカウントするなどのことがあったとも考えられます.公銭経済循環系に至ってようやく貨幣発行者の権限が確立し,その強制によって貨幣価値の安定が実現します.この段階における鋳貨発行では発行者はつねにシニョリッジ(通貨発行益)の獲得が可能です.

「シニョリッジ」の獲得と「発行者」が貨幣的取引(売買)に直接参画していることとは密接な関係があります.「銀行経済循環系」では「発行者」は実物経済に対してニュートラルであることを[建前上]要求されるため,たとえば,発行銀行券によって「金」などを直接買い込むようなことは[通常]ありませんが,例外的に認められている範囲で発行銀行券を用いた「売買行為」を行うことができます.

2021/06/21 1:22

生島さん,済みません.このところメールチェックしてませんでした.

>以下でコメントさせていただきますが、それ以外は大体、下田さん、馬場さんと合意できると思っています。

アプローチはそれぞれ異なりますが,ベクトルは大筋一致しているのではないかと思います.前便(生島:2021/06/039:44)にまだ返信してませんでしたね…大いに触発されるところがあるのですが,要点だけ

>個人的にはバックキャスティングで社会問題を考えることの重要性が定着してきているところが嬉しいです。

「バックキャスティング」という言葉自体わたし的には初見でした(わたしは浦島太郎です…).そんなつもりで始めたのではないのですが,いつの間にかとんでもないところに出てしまったというのが実感です.

>オープンにして仲間を集める戦略これがUNIX出現以降の大きな流れです。

そうですね.「オープンイノベーション」で動き出したプレートテクトニクスはもう止まりません.

>従って私の「次世代貨幣システムの考察」は
(1)
マネタリーベース決定機構の設置
(2)
与信決定組織
の2階建て構造となっています。

わたしの感触では第一層は「完全に経済社会ニュートラルな貨幣システム」なのではないかという気がしています.完全ニュートラルな貨幣システムというのは,貨幣発行者(貨幣システムそれ自体)がいかなる貨幣的取引(売買・貸出)にも関わらないようなシステムです.このシステムではシニョリッジ(通貨発行益)という言葉は死語になります.

>ただ実際は「制約のない信用創造」が問題では無いでしょうか?

「経済」を「実体経済」と「金融経済」に分割したとき,実体経済は現状でも(様々な問題があるにしても,おおむね)健全であると見ています.これは実体経済が基本的に事物の有限性という制約を持っているためと考えられます.金融経済の最大の問題はこの「制約がない」,逆に言えば「無限性を有している」という点にあります.貨幣の物神化」はこの貨幣(流通量/所有量)の無限性と関わりがあります.下田さんの用語で言えば「妖怪マネー」という現象に現れるような問題です.この意味で主流経済学の最大の誤りは「貨幣数量説」にあると考えられますが,すでに現実界において(理論的に)破綻しています.

>原因は色々ありますが、「ミクロ経済」的には90年代初頭ですでに半導体では韓国に負けており、それ以前のCPU革命で汎用機からワークステーションのイノベーションができなかったわけですね。...そのベースはソフトウエア開発を蔑ろにしたところにあります。

同感です.(ただし,我々にも一半の責任はあるように感じています)

>多重下請け構造はモラル、法の甘さを指摘され、欧米からも批判されています。

(今回のパンデミックを巡る顛末を見ても)目を覆うような惨状(グロテスク)と言うしかありません.

>イノベーションで負けたら、今の産業にしがみついて、行くとこまで行くという戦術はわかります。

いま,それをトヨタがやっていますが.「今の産業にしがみついて」というより,「今の産業を守りながら」という立ち位置は基本的に正しいと思います.「イノベーションで負けた」というより,「国際的な策謀の渦」の只中にあると言うべきかも知れません.

>私はこの根治には、現状のフィードバック制御、すなわち、問題が起こってから対応する制御ではなく、フィードフォーワード制御、すなわち、問題が現れる前に検知し、前もってその影響を極力なくすように必要な修正動作を行う制御方式にすることだと思っています.

「経済循環系グラフ」の各ノードの「持ち分(equity, 重み)」が負になることを認めると,このシステムでは原理的にデフォルトが発生しなくなります(つまり,永続システムになる).ただし,それが成立するためにはすべての取引が「ノーマル」なものであるということを仮定する必要があります.逆に言えば,あるノードの持ち分が[恒常的に]マイナスになった場合には,なんらかのアノマリー(異常)が起きている「兆候」と推定されるので,システムの健全性を維持するためにはその原因を「診断」する必要があるでしょう.これは一種の医療行為に相当するのではないかと思いますが,「資格を持った医師」がその「経済主体」の脈を取って「死亡」と診断した場合にはそのノードはシステムから除去されることになるのではないでしょうか?

反緊縮論者の言い分を「経済循環系グラフ」の観点から解釈すると『政府(だけ)は持ち分マイナスとなることを認める』のように理解することも可能です.もちろん,前提として国家国民経済共同体)は永続するという仮定を置いた上で,ですが…つまり,「自国通貨建ての国債を発行する政府財政は破綻しない」のではなく,「国民経済循環系では政府は永続経済主体となる/定義される」ということになります.

一般取引税(電子的実取引税/ユニフォーム税率)の導入によってPB(プライマリバランス)を維持することはつねに可能

というのが現在のわたしの立ち位置ですが,これは政府財政にも何らかの「制約」が必要であることを含意します.

>まさに放っておくと、バベルの塔を実際作って消滅する危惧が現在語られているのだと思います。信用創造による、無秩序な生産でしょう。

わたしがバベルの塔2.0として想定しているのは,具体的には「国際シンジケートとしての中央銀行システム」が倒壊し,無数の私的疑似貨幣システムが跳梁・跋扈するような光景です.すでにBTCを法貨として公式認定する国家も現れているし(エルサルバドル),GAFAを始めとするグローバル企業は着々と私的デジタル通貨の発行を準備しています.国内的には政府は「電子マネー」を容認どころか,奨励しているように思われる節もあり,「地域通貨」は(わたしの町を含め)広域に叢生・拡散しています.基軸通貨のドルが崩壊し,デジタル人民元,デジタルユーロなどに分極化(ブロック化)する可能性もあります.

>個人的に、は流体力学モデルが良いのではと思っています。
しかし、質量保存などの保存則が無いわけですね。これが経済、お金の難しいところです。

「経済循環系グラフ」では原則「流通貨幣総量は不変」なので,保存則が成立します.そこでは「流通量」に変わる指標として「流通速度」が重視されるようになるので「流体力学モデル」でよいのではないでしょうか?電子回路モデルという提案もありますが,むしろ量子モデルの方が適合性がよいかも知れません…

グラフのデータ表現として,①接続リスト(隣接リスト,枝リスト)と②接続行列(隣接行列)があります.ブロックチェーンの「ブロック」は「経済循環系グラフ」の「枝(辺)」に相当するので,ブロックチェーン=接続リストと見ることができますが,この同じグラフをマトリックス(接続行列)として表現することでGDPの集計に使うことができます.いや,まだやってないので,多分…

2021/06/28 1:44

生島さん,下田さん

どうも思いもかけず長丁場になってしまいましたが,いましばらくお付き合いのほどお願い申し上げます.ここまでの議論におけるわたしなりの結論はすでに出ています.つまり,

『貨幣発行者はその経済循環系に対し,完全ニュートラルでなければならない.貨幣発行者(貨幣システムそれ自体)はいかなる貨幣的取引(売買・貸出)にも関わるべきではない』

というのがその結論です.現行金融システム(中央銀行システム)の動態を観察すれば,レフリーがサッカー場の真ん中に踊り込んでボールを蹴っているような「ほとんどマンガ」になってしまっていることが容易に認められます.「コンナ試合アリ得ナイ」ような情況と言って過言ではありません.貨幣循環システムが物理的に存続するためにはその「コスト」を支弁するなんらかの「経済活動」が必要だろうという異論はあり得ると思いますが,システムのランニングコストをシステム参加者が公平に分担するルールを定めることは難しくありません.

