最後に開発環境にアクセスしたのが,2021年4月10日.それから,8ヶ月も経過してしまっている.開発履歴の中でリリース版が動作したのは,2021-03-16 版のみだ.それも実行時にエラーが出てしまったので,直近のリリース版V2.2.0.030_R20210317を使うことにしたが,バグが出てしまった.コラッツ数列を#55まで入力して,次の111→167を入力しようとしたところ,下図のようなエラーになった.
このパネルが65回くらい連続した後,下記のようなエラーに変わった.
幸いサンプルはこの直前に保存してあったので,障害を再現することは可能だ.しかし,この状態ではファイルを読み直しても作業を続行することは難しい.一応アイドル状態には戻るが,画面が壊れてしまっている.いま,この場で直ちにデバッグに入るというのはかなり難しい.データはまだ68件までしか入力されていない.少なくとも50までの奇数が繋がったところまでは持ち込みたいのだが…この対を外して続行できるかどうか試してみよう.
サーバーとのやり取りも少しおかしい.記事を修正して投稿しても反映されない.しかも,上記の2,3行を加筆して投稿したものが,一度は表示されているのに,元に戻ってしまっている.この間もロリポップ!との間で不具合があってサポートに問い合わせしたばかりだ.このときは「ログインの認証メールが届かない」というエラーで,「2021年12月2日14時7分 〜 2021年12月2日18時7分の時間帯で一部メールが届かないという事象が発生していた」というレポートを受け取っている.⇒ようやく更新された.ネットワーク経路のどこかでキャッシングされているという可能性もある.VPNを使っているので,それが影響している可能性も考えられる…今回は何の遅滞もなく更新された.
どういう訳だろう?エラーが収まってしまった.原因は後から追求することにして,とりあえず入力を続けることにしよう.⇒また,同じようなエラーがでてしまった.今度は251→167だ.今回は保存していないし,続行可能な状態にもならない.バックアップには167→111が入っている.この直前の状態でバックアップしたつもりだったのだが…しかし,(今回)エラーが起きた時点でバックアップしたものは再度開いたときにも同じエラーになる.
#102で305→203のところを読み間違えて,305→102と入力してしまったようだ.打ち直そうとして102を上書きして203としたところエラーになった.現在までのカード入力数はカード102を削除して120,ここで一応バックアップを取っておく.カードの追加はここで打ち切って,233, 215, 269の系統だけが非連結状態になっているので,これらを繋ぎ込むのに必要なカードだけを入力してみるようにしよう.ダメだ.この系統233はどんどん大きくなって1000を超えてしまった.とりあえず,ここで打ち切っておこう.
▲系図画面上で選択判定が残ってしまっている.他のカードを選択しても選択が消えない.
系統233以外の系統215, 269は連結できた.このチェーン(233)の先頭は719で,1の系統よりもずっと長い…この系統には,31, 41, 27, 55, 73などの若い番号が含まれるのでなんとか繋いでやりたいのだが,後でということにしておこう.
▲ページ設定を開こうとしたら,エラーが発生してパネルが開けない.プリンタの電源を入れてみたが効果なし.それどころか,印刷コマンドではエラーさえ表示しないで,無応答だ.印刷プレビューは開くことができる.
どこかに印刷のできる版はあるだろうか?古いバージョンのプログラムではバージョンの新しいファイルを開くことはできないので,Ver 2.2.0.028より新しい版を探さなくてはならない…
どうも所内LANも具合が悪い.頻繁に切れてしまう…開発機ではそういうことは起きていないようなので,外部接続用のノート固有の現象と見られるが…このマシーンはUSBが切れたり,画面が真っ赤になってしまったり,かなり末期的症状も見られるので,万一に備えて代替機を用意しておく必要がありそうだ.
開発機にインストールされている版は2.2.030だが,印刷周りの症状は同じだ.2.2.0.014版ではこのファイルを開くことはできない.しかし,ページ設定や,印刷パネルは開ける.このビルドは2020-10-31だ.印刷周りの不具合は2021年に入ってから潜り込んでいた模様だ.奥の手としては,一旦このファイルをテーブルとしてエクスポートしてから読み込むということが考えられる.やってみよう.ダメだ.エラーになってしまう.-1041:ファイルオープンエラーだが,その後にReuseWasteのエラーが出ている.どういうことだろう?データは131点で特に重いという訳ではない.
しかし,明らかにこのエクスポートファイルはおかしい.父番号がすべて(空欄を除き)すべて1になっていて,その代わり母番号のところに父番号に相当する値が入っている.続柄はすべて0になっていて,配偶者に(0), (1), (2)などが入っている.これは続柄に相当するはずだ.修正してOpenOfficeで保存して再オープンしてみたら,漢字がすべてハングルのような文字に変わってしまった…
マイクロソフトのOfficeのアイコンは入っていたが,開けない.Character setがKoreanになっていた.どうも打つ手がなくなってきた.一覧表のエクスポートは本来バージョンが変わって列が移動したり,削除されたりしても動作するようになっていたはずなのだが,どうやっても読み込めない.後は,スクリーンショットを取ってペイントで切り繋ぐしかなさそうだ.⇒何とかやりくりしてFBにアップロードした.どこまで伸びるのか分からないが,せめて,31, 41, 27など,50以下の若い数字が入っている系統233だけは本線に繋いでみたい.一画面に収まるようにしたいのだが,できるだろうか?
▲並び替えするとき,数字は文字列としてではなく,数として比較できるようにしたい…
▲新規カードでCheckSelectListのエラーが出る.
▲子ども欄の氏名を消去したとき,「結婚リンクが消えていない」エラーになる.
▲先祖並び替えが動作しない.ボタンが効かない.また,ドラッグ移動もできない.↑キーでは移動できるが,適用で戻ってしまう.系統が異なるときは移動できないのだろうか?先祖リストには表示されているのだが…
金融・国際・宗教・環境の視点から見る経済循環マトリックス
(a), (b)
2021/07/16 19:00
生島さん,下田さん
実体経済の範囲内では,経済循環マトリックス計算がほぼ問題なく動作していることが確認できたものと考えていますが,いかがでしょうか?今日は,これに「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」を追加してみたいと思います.財貨の移転を伴わない純貨幣的取引として考えられるものには以下が挙げられます.
- 貸出と返済(利息を除く元本分の返済,分割返済を含む)
- 債務・債権の移転(株式,金融商品の売買など)
- 供与・贈与・寄付(ご祝儀,カンパ,買収,補助金,給付金,政府開発援助など)
項目1では債務と債権が当事者のそれぞれの側に新たに発生します.項目2の債務・債権の移動では支払われる金額と債権の額面が一致しない(債券の市場価格に依存して)という場合があり得ます.項目3の供与などの場合には,債務も債権も発生しません.これらを一律に扱うのはかなり難しいのですが,経済循環マトリックス計算は本来「決済システム」なので,堅牢でかつ,マトリックスの圧縮(重ね合わせ)や縮約操作がつねに加算によって実行できる(加法性が成立する)ことが要求されます.従って,かなり無理筋のような気もしますが,以下のような「統一ルール」ですべてのパターンを扱うことにしたいと思います.
- セルにはその取引に関わる取引金額が記載される
- 通貨はつねに取引金額の記載されたセルの最左列のノードから最上行のノードに移動する
- 取引金額はつねに正の整数とする(総取引額を集計するため)
- 集計用に「債権」列と「債務」行を追加する 「債権」は実体経済における「支払高」に相当し,「債務」は「売上高」に相当する
- 別に純債務,純損益という項目を設ける 純債務=債務-債権,純損益=損益+純債務
「純債務」は実体経済マトリックスにおける損益に相当するもので,「純損益」=「損益」+「純債務」は,経済循環グラフにおける「持ち分」つまり,中央銀行当座預金残高(の増減)に相当すると考えられます.金融経済マトリックスは(そのように設計されているので,当然ながら)GDP計算にはまったく何の影響も与えません.基本的にこれ以上追加するものはないと考えられるので,実例を挙げて見ます.サンプルとして,以前提示したA社,B社,a, b, Y国(C社, c)という二国モデルを取り上げます.これに以下のような取引を追加してみました.
- A社はB社の社債100を購入
- A社は個人bに50を消費者信用貸付
- B社はY国に資金20を供与(Y国高官を買収するため)
- aはA社の新規発行株20を購入して社員株主となる
- aはY国の国債50を購入する
- bはA社からの借入金のうち,20を返済
- bはaから(A社の)株式10の有償譲渡を受ける
※追記:金融取引のみを抜粋した金融経済循環マトリックス↓.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 債権 | |
A社 | 社債100 | 貸付50 | 150 | |||
B社 | 供与20 | 20 | ||||
a | 新規株20 | 国債50 | 70 | |||
b | 返済20 | 株譲渡 10 |
30 | |||
Y国 | 0 | |||||
債務 | 40 | 100 | 10 | 50 | 70 | 270 |
純債務 | -110 | 80 | -60 | 20 | 70 | 0 |
※下記では「生産額の行」と「支出額の列」に囲まれた「実体経済マトリックス」の部分は不変.その外枠に「金融経済マトリックス」部分が追加されている.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 移入財 | 最終財 | 損益 | 支出額 | 債権 | |
A社 | 社債100 | 給与60 | 貸付50 | 輸出60 | 120 | 120 | 120 | 40 | 40 | 150 | ||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与60 | 輸出60 供与20 |
280 | 220 | 220 | 60 | -20 | 40 | 20 | |
a | 新規株20 | 輸出 60 国債50 |
60 | 60 | 0 | 60 | 70 | |||||
b | 返済20 | 株譲渡 10 |
輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | 30 | ||||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 販売 60 給与60 |
380 | 260 | 200 | 120 | -20 | 100 | 0 | ||
売上高 | 160 | 260 | 60 | 60 | 360 | 900 | 0 | |||||
卸売高 | 100 | 200 | 60 | 60 | 180 | 600 | ||||||
所得額 | 40 | 40 | 60 | 60 | 100 | 300 | ||||||
移出財 | 100 | 200 | 60 | 60 | 120 | 540 | ||||||
消費財 | 60 | 60 | 180 | 300 | ||||||||
純移出 | -20 | -20 | 60 | 60 | -80 | 0 | ||||||
生産額 | 40 | 40 | 60 | 60 | 100 | 300 | ||||||
債務 | 40 | 100 | 10 | 50 | 70 | 270 | ||||||
純債務 | -110 | 80 | -60 | 20 | 70 | 0 | ||||||
純損益 | -70 | 60 | -60 | 20 | 50 | 0 |
これらの取引の結果,A社は損益40から純損益-70に,B社は-20から60に,a, bは損益ゼロからそれぞれ,純損益-60, 20に,Y国は損益-20から純損益50に変化しました.債権,債務,純債務,純損益に関しては以下の式が成立します.
∑債権=∑債務=金融総取引額
∑純債務=0 (金融的ゼロサムゲーム)
∑純損益=0 (貨幣的ゼロサムゲーム)
ここで改めて,2021/07/01のメールに戻ってみたいと思います.この表↓は,一度「ぼぼデタラメに近い致命的な誤り」があるとして撤回されたものですが,もう一度引っ張り出してみました.これまでに述べた区分に従い,改めてこの表を①財貨の仕入れ(中間財取引,経費),②財貨の最終消費,③金融取引で色別に塗り直してみます.※以下の表では,資産配当を配当と略記しています.
公共 | 企業 | 金融 | 家計 | 事業支出 | |
公共 | 補助金,交付金 利子補給,融資, 返済,資産投資, 配当 |
基盤投資,資本投資 消費支出 補助金,財政投融資,配当 |
手数料 返済,公債償還 資産投資,配当 |
人件費 給付金 資産投資,配当 |
歳出 財政支出 公務員給与 |
企業 | 租税 公債購入,配当 払い下げ |
仕入れ,外注費,運賃 資本投資,消費支出 財テク,配当 |
返済,手数料 資産投資,配当 |
人件費 融資,返済 資産投資,配当 |
企業支出 営業費用 民間人給与 |
金融 | 租税,公債購入 融資,返済,資産投資 配当 |
資本投資,消費支出 融資,資産投資,配当 |
手数料 融資,返済 資産投資,配当 |
人件費 融資, 資産投資,配当 |
金融支出 営業費用 銀行員給与 |
家計 | 租税,保険料,手数料 水道料金,通行料 公債購入,配当 |
資本財購入,消費支出 融資,返済 個人投資,配当 |
手数料 貯蓄,返済 資産投資,配当 |
家事サービス報酬 資産投資,配当 |
家計支出 生活費用 |
事業収入 | 歳入 公租公課 現業部門売上,配当 |
企業収入 中間財売上 最終財売上 |
金融収入 営業収入 |
家計収入 個人所得 配当・報酬 |
通貨循環量 国民総生産 |
まだ覚束ないところもありますが,何とか色の割当ができました.この表ではセル内の取引品目はすべて,支払側から見た仕訳になっています.公共セクタが主体となって実施する全事業を大雑把に「公共サービス」としてくくるとすると,一般政府の徴収する公租・公課はその「サービス料金」に当たるので,「最終消費」とみなすこともできますが,会計的には一般には「経費(の一種)」という認識があると思われるので,取引種別は「仕入れ」としています※.※※
※租税を「みかじめ料」のような性質のものと考えれば,「持続可能な事業」を営むための「経費(サービスに対する支払い)」のようにも見えます.直接には「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」であることも確かなので,場合によっては「金融取引」の一種とみなすことも考えられます.一般に公共サービスは原則として無料で提供されるものと考えられますが,租税を「経費」と見た場合には,その時点ですでに該サービス料金を前払いしているとも言えます.
※※「国民主権」であれば,公務員は国民の下僕であると言われる,事業者は国民,公務員報酬はその「事業経費」に相当するから,「仕入れ」になるという解釈でよいのではないか?「租税」の「性格」ないし「位置付け」に関しては,どこかで再考する必要がある…
やや問題なのは,「資産投資」を金融取引としているところです.上記では,金融取引を「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」と定義していますが,初出(廃棄メール)では,「資産投資」は以下のように定義されています.
資産投資(資産・債権の購入):投資を目的とする不動産・金融資産(株式,有価証券)の購入,資産配当(財産所得)の源泉となる 不動産は第三者に貸し付けることによって初めて配当を生じるが,金融資産はそれ自体が有利子債権である 資産の再貸付(又貸し)ないしその資産を担保とする融資なども行われる 投資の目的が配当を得ることよりも資産の価格変動による売買差益を狙う場合には投機と呼ばれる 金融債権の償還は返済に含まれる
「金融資産」の売買が「金融取引」に当たることは問題ないと思われますが,「投資を目的とする不動産の購入」では,「財貨の移転」が発生していることは明らかです.少なくとも「土地」を生産することは(一般には)できないと考えられるので(埋め立てや宅地造成などで生産される場合はあり得る),(自己使用を目的としない場合には)土地の売買を資産投資とみなすことは妥当とも思われますが,建物の場合はもう少し込み入った話になります.建物は通常「生産」されて初めて存在するので,新築された時点ではGDPに算入されなくてはなりません.
資産投資とそのリターンである資産配当は,経済循環マトリックスでは前者を金融取引とし,後者を財貨(サービス)の最終消費とみなしているので,定義上の混乱はありませんが,「財貨の転売」がどう扱われるか?は問題です.財貨の転売を通常の商行為とみなすとすれば,「転売を目的とする財貨の購入」は「仕入れ」に該当します.この意味ではすべての耐久性のある商品の購入はつねに再販が可能であると推定されるので,すべて「仕入れ」とすることもあり得るでしょう.しかし,我々の経済循環マトリックス計算では「最終消費されていない製品は生産額に算入されない(売れ残り=在庫=商品価値ゼロ)」ということになっているので,計算がかなりあいまいなものになってしまいます.
以下のようなケースを考えてみましょう.Aは建築業者Cから新築住宅を200で購入し,それまで住んでいた住まいを不動産業者Bに100で売却します.業者Bはこれを業者Cに150で転売します.このマトリックスでは総生産は200となり,確かに新築住宅の価格と一致しています.
個人A | 不動産業者B | 建築業者C | 支払高 | 仕入高 | 最終財 | 移入財 | 損益 | 支出額 | |
A | 新築住宅購入 200 |
200 | 200 | -100 | 100 | ||||
B | 中古住宅購入 100 |
100 | 100 | 100 | 50 | 50 | |||
C | 住宅転売 150 |
150 | 150 | 150 | 50 | 50 | |||
売上高 | 100 | 150 | 200 | 450 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 150 | 250 | ||||||
所得額 | 100 | 50 | 50 | 200 | |||||
消費財 | 200 | 200 | |||||||
移出財 | 100 | 150 | 250 | ||||||
純移出 | 100 | 50 | -150 | 0 | |||||
生産額 | 100 | 50 | 50 | 200 |
マトリックス計算では「四面等価の原理」により,総生産=∑最終財=∑消費財ということになっているので,青字の売買価格はGDPには影響しません.従って,転売はつねに「仕入れ」として扱うというのでよいのではないでしょうか?本来ならこの生産額は建築業者Cが単独で「生成」したものなので,所得額が生成された付加価値を意味するとすれば,Cが200,A, Bはゼロとなるような気もしますが,この三すくみの売買ではAに100,Bに50,Cに50のように配分されます.損益はAが-100, BとCが50ですが,Bの50は転売益,Cの50は売買の差額です.マトリックス計算では取引の履歴までは分からないので,Cの利得50は「新築住宅200を建設・販売し,中古住宅150を購入した」という解釈の他にも,「仕入れ価格150で新築住宅を購入し,それを需要者に200で転売した」と読解することもできるためです.
財貨の転売を「仕入れ」として扱うとすれば,不動産(土地・建物)の売買もすべて「仕入れ」でよいのでしょうか?財貨には,①消費財,②耐久消費財,③資本財などがあります.経済循環マトリックスでは通常これらはエンドユーザが購入する時点で最終消費財とみなされますが,これらがなにかの理由で転売されるときには「仕入れ」とする必要があります.建物(資本財)の場合もこれと同様と考えてよいと思います.土地は通常はどうやっても生産できないので,やはり,金融商品と考えるべきではないでしょうか?基盤投資(インフラストラクチャの構築)は,「最終財の消費」とみなされるので,埋め立てや宅地造成の場合に限り基盤投資(消費)とすればよいのではないかと思います.
土地・建物の購入が資産投資に含まれているのはそれらを貸し付けることで収益を得ることができるためですが,少なくとも建物の賃貸は,それ以外の財貨のレンタル業と同様サービス業とみなすというのでよいと思います.従って,非居住用建物の購入は資産投資というより資本財の購入とみるべきでしょう.ただし,土地を資本財に含めることはできないので,区分するとすれば資産投資とするよりないのではないでしょうか?資産投資と資産配当には必ずしも因果関係があるとは限らない(つねに収益を得られるとは限らない)ので,土地から上がった収益は財貨サービスの売上としてカウントすればよいのではないかと思います.まとめると「土地の購入は個人の場合でも資産投資(金融取引)に区分する.建物は個人の場合も資本財の購入として扱う.資産ないし財貨の貸借から得られる収益(レント)はすべて最終消費として扱う」とします.上の例題を土地付き住宅の売買に拡張して試してみましょう.
個人A | 不動産業者B | 建築業者C | 支払高 | 仕入高 | 最終財 | 移入財 | 損益 | 支出額 | 債権 | |
A | 土地付き新築住宅 200+150 |
200 | 200 | -100 | 100 | 150 | ||||
B | 土地付き中古住宅 100+100 |
100 | 100 | 100 | 50 | 50 | 100 | |||
C | 土地付き住宅 100+120 改装費用50 |
150 | 100 | 50 | 100 | 50 | 100 | 120 | ||
売上高 | 100 | 150 | 200 | 450 | 0 | |||||
卸売高 | 100 | 100 | 200 | |||||||
所得額 | 100 | 50 | 100 | 250 | ||||||
消費財 | 50 | 200 | 250 | |||||||
移出財 | 100 | 100 | 200 | |||||||
純移出 | 100 | 0 | -100 | 0 | ||||||
生産額 | 100 | 50 | 100 | 250 | ||||||
債務 | 100 | 120 | 150 | 370 | ||||||
純債務 | -50 | 20 | 30 | 0 | ||||||
純損益 | -150 | 70 | 80 | 0 |
土地と建物の取引をつねに分離しなくてはならないというのも厄介な話ですが,「三面等価原理」がつねに成立するマトリックスを構成するためには避けられないところです.金融取引には「仕入れ」や「消費」という概念がないので,たとえば証券会社が債券を仕込んで販売するような場合でも,すべて「モノトーンの金融取引」として処理されます.ここまでをまとめると,金融マトリックスに含まれる取引には,①融資と返済,②資産投資(土地ないし金融資産の売買),③資金移転があり,建物は資本財に区分して資産投資の対象外とする,基盤投資,資本投資,資産配当はすべて最終消費財として処理される,ただし,資本財の転売は「仕入れ」として仕訳するということになりました.(土地がある種の金融資産とみなされることと,土地の担保価値が高いことの間には相関があるのではないでしょうか?)
上記の計算表で茶色文字の取引とその集計表が金融経済マトリックス,その反転(赤文字と青文字の取引とその集計)を実体経済マトリックスとすれば,総体としての経済循環マトリックスは,この2つの計算表の重ね合わせ(一種の圧縮)として示されます.日本経済の場合で言えば,実体経済マトリックスは(規模的に)ほぼ全銀システムに相当し,金融経済マトリックスはほぼ日銀ネット(インターバンクシステム)に相当すると考えられます.中央銀行がCBDCを発行し,現金取引が消滅するときには,すべての決済はこの統合された経済循環マトリックス上で実施されることになるのでしょう.(卸売型のCBDCを採用した場合には階層的なトポロジーを持つことになります…)
PS:経済循環マトリックスの当事者(経済単位)プロパティ
以下ではすべての取引は①中間消費財(仕入れ/経費),②最終消費財(純消費),③金融資産(借用証書,土地,株式,証券など)のいずれかの売買(貨幣的取引,買い戻しを含む)に関わるものであるとする.ただし,③金融資産の場合には対象商品が「空」である場合(供与=通貨の単純な移転の場合)もあり得る.
- 支払高 当事者が支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む,金融取引を含まない)
- 仕入高 当事者が中間消費財購入のために支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
- 最終財 当事者が最終消費財購入のために支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
- 移入財 当事者が中間消費財購入のために外部に支払ったすべての金額の合計(内部取引を含まない)
- 損益 売上高と支払い高の差額
- 支出額 当事者の最終財と損益の合計=所得額
- 債権 当事者が金融資産購入のために支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
- 売上高 当事者が受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む,金融取引を含まない)
- 卸売高 当事者が中間消費財の売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
- 所得額 売上高と仕入高の差額 当事者によって生産された付加価値
- 消費財 当事者が最終消費財の売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
- 移出財 当事者が中間消費財の外部への売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含まない)
- 純移出 移出財と移入財の差額=卸売高と仕入高の差額
- 生産額 消費財と純移出の合計=所得額
- 債務 当事者が金融資産売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
- 純債務 債務と債権の差額
- 純損益 損益と純債務の合計 当事者の持ち分の増減に当たる
所得額=支出額=生産額 (経済単位の三面等価原理)
2021/07/19 2:46
生島さん,下田さん
経済循環マトリックス計算に「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」を追加することによって,完璧とは言えませんが,ほぼ,地上におけるすべての経済活動を網羅的に表現できるモデルを提示することができたのではないかと思います.ツッコミどころ満載かとも思いますが,かなり長くなりましたので,そろそろまとめに入りたいと思います.
地上におけるすべての経済活動というのはやや大げさな言い回しですが,経済活動は無数の取引(トランザクション)の結合・連鎖から成り立っていることは明らかですから,すべての貨幣的取引がその上で処理可能であるとすれば,ほぼすべての経済活動を網羅するものになっていると言って過言ではありません.そこに参加する当事者のスケール(経済規模)に関わりなくすべて独立の主体として「同権である」,つまり,完全に同一のルールが適用されるという立場(法の下での平等)が,経済循環マトリックス計算の基本的な立ち位置であり,目標です.これを別の言葉で言えば,「貨幣の中立性」(誰の味方もしない)ということになります.
「結婚は両性の合意によってのみ成立する」という憲法上の規定がありますが,「取引は当事者の合意によってのみ成立する」,つまり,価格の決定を含む取引成立に関わる要件は当事者の自由意志による合意のみであり,それ以外の基準は存在しないというのが,「自由主義経済」の基本テーゼであると言えます.(もちろん,例外はあります.たとえば生活必需物資を独占的に販売している商人がある特定の相手を拒むことは認められません.物資によっては「専売制」が求められる場合もあります)「決して停止しない決済システム」というものがいつかこの地上に実現することがあるとすれば,その基底にはこのテーゼの存立が仮定されます.(複数の当事者が結託するという問題はありますが,それはまた別のテーマです.)
世の中には「貨幣的でない取引」というのもあります.たとえば,AからBに財貨Mが無償で移転するような場合です.このような「取引」には二つの解釈があり得ます.一つは,BがAから財貨Mを窃取した,つまり「泥棒」ないし「略奪」という犯罪行為,もうひとつはAが善意でBに財貨Mを提供するようなケースです.経済循環マトリックスでは「貨幣的でない取引」を対象としていないので(ベースが経済循環グラフという決済システムであるため),これらのケースは対象外とされますが,後者の場合,擬似的には,①BからAに財貨Mの価格に相当する通貨を移転する,②Bはこの通貨を用いてAから財貨Mを購入するという二つの手続きを合成することによって,ほぼ同等の操作を実現することは可能です.
実際,IMFの国際収支基準では食料や医薬品などの無償供与のような取引を経常移転収支(第二次所得収支)というカテゴリで扱っています.「経常収支」という用語はしばしば登場するので,それとの関係を見ておきたいと思います.財務省の「用語の解説」というページでは以下のように説明しています.
- 経常収支
- 貿易・サービス収支 貿易収支及びサービス収支の合計。実体取引に伴う収支状況を示す。
- 貿易収支 財貨(物)の輸出入の収支を示す。
国内居住者と外国人(非居住者)との間のモノ(財貨)の取引(輸出入)を計上する。 - サービス収支 サービス取引の収支を示す。
(サービス収支の主な項目)- 輸送:国際貨物、旅客運賃の受取・支払
- 旅行:訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払
- 金融:証券売買等に係る手数料等の受取・支払
- 知的財産権等使用料:特許権、著作権等の使用料の受取・支払
- 貿易収支 財貨(物)の輸出入の収支を示す。
- 第一次所得収支 対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示す。
(第一次所得収支の主な項目)- 直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払
- 証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払
- その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払
- 第二次所得収支 居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況を示す。
官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払等を計上する。
- 貿易・サービス収支 貿易収支及びサービス収支の合計。実体取引に伴う収支状況を示す。
- 資本移転等収支
対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除のほか、非生産・非金融資産の取得処分等の収支状況を示す。 - 金融収支
直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資及び外貨準備の合計。
金融資産にかかる居住者と非居住者間の債権・債務の移動を伴う取引の収支状況を示す。
これで見ると,「経常収支」というのは,ほぼ実体経済マトリックスの「純移出」に相当し,「金融収支」は金融経済マトリックスの「純債務」に相当しますが,微妙な(というか,かなり重大な)差異も存在します.「資本移転等収支」は,資本形成の援助としての道路・港湾の建設や,途上国への無償資金,金地金の購入,債務免除などが含まれるものと考えられます.「債務免除」は金融経済マトリックス上で,①債務免除額相当通貨の贈与と②それを原資とする債務返済の合成として実現できるので,金融経済の中で処理可能です.「非生産・非金融資産の取得処分等」の具体的内容は不明ですが,なんらかの「サービスの供与」のようなものとすれば,やはり実体・金融マトリックスの混合・合成ということになるのかもしれません.相違点を列挙してみましょう.
- 現行では,輸出入に関わる取引はすべて「仕入れ」に限定され,最終消費者が現地で直接購入するような場合には「純消費」として処理されている.従って,サービス収支:旅行などの費用は輸入に計上されない.
- 金融機関への手数料と利子・配当金など一括してサービス支出として処理しているため,サービス収支と第一次所得収支が分離されていない.
- 第二次所得収支は「対価を伴わない資産の提供」とされるが,この中には,通貨を提供/送金する場合と財貨を無償提供する場合が含まれている.その相手先も個人から国際機関までまちまちで,実体経済循環と金融経済循環のミックスになっている.
- 金融収支:直接投資には海外における工場建設など,資本財の購入(最終消費)が入っていると思われるが,現行ではおそらく,これらは「仕入れ」として処理されるのでなければ「投資」とはみなされない.
実体経済循環と金融経済循環を峻別するというのは悪くないスキームであると思っていますが,もう少し整理する必要があるかもしれません.整理するとすれば,①経常収支で扱う取引をすべて実体経済循環の中で処理する,②資本移転等収支と金融収支はすべて金融経済循環の中で処理されるとすべきでしょう.変更を要すると考えられる項目としては,
- 「財貨の移動を伴わない取引」のうち,債権・債務が発生しない取引をすべて実体経済循環に移動する
- (投資を目的とする)金地金の取引を金融資産取引に追加する
- 「資本投資」を金融経済循環に移動する
- 金融機関に対して支払う手数料(サービス取引)と利子・配当(第一次所得)を分離・区分して集計する
- 国外での純消費を輸出としてカウントする
3の「資本投資」の移動以外の実装はそれほど難しくないと考えられますが,「資本投資」を金融経済循環に移動するというのはかなり大きな副作用があるような気がします.いや,どの項目もそれぞれ厄介な問題をはらんでいるような気もします.1の場合はGDPに影響しない取引を実体経済循環に持ち込むことになります.2では,「非生産・非金融資産の取得処分等」というのは,土地と金地金の取引を意味しているのではないかと思われるので,現在の金融資産の定義から土地と金地金を除外する必要があるように思われます.4で利子・配当を分離するというのはよいのですが,そもそも利子・配当は国民総生産に含まれているのかいないのか?が問題です.
わたしは,金銭貸借も財貨のレンタルの一種と考えていて,建物,車,コンピュータなど財貨のレンタルと同様に,「通貨の使用料」としての「サービス料金」でよいと考えたのですが,利子・配当がGDPに含まれないとしたら,単に区分するというだけでなく,取り扱いを変える必要が出てきます.GDPに含まれない取引は経済循環マトリックスでは金融経済に含まれるので,むしろ金融経済マトリックスに移動するという方が筋が通っています.もし,それが正しいとすれば,むしろ第一次所得と第二次所得はどちらも金融経済で扱うという方がすっきりします.まず,この点を調べてみましょう.⇒わかり易い図がありました.京大経済学部岩本研究室国際収支(BOP)と国際投資ポジション(IIP)
ということは,①経常収支のうち,貿易・サービス収支は実体経済循環,②それ以外の(1)第一次所得収支(所得収支),(2)第二次所得収支(経常移転収支),(3)資本移転等収支,(4)金融収支はすべて金融経済循環でよいということになります※.また,こういう式もありました.
※この解釈は間違っている.上掲の説明図では経常収支のうち,所得収支と経常移転収支は国民総生産に含まれないとなっているが,「国民総生産」とは国民経済を単体経済と考えたときの「生産額」に他ならないので,それを理由に所得収支と経常移転収支を実体経済に含まれないとするのはおかしい.「利払い」などを「生産額」から除外するという考え方にも一理はあるが,それをやるとすればむしろ実体経済内部の「仕分け」として扱う方がよい.従って,(個人取引,内国取引,国際貿易を区別しない)我々の立場からすると,経常収支⇔実体経済である.
経常収支+資本移転収支ー金融収支+誤差脱漏=0
中にはこれを,経常収支-金融収支=0としているサイトもありますが,多分上記が正しいのでしょう.変更点をもう一度洗い直してみると,
- 海外における純消費を輸入に変更する
- 消費と投資を分離する
- 利子・配当などの金融収益を金融経済マトリックスに移動する
- 金融資産から土地と金地金を分離する
- 「対価の受領を伴わない固定資産の提供」を金融経済マトリックスで扱う(資本移転等収支)
1, 2, 3, 4は問題ないように思われますが,5は多少問題があるような気がします.
2021/07/25 5:58
生島さん,下田さん
経済循環マトリックスの仕様を整理して,移出財・移入財などの要素を廃止しました.その代わりに導入を予定していた移出高・移入高も使わないことにしたので,輸出入高などの数字は支払高/売上高と内部取引額から別途求める必要があります.このような変更を行った理由は,移出財・移入財ないし移出高・移入高などの値は「内部取引を含まない」ことになっているため,マトリックスの縮約演算を実施するときに単純な加算だけでは集計できなくなるためです.支払高・売上高や消費財・最終財などの値はいずれも内部取引を含んでいるので,縦横計算を実施したときにも単純に加算するだけで正しい値を得ることができます.経常収支などの外部の統計数字と比較するときには,たとえば輸入高であれば支払高から内部取引高を控除する必要がありますが,その不便よりも,メンテナンスの容易さ・システム的な堅牢性を優先しました.
以前の純移出=移出高-移入高に相当する値として,仕入尻=卸売高-仕入高を導入し,財収支=仕入尻+純消費とすると,財収支=損益となり,財収支は経常収支の貿易収支に相当するので,実体経済の損益と貿易収支が完全一致します.単純過ぎるような気もしますが,この方が直感的かつ,シンプルなのでこれでよいのではないでしょうか?「仕入尻」というのも聞き慣れない言葉ですが,このマトリックス計算の通常と異なるところは「取引を仕入れ/最終消費で区分する」という仕組み(取引データから付加価値を切り出す計算には不可欠)にあるので,それを示す特徴的な用語とお考えください.最終消費(純消費)では,①財貨消費,②サービス消費,③資本財消費,の3種を区分しています.①財貨消費はカッコなし,②サービス消費は(),③資本財消費は[]でくくりました.集計項目名の「消費」,「サー」,「投資」はそれぞれ,①財貨消費,②サービス消費,③資本財消費に該当します.
※追記:パートⅡ後書きでは,「経済循環マトリックスのルールブック:最終案」というのを提示しているが,すでにの時点でここまで整理が進んでいるということに気付かなかった,というよりまったく覚えていなかった!「最終案」では,新たに6個の新規パラメータ,①自家消費,②純仕入れ,③内需要,④外需要,⑤中間益,⑥販売益を導入しているが,ここでは「仕入尻」と「財収支」という2つのパラメータを導入するだけで,この問題を「完全」に解決している.「仕入尻」は「最終案」の「中間益」に相当し,「財収支」は「純輸出=貿易収支」に当たる.下記のマトリックスではどのような縮約を行っても,セル内の値はつねに一意に確定する.
A社 | B社 | a | b | X国 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 最終財 | 消費 | サー | 投資 | 損益 | 支出額 | |
A社 | 給与60 | 60 | 農産物60 車両[60] |
180 | 120 | 60 | 60 | 100 | 160 | |||||
B社 | 原料100 輸送(60) |
内販60 | 給与60 | 160 120 |
機械[80] | 360 | 160 | 200 | 60 | 60 | 80 | -100 | 100 | |
a | 食品60 | 60 | 新車 [60] | 120 | 120 | 60 | 60 | -60 | 60 | |||||
b | 旅行 (60) | 60 | 60 | 60 | 60 | |||||||||
X国 | 100120 | 60 | 60 | 60 | 220 180 |
60 260 |
720 | 280 | 440 | 120 | 120 | 200 | -60 | 380 |
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 200 60 |
給与60 販売 60 |
380 | 260 | 120 | 120 | 60 | 180 | ||||
売上高 | 280 | 260 | 60 | 60 | 660 | 440 | 1100 | |||||||
卸売高 | 100 | 200 | 60 | 60 | 420 | 120 | 540 | |||||||
所得額 | 160 | 100 | 60 | 60 | 380 | 180 | 560 | |||||||
仕入尻 | -20 | 40 | 60 | 60 | 140 | -140 | 0 | |||||||
消費財 | 180 | 60 | 240 | 320 | 560 | |||||||||
消費 | 120 | 60 | 180 | 60 | 240 | |||||||||
サー | 60 | 60 | 60 | 120 | ||||||||||
投資 | 200 | 200 | ||||||||||||
純消費 | 120 | -140 | -120 | -60 | -200 | 200 | 0 | |||||||
財収支 | 100 | -100 | -60 | 0 | -60 | 60 | 0 | |||||||
生産額 | 160 | 100 | 60 | 60 | 380 | 180 | 560 |
最終財消費を①消費,②サービス,③投資のように分割すると,下記のような式が成立します.
国内総生産(GDP)=消費(財貨+サービス)+投資+貿易・サービス収支
たとえば,X国のGDP=380,消費=120+120=240,投資=200,貿易・サービス収支=財収支=損益=-60なので,380=240+200-60となり,確かに上式が成立しています.経済循環マトリックスではすべての経済単位に同一ルールが適用されるので,たとえばB社について見れば,生産額=支出額=所得額=100,消費=60+60=120,投資=80,財収支=損益(貿易・サービス収支に該当)=-100から,100=120+80-100であることが確認できます.「閉じた経済循環マトリックス」全体では「外部取引」が存在しないため,∑損益=0,つまり,貿易・サービス収支に相当する数字はゼロになります.上の表で青色のセルの560という数字が3箇所に現れていますが,これにより,所得額=生産額=支出額という三面等価原理に加えて,∑最終消費=∑消費財=総消費=総生産=総所得=総支出という「閉じた経済循環(総体経済)の四面等価原理」が成立していることが見て取れます.上記の国内総生産等式は,ときには,以下のように表現されることもあります.
所得 = 消費 + 貯蓄
所得は一国経済で見れば,国民総生産に相当し,マトリックス計算では所得額として表示される数字です.消費は上式の消費+投資に当たります(投資は資本財という消費財を最終消費することなので消費に含まれます).貿易・サービス収支はマトリックス計算の財収支に当たりますが,この数字は実体経済マトリックスの「帳尻」である損益に一致するので,貯蓄と読み替えることができます(損益は持ち分=準備金の増減に当たる).もちろん,この式は国家だけでなく,すべての個別経済単位について成立しています.
- 資本財(固定資本財):工場・機械(ロボットを含む)・設備・車両・船舶・航空機・建物など耐久性があり,生産活動に用いて将来の収益を生み出す資本となるもの
- 基盤投資:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水などの大規模公共建造物(インフラストラクチャ)の築造・整備
- 資本投資:将来の生産活動のために必要とされる資本財(生産設備)の購入
ここでの「投資」は「資本投資」の意味で使われていますが,対象が国家の場合には基盤投資(インフラ構築)も含まれるとしてよいでしょう.「資本財」というのはいわば(経済主体擬人説で言う)サイボーグの肉体を構成するパーツ(プロティン)のようなものですが,わたしの個人的見解では個人が所有する車や住宅など,必ずしも生産に直結していない場合でも(肉体を増強するという意味の)資本財としてよいのではないかと考えています.耐久消費財の中でも洗濯機や冷蔵・冷凍庫,食洗機,ミシンなどの家電製品は資本財に加えてもよいかもしれません(なんと言っても我々は身体が資本です…).
さて,問題は金融経済マトリックスですが,「金融経済では純貨幣的取引のみを扱う」というのがマトリックス計算の原則なので,その線に沿ってまとめたいと思います.IMFの国際収支マニュアルとは必ずしも完全一致しないかもしれませんが,必要ならばその時点/場所で調整可能と思います.経常収支に含まれる「所得収支」と「移転収支」はマトリックスでは金融経済循環に含まれる(含まれることにした※)ので,経常収支を見るときには金融経済マトリックスを使う必要があります.※所得収支は実体経済に含まれるというのがわたしの本意でしたが…
以下の計算表では,所得収支(資産配当)に関係する数字は(),移転収支(財貨の移動を伴わない貨幣の純移転,つまり贈与)に関係する数字は[]で識別しています.
経常収支=貿易収支+所得収支(第一次所得収支)+移転収支(第二次所得収支)
A社 | B社 | a | b | X国 | Y国 | 支出額 | 損益 | 出金高 | 資産 配当 |
純転出 | 金融 資産 |
|
A社 | 社債100 | 配当(10) | 貸付50 配当(2) 免除[20] |
150(12) [20] |
160 | 100 | 182 | 12 | 20 | 150 | ||
B社 | 利子(10) | (10) | 供与[20] | 100 | -100 | 30 | 10 | 20 | ||||
a | 新規株100 | 100 | 国債50 | 60 | -60 | 150 | 150 | |||||
b | 返済20 利子(5) 免除分20 |
株譲渡20 | 60(5) | 60 | 0 | 65 | 5 | 60 | ||||
X国 | 140(15) | 100 | 20(10) | 50(2) [20] |
310(27) [20] |
50[20] | 380 | -60 | 427 | 27 | 40 | 360 |
Y国 | 配当(5) | (5) | 180 | 60 | 5 | 5 | ||||||
所得額 | 160 | 100 | 60 | 60 | 380 | 180 | 560 | |||||
貿易収支 | 100 | -100 | -60 | 0 | -60 | 60 | 0 | |||||
入金高 | 155 | 100 | 35 | 72 | 362 | 70 | 432 | |||||
金融収支 | -27 | 70 | -115 | 7 | -65 | 65 | 0 | |||||
資産所得 | 15 | 15 | 2 | 32 | 32 | |||||||
純転入 | 20 | 20 | 20 | 40 | ||||||||
金融負債 | 140 | 100 | 20 | 50 | 310 | 50 | 360 | |||||
純負債 | -10 | 100 | -130 | -10 | -50 | 50 | 0 | |||||
所得収支 | 3 | -10 | 15 | -3 | 5 | -5 | 0 | |||||
移転収支 | -20 | -20 | 0 | 20 | -20 | 20 | 0 | |||||
経常収支 | 83 | -130 | -45 | 17 | -75 | 75 | 0 | |||||
最終損益 | 73 | -30 | -175 | 7 | -125 | 125 | 0 |
支出額・損益・所得額・貿易収支の各項目は実体経済循環マトリックスから転記したものです.「貿易収支」は上の実体経済マトリックスでは「財収支」と呼ばれています.入金高・出金高は金融経済循環の各ノードの取引金額合計で,
金融収支=入金高-出金高ですが,これは実体経済循環の損益=財収支=貿易収支に相当します.最終損益は,貿易収支+金融収支で,実体経済と金融経済を統合した統合経済循環マトリックス上の帳尻を示す数字です.金融経済循環マトリックスの当事者(経済単位)プロパティのリストを示します.
金融経済循環マトリックスの当事者(経済単位)プロパティ
以下では,すべての取引は金融取引(財貨の移動を伴わない通貨のみの移転)であるとする.通常は債務/債権を対価とする等価交換取引だが,債務/債権の存在を仮定しない通貨の純移転(非経済的取引=贈与)の場合を含む.※グレー表示した項目は金融経済マトリックスに含まれない参考値
- 支出額 当事者が支出した最終消費額と損益の合計(参考値←実体経済循環計算表)
- 損益 売上高と支払い高の差額(参考値←実体経済循環計算表)
- 出金高 当事者が支出したすべての金融取引額の合計(内部取引を含む)
- 資産配当 当事者の債務に関わる債権者への配当支出金額の合計
- 純転出 当事者が債務/債権に関わりなく外部に純移転した金額の合計
- 金融資産 当事者が支出して獲得した債権額(実取引価格)の合計
- 所得額 当事者によって生産された付加価値(参考値←実体経済循環計算表)
- 貿易収支 =財収支=損益(参考値←実体経済循環計算表)
- 入金高 当事者が受け取ったすべての金融取引額の合計(内部取引を含む)
- 金融収支 入金高と出金高の差額
- 資産所得 当事者の債権に関わる配当(地代・利子・配金など)の収入金額の合計
- 純転入 当事者が債務/債権に関わりなく外部から受け取った純移転金額の合計
- 金融負債 当事者の債務(証書)の代価として受け取った金額(実取引価格)の合計
- 純負債 金融負債と金融資産の差額
- 所得収支 資産所得と資産配当の差額
- 移転収支 純転入と純転出の差額
- 経常収支 貿易収支と所得収支,移転収支の合計
- 最終損益 貿易収支と金融収支の合計
さて,これで一応経常収支のところまではできたと言いたいのですが,国際収支統計ではその後に,①資本移転等収支,②金融収支という2つの収支統計を立てています.これらは以前は資本収支として統合されていたものですが,2009年のIMFの国際収支マニュアル改定時に別建てに変更されています.①資本移転等収支には,(1)対価の受領を伴わない固定資産所有権の移動,(2)債務免除のほか、(3)非生産・非金融資産の取得処分等の収支状況が含まれますが,以下のような理由から経済循環マトリックスでは,資本移転等収支という別枠を設けないことにしました.
経済循環マトリックス計算は「決済システム」であることを本義とするので,「通貨の移転を伴わない財貨のみの移動」という取引は基本的に対象外ですが,AからBに財貨Mを無償で移転する場合,たとえば,通貨の最小単位を1円として,BがAに1円を支払って財貨Mを手に入れるという取引は現実的に可能です.別の方法としては,①AからBにM円の資金を提供し,ついで,②Bがその資金で財貨Mを購入するということもできます.「対価の受領を伴わない固定資産所有権の移動」はこのような「通貨の移転を伴わない財貨のみの移動」取引に含まれるため,システムを拡張することなく対処可能であるとしました.
金融経済マトリックス計算では,(a)資産配当計算,(b)通貨の純移転を除くすべての金融取引(c)は,債務者⇔債権者間の資金移動として扱われます.つまり,(a), (b)を除く一般の金融取引(c)は,すべて「債務/債権に関わる取引」であるということになります.このとき,債務の返済は債務者B→債権者Aのように表示されますが,これは債務者Bが債権者Aに新たな債務(AはBに債務を負う)関係を設定していることと(外形的には)等価であり,自動的にはAの返済額分の債務が帳消しになるような動作にはなりません.これはマトリックス計算がストック(負債残高)を保持していないための事象です.
また,「通貨の移転も財貨の移動も発生しない」という取引もあり得ます.たとえば「債務免除」という取引の場合,債権者Aと債務者Bの間には資金移動は発生しませんが,明らかに債務者Bには免除額相当の利得が発生しています.上表にはこのような事例としてA社からbへの貸付50のうち,20を債務免除する取引を記載しました.この取引は実際には,①A社からbに資金20を純移転(供与)したのち,②bからA社への債務取引として20を送金するという手順の合成として実現されます.債務免除という取引は「資本移転等収支」に含まれますが,日本銀行の国際収支統計項目別の計上方法の概要では,その手続を以下のように説明しているので,上記の「合成手順」とまったく同義と考えられます.
債務免除とは、債権者と債務者の契約上の合意によって債務の全額または一部を任意で免除することです。具体的にみると、対外貸付の返済を免除した場合、「金融収支」の該当項目において資産の減少を計上し、同額を「債務免除」の支払に計上します。
「非生産・非金融資産取引」には,天然資源(鉱業権、土地等),経済資産として認識される契約・リース・ライセンス(排出権、移籍金等)およびマーケティング資産(商標権等)の取引が含まれます.ただし,これらの経済資産は財貨ではなく,「権利」のような「無形資産」と考えられているようです.しかし,これらの「経済資産」を「資産」として扱うのは,テクニカルな意味でかなり難しいような気がします.「土地」のようなものであれば,売買することにより所有権が移転することは明らかですが,「ライセンス」などの無形資産の場合,その権利が排他的なものであることは必ずしも保証されません.
知的財産権等使用料などはサービス消費に区分されますが,その所得源泉としての知的財産権などは,むしろ「資本財」の区分に入れる方がわかり易いというのが我々のポジションです(つまり,生産財).生島さんなら,多分「たとえば,AIは人間の知能・能力を増強するという意味での資本財」という立ち位置にご同意頂けるのではないかと思います…以上から,「資本移転等収支」という枠組みは,既存の実体経済マトリックスないし,金融経済マトリックスの中で(システムを拡張することなく)処理可能と考えています.
ここで,IMFの国際収支マニュアル第6版に含まれる,国際投資ポジション(InternationalInvestmentPosition)という取り組みに関して少し検討してみたいと思います.国際投資ポジションとは,「年末などの特定日における,ある経済圏(国や地域)の対外金融資産・負債の残高(ストック)を表す統計表」として定義されています.上記したように,マトリックス計算では(ノードの持ち分以外の)ストック(負債残高)情報を持っていませんが,「取引データ」を使ってどこまでできるかを試してみることも意義があるのではないかと思います.
下記のマトリックスは,上の金融経済マトリックス計算表から起こした負債残高表です.負債残高はマトリックスのセルに個別に記録された{}で囲まれた数値で,N(i)をi番目のノード,C(i,j)をi行・j列のセルとすると,C(i,j)の負債残高{d}は,ノードN(j)はノードN(i)にdの負債を負っていることを意味します.金融経済マトリックス計算では,金融資産と金融負債の絶対値にはあまり意味がなく,その差額である「純負債」のみが正しい値になっていましたが,負債残高表を使えば「正味資産/負債」を計算することができます.下記の表では金融所得取引と純移転取引は省きました.
A社 | B社 | a | b | X国 | Y国 | 支出額 | 損益 | 出金高 | 純転出 | 金融 資産 |
正味 資産 |
|
A社 | 社債100 {100} |
貸付50 {10} |
150 {110} |
160 | 100 | 182 | 20 | 150 | 110 | |||
B社 | (10) | 100 | -100 | 30 | 20 | |||||||
a | 新規株100 {100} |
100 {100} |
国債50 {50} |
60 | -60 | 150 | 150 | 150 | ||||
b | 返済20 免除分20 |
株譲渡20 {20} |
60 {20} |
60 | 0 | 65 | 60 | 20 | ||||
X国 | 140 {100} |
100 {100} |
20 {20} |
50 {10} |
310 {230} |
50 {50} |
380 | -60 | 427 | 40 | 360 | 280 |
Y国 | 180 | 60 | 5 | 0 | ||||||||
所得額 | 160 | 100 | 60 | 60 | 380 | 180 | 560 | |||||
貿易収支 | 100 | -100 | -60 | 0 | -60 | 60 | 0 | |||||
入金高 | 155 | 100 | 35 | 72 | 362 | 70 | 432 | |||||
金融収支 | -27 | 70 | -115 | 7 | -65 | 65 | 0 | |||||
純転入 | 20 | 20 | 20 | 40 | ||||||||
金融負債 | 140 | 100 | 20 | 50 | 310 | 50 | 360 | |||||
正味負債 | 100 | 100 | 20 | 10 | 230 | 50 | 280 | |||||
純負債 | -10 | 100 | -130 | -10 | -50 | 50 | 0 | |||||
所得収支 | 3 | -10 | 15 | -3 | 5 | -5 | 0 | |||||
移転収支 | -20 | -20 | 0 | 20 | -20 | 20 | 0 | |||||
経常収支 | 83 | -130 | -45 | 17 | -75 | 75 | 0 | |||||
最終損益 | 73 | -30 | -175 | 7 | -125 | 125 | 0 |
やってみましたが,これも手間が掛かる割にはあまり引き合わない計算であるような気もします.というのは,この{負債残高}はすべての債務・債権の合算であり,たとえば貸付も株式所有も証券もすべて一緒くたに合算したものになっているからです.しかも,この計算方式では「持ち合い」ということもうまく表現することができません.ノードN(i)とノードN(j)が同額の株を持ち合っていた場合には,C(i,j)の値も,C(j,i)の値もどちらもゼロになってしまうからです.「返済」という取引を表示するのに,取引金額に「負値」を使うことを許すことにすれば,この問題は解消できる可能性はあります.T(i,j)という取引では,通貨はつねにノードN(i)からN(j)に移動するものとしていましたが,値がマイナスの場合には移動方向を逆転させるということは実装可能です.この方針でもう一度負債残高表を書き直してみましょう.
負債を減額するような取引はすべて負値で表示するということになるので,上記の例で言えば,b→A社の返済20と,A社→bの債務免除に対応した,b→A社の免除分20の取引が負値となり,取引の位置も(A社, b)から(b, A社)に移動することになります.b→aの株譲渡20というのはどうなるのでしょう?これはaの持っている債権20をbに移転するという取引ですが,そのためには,aの資産を減額し,bの資産を同額増額する必要があります.現行では,bの資産が増額し,aの負債を増額するという動作になっています.取引額にマイナスを与えた場合の動作T(x, y)はxの資産を減額し,yの負債も同額減じるような動作になるはずです.aの資産の源泉である負債の債務者Xが特定できれば,Xがaからその債権を買い戻し,ついでbにそれを売却すればよいのですが,そこまでの履歴は残っていません.少し考えてみましょう.
金融取引ではすでに3種の取引種別(債権取引,資産所得,純移転)を導入しているので,これ以上複雑にしたくないところですが,少なくとももう一種の取引を導入するしかなさそうな感じです.債務/債権取引には以下のパターンがあります.
- Aの資産増加,Bの負債増加 通貨(+)の移動はA→B 負債の発生
- Aの資産減少,Bの負債減少 通貨(-)の移動はB→A 負債の返済
- Aの資産増加,Bの資産減少 通貨(+)の移動はA→B 債権の移転
- Aの負債増加,Bの負債減少 通貨(-)の移動はB→A 債務の移転
2のパターンは1の逆と考えられるので,1の取引パターンで取引額に負値を与えることで表現できます.4の取引も同様に,3のパターンの逆パターンとみなすことができるとすれば,3の取引種別を導入すればよいということになりそうです.⇒いや,この方法には欠陥があります.マトリックス計算の縦横計算,つまり複式簿記算法が崩れてしまいます.これを避けるためには,たとえば,b→a+20(bの資産を+20)とした上でa→a-20(aの資産を-20)とすれば,3のパターンをカバーすることは可能ですが,セルごとの負債残高をキープしようと思ったら,これだけでは足りません.やはり,a→A-20,b->A+20という2ステップの合成しかなさそうです※.逆に言えば,負値を許すことにすれば取引種別は標準的な「債権取引」があればよいということになります.いまのところ個別ノード間の債務状況までの興味はないので,負債残高表は作らないという方針で,前者の方法※※を試してみることにします.
※aが保有するA社の株式20をbに有償譲渡する手順.A社の負債20がaからbに移転するため,a→A-20,b->A+20という合成ステップになる.
※※前者の方法:aが保有する株式20をbに有償譲渡(転売)するという取引を①b→a+20,②a→a-20という合成ステップとして実現する手順.この取引によってaの資産は20減少し,bの資産は20増加する.
A社 | B社 | a | b | X国 | Y国 | 出金高 | 資産 配当 |
純転 出 |
金融 資産 |
|
A社 | 社債100 | 配当(10) | 貸付50配当(2) 免除[20]-20 返済-20 |
(12)[20] 150-40 |
142 | 12 | 20 | 110 | ||
B社 | 利子(10) | (10) | 供与[20] | 30 | 10 | 20 | ||||
a | 新規株100 | 資産減-20 | 100-20 | 国債50 | 130 | 130 | ||||
b | 利子(5) | 資産増20 | (5)20 | 25 | 5 | 20 | ||||
X国 | (15)100 | 100 | (10) | (2)[20] 50-40 |
(27)[20] 250-40 |
[20]50 | 327 | 27 | 40 | 260 |
Y国 | 配当(5) | (5) | 5 | 5 | ||||||
入金高 | 115 | 100 | 15 | 32 | 262 | 70 | 332 | |||
金融収支 | -27 | 70 | -115 | 7 | -65 | 65 | 0 | |||
資産所得 | 15 | 15 | 2 | 32 | 32 | |||||
純転入 | 20 | 20 | 20 | 40 | ||||||
金融負債 | 100 | 100 | 10 | 210 | 50 | 260 | ||||
純負債 | -10 | 100 | -130 | -10 | -50 | 50 | ||||
貿易収支 | 100 | -100 | -60 | 0 | -60 | 60 | 0 | |||
所得収支 | 3 | -10 | 15 | -3 | 5 | -5 | ||||
移転収支 | -20 | -20 | 0 | 20 | -20 | 20 | ||||
経常収支 | 83 | -130 | -45 | 17 | -75 | 75 | ||||
最終損益 | 73 | -30 | -175 | 7 | -125 | 125 | 0 |
前の債務残高表と比較すると,金融資産/負債の帳尻が280から260に減じています.これは前回の計算には株譲渡20の調整が入っていなかったためと思われます※※.この方式では債務残高表を作ることはできませんが,正味資産/負債は正しく計算できます.もし,債務残高表を作るのであれば,「債務/債権の移転」では一つの取引を分解して元の債務関係を調整するステップを追加する必要がありますが,IMFの「国際投資ポジション」でも,そこまでは要求していないようなので,ここまでとします.国際投資ポジションでは債権を分類して区分集計していますが,これもパスとします.(国際投資ポジションでは,直接投資,証券投資,その他投資,外貨準備を区分,さらに直接投資を株式資本,再投資収益,その他資本に区分,証券投資を株式と債券に分割し,債券では中長期債,短期債,金融派生商品を区分している)
※注意:金融資産/負債の数値は実取引金額から起算しているので,必ずしも債券額面の総額を示すものではありません
※※「前回の計算」に見える「b→a株譲渡20」は実質的には「bはaに20貸付」という意味になり,「株譲渡」の手順になっていない.
IMFの国際収支基準は何度か改訂されていますが,2009年の改訂にはリーマンショックの反省が込められていると見ることもできます.ただし,その反省が,金融経済の欠陥を正すためのものであるのか?それともその欠陥をむしろ隠蔽することを意図するものであったのかはよく分かりません.少なくとも実体経済と金融経済をできるだけデカップリングするという方向性だけは伺われるように思われます.実体経済と金融経済は一卵性シャム双生児のように身体のごく一部で結合しているだけで,ほとんど「昼」と「夜」くらいの隔たりがあります※.
※一例を挙げると,上の計算表で個人bは,A社から50の貸付を受け,うち20を返済して,20を債務免除してもらっていますが,実体経済の計算表で見ると,Y国に海外旅行して60を消費しています(笑).この人物は給与60をB社から得ているので,自分で稼いだ分を使っているのかも知れませんが…まぁ,昼と夜の顔が違うのは仕方ありません…
実際,経済循環マトリックスで見ると,実体経済循環と金融経済循環の接点は「持ち分」の共有という一点に尽きます.金融経済の「資本投資」と実体経済の「資本投資」では同じことばを使いながら,実態はまったく異なると言ってよいくらいです.一応ここまでできたので,経済循環マトリックスを使って少し遊んでみることにしましょう.たとえば,儒教的経済循環マトリックス,仏教的経済循環マトリックス,イスラム的経済循環マトリックスなどこれまで経済とは無関係と思われてきた観念が経済と深く結びついていることが確認できます.
通貨の純移転という取引は標準の金融循環マトリックスでは金融資産/負債収支に関わりがありませんが,これを金融収支に直接組み込んだものが儒教的経済循環マトリックスです.つまり,通貨の無償供与を償還期限無期限の債務と捉えるという考え方です.別のことばで言えば,「恩義はいつか返す必要がある」という倫理規定を経済の用語で説明し直したものと言えるでしょう.「贈与」という関係/取引は通常では「債務」を発生させませんが,儒教的世界観ではそうではありません.ただでもらったものはいつか必ず「恩返し」しなくてはならないという強い観念(原理)が存在します.親子関係における「孝」や,主従関係における「忠/恩」などの観念はそれを「徳目」として強調したものですが,ある意味で合理的/数理的な考え方であるようにも思われます.かつては先進国からODAを受けていた開発途上国が経済発展して債権取り崩し国となった老大国を援助するような逆転現象も,「国際収支発展段階説」で説明するより,むしろ「儒教的経済循環」で説明した方がわかり易いかもしれません.え!?,中国の孔子学院ってそのために設立されてたの?
仏教的経済循環マトリックスというのも,これと似ていますが,負債残高表を持たないところにその特長があります.儒教的経済循環マトリックスには負債残高表が存在し,誰から誰への負債か,その額はいくらかということが「記憶」され,債務返済はその債権者に対して直接なされなくては意味がありません(親は一組しかいないし,忠臣は二君に仕えることはできない).一方,仏教的経済循環マトリックスでは負債残高表を持たないので,誰にいくら借りがあったのかを追跡することができません.しかし,その債務はいつか必ず返済されなくてはならないものであり,また,なんらかの複雑な経路を経て自分自身のところにも帰還してくるものであると説いています.この理論はグラフ理論的にはかなり納得のいくものです(実際,経済=エコシステムが本質的に循環であることは明白です).「借りたものは返さなくてはならない」というのは交換経済の鉄則ですが,その返済は必ずしも当の相手に対するものである必要はないという自由度がこの経済循環システムのおおらかなところです.システム的にはこれで完全に整合するので,ある意味で儒教的経済循環より一回り大きいスケール感があります.
イスラム的経済循環マトリックスというのは,所得収支を金融経済循環から実体経済循環に移動したものと見ることができます.イスラムではお金を貸して利息を取ることを教義的に禁じていますが,イスラムの教義に従って運営されるイスラム銀行というのも存在します.イスラム銀行も通常の銀行と同様の融資(貸出)を行いますが,貸したお金に対する利息ではなく,金融サービスに対する対価として妥当な手数料を徴収します.これは結局,所得収支を実体経済マトリックス上で計算することを意味します.わたしは元々,所得収支というのは,お金の使用料(レント)であり,レンタル料金と同種の性格のものなのだから,実体経済で扱うべきだと考えていたので,イスラム的経済循環の方がしっくりきます.経済循環マトリックスの帳尻がゼロサムゲームであるというのは,厳然たるというより,数理的な自然法則ですが,そのゲームを弱肉強食の勝者総取りゲームとするのか,それとも相互に助け合う共助共栄のシステムにするのかはすぐれてシステム設計に依存します.このような意味で,過去の偉大な宗教家はそれぞれなんらかの意味で,経済循環システムの設計者でもあったことは確かでしょう.
NHKの大河ドラマ「青天を衝け」の主人公渋沢栄一はわたしが居住しているこの町が生んだ「郷土の偉人」ですが※,その彼に「論語と算盤」という本があります.わたしはこの本をまだ読んでいませんが,西欧流の資本主義を学んだ栄一による西欧流資本主義批判であったのではないか?という気がしています.経済と倫理・宗教が表裏一体の関係にあることはある意味で当然かもしれません.ユーゴーのレ・ミゼラブルの中に,刑務所から脱走したジャン・ヴァルジャンが泊めてもらった教会から夜中に銀の食器を盗んで逃走し,警吏に不審者として見咎められてミリエルという田舎司教の前に引き出されるという場面があります.ここでは「貨幣的でない取引」の意味する「窃盗」という通常の解釈が,第二の解釈である「善意の贈与」に逆転し,倍返しで「銀の燭台」まで差し出されるという劇的なシーンです.ジャン・ヴァルジャンを連行した警吏はこの経済学的解釈の大逆転に対抗することができません.経済とは,広い意味での世界解釈と言えるのではないでしょうか?
イエスは「カエサルのものはカエサルに」と述べていますから,彼が経済循環,特に貨幣の循環について深い洞察を持っていたことは確かだと思いますが,キリスト的経済循環マトリックスの具体的なイメージはただちには思い浮かびません.しかし,「一日の苦労は,その日一日だけで十分である」と述べているところからも,その経済循環が「持ち分」の増減の少ない,従って所得格差も極小であるような(入次数と出次数が一致する)オイラー有向閉路的な持続可能社会を目指していたことは間違いないように思われます.「貨幣的でない取引」の一方の極には「略奪」があり,それを転倒するものがミリエル司教の「贈与」であるとすれば,「地上のものではない」とされる「イエスの天国」も意外に身近な現実性を帯びて来ます.
※蛇足:渋沢栄一が新一万円札の顔になるというのはある意味で妥当な帰結と思われますが,それを一番最初に提案したのはわたしの高校時代の友人加藤浩康です.加藤は埼玉県議をやっていましたが,渋沢栄一翁顕彰事業の一環として,栄一の肖像を一万円札に採用することを十年前に提唱し,率先して活発な議会活動を行っていました.
経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2021/07/25)
支払高=∑(行の全要素)=仕入高+最終財
売上高=∑(列の全要素)=卸売高+消費財
仕入高=∑(行の全仕入)= 支払高-最終財
卸売高=∑(列の全仕入)=売上高-消費財
最終財=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
消費財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
純消費=消費財-最終財
仕入尻=卸売高-仕入高
財収支=仕入尻+純消費
損益=売上高-支払高=財収支
所得額=売上高-仕入高
生産額=消費財+仕入尻
支出額=最終財+損益
所得額=純支出=純生産(単位経済の三面等価原理)
総消費=∑(消費財)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)
総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
総取引額=∑支払高=∑売上高
中間総取引額=∑(卸売高)=∑(仕入高)
総取引額(トランザクション総量)=中間総取引額+総生産
金融収支=純負債+所得収支+移転収支
最終損益=貿易収支(損益)+金融収支
∑(損益)=∑(財収支)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(金融収支)=0(金融的ゼロサムゲーム)
∑(最終損益)=∑(損益+金融収支)=∑(損益)+∑(金融収支)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)
国内総生産=消費+投資+政府支出+純輸出
経常収支=貿易収支+所得収支(第一次所得収支)+移転収支(第二次所得収支)
国民総所得(GNI)=国内総生産(GDP)+所得収支
国民総可処分所得(GNDI)=国民総所得(GNI)+移転収支
2021/07/27 15:25
生島さん,下田さん
「経済」とは「個別取引」の総和ですが,取引の形態にはいくつかのパターンがあります.
- 財貨と財貨の交換 (物々交換)
- 財貨のみの移転 (略奪/贈与)
- 財貨と通貨の交換 (実体経済)
- 通貨のみの移転 (金融経済)
「財貨と財貨」の交換は「物々交換」の時代に行われる取引で,現在はかなり特殊な場合(外貨不足国家間のバーター貿易,禁輸品の交換取引など)にしか行われません.「財貨のみの移転」は「物々交換」よりももっと古い取引形態で,その経済主体の特性,意図により,窃盗・詐取・略奪・侵略・戦争(国家も独立した経済主体の一つ)から物資の配給・供与・分配・養育・扶養・介護・ギフト・災害支援・困窮者支援,その他の幅広いスペクトラムを持つ経済行為です.(これら2つの取引形態は経済循環マトリックスでは原則として扱われません)実体経済マトリックスでは「財貨と通貨の交換」のみを対象とし,金融経済マトリックスは「通貨のみの移転」を扱います.ただし,実体経済マトリックスと金融経済マトリックスを合併した統合経済循環マトリックス上では「財貨のみの移転」取引を,金融経済マトリックス上での「資金提供」と実体経済マトリックス上の「提供資金による購入」手続きに分散/分割することにより,擬似的な「貨幣的取引」として扱うこともできます.
「デフォルトしない決済システム」上に構築された「健全な経済循環グラフ」をエコシステム(永続経済循環グラフ)と呼ぶとすれば,「永続経済循環グラフ」の定式化はほぼ「持続可能社会の実現」と同義であると考えられます.「健全な」という用語は未定義ですが,ここでは「病理的な」という語句の反対語とお考えください.(現在の貨幣循環システムはかなり「病理的(pathological)」であるという認識があります)健全な経済循環グラフを定式化するためには,おそらく環境経済学の領域にまで経済循環グラフを拡張する必要があるでしょう.
自然界は完璧な食物連鎖ネットワークからなる「無駄のない」エコシステムと考えられますが,それを経済循環グラフとして表現するにはどうしたらよいのでしょう?食物連鎖は複数の経済的取引からなる循環系と考えられますが,明らかにこの「取引」は「財貨のみの移転」カテゴリーに属する「略奪」や「捕食」の世界です.「捕食者」は相手を丸ごと食べてしまうので,仮に自然界で通用する「仮想通貨」を考えたとしても,それを供与する相手がすでに存在しないため,意味をなしません.生命のようなものを一種の「通貨」とみなして「通貨のみの移転」とするスキームは考えられますが,この通貨はただちに「蒸発」してしまうので,計量に向きません.
ともかく,自然界を①植物界,②動物界,③人間界,④環境(大気・大洋)の4セクタからなる酸素循環系として構成するところから始めてみましょう.取引対象となる「財貨」は経済主体である生物の個体そのものですが,(ほとんど)すべての生物は有機物(炭素化合物)であると考えられるので,その個体に含まれる炭素原子量を個体の「価格」とみなすことにします.通貨単位は酸素分子です.二酸化炭素は1個の酸素分子と1個の炭素原子が結合したものですから,n単位の個体生物を分解するためには,n分子の酸素を要すると仮定できます※.つまり,n単位の個体生物とn分子の酸素は等価であると言えます.
生物の通常の生命活動の部分を(通貨の移動を伴わない)実体経済とし,酸素通貨の交換プロセスをその裏面の金融経済(酸素経済)として見ることもできるかもしれません.「環境」はこのモデルでは,一種の中央銀行のような役割を果たしているものと考えられますが,酸素経済ではすべての球が集まってくるピッチャのようなポジションですから,むしろ主要プレーヤとも見られます.植物界には1000単位の植物が生育し,動物界には100単位,人間界には20単位の個体が生息しているものとしましょう.以下のようなシチュエーションを考えます.
- 植物1000単位のうちの400単位は草食動物の食料となり,100単位が人間の食料になります.
- 人間は,さらに植物200単位を燃料として消費します.
- 植物は生成した有機物のうち,100単位を自身の生命活動のために消費し,残り200単位は土壌に還ります.
- 土壌に戻った200単位は植物界の微生物によって全量が水と二酸化炭素に分解されるものとします.
- 動物100単位のうち50単位は別の肉食動物の食料として消費され,20単位が人間の食料となります.
- 動物は食物の動植物から摂取した有機成分のうちの350単位を自身の生命活動のために消費します.
- 捕食されなかった30単位の動物は,植物界の微生物によって全量が水と二酸化炭素に分解されます.
- 人間は食物の動植物から摂取した有機成分のうち100単位を自身の生命活動のために消費します.
- 誰からも捕食されずに死を迎えた人間はすべて荼毘に付されて環境に召還されます.
植物界(1000) | 動物界(100) | 人間界(20) | 大気・大洋 | 仕入高 | 最終財 | 酸素 排気 |
CO2 排気 |
酸炭 損益 |
|
植物界 | P生産1000 P活動100 P分解200 |
P草食400 | P菜食100 P燃料200 |
O2排気1000 CO2排気500 |
1500 | 500 | 1000 | 500 | 500 |
動物界 | A分解30 | A生産100 A捕食50 A活動350 |
A肉食20 | CO2排気380 | 170 | 380 | 380 | -380 | |
人間界 | H生産20 H活動100 H分解20 |
CO2排気120 | 20 | 120 | 120 | -120 | |||
大気・大洋 | O2吸気330 CO2吸気1000 |
O2吸気350 | O2吸気320 | ||||||
卸売高 | 1000 | 550 | 140 | 1690 | |||||
消費財 | 330 | 350 | 320 | 1000 | |||||
酸素吸気 | 330 | 350 | 320 | 1000 | |||||
CO2吸気 | 1000 | 1000 | |||||||
酸炭収支 | -670 | 350 | 320 | 0 |
この経済では実体経済マトリックス上では通貨の移動は行われないので,支払高と売上高の集計はありません.また,酸素と二酸化炭素はコインの裏表のような関係にあります.この経済循環マトリックスは化石燃料が使われる以前の主に農耕を主たる産業とする経済モデルですが,(薪炭)燃料200というのが計上されているので(この数字には食用および灯火用の油が含まれていると考えるのが妥当でしょう),産業革命以前のほぼほとんどの国,ないし地域の環境経済に適用できるのではないかと思います.このマトリックスを読む上でもっとも重要なポイントは,「この経済ではいかなる事態が起ころうとも,酸素供給量が全生物の生存に要する所要酸素量を下回ることはない」,つまり,「この環境経済ではストックとしての酸素量は増加することはあっても,減少することはない」と言えるという点にあります.なぜ,そんなことが言えるのでしょうか?ぜひ考えて頂きたいと思います.
このマトリックスに化石燃料の収支を導入する前に,これを少しアレンジして,人類の生命維持系経済循環とでも呼ぶべきマトリックスを提示してみたいと思います.経済循環系を4つのセクタに分割します.①農地・飼料用農地(放牧地を含む)・果樹園・緑藻(海洋植物系),②家畜・魚介類(人間の食糧となる動物性タンパク源),③人類,④環境(大気・海洋).この経済圏は第一次産業分野(農林水産業,ただし林業を除く)にほぼ重なります.
農地・果樹園 ・飼料用農地 ・緑藻(1000) |
家畜・魚介類 (100) |
人類(20) | 環境(大気 ・海洋) |
仕入高 | 最終財 | 酸素 排気 |
CO2 排気 |
酸炭 損益 |
|
農地・果樹園 ・飼料用農地 ・緑藻 |
P生産1000 P活動100 P分解200 |
P草食400 | P菜食100 P薪炭200 |
O2排気1000 CO2排気500 |
1500 | 500 | 1000 | 500 | 500 |
家畜・魚介類 | A分解30 | A生産100 A捕食50 A活動350 |
A肉食20 | CO2排気380 | 170 | 380 | 380 | -380 | |
人類 | H生産20 H活動100 H分解20 |
CO2排気120 | 20 | 120 | 120 | -120 | |||
環境(大気・ 海洋) |
O2吸気330 CO2吸気1000 |
O2吸気350 | O2吸気320 | ||||||
卸売高 | 1000 | 550 | 140 | 1690 | |||||
消費財 | 330 | 350 | 320 | 1000 | |||||
酸素吸気 | 330 | 350 | 320 | 1000 | |||||
CO2吸気 | 1000 | 1000 | |||||||
酸炭収支 | -670 | 350 | 320 | 0 |
かなり手抜きですが,数字はまったく変わっっていません!変更したのはトップ行のラベルのみです.これを示したのは,人間が生命を維持するために必要な最小限の環境経済循環を確認したかったからです.人間は,農場と果樹園から収穫した穀物と野菜と果実を食べ,飼料用農地や牧草地で生産した飼料によって飼育された家畜・家禽の肉や卵を食し,海洋(淡水域を含む)から漁獲された魚介類を食べて生きています.家畜類はすべて草食と考えられるので家畜・魚介類の自己取引セルの中にある「捕食」という取引は不要と考えられますが,大型の魚類は小型の魚類を食べるので,残しておきます.魚介類の食物チェーンは植物性プランクトンから始まりますが,「緑藻」と書いている中にはこれらの微小植物も含まれるとお考えください.(人間の食物にはタバコや酒などの嗜好品・お菓子類も含まれますが,食品の加工や運搬などに掛かるコストは除外されます)
上記したように,「この環境経済ではストックとしての酸素量は増加することはあっても,減少することはない」ため,人類および,その生存のために必要なすべての食物生物を供給する生態系を維持するために必要な「酸素」は,海洋を除けば,農地(飼料用農地・果樹園などを含む)面積を維持するだけで十分であるということが分かります.このことは温暖化ガスの議論の中であまり重視されていませんが,かなり重要なポイントであると考えます.これを逆に言えば,「化石燃料」の追加・導入による酸素経済収支を考えるときには,「化石燃料」と「森林面積」ないし,「化石燃料による二酸化炭素の排出量」と「森林の酸素供給キャパシティ」だけを対比させればよいということになります.これを確認するのに難しい数学は必要ありません.
森林 | 化石燃料 (石炭・石油) |
環境(大気) | 仕入高 | 最終財 | 酸素 排気 |
CO2 排気 |
酸炭 損益 |
|
森林 | 森林資源産出量= 落葉蓄積量+ 材木生産量 5000 森林呼吸量500 落葉分解量500 |
O2排気5000 CO2排気1000 |
5000 | 1000 | 5000 | 1000 | 4000 | |
化石燃料 | 化石燃料の 酸素消費量 4000 |
CO2排気4000 | 4000 | 4000 | -4000 | |||
環境 (大気) |
O2吸気5000 CO2吸気1000 |
|||||||
卸売高 | 5000 | 5000 | ||||||
消費財 | 1000 | 4000 | 5000 | |||||
酸素吸気 | 1000 | 4000 | 5000 | |||||
CO2吸気 | 5000 | 5000 | ||||||
酸炭収支 | -4000 | 4000 | 0 |
カーボンゼロを実現するために必要な条件は,
化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量
森林資源産出量=材木生産量+落葉蓄積量=材木生産量+落葉生産量–落葉分解量
落葉分解量=落葉生産量x落葉分解率
落葉分解率は樹種,地域,気温などによってかなりのばらつきがありますが,亜熱帯地方でも0.5程度と思われます.熱帯地方ではもっと大きくなるため残存炭素量は「かなり」少なくなります.上の生命維持系経済循環マトリックスでは,(安全を見て)この値を1.0(残存炭素量ゼロ)としています.土壌中の残存炭素量は時間経過とともにおおむね均衡状態に達しますが,この段階では一定量の炭素が地下水系から外部環境(大洋?)に流出しているものと思われます.(このマトリックスでは森林に生息する動物たちの酸素収支が無視されていますが,動物たちの食糧となる植物の酸素量は「森林資源産出量」からあらかじめ控除されていると考えられるので,特に問題はありません.むしろ問題になるとしたら,熱帯雨林の酸素収支がほとんどゼロに近いと推定される点でしょう.もちろん,バイオエタノールなどバイオマス資源から生成される燃料分の酸素も控除されなくてはなりません.)
2050年までにカーボンゼロというと,2050年には石炭やガソリンは使えなくなるのか!?と思ってしまいますが,それは間違いです.森林が存在する限り,逆に言えば地中に埋設された化石燃料が存在する限り,それを使い続けることができます.「化石燃料の使用量を削減しなくてはならない」という言い方が誤解を招いているのではないでしょうか?つまり,「化石燃料の使用量を削減しなくてはならない→化石燃料使用ゼロまで」のように受け取られている気配があります.むしろ,「どこまでならよいのか」という限度を明示してそれを維持するにはどうすればよいかを考えた方がよいような気がします.現在は地球周回軌道上に無数の人工衛星が存在し,それらから解像度の高い衛星画像を得ることができるので,森林面積を特定することは難しくありません.
森林資源産出量を決定するためには,その地域の林業の材木生産量や樹林の落葉生産量と分解率をそれぞれ個別に計測しなくてはなりませんが,それも不可能ではありません.地域ごとに公的機関によって認定された森林の酸素産出量に応じた「酸素チケット」を発行し,ある酸素単位の化石燃料を消費するには,それと同単位の酸素チケット(グリーン券)が必要であるということにすればよいのです.言ってみれば,炭素税ならぬ酸素税ですが,1単位の酸素の価格は酸素チケットをオークションに掛けることによって市場で決定することができます.その価格が再生可能エネルギーの価格より高ければ,消費者は化石燃料の消費を減らして再生可能エネルギーを使う方向に向かいます.この方法の利点は「いつかある日その目標を達成できるときが来る」のではなく,この制度を始めたその日から目標が達成されている,つまり酸素供給量を超える化石燃料はルールにより使えないというところにあります.森林を持っている地域には直接収入となるので,森林を維持するための強いインセンティブになるでしょう.
――グリーン車にご乗車になる方は車内でグリーン券をお求めください
2021/07/27 20:17
訂正:森林経済循環マトリックスにやや混乱したところがありますので,以下のように修正します.
森林 | 化石燃料 (石炭・石油) |
環境(大気) | 仕入高 | 最終財 | 酸素 排気 |
CO2 排気 |
酸炭 損益 |
|
森林 | 森林生産量 6000 森林呼吸量500 落葉分解量500 その他控除1000 |
O2排気6000 CO2排気2000 |
6000 | 2000 | 6000 | 2000 | 4000 | |
化石燃料 | 化石燃料の 酸素消費量 4000 |
CO2排気4000 | 4000 | 4000 | -4000 | |||
環境 (大気) |
O2吸気6000 CO2吸気2000 |
|||||||
卸売高 | 6000 | 6000 | ||||||
消費財 | 2000 | 4000 | 6000 | |||||
酸素吸気 | 2000 | 4000 | 6000 | |||||
CO2吸気 | 6000 | 6000 | ||||||
酸炭収支 | -4000 | 4000 | 0 |
カーボンゼロを実現するために必要な条件は,
化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量
森林資源産出量=材木生産量+落葉蓄積量=材木生産量+落葉生産量–落葉分解量
落葉分解量=落葉生産量x落葉分解率
森林生産量=森林資源産出量+森林呼吸量+落葉分解量+その他控除
その他控除にはバイオエタノール生産などに用いられるバイオマス資源や,森林内に生息する動物たちの食糧となる木の実などの生産量が含まれます.落葉生産量には,枯死した倒木や落枝などの他,製材などの加工から発生する(焼却処分される)残滓が含まれます.化石燃料の酸素消費量の上限を決める森林資源産出量は材木生産量と落葉蓄積量から決定されるので,その他控除の多寡には影響されません.「材木生産量」の「材木」に相当する木材は,相当の長期間(50~100年以上)分解されない(焼却しない)用途に使われることを想定しています.
2021/07/29 22:03
生島さん
>非常に壮大な構想ありがとうございます。
どうも,どこまでも広がって止まりません…そろそろ手仕舞いしなくては…
>2つの目標とは
1.2050年 カーボンニュートラル
2.2030年 世界的飢餓撲滅
明らかに「食糧生産」の問題はカーボンニュートラルとトレードオフの関係にあります.「熱帯雨林を潰すな!焼き畑を止めろ!」という大合唱が聞こえますが,わたしからすると転倒しているような気がします.前便でも指摘したように,「耕地面積」と「人類」生存のための所要(最小)酸素量はほぼ「対応」しています.従って,人口が増えたら,それだけ耕作地を増やす以外の対策はわたしには考えられません(日本には半強制的に休耕している農地が相当あります).これが森林面積の縮小を意味するとしたら,それだけ化石燃料の消費を減らし,再生エネルギーの利用に振り替えることで対処できます.砂漠を緑化するということも考えられます.ただし,砂漠はおそらく地球環境にとっては,クーリングシステムの作用(輻射機能)を持っていると思われるので,地球温暖化を促進するかも知れません…(農業国=貧乏国という設計がそもそもの間違いです)
(考えてみれば当然のことですが)人間が口から食べた食物の量と,人間が鼻から取り込む酸素の量が(酸素経済通貨単位で)ほぼ厳密に(遺骸として死後に残存する物質量と母親の胎内にいる時期の収支を除き)一致しているという事実はわたしに取ってもかなり意外な発見でした.この事実がほとんど見落とされているのは,酸素の供給者と需要者の距離が離れ過ぎていて,絶望的なまでに「トレーサビリティ」を欠いているためと考えられます.前便の「仏教的経済循環マトリックスでは負債残高表を持たないので,誰にいくら借りがあったのかを追跡することができません.しかし,その債務はいつか必ず返済されなくてはならないものであり,また,なんらかの複雑な経路を経て自分自身のところにも帰還してくるものであると説いています.」という説明は多少分かりづらいところがあったかも知れませんが,わたし達が,どこに生えているのかも知らない名もなく声を上げることもない植物が無償で提供してくれている酸素を「毎日」呼吸しているというこの「環境経済」の不思議な仕組みを考えれば,仏陀の説いた超経済(仏教的循環マトリックス)のリアリティが実感されるのではないかと思います.
>私はときどきこれを見て北極海の氷がなくなる日を予想しています。
北極海を真っ白いスワンのようなフェリーが行き来する光景が目に浮かびます.すでに「北極航路」はホットなプロジェクト次元に入りつつあり,中国も虎視眈々とこの海域を睨んでいるようですが,最近イタリアがロシア主導のプロジェクトから脱落しました.日本はこのプロジェクトに10%程度加担しているようですが,もっと力を入れてもよいと思います.ロシアにはこれから環境条件の好転するシベリアという広大なフロンティアもあります.実は,この計算表を見直しているうち,地球温暖化の行く末に関してはかなり悲観的な見通しに達してしまいました.前回の訂正便では,カーボンゼロを実現するための必要条件は,
化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量=材木生産量+落葉生産量–落葉生産量x落葉分解率)
であるとしていますが,正確には,
化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量=材木生産量+落葉生産量x落葉残存率
とした方がよいかも知れません.というのは,落葉分解率というのは一般には「分解速度」を意味しているからです.落葉残存率は分解されないで最終的に土壌中に残留すると推定される資源量の生産量に対する割合です.この式では材木生産量を化石燃料の酸素消費量の上限である森林資源産出量に計上していますが,このクレームが通るかどうか?が問題です.「材木」は資本財ないし耐久消費財(またはその原料)と考えられますが,その耐用年数はそれほど長いものではありません(もちろん,法隆寺のような例外もあります).耐用年数を過ぎた木材は最終的に焼却などの経路でほぼ全量が二酸化炭素と水に分解されます.もし,材木生産量を含めることが妥当でないとすれば,化石燃料に割り当て可能な資源量は土壌中に(ほぼ恒久的に)残存する落葉(倒木その他を含む)に限られることになります.多めに見積もってもこの落葉残存量は落葉生産量の半分程度です.悪いことに,頼みの綱の熱帯雨林の落葉分解率は非常に高いため,多くを期待できません.最悪,残存量ゼロということすら考えられます.つまり,熱帯雨林はほとんど自家産出酸素を100%自家消費してしまっている可能性があります!(針葉樹の落葉残存率は比較的高めですが,悲しいかな落葉生産量自体が多くない…)
化石燃料の酸素消費量≦森林再資源量(リサイクル資源)=落葉の地層残存量+二酸化炭素溶解量
結論的には,森林生産量のうち,化石燃料の酸素消費量に割り当てることができるのは,土壌深部に蓄蔵された未分解の落葉有機成分とそこから流出しておそらく大洋に帰還すると推定される水に溶解した二酸化炭素くらいしかないだろうということになります.これは,化石燃料の使用が認められるのは,遠い将来に鉱物性燃料に化成されるであろうリサイクル資源と相対で置換される場合のみということを意味します(確かにこれが経済収支原則というものでしょう).もし,これがカーボンゼロの意味しているところであるとすれば,それを達成することは著しく困難であるような気がします※.落葉分解率などに関しては詳細な実地研究が行われているようですが,地球規模で半恒久的に埋蔵される森林資源量を推計するなどの研究は見当たりません.まぁ,100年間くらいの移行期間を考えて,その間は材木生産量を化石燃料に割り当ててもよいとするのであれば,かなり緩和されることになりますが…怖くて,みんなして目をつぶっているのでしょうか?
※というより,不可能であることは自明と言うべきです.仮に化石燃料を生成するのに1万年掛かったとして,それを100年のオーダーで使い切ろうとしているのですから…え,数千万年ですか?あちゃー.しかし,逆の見方をすれば,森林面積がゼロになることは想定外であるとして,少なくとも森林再資源量(リサイクル資源)がゼロになるということもあり得ないと考えられるので,その限りにおいては,化石燃料の消費は恒久的に保証されているとも言えます.ただし,その前にピークオイルが到来することもおそらく不可避でしょう.この意味で石炭資源を含め,あらゆる資源は最後まで大切に使われるべきものです.逆に材木生産量をリサイクル資源から除外したとしても,「グリーンチケット」の有効性が損なわれるものではありません.むしろ,その重要性はより喫緊のものになると言っても過言ではありません.森林資源の保護は,「人類文明と天然自然の調和」を追求する中での資源配分の問題であり,絶滅危惧種問題にも関わりがありますが,森林保護と化石燃料の使用が敵対関係にあるという見方には同意できません.むしろ共存関係にあるというべきではないでしょうか?
>私は『自然界は完璧な食物連鎖ネットワークからなる「無駄のない」エコシステム』とは思っていません。
広い宇宙には,想像も付かないような生態圏(たとえばカーボンの代わりにケイ素を主成分とする生物とか…)があり得るでしょうし,あり得ないレベルで効率的なエコシステムがあっても不思議ではありません.ただ,ここで「無駄のない」と言っているのは,「効率」ではなく,「行き届いている」という意味で…わたしには「一カケラの落ちこぼれもいない世界」のように見えます(もちろん,人間界を除いては…).
>そして、システムダイナミックスの更なる普及と利用ですね。
経済循環マトリックスとシステムダイナミックスがリンクしたら,かなりおもしろいことになりますね!生島さんが予算取ってきてくれたらやってもいいですよ.てか,わたしも中断している仕事があるので,そろそろ戻らないと手遅れになります…うちのノウハウをそっくり提供しますので,やってくれませんか?メシが食えていればうちのコードをオープンソース化してもよいのですが,まだ,BIが始まるのには時期尚早だし,その前に,基礎年金(ベーシック・ペンション)を出してくれと言ってるんですけどね…これが,なかなか…消費税を廃止して,一般取引税に切り替えてしまえば,「財源フリー」になるのですが…いまは,赤字国債で時間をマブっているので,なかなか大胆なことができません…
>これは、AI兵器危機、今回のコロナ禍でわかったバイオハザードリスク、そして核リスクですね。これを見える化させるには相当なルール改正が必要です。
AI兵器については,わたしはn十年も前から警告を発していますが,多分ロボット法(ロボット工学三原則)では「ロボットが人間に危害を加えること」を禁止しています.しかし,「兵器」はもともと「人間に危害を加える目的」で開発された機械であり,自動化されればロボットですから,兵器全般の製造・保有・行使を全面的に禁止するしかありませんが,現行国際法秩序では毒ガスなどの化学兵器,細菌(ウィルスを含む)など生物兵器,核兵器(劣化ウラン弾なども),地雷以外は特に規制はありません.わたしには通常兵器(爆弾やミサイル)とこれらを区別する合理的な理由を見つけることができませんでしたが(残虐でない兵器がどこにありますか?フマキラーよりもハエたたきの方が道徳的という根拠はどこに?),最近になって,もしかするとこれかなと思われることがあります.それは「環境を汚染する兵器は禁止する」という発想です.不可逆的に汚染された環境を回復するためには幾世代にもわたる時間が必要ですが,その影響は戦争の勝者側にも不可避的に及びます.(最近は復活する動きもあるようですが)核実験が全面的に禁止されたのは,その「非人道性」を深く憂慮してというより,それによる大気・海洋汚染が「すでに」看過できないレベルに「達している」ことに科学者たちが気づいたためではないかと考えています.わたしはすでに海洋は十分過ぎるほど汚染されていると見ています(漁獲量の減少・漁獲物の小型化などさまざまな兆候から…).
>馬場さんのエクセルレベルのオントロジーは、是非何らかの標準化団体で仕様検討して欲しいものです。。
済みません.まだまだ未完成です.わたし自身使いこなしていません.前回提示した,環境経済循環マトリックス(植物界・動物界・人間界・環境)では,「この経済では実体経済マトリックス上では通貨の移動は行われないので,支払高と売上高の集計はありません」と書いていますが,苦し紛れの「虚言」です.わたし自身この図式の有用性は認めていますが,まだ,整理しきれていません.生島さんに突つかれて大慌てで見直したものですが,以下のように訂正しておきます.標準的な経済循環マトリックスでは「行」がそのノードの「支出項目」を,列がそのノードの「収入項目」を示していますが,環境経済マトリックスでは「通貨の移転」と「財貨の移動」の関係がよく呑み込めていなかったため,次元が逆の図を書いていました.下記の訂正版では,行列を反転して(縦横を入れ換え)標準的な経済循環マトリックスに出てくる集計項目をすべて復活させています.
植物界 | 動物界 | 人間界 | 支払高 | 仕入高 | 損益 | 最終財 | 支出額 | 大気・大洋 | 酸素 吸気 |
CO2 吸気 |
酸炭 損益 |
|
植物界 | P生産1000 P活動100 P分解200 |
A分解30 |
1330 | 1000 | 670 | 330 | 1000 | O2吸気330 CO2吸気 1000 |
330 | 1000 | -670 | |
動物界 | P草食400 | A生産100 A捕食50 A活動350 |
900 | 550 | -350 | 350 | O2吸気350 | 350 | 350 | |||
人間界 | P菜食100 P燃料200 |
A肉食20 |
H生産20 H活動100 H分解20 |
460 | 140 | -320 | 320 | O2吸気320 | 320 | 320 | ||
売上高 | 2000 | 550 | 140 | 2690 | ||||||||
卸売高 | 1500 | 170 | 20 | 1690 | ||||||||
仕入尻 | 500 | -380 | -120 | 0 | ||||||||
消費財 | 500 | 380 | 120 | 1000 | ||||||||
純消費 | 170 | 30 | -200 | 0 | ||||||||
財収支 | 670 | -350 | -320 | 0 | ||||||||
生産額 | 1000 | 0 | 0 | 1000 | ||||||||
大気・大洋 | O2排気1000 CO2排気500 |
CO2排気 380 |
CO2排気 120 |
|||||||||
酸素排気 | 1000 | 1000 | ||||||||||
CO2排気 | 500 | 380 | 120 | 1000 | ||||||||
酸炭収支 | 500 | -380 | -120 | 0 |
この計算表で見ると,以下のことが分かります.
- 酸素吸気=最終財
- CO2排気=消費財
- 酸炭損益=最終財-支出額=-損益
- 酸炭収支=生産額-消費財=仕入尻
- 環境(大気・大洋)は経済単位(参加メンバー)ではなくシステム
- 環境経済循環は「実体経済」であり,裏経済(金融経済)は不要
- 酸素を通貨単位として酸素1分子と二酸化炭素1分子,炭素原子1個は等量
- 有機体価格(生産/消費量)はその有機体が含む炭素原子数
これに従って,計算表を簡略化すると下図のようになります.
植物界 | 動物界 | 人間界 | 支払高 | 仕入高 | 損益 | 最終財: 酸素吸気 |
支出額 | |
植物界 | P生産1000 P活動100 P分解200 |
A分解30 |
1330 | 1000 | 670 | 330 | 1000 | |
動物界 | P草食400 | A生産100 A捕食50 A活動350 |
900 | 550 | -350 | 350 | 0 | |
人間界 | P菜食100 P燃料200 |
A肉食20 |
H生産20 H活動100 H分解20 |
460 | 140 | -320 | 320 | 0 |
売上高 | 2000 | 550 | 140 | 2690 | ||||
卸売高 | 1500 | 170 | 20 | 1690 | ||||
仕入尻 | 500 | -380 | -120 | 0 | ||||
消費財: CO2排気 |
500 | 380 | 120 | 1000 | ||||
純消費 | 170 | 30 | -200 | 0 | ||||
財収支 | 670 | -350 | -320 | 0 | ||||
生産額 | 1000 | 0 | 0 | 1000 |
この計算表を一目してわかることは,「環境経済循環の生産者は植物のみ」であるという紛れもない事実です※.これは単に人間を含む動物が,生存のために呼吸するすべての酸素を植物界に負っているというだけでなく,その実体を構成している物質(カルシウム・カリウムなどの無機物を含む身体構成物質のほぼ全量)もすべて植物由来,その活動に必要なすべてのエネルギーもまた植物に依存していることを意味します.つまり,すべての動物はまるごと植物におんぶに抱っこしているのです.生産活動を「労働」と言い換えれば,自然界で働いているのは「植物」だけで,残りは全員手ぶらで遊んでいるようなものです(狩猟がゲームであったことはオリンピックの槍投げを見れば分かります).100年の寿命を保つ樫の木は,その100年の間に1本の苗木を育てることができれば,最小限その種を維持することはできますが,足元をうろちょろする小動物のために惜しげもなく何千個という樫の実を毎年散布しています.なぜ,植物たちはこんなにも気前がいいのでしょう?それを思うとわたしは不覚にも涙腺が緩むのを禁じ得ません…すべての生物はDNAでつながっていると考えられるので,植物たちは,わたし達動物類を,親代わりに養っているのでしょうか?あ,そう言えば縄文土器(というより,土偶)に関して一つおもしろい記事があったのでリンクを貼っておきます.日本考古学史上最大の謎「土偶の正体」がついに解明
※この計算表を見て,これがマルクスの剰余価値理論の原理図だとわかった人は,資本論をかなり深く読み込んでますね.実際,経済循環マトリックスで,「資本家」の利潤がゼロになるようなマトリックスを描いてみれば,全生産価値=∑付加価値がすべて「労働者」に帰属するものであることを容易に示すことができます.ただし,よく見ると,上の計算表は剰余価値理論の逆論理になっているのかもしれません.剰余価値説では労働階級を再生産するのに最小限必要な生産価値を「控除」して,それを超える部分を余剰価値と呼んでいますが,樫の木の場合は,小動物が欲するだけの樫の実を存分に与えた上での(次世代再生産のための)余剰生産,つまり引き算ではなく,足し算になっています.これがガイアの豊かさと呼ばれるものでしょうか?(あえて蛇足を加えるなら,「情報経済循環」の世界はこの世界(ガイア経済)にかなり類似しているような気もします.)