古典派経済学のセントラル・ドグマの一つに「貨幣中立論」があります.貨幣の総流通量は経済活動とは無関係な名目的数量(数値)に過ぎないので,仮に経済活動に(貨幣錯覚に起因する)短期的な影響を与えることがあったとしても,長期的には貨幣の中立性は成立するという考え方です.これに対し,上記の「貨幣発行者の中立」という命題は古典的貨幣中立論のような経済「法則」ではなく,近未来における貨幣循環システムにおいて初めて実現されるべき準則(ゲームのルール)です.

ここでは,両者を区別するために「近未来的貨幣中立論」と呼ぶことにします.近未来的としているのはこのシステムが実現されるためには,少なくとも通貨のデジタル化と現金の廃止が必須条件と考えられるからです.あらゆる兆候から見て現在の貨幣システムがその方向に向かっていることは間違いありません.

「近未来的貨幣中立論」の世界では
    近現代的意味における「中央銀行」の役割は終了する

中央銀行が行っているあらゆる金融政策は基本的には貨幣流通量を操作することによって実施されますが,それらの操作はすべて「貨幣的取引」のカテゴリに落ちるものであるからです.つまり,「中央銀行としてやることは何もない」という状況になると推定されます.中央銀行の機能はほぼ(AIによってコントロールされる)完全自動システムによって代替されると見てよいでしょう.

実際,すでに実稼働しているビットコインなどの分散型金融システムは概ねそのような原理で構築されています.持続可能な近未来貨幣循環システムでは原則として通貨流通量には変化がありません(適正規模というのはあると思いますが…).従って,一斤のパンを購入するために手押し車一台分の札束を運ばなくてはならないような状況(ハイパーインフレーション)も原理的に発生しないと考えられます.

近未来貨幣循環システムでは通貨の流量調整(景気循環の調整)
は,通貨流通量ではなく(金利操作も実質的には通貨流通量の
調整によって行われる),貨幣流通速度に着目して実施される

これまでの議論で,流通通貨の総量は経済循環系の作動には影響しないということはご理解頂けたのではないかと思いますが,念のため,物価が2倍になったときのモデルを提示してそのことを確認しておきたいと思います.これまで通り,独立の経済主体をノードとし,一個の取引を枝とする重み付き有向グラフ(ネットワーク)を考えます.すべてのノードには重みの初期値として「持ち分」が割り当てられているものとします.計算方式はこれまでと同様各ノードごとのグロス決済の方法で実施します.つまり,各ノードの入枝の重みの和と出枝の重みの和の差分をノードの重みに加算します.これをすべてのノードに関して実行することで「時点」における決済は完了します.

この取引にはすべての「金融取引」と「商品・サービス取引」が含まれるので,この経済循環系グラフは一個の「閉じた経済」を表現するものになっています.ここですべての「物価」が2倍になったと仮定しましょう.そのような状況を反映するために,シナリオを単純化して,①すべての取引は前回と同じ取引内容を模倣する,②すべての取引でその取引額(重み)を2倍にしてどうなるかを見ることにします.

前回時点と今回時点における相違は「枝の重み(通貨移動量)」だけであり,各ノードの「(現時点における)持ち分」には影響しないことにご留意ください.つまり,「価格変動」が経済主体の「持ち分」にも,その合計である流通通貨総量にも影響しないことは明らかです.この「膨張した取引」が前回同様(同じステップ数で)なんの問題もなく完了できることも説明を要しないと思われます.

(現金がからむと「物理的な紙幣の輸送」という問題が発生するため,これほど単純なものにはなりませんが,原理的には同じです.ただし,我々は「現金」は進化の途上で退化すべき「しっぽ」のようなものと考えているので,ここではこれ以上追求しません.もし,どうしても「現金」を残す必要があると言うのであれば,現金とデジタル通貨の二貨制まで考える必要があるかもしれません…)

2回目の決済では取引決済額の総量は2倍になっていますが,決済完了した時点でも通貨総量が変化していないことはご理解頂けるものと思います.何が変化しているかと言えば「通貨流通速度」が2倍になったということだけです.2回目の計算によって各ノードの持ち分は変化しますが,それぞれの初期値が異なるので持ち分が単純に2倍になるようなことはもちろんありませんが,物価(取引額)が2倍になっているのに「持ち分の合計」が同じというのはある意味不思議な気がしないでもありません.

経済学ではこのような一種の「騙し絵」のようなものが至るところに出現します.本論では流通通貨の総量は一定であることを仮定していますが,もし,総量の変化があるとすれば,そのようなシステムでは流通通貨の総量は一種の「光学的な解像度」の意味合いに転化するものと考えられます.ある経済循環システムにおいて所得格差が拡大傾向にある場合には,「小さな点(貧困層の経済活動)」を見るためにはより大きな解像度が必要になります.逆に言えば,

通貨流通総量が過剰に増大している経済では
       所得格差が広がっていると見てほぼ間違いない

のではないでしょうか?(貧民が虫けらのように,もっと言えばバイキンのように小さく見える世界を想像してください)

貨幣の流通速度」という概念はフィッシャーの交換方程式に登場します.Wikiからそのまま引用すると,

MV PQ (1

  • M はある期間中の任意の時点tにおける流通貨幣(通貨)の総量
  • V は貨幣の流通速度(特定期間内に人々のあいだで受け渡しされる回数:貨幣の回転率のようなもの)売買契約の約定回数
  • P はある期間中の任意の時点tにおける物価水準(通常は基準年度を1としたデフレータ)
  • Q 取引量(特定期間内に人々のあいだで行われる取引量の合計)

上式はつねに恒等的に成立するものと考えられますが,V(流通速度)の「特定期間内に人々のあいだで受け渡しされる回数:貨幣の回転率のようなもの,売買契約の約定回数」という説明にはかなりあいまいなところがあり,Wikiにはそれに対する疑義が述べられていますので(興味があれば)チェックしてみてください.これと似た式として,マーシャルの現金残高方程式(ケンブリッジ方程式)というのがあります.