実体経済循環マトリックスの取引種別には仕入と消費の2種しかありません.上記計算表のグレーの枠内に,青字で記入されている数字が「仕入」,赤字が「消費」です.「仕入」は「中間財」と呼ばれることもありますが,最終消費財の価格の中に含まれる中間製品の価格です.自然界の捕食関係は,この中間財の仕入れに相当します.実体経済マトリックスで一番重要なポイントは,循環経済の総体ではつねに4面等価原理が成立するという点です.これは総生産=総所得=総支出という三面等価原理に加えて,総生産=総消費の等式が成立することを意味します.グレー枠内の赤字をすべて合計すればそれが即,「総消費額」です.仕入れというのは多段に行われることがあり,何と何を組み合わせてどんな製品が構成されているのかは計算表を見ただけでは分かりませんが,少なくとも赤数字を合計することで総消費額だけは確定します(同時に総生産額・総所得額・総支出額も確定).このあとは,任意のセルに任意の仕入れ(青数字)を記入して,つねに整合した(四面等価原理が成立する)テーブルを構成できます(必ずしも赤と青の数字の連関を考える必要はありません).上の表を少しアレンジしてみましょう.
- (人間界,人間界)のH分解20を(植物界,人間界)に移動
- (動物界,動物界)のA捕食50をA捕食90に増量
- (人間界,動物界)のA肉食20をA肉食50に増量
第1項は人間20を火葬しないで放置(野ざらし・風葬・水葬・土葬)した結果,微生物等によって分解されて無機化したという意味です.第2項の捕食+40は肉食動物の狩りの収穫が増えたのか食物連鎖が多段になった結果でしょう.第3項の人間による肉食+30は単純に食習慣が変化して肉食の機会が増えたためと推測されます.この変更では赤字合計,つまり総消費額は変化しないので,総支出額,総生産額,総消費額は不変です.
植物界 | 動物界 | 人間界 | 支払高 | 仕入高 | 損益 | 最終財: 酸素吸気 |
支出額 | |
植物界 | P生産1000 P活動100 P分解200 |
A分解30 | H分解20 | 1350 | 1000 | 650 | 350 | 1000 |
動物界 | P草食400 | A生産100 A捕食90 A活動350 |
940 | 590 | -320 | 350 | 30 | |
人間界 | P菜食100 P燃料200 |
A肉食50 |
H生産20 H活動100 |
470 | 170 | -330 | 300 | -30 |
売上高 | 2000 | 620 | 140 | 2760 | ||||
卸売高 | 1500 | 240 | 20 | 1760 | ||||
仕入尻 | 500 | -350 | -150 | 0 | ||||
消費財: CO2排気 |
500 | 380 | 120 | 1000 | ||||
純消費 | 150 | 30 | -180 | 0 | ||||
財収支 | 650 | -320 | -330 | 0 | ||||
生産額 | 1000 | 30 | -30 | 1000 |
(植物界,動物界)のA分解30の値は変更されませんでした.この値は「捕食されなかった動物」の量を示すもので,「植物界の微生物によって全量が水と二酸化炭素に分解」されるのですが,だとすれば,人間の肉食が+30増加しているのだから,「捕食されなかった動物」は30だけ減少しなくてはならないように思われますが,そうなっていません.その理由は,これらの数字が「個体数」ではなく「物量」をカウントしているためです.A肉食50をA肉食100に変えたとしてもこのテーブルは成立しますが,このとき,「豚」はどのプロセスで50太ったのでしょう?50太ったとすればその50をどこかで供給しなくてはなりませんが,それはどこから来たのでしょう?経済循環マトリックスで言えることは,「計算はつねに正しい」ということだけです.
>今はこのレベルで大きく考える必要がある時代かなと思います。
イエスの天国=キリスト的経済循環マトリックスをイエスは「明示」したことがありません.しばしばそれを「天国とは~のようなものである」ということばで説明していますが,それらは暗示的なメタファーに留まるもので決して具象的なプランとして提示されることはありませんでした.そろそろ,その最終解を提示する,ないしそれを提示することが可能な時期に来ているのかもしれません.経済循環マトリックスを読み解くことができれば,世界経済を深く読み解くことができるとわたしは信じます.まだまだ続くのですが,お後がよろしいようで…ここで,一旦スレッドを閉じたいと思います.
このスレッドは2021/05/09に下田さんのYouTube動画「みんなのお金その4万年筆マネー」に付けたコメントから始まりました.3ヶ月近くの長期にわたり忍耐強くお付き合いくださった皆さまに心より感謝申し上げます.m(__)m
2021年7月29日 ゼルコバの木テント村宿営地より
馬場研究所代表,系図ソフトゼルコバの木開発者
馬場英治
〒366-0026埼玉県深谷市稲荷町1-3-72コーポEMI2H
E-mail:babalabos@gmail.com
さあ,もう一度ゼロから始めようゼルコバの木テント村
冷たい森(馬場研究所HP)
静かなる革命2009(政治ブログ)
税制を変えれば政治も変わる一般取引税を導入して夢のジパングへ
《共同的資本主義論》新たなる国生みへの手がかりへ
(完)
PS:スマホ(ファーウェイ製)が不調ですぐに(2,3時間くらいで)バッテリーが上がってしまいます.WiFiルーターを解約してスマホのテザリングでネットに接続しているので,そのうちまたネットにアクセスできないようになるかも…
2021/07/31 1:01
生島さん
応答ありがとうございます.
>人口増加を100億人で止め、30億人ぐらいにする説です。世界人口の増大が鈍化、2050年に97億人に達した後、2100年頃に110億人で頭打ちか:https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/
1年に約1億人弱増加していますから現在79億弱です。
人口削減計画ですか?(笑)未来予測の中でも人口動態予測というのはかなり精度が高いのでこれらの数字を軽視することはできません.「人口に比例して耕作地面積を拡大する」というのが環境経済マトリックス計算から得られる(暫定的な)結論ですが,現在人口を79億人としてピークが110億人とすると,耕地面積を40%拡大する必要があります.この数字は必ずしも実行不可能な目標ではないのではないでしょうか?
>現在の課題は第4次産業革命で、AI、ロボットによる自動生産です。
「環境経済循環の生産者は植物のみ」というのは,厳然たる「事実」ですが,見方を変えると,たとえば生い茂った葉叢を持つ樹木は一種の「資本財」であるようにも見えます.光合成のプロセスはほぼ「全自動機械」の動作とも考えられるので,樹木は言わば「光合成工場」ですから,それを「所有」している植物はむしろ「資本家」に当たると言えるかもしれません.植物界が一種の自動アップデート機能(自己再生産機構)を備えたある種の「社会資本」であるとすれば,それに「AI,ロボット」が加わってくるというのは自然な構図であるようにも見えます.
>AI系で言われるのは食料とエネルギーの地産地消です。
確かに,わたしもそれが理想形であるとは思いますが,穀物生産などはかなり集約的でかつ大農化が可能なので産出国と消費国に分かれてもよいのではないかと思っています(日本は産出国になれます).エネルギーの場合,トリウム溶融塩炉は可搬可能な程度まで小型化が可能なので,消費地の近くに分散配置できます(潜水艦・航空機にも積載可能).中国では2030年商用炉の建設を目標に開発を進めていますが,早くも9月には実験用原子炉が稼働します.(わたしが読んだ記事では確か2MWで高さ3m,半径2mくらいの大きなドラム缶というイメージですが,記事が見つかりません)日本では東芝が手掛けていますがかなりピンチな状況と認識しています.「地上の太陽」と言われる核融合炉の難易度は高く,国際的なコンソーシアムを組んで取り組んでいるところですが,核融合炉の燃料資源であるトリチウムを惜しげもなく海中投棄しようとしているくらいですから,当面あまり期待はできないでしょう.
>スタトレではこれをレプリケータ、フードディスペンサーなどと言っています。
ほとんど宇宙食の世界ですね!わたしはやっぱり,有機農法で育てた野菜が食べたい…いや,将来,流動化した食材をガスや水道のようにパイプラインで各戸に供給,3Dプリンタで印刷して食べるという時代が来ないとは言いません…
>問題無い派は輻射熱を主張します。エネルギー消費が進めば地球からの輻射が増えるだけ説です。
地球温暖化は単純な「ファクト」ですが,「二酸化炭素の温室効果ガス説」には多少の疑問を持っています.「正しい命題に誤った証明を与える」というケースはよくありますが,元の「命題」が正しいので,その「証明」の誤りを見つけるのは中々困難です.直感的には,「温室効果」なら寒暖の差は縮まるはずなのにむしろ逆のように見えます.わたしの見立てでは,化石燃料の消費に伴う問題は二酸化炭素の過多よりも,むしろ酸素量の(相対的)低下ではないかという気がしています.これによってオゾン層の破壊が進み,太陽の直射に晒されるようになっているのではないか?従って,二酸化炭素の過剰は地球からの輻射(の低下)にはあまり影響していないのではないか?むしろ問題は「エネルギー消費」の「絶対量の増加」であり,これは再生エネルギーを使うようになってもそれほど変化しないため,「地球温暖化」を食い止めることはできないかもしれない.逆に言えば,「エネルギー消費の絶対量の増加」がすでに地球からの輻射のキャパを超えているのではないか?
「環境経済循環の生産者は植物のみ」と言いましたが,植物の中には他の植物に「寄生」するものもありましたね.細菌や真菌類はその一例ですが,その中には,有機物分解など有益な活動を行っているバクテリアも含まれます.下の写真は「ストライガ」別名「魔女の雑草」と呼ばれる植物です.この花はアフリカではトウモロコシ畑を全滅させる悪魔の植物として恐れられています.生物学者と化学者の“ラーメン屋会議”が食糧危機を解決!?
わたしが「貨幣論」に首を突っ込むことになったのは,theory-edgeという離散数学系のメーリングリストを主宰していた,ウラジミール・Z・ヌリという人物が書いた「経済的寄生としての部分準備銀行(VladimirZ.Nuri,FractionalReserveBankingasEconomicParasitism)」という小論文※(いや,結構長い62ページもある)を読んだことがきっかけですが,この中でヌリは部分準備銀行システムの信用創造について説明し,銀行は経済社会(実体経済)の寄生者であると喝破しています.現在は高校の教科書にも「銀行の信用創造」についての説明が載っているという話ですが,この時代(2000年頃)にはまだそんなことに気づいている人はほとんどいませんでした.(米国の若手経済学研究者の間ではその頃すでに議論が始まっていた模様です)今回のセッションの目的の一つは,「実体経済」と「金融経済」を(計数的に)厳格にデカップリングするというところにありましたが,その相互作用にまで深入りすることはできませんでした.「寄生者」と呼んでしまえばそれまでですが,現代資本主義の基盤をなす「金融経済」の功罪とそのメカニズムを解明することが喫緊の課題であると考えています.
※WikiのTalk:Criticismoffractional-reservebanking/Archive
Editorshavebeenbanned,peoplehavebeencalledallsortsofuglynames.There’sbeensomenasty[g]nashingofteetharoundhere というサーベイの22項目で言及されています.この種の論文がある種の禁書であった時代です..いや,今でもそうかも知れません…
もう一つ見落としてならないのは,「環境汚染」の問題です.わたしに取っては,温暖化よりもこちらの方がずっと気になります(原子力発電を含めて,核問題はわたし的には環境汚染問題です.そうでないとすれば,今日にでも地下シェルタを掘らなくてはなりません.東京の大深度地下はそのためという説もありますが…).東京オリンピックで東京湾の汚染が改めて浮き彫りになりましたが,1970~80年代のコペンハーゲン港(デンマーク)も同じように下水や工業排水が流れ込み悪臭を放つヘドロで埋まっていました.それが,2003年にはハーバーバスと呼ばれる海水浴のできる市民の憩いの場に生まれ変わっています.経済を持続可能な完全なエコシステムに変えるためには,廃棄物処理と資源リサイクルの問題を素通りすることはできません.いまは少し,カーボンゼロの方に引きずられ過ぎているような気がします.
北欧の人は日本が羨ましい? デンマークのすごい「自然のプール」が教えてくれたこと
2021/08/01 20:57
生島さん
切りがありませんので,気になる点だけコメントします.
>現在、途上国でも既に炭水化物は自給できる可能性が高いです。
縄文からポリネシアまでイモを常食して(豊かに)生きてきました.(飢餓を持ち込んだのは文明国です)
>従って2030年の飢餓撲滅は単に食糧の世界的サプライチェーンの構築で実現できるはずです。
問題は,農薬の大量散布+農薬耐性を持つ遺伝子組み換え植物の組み合わせですね.
>その頃の人口は30億人、ここに持っていきたいわけです。個人的には。
人口削減目標30億人って生島さんのご計画だったんですか!?(^^;
>体の健康について6大栄養素(水、ビタミン、ミネラル、タンパク質、脂質、炭水化物)のサプライチェーンが必要であるということです。
いまや,サプリメント業界は一大産業にまで成長しました.
>日本の農業人口はどう推移している? 農業現場へ与える影響とは
農業の自動化(ロボット化)という動きはすでに(わたしの町でも)始まってます.あとは移民でしょうか?すでに北海道などには海外からかなりの出稼ぎ労務者(研修生?)が入っているようですが…
>そして次が、人工「葉緑素」ですね。
人工「葉緑素」とか人工「肉」とかありますが,問題は「おいしい」かどうか?ですね.美味しければ食べますよ.ただ,わたしの直感では,「おいしさ」とその動植物が生育していた環境は相関があるように感じているので…つまり,ハッピーに暮らしていた生き物は食べてもおいしいような気がしています…
>「トリウム溶融塩炉」などは論外ですね。
わたし的には,むしろ「森林」を潰して「太陽光発電」なんて論外という感覚です.
>これは常に私が書いていることです。
1.宇宙、物質を知りたいと思って、核リスクを作った
2.生命を知りたいと思って、バイオハザードリスクを作った
3.心を知りたいと思って、AIリスクを作った
ということです。
何をやるにしても「リスク」は付きまといます.プロメテウスは「火」を盗んだ罪で神から罰せされました.消防団を組織し,耐火・防炎材の使用を義務付けるなどの対策を積み重ねることで,火災による被害はかなり軽減されています.
>記事の記者さんにこうコメントしました。
この行の「主語」は生島さんという理解でよろしいですか?
>最後は、やはり、人間の欲望に歯止めがかからなく点ですね。
実質、無限のエネルギーを得られますから、、
人間は無限なるものを追い続けて来ました.事物の世界は有限ですが,貨幣や情報は「可能的無限」を内包しています.これに「エネルギー」が加わったらどんなことになるのやら?いや,もちろん,それは必ずしも悲観材料ではありません…
>個人的には、月、他の惑星で、無人の状態で核融合、核分裂は使うべきと思っています。地球のリスクは無くなります。
同意します.喧嘩は外でやってくれ!ロボット大戦はシアター・マースでお願いします.
>そして大部分はコンピュータの計算パワーに使われると思っています。
問題は情報処理に関する電力消費です。
生島さんから紹介された記事を拾い読みしてるだけで一日が終わってしまいます.一国の総理である菅さんが一日に受け取って処理する情報の量と一般庶民の情報量(の質も…)は今やほとんど変わりません.我々はすでに情報洪水の中にいます.大半のエネルギーが情報処理に使われるようになるというのはあり得る話かも知れません…
>従って、天気予報は過去データで補正する「データ同化」を使い出しました。
人間ニューロコンピュータですか?!
>そうなると、今までの気象常識は成り立たなくなります。台風の巨大化、偏西風、深層海流などの世界的スケールでの循環が変わりつつあります。
地球がエントロピー最大の熱平衡状態になれば,「気候/気象」という事象は消滅しますが,それではあまりおもしろくありません.経済循環マトリックスで(すべてのノードで収入と支出が等しい)オイラー均衡状態に達すれば,「持続可能社会」が実現しますが,それは,所得格差が固定したままの一種の「身分制社会」になるかもしれません.熱力学的なムラ(不均衡)があって初めてダイナミズムも発生します.わたしはそれが「自然」なのではないかと考えています.逆に言えば,「停滞している社会」はほとんど経済循環的に均衡しています.持続可能社会と言ってもさまざまなモードがあり得ます.
ざっと読んでみましたが,いろいろおもしろいことが書いてあります.
「成層圏においてGHG※は、対流圏とは異なって、赤外線を宇宙に向けて放射することで加熱された成層圏大気を冷却する働きを持っている。GHGの中でもCO2は最も濃度が高く、成層圏におけるCO2の増加は成層圏気温の低下に最も大きな影響を及ぼす。」※GHG:グリーンハウスガス(二酸化炭素,メタンなどの温室効果ガス)
「経度方向に平均化された二次元モデルを用いた数値実験からは、北半球中緯度では、N2Oの増加はオゾン層を破壊し回復を遅らせる方向に、またCH4の増加はオゾン層の回復を早める方向に、さらにCO2の増加はオゾン層の回復を早める方向に働くことが示された。」
「なお数値モデル予測によれば、南北両半球とも中緯度域でのオゾン全量は21世紀後半には1960年レベルを超える見通しである。このような予測結果となるのは、EESCの減少の影響に加え、GHG(特にCO2)の増加による成層圏気温の低下(オゾン分解反応の減速)とブリューワ・ドブソン循環の強化(オゾンを多く含む空気塊の輸送の増加)による…」
ユヴァル・ハラリは「人類はフィクションを作りだすことによって文明を築いた」と言っていますが,「モントリオール議定書」などその典型かも知れません.そもそも,フロンって不燃性ですからね.それを「フロンを廃棄物と混合燃焼させて破壊処理」って何なのでしょう(爆)国内法令では,少なくとも一年に一回はフロン破壊処理装置の排ガスを検査して基準をみたしていることを確認することになっていますが,わたしには,ただ「希釈」しているようにしか見えません.トリチウム処理水を「希釈して海洋投棄」するというのとまったく同じ発想で,ただのごまかし,目くらましのように思われます(少しずつ燃せばよい,と言っても,燃えないので単に混合しているだけ).冷媒としてはほとんど理想に近いフロンの使用を禁止して,今では爆発の危険のある可燃性ガスを無理やりその代替に使っています…UNEP※が出している「オゾン層破壊と気候変化との相互作用による環境影響:2014アセスメント」という文書(上記URLのP.201)には,なんと書いてありましたか?
※UNEP:国連環境計画
「オゾン層破壊物質の代替物およびその分解生成物が、環境へ悪影響を与えるという新たな事実は発見されていない。しかしながら、いくつかのオゾン層破壊物質の代替物に関しては、濃度が現在のレベルより高まれば地球の気候変化に影響を与えると思われる。」
つまり,それを使うとどういうことになるのか分からない物質をとりあえず,「代替物」として押し付けているだけです(いや,「影響を与える」と明言しています).随分無責任な…と思いませんか?Wikiにはこのように記述されています.
「フロン類の構造は多様であり、種類によって物理的性質は異なる。一般に無色・無臭で、熱的・化学的に安定。大気中に放出されたCFCは紫外線によって分解し、塩素ラジカルが発生する。塩素ラジカルはオゾンと反応し、酸素分子と一酸化塩素ラジカルになる。この時発生した一酸化塩素ラジカルは再度オゾンと反応し、塩素ラジカルへと戻る。このサイクルが繰り返されることによりオゾン層が破壊される。但し、理論上そうなるということであり、大気圏中における実際の作用は不明であり、オゾンホールとの因果関係は予測の域を越えていない。」
上の反応プロセスで生成されるのは酸素分子です.成層圏では酸素分子は紫外線により分解されてオゾンに変わります.結局,オゾン量と酸素分子量は(フロンによるオゾン破壊という介入があったとしても)ある状態で均衡します.わたしはすでに我々の「大気」は(二酸化炭素過多というより,むしろ)「酸素欠乏」状態に入っているのではないかと推測しています.
>を再記しますが、再生エネルギーの重要性は太陽エネルギーしか使わないので、人間の経済行為でのエネルギー発生は0になります。これが地球倫理として重要なわけです。。(笑)
「再生エネルギーの重要性は太陽エネルギーしか使わない」というのは確かですが,これは,「エネルギー消費の絶対量の増加」の問題を解決しません.「エネルギー消費」というのは「エネルギーが熱に変換される」ことを意味します.地球を開放系として見た場合には,確かにエネルギー収支はトータルでゼロと言えますが,熱が地球にこもってしまう,つまり,地球が熱力学的な閉鎖系になっている,という状況は再生エネルギーを使用しても変わりません.このため,エネルギー発生量(追加エネルギー量)はゼロでも,「熱収支」はゼロにはなりません(太陽光発電の電気でも,化石燃料を使った電気でも,エアコンを回したとき外部に排出される熱量には変わりありません).もし,これが無視できるのであれば,「エネルギー消費が進めば地球からの輻射が増えるだけ説」が正しいということになってしまいます.
経済循環マトリックスと四面等価原理
2021/06/30 5:00
生島さん
>お返事できなくすみません。今、AI系の仕事でアップアップなので経済系はお休みしています。
どうぞ,ごゆっくり.経済循環グラフのマトリックス(接続行列)からGDPを簡略に計算するための表を作ってみました.内閣府が公表している「基準国民経済計算の作成方法」とはまったく違うアプローチになりましたが,減価償却など「取引によらない資産・負債の量的移動」は計算するすべがありませんのでやむを得ません.経済循環グラフはノードと枝がそれぞれ一つの値を持っているだけなので,この表を作るためには,個々のトランザクションの内容についてのもう少し詳しい付加的情報が必要です.一つのセルにはセクターAに属するノードからセクターBに属するノードへの複数のトランザクションが合算して詰め込まれますが,マトリックス上のセルC(i, j)は,「i行のセクタ-iからj列のセクターjに通貨が移動する」のようにお読みください.
横軸で集計すると支出合計となり,縦軸で集計すると収入合計になりますから,表全体を縦横で累計すれば総支出と総収入が一致することは間違いありませんが,「国民経済計算」というのは実体経済にのみ関わる計算なのでそれを切り分ける(ヴェルナーの用語で“deaggregate”する)のが,かなり厄介なところです.下表は今のところその「試作段階」というところですが,赤字は国民総生産に関わる項目,青と茶は国民総所得に関わる部分というつもりで作りました.黒の細字の項目はGDP計算[国民経済計算]に関わりのない[金融経済にのみ関わる]数字として計算から除外します.ざっと描いてみただけの段階なので,あちこち間違っているところがあると思います.かなり興味深いものになってきたような気もしておりますので,ご批評頂ければ幸甚です.
公共 | 企業 | 金融 | 家計 | 支出合計 | |
公共 | 貸付,返済 補助金, 利子補給 交付金 資産購入, 借入利息 |
補助金 インフラ,資本財 消費支出 資産購入, 借入利息 |
返済 公債償還 資産購入, 借入利息 |
人件費 給付金 資産購入, 借入利息 |
歳出 財政支出 公務員給与 |
企業 | 租税 資産購入, 地代家賃 |
仕入れ・外注費,運賃 資本財,消費支出 資産購入, 借入利息 |
貯蓄,返済 資産購入, 借入利息 |
人件費 資産購入, 借入利息 貸付,返済 |
企業支出 営業費用 事業所得 民間人給与 |
金融 | 租税,公債購入 貸付,返済 資産購入, 借入利息 |
貸付,預金引出 資本財,消費支出 資産購入, 借入利息 |
貸付,返済 資産購入, 借入利息 |
人件費 貸付, 預金引出 資産購入, 借入利息 |
金融支出 営業費用 銀行員給与 |
家計 | 租税 保険料,手数料 水道料金, 通行料 資産購入, 借入利息 |
住宅購入, 消費支出 資産購入, 借入利息 貸付,返済 |
貯蓄,返済 資産購入, 借入利息 |
人件費 資産購入, 借入利息 |
家計支出 生活費用 使用人給与 |
収入合計 | 歳入 公租公課 払い下げ |
企業収入 純消費額 企業収益 |
金融収入 企業収益 |
家計収入 企業収益 個人所得 |
通貨循環量 国民総生産 事業所得 |
国民総生産=国民総所得=国民総支出
国民総所得=個人所得+事業所得
国民総支出=純消費額=財政支出+営業費用+生活費用
- 輸出入に関わる外部取引はすべて無視するものとする
- 耐久消費財・資本財は買い切りとし,減価償却は行わない
- 在庫計算・廃棄物計算は行わない
- 自社開発ソフト・社内の研究開発などによる産出成果は無視される
- 取引によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される
公共:政府・地方政府・公的企業
企業:法人・団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・自営業者・フリーランサーの営業活動
人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬
消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療),耐久消費財,サービスの購入
耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車
インフラ:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水
資本財:工場・機械(ロボットを含む)・設備・船舶・航空機・建物などの新規築造 / 取得
資産購入:転売:土地・資本財・有価証券(金融資産)→財産所得:地代・家賃・金利・配当
借入利息:資産の賃借料など(地代・家賃・金利・配当)
この表が完全に仕上がったら,もう少し詳しい説明を付けたいと思います.それができれば,ダグラスの等式も改めて再検証できるのではないかと思っているのですが…
2021/07/01 4:22
生島さん,下田さん
少し整理してみました.多少分り易くなったのではないかと思います.
国民総生産=国民総所得=国民総支出
国民総所得=個人所得+事業所得
国民総支出=純消費支出=財政支出+営業費用+生活費用
- 公共:政府・地方政府(地方自治体)・公的企業(独立行政法人など)
- 企業:法人・各種団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・個人事業主など何らかの生産・サービス活動を行うすべての経済主体 個人事業主は企業部門と家計部門の両面に出現する
- 人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬
- 消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療,その他),耐久消費財,サービスの購入
- 耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車など比較的耐用年数の長い商品
- 資本財(固定資本財):工場・機械(ロボットを含む)・設備・車両・船舶・航空機・建物など耐久性があり,生産活動に用いて将来の収益を生み出す資本となるもの
- 基盤投資:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水などの大規模公共建造物(インフラストラクチャ)の築造・整備
- 資本投資:将来の生産活動のために必要とされる資本財(生産設備)の購入
- 融資と返済:融資(ローン)は現金の貸付であり,返済にはローン元本の返済と金融債権(額面のみ)の償還が含まれる(金利・配当は別途,資産配当として計上する)
- 資産投資(資産・債権の購入):投資を目的とする不動産・金融資産(株式,有価証券)の購入,資産配当(財産所得)の源泉となる 不動産は第三者に貸し付けることによって初めて配当を生じるが,金融資産はそれ自体が有利子債権である 資産の再貸付(又貸し)ないしその資産を担保とする融資なども行われる 投資の目的が配当を得ることよりも資産の価格変動による売買差益を狙う場合には投機と呼ばれる 金融債権の償還は返済に含まれる
- 資産配当:融資債権,金融資産などの資産保有者の得る財産所得(地代・家賃・金利・配当)金融資産はすべての部門の任意の当事者間で取引可能であり,蓄蔵性を併せ持つので,流通速度の遅い通貨の一種とみなされる
国民経済計算との相違点:
- 対象領域は閉じた経済循環系であるとする.従って圏外の外部取引(輸出入など)はすべて無視される.
- 経済循環グラフのノードは独立の経済主体であり,ノードをつなぐ枝は1個の取引を表示する.グラフの枝リストとしてブロックチェーンを持ち,枝(トランザクション)に相当するブロックにはリアルな取引情報が記載される.
- 内閣府の国民経済計算では1年を四半期に分けて,2期遅れくらいで各省庁が収集・整理した各種の産別統計を突き合わせながら推計値の計算を行っているが,本試算表では国民経済の時点表示である経済循環グラフの接続行列表現(マトリックス)を用いるので任意の時点でリアルタイムに計算を完了することができる.
- 計算はブロックチェーン上のトランザクション情報のみを参照する.従って,「取引」によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される.つまり,①耐久消費財・資本財はすべて買い切りとし,取引に対応しない減価償却計算などは行わない.②流動資本財(原材料,仕掛品,製品在庫)は計数しない.原材料は購入時点で全量消費されたものとみなす.③取引実績のない資産は計量できないので研究開発費などの資産評価は行わない.
- 国民経済計算では国民経済を①非金融法人企業,②金融機関,③一般政府,④家計,⑤対家計民間非営利団体の5部門に分割している.本試算表では⑤を①と合併して「企業」とし,①公共,②企業,③金融,④民間の四部門に分割した.民間非営利団体(政府は公的非営利団体である)は一般企業と同様に財貨・サービスを生産・販売し,役員報酬や従業員給与の支払い,外注など外部主体との取引その他あらゆる点で,一般事業者との相違を見出すことは難しい.異なるところは(規模・目的・税制などは別として)事業収益を配当として分配するか否かの点だけと考えられるが,一般事業者でも無配どころか赤字経営というところはいくらでもあり,特に分離する意味はない.
- 以前に投稿した「日銀マネー循環図」では①政府,②日銀,③銀行,④国民という4部門に分割していたが,今回の試算表では「国民」を「企業」と「家計」に分割し,「銀行」を「金融」にリネームしている.「日銀マネー循環図」の「日銀」はこのマトリックスのどこにも出現しない.これは国民経済循環グラフ,つまり経済循環システムそれ自体が中央銀行システムであり,システムの全体であるために見えなくなっているものと理解される.
- なお,この経済循環システムでは,すべての経済主体は中央銀行に直接当座預金口座を持ち,現金(硬貨・紙幣)はすでに廃止されていることを仮定している.また,中央銀行は「近未来的貨幣中立論」の立場から経済循環系の中の参加メンバーとして振る舞うことを想定していない.
国民経済試算表の考え方:
- 三面等価原理により,①国民総生産,②国民総所得,③国民総支出の三面が一致しなくてはならない.このうち,国民総生産は期間内に生産された財貨をカウントすればよいので,比較的簡単に計算できると考えた.国民経済を上記のような方針で部門分割しているので,すべての財貨は企業部門でのみ生産されるとしてよい.従って,企業部門で販売された最終消費財の総計が国民総生産に相当すると言える.→上の表の赤色枠で囲まれたブロック.
- 赤色枠の中の赤太数値の合計が純消費支出であり,それを部門ごとに集計したものが,財政支出+営業費用+生活費用であるから,国民総支出=純消費支出=財政支出+営業費用+生活費用となることは明らかである.
- 試算表の計算では企業部門で販売価格に転化されない自家消費分は消費支出として純消費支出に算入する.また,仕入れ,外注費,運賃は販売価格(消費支出)に転化される(含まれる)ものとして計算から除外する.
- 他の3部門(公共,金融,家計)における経済活動は主として「サービス」のカテゴリに入るものと考えられるが,そのうち家計部門の活動は主として「労働(知的生産活動を含む)」であり,これらの生産量は最終消費財の価格の中に含まれる.金融部門のサービスの貨幣価値は経済システム全体の規模と比較して相対的に十分小さいと考えられるのでゼロで近似しても大きな誤差は発生しない.
- 政府部門のサービスの規模は国民経済のかなりの割合を占めると考えられるが,分節するとそのほとんどすべては企業部門が生産する財貨に含まれている.政府部門の提供する公的サービスは(一部受益者負担はあるとしても)原則として「無料」であることが仮定されていると考えられるので国民総生産にはカウントしない.
- 国民経済は大きく分けて実体経済と金融経済に二分される.通貨の純粋な移動は基本的に金融経済的な活動とみなされる.融資,返済,資産投資,資産配当,貯蓄と預金引出し,公債の発行と償還などがそれに該当する.これらはすべて国民経済試算の対象外とする.
- 国民総所得の等式の右辺の「個人所得」は青色枠で囲まれた家計部門収入のうち,各部門で支出された「人件費」の総額と見てよいはずだ.
- 問題は「事業所得」をどうやって計算するか?という点にある.企業部門の支出合計を企業支出,収入合計を企業収入とすれば,事業所得=企業収入-企業支出となるはずだが,この計算は実物計算と金融経済の混合計算になってしまうため検証が難しい.そこで,企業部門の全支出のうち,金融経済に関わる部分だけが事業所得と推定されるという仮説を立てた.これは他部門に通貨を移転するためにはそれだけの所得がなければ実行不能と考えられるからである.→茶色枠で囲まれたブロック.所得を計算するのに支出から推定するというのはやや逆説的だが,おそらくこれしか方法がないのではないか?
- 青色枠の合計を個人所得,茶色枠の合計を事業所得とすると国民総所得=個人所得+事業所得となる.問題はこの2つ,国民総所得と国民総支出が一致するか否か?という点にある.もし,この計算が一致すれば,ダグラスのA+B理論は否定されることになる.ダグラスは事業所得の一部は必ず貯蓄に回るはずであり,もしそうであるとすれば純消費支出(C)>個人所得(A)+事業所得(B)であり,等式を修正して純消費支出=国民総支出=個人所得+国民配当+事業所得としなくてはならないと主張している.
- この試算表の構成が正しいとすれば,国民総所得=個人所得+事業所得となるのはマトリックスの構成から見てもかなり特殊な場合に限られる.むしろ,逆にこの等式が成立する条件を見つける方が早いかもしれない.
- 公共部門支出にはこの他にも補助金,交付金,給付金などの項目がある.給付金はダグラスの国民配当に該当すると考えられるが,これらは基本的に「所得の再分配」なので,国民総生産には算入しない.(もちろん給付金の支給が国民総生産にまったく影響しないと主張するものではない.適切な所得再配分は経済成長に寄与するだろう.
- 家計の支出項目にベビーシッタなど家庭内の家事などのために雇った使用人に対する報酬を人件費として計上してみたが,この金額を国民総所得に算入することに関しては疑問がある.もし,これが正しいとすると専業主婦の家事労働に給与を支給することで国民総所得が増加することになってしまう.ベビーシッタの雇用を事業とみなして企業会計で処理することにしても実情は変わらない.しかし,使用人への報酬が所得計算から外されるというのもおかしい.どうすればよいか?→ベビーシッタの雇用は営利を目的とするものではないが,やはり,企業会計で扱うしかない.企業会計なら損金処理されるのでたとえば,その分貯蓄が減少するなどの形で帳尻が合う.
政府のGDP統計には「対家計民間非営利団体」というのが独立の部門として入っていますが,むしろ,「不労所得者・ギャンブラー」,「横たわり族」,「超富裕層・財団法人」などの部門を設けてその動態を分析した方が興味のある結果を得られるかもしれません.このマトリックスに「外国」という部門を設ければ一応輸出入などを扱うこともできますが,為替の問題などが発生するのでその前に複数の経済循環系が含まれる複合系(開かれた経済循環系)の経済循環グラフを描く必要があります.今回そこまで手を広げられるかどうかは,ちょっと分かりません…
「公共サービスは基本的に無料」という原則(多少の手数料は徴収される)があると思いますが,確かに「無料サービスの領域」というのはかなりの速度で拡大しているようにも感じられます.そこまでゆくとマクロ経済学は環境経済学と地続きになります.無料サービスは構成的に国民総生産に貢献しないというのも多少疑問はありますが,無料サービスに値付けをするとなると宗教の領域に入ってゆくことになるかもしれません…※ 政府部門に属する経済活動には「現業部門」というのがあり,これが国民総生産に入っていないのは手抜きです.健康保険料,手数料,水道料金,通行料などに対応する事業がそれに該当します.これらを取り除くと上のマトリックスは「現業部門の完全民営化」に等しい状態になりますが,むしろ方向としては,民営化ではなく無料化というのが正しいのではないでしょうか?(完全無料化には弊害もありますが,救急車が有料化されたら119番をコールするのにためらう人も出てくるでしょう)金融部門収入のセルにもピンクで着色された手数料がありますが,これも無料化するべきでしょう.
※「環境」が万人を包摂する「無料サービス」であるとして,その「価値」をどのように計量・評価するか?という視点から見ると,「宗教は無料サービスの価値に関する経済学」であるとみなすことも可能である.言ってみれば,宗教は「公共経済学 / 政策」の一種である.ネオリベラリストが推進するあらゆる公共サービスの民営化というアィディアをどう評価すべきか?⇒参照:パートⅢ
かなりまとまって来たように思いますが,まだ間違っているところがあるかもしれません.お気づきの点,ご不明の点などありましたらお知らせください.このテーブルを実体経済マトリックスと呼ぶとすれば,その裏面の金融経済マトリックスというのも存在しなくてはなりません.それがどういうものになるのか?ちょっと見当も付きません.完全に「双対」なものになればおもしろいのですが…
馬場英治
2021/07/01 12:59
訂正:前便の記述にはほぼデタラメに近い致命的な誤りがあります.再考には相応の時間を要する見込みです.しばらくの冷却期間をお許しくださいますようお願い申し上げます.英治
2021/07/02 4:41
生島さん,下田さんE
どうもお騒がせしました.お手数ながら前便は速攻で破棄してください.あまりひどいので,どこが間違っていたのかの説明は致しません.さて,気を取り直してもう一度最初からやり直すことにしましょう.
目標はブロックチェーンを枝リストとして持つ経済循環グラフの接続行列を使ってある期間のGDPを求めるというものです.ブロックチェーンには該期間内のすべての取引情報がリストとして保持されているとします.ブロックチェーンのブロック一つがグラフの枝に相当し,ブロックには少なくとも以下の情報が記録されています,①取引種別,②債務者,③債権者,④債務額.取引種別では少なくとも,その取引の目的が「仕入れ」であるのか,「最終消費」であるのかが識別できる必要がありますが,それ以上の詳細情報は今のところ必要ではありません.売買取引の場合,物品がすでに引き渡されていると仮定すれば,債務者は物品の受取人,債権者は送出人,物品の価格が債務額になります.
使用する経済循環グラフはこれまでと同様ですが,以下のような拡張を行います.グラフのノードと枝の重みとして「純消費」と「仕入れ」という項目を追加します.移動量はこれらの欄のいずれかに直接書き込みます※.たとえば,その取引が原材料や中間財,ないし最終財の「仕入れ」に当たるときには「仕入れ」に金額を格納し,「純消費」にゼロを記入します.取引が消費を直接の目的とする場合には,「純消費」に金額を記入し,「仕入れ」をゼロとします.それ以外の場合はどちらもゼロとします.※移動量と取引種別とした方がわかり易かったかも…
グラフのノード数をNとしたとき,グラフの接続行列(隣接行列)はNxNのマトリックスとして表現されます.マトリックスの要素(セル)はグラフの枝E(i, j)に対応します.マトリックスのセルには(純消費,仕入れ)の対を格納しますが,枝が存在しないセルは(0, 0)のままとします.枝の向きはV(i)→V(j)なので,マトリックスの行がそのノードからの「支出」を表し,列はそのノードへの「収入」を表しています.マトリックスには集計用に行2つと列を3つ追加します.集計用の行は「売上合計」,「所得合計」,「最終消費」,集計用の列は「支出合計」,「仕入合計」呼ぶことにしましょう.
「売上合計」には,各ノードごとに「純消費+仕入れ」を縦に集計して格納します.「所得合計」には,付加価値=売上合計-仕入合計の値を計算して格納します.「最終消費」には「純消費」だけを加算します.「支出合計」には各ノードごとに「純消費+仕入れ」を横に集計して格納します.「仕入合計」には「仕入れ」だけを加算します.簡単なサンプルを作ってみましょう.
企業A, B, Cとその従業員a, b, cがいるとします.A, B, Cは従業員a, b, cのそれぞれに給与50円を支払って製品の製造・販売を行います.Aは100円の原材料をBに販売します.Bはそれを加工して200円でCに卸します.Cはこの200円の製品に100円上乗せして販売総額300円とし,A, B, a, b, cのそれぞれに60円で販売しました.Aは従業員aに50円支払い,原価50円のところをBに100円で売っているので,50円の収益があります.Bは原材料100円を加工するためにbに50円支払い,それに50円上乗せしてCに卸しました.Cは仕入れ価格200円の商品を300円で売っていますが,cに50円支払っているので,取り分は50円です.つまり,A~cのすべての当事者の所得は50円均一になります.
以下の表では(純消費,仕入れ)の形式ではなく,具体的な取引種別を示して(取引種別,価格)の形式で表示しています※.「給与」,「原材料」,「製品」が「仕入れ」に該当し,「販売」が「純消費」に該当します.例えば,セル(B,A)の場合,「Aは100円分の原材料をBの仕入れ用に販売し,BはAに代価100円を送金する」のように読んでください.※やっぱりね!そうなると思った.
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入合計 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | |||
C | 製品200 | 給与50 | 250 | 250 | ||||
a | 販売60 | 60 | ||||||
b | 販売60 | 60 | ||||||
c | 販売60 | 60 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 300 | 50 | 50 | 50 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
付加価値(所得合計)=売上高(売上合計)- 仕入れ(仕入合計)
国民総支出=∑∑純消費(表の赤数字)=∑最終消費=300
国民総所得=∑∑付加価値=∑所得合計=300
国民総生産=国民総支出=国民総所得=300
A, B, Cは先日提示したマトリックスで言えば,企業部門,a, b, cは家計部門に属するので,上の表から部門別のマトリックスに転換してみましょう.難しい操作ではありません.単純に各セルを累計するだけです.まず,行を圧縮すると下図のようになります.
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入合計 | |
企業 | 原材料100 | 製品200 | 販売120 | 給与50 | 給与50 | 給与50 | 570 | 450 |
家計 | 販売180 | 180 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 300 | 50 | 50 | 50 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
これをもう一度横方向に圧縮します.ここでは本来の(純消費,仕入れ)の形式で表示しています.
企業 | 家計 | 支出合計 | 仕入合計 | |
企業 | 純消費120,仕入れ300 | 仕入れ150 | 570 | 450 |
家計 | 純消費180 | 180 | ||
売上合計 | 600 | 150 | 700 | ←全取引量 |
所得合計 | 150 | 150 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
国民総所得=個人所得+事業所得=150+150
となっているので,明らかにダグラスのA+B等式は成立しています.ただし,家計は収入が150に対し,支出が180なので30円の赤字になっています.逆に企業は600-570で30円の黒字です.どうも,ダグラスの言ってることは本当なのではないでしょうか?下記(3番目の「損益」を追加した表)のように,損益=売上-支出をすべてのノードについて合計すると(∑損益),トータルはゼロになります.つまり,赤字と黒字はつねにバランスしています.ダグラスがこの意味で言っているのだとすれば,ダグラスの完全な誤解ということになるかもしれません.
上の表は部門別になっていますが,これをさらに,企業と家計を合併するとセルは一つだけになり,総計が表示されます.
国民 | 支出合計 | 仕入合計 | |
国民 | 純消費300,仕入れ450 | 750 | 450 |
売上合計 | 750 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 300 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
一つ気になる点があります.ループ(自己取引)が存在するときにどうなるか?という問題です.最初のマトリックスに戻って試してみることにしましょう.C→Cの枝を追加して,100円分を自家消費してみます.
A | B | C | a | b | c | 支出 合計 |
仕入 合計 |
|
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | |||
C | 製品200 | 自家消費100 | 給与50 | 350 | 250 | |||
a | 販売60 | 60 | ||||||
b | 販売60 | 60 | ||||||
c | 販売60 | 60 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 400 | 50 | 50 | 50 | 850 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 150 | 50 | 50 | 50 | 400 | ←国民総所得 |
最終消費 | 400 | 400 | ←国民総支出 |
特におかしなことは起きていないように見えます.国民総支出も総所得も同額増えています.売上も所得も同額だけ増加します.実際のところ,これはまさに「内需拡大」という言葉が意味しているところです.個人(家計部門)の場合はどうでしょうか?
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入合計 | 損益 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | -10 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | -10 | |||
C | 製品200 | 販売100 | 給与50 | 350 | 250 | +50 | |||
a | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
b | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
c | 販売60 | 自家消費30 | 90 | -10 | |||||
売上合計 | 100 | 200 | 400 | 50 | 50 | 80 | 850 | ←全取引量 | |
所得合計 | 50 | 50 | 150 | 50 | 50 | 80 | 430 | ←国民総所得 | |
最終消費 | 400 | 30 | 430 | ←国民総支出 |
これも問題ありません.国民総所得も増えています.つまり,GDPは拡大しています.損益を計算してみました→上表の最右列.Cを除いてすべてのノードが赤字になっています.ただし,これは当たり前のことですね.売上合計=支出合計なのだから,トータルでは必ずゼロになります.つまり,誰かの赤字は誰かの黒字ということでしょう.しかし,誰かが必ず赤字になるとしたら,その経済では年がら年中デフォルトが発生しそうな気がするのですが,そうならないのはなぜでしょう?わたしは前々から,貿易赤字国はなぜ存続できるのか?という疑問を抱いてきました…(まだ解けていません)所得=売上総利益=粗利=売上高-売上原価はどのノードも黒字になっています.
自家消費ではなく,給与を支払ったらどうなるでしょう?
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入 合計 |
損益 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | -10 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | -10 | |||
C | 製品200 | 販売100 | 給与50 | 350 | 250 | +50 | |||
a | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
b | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
c | 販売60 | 家内報酬30 | 90 | 30 | -10 | ||||
売上合計 | 100 | 200 | 400 | 50 | 50 | 80 | 850 | ←全取引量 | |
所得合計 | 50 | 50 | 150 | 50 | 50 | 50 | 400 | ←国民総所得 | |
最終消費 | 400 | 400 | ←国民総支出 |
c→cの自己ループとして,家内報酬30というのを追加してみました.売上が+30,仕入も+30で所得には変化がありません.この設定は「専業主婦に家庭内報酬を出す」という課題と等価ですが,売上は増えても所得は変化しないので,生活には何の変化もないということになります.逆に言えば「名目的には」いくらでも「報酬」が出せるということを意味します.ただし,(家計全体で)買えるものの量は変わりません.上の自家消費と比較して異なるところは,「家内報酬」では何も買えない,「自家消費」の場合は自家生産したものが消費できる,つまりGDPが拡大するという点です.
必要なら,部門をもっと細分化して集計することも容易に可能です.たとえば,鉱工業,水産業,製造業など産業別統計を計算するとか…あるいは,地域別統計を取るなどいくらでも応用が効きます.この経済循環マトリックス計算の利点は,対象ノードの属性に関わりなく例外なしに,まったく同じルールが適用できるところです.政府,金融機関から,利益を出さない非営利団体を含めて末端の一個人まで,経済主体の大小に関わりなく一律,統一的な操作で計算することができます.ただし,内閣府の国民経済計算でやっているような,「非市場生産者(無料ないし経済的に意味のない価格で財貨・サービスを供給する生産者であり、一般政府と対家計民間非営利団体を指す)によるサービスの産出と需要先別配分については、決算書等の基礎統計により別途推計する」ようなことはできません.
いや,やろうと思えばできないこともないとは思いますが,それをやると数値的な不整合があちこちで発生するおそれがあるのであまり推奨できません.この方式のメリットはどれほど大規模な循環経済系であっても1円の誤差もない精密計算がどこまでも可能であるというところにあるので,あえてそのメリットを捨てる必要はないと思います(実際,これは「中央銀行決済システム」の設計書ですから,現実の取引と「完全」に一致している必要があります).このアルゴリズムの計算量はたかだか多項式時間ですから(アルゴリズムをきっちり書いてみないと分かりませんが,O(N^3)を超えることはないでしょう),エストニアくらいの国家の規模なら,リアルタイム(毎分?)でGDP統計を更新できるのではないでしょうか?少なくとも毎時くらいなら楽勝ですね!
2021/07/06 5:10
生島さん,下田さん
どこでどう間違えたのか?シズカちゃんの素朴な疑問に応えるというところから始まったスレッドですが,いつの間にか,中央銀行が分散型CBDCを発行し,すべての国民が中央銀行に当座預金口座を持つというモデル上で,経済循環グラフのマトリックスを用いて国民総生産をリアルタイムで計算するというシステムの概念設計を行うという流れになってしまいました.ここまでの議論の最大の収穫は「真に持続可能な経済社会とはグラフ理論的にはオイラー有向閉路を持つような経済循環グラフであり,絶対に停止(デフォルト)しない決済システムがあればそれを実現できる」という確証を得られたことです.
この構想は比較的小規模の国家であれば,今日にでも実現可能ですが,人口一億人を超えるような「大国」で採用するためには量子コンピュータの登場を待たなくてはならないかも知れません.(計算量が参加ノード数Nの累乗に比例して増大してしまう…)
経済循環グラフはある閉じた経済圏のすべての経済単位(独立の経済主体,ないしその集合)をノード集合とし,時点における取引を枝集合とする有向グラフで,それ自体がその経済圏で通用する貨幣(ないし疑似通貨)を用いた取引の「決済システム」を表現しています.決済システムでは「時点」におけるすべての取引の決済が完了すると,待ち行列に入っていたすべての取引からなる新しいグラフを生成して,次のセッション(時点決済)に移ります.(もちろん,トランザクションを一つづつ逐次処理してゆくという方法[即時決済]でも差し支えありません)グラフのノード(経済単位)は主体的に経済活動を行う取引主体(個人・法人・銀行・政府など)ですが,独立経済主体の集合(産業部門,地域,国家など)をノードとすることもできます.
経済循環グラフの接続行列は経済循環マトリックスと呼ばれ,国民総生産統計を求めるなどの統計処理に用いることができます.通常経済循環マトリックスにはある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを蓄積・圧縮(時間軸で合併)したものが使われます.経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作です.圧縮された経済循環マトリックスを略して計算表ないし試算表,その上で実施される(国民総生産などの)統計処理を経済循環マトリックス計算と呼んでいます.
ある経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを空間軸で合併して1つのノードにまとめる操作です.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列のセルの値とB列のセルの値を取引種別ごとに合算してC列を生成してから,A列とB列をマトリックスから除去します.次にA行のセルの値とB行のセルの値を取引種別(仕入れ|純消費)ごとに合算してC行を生成してから,A行とB行をマトリックスから除去します.合算は取引種別ごとに行われるので,一つのセルの中に複数の値が残る場合があります.合併によって外部取引が内部取引になる場合もありますが,それによる取引種別の変化は起こりません.つねに横方向の合併と縦方向の合併を同時に実行し,正方行列を構成するようにします.
※マトリックスの圧縮ないし縮約の操作を対応する循環グラフ上で行うこともできます.この場合はまず,対応するノードを合併し,次に,この操作によって発生した(向きの同じ)多重枝を合併して1本にまとめます.圧縮ないし縮約では自己ループが発生する場合がありますが,基本的に経済循環グラフは自己ループと多重枝の存在を許すグラフであり,圧縮ないし縮約をしなくても最初から自己ループや多重枝が存在する場合があります.自己ループは同一経済単位内の内部取引(自己取引)を意味し,2つの経済単位の間で同時に複数の(同方向の)取引が並行して発生している場合には多重枝が発生します.自己ループはマトリックスの対角線上にあるセルを意味します.多重枝の場合,マトリックスのセルには複数の値が格納されます.
前回はこの方法を使って,企業A, B, Cと個人a, b, cの6つの経済単位から構成される経済循環マトリックスを,企業セクタと家計セクタの2経済単位からなるマトリックスに縮約できることを見てきました.これを応用して,経済循環マトリックス計算が一国経済だけでなく,多国間の貿易を伴う大域経済圏においても適用可能であることを見ておきたいと思います.最初に前便の冒頭で提示した企業A, B, Cとその従業員a, b, cからなるサンプルを開始地点として再掲します.企業A, B, Cはそれぞれの従業員a, b, cに給与50円を支払い,BはAから供給された原材料100円を加工して,製品をCに200円で売却し,Cはそれを分割してA, B, a, b, cのそれぞれに60円(総額300円)で売却します.各当事者の売上は50~300円とまちまちですが,所得はすべて50円均一です.
A | B | C | a | b | c | 支出 合計 |
仕入合計 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | |||
C | 製品200 | 給与50 | 250 | 250 | ||||
a | 販売60 | 60 | ||||||
b | 販売60 | 60 | ||||||
c | 販売60 | 60 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 300 | 50 | 50 | 50 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
まず,このサンプルの(A, a),(B, b),(C, c)という(企業,従業員)のペアをそれぞれ,A村,B町,C市に見立てた地域経済モデルを作ってみましょう.A村,B町,C市で構成される経済圏をD県として,県単位の経済循環マトリックスを構成します.A村で生産された野菜は,B町で加工され,C市の販売業者によって,D県全体をマーケットとして広域販売され,最終消費されるというイメージです.
A村 | B町 | C市 | 支出合計 | 仕入合計 | 損益 | |
A村 | 給与50 | 販売120 | 170 | 50 | -20 | |
B町 | 原材料100 | 給与50 | 販売120 | 270 | 150 | -20 |
C市 | 製品200 | 販売60 給与50 |
310 | 250 | +40 | |
売上合計 | 150 | 250 | 350 | 750 | 総経費450 | |
所得合計 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←県民総所得 | |
最終消費 | 300 | 300 | ←県民総支出 |
結構簡単にできました.マトリックスには損益という列を追加しています.損益=売上合計-支出合計で,∑損益はつねにゼロになります.損益はいまのところ設定しただけで使っていません.それぞれの市町村は独立の経済単位として相互に取引していますから,これを外国取引まで拡張するのは難しくありません.A村をA国,B町をB国,C市をC国と読み替えてみましょう.A国は英国で,B国が米国ならC国はチャイナかもしれません.経済循環系グラフはそれ自体「決済システム」を表象しているので,系が国家単位であるときには,システム全体は中央銀行を表します(政府はその中の一プレーヤであるに過ぎません).国境を超えた大域経済圏には複数の中央銀行が存在し,異なる通貨が流通していますが,為替レートは安定で,通貨の等価交換がつねに可能であることを前提とし,各国中央銀行システムを統合した仮想的な統一決済システムの存在を仮定します.
A国 | B国 | C国 | 支出合計 | 仕入合計 | 消費合計 | 輸入 | 損益 | |
A国 | 人件費50 | 消費輸出120 | 170 | 50 | 120 | -20 | ||
B国 | 中間財輸出100 | 人件費50 | 消費輸出120 | 270 | 150 | 120 | 100 | -20 |
C国 | 中間財輸出200 | 国内消費60 給与50 |
310 | 250 | 60 | 200 | +40 | |
売上合計 | 150 | 250 | 350 | 750 | 470 | |||
所得合計 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総所得 | |||
最終消費 | 300 | 総支出→ | 300 | |||||
輸出 | 100 | 200 | 300 | |||||
純輸出 | 100 | 100 | -200 | 0 | ||||
純生産 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総生産 |
数字的にはまったく変化はありませんが,集計用にいくつかの列と行を追加しました.いずれも輸出入に関係するものです.「輸入」はその行の国家の外部からの「純消費」を除く輸入の合計,「輸出」はその列の国家の「純消費」を除く輸出の合計,「純輸出」は「輸出」と「輸入」の差額とし,純生産は以下の式のように,「最終消費」と「純輸出」の和として与えられます.
純生産=最終消費+輸出-輸入=最終消費+純輸出
C国には消費輸出120というのが2件ありますが,これらは輸出入には勘定されません.これはアマゾンなどの大域企業(グローバル企業)が行っている海外に居住する消費者への直接販売を意味しています.通常のケースでは最終消費財の輸出では輸入国側の販売業者を経由して国内販売することになるので,そのようなパターンでどうなるかを見ることにします.上の表をアレンジしてC→Bの輸出は「消費輸出」のままとし,C→Aの輸出では財貨を中間財(仕入れ/卸し)として輸出して,A国内で販売するというパターンにしてみます.
A国 | B国 | C国 | 支出合計 | 仕入合計 | 消費合計 | 輸入 | 損益 | |
A国 | 人件費50 財貨消費120 |
財貨輸出120 | 290 | 170 | 120 | 120 | -20 | |
B国 | 中間財輸出100 | 人件費50 | 消費輸出120 | 270 | 150 | 120 | 100 | -20 |
C国 | 中間財輸出200 | 国内消費60 給与50 |
310 | 250 | 60 | 200 | +40 | |
売上合計 | 270 | 250 | 350 | 870 | 570 | |||
所得合計 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総所得 | |||
最終消費 | 120 | 180 | 総消費→ | 300 | ||||
輸出 | 100 | 200 | 120 | 420 | ||||
純輸出 | -20 | 100 | -80 | 0 | ||||
純生産 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総生産 |
A国では(マージンを取らず)輸入額と同じ金額で販売しているので,A国の所得合計には変化がありません.表の対角線上にあるA国の自己取引セル内に追加された財貨消費120を取り除くと,A国ではC国から輸入した財貨が売れ残っている状態になるため,売上と所得がその分減少し,大域的な総消費=総所得=総生産もその分連動して減少します.経済循環マトリックスでは最終消費された製品・サービスのみが純生産としてカウントされる(価格が付いていない商品,つまりまだ売れていないものはその時点では無価値とみなされる)ためです.
外国貿易を扱うために,「輸入」,「輸出」などの項目を追加しましたが,これを国内経済計算に応用することはできないでしょうか?上の表では,経済単位が国家なので,「所得合計」は「国民総所得」に相当し,「純生産」は「国民総生産」を表すものと見ることができます.「純生産」の値を得るためには,「純輸出」を計算しなくてはなりませんが,国内経済でも外部取引を移出・移入と捉えれば,翻案できるのではないかと思います.それができれば,国内経済についても,もう少し詳しい議論が可能になる上,国内経済と外部経済を一つの計算表上で完全に同じレベルで解析できるようになります.
該サンプルをアレンジして,企業A, Bと従業員a, bから構成される経済圏をX国,企業Cと従業員cからなるY国に分割してみましょう.Y国は1国を経済単位とし,X国ではすべての構成メンバーがそれぞれ独立の経済主体であるようなモデルを考えます.Y国にはアマゾンのようなグローバル企業が存在し,世界中に商品を直販しています.ただし,A社は外販を目的としてY国から輸入していますが,「時点」では販売実績がないため「在庫」の状態になっています.B社ではそれを外販せず,Y国から輸入した製品の全額を社内消費して内販60とします.aとbは個人なので最終消費の目的でY国から直接購入します.やってみましょう.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 出金額 | 仕入高 | 移入財 | 消費額 | 損益 | 総支出 | |
A社 | 給与50 | 製品輸出60 | 110 | 110 | 110 | -10 | -10 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与50 | 製品輸出60 | 270 | 210 | 210 | 60 | -10 | 50 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
Y国 | 輸出200 | 国内販売 60 給与50 |
310 | 250 | 200 | 60 | 40 | 100 | |||
入金額 | 100 | 260 | 50 | 50 | 350 | 810 | 570 | 0 | |||
総所得 | -10 | 50 | 50 | 50 | 100 | 240 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 50 | 50 | 120 | 520 | |||||
純消費 | 60 | 180 | 240 | ||||||||
純移出 | -10 | -10 | 50 | 50 | -80 | 0 | |||||
総生産 | -10 | 50 | 50 | 50 | 100 | 240 |
できました.このマトリックスは外国貿易を伴う外部経済と内国経済が混合した広域循環マトリックスですが,完全に汎用的な(ありとあらゆるケースに適応可能な)循環マトリックス計算が確立できたと思います.内容的には一番最初に提示した3社3雇用者のマトリックスと「ほぼ」同じですが,A社ではY国から製品輸入した商品をまだ販売していないため,総所得が-10という赤字の状態になっています.
すべての財貨・サービスの売買取引は経費(仕入れ)と純消費(最終消費)に二分されます.これらの区分はその取引が国外(輸出入)であるか国内(移出入)であるかによりません.自己取引(経済単位内の内部経済)の場合でも同じです.つまり,その経済単位がどのような規模のものであっても例外なく同一のルール・手順によって計算されます.海外への報酬支払い(送金)はサービスの輸入,国内における出稼ぎもサービスの移出としてまったく同じ扱い(移出/入財)になります.海外からの観光客の現地での買い物は消費移出財です.
上の三国経済循環マトリックスの輸入,輸出,純輸出,純生産となっていた項目をそれぞれ,移入財,移出財,純移出,総生産に改め,新たに消費額,損益,総支出という項目を追加しました.また,一行を短くするために,売上合計,所得合計,最終消費,支出合計,仕入合計,消費合計をそれぞれ,入金額,総所得,純消費,出金額,仕入高,消費額のようにリネームしました.
集計行と集計列の各項目は以下のように定義されます.
出金額=∑(行の全要素)
入金額=∑(列の全要素)
仕入高=∑(行の仕入れ)=(内部経費)+移入財
損益=入金額-出金額
総所得=入金額-仕入高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
消費額=∑(行の純消費)
純消費=∑(列の純消費)
総支出=消費額+損益
純移出=移出財-移入財
総生産=純消費+純移出
∑(入金額)=∑(出金額)
∑(損益)=0
∑(純消費)=∑(消費額)=∑(純生産)
∑(移入財)=∑(移出財)
∑(純移出)=0
∑(総所得)=∑(総支出)=∑(総生産)=∑(消費額)=∑(純消費)
= 全所得 = 全支出 = 全生産 = 全消費
今回は個別経済単位ごとに,総所得,総支出,総生産を計算し,それらが完全に一致していること(三面等価の原理)が確認されました.広域的には,∑総所得,∑総支出,∑総生産,∑消費額,∑純消費がすべて完全一致しています.(上表で■,■,■で塗りつぶされている部分).個別経済単位に業種・地域などの属性が与えられていれば,それに従ってあらゆる種類の統計(産業別・地域別などなど)がたった一つのブロックチェーン(取引台帳)から導き出せることが確認されました.しかも,それを全自動で実行することができます.取引の品目が分からなくても,また,その製品の生産プロセスに立ち入らなくても,その取引が仕入れ(経費)であるか純消費であるかを見るだけでここまでできるというのはある意味,すごいことであるような気がします.
2021/07/06 13:57
前便でもご説明したように,循環マトリックスの対角線上にあるセルは内部取引(自己取引)を意味します(グラフでは自己ループ).これは主にマトリックスが縮約マトリックスである場合に起きる現象ですが,その(自己)取引が仕入れ(経費)であれ,純消費であれ,適用されるルールには変わりありません.B社は内販によって所得が+50になっているのに対し,A社の所得は-10になっています.B社の社内販売では資金はB社の内部で動いている(出金と同額が入金している)だけで収支には関わりなさそうに見えますが,AとBの相違点は,A社で保有している製品在庫はまだ評価されていない(販売されていない)ため,値が付いていないのに対し,B社ではどの部門かがその製品を購入したことによって値が確定し,その製品が「使用できる状態」になったためと言えます.
内部取引については,前にも「専業主婦の家庭内労働賃金は誰が支払うのか?」という「難問」として何度か触れていますが,この場合も,家事労働に(名目上)賃金を支払えば,その家計の所得は増加します.これは「その労働が評価されたこと」を意味するもので,逆に言えばどっちみちお金は動かないのだから,主婦にはいくらお金を払ってもよい,とも言えます(夫と妻が別財布ではそうも言えませんが…).この「労働が評価されたこと」=「所得が増加すること」の意義は,たとえば,子どもに「お小遣いやるから~やって」と頼むようなケースを考えれば分かります.この場合はお金をやらなければその仕事はなされなかったと考えられるので,「お小遣い」によってその金額相当の「労働」が実行され,それが「生産」として評価されたと言えます.もっとわかり易い例で言えば,「最近やってないけど,これでどう…」と言って妻にお金を渡し,それに妻が応じたとすれば,明らかに家庭内売買春という完全な経済行為(貨幣的取引)が成立すると考えられます.サービス残業などは企業内で起きている「無賃の家事労働」かも知れません.
本システムでは「在庫」を価格的に推計するのはかなり難しいような気がします…多分,できません.仕入れ額がどの製品にどれくらいの割合で分配されているかを推計する手段が存在しないからです.もちろん所得がマイナスになれば,販売不振という状況にあるくらいは推定できますが…まぁ,これは「決済システム」ですから,そこまでやる必要もありません.※イクシマさんのデジタルレーニン主義ではそこまでやるのだろうか?AIを使えばそれも可能になる?(少なくとも現状を見る限りではデジタルマオイズムもそこまで成功しているようには見えない…)
B.A.
訂正:用語の使用,特に集計行および集計列で用いられる項目名の見直しを行い,経済循環マトリックスの構成と整合するような名称に統一するための修正を行った.経済循環マトリックス上のセルは1つないし複数の貨幣的取引を表示し,通貨は最左列のノードから最上行のノードに移動するので,「行」は最左ノードの支出,「列」は最上ノードの収入を意味している.純消費→最終財,消費額→純消費とし,総支出,総所得,総生産はそれぞれ,支出額,所得額,生産額に改めた. (2022/05/12)
2021/07/07 4:01
生島さん,下田さん
GDPを算出するための経済循環マトリックス計算の核となる部分はほぼ固まったのではないかと思いますが,もう少し調べてみたいと思います.もっとも興味深いのは,生産額が,
生産額 = 純消費 + 損益 ※
という式で与えられるという点です.この損益という値は,ある経済単位の収入と支出の差分をあらわすもので,経済循環グラフ的に言えば,グラフの各ノードの重み(持ち分,中央銀行の当座預金残高)の増減を表します.国民経済計算の解説の中ではあまり見かけない数字ですが,これはなぜかというと,ある閉じた経済循環系においては,∑損益は必ずゼロになると考えられるからです.つまり,「損益」の出番がありません.同じ様にトータルでつねにゼロになる数字に純移出(純輸出=輸出高-輸入高)という数字があります.ただし,開いた経済循環系ではむしろゼロにならない方が普通なので,国民経済計算の中ではかなり重要な役どころです.※この等式は,「働かざるもの食うべからず」という命題を数式化したものに他ならない
一部の教科書はこの「損益」の代わりに「貯蓄」という用語を使っている場合があります.家計部門などでは 所得=消費+貯蓄(可処分所得のうち消費しなかった金額),企業部門では貯蓄の代わりに投資という用語を用いて,所得 =消費+投資のように表現されたりします.循環マトリックス上の時点ではまだこれらの資金の処分(貯蓄や投資)は実現されていないので,あくまで損益と見ておいた方がよいと思います.
売上高=∑(列の全要素)=∑中間財の販売+∑最終財の販売 支払高=∑(行の全要素)=∑中間財の仕入れ+∑最終財の購入 純消費=∑(行の純消費)=∑最終財の購入 損益=売上高-支払高=∑中間財の販売+∑最終財の販売 -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入 支出額=純消費+損益 =∑最終財の購入+∑中間財の販売+∑最終財の販売 -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入 =∑中間財の販売+∑最終財の販売-∑中間財の仕入れ =∑最終財の生産額+∑中間財の生産額-∑中間財の仕入れ =∑最終財の純生産額+∑中間財の純生産額=生産額
支出額=生産額は確かに成立しているようです.マトリックス上で実際に確認して見ましょう.Y国の場合に注目します.下表では,Y国の支出側(行)に純消費項目が出現するように,A社からY国に燃料60の輸出を追加しました.これにより,Y国の純消費は120,損益は-20に変化して支出額は100になりました.以下の表から数字を拾い出し,上の式に代入してチェックしてみます.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 移入財 | 純消費 | 損益 | 支出額 | |
A社 | 給与50 | 製品輸出60 | 110 | 110 | 110 | 50 | 50 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与50 | 製品輸出60 | 270 | 210 | 210 | 60 | -10 | 50 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 国内販売 60 給与50 |
370 | 250 | 200 | 120 | -20 | 100 | ||
売上高 | 160 | 260 | 50 | 50 | 350 | 870 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 200 | 50 | 50 | 170 | 570 | |||||
所得額 | 50 | 50 | 50 | 50 | 100 | 300 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 50 | 50 | 120 | 520 | |||||
最終財 | 60 | 60 | 180 | 300 | |||||||
純移出 | -10 | -10 | 50 | 50 | -80 | 0 | |||||
生産額 | 50 | 50 | 50 | 50 | 100 | 300 |
売上高=製品輸出60x2+消費輸出60x2+国内販売60+給与50=350
支払高=燃料60+輸入200+国内販売60+給与50=370
損益=(製品輸出60x2+消費輸出60x2)-(燃料60+輸入200)=-20
純消費=燃料60+国内販売60=120
支出額=純消費120+損益-20
=国内販売60+消費輸出60x2+製品輸出60x2-輸入200
=∑最終財生産額180+∑中間財生産額120-∑中間財仕入れ200
=∑最終財の純生産額180+∑中間財の純生産額-80
=生産額=100
Y国で販売されたすべての財貨(仕掛りの中間財を含めて)はY国の生産物としてカウントされます.ただし,それらの財貨を生産するために外部から移入ないし輸入した中間生成物のコストを控除しなくてはなりません.上の計算式はこれらのことを抜かりなく実行するための手順書になっています.純消費+損益から生産額が直接算出できるというのはまったくもって直感的ではありませんが,恒等的に成立する(マクロ経済学の原理の一つ)ことが示されました.生産額=支出額の等式は,支払高=移入財+最終財+内部経費,売上高=移出財+純消費+内部経費の関係を使って,もう少しスマートに証明できます.
支払高=移入財+純消費+内部経費 売上高=移出財+最終財+内部経費 損益=売上高-支払高=(移出財+最終財+内部経費) -(移入財+純消費+内部経費) =移出財-移入財+最終財-純消費 =純移出+最終財-純消費 支出額=純消費+損益 =純消費+純移出+最終財-純消費 =最終財+純移出 =生産額
さて,気になるのはこのマトリックスに含まれている2つの「ゼロサムゲーム」です.明らかにこのゼロサム式は恒等的に成立します(※⇒上表からも明らかなように「損益」と「純移出」のそれぞれの累和はつねにゼロになる.つまり,参加メンバーの一方がプラスになれば,他方はかならずマイナスになる).「競争社会」とはよく言われますが,まさに生きるか死ぬかの弱肉強食の世界ですね.経済がこんなにシビアなものだとは思いませんでした.平均すれば常時半分くらいの人は損益マイナスの状態にあり,国家の半数あるいはそれ以上の国家が貿易収支の赤字で悩んでいる姿が目に浮かびます.損益マイナスの状態から脱出するのは容易いことではありません.それにしては,破綻して自殺を選ぶ人がそれほど多くはないというのはどういうことでしょうか?※
※⇒個人は収入に合わせてなんとか生計をやりくりしているので,帳簿尻は中小零細企業にしわ寄せされているものと推定される.これは構造的と言うより,むしろ原理的と言うべきものだろう.未開発ないし発展途上国がODAを必要とするのも同じ原理だ.財政赤字国に対するIMF融資が逆にその国の経済を破壊する結果に陥りがちな理由もそこにある.農業国が貧しいのもそれが原因と言えるだろう.すべては経済循環マトリックスがゼロサム・ゲームであるためだ.
この2つのゼロサムゲームは相互に影響し合うことはあり得ますが,かならずしも連動しているものではありません.実際,対外収支(貿易収支)赤字でも損益黒ということはあるし,その逆も真です.わたしの感覚ではどちらがシビアかと言えばやはり損益の方ではないかという気がします.というのは,損益はあからさまな資金ショートを意味しますが,純移出(純輸入)の赤字では資金的には赤字でもそれに見合った財貨を輸入(移入/購買)しているのだから,必ずしも悲観するまでもないのではないかと見ています.※⇒実際のところ,国際収支における最大の「赤字国」はアメリカである.「赤字」に対する「見方」を変える必要があるのかもしれない…
A社 | B社 | a | b | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 移入財 | 純消費 | 損益 | 支出額 | |
A社 | 給与60 | 製品輸出60 | 120 | 120 | 120 | 40 | 40 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与60 | 製品輸出60 | 280 | 220 | 220 | 60 | -20 | 40 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 国内販売 60 給与60 |
380 | 260 | 200 | 120 | -20 | 100 | ||
売上高 | 160 | 260 | 60 | 60 | 360 | 900 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 200 | 60 | 60 | 180 | 600 | |||||
所得額 | 40 | 40 | 60 | 60 | 100 | 300 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 60 | 60 | 120 | 540 | |||||
最終財 | 60 | 60 | 180 | 300 | |||||||
純移出 | -20 | -20 | 60 | 60 | -80 | 0 | |||||
生産額 | 40 | 40 | 60 | 60 | 100 | 300 |
このサンプルは企業3社と個人3人でうち1社1名はY国という構成になっていますが,すべての家計で赤字になっています.これは給与が50円に対し,消費が60円掛かっているためです.仮に60円というのが労働力再生産のための最小限のコストであるとすれば,そこまで給与を上昇させない限り,この経済は持ちません.そこで,とりあえず,給与を一律10円アップして60円としてみました.個人cはY国の中に入ってしまっているため見えませんが,ともかくすべての家計で損益ゼロという状態を確保することができたと言えます.さて,その尻拭いはどこへ行くのでしょう.個人の損益がすべてゼロないし黒字であるとすれば,そのしわ寄せはすべて企業セクタに回るしかありません.なるほど,少し分かりかけて来ました.
日本全体の企業の99.7%は中小企業であると言われていますが,そのうちの7割が赤字という数字があります.わたしはこれまでどんな企業でも経営努力しさえすれば黒字転換は可能なはず,赤字決算のかなりの部分は脱税のための粉飾ではないかと思っていましたが,どうも,そういうことではなかったようです.総和がゼロのゲームでは,誰かしらが貧乏くじを引くしかありません.もし,この赤字が「変動」であって,平均すればゼロというのならまだよいのですが(「持ち分」のベースラインを一律引き上げて残高がマイナスにならないようにするなどの方策があり得る),大きいところはまず赤字にはなりませんから(もちろんときどきニュースで耳にしますが,大概は脱出できます),小さいところがそのあおりでほぼ恒久的に赤字を出し続けるのは避けられないように思われます.しばしば「時代遅れのビジネスはとっとと市場から退出しろ」という声が聞こえますが,それも違うのではないでしょうか?確かに廃業して賃金労働者になれば最低限食ってゆくことはできるかもしれませんが…
「ウィンウィン」ということばがありますが,原理的にあり得ない話です.これが現実であるとすればどんな手を使ってでも相手を出し抜くしかないということになってしまいます.「金融システム」云々より以前にこの原始的な競争社会を転換する必要があるのではないでしょうか?まぁ,赤字経営を続けていても,それが「常態」であるという悟りを開けば存続可能なのかもしれませんが…日本経済の過半の部分はボランティア経済である,つまり採算の取れないビジネスで何とか回しているとは前々から思っていましたが,確かに日本経済の現状,というより世界経済と言っても同じですが,原理的にそうなるしかないような気がしてきました.クリフォード・ダグラスが説いていたのはおそらくそのことなのだろうと思います.だとすれば,ベーシックインカムはむしろ企業にこそ分配すべきものであるのかもしれませんが,企業にはデット・エクイティ・スワップ(企業の債務を債権者が債権による現物出資をおこない株式化すること,もしくは、債権者が金銭出資をおこない株式を取得し、その出資で債務の弁済を受けること)という奥の手もあります…
日本の中小企業は従来から運転資金を銀行等からの借入のローリング(半永久的な借り換え)で賄う傾向があり、これは中小企業の資本性借入れ(擬似エクイティ融資)として問題視されてきた。銀行等の融資は、満期には完全に返済されることを想定しており、恒常的に必要な資金は、本来は株式で調達する(株主からの出資で賄う)べきである。出典:増田安良(東洋大学)
考えられる最善手は,おそらく「経済循環システムの持ち分の変動を許容範囲内に収めるような仕組み」を構築することではないでしょうか?そのためには富の再配分しかないような気もします…つまり極端に過剰な持ち分を削って平坦化する…もちろん,異常に落ち込んでいるところはその原因を突き止めて対処する必要はありますが…損益を改善するためにはやはり輸出しかありません.当然ですが,内需拡大は[GDPを増加させる効果はありますが]損益[対外収支]にはまったく反映されません.下図ではY国の内需を200まで拡大した上で,Y国からA社への輸出を100に増加させてみました.この結果,これまで+40あったA社の損益が0になり,Y国の損益は+20になりました.輸出が伸びたので純移出のマイナスもその分だけ減少しています.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 移入財 | 純消費 | 損益 | 支出額 | |
A社 | 給与60 | 製品輸出100 | 160 | 160 | 160 | 0 | 0 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与60 | 製品輸出60 | 280 | 220 | 220 | 60 | -20 | 40 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 内需 200 給与60 |
520 | 260 | 200 | 260 | 20 | 280 | ||
売上高 | 160 | 260 | 60 | 60 | 540 | 1040 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 200 | 60 | 60 | 220 | 640 | |||||
所得額 | 0 | 40 | 60 | 60 | 280 | 440 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 60 | 60 | 160 | 580 | |||||
最終財 | 60 | 60 | 320 | 440 | |||||||
純移出 | -60 | -20 | 60 | 60 | -40 | 0 | |||||
生産額 | 0 | 40 | 60 | 60 | 280 | 440 |
PS:多少修正が入っているのでアップデートしました.これは経済循環マトリックス計算のルールブックです.
支払高=∑(行の全要素)=移入財+純消費+内部経費=純消費+仕入高
売上高=∑(列の全要素)=移出財+最終財+内部経費=最終財+卸売高
仕入高=∑(行の仕入れ)= 移入財+内部経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財+内部経費
損益=売上高-支払高
所得額=売上高-仕入高
純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
純移出=移出財-移入財
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益
∑(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)
∑支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)
所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)
総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)
総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
2021/07/07 22:23
生島さん
>いよいよGDPになってきて嬉しいと思います。
確かに,このスレッドはある程度まで生島さんのご要望に沿う方向で進めているところがあるというのは事実です(バックキャスティングってやつですね).ただ,そのリクエストのレベルが高過ぎて…なかなか…
>ここはある意味マクロ経済学のキーだと思いますのでありがたいです。
サンプルとして示している計算表は,「スプレッドシート」があれば造作もなく書けるものですが※,この簡単な図表から読み取れることはとても深いものがあります.わたし自身思わぬ発見がいくつもありました.セルの数字をあちこちいじると色々なことがわかってくるのですが,これを自動化したいですね.30年前に「イカロス」という名前の「シミュレーションソフト」を開発したことがあります.そのころは中学校の職業家庭科に「情報基礎」という領域があって,その授業の教材として使うためにBTRON-OS向けに開発されたものですが,非関税障壁だとかなんだとかアメリカから難癖を付けられてBTORON自体が葬り去られてしまったため,陽の目を見ることがありませんでした.もし,これがいま手元にあったら,わたしは何のためらいもなく「経済循環マトリックス計算」をこのソフトの上に乗せていたことでしょう.イカロスにはそのために必要な機能がすでにすべて備わっていました.
※経済循環マトリックスの計算表では一つのセルが複数の値を持つ場合があります.スプレッドシートで表現する場合には複数行に分けるしかないかもしれません…
>GDPギャップもよく言われているのできちんと見たいと思っています。
えええ,もう次のご注文ですか!ま,待ってください.というか,こういう部分はたとえばイカロスのようなソフトがあればカバーできますよね.イカロスでは「数式入力」もサポートしていたので,「数式」を直接入力してそれを「コード」として動かすことができます.誰か作ってください!
>などとも用語統一というか、オントロジーですね。定義したいところです。
用語の統一は重要なポイントですが,まだ,何がどうなっているのか完全に把握しきれていないので,わたし自身ぐらぐらしています.昨日のメールでは純生産=純消費+損益としましたが,読み直してみると,やはりこれは「純生産」ではなくて「純支出」でした.というか,「純生産」とか「純支出」なんて用語は普通使いませんよね.「純輸出」というのはありますね.「純消費」ということばもどこかで使われていたと思います.用語はできるだけ統一したいと思っているのですが,わたしはグラフ理論を昔の古い教科書で学んでいるので,たとえばグラフの「辺」を「枝」と呼んでみたり,あるいは,「隣接行列」を「接続行列」と呼んでしまったり…グラフの「頂点」もわたしは「ノード」と呼んでいますが,グラフ理論家には嫌われるかもしれません(以前は「点」という呼び方をしていました).ネットワーク理論では「頂点」を「ノード」と呼ぶ方がむしろ普通だと思いますが…この辺りは完全に主観的な「こだわり」の部分なので,できるだけ「世間一般」に通用するように心がけてはいるのですが…
ただ,用語は厳密な定義を与えてから使用するべきですが,そうすると,定義部分のボリュームばかり大きくなって,テキスト全体が過剰に堅苦しいものになり,結果的に読者側に余分な負担を掛けるようになってしまう恐れもあって,まぁ,(いまのところ)アバウトに読み取ってもらえればというつもりで書いています…用語に厳密な定義を与えると間違っているところが見つかったりして,それもまた必要なのですが…
>問題は政府ですが、これが魑魅魍魎の世界です。
デジタル庁などと言っていますが,まず,政府財政をガラス張りにするところから始めないことには…
>山口先生の本でも2章でその関係の話が出てくるので用語整理しておくとありがたいです。
イカロスはインタプリータ言語を内蔵したシミュレータで,数式を含む任意のコードを直接入力し,クロックに同期して擬似的な並列プロセスを実行して,その結果を画面に描画することができます.複数のレイヤー上に矩形・円弧・線分などの各種図形,テキストの他,透過ビットマップも表示できるのでそれぞれのオブジェクトが独立に動作するようなアニメーションも表示できます.システムダイナミックスもかなり高度なことができるようですが,この2つをミックスしたようなものができるとさらにおもしろいかもしれません.
数理研究所でやりませんか?たしか,20年度の予算が4兆円くらい残っていたような…いや,もっとありますね.4兆円というのは新規発行国債の減額分で,それ以外に予算執行不用額が3.9兆円,国債償還や補正予算に充てる純剰余金が4.5兆円もあります!
2021/07/08 0:18
誤:1n(Y/LH)=1nA+a1n(KS/LH)
正:ln(Y/LH)=lnA+aln(KS/LH)
上の式は,生島さんご紹介の「内閣府 付注1-2GDPギャップの推計方法について」に出てくる「コブ・ダグラス型生産関数」を対数変換したものですが,致命的なタイプミスがあります.いや,わたしも最近急速に視力が落ちているので,間違っていたらゴメンナサイ.
2021/07/09 20:30
生島さん,下田さん
前便のタイプミスはわたしが書いたものではありません.内閣府のサイトの「GDPギャップの推計方法について」で見つけたものです.わたしはプログラマなのでこういうのは得意なんですよ.プログラマがコードの中でこんなもの見落としてたら,それこそ生命いくらあっても足りません.些細なミスですが,この1文字の誤記を見ただけでもかなりのことが分かります.①担当部署はこのホームページ作成を外部業者に丸投げしている,②検収をほとんど無検査で通している,③担当者はこの記事が読まれることをほとんど期待していない,④実際,この分野を専門とする研究者でこの記事を閲読したものはほとんどいなかったのだろう,⑤発注価格はおそらく腰を抜かすくらい高額で,直接作業者の日当はおそらく青ざめるくらい安かったものと推定される,⑥当然,作業者はほとんど何も知らない字が読めるというレベルのアルバイトだ,⑦これもまた,どうせ,パソナか,電通がらみ?
>なかなかついていけてません。
済みません.「誤りを含む証明」を読むときの苦痛は身に覚えがあります.確か,ロシアのノーベル賞受賞者がこんなことを言っていました.「わたしは人の論文を読むときは,頭の部分としっぽしか読まない.もし,その命題が正しいとすれば,自分で証明を考えてしまった方が早い」.こんな偉い人でもそうなのですから,まして「整理されてない論」を読むのは,(生島さんのような方であっても)大変なことは重々承知しています.本論で分かりづらいところは多分,「移入財」と「移出財」の定義の辺りではないかと思います.「輸出入」と言ったのでは国家間の国際取引しか扱えないので,あえて「移出入」という用語を用いている点に関してはご理解頂けるものと思いますが,本論で定義された「移入財」,「移出財」は通常の「輸入材」,「輸出財」とは微妙なところで差異があります.ルールブックには以下のようにあります.
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
「取引」は「通貨」と「財貨」の等価交換なので,つねにグラフの枝の両方の向きで移動が発生しますが,経済循環グラフでは「通貨」の移動だけに着目しているので,片側だけの「有向グラフ」として表現します.グラフをマトリックスに転換すると,「セル」はグラフの枝(取引)に相当しますが,「行」はそのノードからの「支出」を表し,「列」がそのノードへの「収入」になります.「財貨」はその逆向きに動いているので(通貨の動きと反対方向),たとえば,計算表上で「輸出」と書いてあるときには,「上」のノードから「左」のノードへの「輸出」であるということになります.「外部からの」としているのは,この集計には「自己取引」,つまり,「内部経済」を含まないという意味です.ここまではいいと思うのですが,問題は「仕入れ」としている点です.明らかにこれはかなり直感に反する定義になっているのではないでしょうか?※つまり,最終財の移出入は計数に含まれない!
「仕入れ」と呼ぶものの中には「中間財」の購買と,給与など報酬(労働サービスの対価)の支払いが含まれます.つまり,最終消費財の価格の中に転化される(埋め込まれる)と考えられる財貨・サービスがすべて含まれます.これらを控除しないと正しい生産額を計算できません.「最終消費財」の価格は「仕入れ」+「収益」で,この収益分が「付加価値」と呼ばれるものです.輸出入の用語では,純輸出=輸出-輸入となりますが,この「輸出」ないし,「輸入」は通常の理解では,「最終消費財の輸出を含めた全輸出」あるいは,「最終消費財の輸入を含めた全輸入」となります.しかし,「移入財,移出財には最終消費財を含めない」というのが我々の与えた定義です.この定義を従来の定義に戻して,「移入財=移入されたすべての財貨,移出財=移出されたすべての財貨」のように補正して再計算すると,
移出入=移出財-移入財=売上高-支払高=損益
という結果になり,結果的に,財貨的ゼロサムゲームと貨幣的ゼロサムゲームが完全に一致するようになります!確かに,これはわたし達が直感的に感じる「語感」とマッチしています.つまり,「貿易収支が赤字なら損益もマイナスになるはずだ(その逆も真)」という理解です.むしろ,逆に「財貨的ゼロサムゲーム」と「貨幣的ゼロサムゲーム」が交叉しているという方が分かりづらいと言ってよいと思います.下記のような定義を「移出入の古典的定義」ないし,古典的移出入と呼ぶことにしましょう.
移入財=移入されたすべての財貨
移出財=移出されたすべての財貨
確かに,近来までの外部経済取引は「古典的定義」と一致するような動きになっていたのだと思います(産品は一度「仕入れ」されてから国内で販売・加工される).今回の議論で初めてそれが修正されようとしているのですが,そのことは実体経済の最近のトレンド,つまり,グローバル企業による国境を超えた財貨の取引が急速に増加してきたという変化が背景にあるのではないかと推測しています.これらの企業,主にGAFAMなどですが,かれらは外国居住者に直接財貨・サービスを販売することができます.いま,OECDで議論になっている巨大IT企業に対する「デジタル課税」というのはこのような状況変化を直接反映したものです.実際,貿易収支,経常収支などの用語の定義でさえ,近年になって大幅改訂(IMF国際収支マニュアル,2014)されています.このことが意味するものをもう少し,俯瞰的に考えてみます.
経済循環グラフのノードは独立した経済主体ないしその集合,枝はノード間の貨幣的取引と定義されます.経済主体と呼ばれるものには,個人,企業,政府,金融,非営利団体などすべての個人・団体が含まれます.これらの経済主体がその規模の大小・属性・目的などに関わりなく完全に同一レベル・同一ルールのもとに取引を行っている状況を表現することがこのモデルの目標です.国民総生産や国民総所得などは国家単位で計算されますが,ここではすべての経済主体が同一レベル(同じテーブル)で経済活動を行っていると考えられるので,すべての経済単位について,それぞれ,総生産(生産額)や総所得(所得額)が同時並行的に計算できなくてはならないというのが我々の立場です.このことと,上のような問題が起きていることには深い関わりがあります.
通常,輸出入と言えば海外からなにかの財貨を輸入(仕入れ)して,それを直接ないし加工して販売(国内消費,ないし再輸出)するというプロセスを考えますが,現状はすでに国境を超えた個人・企業の取引が実行されている,つまり,企業や個人が国家と肩を並べるような状況になりつつあります※.これは生島さんがよく言われている,国家→企業→個人のような潮流と関わりがあるように思われます.このような状況はすべての経済主体を擬人化したモデルで考えるとわかり易いかもしれません.企業にとって,工場や設備,運搬車両などは人間の肉体に相当するものであり,いわば増強された肉体(サイボーグのようなもの)ですが,それ自体が意思決定能力を持っているという点において,主体であると言えます.「経済」とは,これらスケールの異なる「主体」(蟻ん子から象さんまで)がミックスして生息・活動するエコシステム,ある種の自然環境であると言えるでしょう.
※地域経済主体間の財貨の移動を「移出入」,国家経済間のトレードを「輸出入」と呼ぶとして,多国籍企業によるボーダーレス取引をなんと呼べばよいのだろう?なかには,個人輸入ビジネスなどというものもあるが,その個人の国籍,居住地はもはや主要ファクタではない.
「損益」は資金の増減であり,通常,「損益」がマイナスでも「所得」は立っています.所得=生産ですから,所得がないということはすでに経済活動終了しているということになるので,赤字企業と言っても操業している限り所得はプラス水準にあります.税務的な赤字というのは損益がマイナスになることですが,これまで見てきたように損益がマイナスというのは原理的・数理的に「ノーマル」な状態であり,ほぼ半数の経済単位が損益マイナスになるのは「どうやっても」避けることはできません.従って,ギリシャやウクライナが破綻に追いやられるというのはかなりおかしな話です.仮にこれらの国が債務国から脱却したとしても,それは単に赤字を他国に移転したことにしかなりません.IMFのように債務国の経済をぎりぎり締め上げて財政再建するというスキームは明らかに基本的なところで間違っています.それをやっていたら,世界中が窒息してしまいます.
三面等価原理が恒等的に成立するというところも国民経済計算で分かりづらいところかもしれません.生産・所得・支出の3面はそれぞれ完全に独立の活動であるように見えるからです.これに関しては説明してもなかなか分かりづらいところがあるので,簡単な「証明」でそれに代えたいと思います.純支出=純生産というところは既出ですが,再掲します.ただし,「純支出」と「純生産」という用語は多少紛らわしい(というより混乱していた)ので,「生産額」と「支出額」にリネームしました.生産額=最終財+純移出,支出額=純消費+損益で,生産額は,その単位経済で生産され,最終消費ないし移出された正味財貨の合計,支出額はその経済単位が最終消費財として消費ないし移入した財貨+損益(剰余)です.これはよく見る,所得=消費+貯蓄という(教科書的)記述に対応するものです.以下では赤字は最終消費,青字は仕入れ(中間消費)です.
単位経済の三面等価原理:所得額=支出額=生産額
証明:単位経済の三面等価原理
支払高=移入財+経費+純消費=仕入高+純消費
売上高=移出財+経費+最終財=支払高+最終財
仕入高=移入財+経費
損益=売上高-支払高
=(移出財+経費+最終財)-(移入財+経費+純消費)
=移出財-移入財+最終財-純消費
=純移出+最終財-純消費
支出額=純消費+損益
=純消費+純移出+最終財-純消費
=最終財+純移出
=生産額
所得額=売上高-仕入高
=(移出財+経費+最終財)-(移入財+経費)
=最終財+移出財-移入財
=最終財+純移出
=生産額
総体経済の四面等価原理:総生産=総所得=総支出=総消費
証明:単位経済の三面等価原理より明らか
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)
∴総生産=総所得=総支出
ただし,総消費に関しては別途証明を要する
∑支払高=∑仕入高+∑純消費 から
∑純消費=∑支払高-∑仕入高
=∑(支払高-仕入高)
=∑(所得額)
=総所得
∴総消費=∑(純消費)=∑(最終財)=総所得
QED
※上記で,赤字は最終消費財・サービスの移転,青字は中間消費財・サービス(内部経費を含む)の移転,経費(内部経費)は製品価格に含まれる内部取引額(社員給与など).
単位経済では所得=支出=消費は成り立ちません.これは当然の理(失業中に競艇場に走ったり…)と言えますが,生産=所得=支出であるとすると,不労所得者の経済はどうなっているのだろう?というのが次の宿題(金融経済マトリックス)です.
比較参照用にサンプルを出しておきます.参考データとしてX国={A社,B社,a, b}の集計を入れました.セルの取引種別には供給者から需要者に送られる財貨の種別が書いてありますが,この計算表ではトップ行が供給者,最左列が需要者を示しているので,個人aがA社に「給与」を送るというのは意味が通りません.そこで,給与→労働に改めました.つまり,個人aはA社に労働サービスを提供し,その対価として給与60を受け取っています.X=A+B+a+cの計算を実行しておくと,あとの集計はX+Yを計算するだけで簡単に終わります.