M kPY (2

  • M はある期間中の任意の時点 t における現金残高(=ストック)
  • k は比例定数で、マーシャルのkと呼ばれる
  • P はある期間中の任意の時点 t における物価水準(通常は基準年度を1としたデフレータ)
  • Y は実質GDP

以下ではMを(便宜的に)マネーストックと読み替えます.2つの方程式の大きな違いは,右辺のPQPYに変わっている点です※.Qは累計取引額,Yは実質GDPでどちらも実質値ですが,Qには中間生成物の価格(付加価値)が含まれているためQYという関係があります.※

Towards a New Monetary Paradigm : A Quantity Theorem of Disaggregated Credit, with Evidence from Japan」[Werner,Richard A., 1997]には,MV = PYのような式が出てくる.この式のVとフィッシャーの交換方程式のVとは明らかに(微妙に)意味が異なると考えるしかない(もし,ヴェルナーがフィッシャーの交換方程式を誤読していないとすれば)…

この方程式に現れるkという定数もほとんど意味不明ですが,これらを読み解くために,「税制を変えれば政治も変わる 一般取引税を導入して夢のジパングへ」[馬場英治,2009]という小論で一般取引税という新税を分析するために導入された「トランザクション乗数」という変数を適用してみます.トランザクション乗数は以下の式で定義されます.

トランザクション乗数(取引消費倍率)
       = 一般取引税課税ベース 国民消費

一般取引税課税ベースは一般取引税の課税対象となる取引の総額で交換方程式のPQに相当します.国民消費は三面等価の原理から名目GDPに等しいと考えられるので,トランザクション乗数をτとして,

τ = PQ / PY = Q / Y (3

が成立します.(1)と(2)からPMを消去し(3)を適用すると,

= Q / kY τ / k

つまり,フィッシャーの「貨幣の流通速度」は「トランザクション乗数τとマーシャルのkの比」であることが分かります.言い換えると,

貨幣流通速度 X マーシャルのk ÷ トランザクション乗数 1

という面白い関係が見出されます.マーシャルのkという数値は = M / PY,つまり,

マーシャルのk = マネーストック 名目GDP

なので,マネーストックが増加するとそれに比例して増加しますが,トランザクション乗数τはマネーストックとは無関係に取引総量とGDPのみで定まります.上式から実取引量Qを消去してVを求めると,V = τPY / Mとなるので,

貨幣流通速度 = トランザクション総量(名目取引量)マネーストック
       = トランザクション乗数 X 名目GDP マネーストック

のようになり,貨幣流通速度はトランザクション総量に比例し,マネーストックに反比例しますが,トランザクション乗数は経済循環ネットワークのトポロジーに依存してほぼ一定と考えられるので,「貨幣流通速度はGDPに比例する」と言ってよいと思われます.逆の言い方をすれば,マネーストックが一定なら貨幣流通速度を増加させることによってGDPの拡大を期待できる」と考えられます.また,その逆に貨幣流通速度を低下させることによって景気の過熱を抑制することもできます.

一般取引税のもっとも大きな特徴は,貨幣流通速度を効果的に調整可能であるという点にあります)※⇒上掲文献を参照

追記:計算式の一部に誤りがあったので訂正した(2022/05/10).上記の議論は,「実体経済」をベースとするものであり,「金融経済」を対象とするものではないことに留意する必要がある.「金融経済」における「貨幣流通速度」は「実体経済」におけるそれとは比較にならないほど大きく,それらを混同することは誤りである.パートIIでは「実体経済」と「金融経済」を厳格にディスコネクト(ヴェルナーの用語ではディアグリゲート)することを試み,それら互いに独立な2つの経済循環マトリックスを結合する「マネーストック」がゼロという「量子論的超速貨幣循環システム」の可能性を議論する.

パートII 「実体経済循環 / 金融経済循環マトリックス」 へジャンプ

 

CheckAxisLineStraightで例外が発生

最近の修正をフィックス.

  1. MAXREPEATCOUNTを廃止する@20210315 8箇所
  2. MakingLookUpは系統並び替えで一度だけ実行する@20210227 11箇所

源氏物語全系譜7.ZELの全体図 #4 明石中宮で被参照カウントの残留が起きている.TribeRelocationのフェーズAFTERMARGSAMEGENEでTribeGhostNameを実行しているところだ.障害はNAMEBOX:ExtractBox2LDRsubで対象ノードを削除するところで起きている.その後,CheckAxisLineStraightで例外が発生する.TREEVIEW:GetBaseBoxが空を返している.まず,この障害を先に見ておこう.

CheckAxisLineStraightでは「血統軸線図で軸線上の描画要素が垂直線上にあることを確認」している.TREEVIEW::GetBaseBoxはTREEVIEWが管理している基準ノードの仮ノードbaseboxを返す関数で,この値を設定しているのはTREEVIEW::SetBaseBoxだ.値は設定されているが,その後このリンクはExtractBox2LDRsubの中で削除されている.TREEVIEW::CleanSansyoでは参照解除した後,SelectBaseBoxで取り直しを実施しているのだが… ⇒実際,この時点では値は再設定されているのだが…どこかでリセットされている.再設定されてはいるが,値は削除対象リンクと同じだ.

TREEVIEW::SelectBaseBoxでは基準カードの仮ノードが無効になっている場合には取り直しするようになっているが,まだこの時点では活きているためだ.すでにNAMEBOXのデストラクタが発動された状態になっているので,disposingを見るようにしておこう.⇒解決した.この修正で上記の非参照カウントの残留も発生しないようになった.

上記サンプルの#6 玉鬘でAFTERMARGSAMEGENEフェーズのループが停止しなくなった.TOPOLOGY::EstablishMajorTribeChainが収束しない.EstablishMajorTribeChainでは系列木グラフを連結成分に分解しているが,3成分に分離した状態から脱出できない.分離している系列は以下の2つだ.

  1. TRIBEBOX #16586 先祖=#12539 中将のお許(髭黒付)(0)[34] 優先=#19098 髭黒(3)→#10720 髭黒(0) →主系列#15210:※3 type=BTW右接続関係
  2. TRIBEBOX #16599 先祖=#12556 木工の君(0)[35] 優先=#19115 髭黒(4)→#10720 髭黒(0) →主系列#15210:※3 type=BTW右接続関係

どちらも髭黒が系列優先ノードになっている.ループを強制脱出して描画まで進むことはできる.最終出力ではすべての系列の参照関係は解決している.2つの系列の共通の優先実ノードである髭黒(0)では当初「系列優先実ノードの絶対/物理世代番号不一致」が発生しているが,その後解消しているようだ.それでは何が原因で「物理コネクション不在」になっているのか?系列接続種別が途中でどちらも逆婚姻関係に切り替わっている.参照先も髭黒(2) →主系列#16307:右大臣(明石)に変わる.最終的には髭黒(0) を左手本人とするBTWが成立する.髭黒(0) を左手本人とするBTWには以下がある.

  1. rightbox=MARGBOX #8100:#11026 髭黒の前の北の方(0)+#18238 髭黒(1)→#18252 真木柱(2)
  2. rightbox=MARGBOX #8020:#12539 中将のお許(髭黒付)(0)+#19098 髭黒(3)→
  3. rightbox=MARGBOX #8276:#12556 木工の君(0)+#19115 髭黒(4)→

なぜだろう?AFTERMARGSAMEGENEフェーズではこれらの結婚に対するBTWは試されていない.MainExperiment→ ReduceMultiCard→ FindDoublyBlessedOneでは多重カードを持つ人名リンクを対象にそのノードが配偶者となっている結婚枠を総当りでチェックしているので漏れがないが,TRIBEBOX::BetweenTwoWomenでは制約条件が多いため外れている.現行方針は,AFTERMARGSAMEGENEで①すべての系列の物理コネクションを確立する,②多重不可避を除くすべてのノードで絶対世代番号と物理世代番号が一致する配置を確定する,というものになっているので,少なくとも系列優先ノードの関わるBTWはこのフェーズの中で決めてしまう必要がある.