A社 | B社 | a | b | X国 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 支出額 | |
A社 | 資材40 | 労働60 | 100 | 輸出60 | 160 | 100 | 60 | 100 | 60 | ||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 労働60 | 160 60 |
輸出60 | 280 | 220 | 60 | 220 | 80 | |
a | 輸出 60 | 60 | 0 | 60 | 0 | 60 | |||||
b | 輸出 60 | 60 | 0 | 60 | 0 | 60 | |||||
X国 | 100 | 40 60 | 140 60 |
560 | 320 | 240 | 320 | 260 | |||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 60 | 60 | 内販 60 給与60 |
380 | 260 | 120 | 200 | 100 | |
売上高 | 160 | 300 | 60 | 60 | 580 | 360 | 940 | 総取引 | |||
損益 | 0 | 20 | 0 | 0 | 20 | -20 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 240 | 60 | 60 | 460 | 120 | 580 | ←重複 | |||
所得額 | 60 | 80 | 60 | 60 | 260 | 100 | 360 | 総所得 | |||
最終財 | 60 | 60 | 0 | 0 | 120 | 240 | 360 | ||||
移出財 | 100 | 240 | 60 | 60 | 460 | 60 | 520 | ||||
純移出 | 0 | 20 | 60 | 60 | 140 | -140 | 0 | ||||
生産額 | 60 | 80 | 60 | 60 | 100 | 360 |
経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14)
支払高=∑(行の全要素)=移入財+経費+純消費=仕入高+純消費
売上高=∑(列の全要素)=移出財+経費+最終財=卸売高+最終財
仕入高=∑(行の仕入れ)= 移入財+経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財+経費
所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高
純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
純移出=移出財-移入財=卸売高-仕入高
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益
∑(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(純損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)
∑支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)
所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)
総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)
総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
2021/07/14 1:54
生島さん,下田さん
応用問題をやってみましょう.下図↓は,富山大学経済学部岸本研究室のサイトで見つけたものですが,貿易収支を見るときの「国籍基準」と「企業基準」の違いについての説明図です.経済循環マトリックスを試す格好の材料なので,2つの場合(国籍基準|企業基準)の計算表を書いてみたいと思います.(以下では数字の単位は10億ドル)
この図版で具体的な数字を明示されている取引は8つで,米国の輸出(581),輸入(609)の中にはこれらの取引が含まれているものとします.とりあえず,これら8つの取引の数字を元に「国籍基準」によるマトリックスを書いてみました.下の表では図中の米国をX国,外国をY国,米国本社をA社,外国企業をB社,米国系企業をα,外資系企業をβのように表記しています.各企業の所在地(居住地)から国内・A社・β社がX国籍,国外・B社・α社をY国籍とします.
国内 | A社 | β社 | X国 | 国外 | B社 | α社 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 損益 | 支出額 | |
国内 | 内販 1066 |
外商 1066 |
1066 1066 |
[輸入] 318 |
318 | 2450 | 1384 | 1066 | 1384 | -50 | 1016 | |||
A社 | 逆輸出 109 |
109 | 109 | 109 | 109 | 31 | 31 | |||||||
β社 | 仕入 993 |
993 | 逆輸出 182 |
182 | 1175 | 1175 | 1175 | -9 | -9 | |||||
X国 | 993 1066 |
1066 | 2059 1066 |
318 | 291 | 609 |
3734 | 2668 | 1066 | 609 |
-28 | 1038 | ||
国外 | [輸出] 341 |
341 | 販売 1189 |
1189 | 1530 | 341 | 1189 | 341 | -97 | 1092 | ||||
B社 | 納品 1189 |
1189 | 1189 | 1189 | 1189 | 0 | 0 | |||||||
α社 | 輸出 140 |
輸出 100 |
240 | 仕入 1115 |
1115 | 1355 | 1355 | 1355 | 125 | 125 | ||||
Y国 | 341 | 140 | 100 | 581 |
1115 | 1189 | 1189 | 2304 1189 |
4074 | 2885 | 1189 | 581 |
28 | 1217 |
売上高 | 2400 | 140 | 1166 | 3706 | 1433 | 1189 | 1480 | 4102 | 7808 | 0 | ||||
卸売高 | 1334 | 140 | 1166 | 2640 | 1433 | 1480 | 2913 | 5553 | ||||||
所得額 | 1016 | 31 | -9 | 1038 | 1092 | 0 | 125 | 1217 | 2255 | |||||
最終財 | 1066 | 1066 | 1189 | 1189 | 2255 | |||||||||
移出財 | 1334 | 140 | 1166 | 581 |
1433 | 1480 | 609 |
5553 1190 |
||||||
純移出 | -50 | 31 | -9 | -28 | 1092 | -1189 | 125 | 28 | 0 | |||||
生産額 | 1016 | 31 | -9 | 1038 | 1092 | 0 | 125 | 1217 | 2255 |
輸出額と輸入額として与えられた581と609という数字に合わせるために,差額として国内→国外[輸出]341,国外→国内[輸入]318の2つを図面上には見えない取引として追加します.β社の国内販売(1065.6)とB社の現地販売(1188.5)の末端価格は不明なので,仕入れ価格と同一としておきます.これで一応与えられた数字をすべて使った計算表ができました※.これをアレンジして「企業基準」によるマトリックスを書いてみます.α社はA社の子会社,β社はB社の子会社です.
※総輸出=∑移出財,総輸入=∑移入財とするとき,経済循環マトリックス計算では,移入財=仕入高-経費,移出財=∑卸売高-経費のように計算されるので,複数の経済単位を縮約して作った計算表(上表ではX国,Y国の行と列に該当)では,経済主体の合併によって「内部取引=経費」が増加するため,縮約前の総輸出/総輸入の値と縮約後の総輸出/総輸入の値は一致しない.今の場合,縮約前の値は総輸出=総輸入=5553,縮約後は1190に変化している.※⇒(移出財,移入財)のセル
この図面の下には国籍基準と企業基準で収支がどう変化するかを説明する式↓が掲載されています.
かなりややこしい式ですが,これで見ると,企業基準では輸出額は2523,輸入額は2499になるとされるので,輸出額-輸入額=24の黒字になると考えられます.国籍基準では-28の赤字だったので,貿易収支は24+28=52だけ「増加」していることが,+523億ドルという数字に現れています.(企業基準で算出した実際の貿易収支黒字額は240億ドルです)ともかく「企業基準」の計算表を出してみましょう.
国内 | A社 | α社 | X国 | 国外 | B社 | β社 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 損益 | 支出額 | |
国内 | 販売 1066 |
1066 | [輸出] 318 |
外商 1066 |
1384 | 2450 | 1384 | 1066 | 1384 | -50 | 1016 | |||
A社 | 逆輸出 109 |
109 | 109 | 109 | 109 | 31 | 31 | |||||||
α社 | 輸出 140 |
140 | 仕入 1115 |
輸出 100 |
1215 | 1355 | 1355 | 1355 | 125 | 125 | ||||
X国 | 1066 | 140 | 109 | 249 1066 |
1433 | 1166 | 2599 |
3914 | 2848 | 1066 | 2599 |
106 | 1172 | |
国外 | [輸入] 341 |
341 | 販売 1189 |
1189 | 1530 | 341 | 1189 | 341 | -97 | 1092 | ||||
B社 | 納品 1189 |
1189 | 1189 | 1189 | 1189 | 0 | 0 | |||||||
β社 | 仕入 993 |
逆輸出 182 |
1175 | 1175 | 1175 | 1175 | -9 | -9 | ||||||
Y国 | 1334 | 1371 | 2705 |
1189 | 1189 | 3894 | 2705 | 1189 | 2705 |
-106 | 1083 | |||
売上高 | 2400 | 140 | 1480 | 4020 | 1433 | 1189 | 1166 | 3788 | 7808 | 0 | ||||
卸売高 | 1334 | 140 | 1480 | 2954 | 1433 | 1166 | 2599 | 5553 | ||||||
所得額 | 1016 | 31 | 125 | 1172 | 1092 | 0 | -9 | 1083 | 2255 | |||||
最終財 | 1066 | 1066 | 1189 | 1189 | 2255 | |||||||||
移出財 | 1334 | 140 | 1480 | 2705 |
1433 | 1166 | 2599 |
5553 5304 |
||||||
純移出 | -50 | 31 | 125 | 106 | 1092 | -1189 | -9 | -106 | 0 | |||||
生産額 | 1016 | 31 | 125 | 1172 | 1092 | 0 | -9 | 1083 | 2255 |
米国の輸出が2705,輸入が2599で純輸出106となり,与えられた数値と一致しません.「総所得」などの縦横集計(複式簿記的な計算)はすべて一致しているので,計算自体には誤りはないはずですが,どこかで「図の解釈」を間違えているように思われます.輸出で+182,輸入で+100の差額が出ています.数値を突き合わせてみると,この差異はおそらく,α社→β社の逆輸出182,β社→α社の輸出100が関係しているように思われます.上に掲示した式の中では,どちらも輸入額から控除されている金額です.輸入額から控除されているということは,国籍基準では輸入項目だったということになるので,国籍基準の計算表でどうなっているのかを見てみましょう.
α社→β社182というのはおそらく,図の読み間違いと思われます.つまり,「在来外資企業の輸入(182.2)」というのは,α→βではなく,B社→β社と思われます.在米外資企業の輸出(▲100.0)というのも,「⇒」はα社のサークルに掛かっているように見えますが,真意はβ社→B社ということなのでしょう.これを修正してもう一度作り直してみます.ただし,これをやるとおそらく,輸出入の調整額も変化することになるので,もう一度一からやり直すしかなさそうです.いや,それは不用かも知れません.この修正を行っても,国籍基準の輸出入額には変化はないはずです.(「在来外資企業の輸入」と「在米外資企業の輸出」は国籍基準計算表ではどちらも「内部取引」になっているため)
国内 | A社 | α社 | X国 | 国外 | B社 | β社 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 損益 | 支出額 | |
国内 | 販売 1066 |
1066 | [輸出] 318 |
外商 1066 |
1384 | 2450 | 1384 | 1066 | 1384 | -50 | 1016 | |||
A社 | 逆輸出 109 |
109 | 109 | 109 | 109 | 31 | 31 | |||||||
α社 | 輸出 140 |
140 | 仕入 1115 |
1115 | 1255 | 1255 | 1255 | 43 | 43 | |||||
X国 | 1066 | 140 | 109 | 249 1066 |
1433 | 1066 | 2499 |
3814 | 2748 | 1066 | 2499 |
24 | 1090 | |
国外 | [輸入] 341 |
341 | 販売 1189 |
1189 | 1530 | 341 | 1189 | 341 | -97 | 1092 | ||||
B社 | 納品 1189 |
1189 | 輸出 100 |
100 | 1289 | 1289 | 1289 | 82 | 82 | |||||
β社 | 仕入 993 |
993 | 逆輸出 182 |
182 | 1175 | 1175 | 1175 | -9 | -9 | |||||
Y国 | 1334 | 1189 | 2523 |
182 1189 |
100 | 282 1189 |
3994 | 2805 | 1189 | 2523 |
-24 | 1165 | ||
売上高 | 2400 | 140 | 1298 | 3838 | 1433 | 1371 | 1166 | 3970 | 7808 | 0 | ||||
卸売高 | 1334 | 140 | 1298 | 2772 | 1433 | 182 | 1166 | 2781 | 5553 | |||||
所得額 | 1016 | 31 | 43 | 1090 | 1092 | 82 | -9 | 1165 | 2255 | |||||
最終財 | 1066 | 1066 | 1189 | 1189 | 2255 | |||||||||
移出財 | 1334 | 140 | 1298 | 2523 |
1433 | 182 | 1166 | 2499 |
5553 5022 |
|||||
純移出 | -50 | 31 | 43 | 24 | 1092 | -1107 | -9 | -24 | 0 | |||||
生産額 | 1016 | 31 | 43 | 1090 | 1092 | 82 | -9 | 1165 | 2255 |
できました!X国の移出財=2523,移入財=2499で完全に上記に記載された数字と一致しています.これはほんの一例ですが,経済循環マトリックス計算により,国家,地域,政府,企業,個人,団体などあらゆる属性を持った経済主体とその集合からなる経済循環において,それぞれの経済単位の対外収支を完全に計算できる(場合によっては,不足するデータを補うことすらできる)ことが示されました.
ただし,ここまではすべて財貨の移転を伴う実体経済マトリックスにおける計算なので,これに金融取引(財貨の移転を伴わない純貨幣的取引)を加えなくてはなりません.
PS:経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14)
支払高=∑(行の全要素)=移入財+経費+純消費=仕入高+最終財 売上高=∑(列の全要素)=移出財+経費+最終財=卸売高+消費財 仕入高=∑(行の仕入)= 移入財+経費 卸売高=∑(列の仕入)=移出財+経費 所得額=売上高-仕入高 損益=売上高-支払高 純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高 最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高 移入財=∑(行の外部からの仕入れ) 移出財=∑(列の外部からの仕入れ) 純移出=移出財-移入財=卸売高-仕入高 生産額=最終財+純移出 支出額=純消費+損益 ∑(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム) ∑(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム) ∑支払高=∑売上高 ∑(卸売高)=∑(仕入高) ∑(移入財)=∑(移出財)=仕入高-経費 所得額=純支出=純生産(単位経済の三面等価原理) 総消費=∑(純消費)=∑(最終財) 総生産=∑(生産額) 総所得=∑(所得額) 総支出=∑(支出額)=∑(生産額) 総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
※現行のマトリックス計算では,純移出には仕入れ=中間財の移出入しか含まれていません.つまり,最終消費財の輸出入はこの計算からは除外されています.これを移出入に算入するために,純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加してみます(セル中の最終消費を意味する「純消費」とは異なるものです).∑消費財=∑最終財なので,∑純消費=0となります.これを使うと,損益=純移出+純消費となるので,仮に,純輸出=純移出+純消費とすれば,
∑損益=∑純輸出=0
が成立するため,財貨的ゼロサムゲームと貨幣的ゼロサムゲームの差異が消失し,貿易収支の赤字=損益の赤字という「伝統的解釈」と一致することになるので,確かにこの方が直感的であるような気もします.しかし,生産額と支出額の計数ではいずれ消費財・最終財を算出しなくてはならないので,最終消費・中間消費を区分することは,このマトリックス計算上不可欠であると判断されるため,最終的な結論は保留したいと思います.見通しとしては,「国際収支発展段階説」がヒントになるのではないか?という感触を得ています.
国際収支発展段階説では,国際経済循環が一種のゼロサムゲームであるということを認めた上で,それぞれの国が①未成熟の債務国,②成熟した債務国,③債務返済国,④未成熟の債権国,⑤成熟した債権国,⑥債権取り崩し国の各段階を経由するというものです.この説によれば,ブラジル,アルゼンチン,スペインなどは未成熟の債務国,イギリスや米国などは債権取り崩し国なのだそうです.
※クローサーは,「国際収支がゼロサムゲームであること」に気付いているとは思われるが,この理論を単純に適用すると,「奨学金借りたら人生こうなった」のような悲劇の再現で終わりそうな気もする…
前記したように,わたしはときに各経済主体を擬人化して見ることがあるので,それが幼児期から青年期を経て老年期に至るという説明は合点が行きます.ただし,老年期のあとには「死」しかないということではありません.人間の場合,次の世代を養育するのは親の義務であり,未来に対する投資と考えられますが,同様のことは国家や企業体についても言えるのではないでしょうか?(そのような国家の世代交代のようなものがあるとすれば,おそらくそれは何かしらの「政治変革」を伴うようなものになる可能性はあるかも知れません)
後書き(2022/05/17)上記では,「純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加」することによって,「∑損益=∑純輸出=0」が成立するような「移出入の古典的定義」に回帰することを提案しているが,最終的な結論は保留している.しかし,常識的に考えても,移出入(輸出入)から最終消費が除外されているというのはおかしいと考えられるので,ここでこの問題を再考察しておきたい.移出入から最終消費を除外すると,たとえば,「インバウンド収入」が輸出にカウントされない,あるいは,「地域外の電力会社に支払った電気料が地域の生産物にカウントされてしまう」などの不都合がある.
「移出入から最終消費を除外する」ようになった経緯というのはよくわからないが,それでも計算上は整合し,三面等価原理も成立していることから主に「問題の複雑度を軽減する」という動機から採用された方式であるように思われる.以下では「経済循環マトリックスのルールブック」を大幅改訂した「最終案」と呼べるものを提案したい.最終消費を移出入に算入するために新たにいくつかの用語を定義した.また,語義的な混乱を避けるためいくつかのパラメータを以下のようにリネームしている.①経費→内部経費,②自家消費→新規,③純仕入れ→新規,
経済循環マトリックスと総体経済の四面等価原理
2021/06/30 5:00
生島さん
>お返事できなくすみません。今、AI系の仕事でアップアップなので経済系はお休みしています。
どうぞ,ごゆっくり.経済循環グラフのマトリックス(接続行列)からGDPを簡略に計算するための表を作ってみました.内閣府が公表している「基準国民経済計算の作成方法」とはまったく違うアプローチになりましたが,減価償却など「取引によらない資産・負債の量的移動」は計算するすべがありませんのでやむを得ません.経済循環グラフはノードと枝がそれぞれ一つの値を持っているだけなので,この表を作るためには,個々のトランザクションの内容についてのもう少し詳しい付加的情報が必要です.一つのセルにはセクターAに属するノードからセクターBに属するノードへの複数のトランザクションが合算して詰め込まれますが,マトリックス上のセルC(i, j)は,「i行のセクタ-iからj列のセクターjに通貨が移動する」のようにお読みください.
横軸で集計すると支出合計となり,縦軸で集計すると収入合計になりますから,表全体を縦横で累計すれば総支出と総収入が一致することは間違いありませんが,「国民経済計算」というのは実体経済にのみ関わる計算なのでそれを切り分ける(ヴェルナーの用語で“deaggregate”する)のが,かなり厄介なところです.下表は今のところその「試作段階」というところですが,赤字は国民総生産に関わる項目,青と茶は国民総所得に関わる部分というつもりで作りました.黒の細字の項目はGDP計算[国民経済計算]に関わりのない[金融経済にのみ関わる]数字として計算から除外します.ざっと描いてみただけの段階なので,あちこち間違っているところがあると思います.かなり興味深いものになってきたような気もしておりますので,ご批評頂ければ幸甚です.
公共 | 企業 | 金融 | 家計 | 支出合計 | |
公共 | 貸付,返済 補助金, 利子補給 交付金 資産購入, 借入利息 |
補助金 インフラ,資本財 消費支出 資産購入, 借入利息 |
返済 公債償還 資産購入, 借入利息 |
人件費 給付金 資産購入, 借入利息 |
歳出 財政支出 公務員給与 |
企業 | 租税 資産購入, 地代家賃 |
仕入れ・外注費,運賃 資本財,消費支出 資産購入, 借入利息 |
貯蓄,返済 資産購入, 借入利息 |
人件費 資産購入, 借入利息 貸付,返済 |
企業支出 営業費用 事業所得 民間人給与 |
金融 | 租税,公債購入 貸付,返済 資産購入, 借入利息 |
貸付,預金引出 資本財,消費支出 資産購入, 借入利息 |
貸付,返済 資産購入, 借入利息 |
人件費 貸付, 預金引出 資産購入, 借入利息 |
金融支出 営業費用 銀行員給与 |
家計 | 租税 保険料,手数料 水道料金, 通行料 資産購入, 借入利息 |
住宅購入, 消費支出 資産購入, 借入利息 貸付,返済 |
貯蓄,返済 資産購入, 借入利息 |
人件費 資産購入, 借入利息 |
家計支出 生活費用 使用人給与 |
収入合計 | 歳入 公租公課 払い下げ |
企業収入 純消費額 企業収益 |
金融収入 企業収益 |
家計収入 企業収益 個人所得 |
通貨循環量 国民総生産 事業所得 |
国民総生産=国民総所得=国民総支出
国民総所得=個人所得+事業所得
国民総支出=純消費額=財政支出+営業費用+生活費用
- 輸出入に関わる外部取引はすべて無視するものとする
- 耐久消費財・資本財は買い切りとし,減価償却は行わない
- 在庫計算・廃棄物計算は行わない
- 自社開発ソフト・社内の研究開発などによる産出成果は無視される
- 取引によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される
公共:政府・地方政府・公的企業
企業:法人・団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・自営業者・フリーランサーの営業活動
人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬
消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療),耐久消費財,サービスの購入
耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車
インフラ:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水
資本財:工場・機械(ロボットを含む)・設備・船舶・航空機・建物などの新規築造 / 取得
資産購入:転売:土地・資本財・有価証券(金融資産)→財産所得:地代・家賃・金利・配当
借入利息:資産の賃借料など(地代・家賃・金利・配当)
この表が完全に仕上がったら,もう少し詳しい説明を付けたいと思います.それができれば,ダグラスの等式も改めて再検証できるのではないかと思っているのですが…
2021/07/01 4:22
生島さん,下田さん
少し整理してみました.多少分り易くなったのではないかと思います.
国民総生産=国民総所得=国民総支出
国民総所得=個人所得+事業所得
国民総支出=純消費支出=財政支出+営業費用+生活費用
- 公共:政府・地方政府(地方自治体)・公的企業(独立行政法人など)
- 企業:法人・各種団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・個人事業主など何らかの生産・サービス活動を行うすべての経済主体 個人事業主は企業部門と家計部門の両面に出現する
- 人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬
- 消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療,その他),耐久消費財,サービスの購入
- 耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車など比較的耐用年数の長い商品
- 資本財(固定資本財):工場・機械(ロボットを含む)・設備・車両・船舶・航空機・建物など耐久性があり,生産活動に用いて将来の収益を生み出す資本となるもの
- 基盤投資:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水などの大規模公共建造物(インフラストラクチャ)の築造・整備
- 資本投資:将来の生産活動のために必要とされる資本財(生産設備)の購入
- 融資と返済:融資(ローン)は現金の貸付であり,返済にはローン元本の返済と金融債権(額面のみ)の償還が含まれる(金利・配当は別途,資産配当として計上する)
- 資産投資(資産・債権の購入):投資を目的とする不動産・金融資産(株式,有価証券)の購入,資産配当(財産所得)の源泉となる 不動産は第三者に貸し付けることによって初めて配当を生じるが,金融資産はそれ自体が有利子債権である 資産の再貸付(又貸し)ないしその資産を担保とする融資なども行われる 投資の目的が配当を得ることよりも資産の価格変動による売買差益を狙う場合には投機と呼ばれる 金融債権の償還は返済に含まれる
- 資産配当:融資債権,金融資産などの資産保有者の得る財産所得(地代・家賃・金利・配当)金融資産はすべての部門の任意の当事者間で取引可能であり,蓄蔵性を併せ持つので,流通速度の遅い通貨の一種とみなされる
国民経済計算との相違点:
- 対象領域は閉じた経済循環系であるとする.従って圏外の外部取引(輸出入など)はすべて無視される.
- 経済循環グラフのノードは独立の経済主体であり,ノードをつなぐ枝は1個の取引を表示する.グラフの枝リストとしてブロックチェーンを持ち,枝(トランザクション)に相当するブロックにはリアルな取引情報が記載される.
- 内閣府の国民経済計算では1年を四半期に分けて,2期遅れくらいで各省庁が収集・整理した各種の産別統計を突き合わせながら推計値の計算を行っているが,本試算表では国民経済の時点表示である経済循環グラフの接続行列表現(マトリックス)を用いるので任意の時点でリアルタイムに計算を完了することができる.
- 計算はブロックチェーン上のトランザクション情報のみを参照する.従って,「取引」によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される.つまり,①耐久消費財・資本財はすべて買い切りとし,取引に対応しない減価償却計算などは行わない.②流動資本財(原材料,仕掛品,製品在庫)は計数しない.原材料は購入時点で全量消費されたものとみなす.③取引実績のない資産は計量できないので研究開発費などの資産評価は行わない.
- 国民経済計算では国民経済を①非金融法人企業,②金融機関,③一般政府,④家計,⑤対家計民間非営利団体の5部門に分割している.本試算表では⑤を①と合併して「企業」とし,①公共,②企業,③金融,④民間の四部門に分割した.民間非営利団体(政府は公的非営利団体である)は一般企業と同様に財貨・サービスを生産・販売し,役員報酬や従業員給与の支払い,外注など外部主体との取引その他あらゆる点で,一般事業者との相違を見出すことは難しい.異なるところは(規模・目的・税制などは別として)事業収益を配当として分配するか否かの点だけと考えられるが,一般事業者でも無配どころか赤字経営というところはいくらでもあり,特に分離する意味はない.
- 以前に投稿した「日銀マネー循環図」では①政府,②日銀,③銀行,④国民という4部門に分割していたが,今回の試算表では「国民」を「企業」と「家計」に分割し,「銀行」を「金融」にリネームしている.「日銀マネー循環図」の「日銀」はこのマトリックスのどこにも出現しない.これは国民経済循環グラフ,つまり経済循環システムそれ自体が中央銀行システムであり,システムの全体であるために見えなくなっているものと理解される.
- なお,この経済循環システムでは,すべての経済主体は中央銀行に直接当座預金口座を持ち,現金(硬貨・紙幣)はすでに廃止されていることを仮定している.また,中央銀行は「近未来的貨幣中立論」の立場から経済循環系の中の参加メンバーとして振る舞うことを想定していない.
国民経済試算表の考え方:
- 三面等価原理により,①国民総生産,②国民総所得,③国民総支出の三面が一致しなくてはならない.このうち,国民総生産は期間内に生産された財貨をカウントすればよいので,比較的簡単に計算できると考えた.国民経済を上記のような方針で部門分割しているので,すべての財貨は企業部門でのみ生産されるとしてよい.従って,企業部門で販売された最終消費財の総計が国民総生産に相当すると言える.→上の表の赤色枠で囲まれたブロック.
- 赤色枠の中の赤太数値の合計が純消費支出であり,それを部門ごとに集計したものが,財政支出+営業費用+生活費用であるから,国民総支出=純消費支出=財政支出+営業費用+生活費用となることは明らかである.
- 試算表の計算では企業部門で販売価格に転化されない自家消費分は消費支出として純消費支出に算入する.また,仕入れ,外注費,運賃は販売価格(消費支出)に転化される(含まれる)ものとして計算から除外する.
- 他の3部門(公共,金融,家計)における経済活動は主として「サービス」のカテゴリに入るものと考えられるが,そのうち家計部門の活動は主として「労働(知的生産活動を含む)」であり,これらの生産量は最終消費財の価格の中に含まれる.金融部門のサービスの貨幣価値は経済システム全体の規模と比較して相対的に十分小さいと考えられるのでゼロで近似しても大きな誤差は発生しない.
- 政府部門のサービスの規模は国民経済のかなりの割合を占めると考えられるが,分節するとそのほとんどすべては企業部門が生産する財貨に含まれている.政府部門の提供する公的サービスは(一部受益者負担はあるとしても)原則として「無料」であることが仮定されていると考えられるので国民総生産にはカウントしない.
- 国民経済は大きく分けて実体経済と金融経済に二分される.通貨の純粋な移動は基本的に金融経済的な活動とみなされる.融資,返済,資産投資,資産配当,貯蓄と預金引出し,公債の発行と償還などがそれに該当する.これらはすべて国民経済試算の対象外とする.
- 国民総所得の等式の右辺の「個人所得」は青色枠で囲まれた家計部門収入のうち,各部門で支出された「人件費」の総額と見てよいはずだ.
- 問題は「事業所得」をどうやって計算するか?という点にある.企業部門の支出合計を企業支出,収入合計を企業収入とすれば,事業所得=企業収入-企業支出となるはずだが,この計算は実物計算と金融経済の混合計算になってしまうため検証が難しい.そこで,企業部門の全支出のうち,金融経済に関わる部分だけが事業所得と推定されるという仮説を立てた.これは他部門に通貨を移転するためにはそれだけの所得がなければ実行不能と考えられるからである.→茶色枠で囲まれたブロック.所得を計算するのに支出から推定するというのはやや逆説的だが,おそらくこれしか方法がないのではないか?
- 青色枠の合計を個人所得,茶色枠の合計を事業所得とすると国民総所得=個人所得+事業所得となる.問題はこの2つ,国民総所得と国民総支出が一致するか否か?という点にある.もし,この計算が一致すれば,ダグラスのA+B理論は否定されることになる.ダグラスは事業所得の一部は必ず貯蓄に回るはずであり,もしそうであるとすれば純消費支出(C)>個人所得(A)+事業所得(B)であり,等式を修正して純消費支出=国民総支出=個人所得+国民配当+事業所得としなくてはならないと主張している.
- この試算表の構成が正しいとすれば,国民総所得=個人所得+事業所得となるのはマトリックスの構成から見てもかなり特殊な場合に限られる.むしろ,逆にこの等式が成立する条件を見つける方が早いかもしれない.
- 公共部門支出にはこの他にも補助金,交付金,給付金などの項目がある.給付金はダグラスの国民配当に該当すると考えられるが,これらは基本的に「所得の再分配」なので,国民総生産には算入しない.(もちろん給付金の支給が国民総生産にまったく影響しないと主張するものではない.適切な所得再配分は経済成長に寄与するだろう.
- 家計の支出項目にベビーシッタなど家庭内の家事などのために雇った使用人に対する報酬を人件費として計上してみたが,この金額を国民総所得に算入することに関しては疑問がある.もし,これが正しいとすると専業主婦の家事労働に給与を支給することで国民総所得が増加することになってしまう.ベビーシッタの雇用を事業とみなして企業会計で処理することにしても実情は変わらない.しかし,使用人への報酬が所得計算から外されるというのもおかしい.どうすればよいか?→ベビーシッタの雇用は営利を目的とするものではないが,やはり,企業会計で扱うしかない.企業会計なら損金処理されるのでたとえば,その分貯蓄が減少するなどの形で帳尻が合う.
政府のGDP統計には「対家計民間非営利団体」というのが独立の部門として入っていますが,むしろ,「不労所得者・ギャンブラー」,「横たわり族」,「超富裕層・財団法人」などの部門を設けてその動態を分析した方が興味のある結果を得られるかもしれません.このマトリックスに「外国」という部門を設ければ一応輸出入などを扱うこともできますが,為替の問題などが発生するのでその前に複数の経済循環系が含まれる複合系(開かれた経済循環系)の経済循環グラフを描く必要があります.今回そこまで手を広げられるかどうかは,ちょっと分かりません…
「公共サービスは基本的に無料」という原則(多少の手数料は徴収される)があると思いますが,確かに「無料サービスの領域」というのはかなりの速度で拡大しているようにも感じられます.そこまでゆくとマクロ経済学は環境経済学と地続きになります.無料サービスは構成的に国民総生産に貢献しないというのも多少疑問はありますが,無料サービスに値付けをするとなると宗教の領域に入ってゆくことになるかもしれません…※ 政府部門に属する経済活動には「現業部門」というのがあり,これが国民総生産に入っていないのは手抜きです.健康保険料,手数料,水道料金,通行料などに対応する事業がそれに該当します.これらを取り除くと上のマトリックスは「現業部門の完全民営化」に等しい状態になりますが,むしろ方向としては,民営化ではなく無料化というのが正しいのではないでしょうか?(完全無料化には弊害もありますが,救急車が有料化されたら119番をコールするのにためらう人も出てくるでしょう)金融部門収入のセルにもピンクで着色された手数料がありますが,これも無料化するべきでしょう.
※「環境」が万人を包摂する「無料サービス」であるとして,その「価値」をどのように計量・評価するか?という視点から見ると,「宗教は無料サービスの価値に関する経済学」であるとみなすことも可能である.言ってみれば,宗教は「公共経済学 / 政策」の一種である.ネオリベラリストが推進するあらゆる公共サービスの民営化というアィディアをどう評価すべきか?⇒参照:パートⅢ
かなりまとまって来たように思いますが,まだ間違っているところがあるかもしれません.お気づきの点,ご不明の点などありましたらお知らせください.このテーブルを実体経済マトリックスと呼ぶとすれば,その裏面の金融経済マトリックスというのも存在しなくてはなりません.それがどういうものになるのか?ちょっと見当も付きません.完全に「双対」なものになればおもしろいのですが…
馬場英治
2021/07/01 12:59
訂正:前便の記述にはほぼデタラメに近い致命的な誤りがあります.再考には相応の時間を要する見込みです.しばらくの冷却期間をお許しくださいますようお願い申し上げます.英治
2021/07/02 4:41
生島さん,下田さんE
どうもお騒がせしました.お手数ながら前便は速攻で破棄してください.あまりひどいので,どこが間違っていたのかの説明は致しません.さて,気を取り直してもう一度最初からやり直すことにしましょう.
目標はブロックチェーンを枝リストとして持つ経済循環グラフの接続行列を使ってある期間のGDPを求めるというものです.ブロックチェーンには該期間内のすべての取引情報がリストとして保持されているとします.ブロックチェーンのブロック一つがグラフの枝に相当し,ブロックには少なくとも以下の情報が記録されています,①取引種別,②債務者,③債権者,④債務額.取引種別では少なくとも,その取引の目的が「仕入れ」であるのか,「最終消費」であるのかが識別できる必要がありますが,それ以上の詳細情報は今のところ必要ではありません.売買取引の場合,物品がすでに引き渡されていると仮定すれば,債務者は物品の受取人,債権者は送出人,物品の価格が債務額になります.
使用する経済循環グラフはこれまでと同様ですが,以下のような拡張を行います.グラフのノードと枝の重みとして「純消費」と「仕入れ」という項目を追加します.移動量はこれらの欄のいずれかに直接書き込みます※.たとえば,その取引が原材料や中間財,ないし最終財の「仕入れ」に当たるときには「仕入れ」に金額を格納し,「純消費」にゼロを記入します.取引が消費を直接の目的とする場合には,「純消費」に金額を記入し,「仕入れ」をゼロとします.それ以外の場合はどちらもゼロとします.※移動量と取引種別とした方がわかり易かったかも…
グラフのノード数をNとしたとき,グラフの接続行列(隣接行列)はNxNのマトリックスとして表現されます.マトリックスの要素(セル)はグラフの枝E(i, j)に対応します.マトリックスのセルには(純消費,仕入れ)の対を格納しますが,枝が存在しないセルは(0, 0)のままとします.枝の向きはV(i)→V(j)なので,マトリックスの行がそのノードからの「支出」を表し,列はそのノードへの「収入」を表しています.マトリックスには集計用に行2つと列を3つ追加します.集計用の行は「売上合計」,「所得合計」,「最終消費」,集計用の列は「支出合計」,「仕入合計」呼ぶことにしましょう.
「売上合計」には,各ノードごとに「純消費+仕入れ」を縦に集計して格納します.「所得合計」には,付加価値=売上合計-仕入合計の値を計算して格納します.「最終消費」には「純消費」だけを加算します.「支出合計」には各ノードごとに「純消費+仕入れ」を横に集計して格納します.「仕入合計」には「仕入れ」だけを加算します.簡単なサンプルを作ってみましょう.
企業A, B, Cとその従業員a, b, cがいるとします.A, B, Cは従業員a, b, cのそれぞれに給与50円を支払って製品の製造・販売を行います.Aは100円の原材料をBに販売します.Bはそれを加工して200円でCに卸します.Cはこの200円の製品に100円上乗せして販売総額300円とし,A, B, a, b, cのそれぞれに60円で販売しました.Aは従業員aに50円支払い,原価50円のところをBに100円で売っているので,50円の収益があります.Bは原材料100円を加工するためにbに50円支払い,それに50円上乗せしてCに卸しました.Cは仕入れ価格200円の商品を300円で売っていますが,cに50円支払っているので,取り分は50円です.つまり,A~cのすべての当事者の所得は50円均一になります.
以下の表では(純消費,仕入れ)の形式ではなく,具体的な取引種別を示して(取引種別,価格)の形式で表示しています※.「給与」,「原材料」,「製品」が「仕入れ」に該当し,「販売」が「純消費」に該当します.例えば,セル(B,A)の場合,「Aは100円分の原材料をBの仕入れ用に販売し,BはAに代価100円を送金する」のように読んでください.※やっぱりね!そうなると思った.
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入合計 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | |||
C | 製品200 | 給与50 | 250 | 250 | ||||
a | 販売60 | 60 | ||||||
b | 販売60 | 60 | ||||||
c | 販売60 | 60 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 300 | 50 | 50 | 50 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
付加価値(所得合計)=売上高(売上合計)- 仕入れ(仕入合計)
国民総支出=∑∑純消費(表の赤数字)=∑最終消費=300
国民総所得=∑∑付加価値=∑所得合計=300
国民総生産=国民総支出=国民総所得=300
A, B, Cは先日提示したマトリックスで言えば,企業部門,a, b, cは家計部門に属するので,上の表から部門別のマトリックスに転換してみましょう.難しい操作ではありません.単純に各セルを累計するだけです.まず,行を圧縮すると下図のようになります.
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入合計 | |
企業 | 原材料100 | 製品200 | 販売120 | 給与50 | 給与50 | 給与50 | 570 | 450 |
家計 | 販売180 | 180 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 300 | 50 | 50 | 50 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
これをもう一度横方向に圧縮します.ここでは本来の(純消費,仕入れ)の形式で表示しています.
企業 | 家計 | 支出合計 | 仕入合計 | |
企業 | 純消費120,仕入れ300 | 仕入れ150 | 570 | 450 |
家計 | 純消費180 | 180 | ||
売上合計 | 600 | 150 | 700 | ←全取引量 |
所得合計 | 150 | 150 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
国民総所得=個人所得+事業所得=150+150
となっているので,明らかにダグラスのA+B等式は成立しています.ただし,家計は収入が150に対し,支出が180なので30円の赤字になっています.逆に企業は600-570で30円の黒字です.どうも,ダグラスの言ってることは本当なのではないでしょうか?下記(3番目の「損益」を追加した表)のように,損益=売上-支出をすべてのノードについて合計すると(∑損益),トータルはゼロになります.つまり,赤字と黒字はつねにバランスしています.ダグラスがこの意味で言っているのだとすれば,ダグラスの完全な誤解ということになるかもしれません.
上の表は部門別になっていますが,これをさらに,企業と家計を合併するとセルは一つだけになり,総計が表示されます.
国民 | 支出合計 | 仕入合計 | |
国民 | 純消費300,仕入れ450 | 750 | 450 |
売上合計 | 750 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 300 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
一つ気になる点があります.ループ(自己取引)が存在するときにどうなるか?という問題です.最初のマトリックスに戻って試してみることにしましょう.C→Cの枝を追加して,100円分を自家消費してみます.
A | B | C | a | b | c | 支出 合計 |
仕入 合計 |
|
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | |||
C | 製品200 | 自家消費100 | 給与50 | 350 | 250 | |||
a | 販売60 | 60 | ||||||
b | 販売60 | 60 | ||||||
c | 販売60 | 60 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 400 | 50 | 50 | 50 | 850 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 150 | 50 | 50 | 50 | 400 | ←国民総所得 |
最終消費 | 400 | 400 | ←国民総支出 |
特におかしなことは起きていないように見えます.国民総支出も総所得も同額増えています.売上も所得も同額だけ増加します.実際のところ,これはまさに「内需拡大」という言葉が意味しているところです.個人(家計部門)の場合はどうでしょうか?
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入合計 | 損益 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | -10 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | -10 | |||
C | 製品200 | 販売100 | 給与50 | 350 | 250 | +50 | |||
a | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
b | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
c | 販売60 | 自家消費30 | 90 | -10 | |||||
売上合計 | 100 | 200 | 400 | 50 | 50 | 80 | 850 | ←全取引量 | |
所得合計 | 50 | 50 | 150 | 50 | 50 | 80 | 430 | ←国民総所得 | |
最終消費 | 400 | 30 | 430 | ←国民総支出 |
これも問題ありません.国民総所得も増えています.つまり,GDPは拡大しています.損益を計算してみました→上表の最右列.Cを除いてすべてのノードが赤字になっています.ただし,これは当たり前のことですね.売上合計=支出合計なのだから,トータルでは必ずゼロになります.つまり,誰かの赤字は誰かの黒字ということでしょう.しかし,誰かが必ず赤字になるとしたら,その経済では年がら年中デフォルトが発生しそうな気がするのですが,そうならないのはなぜでしょう?わたしは前々から,貿易赤字国はなぜ存続できるのか?という疑問を抱いてきました…(まだ解けていません)所得=売上総利益=粗利=売上高-売上原価はどのノードも黒字になっています.
自家消費ではなく,給与を支払ったらどうなるでしょう?
A | B | C | a | b | c | 支出合計 | 仕入 合計 |
損益 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | -10 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | -10 | |||
C | 製品200 | 販売100 | 給与50 | 350 | 250 | +50 | |||
a | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
b | 販売60 | 60 | -10 | ||||||
c | 販売60 | 家内報酬30 | 90 | 30 | -10 | ||||
売上合計 | 100 | 200 | 400 | 50 | 50 | 80 | 850 | ←全取引量 | |
所得合計 | 50 | 50 | 150 | 50 | 50 | 50 | 400 | ←国民総所得 | |
最終消費 | 400 | 400 | ←国民総支出 |
c→cの自己ループとして,家内報酬30というのを追加してみました.売上が+30,仕入も+30で所得には変化がありません.この設定は「専業主婦に家庭内報酬を出す」という課題と等価ですが,売上は増えても所得は変化しないので,生活には何の変化もないということになります.逆に言えば「名目的には」いくらでも「報酬」が出せるということを意味します.ただし,(家計全体で)買えるものの量は変わりません.上の自家消費と比較して異なるところは,「家内報酬」では何も買えない,「自家消費」の場合は自家生産したものが消費できる,つまりGDPが拡大するという点です.
必要なら,部門をもっと細分化して集計することも容易に可能です.たとえば,鉱工業,水産業,製造業など産業別統計を計算するとか…あるいは,地域別統計を取るなどいくらでも応用が効きます.この経済循環マトリックス計算の利点は,対象ノードの属性に関わりなく例外なしに,まったく同じルールが適用できるところです.政府,金融機関から,利益を出さない非営利団体を含めて末端の一個人まで,経済主体の大小に関わりなく一律,統一的な操作で計算することができます.ただし,内閣府の国民経済計算でやっているような,「非市場生産者(無料ないし経済的に意味のない価格で財貨・サービスを供給する生産者であり、一般政府と対家計民間非営利団体を指す)によるサービスの産出と需要先別配分については、決算書等の基礎統計により別途推計する」ようなことはできません.
いや,やろうと思えばできないこともないとは思いますが,それをやると数値的な不整合があちこちで発生するおそれがあるのであまり推奨できません.この方式のメリットはどれほど大規模な循環経済系であっても1円の誤差もない精密計算がどこまでも可能であるというところにあるので,あえてそのメリットを捨てる必要はないと思います(実際,これは「中央銀行決済システム」の設計書ですから,現実の取引と「完全」に一致している必要があります).このアルゴリズムの計算量はたかだか多項式時間ですから(アルゴリズムをきっちり書いてみないと分かりませんが,O(N^3)を超えることはないでしょう),エストニアくらいの国家の規模なら,リアルタイム(毎分?)でGDP統計を更新できるのではないでしょうか?少なくとも毎時くらいなら楽勝ですね!
2021/07/06 5:10
生島さん,下田さん
どこでどう間違えたのか?シズカちゃんの素朴な疑問に応えるというところから始まったスレッドですが,いつの間にか,中央銀行が分散型CBDCを発行し,すべての国民が中央銀行に当座預金口座を持つというモデル上で,経済循環グラフのマトリックスを用いて国民総生産をリアルタイムで計算するというシステムの概念設計を行うという流れになってしまいました.ここまでの議論の最大の収穫は「真に持続可能な経済社会とはグラフ理論的にはオイラー有向閉路を持つような経済循環グラフであり,絶対に停止(デフォルト)しない決済システムがあればそれを実現できる」という確証を得られたことです.
この構想は比較的小規模の国家であれば,今日にでも実現可能ですが,人口一億人を超えるような「大国」で採用するためには量子コンピュータの登場を待たなくてはならないかも知れません.(計算量が参加ノード数Nの累乗に比例して増大してしまう…)
経済循環グラフはある閉じた経済圏のすべての経済単位(独立の経済主体,ないしその集合)をノード集合とし,時点における取引を枝集合とする有向グラフで,それ自体がその経済圏で通用する貨幣(ないし疑似通貨)を用いた取引の「決済システム」を表現しています.決済システムでは「時点」におけるすべての取引の決済が完了すると,待ち行列に入っていたすべての取引からなる新しいグラフを生成して,次のセッション(時点決済)に移ります.(もちろん,トランザクションを一つづつ逐次処理してゆくという方法[即時決済]でも差し支えありません)グラフのノード(経済単位)は主体的に経済活動を行う取引主体(個人・法人・銀行・政府など)ですが,独立経済主体の集合(産業部門,地域,国家など)をノードとすることもできます.
経済循環グラフの接続行列は経済循環マトリックスと呼ばれ,国民総生産統計を求めるなどの統計処理に用いることができます.通常経済循環マトリックスにはある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを蓄積・圧縮(時間軸で合併)したものが使われます.経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作です.圧縮された経済循環マトリックスを略して計算表ないし試算表,その上で実施される(国民総生産などの)統計処理を経済循環マトリックス計算と呼んでいます.
ある経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを空間軸で合併して1つのノードにまとめる操作です.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列のセルの値とB列のセルの値を取引種別ごとに合算してC列を生成してから,A列とB列をマトリックスから除去します.次にA行のセルの値とB行のセルの値を取引種別(仕入れ|純消費)ごとに合算してC行を生成してから,A行とB行をマトリックスから除去します.合算は取引種別ごとに行われるので,一つのセルの中に複数の値が残る場合があります.合併によって外部取引が内部取引になる場合もありますが,それによる取引種別の変化は起こりません.つねに横方向の合併と縦方向の合併を同時に実行し,正方行列を構成するようにします.
※マトリックスの圧縮ないし縮約の操作を対応する循環グラフ上で行うこともできます.この場合はまず,対応するノードを合併し,次に,この操作によって発生した(向きの同じ)多重枝を合併して1本にまとめます.圧縮ないし縮約では自己ループが発生する場合がありますが,基本的に経済循環グラフは自己ループと多重枝の存在を許すグラフであり,圧縮ないし縮約をしなくても最初から自己ループや多重枝が存在する場合があります.自己ループは同一経済単位内の内部取引(自己取引)を意味し,2つの経済単位の間で同時に複数の(同方向の)取引が並行して発生している場合には多重枝が発生します.自己ループはマトリックスの対角線上にあるセルを意味します.多重枝の場合,マトリックスのセルには複数の値が格納されます.
前回はこの方法を使って,企業A, B, Cと個人a, b, cの6つの経済単位から構成される経済循環マトリックスを,企業セクタと家計セクタの2経済単位からなるマトリックスに縮約できることを見てきました.これを応用して,経済循環マトリックス計算が一国経済だけでなく,多国間の貿易を伴う大域経済圏においても適用可能であることを見ておきたいと思います.最初に前便の冒頭で提示した企業A, B, Cとその従業員a, b, cからなるサンプルを開始地点として再掲します.企業A, B, Cはそれぞれの従業員a, b, cに給与50円を支払い,BはAから供給された原材料100円を加工して,製品をCに200円で売却し,Cはそれを分割してA, B, a, b, cのそれぞれに60円(総額300円)で売却します.各当事者の売上は50~300円とまちまちですが,所得はすべて50円均一です.
A | B | C | a | b | c | 支出 合計 |
仕入合計 | |
A | 販売60 | 給与50 | 110 | 50 | ||||
B | 原材料100 | 販売60 | 給与50 | 210 | 150 | |||
C | 製品200 | 給与50 | 250 | 250 | ||||
a | 販売60 | 60 | ||||||
b | 販売60 | 60 | ||||||
c | 販売60 | 60 | ||||||
売上合計 | 100 | 200 | 300 | 50 | 50 | 50 | 750 | ←全取引量 |
所得合計 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 300 | ←国民総所得 |
最終消費 | 300 | 300 | ←国民総支出 |
まず,このサンプルの(A, a),(B, b),(C, c)という(企業,従業員)のペアをそれぞれ,A村,B町,C市に見立てた地域経済モデルを作ってみましょう.A村,B町,C市で構成される経済圏をD県として,県単位の経済循環マトリックスを構成します.A村で生産された野菜は,B町で加工され,C市の販売業者によって,D県全体をマーケットとして広域販売され,最終消費されるというイメージです.