AFTERMARGSAMEGENEのループで実行しているBetweenTwoWomenを廃止して,系列優先ノードに限定してFindDoublyBlessedOneを使ってみることにしよう.⇒いや,むしろ,EstablishMajorTribeChainにそれを組み込んだ方がよいのではないか?⇒TRIBEBOX:addTribeTreeGraphでHasPhysicalConnectionに失敗したとき,系列優先ノードのBTWを試みるようにした.⇒これにより,TRIBEBOX #16586 先祖=#12539 中将のお許(髭黒付)(0)[6] 優先=#19098 髭黒(3)→#8697 玉鬘(0) →主系列#15210:※3 type=BTW左接続関係を確立できた.しかも,これ一発ですべての障害が解決した.

このサンプルでは髭黒が多重になって,多重が6件発生しているが,髭黒(2)と(3)は同世代なので仮ノード消去できるように見える.なぜ,それができないのかを見ておこう.髭黒の仮ノードは7個あるが,可視ノードはNAMEBOX #18950 髭黒(2)と#19098 髭黒(3)だけだ.髭黒(3)は配偶者だが,BTWの左手本人になっている.髭黒(2)は消去された仮ノードの実ノードで同時にTYW枠本人でもある.TYWをLDRに転換するという関数はあったはずだが… ⇒NAMEBOX::ExtractBox2LDRsubでそれをやっている.ExtractBox2LDRはeraseGhostからしか呼び出されていない.TYW枠を吸収するという処理もあったのではないか?

TOPOLOGY::CheckAbsorbMarriageは一度も実行されていない.⇒クラスタ循環がある場合には実行を抑制している.⇒クラスタ循環がある場合もCheckAbsorbMarriageを実行するようにした.これで髭黒の多重は消えて,多重5件という最小値まで削減することができた.これ以外のパターンで多重カードが5件以上になるケースがかなりある.これは避けられないのだろうか?

▲同上サンプルの#56 今上で停止した.TRIBEBOX:CheckAbsoluteGeneで(prime->IsValidNameBox() && !primary->breakup)が起きている.(primary->getnodegene() == prime->getFloor())の場合はその直前でゼロ復帰しているので,系列優先仮ノードの絶対世代番号と物理世代番号が一致していないことを意味する.系列優先仮ノードがbreakupでないということは,そのノードがクラスタ循環でパージされた結婚に関わっていないということを意味するので,本来なら一致していなくてはならないのだが…

エラーを無視して続行すると,EstablishMajorTribeChainで停止しない状態になる.障害が起きているのは,TRIBEBOX #15140 先祖=#10448 二条太政大臣(0)[1] 優先=#9547 今上(0) で始系列だ.これはかなりおかしい.TRIBELIST::SetAbsolutePotentialでは,「絶対世代番号系と物理世代番号系を一致させる」としているのだが,一致していない.SetAbsolutePotentialは以下の3箇所から呼び出されている.

  1. AdjustTribeGeneration(void) (TRIBELIST)
  2. HeapTribeBoxes(bool symmetry) (TRIBELIST)
  3. SetTribeMaxGene(char * caller) (TRIBELIST)

SetTribeMaxGeneはGoDownStreamの出口で呼び出されている.また,TribeRelocationのステージ【1】系列相対世代番号を正規化するの段でNormalizeRelativeGenerationにより「系列相対世代番号を正規化する」ところでも実行される.また,ShiftDirectAbsoluteの中からも実行される.ShiftDirectAbsoluteの中からも実行されている.系統の最古世代先祖の絶対世代番号が1になっている.これはかなりおかしい.

絶対世代番号は0発進のはずだ.最古世代先祖として#10448 二条太政大臣(0)が選択されているが,明らかにこれは間違いだ.CARDLINK:#2922 @211※2[0]かないし,CARDLINK:#1473 @50※3[0]でなくてはならない.ということは,TRIBELIST::GetTheEldestが間違っているということになる.

水洗トイレが壊れてしまった 浮玉が上がっているのに水が止まらない

床に就く直前だったのですでに朦朧としていたが,工具類を引っ張り出して無我夢中に取り組むうち何とか水栓を止めて分解するところまではできたので,あとはそのままにしてぐたっと寝込んだ.

IMG_20210317_232343

カインズに行けば多分パーツを見つけることができるとは思うが,このところ昼夜が逆転しているので,しばらくは昼間表に出られない.ともかく,(よほど太物でない限り)シャワーで流せることだけは確認してある.(もともとこのトイレにはトイペーというものは置かれていない.シャワーでお尻を洗うとき,ついでに便器も洗うというだけだ)

多重カードが最小値の5ではなく,7になってしまう原因がわかった.TribeRelocationに続くメインループTRIBELIST::MainExprerimentで打ち切っていたためだ.多重カード数が下限と推定される値に達したときには処理を打ち切ってループから脱出するようになっていた.推定下限値にはこれまでsameGeneCyclesが当てられてきたが,現行ではTOPOLOGY::Inevitables「多重不可避カード数」が適用されている.これらの値は(源氏7をサンプルとしたときの)多重カードの最小値より大きいため,最小値まで削減される前に終了してしまっている.

この脱出条件を止めると,処理は多重カード数が静定するまで続行するので,最小値が確実に実現されるようになる.実際,このように手配した後では,「重婚クラスタ循環を子ノード側で切断」する場合も「親ノード側で切断」した場合も同じ結果になる.つまり,重婚クラスタ循環を切断するためのカットセットは必ずしも一意ではないが,最終出力としては同じ結果が得られると言える.これで重婚クラスタ循環が存在する場合を含めて,つねに最適結果を出力することができるようになった.別の言葉を使って言えば,「系図作図問題の原理的な完全解」を得ることができた,つまり,「系図作図問題が初めて原理的に解かれた」と言える.(思えば長い道程だった…)

軸線図がおかしい.#1 光源氏の軸線図が紫の上で止まってしまう.光にはまだ他の子どもがいる.もっと長い軸線があるはずなのだが… どうしたのだろう?軸線図はすでに仕上がっているはずだったのだが…

軸線図処理は2つのパートからなっている.①TOPOLOGY:FindJikusenAncestorはDECOMPOSITIONフェーズで系列分解処理TribeDecompositionの中から呼び出されて「軸線最長鎖」を決定し,②TOPOLOGY::CallBuildShaftLineは,TribeRelocationの中からBUILDCENTERLINEフェーズで呼び出されて.軸線グラフから血統軸線を構築する.①では最初に直系血族グラフを生成し,このグラフからGetLongestChainで軸線最長鎖を切り出している.

直系血族グラフの生成は単純な処理なので間違いないと思われるが,GetLongestChainでは明らかにやり損なっている.GetLongestChainでは最初にGetHasseDiagramを呼び出して枝グラフからハッセ図を生成している.このグラフをインポートしてみよう.

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この図から見ると,最長で8世代に渡る軸線が存在する.先祖ノードは※3,末裔ノードは若宮(匂宮の)だ.これから軸線を切り出すのは容易であるように思われるのだが… この後,MakeAntiChainListで反鎖リストと呼ばれるものを生成する.反鎖リストは同世代ノードリストとも呼ばれ,同世代ノードを成分とする成分分解リストである.反鎖リストもCSV形式でエクスポートできる.90度回転させるとこんな図になる.

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GetLongestChainの最終出力である軸線最長鎖は間違っていない.FindJikusenAncestorの最終出力も正しい.先祖ノード:CARDLINK:#1473 @50※3[0] 末裔ノード:CARDLINK:#1482 @51若宮(匂宮の)[0]となっている.結局,CallBuildShaftLineでやり損なっているということになる.CallBuildShaftLineは重婚クラスタ検定の前に実施される.この後の重婚クラスタ検定で軸線が崩されている可能性が高い.軸線が成功するためには,紫の上の下に明石中宮が来なくてはならないのだが,実際の出力でその辺りがどうなっているのかを見てみよう.

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明石中宮は世代的には紫の上(0)の下の世代に配置されているが,紫の上のもう一つのカードである紫の上(1)に連結されている.これを紫の上(0)の直下に持ってこなくてはならない.確かにこれは難しい問題だ.結婚枠(子ども枠)は親(のいずれか)の直下に配置されることになっている.明石中宮の親は光源氏+紫の上であり,その意味では光源氏の直下か,ないしその配偶者である紫の上(1)の直下しか居場所はない.紫の上(0)は光源氏の娘(養女)ではあってもその配偶者ではないからだ.

軸線を描画するためにこの原則を曲げることは可能だろうか?光源氏→ 紫の上で止まるより,光源氏→ 明石中宮→ 匂宮→ 若宮 (匂宮の)の方が長い.実際,光源氏の軸線を考えるなら,その方が妥当だろう.つまり,光源氏→ 紫の上という関係を軸線から外して考える必要がある.しかし,光源氏→ 紫の上が親子関係(養親子関係を含む)にあること自体が問題という訳ではない.そもそも光源氏+紫の上→明石中宮という関係そのものが養親子関係だ.

軸線に反映する親子関係を実親子関係に限定するという割り切り方もあるのではないか?いや,それもやや疑問だ.光源氏→ 紫の上を実親子関係,光源氏+紫の上→明石中宮を実親子関係としても同じ問題が発生する.一番わかり易いのは,重婚クラスタ検定を経た後の「正則系図」上で軸線を考えるということではないだろうか?多系列にまたがる軸線というのを描画できるだろうか?現状では少し難しいように思われる.

現行枠組みを維持したまま,軸線図検定で光源氏→ 紫の上という親子関係をパージするというのがもっとも望ましいのだが… 重婚クラスタ検定を系列分解より前に実施することは可能だろうか?重婚クラスタ検定で用いているのは,①婚姻関係と②親子関係だけであり,系列という概念は持ち込まれていないはずだ.重婚クラスタ検定を先行実施できれば,「正則系図(絶対世代番号を付与されたハッセ図)」上で軸線を考えるということも可能になるのではないだろうか?不可能ではないような気がするので挑戦してみよう.

重婚グラフ検定はBuildSameGeneMarriageGraphとGetHasseDiagramという2つのパートに分かれていて,TRIBERELOCATIONとSAMEGENEMARRIAGEという2つのフェーズにまたがる大きな処理だが,一つにまとめることができる.これをまず,関数化しておこう.⇒TOPOLOGY::CheckWeddingClusterとしてみた.⇒まったく問題なさそうだ.少し面白くなってきた.⇒ダメだ.反例が出てしまった.桐壷院でソートしたら,EstablishMajorTribeChainで収束しないようになってしまった.⇒これは改修する前の版でも起きる.まず,このバグを取らなくてはならない.

▲源氏物語全系譜7.ZELを#1041 桐壷院でソートして,AFTERMARGSAMEGENEフェーズでTOPOLOGY:EstablishMajorTribeChainが収束しない.主系列が決定できないのは,TRIBEBOX #189411 先祖=#183114 三位中将(0)[27] 優先=#192114 夕顔(2)→#190999 夕顔(1)だ.系列接続種別は婚姻関係,系列優先仮ノードの夕顔(2)は消去された仮ノード属性を持ち,始系列の一院系列所属の優先実ノードの夕顔(1)は実ノード属性を持っている.何の問題もないように見えるのだが…

実ノードの絶対世代番号が物理世代番号と一致しないという理由だ.

甘いものが無性に欲しくなって

即席のドーナツを作ってみた.小麦粉+ベーキングパウダを水で溶いて熱した油の中にポトンと落としただけ.速攻3分でできあがり.ただし,画像をアップロードするのに2日掛かった.

ドーナッツ

重婚クラスタ循環は多重カードが発生する原因だが,循環に関係するクラスタに属するすべてのノードが関わっているという訳ではない.むしろ,循環を解消するためにパージされた婚姻グラフの枝,つまり結婚当事者ノードに関わりがある.循環の発生している重婚クラスタに属するノードにはCARDLINK::samecycle属性が付与されているが,それを代替するものとして,breakup属性を導入し,循環を解消するために削除された婚姻枝の結婚枠とその当事者ノード付与するようにした.{samemcycle} ⊃ {breakaup}でbreakup属性の方がより範囲が狭い.つまり,焦点深度が深い.CARDLINK::samecycleは廃止した.

TOPOLOGY::BuildSameGeneMarriageGraphのステージ【13】重婚グラフの循環が止まるまで枝を除去するの段では,「重婚クラスタ循環が存在するとき,親子枝の親ノードの配偶者の配偶者関係を切断」していたが,ターゲットを「親子枝の子ノード」に切り替えてみた.サンプルの源氏物語全系譜7.ZELでは,この親子枝は光源氏→夕霧に該当し,これまでは親の光源氏をクラスタから切断するという処理になっていたところを,子ノードの夕霧で切断するという操作に切り替えた.この結果,多重カードは現行の7から5まで削減することができた.修正前の多重カードは以下の7点だが,▲マークの付いた,源典侍と真木柱は修正後の版では多重になることを免れている.

  1. @5紫の上(若紫)[5]
  2. @57女三宮[4]
  3. @100源典侍[4] ▲
  4. @101朧月夜[4]
  5. @103空蝉[4]
  6. @104藤壷の宮[4]
  7. @144真木柱[6] ▲

これで見る限り,修正後の版の方が高品質であるように思われるが,親ノードと子ノードのどちらを切断する方が有利かはケースバイケースであり,本来ならその優劣を計量して決定すべきところだが,多重カードの出現数はコンテキストに依存して決定されるため,この時点では確定することができない.実際,「子ノードで切断」する方式の場合,削除される枝数は以下のようにむしろ増加している.下記▲は「親ノードで切断」には含まれない循環/削除枝.