A村 | B町 | C市 | 支出合計 | 仕入合計 | 損益 | |
A村 | 給与50 | 販売120 | 170 | 50 | -20 | |
B町 | 原材料100 | 給与50 | 販売120 | 270 | 150 | -20 |
C市 | 製品200 | 販売60 給与50 |
310 | 250 | +40 | |
売上合計 | 150 | 250 | 350 | 750 | 総経費450 | |
所得合計 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←県民総所得 | |
最終消費 | 300 | 300 | ←県民総支出 |
結構簡単にできました.マトリックスには損益という列を追加しています.損益=売上合計-支出合計で,∑損益はつねにゼロになります.損益はいまのところ設定しただけで使っていません.それぞれの市町村は独立の経済単位として相互に取引していますから,これを外国取引まで拡張するのは難しくありません.A村をA国,B町をB国,C市をC国と読み替えてみましょう.A国は英国で,B国が米国ならC国はチャイナかもしれません.経済循環系グラフはそれ自体「決済システム」を表象しているので,系が国家単位であるときには,システム全体は中央銀行を表します(政府はその中の一プレーヤであるに過ぎません).国境を超えた大域経済圏には複数の中央銀行が存在し,異なる通貨が流通していますが,為替レートは安定で,通貨の等価交換がつねに可能であることを前提とし,各国中央銀行システムを統合した仮想的な統一決済システムの存在を仮定します.
A国 | B国 | C国 | 支出合計 | 仕入合計 | 消費合計 | 輸入 | 損益 | |
A国 | 人件費50 | 消費輸出120 | 170 | 50 | 120 | -20 | ||
B国 | 中間財輸出100 | 人件費50 | 消費輸出120 | 270 | 150 | 120 | 100 | -20 |
C国 | 中間財輸出200 | 国内消費60 給与50 |
310 | 250 | 60 | 200 | +40 | |
売上合計 | 150 | 250 | 350 | 750 | 470 | |||
所得合計 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総所得 | |||
最終消費 | 300 | 総支出→ | 300 | |||||
輸出 | 100 | 200 | 300 | |||||
純輸出 | 100 | 100 | -200 | 0 | ||||
純生産 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総生産 |
数字的にはまったく変化はありませんが,集計用にいくつかの列と行を追加しました.いずれも輸出入に関係するものです.「輸入」はその行の国家の外部からの「純消費」を除く輸入の合計,「輸出」はその列の国家の「純消費」を除く輸出の合計,「純輸出」は「輸出」と「輸入」の差額とし,純生産は以下の式のように,「最終消費」と「純輸出」の和として与えられます.
純生産=最終消費+輸出-輸入=最終消費+純輸出
C国には消費輸出120というのが2件ありますが,これらは輸出入には勘定されません.これはアマゾンなどの大域企業(グローバル企業)が行っている海外に居住する消費者への直接販売を意味しています.通常のケースでは最終消費財の輸出では輸入国側の販売業者を経由して国内販売することになるので,そのようなパターンでどうなるかを見ることにします.上の表をアレンジしてC→Bの輸出は「消費輸出」のままとし,C→Aの輸出では財貨を中間財(仕入れ/卸し)として輸出して,A国内で販売するというパターンにしてみます.
A国 | B国 | C国 | 支出合計 | 仕入合計 | 消費合計 | 輸入 | 損益 | |
A国 | 人件費50 財貨消費120 |
財貨輸出120 | 290 | 170 | 120 | 120 | -20 | |
B国 | 中間財輸出100 | 人件費50 | 消費輸出120 | 270 | 150 | 120 | 100 | -20 |
C国 | 中間財輸出200 | 国内消費60 給与50 |
310 | 250 | 60 | 200 | +40 | |
売上合計 | 270 | 250 | 350 | 870 | 570 | |||
所得合計 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総所得 | |||
最終消費 | 120 | 180 | 総消費→ | 300 | ||||
輸出 | 100 | 200 | 120 | 420 | ||||
純輸出 | -20 | 100 | -80 | 0 | ||||
純生産 | 100 | 100 | 100 | 300 | ←総生産 |
A国では(マージンを取らず)輸入額と同じ金額で販売しているので,A国の所得合計には変化がありません.表の対角線上にあるA国の自己取引セル内に追加された財貨消費120を取り除くと,A国ではC国から輸入した財貨が売れ残っている状態になるため,売上と所得がその分減少し,大域的な総消費=総所得=総生産もその分連動して減少します.経済循環マトリックスでは最終消費された製品・サービスのみが純生産としてカウントされる(価格が付いていない商品,つまりまだ売れていないものはその時点では無価値とみなされる)ためです.
外国貿易を扱うために,「輸入」,「輸出」などの項目を追加しましたが,これを国内経済計算に応用することはできないでしょうか?上の表では,経済単位が国家なので,「所得合計」は「国民総所得」に相当し,「純生産」は「国民総生産」を表すものと見ることができます.「純生産」の値を得るためには,「純輸出」を計算しなくてはなりませんが,国内経済でも外部取引を移出・移入と捉えれば,翻案できるのではないかと思います.それができれば,国内経済についても,もう少し詳しい議論が可能になる上,国内経済と外部経済を一つの計算表上で完全に同じレベルで解析できるようになります.
該サンプルをアレンジして,企業A, Bと従業員a, bから構成される経済圏をX国,企業Cと従業員cからなるY国に分割してみましょう.Y国は1国を経済単位とし,X国ではすべての構成メンバーがそれぞれ独立の経済主体であるようなモデルを考えます.Y国にはアマゾンのようなグローバル企業が存在し,世界中に商品を直販しています.ただし,A社は外販を目的としてY国から輸入していますが,「時点」では販売実績がないため「在庫」の状態になっています.B社ではそれを外販せず,Y国から輸入した製品の全額を社内消費して内販60とします.aとbは個人なので最終消費の目的でY国から直接購入します.やってみましょう.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 出金額 | 仕入高 | 移入財 | 消費額 | 損益 | 総支出 | |
A社 | 給与50 | 製品輸出60 | 110 | 110 | 110 | -10 | -10 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与50 | 製品輸出60 | 270 | 210 | 210 | 60 | -10 | 50 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
Y国 | 輸出200 | 国内販売 60 給与50 |
310 | 250 | 200 | 60 | 40 | 100 | |||
入金額 | 100 | 260 | 50 | 50 | 350 | 810 | 570 | 0 | |||
総所得 | -10 | 50 | 50 | 50 | 100 | 240 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 50 | 50 | 120 | 520 | |||||
純消費 | 60 | 180 | 240 | ||||||||
純移出 | -10 | -10 | 50 | 50 | -80 | 0 | |||||
総生産 | -10 | 50 | 50 | 50 | 100 | 240 |
できました.このマトリックスは外国貿易を伴う外部経済と内国経済が混合した広域循環マトリックスですが,完全に汎用的な(ありとあらゆるケースに適応可能な)循環マトリックス計算が確立できたと思います.内容的には一番最初に提示した3社3雇用者のマトリックスと「ほぼ」同じですが,A社ではY国から製品輸入した商品をまだ販売していないため,総所得が-10という赤字の状態になっています.
すべての財貨・サービスの売買取引は経費(仕入れ)と純消費(最終消費)に二分されます.これらの区分はその取引が国外(輸出入)であるか国内(移出入)であるかによりません.自己取引(経済単位内の内部経済)の場合でも同じです.つまり,その経済単位がどのような規模のものであっても例外なく同一のルール・手順によって計算されます.海外への報酬支払い(送金)はサービスの輸入,国内における出稼ぎもサービスの移出としてまったく同じ扱い(移出/入財)になります.海外からの観光客の現地での買い物は消費移出財です.
上の三国経済循環マトリックスの輸入,輸出,純輸出,純生産となっていた項目をそれぞれ,移入財,移出財,純移出,総生産に改め,新たに消費額,損益,総支出という項目を追加しました.また,一行を短くするために,売上合計,所得合計,最終消費,支出合計,仕入合計,消費合計をそれぞれ,入金額,総所得,純消費,出金額,仕入高,消費額のようにリネームしました.
集計行と集計列の各項目は以下のように定義されます.
出金額=∑(行の全要素)
入金額=∑(列の全要素)
仕入高=∑(行の仕入れ)=(内部経費)+移入財
損益=入金額-出金額
総所得=入金額-仕入高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
消費額=∑(行の純消費)
純消費=∑(列の純消費)
総支出=消費額+損益
純移出=移出財-移入財
総生産=純消費+純移出
∑(入金額)=∑(出金額)
∑(損益)=0
∑(純消費)=∑(消費額)=∑(純生産)
∑(移入財)=∑(移出財)
∑(純移出)=0
∑(総所得)=∑(総支出)=∑(総生産)=∑(消費額)=∑(純消費)
= 全所得 = 全支出 = 全生産 = 全消費
今回は個別経済単位ごとに,総所得,総支出,総生産を計算し,それらが完全に一致していること(三面等価の原理)が確認されました.広域的には,∑総所得,∑総支出,∑総生産,∑消費額,∑純消費がすべて完全一致しています.(上表で■,■,■で塗りつぶされている部分).個別経済単位に業種・地域などの属性が与えられていれば,それに従ってあらゆる種類の統計(産業別・地域別などなど)がたった一つのブロックチェーン(取引台帳)から導き出せることが確認されました.しかも,それを全自動で実行することができます.取引の品目が分からなくても,また,その製品の生産プロセスに立ち入らなくても,その取引が仕入れ(経費)であるか純消費であるかを見るだけでここまでできるというのはある意味,すごいことであるような気がします.
2021/07/06 13:57
前便でもご説明したように,循環マトリックスの対角線上にあるセルは内部取引(自己取引)を意味します(グラフでは自己ループ).これは主にマトリックスが縮約マトリックスである場合に起きる現象ですが,その(自己)取引が仕入れ(経費)であれ,純消費であれ,適用されるルールには変わりありません.B社は内販によって所得が+50になっているのに対し,A社の所得は-10になっています.B社の社内販売では資金はB社の内部で動いている(出金と同額が入金している)だけで収支には関わりなさそうに見えますが,AとBの相違点は,A社で保有している製品在庫はまだ評価されていない(販売されていない)ため,値が付いていないのに対し,B社ではどの部門かがその製品を購入したことによって値が確定し,その製品が「使用できる状態」になったためと言えます.
内部取引については,前にも「専業主婦の家庭内労働賃金は誰が支払うのか?」という「難問」として何度か触れていますが,この場合も,家事労働に(名目上)賃金を支払えば,その家計の所得は増加します.これは「その労働が評価されたこと」を意味するもので,逆に言えばどっちみちお金は動かないのだから,主婦にはいくらお金を払ってもよい,とも言えます(夫と妻が別財布ではそうも言えませんが…).この「労働が評価されたこと」=「所得が増加すること」の意義は,たとえば,子どもに「お小遣いやるから~やって」と頼むようなケースを考えれば分かります.この場合はお金をやらなければその仕事はなされなかったと考えられるので,「お小遣い」によってその金額相当の「労働」が実行され,それが「生産」として評価されたと言えます.もっとわかり易い例で言えば,「最近やってないけど,これでどう…」と言って妻にお金を渡し,それに妻が応じたとすれば,明らかに家庭内売買春という完全な経済行為(貨幣的取引)が成立すると考えられます.サービス残業などは企業内で起きている「無賃の家事労働」かも知れません.
本システムでは「在庫」を価格的に推計するのはかなり難しいような気がします…多分,できません.仕入れ額がどの製品にどれくらいの割合で分配されているかを推計する手段が存在しないからです.もちろん所得がマイナスになれば,販売不振という状況にあるくらいは推定できますが…まぁ,これは「決済システム」ですから,そこまでやる必要もありません.※イクシマさんのデジタルレーニン主義ではそこまでやるのだろうか?AIを使えばそれも可能になる?(少なくとも現状を見る限りではデジタルマオイズムもそこまで成功しているようには見えない…)
B.A.
訂正:用語の使用,特に集計行および集計列で用いられる項目名の見直しを行い,経済循環マトリックスの構成と整合するような名称に統一するための修正を行った.経済循環マトリックス上のセルは1つないし複数の貨幣的取引を表示し,通貨は最左列のノードから最上行のノードに移動するので,「行」は最左ノードの支出,「列」は最上ノードの収入を意味している.純消費→最終財,消費額→純消費とし,総支出,総所得,総生産はそれぞれ,支出額,所得額,生産額に改めた. (2022/05/12)
2021/07/07 4:01
生島さん,下田さん
GDPを算出するための経済循環マトリックス計算の核となる部分はほぼ固まったのではないかと思いますが,もう少し調べてみたいと思います.もっとも興味深いのは,生産額が,
生産額 = 純消費 + 損益 ※
という式で与えられるという点です.この損益という値は,ある経済単位の収入と支出の差分をあらわすもので,経済循環グラフ的に言えば,グラフの各ノードの重み(持ち分,中央銀行の当座預金残高)の増減を表します.国民経済計算の解説の中ではあまり見かけない数字ですが,これはなぜかというと,ある閉じた経済循環系においては,∑損益は必ずゼロになると考えられるからです.つまり,「損益」の出番がありません.同じ様にトータルでつねにゼロになる数字に純移出(純輸出=輸出高-輸入高)という数字があります.ただし,開いた経済循環系ではむしろゼロにならない方が普通なので,国民経済計算の中ではかなり重要な役どころです.※この等式は,「働かざるもの食うべからず」という命題を数式化したものに他ならない
一部の教科書はこの「損益」の代わりに「貯蓄」という用語を使っている場合があります.家計部門などでは 所得=消費+貯蓄(可処分所得のうち消費しなかった金額),企業部門では貯蓄の代わりに投資という用語を用いて,所得 =消費+投資のように表現されたりします.循環マトリックス上の時点ではまだこれらの資金の処分(貯蓄や投資)は実現されていないので,あくまで損益と見ておいた方がよいと思います.
売上高=∑(列の全要素)=∑中間財の販売+∑最終財の販売
支払高=∑(行の全要素)=∑中間財の仕入れ+∑最終財の購入
純消費=∑(行の純消費)=∑最終財の購入
損益=売上高-支払高=∑中間財の販売+∑最終財の販売
-∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
支出額=純消費+損益
=∑最終財の購入+∑中間財の販売+∑最終財の販売
-∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
=∑中間財の販売+∑最終財の販売-∑中間財の仕入れ
=∑最終財の生産額+∑中間財の生産額-∑中間財の仕入れ
=∑最終財の純生産額+∑中間財の純生産額=生産額
支出額=生産額は確かに成立しているようです.マトリックス上で実際に確認して見ましょう.Y国の場合に注目します.下表では,Y国の支出側(行)に純消費項目が出現するように,A社からY国に燃料60の輸出を追加しました.これにより,Y国の純消費は120,損益は-20に変化して支出額は100になりました.以下の表から数字を拾い出し,上の式に代入してチェックしてみます.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 移入財 | 純消費 | 損益 | 支出額 | |
A社 | 給与50 | 製品輸出60 | 110 | 110 | 110 | 50 | 50 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与50 | 製品輸出60 | 270 | 210 | 210 | 60 | -10 | 50 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | -10 | 50 | ||||||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 国内販売 60 給与50 |
370 | 250 | 200 | 120 | -20 | 100 | ||
売上高 | 160 | 260 | 50 | 50 | 350 | 870 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 200 | 50 | 50 | 170 | 570 | |||||
所得額 | 50 | 50 | 50 | 50 | 100 | 300 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 50 | 50 | 120 | 520 | |||||
最終財 | 60 | 60 | 180 | 300 | |||||||
純移出 | -10 | -10 | 50 | 50 | -80 | 0 | |||||
生産額 | 50 | 50 | 50 | 50 | 100 | 300 |
売上高=製品輸出60x2+消費輸出60x2+国内販売60+給与50=350
支払高=燃料60+輸入200+国内販売60+給与50=370
損益=(製品輸出60x2+消費輸出60x2)-(燃料60+輸入200)=-20
純消費=燃料60+国内販売60=120
支出額=純消費120+損益-20
=国内販売60+消費輸出60x2+製品輸出60x2-輸入200
=∑最終財生産額180+∑中間財生産額120-∑中間財仕入れ200
=∑最終財の純生産額180+∑中間財の純生産額-80
=生産額=100
Y国で販売されたすべての財貨(仕掛りの中間財を含めて)はY国の生産物としてカウントされます.ただし,それらの財貨を生産するために外部から移入ないし輸入した中間生成物のコストを控除しなくてはなりません.上の計算式はこれらのことを抜かりなく実行するための手順書になっています.純消費+損益から生産額が直接算出できるというのはまったくもって直感的ではありませんが,恒等的に成立する(マクロ経済学の原理の一つ)ことが示されました.生産額=支出額の等式は,支払高=移入財+最終財+内部経費,売上高=移出財+純消費+内部経費の関係を使って,もう少しスマートに証明できます.
支払高=移入財+純消費+内部経費
売上高=移出財+最終財+内部経費
損益=売上高-支払高=(移出財+最終財+内部経費)
-(移入財+純消費+内部経費)
=移出財-移入財+最終財-純消費
=純移出+最終財-純消費
支出額=純消費+損益
=純消費+純移出+最終財-純消費
=最終財+純移出
=生産額
さて,気になるのはこのマトリックスに含まれている2つの「ゼロサムゲーム」です.明らかにこのゼロサム式は恒等的に成立します(※⇒上表からも明らかなように「損益」と「純移出」のそれぞれの累和はつねにゼロになる.つまり,参加メンバーの一方がプラスになれば,他方はかならずマイナスになる).「競争社会」とはよく言われますが,まさに生きるか死ぬかの弱肉強食の世界ですね.経済がこんなにシビアなものだとは思いませんでした.平均すれば常時半分くらいの人は損益マイナスの状態にあり,国家の半数あるいはそれ以上の国家が貿易収支の赤字で悩んでいる姿が目に浮かびます.損益マイナスの状態から脱出するのは容易いことではありません.それにしては,破綻して自殺を選ぶ人がそれほど多くはないというのはどういうことでしょうか?※
※⇒個人は収入に合わせてなんとか生計をやりくりしているので,帳簿尻は中小零細企業にしわ寄せされているものと推定される.これは構造的と言うより,むしろ原理的と言うべきものだろう.未開発ないし発展途上国がODAを必要とするのも同じ原理だ.財政赤字国に対するIMF融資が逆にその国の経済を破壊する結果に陥りがちな理由もそこにある.農業国が貧しいのもそれが原因と言えるだろう.すべては経済循環マトリックスがゼロサム・ゲームであるためだ.
この2つのゼロサムゲームは相互に影響し合うことはあり得ますが,かならずしも連動しているものではありません.実際,対外収支(貿易収支)赤字でも損益黒ということはあるし,その逆も真です.わたしの感覚ではどちらがシビアかと言えばやはり損益の方ではないかという気がします.というのは,損益はあからさまな資金ショートを意味しますが,純移出(純輸入)の赤字では資金的には赤字でもそれに見合った財貨を輸入(移入/購買)しているのだから,必ずしも悲観するまでもないのではないかと見ています.※⇒実際のところ,国際収支における最大の「赤字国」はアメリカである.「赤字」に対する「見方」を変える必要があるのかもしれない…
A社 | B社 | a | b | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 移入財 | 純消費 | 損益 | 支出額 | |
A社 | 給与60 | 製品輸出60 | 120 | 120 | 120 | 40 | 40 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与60 | 製品輸出60 | 280 | 220 | 220 | 60 | -20 | 40 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 国内販売 60 給与60 |
380 | 260 | 200 | 120 | -20 | 100 | ||
売上高 | 160 | 260 | 60 | 60 | 360 | 900 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 200 | 60 | 60 | 180 | 600 | |||||
所得額 | 40 | 40 | 60 | 60 | 100 | 300 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 60 | 60 | 120 | 540 | |||||
最終財 | 60 | 60 | 180 | 300 | |||||||
純移出 | -20 | -20 | 60 | 60 | -80 | 0 | |||||
生産額 | 40 | 40 | 60 | 60 | 100 | 300 |
このサンプルは企業3社と個人3人でうち1社1名はY国という構成になっていますが,すべての家計で赤字になっています.これは給与が50円に対し,消費が60円掛かっているためです.仮に60円というのが労働力再生産のための最小限のコストであるとすれば,そこまで給与を上昇させない限り,この経済は持ちません.そこで,とりあえず,給与を一律10円アップして60円としてみました.個人cはY国の中に入ってしまっているため見えませんが,ともかくすべての家計で損益ゼロという状態を確保することができたと言えます.さて,その尻拭いはどこへ行くのでしょう.個人の損益がすべてゼロないし黒字であるとすれば,そのしわ寄せはすべて企業セクタに回るしかありません.なるほど,少し分かりかけて来ました.
日本全体の企業の99.7%は中小企業であると言われていますが,そのうちの7割が赤字という数字があります.わたしはこれまでどんな企業でも経営努力しさえすれば黒字転換は可能なはず,赤字決算のかなりの部分は脱税のための粉飾ではないかと思っていましたが,どうも,そういうことではなかったようです.総和がゼロのゲームでは,誰かしらが貧乏くじを引くしかありません.もし,この赤字が「変動」であって,平均すればゼロというのならまだよいのですが(「持ち分」のベースラインを一律引き上げて残高がマイナスにならないようにするなどの方策があり得る),大きいところはまず赤字にはなりませんから(もちろんときどきニュースで耳にしますが,大概は脱出できます),小さいところがそのあおりでほぼ恒久的に赤字を出し続けるのは避けられないように思われます.しばしば「時代遅れのビジネスはとっとと市場から退出しろ」という声が聞こえますが,それも違うのではないでしょうか?確かに廃業して賃金労働者になれば最低限食ってゆくことはできるかもしれませんが…
「ウィンウィン」ということばがありますが,原理的にあり得ない話です.これが現実であるとすればどんな手を使ってでも相手を出し抜くしかないということになってしまいます.「金融システム」云々より以前にこの原始的な競争社会を転換する必要があるのではないでしょうか?まぁ,赤字経営を続けていても,それが「常態」であるという悟りを開けば存続可能なのかもしれませんが…日本経済の過半の部分はボランティア経済である,つまり採算の取れないビジネスで何とか回しているとは前々から思っていましたが,確かに日本経済の現状,というより世界経済と言っても同じですが,原理的にそうなるしかないような気がしてきました.クリフォード・ダグラスが説いていたのはおそらくそのことなのだろうと思います.だとすれば,ベーシックインカムはむしろ企業にこそ分配すべきものであるのかもしれませんが,企業にはデット・エクイティ・スワップ(企業の債務を債権者が債権による現物出資をおこない株式化すること,もしくは、債権者が金銭出資をおこない株式を取得し、その出資で債務の弁済を受けること)という奥の手もあります…
日本の中小企業は従来から運転資金を銀行等からの借入のローリング(半永久的な借り換え)で賄う傾向があり、これは中小企業の資本性借入れ(擬似エクイティ融資)として問題視されてきた。銀行等の融資は、満期には完全に返済されることを想定しており、恒常的に必要な資金は、本来は株式で調達する(株主からの出資で賄う)べきである。出典:増田安良(東洋大学)
考えられる最善手は,おそらく「経済循環システムの持ち分の変動を許容範囲内に収めるような仕組み」を構築することではないでしょうか?そのためには富の再配分しかないような気もします…つまり極端に過剰な持ち分を削って平坦化する…もちろん,異常に落ち込んでいるところはその原因を突き止めて対処する必要はありますが…損益を改善するためにはやはり輸出しかありません.当然ですが,内需拡大は[GDPを増加させる効果はありますが]損益[対外収支]にはまったく反映されません.下図ではY国の内需を200まで拡大した上で,Y国からA社への輸出を100に増加させてみました.この結果,これまで+40あったA社の損益が0になり,Y国の損益は+20になりました.輸出が伸びたので純移出のマイナスもその分だけ減少しています.
A社 | B社 | a | b | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 移入財 | 純消費 | 損益 | 支出額 | |
A社 | 給与60 | 製品輸出100 | 160 | 160 | 160 | 0 | 0 | ||||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 給与60 | 製品輸出60 | 280 | 220 | 220 | 60 | -20 | 40 | |
a | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
b | 消費輸出 60 | 60 | 60 | 0 | 60 | ||||||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 内需 200 給与60 |
520 | 260 | 200 | 260 | 20 | 280 | ||
売上高 | 160 | 260 | 60 | 60 | 540 | 1040 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 200 | 60 | 60 | 220 | 640 | |||||
所得額 | 0 | 40 | 60 | 60 | 280 | 440 | |||||
移出財 | 100 | 200 | 60 | 60 | 160 | 580 | |||||
最終財 | 60 | 60 | 320 | 440 | |||||||
純移出 | -60 | -20 | 60 | 60 | -40 | 0 | |||||
生産額 | 0 | 40 | 60 | 60 | 280 | 440 |
PS:多少修正が入っているのでアップデートしました.これは経済循環マトリックス計算のルールブックです.
支払高=∑(行の全要素)=移入財+純消費+内部経費=純消費+仕入高
売上高=∑(列の全要素)=移出財+最終財+内部経費=最終財+卸売高
仕入高=∑(行の仕入れ)= 移入財+内部経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財+内部経費
損益=売上高-支払高
所得額=売上高-仕入高
純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
純移出=移出財-移入財
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益
∑(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)
∑支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)
所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)
総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)
総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
2021/07/07 22:23
生島さん
>いよいよGDPになってきて嬉しいと思います。
確かに,このスレッドはある程度まで生島さんのご要望に沿う方向で進めているところがあるというのは事実です(バックキャスティングってやつですね).ただ,そのリクエストのレベルが高過ぎて…なかなか…
>ここはある意味マクロ経済学のキーだと思いますのでありがたいです。
サンプルとして示している計算表は,「スプレッドシート」があれば造作もなく書けるものですが※,この簡単な図表から読み取れることはとても深いものがあります.わたし自身思わぬ発見がいくつもありました.セルの数字をあちこちいじると色々なことがわかってくるのですが,これを自動化したいですね.30年前に「イカロス」という名前の「シミュレーションソフト」を開発したことがあります.そのころは中学校の職業家庭科に「情報基礎」という領域があって,その授業の教材として使うためにBTRON-OS向けに開発されたものですが,非関税障壁だとかなんだとかアメリカから難癖を付けられてBTORON自体が葬り去られてしまったため,陽の目を見ることがありませんでした.もし,これがいま手元にあったら,わたしは何のためらいもなく「経済循環マトリックス計算」をこのソフトの上に乗せていたことでしょう.イカロスにはそのために必要な機能がすでにすべて備わっていました.
※経済循環マトリックスの計算表では一つのセルが複数の値を持つ場合があります.スプレッドシートで表現する場合には複数行に分けるしかないかもしれません…
>GDPギャップもよく言われているのできちんと見たいと思っています。
えええ,もう次のご注文ですか!ま,待ってください.というか,こういう部分はたとえばイカロスのようなソフトがあればカバーできますよね.イカロスでは「数式入力」もサポートしていたので,「数式」を直接入力してそれを「コード」として動かすことができます.誰か作ってください!
>などとも用語統一というか、オントロジーですね。定義したいところです。
用語の統一は重要なポイントですが,まだ,何がどうなっているのか完全に把握しきれていないので,わたし自身ぐらぐらしています.昨日のメールでは純生産=純消費+損益としましたが,読み直してみると,やはりこれは「純生産」ではなくて「純支出」でした.というか,「純生産」とか「純支出」なんて用語は普通使いませんよね.「純輸出」というのはありますね.「純消費」ということばもどこかで使われていたと思います.用語はできるだけ統一したいと思っているのですが,わたしはグラフ理論を昔の古い教科書で学んでいるので,たとえばグラフの「辺」を「枝」と呼んでみたり,あるいは,「隣接行列」を「接続行列」と呼んでしまったり…グラフの「頂点」もわたしは「ノード」と呼んでいますが,グラフ理論家には嫌われるかもしれません(以前は「点」という呼び方をしていました).ネットワーク理論では「頂点」を「ノード」と呼ぶ方がむしろ普通だと思いますが…この辺りは完全に主観的な「こだわり」の部分なので,できるだけ「世間一般」に通用するように心がけてはいるのですが…
ただ,用語は厳密な定義を与えてから使用するべきですが,そうすると,定義部分のボリュームばかり大きくなって,テキスト全体が過剰に堅苦しいものになり,結果的に読者側に余分な負担を掛けるようになってしまう恐れもあって,まぁ,(いまのところ)アバウトに読み取ってもらえればというつもりで書いています…用語に厳密な定義を与えると間違っているところが見つかったりして,それもまた必要なのですが…
>問題は政府ですが、これが魑魅魍魎の世界です。
デジタル庁などと言っていますが,まず,政府財政をガラス張りにするところから始めないことには…
>山口先生の本でも2章でその関係の話が出てくるので用語整理しておくとありがたいです。
イカロスはインタプリータ言語を内蔵したシミュレータで,数式を含む任意のコードを直接入力し,クロックに同期して擬似的な並列プロセスを実行して,その結果を画面に描画することができます.複数のレイヤー上に矩形・円弧・線分などの各種図形,テキストの他,透過ビットマップも表示できるのでそれぞれのオブジェクトが独立に動作するようなアニメーションも表示できます.システムダイナミックスもかなり高度なことができるようですが,この2つをミックスしたようなものができるとさらにおもしろいかもしれません.
数理研究所でやりませんか?たしか,20年度の予算が4兆円くらい残っていたような…いや,もっとありますね.4兆円というのは新規発行国債の減額分で,それ以外に予算執行不用額が3.9兆円,国債償還や補正予算に充てる純剰余金が4.5兆円もあります!
2021/07/08 0:18
誤:1n(Y/LH)=1nA+a1n(KS/LH)
正:ln(Y/LH)=lnA+aln(KS/LH)
上の式は,生島さんご紹介の「内閣府 付注1-2GDPギャップの推計方法について」に出てくる「コブ・ダグラス型生産関数」を対数変換したものですが,致命的なタイプミスがあります.いや,わたしも最近急速に視力が落ちているので,間違っていたらゴメンナサイ.
2021/07/09 20:30
生島さん,下田さん
前便のタイプミスはわたしが書いたものではありません.内閣府のサイトの「GDPギャップの推計方法について」で見つけたものです.わたしはプログラマなのでこういうのは得意なんですよ.プログラマがコードの中でこんなもの見落としてたら,それこそ生命いくらあっても足りません.些細なミスですが,この1文字の誤記を見ただけでもかなりのことが分かります.①担当部署はこのホームページ作成を外部業者に丸投げしている,②検収をほとんど無検査で通している,③担当者はこの記事が読まれることをほとんど期待していない,④実際,この分野を専門とする研究者でこの記事を閲読したものはほとんどいなかったのだろう,⑤発注価格はおそらく腰を抜かすくらい高額で,直接作業者の日当はおそらく青ざめるくらい安かったものと推定される,⑥当然,作業者はほとんど何も知らない字が読めるというレベルのアルバイトだ,⑦これもまた,どうせ,パソナか,電通がらみ?
>なかなかついていけてません。
済みません.「誤りを含む証明」を読むときの苦痛は身に覚えがあります.確か,ロシアのノーベル賞受賞者がこんなことを言っていました.「わたしは人の論文を読むときは,頭の部分としっぽしか読まない.もし,その命題が正しいとすれば,自分で証明を考えてしまった方が早い」.こんな偉い人でもそうなのですから,まして「整理されてない論」を読むのは,(生島さんのような方であっても)大変なことは重々承知しています.本論で分かりづらいところは多分,「移入財」と「移出財」の定義の辺りではないかと思います.「輸出入」と言ったのでは国家間の国際取引しか扱えないので,あえて「移出入」という用語を用いている点に関してはご理解頂けるものと思いますが,本論で定義された「移入財」,「移出財」は通常の「輸入財」,「輸出財」とは微妙なところで差異があります.ルールブックには以下のようにあります.
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
「取引」は「通貨」と「財貨」の等価交換なので,つねにグラフの枝の両方の向きで移動が発生しますが,経済循環グラフでは「通貨」の移動だけに着目しているので,片側だけの「有向グラフ」として表現します.グラフをマトリックスに転換すると,「セル」はグラフの枝(取引)に相当しますが,「行」はそのノードからの「支出」を表し,「列」がそのノードへの「収入」になります.「財貨」はその逆向きに動いているので(通貨の動きと反対方向),たとえば,計算表上で「輸出」と書いてあるときには,「上」のノードから「左」のノードへの「輸出」であるということになります.「外部からの」としているのは,この集計には「自己取引」,つまり,「内部経済」を含まないという意味です.ここまではいいと思うのですが,問題は「仕入れ」としている点です.明らかにこれはかなり直感に反する定義になっているのではないでしょうか?※つまり,最終財の移出入は計数に含まれない!
「仕入れ」と呼ぶものの中には「中間財」の購買と,給与など報酬(労働サービスの対価)の支払いが含まれます.つまり,最終消費財の価格の中に転化される(埋め込まれる)と考えられる財貨・サービスがすべて含まれます.これらを控除しないと正しい生産額を計算できません.「最終消費財」の価格は「仕入れ」+「収益」で,この収益分が「付加価値」と呼ばれるものです.輸出入の用語では,純輸出=輸出-輸入となりますが,この「輸出」ないし,「輸入」は通常の理解では,「最終消費財の輸出を含めた全輸出」あるいは,「最終消費財の輸入を含めた全輸入」となります.しかし,「移入財,移出財には最終消費財を含めない」というのが我々の与えた定義です.この定義を従来の定義に戻して,「移入財=移入されたすべての財貨,移出財=移出されたすべての財貨」のように補正して再計算すると,
移出入=移出財-移入財=売上高-支払高=損益
という結果になり,結果的に,財貨的ゼロサムゲームと貨幣的ゼロサムゲームが完全に一致するようになります!確かに,これはわたし達が直感的に感じる「語感」とマッチしています.つまり,「貿易収支が赤字なら損益もマイナスになるはずだ(その逆も真)」という理解です.むしろ,逆に「財貨的ゼロサムゲーム」と「貨幣的ゼロサムゲーム」が交叉しているという方が分かりづらいと言ってよいと思います.下記のような定義を「移出入の古典的定義」ないし,古典的移出入と呼ぶことにしましょう.
移入財=移入されたすべての財貨
移出財=移出されたすべての財貨
確かに,近来までの外部経済取引は「古典的定義」と一致するような動きになっていたのだと思います(産品は一度「仕入れ」されてから国内で販売・加工される).今回の議論で初めてそれが修正されようとしているのですが,そのことは実体経済の最近のトレンド,つまり,グローバル企業による国境を超えた財貨の取引が急速に増加してきたという変化が背景にあるのではないかと推測しています.これらの企業,主にGAFAMなどですが,かれらは外国居住者に直接財貨・サービスを販売することができます.いま,OECDで議論になっている巨大IT企業に対する「デジタル課税」というのはこのような状況変化を直接反映したものです.実際,貿易収支,経常収支などの用語の定義でさえ,近年になって大幅改訂(IMF国際収支マニュアル,2014)されています.このことが意味するものをもう少し,俯瞰的に考えてみます.
経済循環グラフのノードは独立した経済主体ないしその集合,枝はノード間の貨幣的取引と定義されます.経済主体と呼ばれるものには,個人,企業,政府,金融,非営利団体などすべての個人・団体が含まれます.これらの経済主体がその規模の大小・属性・目的などに関わりなく完全に同一レベル・同一ルールのもとに取引を行っている状況を表現することがこのモデルの目標です.国民総生産や国民総所得などは国家単位で計算されますが,ここではすべての経済主体が同一レベル(同じテーブル)で経済活動を行っていると考えられるので,すべての経済単位について,それぞれ,総生産(生産額)や総所得(所得額)が同時並行的に計算できなくてはならないというのが我々の立場です.このことと,上のような問題が起きていることには深い関わりがあります.
通常,輸出入と言えば海外からなにかの財貨を輸入(仕入れ)して,それを直接ないし加工して販売(国内消費,ないし再輸出)するというプロセスを考えますが,現状はすでに国境を超えた個人・企業の取引が実行されている,つまり,企業や個人が国家と肩を並べるような状況になりつつあります※.これは生島さんがよく言われている,国家→企業→個人のような潮流と関わりがあるように思われます.このような状況はすべての経済主体を擬人化したモデルで考えるとわかり易いかもしれません.企業にとって,工場や設備,運搬車両などは人間の肉体に相当するものであり,いわば増強された肉体(サイボーグのようなもの)ですが,それ自体が意思決定能力を持っているという点において,主体であると言えます.「経済」とは,これらスケールの異なる「主体」(蟻ん子から象さんまで)がミックスして生息・活動するエコシステム,ある種の自然環境であると言えるでしょう.
※地域経済主体間の財貨の移動を「移出入」,国家経済間のトレードを「輸出入」と呼ぶとして,多国籍企業によるボーダーレス取引をなんと呼べばよいのだろう?なかには,個人輸入ビジネスなどというものもあるが,その個人の国籍,居住地はもはや主要ファクタではない.
「損益」は資金の増減であり,通常,「損益」がマイナスでも「所得」は立っています.所得=生産ですから,所得がないということはすでに経済活動終了しているということになるので,赤字企業と言っても操業している限り所得はプラス水準にあります.税務的な赤字というのは損益がマイナスになることですが,これまで見てきたように損益がマイナスというのは原理的・数理的に「ノーマル」な状態であり,ほぼ半数の経済単位が損益マイナスになるのは「どうやっても」避けることはできません.従って,ギリシャやウクライナが破綻に追いやられるというのはかなりおかしな話です.仮にこれらの国が債務国から脱却したとしても,それは単に赤字を他国に移転したことにしかなりません.IMFのように債務国の経済をぎりぎり締め上げて財政再建するというスキームは明らかに基本的なところで間違っています.それをやっていたら,世界中が窒息してしまいます.
三面等価原理が恒等的に成立するというところも国民経済計算で分かりづらいところかもしれません.生産・所得・支出の3面はそれぞれ完全に独立の活動であるように見えるからです.これに関しては説明してもなかなか分かりづらいところがあるので,簡単な「証明」でそれに代えたいと思います.純支出=純生産というところは既出ですが,再掲します.ただし,「純支出」と「純生産」という用語は多少紛らわしい(というより混乱していた)ので,「生産額」と「支出額」にリネームしました.生産額=最終財+純移出,支出額=純消費+損益で,生産額は,その単位経済で生産され,最終消費ないし移出された正味財貨の合計,支出額はその経済単位が最終消費財として消費ないし移入した財貨+損益(剰余)です.これはよく見る,所得=消費+貯蓄という(教科書的)記述に対応するものです.以下では赤字は最終消費,青字は仕入れ(中間消費)です.
単位経済の三面等価原理:所得額=支出額=生産額
証明:単位経済の三面等価原理
支払高=移入財+経費+純消費=仕入高+純消費
売上高=移出財+経費+最終財=支払高+最終財
仕入高=移入財+経費
損益=売上高-支払高
=(移出財+経費+最終財)-(移入財+経費+純消費)
=移出財-移入財+最終財-純消費
=純移出+最終財-純消費
支出額=純消費+損益
=純消費+純移出+最終財-純消費
=最終財+純移出
=生産額
所得額=売上高-仕入高
=(移出財+経費+最終財)-(移入財+経費)
=最終財+移出財-移入財
=最終財+純移出
=生産額
総体経済の四面等価原理:総生産=総所得=総支出=総消費
証明:単位経済の三面等価原理より明らか
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)
∴総生産=総所得=総支出
ただし,総消費に関しては別途証明を要する
∑支払高=∑仕入高+∑純消費 から
∑純消費=∑支払高-∑仕入高
=∑(支払高-仕入高)
=∑(所得額)
=総所得
∴総消費=∑(純消費)=∑(最終財)=総所得
QED
※上記で,赤字は最終消費財・サービスの移転,青字は中間消費財・サービス(内部経費を含む)の移転,経費(内部経費)は製品価格に含まれる内部取引額(社員給与など).
単位経済では所得=支出=消費は成り立ちません.これは当然の理(失業中に競艇場に走ったり…)と言えますが,生産=所得=支出であるとすると,不労所得者の経済はどうなっているのだろう?というのが次の宿題(金融経済マトリックス)です.
比較参照用にサンプルを出しておきます.参考データとしてX国={A社,B社,a, b}の集計を入れました.セルの取引種別には供給者から需要者に送られる財貨の種別が書いてありますが,この計算表ではトップ行が供給者,最左列が需要者を示しているので,個人aがA社に「給与」を送るというのは意味が通りません.そこで,給与→労働に改めました.つまり,個人aはA社に労働サービスを提供し,その対価として給与60を受け取っています.X=A+B+a+cの計算を実行しておくと,あとの集計はX+Yを計算するだけで簡単に終わります.
A社 | B社 | a | b | X国 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 支出額 | |
A社 | 資材40 | 労働60 | 100 | 輸出60 | 160 | 100 | 60 | 100 | 60 | ||
B社 | 原材料100 | 内販60 | 労働60 | 160 60 |
輸出60 | 280 | 220 | 60 | 220 | 80 | |
a | 輸出 60 | 60 | 0 | 60 | 0 | 60 | |||||
b | 輸出 60 | 60 | 0 | 60 | 0 | 60 | |||||
X国 | 100 | 40 60 | 140 60 |
560 | 320 | 240 | 320 | 260 | |||
Y国 | 燃料60 | 輸出200 | 60 | 60 | 内販 60 給与60 |
380 | 260 | 120 | 200 | 100 | |
売上高 | 160 | 300 | 60 | 60 | 580 | 360 | 940 | 総取引 | |||
損益 | 0 | 20 | 0 | 0 | 20 | -20 | 0 | ||||
卸売高 | 100 | 240 | 60 | 60 | 460 | 120 | 580 | ←重複 | |||
所得額 | 60 | 80 | 60 | 60 | 260 | 100 | 360 | 総所得 | |||
最終財 | 60 | 60 | 0 | 0 | 120 | 240 | 360 | ||||
移出財 | 100 | 240 | 60 | 60 | 460 | 60 | 520 | ||||
純移出 | 0 | 20 | 60 | 60 | 140 | -140 | 0 | ||||
生産額 | 60 | 80 | 60 | 60 | 100 | 360 |
経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14)
支払高=∑(行の全要素)=移入財+経費+純消費=仕入高+純消費
売上高=∑(列の全要素)=移出財+経費+最終財=卸売高+最終財
仕入高=∑(行の仕入れ)= 移入財+経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財+経費
所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高
純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
純移出=移出財-移入財=卸売高-仕入高
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益
∑(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(純損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)
∑支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)
所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)
総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)
総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
2021/07/14 1:54
生島さん,下田さん
応用問題をやってみましょう.下図↓は,富山大学経済学部岸本研究室のサイトで見つけたものですが,貿易収支を見るときの「国籍基準」と「企業基準」の違いについての説明図です.経済循環マトリックスを試す格好の材料なので,2つの場合(国籍基準|企業基準)の計算表を書いてみたいと思います.(以下では数字の単位は10億ドル)
この図版で具体的な数字を明示されている取引は8つで,米国の輸出(581),輸入(609)の中にはこれらの取引が含まれているものとします.とりあえず,これら8つの取引の数字を元に「国籍基準」によるマトリックスを書いてみました.下の表では図中の米国をX国,外国をY国,米国本社をA社,外国企業をB社,米国系企業をα,外資系企業をβのように表記しています.各企業の所在地(居住地)から国内・A社・β社がX国籍,国外・B社・α社をY国籍とします.
国内 | A社 | β社 | X国 | 国外 | B社 | α社 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 損益 | 支出額 | |
国内 | 内販 1066 |
外商 1066 |
1066 1066 |
[輸入] 318 |
318 | 2450 | 1384 | 1066 | 1384 | -50 | 1016 | |||
A社 | 逆輸出 109 |
109 | 109 | 109 | 109 | 31 | 31 | |||||||
β社 | 仕入 993 |
993 | 逆輸出 182 |
182 | 1175 | 1175 | 1175 | -9 | -9 | |||||
X国 | 993 1066 |
1066 | 2059 1066 |
318 | 291 | 609 |
3734 | 2668 | 1066 | 609 |
-28 | 1038 | ||
国外 | [輸出] 341 |
341 | 販売 1189 |
1189 | 1530 | 341 | 1189 | 341 | -97 | 1092 | ||||
B社 | 納品 1189 |
1189 | 1189 | 1189 | 1189 | 0 | 0 | |||||||
α社 | 輸出 140 |
輸出 100 |
240 | 仕入 1115 |
1115 | 1355 | 1355 | 1355 | 125 | 125 | ||||
Y国 | 341 | 140 | 100 | 581 |
1115 | 1189 | 1189 | 2304 1189 |
4074 | 2885 | 1189 | 581 |
28 | 1217 |
売上高 | 2400 | 140 | 1166 | 3706 | 1433 | 1189 | 1480 | 4102 | 7808 | 0 | ||||
卸売高 | 1334 | 140 | 1166 | 2640 | 1433 | 1480 | 2913 | 5553 | ||||||
所得額 | 1016 | 31 | -9 | 1038 | 1092 | 0 | 125 | 1217 | 2255 | |||||
最終財 | 1066 | 1066 | 1189 | 1189 | 2255 | |||||||||
移出財 | 1334 | 140 | 1166 | 581 |
1433 | 1480 | 609 |
5553 1190 |
||||||
純移出 | -50 | 31 | -9 | -28 | 1092 | -1189 | 125 | 28 | 0 | |||||
生産額 | 1016 | 31 | -9 | 1038 | 1092 | 0 | 125 | 1217 | 2255 |
輸出額と輸入額として与えられた581と609という数字に合わせるために,差額として国内→国外[輸出]341,国外→国内[輸入]318の2つを図面上には見えない取引として追加します.β社の国内販売(1065.6)とB社の現地販売(1188.5)の末端価格は不明なので,仕入れ価格と同一としておきます.これで一応与えられた数字をすべて使った計算表ができました※.これをアレンジして「企業基準」によるマトリックスを書いてみます.α社はA社の子会社,β社はB社の子会社です.
※総輸出=∑移出財,総輸入=∑移入財とするとき,経済循環マトリックス計算では,移入財=仕入高-経費,移出財=∑卸売高-経費のように計算されるので,複数の経済単位を縮約して作った計算表(上表ではX国,Y国の行と列に該当)では,経済主体の合併によって「内部取引=経費」が増加するため,縮約前の総輸出/総輸入の値と縮約後の総輸出/総輸入の値は一致しない.今の場合,縮約前の値は総輸出=総輸入=5553,縮約後は1190に変化している.※⇒(移出財,移入財)のセル
この図面の下には国籍基準と企業基準で収支がどう変化するかを説明する式↓が掲載されています.
かなりややこしい式ですが,これで見ると,企業基準では輸出額は2523,輸入額は2499になるとされるので,輸出額-輸入額=24の黒字になると考えられます.国籍基準では-28の赤字だったので,貿易収支は24+28=52だけ「増加」していることが,+523億ドルという数字に現れています.(企業基準で算出した実際の貿易収支黒字額は240億ドルです)ともかく「企業基準」の計算表を出してみましょう.
国内 | A社 | α社 | X国 | 国外 | B社 | β社 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 損益 | 支出額 | |
国内 | 販売 1066 |
1066 | [輸出] 318 |
外商 1066 |
1384 | 2450 | 1384 | 1066 | 1384 | -50 | 1016 | |||
A社 | 逆輸出 109 |
109 | 109 | 109 | 109 | 31 | 31 | |||||||
α社 | 輸出 140 |
140 | 仕入 1115 |
輸出 100 |
1215 | 1355 | 1355 | 1355 | 125 | 125 | ||||
X国 | 1066 | 140 | 109 | 249 1066 |
1433 | 1166 | 2599 |
3914 | 2848 | 1066 | 2599 |
106 | 1172 | |
国外 | [輸入] 341 |
341 | 販売 1189 |
1189 | 1530 | 341 | 1189 | 341 | -97 | 1092 | ||||
B社 | 納品 1189 |
1189 | 1189 | 1189 | 1189 | 0 | 0 | |||||||
β社 | 仕入 993 |
逆輸出 182 |
1175 | 1175 | 1175 | 1175 | -9 | -9 | ||||||
Y国 | 1334 | 1371 | 2705 |
1189 | 1189 | 3894 | 2705 | 1189 | 2705 |
-106 | 1083 | |||
売上高 | 2400 | 140 | 1480 | 4020 | 1433 | 1189 | 1166 | 3788 | 7808 | 0 | ||||
卸売高 | 1334 | 140 | 1480 | 2954 | 1433 | 1166 | 2599 | 5553 | ||||||
所得額 | 1016 | 31 | 125 | 1172 | 1092 | 0 | -9 | 1083 | 2255 | |||||
最終財 | 1066 | 1066 | 1189 | 1189 | 2255 | |||||||||
移出財 | 1334 | 140 | 1480 | 2705 |
1433 | 1166 | 2599 |
5553 5304 |
||||||
純移出 | -50 | 31 | 125 | 106 | 1092 | -1189 | -9 | -106 | 0 | |||||
生産額 | 1016 | 31 | 125 | 1172 | 1092 | 0 | -9 | 1083 | 2255 |
米国の輸出が2705,輸入が2599で純輸出106となり,与えられた数値と一致しません.「総所得」などの縦横集計(複式簿記的な計算)はすべて一致しているので,計算自体には誤りはないはずですが,どこかで「図の解釈」を間違えているように思われます.輸出で+182,輸入で+100の差額が出ています.数値を突き合わせてみると,この差異はおそらく,α社→β社の逆輸出182,β社→α社の輸出100が関係しているように思われます.上に掲示した式の中では,どちらも輸入額から控除されている金額です.輸入額から控除されているということは,国籍基準では輸入項目だったということになるので,国籍基準の計算表でどうなっているのかを見てみましょう.
α社→β社182というのはおそらく,図の読み間違いと思われます.つまり,「在来外資企業の輸入(182.2)」というのは,α→βではなく,B社→β社と思われます.在米外資企業の輸出(▲100.0)というのも,「⇒」はα社のサークルに掛かっているように見えますが,真意はβ社→B社ということなのでしょう.これを修正してもう一度作り直してみます.ただし,これをやるとおそらく,輸出入の調整額も変化することになるので,もう一度一からやり直すしかなさそうです.いや,それは不用かも知れません.この修正を行っても,国籍基準の輸出入額には変化はないはずです.(「在来外資企業の輸入」と「在米外資企業の輸出」は国籍基準計算表ではどちらも「内部取引」になっているため)
国内 | A社 | α社 | X国 | 国外 | B社 | β社 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純消費 | 移入財 | 損益 | 支出額 | |
国内 | 販売 1066 |
1066 | [輸出] 318 |
外商 1066 |
1384 | 2450 | 1384 | 1066 | 1384 | -50 | 1016 | |||
A社 | 逆輸出 109 |
109 | 109 | 109 | 109 | 31 | 31 | |||||||
α社 | 輸出 140 |
140 | 仕入 1115 |
1115 | 1255 | 1255 | 1255 | 43 | 43 | |||||
X国 | 1066 | 140 | 109 | 249 1066 |
1433 | 1066 | 2499 |
3814 | 2748 | 1066 | 2499 |
24 | 1090 | |
国外 | [輸入] 341 |
341 | 販売 1189 |
1189 | 1530 | 341 | 1189 | 341 | -97 | 1092 | ||||
B社 | 納品 1189 |
1189 | 輸出 100 |
100 | 1289 | 1289 | 1289 | 82 | 82 | |||||
β社 | 仕入 993 |
993 | 逆輸出 182 |
182 | 1175 | 1175 | 1175 | -9 | -9 | |||||
Y国 | 1334 | 1189 | 2523 |
182 1189 |
100 | 282 1189 |
3994 | 2805 | 1189 | 2523 |
-24 | 1165 | ||
売上高 | 2400 | 140 | 1298 | 3838 | 1433 | 1371 | 1166 | 3970 | 7808 | 0 | ||||
卸売高 | 1334 | 140 | 1298 | 2772 | 1433 | 182 | 1166 | 2781 | 5553 | |||||
所得額 | 1016 | 31 | 43 | 1090 | 1092 | 82 | -9 | 1165 | 2255 | |||||
最終財 | 1066 | 1066 | 1189 | 1189 | 2255 | |||||||||
移出財 | 1334 | 140 | 1298 | 2523 |
1433 | 182 | 1166 | 2499 |
5553 5022 |
|||||
純移出 | -50 | 31 | 43 | 24 | 1092 | -1107 | -9 | -24 | 0 | |||||
生産額 | 1016 | 31 | 43 | 1090 | 1092 | 82 | -9 | 1165 | 2255 |
できました!X国の移出財=2523,移入財=2499で完全に上記に記載された数字と一致しています.これはほんの一例ですが,経済循環マトリックス計算により,国家,地域,政府,企業,個人,団体などあらゆる属性を持った経済主体とその集合からなる経済循環において,それぞれの経済単位の対外収支を完全に計算できる(場合によっては,不足するデータを補うことすらできる)ことが示されました.
ただし,ここまではすべて財貨の移転を伴う実体経済マトリックスにおける計算なので,これに金融取引(財貨の移転を伴わない純貨幣的取引)を加えなくてはなりません.
PS:経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14)
支払高=∑(行の全要素)=移入財+経費+純消費=仕入高+最終財
売上高=∑(列の全要素)=移出財+経費+最終財=卸売高+消費財
仕入高=∑(行の仕入)= 移入財+経費
卸売高=∑(列の仕入)=移出財+経費
所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高
純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)
純移出=移出財-移入財=卸売高-仕入高
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益
∑(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)
∑支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)=仕入高-経費
所得額=純支出=純生産(単位経済の三面等価原理)
総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)
総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
※現行のマトリックス計算では,純移出には仕入れ=中間財の移出入しか含まれていません.つまり,最終消費財の輸出入はこの計算からは除外されています.これを移出入に算入するために,純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加してみます(セル中の最終消費を意味する「純消費」とは異なるものです).∑消費財=∑最終財なので,∑純消費=0となります.これを使うと,損益=純移出+純消費となるので,仮に,純輸出=純移出+純消費とすれば,
∑損益=∑純輸出=0
が成立するため,財貨的ゼロサムゲームと貨幣的ゼロサムゲームの差異が消失し,貿易収支の赤字=損益の赤字という「伝統的解釈」と一致することになるので,確かにこの方が直感的であるような気もします.しかし,生産額と支出額の計数ではいずれ消費財・最終財を算出しなくてはならないので,最終消費・中間消費を区分することは,このマトリックス計算上不可欠であると判断されるため,最終的な結論は保留したいと思います.見通しとしては,「国際収支発展段階説」がヒントになるのではないか?という感触を得ています.
国際収支発展段階説では,国際経済循環が一種のゼロサムゲームであるということを認めた上で,それぞれの国が①未成熟の債務国,②成熟した債務国,③債務返済国,④未成熟の債権国,⑤成熟した債権国,⑥債権取り崩し国の各段階を経由するというものです.この説によれば,ブラジル,アルゼンチン,スペインなどは未成熟の債務国,イギリスや米国などは債権取り崩し国なのだそうです.
※クローサーは,「国際収支がゼロサムゲームであること」に気付いているとは思われるが,この理論を単純に適用すると,「奨学金借りたら人生こうなった」のような悲劇の再現で終わりそうな気もする…
前記したように,わたしはときに各経済主体を擬人化して見ることがあるので,それが幼児期から青年期を経て老年期に至るという説明は合点が行きます.ただし,老年期のあとには「死」しかないということではありません.人間の場合,次の世代を養育するのは親の義務であり,未来に対する投資と考えられますが,同様のことは国家や企業体についても言えるのではないでしょうか?(そのような国家の世代交代のようなものがあるとすれば,おそらくそれは何かしらの「政治変革」を伴うようなものになる可能性はあるかも知れません)
パートⅡ後書き (2022/05/20)
上記では「純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加」することによって,∑損益=∑純輸出=0が成立するような「移出入の古典的定義」に回帰することを提案しているが,最終的な結論は保留としている.しかし,常識的に考えても移出入(輸出入)から最終消費が除外されているというのはおかしいので,ここでもう一度再考してみたい.移出入から最終消費を除外すると,たとえば「インバウンド収入」が輸出にカウントされない,あるいは「地域外の電力会社に支払った電気料」が地域の生産物にカウントされてしまうなどの不都合がある.
「移出入から最終消費を除外する」ようになった経緯というのはよくわからないが,それでも計算上は整合し三面等価原理も成立しているので,主に「問題の複雑度を軽減する」という動機(手抜き)から採用された方式であるように思われる.以下では「経済循環マトリックスのルールブック」を大幅に改訂した「最終案」と呼べるものを提案する.最終消費を移出入に算入するために新たにいくつかの用語を追加した.また,語義的な混乱を避けるためいくつかの既存パラメータを以下のようにリネームしている.①新規→自家消費,②新規→純仕入れ,③新規→内需要,④新規→外需要,⑤新規→中間益,⑥新規→販売益,⑦経費→内部経費,⑧純消費→全消費,⑨移出財→中間財
この新しい定義に従って,上記の「米国の貿易収支」のマトリックスを書き換えてみよう.その前に,まず,用語の日本語定義を与えておく.
- 経済:経済とはある圏域において独立に取引を行う決定権ないし代表権を有する経済主体が相対で行う経済的取引の総体であるとする.ここでは「経済的取引」を通貨を媒介とする「貨幣的取引」に限定する.経済主体には,個人,企業,非営利団体,各種機関,政府・地方政府,およびそれらの集合を含むものとする.「経済主体の集合」には,家計,企業,銀行,地域,地方,国家,産業分類,職業分類など任意の区分に従う各種の「セクター」ないしその混合が含まれる.
- 経済循環グラフ:個別の経済主体をノードとし,取引(トランザクション)を枝(辺)とする重み付き有向グラフ(ネットワーク).有向グラフの枝の向きはつねに,通貨の移動方向とする 経済循環グラフはループ(自己取引)ないし多重枝(同時並行取引)を持つ場合がある.経済循環グラフはブロックチェーン(分散台帳)や中央銀行準備金口座台帳などの取引情報をベースに構築され,取引の全時間リアルタイム決済システムとして機能することを予定する.経済循環グラフ上の取引はすべて「貨幣的取引」であると仮定する.財貨の無償提供などの非貨幣的取引は,①代価1円(最小貨幣単位)の取引とみなすか,ないし,財貨の受け渡しに先行して,財貨の提供者が財貨相応の通貨を財貨受領者に給与し,受領者はその通貨をもって財貨を購買するという「擬似貨幣的取引」として扱うことにしてもよい.
- 経済循環マトリックス:経済循環グラフの接続行列として表現された計算表 参加メンバー(経済主体)数をNとするとき,N x N の2次元正方行列(マトリックス)として構成される.マトリックスの1個の「セル」は経済循環グラフの1個の枝(トランザクション)に相当する.経済循環マトリックスの主な目的は国民総生産統計などの経済循環統計を計算することにある.このためには,すべての取引が①仕入れ,②最終消費(純消費)のいずれかに区分されなくてはならない.内部経済において生産・サービス提供のために消費されたコスト(経費)は①仕入れに区分される.経済循環マトリックス上の通貨移動は,つねに最左列のノード(経済主体)から最上行のノードに向かうものとする.
- 経済循環マトリックスの圧縮と縮約:経済循環マトリックス上のデータを加工して所望の計算結果を得るための手法として,マトリックスの圧縮と縮約が用いられる.ある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを時間軸で合併する操作を「圧縮」,空間軸で合併する操作を「縮約」と呼ぶ 経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作,経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを合併して1つのノードにまとめる操作である.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列とB列のセル値を合算してC列とし,ついでA行とB行のセル値を合算してC行を生成する.縮約によって外部取引が内部取引になる場合もある.
- 実体経済と金融経済:経済循環マトリックスを取引の様態によって,(1)実体経済循環マトリックスと(2)金融経済循環マトリックスに大別する.(1)には「財貨の移動を伴う取引」が含まれ,財貨の移動を伴わない「純貨幣的取引」は(2)金融経済循環マトリックスで扱う.
- 集計項目:経済循環計算を実施するために,マトリックスに以下のような集計項目を追加する.以下では,ある経済主体の内部で完結する取引を内部経済,それ以外の取引を外部経済(対外取引)と呼ぶ.
- 内部経費:該ノードの生産活動の内部コスト(給与など)
- 自家消費:該ノードが生産し自ら消費した最終消費財(純消費)
- 純仕入:該ノードが外部経済から購入した中間財(仕入れ)
- 内需要:該ノードが外部経済から購入・消費した最終財(純消費)
- 輸入財:該ノードが外部経済から購入した財貨の総額
- 全消費:該ノードが最終消費した財貨の総額(純消費)
- 仕入高:該ノードが購入した内部経費を含む中間財の総額(仕入れ)
- 支払高:該ノードが購入・消費した自家取引を含む財貨の総額
- 中間財:該ノードが生産し外部経済が購入した中間財(仕入れ)
- 外需要:該ノードが生産し外部経済が消費した最終財(純消費)
- 輸出財:該ノードが生産し外部経済が購入した財貨の総額
- 最終財:該ノードが生産した最終消費財の総額(純消費)
- 卸売高:該ノードが生産した内部経費を含む中間財の総額(仕入れ)
- 売上高:該ノードが生産した自家取引を含む財貨の総額
- 中間益:該ノードによる中間財の売買における利得(仕入れ)
- 純輸出:該ノードの輸出入(対外取引)財貨の差額
- 販売益:該ノードによる最終財の売買における利得(純消費)
- 所得額:該ノードの経済活動により増加した付加価値の総額
- 生産額:該ノードが生産した財貨の総額
- 支出額:該ノードが最終消費した財貨の総額+損益
- 損益:該ノードの対外取引による最終利得(帳尻)
※内需要・外需要は通常の内需(国内需要)・外需(海外需要,財貨・サービスの輸出)とは微妙に異なる意味で使われていることに注意.また,ここでは個人対個人の場合を含めて,すべての対外取引に「輸出入」という用語を割り当てている.この結果,純輸出=損益となる.
前出の「米国の貿易収支」サンプルに「最終案」を適用して,その妥当性を検証してみよう.以下のマトリックスでは「仕入れ」を青字,「最終消費(純消費)」を赤字で表示する.下表は「国籍基準」のマトリックスで,X国は,{ 国内,A社,α社 }を合体(縮約)したもの,Y国は{ 国外,B社,β社 }の合体(縮約)である.対角線上の自己取引セルはピンクで塗り潰した.
国内 | A社 | α社 | X国 | 国外 | B社 | β社 | Y国 | 支払高 | 仕入高 | 純仕入 | 輸入財 | 全消費 | 損益 | 支出額 | |
国内 | 販売 1066 |
1066 |
輸出 318 |
外商 1066 |
1384 | 2450 | 1384 | 1384 | 1384 | 1066 | -50 | 1016 | |||
A社 | 逆輸出 109 |
109 | 109 | 109 | 109 | 109 | 31 | 31 | |||||||
α社 | 輸出 140 |
140 | 仕入 1115 |
1115 | 1255 | 1255 | 1255 | 1255 | 43 | 43 | |||||
X国 | 1066 | 140 | 109 | 249 1066 |
1433 | 1066 | 2499 |
3814 | 2748 | (2748) 2499 |
(2748) 2499 |
1066 | 24 | 1090 | |
国外 | 輸入 341 |
341 | 販売 1189 |
1189 | 1530 | 341 | 341 | 1530 | 1189 | -97 | 1092 | ||||
B社 | 納品 1189 |
1189 | 輸出 100 |
100 | 1289 | 1289 | 1289 | 1289 | 82 | 82 | |||||
β社 | 仕入 993 |
993 | 輸出 182 |
182 | 1175 | 1175 | 1175 | 1175 | -9 | -9 | |||||
Y国 | 1334 | 1189 | 2523 | 182 1189 |
100 | 282 1189 |
3994 | 2805 | (2805) 2523 |
2523 | 1189 | -24 | 1165 | ||
売上高 | 2400 | 140 | 1298 | 3838 | 1433 | 1371 | 1166 | 3970 | 7808 |
||||||
卸売高 | 1334 | 140 | 1298 | 2772 | 1433 | 182 | 1166 | 2781 | 5553 | ||||||
中間財 | 1334 | 140 | 1298 | (2772) 2523 |
1433 | 182 | 1166 | (2781) 2499 |
(5553) 5022 |
||||||
輸出財 | 1334 | 140 | 1298 | (2772) 2523 |
1433 | 1371 | 1166 | (3970) 2499 |
(6742) 5022 |
||||||
最終財 | 1066 | 1066 | 1189 | 1189 |
2255 | ||||||||||
純輸出 | -50 | 31 | 43 | 24 | -97 | 82 | -9 | -24 | 0 | ||||||
所得額 | 1016 | 31 | 43 | 1090 | 1092 | 82 | -9 | 1165 | 2255 | ||||||
中間+ 最終財 |
2400 | 140 | 1298 | (3838) 3589 |
1433 | 1371 | 1166 | (3970) 3688 |
|||||||
生産額 | 1016 | 31 | 43 | 1090 | 1092 | 82 | -9 | 1165 | 2255 |
上掲のマトリックスで黄色で塗り潰したセルはそのセルでクロスする行と列のトータルが一致していることを示している.これは,下記ルールブックで①∑(支払高)=∑(売上高),②∑(卸売高)=∑(仕入高),③∑(中間財)=∑(純仕入),④∑(輸出財)=∑(輸入財),⑤∑(損益)=∑(純輸出)=0としているところと照応する.緑色で塗り潰したセルは「総体経済の四面等価原理」の成立を示すもので,総支出=総所得=総生産=総消費が完全に一致していることが看て取れる.
支出額,所得額,生産額を集計した各行,各列のフィールドは個別ノードごとにそれぞれ完全に一致している.これは「単体経済の三面等価原理」が成立していることを示している.濃いグレーで塗り潰された行と列(X国・Y国)はこれらのノードが複数の単体経済の「縮約」であることを意味する.このような「ノードの縮約」によって,「対外取引」が「内部経済」に転化することによって影響を受ける項目には背景色として薄いグレーを用いている.このような項目には,①純仕入,②輸入財,③中間財,④輸出財がある.⑤中間+最終財は計算上の便宜を図るために導入された作業用パラメータである.
これらの項目ではそれぞれの取引が「対外取引」であるのか,「自己取引(内部経済)」であるのをチェックしなくてはならないので,集計はやや厄介なものになるが,自動計算は可能である.これら以外の項目では集計は単純な「加算」のみで完全に整合的な計算を実施できる.これらの「圏域に依存するタイプの集計項目」では,参考値として集約計算前の「原マトリックス」上での集計値を「(,)」で括って示した.
上記したようにすべての集計行と集計列はそれぞれに対応する項目を持ち,それぞれの集計値は完全に一致する.この水平計算と垂直計算が一致するという経済循環マトリックス計算の性格は,この計算方式が「複式簿記」という会計計算法の「拡張」となっていることの証左である.三面等価原理が個別ノードについて成立していることから鑑みると,「複式簿記」が2次元の平面計算であるとすれば,3次元の立体計算になっていると言ってよいのではないだろうか?
経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/20) 内部経費=対角セルの仕入れ 自家消費=対角セルの純消費 純仕入=∑(行の対外仕入れ) 内需要=∑(行の対外純消費) 輸入財=∑(行の対外支払い) =∑(行の対外仕入れ)+∑(行の対外純消費) =純仕入+内需要 全消費=∑(行の純消費)=内需要+自家消費 仕入高=∑(行の仕入れ)= 純仕入+内部経費 支払高=∑(行の全要素)=仕入高+全消費 中間財=∑(列の対外仕入れ) 外需要=∑(列の対外純消費) 輸出財=∑(列の対外売上げ) =∑(列の対外仕入れ)+∑(列の対外純消費) =中間財+外需要 最終財=∑(列の純消費)=外需要+自家消費 卸売高=∑(列の仕入れ)=中間財+内部経費 売上高=∑(列の全要素)=卸売高+最終財 中間益=中間財-純仕入=卸売高-仕入高 純輸出=輸出財-輸入財 =(中間財+外需要)-(純仕入+内需要) =(中間財-純仕入)+(外需要-内需要) =中間益+販売益 販売益=最終財-全消費=外需要-内需要 =純輸出-中間益 所得額=売上高-仕入高 =(中間財+内部経費+最終財)ー(純仕入+内部経費) =中間財-純仕入+最終財=中間益+最終財 損益=売上高-支払高=(卸売高+最終財)-(仕入高+全消費) =(中間財+内部経費+最終財)-(純仕入+内部経費+全消費) =中間益+販売益=純輸出 生産額=最終財+中間財-純仕入 =最終財+(中間財+内部経費)-(純仕入+内部経費) =最終財+卸売高-仕入高=最終財+中間益=所得額 支出額=全消費+損益 =全消費+(卸売高+最終財)-(仕入高+全消費) =最終財+卸売高-仕入高=最終財+中間益=所得額 ∴所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理) ∑(損益)=∑(純輸出)=0(経済循環的ゼロサムゲーム) ∑(支払高)=∑(売上高) ∑(卸売高)=∑(仕入高) ∑(中間財)=∑(純仕入) ∑(輸出財)=∑(輸入財) 総生産=∑(生産額) 総所得=∑(所得額) 総支出=∑(支出額) 総消費=∑(全消費)=∑(最終財) =∑(支払高-仕入高) =∑(支払高-(売上高-所得額)) =∑(所得額-(売上高-支払高)) =∑(所得額-損益) =∑所得額-∑損益=総所得 ∴総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)
エコロジカルに持続可能な経済循環系グラフ
経済循環系グラフと経済循環マトリックス
パートI エコロジカルに持続可能な経済循環系グラフ
パートII 実体経済循環 / 金融経済循環マトリックス
パートIII 国際的 / 宗教的 / 環境的経済循環マトリックス
2021/05/09 20:06
下田さん
こんにちは.馬場英治と申します.75歳の老プログラマです.
再生リストで全編を視聴させて頂きました.よく整理されたとても分かり易い動画だと思います.Youtubedeで「みんなのお金 その4 万年筆マネー」の下にコメントを付けてみましたが,PCで読めなくなっているのでこちらに転記します.
シズカちゃん冴えてますね~ 「万年筆マネーなら銀行は貸したお金が回収できなくても損はしませんね?!」 ハカセはなんとかこれに受け答えしていますが,もし「現金」が廃止されれば(全国民が中央銀行に当座預金を持つ場合)それも起こり得ると考えなくてはなりません.つまり,この議論の延長には「準備率ゼロ%」もあり得るということが想定されます.イクシマさんの言う「貨幣は消滅する」とはこのことを言うのでしょう.
「準備率ゼロ%」なんてあり得ないと思われるかもしれませんが,昨今の「ポイントシステム」の乱立などを見ているとあながち荒唐無稽な話ではないような気がします.聞くところによると「給与をポイントシステムに直接振り込む」ことが公的に認められたとか…労働関係法規には「賃金は現金で支給されなくてはならない」という規定がどこかにあったような気がするのですが…「準備率ゼロ%」とは貨幣発行の裏付けとなる物的裏付け(担保)は一切不要という究極の場合ですが,政府が貨幣を無制限に発行できるようになるとすれば,それもまた「準備率ゼロ%」の一形態になるような気も致します.
盛り上がっているバンドワゴンの列に水を掛けるつもりは毛頭ありません…ちなみにわたしは「部分準備銀行システム」は「複式帳簿」や「株式会社」などと同様,人類史上の経済的大発明(傑作)の一つに数えられるべきではないかと思っています.
株式会社馬場研究所
馬場英治
babalabos@gmail.com
2021/05/09 23:58
下田さま
ご返信ありがとうございます.前に下田さんも書いておられますが,わたしの投稿も自分のところに戻ってきません.ご返事頂いたので公開されていることは確認できましたが…
2つご質問※頂きましたがどちらも,YESです.この場合,それでは,銀行Aから銀行Bへの送金はどうなるのか?という疑問が湧いてきます.たとえば,銀行Aの個人口座aに銀行Bの個人口座bから振り込むような場合です.準備率ゼロですから,銀行間の準備預金の移動は発生せず,単に口座aに口座bから送金された金額が追加されるだけ(口座aとbの残高を書き換えるだけ)になると思います.明らかに無茶な手順のように思われますが,これが準備率ゼロの意味ではないでしょうか?もし,仮にこのようなシステムが実稼働することがあり得るとすれば,それは「100%の信用」の上で運用されるものとなります.
※2つご質問:⇒ ①「準備預金」を準備する主体は「市中銀行」と考えているのか?,②「準備率ゼロ%」とは,市中銀行が好きなだけ「要求払い預金(負債)」を発行できる状態と考えているのか?
そんなことはあり得ないと思われるかもしれませんが,実際の「信用システム」は(皮を剥ぎ取って見れば)このような「信用」の上に成り立っているとも言えます.わたしはこの命題を「背理」ないし「逆理」として提示しているつもりですが,逆に「100%信用」という世界が存在することを仮想することも不可能ではありません.現実的には,イクシマさんがしばしば言及される「信用スコア」というようなものが必要になってくるのかもしれませんが…
これは個人の信用だけでなく,銀行の信用という問題でもありますが,仮にそのようなシステムが成立したとしてもそれがディストピアを招来するものではないと約束できるものではありません.(たとえば,その100%信用システムから排除された人間は生きるすべを失うことになるでしょう…)この意味で下田さんが後半部で「市場」ということを強調されているのは理解できます.
馬場英治
PS:下田さまの個人メアド宛に送信してしまったので,再送します.
2021/05/10 17:01
下田さん,生島さん
返信ありがとうございます.この件※に関しては追って(後日)ということでご了承ください.
※この件:⇒ 「次々回くらいの公共貨幣オンラインセミナーで準備率をテーマに問題提起してみないか」というお申し出の件
馬場英治
2021/05/12 23:50
下田さま
準備率ゼロ%というシステムが現実にあり得るのかどうかはわたしにもよく分かりませんが,一種の「思考実験」と捉えて頂ければ幸いです.わたしはプログラマーですが,プログラミングの世界に「限界テスト」というのがあります.限界テストというのは負荷テストの一種で「テストデータの許容範囲(上限ないし下限)」で正しく動作するかどうかを検証するテストです.通常データが許容範囲内に収まっている場合には,システムはノーマルな挙動を示すと考えられますが,このテストを怠るとかなり厄介なことが起こる可能性もあります.つまり,許容範囲の上・下限近くでは予測不能の動作になることがしばしばあります.
法定準備率の範囲を100≧準備率≧0としたときの上限は100%,下限は0%です.このとき,「法定準備率の範囲が100>準備率>0のときには部分準備銀行システムは概ねノーマルに動作する」ということでよろしいでしょうか?準備率が100%の近傍に近づいたときの挙動というのはまだ解析できていませんが,少なくとも大なり小なりの「信用創造」が可能であることは確実です.また,準備率100%のときには「諸悪の根源である信用創造」の息の根を止めることができるのも確かです.
下田さんを始めとして多くの公共貨幣論者は「準備率を100%にすればすべての問題は解決する」と唱えておられます.準備率100%というのは,法貨以外は通貨として認めない,つまり,銀行マネーを駆逐して発券銀行マネーに統一するということを意味すると考えられますので,銀行システムを廃絶することと等価になるように思われます.いや,そうじゃないよ.投資銀行と預金銀行を分離するんだ,ないし,預金口座と投資口座を区分すればよいというご意見であるのかもしれませんが,それでは結局元の木阿弥になってしまうのではないでしょうか?実質,1000万円までの預金は保護するという現行方式,ないしグラス・スティーガル法などの考え方と大差ないのではないかという気がします.
私自身にはこのあたりの議論にやや「ついていけない部分があります」が,この疑問に取り組む前に,まず100%という極の反対側にある[準備率]ゼロ%というところから考えてみたいというのがこの設問を設定した動機です.このような極限における相転移はいろいろな場面で見られます.たとえば,国債は国の負債ですが償還期限と利子率を操作してその極を考えれば,無期限無利子国債のようなものを考えることができます.このとき,この国債は政府貨幣(現金)とほぼ等価なものになるでしょう.同様に株式会社が発行する債務証書である株式は償還不要の負債と考えられるので見方を変えれば(私製)貨幣の発行とみなすこともできます.(渡辺穣二さんの「資本通貨」という概念はこの辺りから来ているのではないかと拝察しています)
2021/05/13 23:49
下田さま 丁寧なご応答ありがとうございます.わたしのざっくりとしたというより,やや乱暴な議論にお付き合い頂き,まことに恐縮です.3点※のそれぞれについてのご趣旨はよく理解できましたが,もう少し深堀りしてみたいと思います.
※3点:⇒ (1)準備率100%(信用創造の廃止)は「銀行システムの廃止」と等価⇒「銀行システム」=「信用創造による貨幣発行」と見るなら等価だが,「銀行そのもの」の廃止にはならない(金融仲介機能と決済機能は残る).(2)無利子永久国債は、政府貨幣(現金)とほぼ等価⇒政府貨幣は政府の純資産(貨幣発行益)であり,国債はたとえ無利子無期限であっても負債であることには変わりはない.信用創造を廃止するかどうかが問題.(3)株式発行は、(私製)貨幣の発行とみなすことができる⇒株式発行は通用する貨幣量を増やさないから,貨幣ではない.貨幣としての「一般受容性」と「転々流通性」を欠いている.
当面の議論は中央銀行がホールセール型のデジタル通貨を発行するというモデル上で考えてみます.中銀当座預金にはCBDCが格納されているものとします.この場合には流通通貨は法貨だけとなるので,決済はつねに法貨をもって実施されることになりますから,実質的には銀行の三機能のうちの「決済機能」も自然消滅するとみることができます.(すべての国民が中央銀行に当座預金口座を持つようになれば当然そうなりますが,そうでない場合でもたとえばソラミツのような決済専門サービスが銀行に取って代わるでしょう.わたしは以前どこかでゆうちょ銀行をそのような「決済銀行」に仕立てることを提案したことがあります.)
最後に残る「金融仲介機能」というのがおそらく,準備率100%論で言う,(元本を保証しない)投資口座ないし投資銀行に該当するのではないかと思いますが,よろしいでしょうか?ここで,たとえばAがBから債権M1を買ったとします.通貨はAの口座からBに移動しますが,通貨の総量には変化がありません.Bはこのお金でCから同額の債権M2を購入します.お金はA→ B→ C→…と転々するので通貨の総量には変化がありませんが,発行債券の総額はM1+M2+…のように増加してゆきます.これはわたしの目には「実質的な」信用創造であるように見えます.落語に「饅頭怖い」という話がありますが,それとやや類似した現象です.有価証券は「貨幣」そのものではありませんが,「貯蔵性」があり,市場を介してではありますが「流通性」も有します(広義流動性).
マルクス資本論の剰余価値説では産業資本において生産過程の労働量は,労働者の生活に必要とする労働(必要労働)と,それを超える剰余労働(不払労働)から構成され,この剰余労働によって生み出された価値が剰余価値であるとし,これが資本家の取り分となることを以って不当にも労働者からの不当な搾取であるとしていますが,クリフォード・ダグラスが指摘したようにこの説には不備があります.もし,生産価値が生産された商品の価格として表示されるとすれば,労働者の賃金ではそれを全量買い取ることが不可能だからです.あ,下田さんは「ダグラス説は誤り」であるというポジションでしたね.
ダグラスの名前はエズラ・パウンドとのつながりで知ったのですが,確かにイタリア・ファシスト政権の経済政策の理論的支柱であった訳ですから,異端と言えば異端であると言えます.しかし,現在の経済環境などを見るとかなりよく妥当するところもあるように思われます.実際,住宅や車のローン,クレジットなどの金融システムがなければ現在の経済システムは成立しないのではないでしょうか?だとすれば,これはまさにA+B理論がかなりの程度妥当することの例証と言えませんか?この意味でダグラス説を正とする立場,誤とする立場のいずれにも理はあるのではないかという気がします.
産業資本家の利得がどこから来るのかは,ダグラスのA+B理論からは分かりませんが,少なくともビル・ゲイツの資産がどこから来たものであるかははっきり分かります.彼はわたしと同様大学中退者でプログラマですが,わたしと似ているというのはそこまでです(爆)彼は本業のソフトウェア開発でも成功していますが,それは事業としては「ほぼ」まっとうなものだった(あこぎなことはしていない)と言ってよいと思います.彼の途方もない資産はすべて株式などの金融資産です.この実物経済と金融経済のアンバランスが最大の問題であると認識しています.
三木さんからの又引きですが,ダグラスは「現在の価格システム自体が生み出す需給ギャップ(商品の価格の中に購買力が価格として含まれるために常に生産される総商品価格よりも購買力が少なくなるという原理的なギャップ)が生まれる。そのギャップを現在は、債務貨幣制度によって銀行が貨幣を恣意的に作ることで埋めている。それによって経済のみならず社会全体の銀行の支配が進んでいる。」と述べています.商品の価格は一般に需要と供給のバランスによって決定するとされていますが,需要=購買力は流通貨幣量にも影響されます.
公共貨幣論でわたしがもっとも危惧していることは,(原理的に)制約のない貨幣(公共貨幣)の発行が価格に及ぼす影響です.つまり,恣意的な価格変動(価格の吊り上げ)により富[貨幣的価値]の偏在が発生する可能性があります.リーマンショックの引き金となったリーマン・ブラザーズの負債総額は64兆円に上るということですが,シズカちゃんの素朴な疑問にポジティブに応えるためには「この巨額債権を棒引きしても実物経済に影響しない」ことを証明しなくてはなりません※.そんなことできるのでしょうか?
※「万年筆マネーなら回収できなくても銀行は損しませんね!」→もちろん,金額がいくら大きくても大丈夫→ただし,銀行間の取引では準備金が移動するため連鎖反応が発生する可能性があるので,そこのところを調べる必要があります→「実物経済」と「金融経済」を完全に「デカップリング」できれば,「実物経済には影響しない」と言えます.
2021/05/14 12:31
誤:饅頭怖い
正:二人の饅頭屋が登場する落語,演題不明
ネット中探しまくりましたが,(この落語についての記事が)見つかりません.すでに廃れてしまったのでしょうか?だとしたら,若い方などにはまったく知られていない話ということになりますね.これは古典落語の中でも最高傑作と呼ばれるべきものです.「まんじゅうこわい」はまったく別の他愛もない話です.かいつまんであらすじを述べます.
登場人物:二人の饅頭屋
あらすじ:朝,行商に出かけた饅頭屋Aが一日足を棒のように歩いても1個も売れず,くたくたになって道で休んでいるともう一人の饅頭屋Bも同じように売れ残りの饅頭を担いでやってきて隣に座った.Aが「腹減った,一つ饅頭を売ってくれ」と言ってBに一粒の硬貨(仮に5厘とする)を渡し,受け取った饅頭をその場でむしゃむしゃ食べた.それを見ていたBは「俺にもひとつくれ」と言って手の中の5厘玉をAに渡して饅頭1個をむさぶるように食べた.「おう,それならもうひとつ」と言ってAはBに5厘玉を渡してもう1個食べた.それからは二人とも無我夢中で,「もう一つ」,「もう一つ」と言いながらあっと言う間に全部の饅頭を食べきってしまった.ようやく二人は立ち上がり「今日はよく売れたな.よかった,よかった」と軽くなった荷物を担いで帰りましたとさ.
この話は経済学的に見てとても深い含蓄を含んでいるように思われます(たとえば株式の持ち合い構造など).もしこの落語作家が落語を書くのではなく,経済論文としてこれを発表していたら,間違いなくノーベル経済学賞を授与されていたことでしょう.
B.A.
2021/05/15 0:41
生島さん
おもしろいお話※ありがとうございます.ちょうど「自給自足経済」のことを考えていました.饅頭を客に売るというのはそれ自体は単純な商行為ですが,「取引」が「循環」しているためにかなり奇妙な話になっています.しかし,問題は「循環」にあるのではなく,その取引が「相対」であるというところがポイントです.当事者が3以上であれば通常の経済行為と考えられます(三角貿易など…).経済というのは貨幣循環ですから,その中にはつねに無数の循環経路が存在します.つまり,当事者数>0として,当事者数=2という特殊な場合に限ってある種の相転移が起こっているように思われます.(いや,違うかもしれません.これは単純に饅頭屋が饅頭を買うという行為の自己矛盾ですか?)
※おもしろいお話:ある米作農家が、500kgの米を収穫し、そのうち400kgを出荷して、残り100kgを家族で消費した。この農家が作り出した付加価値は500kgと考え、家族分100kgにも価格があるものと仮定して付加価値額を算出する。(自給自足も経済活動)GDPを大きく見せるためには自家消費をカウントしたほうがいいが、食糧自給率を少なく見せるためには自家消費をカウントしないほうがいい。
株式の持ち合いの場合,A社とB社が互いに同額Mの株を発行してそれを購入したとすれば(行って来いになりますから)現金を1円も動かすことなくM円の資産を持つことになります.(この株式持ち合いというのは日本企業の強力な防具だったのですが…)当事者数=1なら自給自足経済です.ダグラスのA+B式に戻りましょう.
商品価格=A+B
A=賃金、給与、配当によって個人に支払われるもの。
B=機械・原料の買入れや銀行からの借入れに対する利子支払い等々で、他の組織体に支払われるもの。
ダグラスは「Bは購買力を形成しないので,生産物全量をAのみによって購買することは不可能であるから,このような経済は成立しない」としていますが,「いや,Bも購買力を形成する」というのが下田さんのご主張です.[この点に関しては同意します.]また,「貯蓄に回されるマネーがゼロだった場合にも、同様の差異は発生する」というダグラスの言を引いておられますが,もし,そう書いてあったとすれば多分それはダグラスの誤りだと思います※.
※後出するダグラスのA+B等式の暫定修正版で左辺の資本/負債増分には,当然生産財ないし資本財が含まれる.右辺の消費に向けられる資本家利得(の一部ないし大部分)は当然これらの財の購入に向かっているものと推定されるので,C:貯蔵貨幣がないとすれば,等式が成立すると考えても矛盾はない.ダグラスの本意は,C:貯蔵貨幣の源泉が金融資本による信用創造にあると考えたところにあるのではないだろうか?
ダグラスの主張は金融資本の存在を前提とします.たとえば,産業革命以前の経済では明らかに等式は成立しています.
全収穫物=A:小作人労働(生計のための取り前)+B:大地主不労所得(現物納付農産物)
すでに貨幣経済に入っているとすれば,農産物の一部は貨幣と交換されるかもしれませんが,大枠は変わりません.マルクスの剰余価値説もまったく同じ構成です.
生産過程の労働量=A:必要労働(労働者の賃金)+B:剰余労働(資本家の利得)
上式は,生産がすべて商品生産であり,資本家の利得がすべて消費に向けられない限り成立しません.ある程度商工業が発達した段階,たとえばフランス革命前期なら,富裕層向けの金銀宝飾品その他の贅沢品を消費することで等式が成立するかも知れませんが,産業革命後の「工業生産の時代」は基本的に大衆向け製品の大量生産ですから,富裕層がそれらを買い切ることはできず,金銀宝飾品に代えて貯蔵性のある貨幣を取得することが産業資本家の経済活動の主たる目的になります.従って上式は以下のように書き換えられなくてはなりません.
全商品価格=A:労働者の賃金+B:消費に向けられる資本家利得+C:貯蔵貨幣
しかし,全商品価格はA+Bより大きくすることはできないので,Cがゼロでない限りこの式は成立しません.このC:貯蔵貨幣がどこからもたらされたものであるのかが問題です.ここでは暫定解として,以下の式を提示しておきます.
全商品価格+資本/負債増分 =A:労働者賃金+B:資本家利得(消費分)+C:貯蔵貨幣
この式の解釈は後日として,ダグラスの等式[産業革命以前の経済]からB項を取り除くと,下記のような自給自足経済になります.
全収得物 = 部族の狩猟・採集活動
アイヌ,インディアン,遊牧民などに見られる原始共産経済等式です.この式を見れば穀物生産の開始とクニの成立がなぜ同時期に発生するのかという理由が分かります.少なくともマルクスの考察から金融資本の存在が完全に抜け落ちていることは明らかです.これに対し,ダグラスの関心はストレートに金融資本の存在とその不条理に向けられています.ダグラスの式に照らしてみたとき,マルクスの論説が産業革命以前の経済状態にしか対応していないとすれば,共産革命がなぜ先進工業国では不発に終わり,むしろロシア・中国のような後進農業国で発生したのかという疑問も解けるかも知れません.
2021/05/15 21:29
下田さま
どうも,「ここまで噛み砕いて話しているのに…」という徒労感を感じておられるのではないかと懸念しております.元々,シズカちゃんのウィットに富む質問にからめて,一つジョークでも飛ばしてみようかなというところから始まっておりますので,あしからずご了承ください.逐条的なレビューを頂いておりますが,要点のみピックアップしてコメントを試みます.
(1)銀行の「決済機能」:決済手数料の低廉化(それによる銀行の利益率の低下)は、早晩避けられない⇒銀行貸出減少の現況下で,手数料は無視できない銀行の収入源泉になっています.日銀は各国中銀の動向を睨みながらCBDCの導入に重い腰を上げてきたように見えますが,CBDCは法貨となるものですから,24時間即時無料決済(ファイナリティ)が要求されます(電子化するというだけなら,既存システムで間に合います.単に日銀当座預金をこれはCBDCであると宣言することで足ります.厳密には準備率100%でなくてはなりませんが…).
(2)既存貨幣の流通過程で有価証券が増えたとしても、貨幣が増えたことにならず、したがって、それは「信用創造」を意味しません。日銀が、マネーストックに広義流動性を含めているのは問題があります。⇒わたしは,有価証券が貨幣であるとは申しておりませんが,確かに日銀は金融債,社債,金銭信託など「広義流動性」の発行元を「通貨の発行主体」としていますね.
お金で饅頭は買えても、饅頭でお金は買えないということです。⇒饅頭とお金を交換することができれば,お金と饅頭を交換することもできますが…
(3)マルクスの労働価値説の問題⇒価値と価格を混同されているように感じます.値段が付かなくてもその生産物の「価値」が損なわれる訳ではありません.
ダグラスのA+B理論:「購買力を構成するものは賃金だけではない」という現実をうまく説明できていないと思います。⇒ダグラスの説明が不十分であることは認めます.暫定的に,
全商品価格+資本/負債増分=A:労働者の賃金+B:消費に向けられる資本家利得+C:貯蔵貨幣
という式を考えてみました.所得格差拡大の真因はこの「貯蔵貨幣」にあるのではないかという感触を得ています.
これを、私は「みんなのお金」シリーズのなかで「妖怪マネー」と呼びました。⇒共産党宣言の冒頭の一フレーズが想い出されます.曰く「妖怪がヨーロッパを徘徊している.共産主義という妖怪である.」
(4)(これまでの異次元緩和がほとんど物価上昇効果を持たなかったのは、増加した貨幣が比較的貧困層には行きわたらずに、比較的富裕層に偏在したためだと推測されます。)⇒[その通りですね!]マネタリストの「貨幣数量説」は理論的にすでに完全に破綻しました.
(5)「明示的な財政ファイナンス」やいわゆる「政府紙幣の発行」にたして、「節度のない貨幣発行によって悪性のインフレを招く」という懸念が長年に渡り示され続けてきましたが、その懸念は、現行の「隠然たる財政ファイナンス」に対しても同様に示されるべきものです。⇒ もちろんです.しかし,同時に「隠然たる財政ファイナンス」に対する「懸念」はそのまま「明示的な財政ファイナンス」への懸念として残ります.わたしはむしろこちらの側の「懸念」を心配しています.すでに「隠然たる財政ファイナンス」と「明示的な財政ファイナンス」の間は隆起して地続きになり徒歩で渡れるようになっていますが,「地獄への道はつねに善意で敷き詰められている」とも言われます.
市場原理に貨幣発行の制約を求める考えはすでに破綻しています、むしろ、権力分立に基く民主主義的でオープンな貨幣発行量の決定に貨幣発行の制約を求めるべきものと思います。⇒最大の問題は「市場原理」を放棄したとき,どのようなプロセスで「価格」が決定されるのか(できるのか)?という点にあります.これを実現する最短路は「国家資本主義」ないし「国家社会主義」となるのではありませんか?
(6)下記のおっしゃる意味が理解できないので、コメントできません。もう少し詳しくご説明いただけたら幸いです。⇒「万年筆マネーなら貸し倒れしても損はしませんよね(全部紙に書いた数字でしょ?)」という問に「イエス」と答えるには,リーマン・ブラザーズの負債総額64兆円を棒引きしても世界は崩壊しないということを示さなくてはなりません.しかし,そのためにはもう少し準備が必要です.
2021/05/16 22:21
馬場英治です.長文コメントありがとうございます.
マルクスの「労働時間」という用語に躓いておられるのではないでしょうか?労働者=人間,労働時間=時間=生命,生産=生命活動のように読み替えると多少マルクスの真意に近くなるのではないかと思います※.ただし,その人間としての活動を商品として売り渡してしまうしかないところに労働者の悲哀があります…これは現象的には,極貧の中で描かれた絵画が死後途方もない価格で売買されるなどと同曲の話です.クリエイターとかミュージシャンなどの場合も同じです.しかし,これはこの世が分業社会である以上ある程度避けられない面もあります.
※下田氏は「いくら大量の労働をつぎ込んだとしても、買い手がつかなければその価値が実現しない」ことを以って「労働価値説の問題」とされている.「労働(時間)」を「商品」として売り渡すしかないことは現実であり,「工場の機械」は「安く使える労働者」だが,「工場」や「機械」を含むすべての生産物が「労働の産物」であることにも疑いの余地はない.パートIIIの終わりでは「環境経済循環の生産者は植物のみである」という結論を得た.もちろん,この世のすべての「価値」を労働者が単独で作り出している訳ではないというのも事実ではある…
商業活動では製品を右から左に転売しているだけでなんの付加価値も付け加えていないように見えますが,「(実店舗の場合)そこに行けば買える」というのは付加価値であり,「(ネット通販の場合)スマホで注文できる」というのも付加価値です.ただし,商業の場合,店を開いていてもお客さんが来なければ一日お茶を引くことになりますから,「時間=生産価値」と見るのは多少無理があります.しかし,そういうロスタイムを含めて販売価格が決められているとしたら,ただ待っているだけの時間も生産活動の一部と見るべきかもしれません.
2021/05/18 0:41
生島さん
レスにはなっていませんが,頭の体操として読み飛ばしてください.ある時点で当事者数nのトランザクションm個が未決済になっています.このトランザクションを5厘玉1個あれば正しく計数できるということにご同意頂けるでしょうか?つまり,1単位の流動性(通貨)があれば任意個数の取引の決済を過不足なく実施可能であるという命題です.答えはもちろん,イエスですよね!ただし,このトランザクションは総体としてデフォルトを発生しないものと仮定します.
n個のノードがm個の枝(辺)で連結した有向グラフを考えます.ノードにはそれぞれ初期値(重み)V(i).wを与え,各枝(トランザクション)にも初期値(重み)E(j).wが与えられているとします.貨幣的取引行為は加法性を有するので,m個の枝のどこから計算し,どこで計算終了しても同じ結果になります.従って,任意の枝E(j)を取り出して決済(枝の重みE(j).wを枝の始点ノードVsの重みVs.wから減じて,枝の終点ノードVeの重みVe.wに加算)する操作を枝数分反復すればつねに一意の計算結果を得られます.ただし,この計算方式ではどこかでノードの重みが負になる可能性があります.これを避けるためには次のような方法(リスクの高いノードから片付ける)が考えられます.