  1. 削除枝:直系血族配偶者 MARGBOX #8260:#8612 光源氏(0)+#17138 紫の上(若紫)(1)→#8663 明石中宮(0)
  2. 循環枝:【2】⇒【2】 【CARDLINK:#1095 @8夕霧[0]】⇒【CARDLINK:#1032 @1光源氏[0]】
  3. 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #6916:#17276 落葉の宮(1)+#9938 柏木(0)→ ▲
  4. 循環枝:【2】⇒【2】 【CARDLINK:#1032 @1光源氏[0]】⇒【CARDLINK:#1041 @2桐壷院[0]】▲
  5. 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #8548:#17672 柏木(1)+#17686 女三宮(2)→#17700 薫(2)
  6. 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7252:#10601 伊予介(0)+#18368 空蝉(2)→
  7. 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7076:#9887 致仕太政大臣(0)+#17571 夕顔(1)→#17585 玉鬘(1)
  8. 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7092:#9887 致仕太政大臣(0)+#17600 源典侍(2)→
  9. 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7380:#9309 朱雀院(0)+#17339 朧月夜(1)→
  10. 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #8292:#8629 桐壷院(0)+#17389 藤壷の宮(1)→#17403 冷泉院(3)

直系血族婚はあらかじめ除去されているので循環枝に含まれていないが,それを含めれば,修正前の方式では循環を解消するために2箇所の切断が必要であり,修正後の方式では切断は3箇所に増加,パージされる婚姻関係(削除枝)は前者が7であるのに対し,後者では8に増加している(しかし,多重カード数は後者の方が少ない).

HasPhysicalConnectionで系列優先実ノードの絶対世代番号と物理世代番号の一致を求めるように修正した.HasPhysicalConnectionはDoesMajorTribePathExistとaddTribeTreeGraphから呼び出されている.DoesMajorTribePathExistはIsConnectedとSetMinorTribe,TribePrimaryCandidateで使われている.addTribeTreeGraphはEstablishMajorTribeChainから実行される.この修正により,源氏物語全系譜7.ZEL #1 光源氏で起きていた「絶対世代番号と物理世代番号の不一致」は解消した.

多重カードは5枚.多分これは最少多重カードになっていると思う.ZT BASICではグラフ検証系を使えないため,9件の多重カードが残る.最近の修正をフィックスしておこう.

  1. CARDLINK:samecycleを廃止する@20210315 12箇所
  2. MAXREPEATCOUNTを廃止する@20210315 8箇所
  3. MakingLookUpは系統並び替えで一度だけ実行する@20210227 廃止 10箇所
  4. TESTABSOLUTEGENERATION 3箇所
  5. 仮修正 2箇所,OBSOLETE 1箇所

Version 2.2.0.029 Release 2021-03-17を所内リリースした.⇒ダメだ.多重カードが7に戻ってしまった.修正フィックス前の版でも同じ.⇒ZELKOVA 2021-03-15-2まで戻れば復活する.WinMergeでファイルを比較してみたが有意差は見つからなかった.この版とZELKOVA 2021-03-16の相違点はグラフ関係の関数を移動していることと「MAXREPEATCOUNTを廃止する」修正がまだ入っていないくらいだ.その他TribeRelocation.cppには細かい差異があるが,一瞥しただけでは致命的なものは見つからなかった.

ともかく,この版に戻って出直すしかない.まず,この版で「CARDLINK:samecycleを廃止する@20210315」と「重婚クラスタ循環を子ノード側で切断する@20210315」をフィックスしておこう.⇒後者はSPECIFICATIONとして温存しておいた方がよい.この版でリリース版を起こしておくことにする.その前にZT BASICで動作することを確認しておこう.⇒OKだ.改めて,「MAXREPEATCOUNTを廃止する」を入れておこう.

重婚クラスタ検定論理の修正

TOPOLOGY::BuildSameGeneMarriageGraphを修正して,ステージ【3】婚姻関係にある2つの人名を連結する枝をグラフに追加するの段で「直系血族婚関係を重婚クラスタグラフからあらかじめ排除する」ようにした.また,重婚クラスタ循環が存在するとき,親子枝の親ノードPの配偶者の配偶者関係を切断する処理で,配偶者Aの配偶者Bとの関係が配偶者Bの唯一の結婚の場合には切断しないように修正した.

これはこの切断によって配偶者Bが孤立してしまうことを防止するためである.この関係を切断しなくても,クラスタの世代分割には支障はない.配偶者Bは配偶者Aとともに親ノードPのクラスタに移籍するようになるからだ.これで,少なくとも大臣(葵)系列と蔵人の少将 (夕顔)系列で発生していた,「絶対世代番号と物理世代番号の不一致」は解消したが,まだ複数の「絶対世代番号不一致」が残っている.

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この中には,先帝系列,※6系列,※7系列,按察の大納言(若紫)系列が含まれているが,問題は系列優先ノードとその他のノードとの位置関係にある.このブロックの中心は先帝系列でその優先ノードの紫の上(若紫)が光源氏との直系血族婚関係にあるため多重出現していることが関係しているのではないか?だとすれば,どうすればよいか?

系列優先ノードでsamecycle属性を持っているノードが14点,breakup属性を持っているノードが4点ある.samecycleは循環の発生している重婚クラスタに属するノードで,breakupは循環を解消するために削除された婚姻枝の当事者ノードだ.breakupノードは一般にsamecycleノードでもあるが,紫の上(若紫)は上記修正により,重婚クラスタ検定に入る前に直系血族婚関係で除去されているため,breakup属性しか持っていない.breakup属性を持つ優先仮ノードには以下がある.

  1. TRIBEBOX #15205 先祖=#8765 一院(0)[1] 優先=#8612 光源氏(0) 始系列
  2. TRIBEBOX #15349 先祖=#10533 先帝(0)[4] 優先=#50277 紫の上(若紫)(3)→#17138 紫の上(若紫)(1)
  3. TRIBEBOX #15593 先祖=#10516 衛門督(箒木)(0)[15] 優先=#18334 空蝉(1)→#10346 空蝉(0)
  4. TRIBEBOX #16087 先祖=#10414 三位中将(0)[28] 優先=#18734 夕顔(2)→#8612 光源氏(0)

このグラフのクラスタ図を見てみよう.

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※6系列と※7系列が中務宮と同じ世代まで下がっているところが特徴的だ.※3と並ぶ※2系列は実際の出力では左端に移動しているが,高さは変わらない.実際の系図出力は下図のようになっている.

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系図全体の世代高さは同じ9世代だが,クラスタ図には冗長なところが存在しない.どこでこの差異が発生しているのかを突き止めなくてはならない.紫の上のカードは2つ出ている.紫の上(0)は葵の上の直下の子ども枠内で絶対世代番号と物理世代番号は一致している.紫の上(1)はその一つ上の世代,光源氏の結婚枠内で絶対世代番号5に対し,物理世代番号は4になっている.

クラスタ図上には人名カードの重複は存在しないから,クラスタ図上では絶対世代番号5の位置にあり,他の場所から参照される場合もその位置で参照されているはずだ.先帝系列の優先ノードを紫の上と決定したときの選択に誤りがあるのではないだろうか?つまり,クラスタ上で決定した位置に配置されるべきノードを選択すべきだったのではないだろうか?⇒少なくとも系列優先実ノードの絶対世代番号≠物理世代番号であることが決定因であることは間違いなさそうだ.

クラスタ図を用いて絶対世代番号を決定した後の処理

重婚クラスタ検定でクラスタ図を用いて絶対世代番号を決定した後の処理を見直す必要がある.ここでは2つのことを実施している.①絶対世代番号を用いて各描画要素の配置を決定すること,②系列間の参照関係を確立し,物理的なコネクションを確保すること.①は主にTRIBELIST::ShiftDirectAbsoluteとAdjustTribeGenerationによって実行され,②はTOPOLOGY::EstablishMajorTribeChainが担当する.

①の状態を検査するためにTREEVIEW::TestAbsoluteGenerationを復活させた.系列参照関係はすでにMAKEUPTREEフェーズで基本的には確立しているが,物理的なコネクションを構成するためにTRIBEBOX::TribeGhostNameとBetweenTwoWomenが発動される.また,これらの処理によって描画要素の垂直位置関係に矛盾を解決するためにCheckTribeVerticalPositionが用いられる.

重婚クラスタ循環がない図面ではこれらの道具立てで十分処理できるのだが,問題は源氏のように重婚クラスタが無数に存在するような図面の場合だ.このような図面に多重カードが発生することは避けられないが,それを極小化するためには,絶対世代番号を用いた配置とそれからの逸脱をコントロールする必要がある.どうすればよいか?

まず,重婚クラスタグラフからハッセ図を生成するときに除去された削除枝(結婚)を追跡できるようにしておこう.一度バックアップに戻って出直すことにする.

カード巡回パネルの仕様を変更

カード巡回パネルの仕様を変更して,巡回対象テーブルを検索テーブルから選択テーブルに変えることにする.⇒改修した.また,左右カーソルキーでカード巡回パネルのスピンボタンを代用できるようにした.左右カーソルキーでカード巡回パネルが出ていない場合でも,選択されたカード領域を巡回することができる.これは結構便利かもしれない.

▲部分図で選択カード0のとき,全体図に戻って選択カード1となり,一覧表では選択状態になっているが,系図画面では選択が落ちている.⇒再現できない.

源氏物語全系譜7.ZEL全体図#1 光源氏で「先祖ノード絶対世代番号不一致」が以下で発生している.

  1. #10533 先帝(0)
  2. #10618 大臣(葵)
  3. #10992 ※6(0)
  4. #11349 按察の大納言(若紫)
  5. #11536 ※7(0)

AFTERMARGSAMEGENEフェーズでShiftDirectAbsoluteとAdjustTribeGenerationを実行した直後には世代不一致は起きていない.その後に実行される①CheckTribeVerticalPosition,②TribeGhostName,③BetweenTwoWomenのうち,①は世代調整のために不可欠なので温存し,②と③はメインループに入ってから遅延しょりすることにした.また,リトライではAFTERMARGSAMEGENEの入口まで戻って,ShiftDirectAbsoluteとAdjustTribeGenerationを再実行するようにした.これで#10618 大臣(葵)を除くすべての「先祖ノード絶対世代番号不一致」が解消した.

大臣(葵)の世代不一致は六条御息所の重婚に起因するもので,配偶者である前春宮と光源氏が異世代とならざるを得ないことから不可避と認定される.

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このサンプルでは多重が9件発生しているが,除去された循環枝数9と一致している.この中には本人ポジションを持たない不可避多重カード6件が含まれる.これはほぼ「究極の多重カード最小図面」と呼んで差し支えないのではないかと思う.

▲上記サンプルで※3系列と先帝系列で「主系列の付け替え」が反復発生している.※3系列では優先ノードが#17897 桐壷の更衣(1)⇔#17865 明石の上(1)で行ったり来たりになっている.先帝系列では,#17963 真木柱(2)と#17949 髭黒(1)の間で往復運動している.どちらも主系列は一院系列で結果的には主系列には変更はない.この切り替えはEstablishMajorTribeChainで起きている.

Windows 10 バージョン 2004のインストールに失敗した

PCがやけに重くなっている感じがしたので,Windows 10 バージョン 2004のインストールを試みた.ダウンロードにも相当な時間が掛かったが何とか完了し,インストールに入ったが遅々として進まないので寝てしまった.朝起きたら「更新したプログラムを構成しています 25%」の状態で足踏みしている.30分放置してもまったく進まないので電源を落として再起動した.ネットでチェックすると,バージョン 2004のインストールには相当問題があるようだ.

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再起動すると「コンピュータに対する変更を元に戻しています」の画面になったが,そのあとは通常通り使えるようになった.OSのバージョンは1909に戻っている.「更新を7日間一時停止」しておくのが一番無難かもしれない.最近の修正をフィックスしておこう.

  1. SIMPLENODEのdownwardとupwardを廃止@20210303 2箇所
  2. 選択はカードの有効無効と無関係@20210305 4箇所
  3. クラスタ検定に結婚を持たない終端ノードを含める@20210306 1箇所
  4. 主選択カードの仕様変更@20210307 2箇所
  5. カード選択とカード移動を切り離す20210306 7箇所
  6. 仮修正 2箇所,暫定修正 6箇所,#if 0 8箇所,

カード履歴ボタンではセンタリングしなくてもよいのではないか?現参照カードにはHOMEキーでいつでもジャンプできる.⇒だとすれば,カード履歴で単選択に戻るのではなく,選択領域を維持したまま現参照カードだけ切り替えるという仕様の方が筋が通るのではないか?⇒カード履歴ではJumpNewCardSingleで単選択に落としている.カード履歴でカード画面のタブが切り替わるのもよくない.⇒カード履歴では意図的にタブを復元している.JUMPTBLには以下の記録が格納されている.

  1. refn As Integer ‘現参照カード(基準ノード)参照番号
  2. tabn As Integer ‘カード画面タブ番号
  3. page As Integer ‘結婚ページ番号
  4. oyap As Integer ‘父母ページ番号
  5. entry As Integer ‘部分図エントリ番号
  6. previewmode As Short ‘プレビューモード
  7. keizuparm As mKeizuParm ‘系図描画パラメータ

つまり,可能な限りそのときの状態を復元させるという意図がある.一種のUNDOのような効果を狙っていたものと思われる.少しやり過ぎではないかという感もある… カード移動によって無闇にタブが切り替わらない方がよいという場合もあると思うのだが… タブの切り替え,結婚ページ,父母ページの切り替えなどは一時停止してしばらく運用してみることにする.これで,上下矢印キー,カード画面のスピンボタン,カード履歴ボタンの動作は現参照カードを移動するだけというシンプルなものになった.これでよいのではないかと思う.

逆に,矢印キー,スピンボタン,履歴ボタンが押されたときはカード巡回パネルは閉じた方がよいと思う.現行では履歴ボタンでは閉じるようになっているが,スピンボタンは巡回パネルのスピンボタンの動作になっている.また,矢印キーではやや意味不明の動作になる.⇒矢印キーでは巡回パネルを閉じるようにした.カード画面のスピンボタンが巡回パネルの動作になるというのも少し分かりづらいところはあるが,弊害はあまりないと思われるので現行のままとする.

系図画面の空白部をクリックして無選択にならない.⇒表示が更新されていない.mGetSelectListでは0を返している.UpdateSelectionは実行されている.⇒処理の重複を回避するために削り過ぎてしまった.UpdateSelectionの中でClearSelectionを実行することは必須だ.

選択→センタリングという動作そのものはよいと思うが,少し動作し過ぎの感じがする.カードが見えている場合はそこまでやらなくてよい.⇒CallCenteringMoveでは,*selectchangeがオンの場合はカードがフレーム内のときはジャンプしないようになっている.ただし,ACTION_HOMEKEYではつねに現参照カードにジャンプする.⇒CZelkovaCtrl3::CenteringCardの動作をACTION_CENTERに戻した.動作的にはこれでよいと思う.ただし,一覧表上で拡張選択(複数選択)した場合には現参照カードが見えるようにすべきだ.

呼び出し側ではそのような動作になっているが,ActionCenteringには引数で参照番号を渡していないため,どこかで齟齬が起きている.⇒TREEVIEW::CallCenteringMoveで*selectchangeが入っていないため,「中央点不動ズーム」の動作になっている.⇒タイミングが合っていない.センタリングはCardGridView_CurrentCellChangedで実行されるが,selectchangeに値が入るのはDataGridView_MouseUpでSelectionProcが実行されたときだ.この順序関係を変えることはできないので,ACTION_CENTERの場合は,selectchangeを無視してセンタリングを実行するようにするしかない.⇒修正した.これで完全に現参照カードを追尾できるようになった.

源氏物語全系譜6.1.ZEL 全体図#1 光源氏で一覧表で複数選択→親族図に切り替えで被参照カウントの残留が発生した.NAMEBOX:Dispose→ RetrieveGhost→ DeleteLongTailで発生している.MARGBOX[24]からの参照だ.MARGBOXsANCHORスロットでanchor2という変数だ.「アンカー参照の控え,アンカー付け替え時の参照削除用:人名枠への単純参照」というコメントが付いている.NAMEBOXにはNAMEsDUMMYというスロットがあり,dummyboxという名前が付いている.この障害は選択操作と無関係に発生する.

NAMEBOX::Disposeでcheckをオンにすると,これまで停止していなかったところで止まるようになる.⇒checkで停止するようになっていた.紛らわしいので廃止しておこう.

dummyboxはすでに空になっているが,現物は残っている.dummyboxは参照ではなく接続なので,おそらくフロート状態になっているのだろう.障害が起きているのはNAMEBOX #96515 中姫君(4)で,ダミー枠はMARGBOX #96525だ.⇒いや,読み損なっていた.障害ノードはNAMEBOX #86655 中姫君(3)で,dummyboxは活きているので簡単に参照解除できる.⇒解決.

同上の操作でNAMEBOX::getDrawSizeの「親族範囲外カード」エラーが複数出ている.LINEAGEの値は7でZELKOVATREEのとき,カードのkindredが10>7であるためだ.10というのはSTRANGERSなので明らかに「親族範囲外カード」であるように思われる.ただし,これはTREEVIEW::EraseTreeViewで起きているので,検査対象とはなならない.少なくともCHAOTICSTATE以下では無視してよいだろう.

同上サンプルの親族図の系図画面上で複数選択→ 部分図に遷移しようとしてMARGBOX::MostLeftで停止した.(ML && ML->group() != group())というエラーだ.結婚枠とその中の人名枠の所属系列が異なるというエラーだ.選択操作とは無関係に発生する.この障害もやはり,EraseTreeViewで発生している.上記と同様無視でよいだろう.

いい感じになってきた.選択操作に関してはほぼ満点と言ってよい.

検索ボックスでテキストを全選択して削除でカード削除になるのはまずい.⇒これはおそらくDELキーがカード削除コマンドになっているためではないかと思われる.このため,キーイベントが発生する前にコマンドが実行されてしまっている.KeyDownSubではCtrl+DELでカード編集:カード削除となっていて,「@2017-09-09 修飾なしの削除キーでカード削除を実行する × 弊害がある」としているのだが… ⇒まず,カード削除コマンドのショートカットをCtrl+DELに変えてみよう.

検索ボックスでDELキーを押すと,MDIForm_KeyDown→ KeyDownSubを通るようになるが,該当項目がないのでパスしてテキストのクリアが実行される.また,系図画面にフォーカスがあるときには,ZView_KeyDownが起動され,ここでは「修飾なしの削除キーでカード削除 」が実行される.これでよいのではないだろうか?カード画面上のテキストボックスでも普通にDELキーが使える.

検索ボックスで検索条件不一致で検索テキストが削除されるというのはあまりよい仕様ではない.また,テキストがクリアされた後,カーソルがボックスの中央というのも違和感がある.⇒検索入力ボックスのAlignmentはLeftになっている.このAlignmentはテキストボックス内の位置ではなく,ボックス全体がツールバーの中で右寄せか左寄せかという設定になっている.MDIParent.Designer.vbで「Me.検索入力ボックス.TextAlign=System.Drawing.ContentAlignment.MiddleLeft」としてみたが,変化しない.というか,不一致でテキストがクリアされると見ていたが,違うようだ.

「マッチするカードはありません」のパネルを閉じてもテキストボックスには残っている.ただし,ボックス内にカーソルを置くと突然消えて,カーソルがボックスの中央に表示された状態になる.しかし,カーソルを移動すると消えていた文字がまた復活する.検索入力ボックスのイベントハンドラは「検索入力ボックス_TextChanged」だけだ.ボックス内にカーソルを置いただけではこのイベントは発生しない.⇒よくわからないが,ここではこういうものだとしておこう.

検索ボックスの右にある虫メガネは選択領域があるときには,巡回パネルの右スピンボタンと同じ動作になっていて,カードを巡回するようになっているが,インジケータ行が変化していない.⇒SearchBoxSearchにUpdateSelectionを追加してインジケータ行も連動するようになったが,動作的にはかなり問題がある.選択領域と検索領域を混用するというのはやはりまずいのではないか?

検索領域は検索結果の巡回にのみ使用するように限定すべきだと思う.確かに選択領域を巡回できる手段があるというのも悪いアイディアではないが,混乱の元になる.検索結果は新たな検索が実施されるまでは温存され,いつでもカード巡回パネルないし検索ボタンで巡回できるというのはよいと思う.従って,選択領域を検索領域にコピーするという操作は基本的に不要ないし有害であると思われる.

選択領域→ 検索領域のコピーはmGetSearchListで実施している.この関数をmGetSearchListから呼び出すというのはとりあえず停止しよう.また,検索結果を選択領域に組み込むというのも廃止すべきだろう.いや,検索領域を選択領域に落とすというのは結構有用性があるのではないか?だとすれば,検索結果をストレートに選択領域に転換するというのが一番わかり易いと思う.

ただし,次検索で巡回するのは検索領域であり,選択領域ではないから,たとえば検索解除しても次検索は可能ということになる.検索領域から選択領域へのコピーはMakeSearchSelectionで実施している.この関数ではSendSelectionで選択領域を送っているので,系図画面には反映されているが,一覧表が更新されていない.⇒MakeSearchSelectionでUpdateSelectionを実行するようにした.

F3を押すと巡回パネルが閉じてしまうが,開いたままでよいのではないか?⇒KeyDownSubで閉じている.F3キーの場合は開けたままとしてみよう.

検索条件をキープされているはずだが,入っていない.SearchStringは検索文字列リストに追加しているだけだ.CopySearchConditionがMakeSearchSelectionから呼び出されているが,これはZ.SCの内容を検索パネルのパラメータにコピーするものだ.検索ボックスではZ.SCを使っていないのではないか?QuickSearchでは事後にZ.SCを構成しているが,MakeSearchSelection実行後なので間に合わない.⇒先行してZ.SCを構成するようにした.

クィック検索では姓名を1文字列としているが,姓と名前に分離する必要がある.スペースを区切り文字としてSplitで分割するようにした.

キーワード「大納言」で検索し,結果を新規部分図として部分図に切り替えようとして,TOPOLOGY::BuildSameGeneMarriageGraphで停止した.多重グラフ2の枝リストが空になっている.しかし,これはすべてのノードが孤立ノードの場合なら,あり得ることだ.ダンプだけで停止しないようにした.