まず,すべてのノードをスキャンして入次数ゼロのノードを見つけて,存在すればそのノードから出る枝をすべて処理します.もし,この時点でそのノードの重みが負になれば,このノードにおいて「デフォルト」が発生していることになります.ただし,このトランザクション総体ではデフォルトは発生しないと仮定しているので,そのようなことは起こらないとします.もし,入次数ゼロのノードが存在しない場合には(本当はどこからやってもよいのですが)入次数最小のノードを見つけてそのノードの入枝を「決済」することにします.
この計算では各トランザクションをシリアルに実行しているので必要な最小限の流動性は枝の最大重みということになりますが,各枝を1単位のマルチ枝に分割してやれば一度に移動する通貨量は1単位あればよいということになります.そんな計算方式は現実的ではないと思われるかもしれませんが,十分高速な通信網とコンピュータがあれば特に問題にはなりません.つまり,5厘玉1個あれば,この世界の「経済」を動かすことは論理的に可能です.さて,それではデフォルトが発生する可能性がある場合に,どう対処すればよいのか?
これに答えることは,おそらく,シズカちゃんの素朴な質問に答えることになるのではないかと思います.経済というのは結局において,トランザクションの総和ですから,数値的に必ず解析可能であると思います.トランザクションとは,ブロックチェーンにおけるブロックに他なりませんから,当然「グラスクリーンな統計」も可能であると思います.もちろん,この計算を並列実行することに問題はありませんが,少なくとも「計数の正しさ」という観点からは,流動性の多寡(数量)はまったく問題にはならないということをご理解ください.
馬場英治
2021/05/21 21:56
下田さま
>信用創造による自由な貨幣市場はそもそも原理的に存在しえない
「みんなのお金」シリーズの第5回~では,それと相反することを言われていたような気もします…先を急ぎたいので,この点はパスされても結構です.わたしの聞き間違えかも知れません.
>「利子」がなければ「貨幣市場(借金市場)」も存在しません。「利子率」を経済分析の中心に据える経済学というものは、いったい何なんでしょう?
利子率が投資収益率より高ければ余剰資金は貯蓄に向かい,そうでなければ投資に向かうというのが(多分)ケインズの雇用・利子および貨幣の一般理論の解くところ(まだ読んでません)ですが,実際には(ほぼ)すべての資金は「投資(実物経済)」ではなく,「投機(金融経済)」に向かっています.マクロ経済学者は,なぜ貨幣流通量を極大まで増加させても物価が上昇しないのかという問の前に立ちあぐんでいますが,答えはあまりにも明瞭です.すなわち,金融経済と実物経済の絶望的な乖離ということに尽きます.
この状態が続けば所得格差の拡大は留まることを知らず,社会の活力は失われ,不安定性は不可避的に増大するでしょう.「グレート・リセット」とはこのような状態に終止符を打ち,新規巻き直して出直すしかないという「彼ら」の危機意識を示すものと考えられます.その脱出口が「公共貨幣」以外にないという認識は徐々に広まりつつあるように思われますが,わたしが「懸念」しているのは,そのこと(政府貨幣の発行)によって「価格形成のメカニズム」が毀損する可能性があるという点です.少し議論を巻き戻すと,
>「明示的な財政ファイナンス」やいわゆる「政府紙幣の発行」にたいして、「節度のない貨幣発行によって悪性のインフレを招く」という懸念が長年に渡り示され続けてきましたが、その懸念は、現行の「隠然たる財政ファイナンス」に対しても同様に示されるべきものです。
つまり,「隠然たる財政ファイナンスを続けてもさっぱりインフレにはならないではないか,これはつまり,政府紙幣の発行に対して長年示されてきた懸念には根拠がない」ということを主張されているものと理解しますが,わたしはこれに対し,
>しかし,同時に「隠然たる財政ファイナンス」に対する「懸念」はそのまま「明示的な財政ファイナンス」への懸念として残ります.
とお応えしました.ここで言う「わたしの懸念」とは,「制約のない政府貨幣発行によって価格形成のメカニズムが毀損する可能性がある」という点です.このような懸念を抱かざるを得ない事象は(隠然たる財政ファイナンスを実質的に行っている)現況の財政政策の元ですでに顕著に現れているというのがわたしの認識であり,強く危惧しているところです.「価格形成のメカニズム」についてはもう少し掘り下げる必要がありますが,ここでは問題を提起するに留めます.一つだけ付け加えておくと,高橋是清の財政再建は確かに成功しましたが,その後是清は殺害され(二・二六事件),日本は坂道を転がるように戦争への道を突き進みます.虎を野に放ったのは是清だったのではありませんか?
ここで,一旦「振り出し」に戻ることをお許しください.このセッションは,シズカちゃんの「万年筆マネーなら銀行は貸したお金が回収できなくても損はしませんね?!」という謎めいた問い掛けに始まりますが,この宿題にそろそろケリを付けなくてはなりません.
以前の投稿で,「ある時点で当事者数nのトランザクションm個を決済するためには5厘玉1個あれば十分である」ということを図解しました.グラフ理論ではあるノードから出て同じノードに戻る路を「閉路(サイクル,循環)」と言いますが,このグラフでは1個の5厘玉が同じノードを何度も通過することになるので,「経済とは貨幣循環である」ということが強く再確認できます.ここでは,さらにそれを進めて5厘玉1個すら必要ない.つまり,「流動性(通貨)」というものは「貨幣的取引」では不用であるということを示したいと思います.
前回と同じようにn個のノードがm個の枝(辺)で連結した有向グラフを考えます.このグラフのノードは1個の経済主体であり,その種別は問いません.つまり,このグラフには個人・商店・企業・銀行から政府までのあらゆるレベルの経済主体が参加することができます.
グラフの枝は1個の取引(トランザクション)を表しますが,この決済を実行する時点ではすでに物品・サービスの受け渡しは完了しているものと仮定すれば,1個の枝を処理することは枝の始点・終点ノード間の「債務」関係の精算と考えることができます.このような仮定を置いても,この手順の一般性は失われません.また,かなり重要なポイントですが,このことから,このグラフは物品の売買・サービスに伴う代価の支払いだけでなく,金銭貸借を含むすべての貨幣的取引(実物経済と金融経済)を同一の図式でカバーできることが確認できます.
各ノードにはそれぞれ初期値(重み)V(i).wを与え,各枝(トランザクション)にも初期値(重み)E(j).wが与えられているとします.貨幣的取引行為は加法性を有するので,m個の枝のどこから計算し,どこで計算終了しても同じ結果になりますが,今回は各ノードのすべての入枝と出枝をまとめて処理(グロス決済)する方法で行います.まず,任意のノードVを選択してそのノードに入るすべての枝の重みを加算します.次にそのノードから出るすべての枝の重みを加算します.この結果
ノードVの重み=Vの重み初期値+∑Vの入枝の重み-∑Vの出枝の重み
として計算されます.これをすべてのノードについて実行すれば計算完了です.この方式では明示的な資金移動はまったく行われず,単にノードの重みを更新するだけ,つまり,メッセージ交換だけで決済が完了します.(国際為替決済システムであるSWIFTは単なるメッセージ交換システムであり,実際の資金移動は行わないとされていますが,多分このような仕掛けになっているのでしょう.ソラミツにはSWIFTとの接続を経験した技術者がいるという話なのでお聞きしてみたいですね.CLS銀行では各国中央銀行に当座預金を持っています.)
このグラフのイメージを掴むためには,約束手形交換所のような「クリアリングハウス(精算所)」を考えればわかり易いかもしれません.この場合,グラフの枝は「約束手形」という文書つまり,メッセージです.銀行システムであればグラフの枝は「振替指示書」というメッセージになります.約束手形交換所で一日一回の精算が実施されるとすれば,「時点」は1日を単位とする時間軸上でスケジュールされます.もちろん,これを一週間に一度としても,あるいは一時間に一度,一分間に一度,ないし毎秒あるいはそれ以上(リアルタイム)に高速化したとしても論理的にはなんら異なるところはありません.
この計算が完了したときに,ノードの重みが負になった場合にはそのノードは「デフォルト」したということになります.通常このようなデフォルトは初回は許容されますが,6ヶ月以内にもう一度デフォルトした場合には,システムからパージ(取引停止処分)されることになるでしょう.ここではデフォルトが発生した時点で直ちにパージされるものとします.さて,このようなデフォルトが発生したときに「場」では何が起こるのかを見てみることにしましょう.最初に仮定したように,すべての物品・サービスの受け渡しはすでに完了しているので,物的な対価物の再移動(巻き戻し)は実施されないとします.デフォルトしたノードを除外した生き残りノード(サバイバルノード)の重みを合算すると,
場の重み=∑サバイバルノードの重み=初期状態の場の重み+デフォルトノードの負債残高
となり,場の重み合計は決済開始前よりも増加しています!場の重みとはこの閉じた経済システム全体が保有する(金融)資産と考えられますが,それが「デフォルトの発生」により増加するということが起きています.mmm…何か不思議ですね!?では,次の問に答えてください.①この資産増加は誰によってもたらされたのか?②資産増加が利得と考えられるとしたらその利得は誰にどのように配分されているのか?
2021/05/22 20:16
下田さん
早速のご回答ありがとうございます.必ずしも題意に即したものにはなっていないような気もしますが,当たらずと言えども遠からずと言ったところでしょうか?下図はサム・ロイドの「消える妖精(TheVanishingLeprechaun)」という「騙し絵」を頭の高さで並び替えてGIFアニメ化したものですが,(クリックすると)最初14人だった小人が13人に減ったり,15人に増えたりします.
この図では全体の身長の総和は同じなのに人数が増減します.本題のグラフでは資金総額は決済の前後では不変ですから,デフォルトノードの負債がチャラになった時点で資金総額が増えたことになります.しかし,精算自体はノーマルに実施されているはずですから,「特別に得をした人」は見当たりません.では誰が得をしたのか?と言えば,残債をチャラにしてもらったデフォルトノードということになるのでしょう.ではその資金は誰が拠出したのかと言えば,場を仕切っている「胴元(親)」と考えられます.
このカジノ(賭場も一種のクリアリングハウスとみなします)の胴元は,箱天になったノードの決済を続けるためには,チップをそのノードに貸し付ける必要があります.このチップの「発行」によってシニョリッジ(通貨発行益)が発生します.実際には数値を記帳するだけですが,決済完了後,デフォルトしたノードの重み(負債)のマイナス値をゼロにリセットしたタイミングでその金額相当の「信用創造」がなされたと考えられます.通常の世界では誰かが破産した場合には,債権者会議などが招集され残資産をどう配分するかというややこしい手続きが発生しますが(しかも,その結末はすべての参加者に不満を残すものとなる),ここではそのような混乱もなくすべての人が損も得もない状態で滑らかに経済を再始動させることができます.
通常はここでデフォルトノードは退場することになりますが,そのままゲームを続行することも不可能ではありません.リアルな金融界でも6ヶ月以内にもう一度デフォルトしなければ留まり続けることが可能であり,デフォルト即退場というものではありません.(悪質なプレーヤであれば退場処分も当然かもしれませんが,すべてのプレーヤは合理的な判断のもとに善意を持って行動しているものと仮定します)胴元(親)が信用創造できる経済システムではデフォルトが発生してもつねにそれを円滑に解決することが可能と言えます.実際のところ,累積国債を政府貨幣で一掃するという「公共貨幣システムへの移行スキーム」は,この「マジック」の壮大な実演に他なりません.
リーマンショックのような金融危機が発生したときには,政府が国債を発行して巨額ベールアウト(尻拭い)資金を調達し破産企業を救済するようなことが起こりますが,そのような不公正な措置に反対する国民や議会をなんとか説得しなくてはなりません.そのために「あとどのくらい不良債権が隠れているか分からない」と言って恐怖を煽り立て,「Too Big to Fail」というおまじないで無理やり信じ込ませようとします.不良債権は発生した時点で粛々と処理すればよいというだけで,「ある人の負債はある人の資産」ですから(放置しておいても)経済環境には影響を与えません.バブル崩壊時の政府(財務省)の取った金融政策上の最大の誤りは,スタート時における「損金処理を5年間先送り」するという行政指導にあったのではないかと考えています.
この最初の躓きが「失われた10年」をもたらし,さらに20年,30年と尾を引いて今に続きます.債権者との協議が整い,「もう一度ゼロからやり直そう」としても,5年間は(帳簿上の)負債を消すことができないとしたら,事業再建の見込みはありません.もし,その5年間で事業が順調に伸びたとしても,弁済でそっくり吹っ飛んでしまうのでは事業意欲は消し飛んでしまいます.この5年が経過したあと元の事業を復活させることができるでしょうか?多分見込みはないと思います.
ちょっとはぐらかしという感はあるかもしれませんが,一応これをもってシズカちゃんの謎々に答えたということにしたいと思います.
馬場英治
2021/05/24 15:25
下田さん、ご応答ありがとうございます。事情により、現在PCのOS再インストールを行っているところです。いましばらくのご猶予を賜りますれば、幸甚です。
2021/06/03 21:31
下田さん,生島さん:返信が遅れてしまったことをお詫び申し上げます.何とか収まりましたので続けさせて頂きます.
>下田:どうも腑に落ちない部分があるので、
と思われるのはごもっともなことと思います.わたしの論がきわめて「アバウト」なもので,厳密性を欠くところがあることは自覚しております.他人の書いた「誤りを含む証明」を読むことが苦痛以外のなにものでもないことも承知しております.さらに悪いことには,わたし自身なにか確としたこと(お伝えすべき知識/理論)を持ち合わせている訳でもありません.通常,物理学(自然科学)の世界では「仮説」を立ててそれを「実証」するために「実験」を行いますが,わたしが試している「思考実験」は,一種のシミュレーションのようなもので,そのモデルの挙動(どのように振る舞うか)をあらかじめ仮定/想定した上で行っているものではないということをご了解ください.
「レスにはなっていませんが,頭の体操として読み飛ばしてください」では,「1単位の流動性(通貨)があれば任意個数の取引の決済を過不足なく実施可能である」という命題の証明を試みました.さらに,それを敷衍して,「グラフ理論ではあるノードから出て同じノードに戻る路を閉路(サイクル,循環)と言いますが,このグラフでは1個の5厘玉が同じノードを何度も通過することになるので,経済とは貨幣循環であるということが強く再確認できます.」と述べていますが,この辺りもかなりアバウトなところですので,少し補足しておきたいと思います.
このグラフのノードは独立の経済主体で,ノードをつなぐ枝は1個の貨幣的取引を示すものであるとします.ノードないし枝(辺)が重みを持つグラフは一般にネットワークと呼ばれますが,以下ではこのグラフ(システム)をエコシステム(経済循環系)と呼ぶことにしましょう.ここでは前回と同じように重みwの枝をw本の多重枝に分割した多重グラフGを考えます.このような系(システム)がエコロジカルに持続可能(完全経済循環系)であるための条件は,Gが有向オイラー閉路を持つ,つまり,「一筆書き可能」であることであると言えます.
グラフGが有向オイラー閉路を持つための条件は,すべてのノードで入次数=出次数となることであることは知られていますから,結局,すべてのノードの入枝の重みの和と出枝の重みの和が等しいことがその条件であるということが分かります.言い換えると,エコロジカルに持続可能な経済循環系が成立するための条件は,すべてのノードの収入と支出が等しい(持ち分の増減がない状態)という単純な図式に帰着します.
収入 = 支出
というのは会計学的には必ずしも特殊(例外的)な条件/事象ではありません.むしろ,健全な家計では支出を収入の範囲に抑えることが目標(というより必須)であり,これは国家の歳入と歳出の関係にも妥当します.「江戸っ子は宵越しの金を持たない」というのはこれを別の言葉で表現したものです(この金離れの良さが百万都市江戸の経済的基盤であったとも言えます).しかし,たとえば,国家間の貿易収支の場合には輸出額と輸入額がバランスするということはむしろ稀であり,一方が輸出超過になれば,他方で輸入超過が発生することは避けられません.(輸入超過分を関税で補うという策はあり得ません.賦課された関税は結局輸入価格に転化され内国民が負担することになります.)
同様に外部経済に移出できる産品の少ない地域/地方が移入超過になることは避けられず,貧乏県/富裕都府県や貧困/過疎地域などの発生もほとんど不可避と見るしかありません.出稼ぎは住民が外部経済に進出して「外貨」を稼ぐための手段※,観光は逆に外部住民を呼び込んで「外貨」を獲得する方策ですが,外部資本の誘致(投資)は一時的には「外資」を取り込むことにはなっても最終的には持ち出しになるというのがありふれたパターンです.もちろんそれが,経済活性化の起爆剤になることもあり得ますが…
※もちろん地方住民は「地域経済の移入超過を解決するため」に県境をまたいで長距離通勤しているつもりもないし,「自国の外貨不足を補うため」に家族を置いて海外に出稼ぎに出る訳でもありません.まして,「異国に売られた少女たち」がそのことを自覚するはずもありません…
わたし自身が「腑に落ちない」ところというのは,ご指摘にもある「デフォルトノードの負の残高」とはなにか?という点です.明らかにこれは「負債」ではありません.負債となるのは場主(システム本体)がデフォルトノードの負の残高をチャラにした場合にのみ発生します.各ノードの重みを「資産」と位置付けるとすれば,負の資産なのだから「負債」だろうということになると思いますが,一般の金銭貸借における「債務」とここで言う「負の資産」は区別されなくてはならないのではないかと考えています.(一般の商行為としての「取引」の場合も,物品の受け渡しが完了済という条件のもとでは支払い義務=債務です)
PS:獏とした予想ですが,この議論を延長すると最終的には「準備率100%論の否定(準備金は負になってもよい)」から「シニョリッジの全否定」に至るような気がしています(公共貨幣論がシニョリッジの国家独占を意味するものであるとしたら,再考を求められることになるでしょう).もしそれが,中央銀行システムの倒壊を意味するのであるとすれば,それは第二次バベルの塔の崩壊のような事態をもたらすものであるかもしれません.「言語」と「通貨」は「領土」や「国民」と並ぶ国家の主要ファクタと言えますが,バベルの塔1.0で起きたようなことが,バベルの塔2.0で起こる可能性は十分あると見ています.「主はそこで,全地の言葉を乱し,そこから人を全地に散らされ」ました.
2021/06/04 20:00
下田さん,お付き合い頂きありがとうございます.
>ご提示いただいているグラフ理論では貨幣にかかわる経済問題は解けない、
もちろん,この簡単な図1枚ですべての経済問題が説明可能であるとは思っておりません.
>確かに「負の残高」は、会計でいうところの「負債」でもなく、法律でいうところの「債務」でもありません。それは単なる「数の減少」です。
この部分がおそらく,この議論の肝ではないかと思います.
>もし、「重み(貨幣)」を支払い手段と考えれば、逆方向に商品が移動していることを想定しなくてはなりません。これは、いわば等価交換であり、複式簿記の考え方になります。
この考え方は,「負債」の場合にも適用可能です.「負債」の場合には,貨幣の移動方向と逆向きに「債務証書」が移動します.これを一種の「商品」と捉えればまったく等価な図式で説明可能です.「利息」の支払いはこれとは別に「金融サービス」への対価としての商行為(別取引)とみなすこともできます.
>ここで、もし「負債」というものを考えるならば、商流と貨幣移動のタイムラグを考えなければなりません。モノが移動したにもかかわらず、貨幣による支払いがなされていないことによって「負債」が発生します。このような現実を、ご提示いただいたノード理論では表現できないものと思います。
わたしがこの図によって(説明/考察を)意図している範囲では,貸借関係と売買関係を同一図式で示すことが可能であると考えますが,もちろん,それだけでは説明しきれない部分は残ります.もっとも決定的な点は商行為の場合には一回の決済で取引が完結するのに対し,貸借関係は弁済完了するまでは完結しないというところにあります.このような特異性(時間遅延)は例示したグラフでは表現することはできません(時間を導入することは可能ですが,あまり明快とは言えません).
「金融に関わる諸問題」を考察するためには,少なくとも,①貯蓄,②貸付,③利子の三つの要素を導入する必要がありますが,わたしにはまだそこまでの用意がありません.しかし,当面の課題に当たっては当初の図式を多少詳細化すれば足りるのではないかと考えています.
それに掛かる前に,蛇足となるかもしれませんが,(ダメ押しとして)「負の残高」に関わるもう一つの図式を提示することをお許しください.これまで通り,独立の経済主体をノードとし,一個の取引を枝とする重み付き有向グラフ(ネットワーク)を考えます.ただし,今回はすべてのノードの重みはゼロで初期化されます.計算方式は前回と同様各ノードごとのグロス決済の方法で実施します.つまり,各ノードの入枝の重みの和と出枝の重みの和の差分をノードの重みに加算します.
これをすべてのノードに関して実行することで「時点」における決済は完了します.この結果,あるノードの重みは正の値を持ち,他のノードの重みはマイナスとなりますが,すべてのノードの重みの合計はゼロのまま変化しません.「決済方式」としてはこれで完結している(完全である)と考えるのですが,いかがでしょうか?
以下ではノードの重みを「持ち分」,枝の重みを「移動量」と表記することにします.「持ち分」は±∞の任意の値を取ることができるものとします.「移動量」はつねに正の整数値であると仮定します.また,ノードには持ち分の他に,「債務」という項目を設けます.枝には-1|0|+1の値を持つ「フラグ」を設置します.つまり,ノードは(持ち分,債務)の対として表示され,枝は(移動量,フラグ)の対として表示されます.一つの取引(トランザクション)はブロックチェーン上では一個のブロックとみなすことができるので,ブロックに記載される項目が二つ追加されたと見ることもできます.
通常の商行為における決済では枝は(商品価格,0)のように表記され,貸付では(貸付金額,+1)のように表記します.返済では(返済金額,-1)のようになります.「送金」のように商品の移動を伴わない貨幣移動もフラグ0として(送金額,0)のように表示します.フラグがゼロであるということはその決済がその時点において完結していることを意味します.決済の実行時には,「持ち分」の計算はこれまで通りの方法で実施されますが,別途「債務」に関わる計算を実行します.「債務」の初期値は上例にならってゼロとします.
ノードの債務 = 債務 + ∑入枝のフラグが+の移動量 - ∑出枝のフラグが–の移動量
「売り掛け」のように金銭の移動を伴わない債務の発生はこの図式では表現できないので,当決済システムの範囲外の商慣行とみなされますが,もし必要なら次のようにアレンジすることも不可能ではありません.①売り掛けの場合の枝を(-売掛金額,+1)とする.②枝の(移動量)が負の場合には資金移動は行わない.③売掛金額を売却先の債務に加算する.上記では「移動量はつねに正の整数値であると仮定」していますが,この場合は「移動量=正(資金移動あり)ないし負の整数値(資金移動なし)」となります.
さて,これで一応準備は整ったのではないかと思います.グラフ上ノードの「持ち分」残高と「債務」残高には相関はないと考えるのですが,いかがでしょうか※?仮に「債務」の弁済でデフォルトが起きたとしても,それは(個別当事者間の)法律上の「取り立て」の問題であり,決済システムの(健全性に関わる)問題ではないと考えているのですが…
※「決済」に関わる計算を計算1,「債務」に関わる計算を計算2とすると,計算2を新たに導入するときに計算1はまったく方式変更されていないから,計算1と計算2がまったく独立な計算であることは明らか.つまり,「資金の移動=債務精算」の実務と「債務弁済の履行/不履行」の裁定は次元の異なる事象である.
2021/06/06 2:17
下田さん,応答ありがとうございます.
>ご提示いただいたモデルに、全体的な理論的整合性はあると思いますが、これで経済の現実が説明できる気がしません。
これが「経済の現実を説明する図」になっていないというのはおっしゃる通りです.ただし,それはボイルの法則を満たす「理想気体」のようなものはどこにも存在しないという意味での「説明できない」であり,むしろ,「本質的な意味での説明」にはなっているのではないかと考えています.これに関しては後述します.
>たとえば最も単純な例として、ノードAがノードBにリンゴを現金100円で販売する場合は、このモデルではどう表現されるのでしょうか。
痛いところを突かれましたね!想定外,というか,その点こそこの図面の「肝の肝」であり,最重要なポイントです.もともとこの図式は「決済システム」を対象とするもので,CBDCが発行された近未来において現金が消滅した状態を想定して描かれています.「現金取引」はこの「決済システム」の守備範囲外であり,ある意味でこの「経済圏」の外部であると考えるしかありません.というのは,一度発行された「現金」は発行者のコントロールを完全に離脱して,何がどこにいくらあるのかも分からないという状態になってしまうからです.これは本質的に物々交換と同様の「相対取引」であり,第三者の立ち入る余地はありません.
ただし,図式的には「現金取引」を導入すること自体が難しいというわけでもありません.このグラフの構成要素は①ノード(独立の経済主体)と②枝(貨幣的取引)の2つしかありませんから,任意の2点(ノード)を枝で連結すれば「現金取引」を表示したことになります.この枝の「属性」と取引の「ルール」に関しては補足が必要ですが,それほど難しいものではありません.この図面の難しさは別のところにあります.以前フォーラムに提示した図版を再掲してみます.
この図面では右上の「国民」という楕円に「キャッシュ循環」というラベルが付けてありますが,C1というラベルの付いた円の右肩にある「現金取引」という「自己ループ」がそれ(現金取引)を表示しているところです.この図版「日銀マネー循環図」は「概念図」であり,その中にはかなりの「省略」があります.たとえば,「国民」から「政府」には「歳入」という矢印が付いていますが,これは実際の取引/決済を大幅に省略したものであり,本来なら,「国民」→「銀行」→「日銀」→「政府」という経路を辿らなくてはならないところを(わかり易さを優先して)「国民」→「政府」のように直結で描いています.
しかし,今回の「経済循環系」グラフではある種の「システム設計」のようなことを意図している訳ですから,もっと厳密な(省略なしの)記述でなければなりません.どうなるか,試して見ましょう.
まず,手始めに物々交換モデルというのを考えてみます.下田さんは「物々交換が歴史上存在したという事実はない」との見方をされていると思いますが,たとえば,米や衣が租税公課の納付に用いられたなどの事例もありますので,一応ご同意頂けるものと思います.グラフのノードは独立の経済主体,枝は交換取引であるとします.これまでの図では有向グラフが使われましたが,物々交換では枝の向き(通貨の移動方向を示す)のない無向グラフとして描画します.
この物々交換では任意の産物が交換されますが,対象物が「蓄蔵財」と認められる場合には枝に矢印を付してその移動方向を示します.蓄蔵財には,米,衣,宝玉,貝殻などが該当します.この蓄蔵財が「鋳貨」に置き換わった時点でグラフ全体は有向グラフになり「鋳貨経済循環系」が完成します.ただし,この時点では「鋳貨」の発行者は不明です.
和同開珎が本邦初の鋳造貨幣と言われますが,それ以前にも無文銀銭,富本銭などの私銭が使われていました.また,皇朝十二銭が廃れたあとに流通した宋銭,元銭,明銭などはすべて輸入通貨(外貨)であり,内国的には発行者不明に近いものと言えます.
このグラフに欠けている「通貨発行者」をグラフに明示的に追加したものが次の「公鋳貨経済循環系」になりますが,追加されるのは発行者ノード1個で「鋳貨経済循環系」と大きく変わるものではありません.「経済循環系」は「経済」に他なりませんから,このことは,「発行者」が他の当事者ノードと同等の「(鋳貨)供給者」以外の何者でもないということを示しています.ここで一気に発券銀行システム(銀行経済循環系)にジャンプするのですが,どうしたらよいでしょうか?
これまで描写してきた「銀行経済循環系」には(中央)銀行は当事者(独立の経済主体)として現れていません.これは非常に重要なポイントで,中央銀行は経済主体(システムを構成するノード)ではなく,「決済システムそのもの」と考えられるからです.しかし,「経済の現実を説明する」ためにはそれを避けることはできません.
やってみます.まず,既成の「銀行経済循環系」に「現金取引」の枝を追加します.これは単にいくつか/ほとんどのノードを矢線で結ぶだけですが,既存取引と区別するために「赤線」で描画することにします.(色が異なるということは2種の貨幣が併用されていることに当たるとご理解頂いても結構です)さて,問題はその「現金通貨」をどうやって供給するか?という点です.
まず,このシステム全体を囲む大きな円を描きます.これは中央銀行=中銀決済システムを表しています.次に,円の内部にあるノード(経済主体)と外部円周上の点の最短距離を結ぶ線分(枝)を描いて,それに矢印を付加します.円周からノードに向かう枝は中銀からの出金,ノードから円周に向かう枝は中銀への入金を示します.次に,この円周の内部にあるすべてのノードを各点を連結した状態のまま,円周の外に放り出します.円周の内部が空っぽになったら,円の直径を縮小して1点になるまで縮約します.これでシステム全体であり,同時に当事者ノードでもある中央銀行をグラフに追加することができました.
この図面はお求めの「現金取引を含む銀行経済循環系」つまり,「現実経済の表式」になっているのではないでしょうか?
※「現金取引を含む銀行経済循環系」とは「システムそれ自体が当事者となっているようなシステム」と要約できる.「中央銀行システム」がなぜ,「私企業の国際シンジケートのような形態を取っているのか?」という疑問は,上記のような銀行システムの成り立ちを考えれば理解できる.我々が考えている「近未来的貨幣循環システム」では「現金」は廃止され,中央銀行は完全に経済中立な存在に変容する.この意味では「金本位制への復帰」というコースはレーンの逆走のように見える.
2021/06/06 22:22
下田さん,
前便の続きです.前便では4つの経済モデルを提示して,経済循環系グラフに「現金取引」を導入することを試みました.
- 物々交換モデル
- 私銭経済循環系
- 公銭経済循環系
- 銀行経済循環系
物々交換モデルは基本的に1対1の現物交換であり,対象物は通常そのまま消費されるので,「経済循環」は発生していないか未発達の段階と考えられます.私銭経済循環系は交換媒体として蓄蔵財が用いられる段階から貨幣経済に移行する中間的段階で,交換媒体としての鋳貨にはまだコモデティの性格が残っているため,大量の購買者(仕入れ)にはディスカウントするなどのことがあったとも考えられます.公銭経済循環系に至ってようやく貨幣発行者の権限が確立し,その強制によって貨幣価値の安定が実現します.この段階における鋳貨発行では発行者はつねにシニョリッジ(通貨発行益)の獲得が可能です.
「シニョリッジ」の獲得と「発行者」が貨幣的取引(売買)に直接参画していることとは密接な関係があります.「銀行経済循環系」では「発行者」は実物経済に対してニュートラルであることを[建前上]要求されるため,たとえば,発行銀行券によって「金」などを直接買い込むようなことは[通常]ありませんが,例外的に認められている範囲で発行銀行券を用いた「売買行為」を行うことができます.
2021/06/21 1:22
生島さん,済みません.このところメールチェックしてませんでした.
>以下でコメントさせていただきますが、それ以外は大体、下田さん、馬場さんと合意できると思っています。
アプローチはそれぞれ異なりますが,ベクトルは大筋一致しているのではないかと思います.前便(生島:2021/06/039:44)にまだ返信してませんでしたね…大いに触発されるところがあるのですが,要点だけ
>個人的にはバックキャスティングで社会問題を考えることの重要性が定着してきているところが嬉しいです。
「バックキャスティング」という言葉自体わたし的には初見でした(わたしは浦島太郎です…).そんなつもりで始めたのではないのですが,いつの間にかとんでもないところに出てしまったというのが実感です.
>オープンにして仲間を集める戦略これがUNIX出現以降の大きな流れです。
そうですね.「オープンイノベーション」で動き出したプレートテクトニクスはもう止まりません.
>従って私の「次世代貨幣システムの考察」は
(1)マネタリーベース決定機構の設置
(2)与信決定組織
の2階建て構造となっています。
わたしの感触では第一層は「完全に経済社会ニュートラルな貨幣システム」なのではないかという気がしています.完全ニュートラルな貨幣システムというのは,貨幣発行者(貨幣システムそれ自体)がいかなる貨幣的取引(売買・貸出)にも関わらないようなシステムです.このシステムではシニョリッジ(通貨発行益)という言葉は死語になります.
>ただ実際は「制約のない信用創造」が問題では無いでしょうか?
「経済」を「実体経済」と「金融経済」に分割したとき,実体経済は現状でも(様々な問題があるにしても,おおむね)健全であると見ています.これは実体経済が基本的に事物の有限性という制約を持っているためと考えられます.金融経済の最大の問題はこの「制約がない」,逆に言えば「無限性を有している」という点にあります.「貨幣の物神化」はこの貨幣(流通量/所有量)の無限性と関わりがあります.下田さんの用語で言えば「妖怪マネー」という現象に現れるような問題です.この意味で主流経済学の最大の誤りは「貨幣数量説」にあると考えられますが,すでに現実界において(理論的に)破綻しています.
>原因は色々ありますが、「ミクロ経済」的には90年代初頭ですでに半導体では韓国に負けており、それ以前のCPU革命で汎用機からワークステーションのイノベーションができなかったわけですね。...そのベースはソフトウエア開発を蔑ろにしたところにあります。
同感です.(ただし,我々にも一半の責任はあるように感じています)
>多重下請け構造はモラル、法の甘さを指摘され、欧米からも批判されています。
(今回のパンデミックを巡る顛末を見ても)目を覆うような惨状(グロテスク)と言うしかありません.
>イノベーションで負けたら、今の産業にしがみついて、行くとこまで行くという戦術はわかります。
いま,それをトヨタがやっていますが.「今の産業にしがみついて」というより,「今の産業を守りながら」という立ち位置は基本的に正しいと思います.「イノベーションで負けた」というより,「国際的な策謀の渦」の只中にあると言うべきかも知れません.
>私はこの根治には、現状のフィードバック制御、すなわち、問題が起こってから対応する制御ではなく、フィードフォーワード制御、すなわち、問題が現れる前に検知し、前もってその影響を極力なくすように必要な修正動作を行う制御方式にすることだと思っています.
「経済循環系グラフ」の各ノードの「持ち分(equity, 重み)」が負になることを認めると,このシステムでは原理的にデフォルトが発生しなくなります(つまり,永続システムになる).ただし,それが成立するためにはすべての取引が「ノーマル」なものであるということを仮定する必要があります.逆に言えば,あるノードの持ち分が[恒常的に]マイナスになった場合には,なんらかのアノマリー(異常)が起きている「兆候」と推定されるので,システムの健全性を維持するためにはその原因を「診断」する必要があるでしょう.これは一種の医療行為に相当するのではないかと思いますが,「資格を持った医師」がその「経済主体」の脈を取って「死亡」と診断した場合にはそのノードはシステムから除去されることになるのではないでしょうか?
反緊縮論者の言い分を「経済循環系グラフ」の観点から解釈すると『政府(だけ)は持ち分マイナスとなることを認める』のように理解することも可能です.もちろん,前提として国家(国民経済共同体)は永続するという仮定を置いた上で,ですが…つまり,「自国通貨建ての国債を発行する政府財政は破綻しない」のではなく,「国民経済循環系では政府は永続経済主体となる/定義される」ということになります.
一般取引税(電子的実取引税/ユニフォーム税率)の導入によってPB(プライマリバランス)を維持することはつねに可能
というのが現在のわたしの立ち位置ですが,これは政府財政にも何らかの「制約」が必要であることを含意します.
>まさに放っておくと、バベルの塔を実際作って消滅する危惧が現在語られているのだと思います。信用創造による、無秩序な生産でしょう。
わたしがバベルの塔2.0として想定しているのは,具体的には「国際シンジケートとしての中央銀行システム」が倒壊し,無数の私的疑似貨幣システムが跳梁・跋扈するような光景です.すでにBTCを法貨として公式認定する国家も現れているし(エルサルバドル),GAFAを始めとするグローバル企業は着々と私的デジタル通貨の発行を準備しています.国内的には政府は「電子マネー」を容認どころか,奨励しているように思われる節もあり,「地域通貨」は(わたしの町を含め)広域に叢生・拡散しています.基軸通貨のドルが崩壊し,デジタル人民元,デジタルユーロなどに分極化(ブロック化)する可能性もあります.
>個人的に、は流体力学モデルが良いのではと思っています。
しかし、質量保存などの保存則が無いわけですね。これが経済、お金の難しいところです。
「経済循環系グラフ」では原則「流通貨幣総量は不変」なので,保存則が成立します.そこでは「流通量」に変わる指標として「流通速度」が重視されるようになるので「流体力学モデル」でよいのではないでしょうか?電子回路モデルという提案もありますが,むしろ量子モデルの方が適合性がよいかも知れません…
グラフのデータ表現として,①接続リスト(隣接リスト,枝リスト)と②接続行列(隣接行列)があります.ブロックチェーンの「ブロック」は「経済循環系グラフ」の「枝(辺)」に相当するので,ブロックチェーン=接続リストと見ることができますが,この同じグラフをマトリックス(接続行列)として表現することでGDPの集計に使うことができます.いや,まだやってないので,多分…
2021/06/28 1:44
生島さん,下田さん
どうも思いもかけず長丁場になってしまいましたが,いましばらくお付き合いのほどお願い申し上げます.ここまでの議論におけるわたしなりの結論はすでに出ています.つまり,
『貨幣発行者はその経済循環系に対し,完全ニュートラルでなければならない.貨幣発行者(貨幣システムそれ自体)はいかなる貨幣的取引(売買・貸出)にも関わるべきではない』
というのがその結論です.現行金融システム(中央銀行システム)の動態を観察すれば,レフリーがサッカー場の真ん中に踊り込んでボールを蹴っているような「ほとんどマンガ」になってしまっていることが容易に認められます.「コンナ試合アリ得ナイ」ような情況と言って過言ではありません.貨幣循環システムが物理的に存続するためにはその「コスト」を支弁するなんらかの「経済活動」が必要だろうという異論はあり得ると思いますが,システムのランニングコストをシステム参加者が公平に分担するルールを定めることは難しくありません.
古典派経済学のセントラル・ドグマの一つに「貨幣中立論」があります.貨幣の総流通量は経済活動とは無関係な名目的数量(数値)に過ぎないので,仮に経済活動に(貨幣錯覚に起因する)短期的な影響を与えることがあったとしても,長期的には貨幣の中立性は成立するという考え方です.これに対し,上記の「貨幣発行者の中立」という命題は古典的貨幣中立論のような経済「法則」ではなく,近未来における貨幣循環システムにおいて初めて実現されるべき準則(ゲームのルール)です.
ここでは,両者を区別するために「近未来的貨幣中立論」と呼ぶことにします.近未来的としているのはこのシステムが実現されるためには,少なくとも通貨のデジタル化と現金の廃止が必須条件と考えられるからです.あらゆる兆候から見て現在の貨幣システムがその方向に向かっていることは間違いありません.
「近未来的貨幣中立論」の世界では
近現代的意味における「中央銀行」の役割は終了する
中央銀行が行っているあらゆる金融政策は基本的には貨幣流通量を操作することによって実施されますが,それらの操作はすべて「貨幣的取引」のカテゴリに落ちるものであるからです.つまり,「中央銀行としてやることは何もない」という状況になると推定されます.中央銀行の機能はほぼ(AIによってコントロールされる)完全自動システムによって代替されると見てよいでしょう.
実際,すでに実稼働しているビットコインなどの分散型金融システムは概ねそのような原理で構築されています.持続可能な近未来貨幣循環システムでは原則として通貨流通量には変化がありません(適正規模というのはあると思いますが…).従って,一斤のパンを購入するために手押し車一台分の札束を運ばなくてはならないような状況(ハイパーインフレーション)も原理的に発生しないと考えられます.
近未来貨幣循環システムでは通貨の流量調整(景気循環の調整)
は,通貨流通量ではなく(金利操作も実質的には通貨流通量の
調整によって行われる),貨幣流通速度に着目して実施される
これまでの議論で,流通通貨の総量は経済循環系の作動には影響しないということはご理解頂けたのではないかと思いますが,念のため,物価が2倍になったときのモデルを提示してそのことを確認しておきたいと思います.これまで通り,独立の経済主体をノードとし,一個の取引を枝とする重み付き有向グラフ(ネットワーク)を考えます.すべてのノードには重みの初期値として「持ち分」が割り当てられているものとします.計算方式はこれまでと同様各ノードごとのグロス決済の方法で実施します.つまり,各ノードの入枝の重みの和と出枝の重みの和の差分をノードの重みに加算します.これをすべてのノードに関して実行することで「時点」における決済は完了します.
この取引にはすべての「金融取引」と「商品・サービス取引」が含まれるので,この経済循環系グラフは一個の「閉じた経済」を表現するものになっています.ここですべての「物価」が2倍になったと仮定しましょう.そのような状況を反映するために,シナリオを単純化して,①すべての取引は前回と同じ取引内容を模倣する,②すべての取引でその取引額(重み)を2倍にしてどうなるかを見ることにします.
前回時点と今回時点における相違は「枝の重み(通貨移動量)」だけであり,各ノードの「(現時点における)持ち分」には影響しないことにご留意ください.つまり,「価格変動」が経済主体の「持ち分」にも,その合計である流通通貨総量にも影響しないことは明らかです.この「膨張した取引」が前回同様(同じステップ数で)なんの問題もなく完了できることも説明を要しないと思われます.
(現金がからむと「物理的な紙幣の輸送」という問題が発生するため,これほど単純なものにはなりませんが,原理的には同じです.ただし,我々は「現金」は進化の途上で退化すべき「しっぽ」のようなものと考えているので,ここではこれ以上追求しません.もし,どうしても「現金」を残す必要があると言うのであれば,現金とデジタル通貨の二貨制まで考える必要があるかもしれません…)
2回目の決済では取引決済額の総量は2倍になっていますが,決済完了した時点でも通貨総量が変化していないことはご理解頂けるものと思います.何が変化しているかと言えば「通貨流通速度」が2倍になったということだけです.2回目の計算によって各ノードの持ち分は変化しますが,それぞれの初期値が異なるので持ち分が単純に2倍になるようなことはもちろんありませんが,物価(取引額)が2倍になっているのに「持ち分の合計」が同じというのはある意味不思議な気がしないでもありません.
経済学ではこのような一種の「騙し絵」のようなものが至るところに出現します.本論では流通通貨の総量は一定であることを仮定していますが,もし,総量の変化があるとすれば,そのようなシステムでは流通通貨の総量は一種の「光学的な解像度」の意味合いに転化するものと考えられます.ある経済循環システムにおいて所得格差が拡大傾向にある場合には,「小さな点(貧困層の経済活動)」を見るためにはより大きな解像度が必要になります.逆に言えば,
通貨流通総量が過剰に増大している経済では
所得格差が広がっていると見てほぼ間違いない
のではないでしょうか?(貧民が虫けらのように,もっと言えばバイキンのように小さく見える世界を想像してください)
「貨幣の流通速度」という概念はフィッシャーの交換方程式に登場します.Wikiからそのまま引用すると,
MV = PQ (1)
- M はある期間中の任意の時点tにおける流通貨幣(通貨)の総量
- V は貨幣の“流通速度“(特定期間内に人々のあいだで受け渡しされる回数:貨幣の回転率のようなもの)売買契約の約定回数
- P はある期間中の任意の時点tにおける物価水準(通常は基準年度を1としたデフレータ)
- Q は“取引量“(特定期間内に人々のあいだで行われる取引量の合計)
上式はつねに恒等的に成立するものと考えられますが,V(流通速度)の「特定期間内に人々のあいだで受け渡しされる回数:貨幣の回転率のようなもの,売買契約の約定回数」という説明にはかなりあいまいなところがあり,Wikiにはそれに対する疑義が述べられていますので(興味があれば)チェックしてみてください.これと似た式として,マーシャルの現金残高方程式(ケンブリッジ方程式)というのがあります.
M = kPY (2)
- M はある期間中の任意の時点 t における現金残高(=ストック)
- k は比例定数で、マーシャルのkと呼ばれる
- P はある期間中の任意の時点 t における物価水準(通常は基準年度を1としたデフレータ)
- Y は実質GDP
以下ではMを(便宜的に)マネーストックと読み替えます.2つの方程式の大きな違いは,右辺のPQがPYに変わっている点です※.Qは累計取引額,Yは実質GDPでどちらも実質値ですが,Qには中間生成物の価格(付加価値)が含まれているためQ>Yという関係があります.※
※「Towards a New Monetary Paradigm : A Quantity Theorem of Disaggregated Credit, with Evidence from Japan」[Werner,Richard A., 1997]には,MV = PYのような式が出てくる.この式のVとフィッシャーの交換方程式のVとは明らかに(微妙に)意味が異なると考えるしかない(もし,ヴェルナーがフィッシャーの交換方程式を誤読していないとすれば)…
この方程式に現れるkという定数もほとんど意味不明ですが,これらを読み解くために,「税制を変えれば政治も変わる 一般取引税を導入して夢のジパングへ」[馬場英治,2009]という小論で一般取引税という新税を分析するために導入された「トランザクション乗数」という変数を適用してみます.トランザクション乗数は以下の式で定義されます.
トランザクション乗数(取引消費倍率) = 一般取引税課税ベース / 国民消費
一般取引税課税ベースは一般取引税の課税対象となる取引の総額で交換方程式のPQに相当します.国民消費は三面等価の原理から名目GDPに等しいと考えられるので,トランザクション乗数をτとして,
τ = PQ / PY = Q / Y (3)
が成立します.(1)と(2)からPとMを消去し(3)を適用すると,
V = Q / kY = τ / k
つまり,フィッシャーの「貨幣の流通速度」は「トランザクション乗数τとマーシャルのkの比」であることが分かります.言い換えると,
貨幣流通速度 X マーシャルのk ÷ トランザクション乗数 = 1
という面白い関係が見出されます.マーシャルのkという数値は k = M / PY,つまり,
マーシャルのk = マネーストック / 名目GDP
なので,マネーストックが増加するとそれに比例して増加しますが,トランザクション乗数τはマネーストックとは無関係に取引総量とGDPのみで定まります.上式から実取引量Qを消去してVを求めると,V = τPY / Mとなるので,
貨幣流通速度 = トランザクション総量(名目取引量)/ マネーストック
= トランザクション乗数 X 名目GDP / マネーストック
のようになり,貨幣流通速度はトランザクション総量に比例し,マネーストックに反比例しますが,トランザクション乗数は経済循環ネットワークのトポロジーに依存してほぼ一定と考えられるので,「貨幣流通速度はGDPに比例する」と言ってよいと思われます.逆の言い方をすれば,「マネーストックが一定なら貨幣流通速度を増加させることによってGDPの拡大を期待できる」と考えられます.また,その逆に貨幣流通速度を低下させることによって景気の過熱を抑制することもできます.
(一般取引税のもっとも大きな特徴は,貨幣流通速度を効果的に調整可能であるという点にあります)※⇒上掲文献を参照
追記:計算式の一部に誤りがあったので訂正した(2022/05/10).上記の議論は,「実体経済」をベースとするものであり,「金融経済」を対象とするものではないことに留意する必要がある.「金融経済」における「貨幣流通速度」は「実体経済」におけるそれとは比較にならないほど大きく,それらを混同することは誤りである.パートIIでは「実体経済」と「金融経済」を厳格にディスコネクト(ヴェルナーの用語ではディアグリゲート)することを試み,それら互いに独立な2つの経済循環マトリックスを結合する「マネーストック」がゼロという「量子論的超速貨幣循環システム」の可能性を議論する.
パートII 「実体経済循環 / 金融経済循環マトリックス」 へジャンプ
CheckAxisLineStraightで例外が発生
最近の修正をフィックス.
-
MAXREPEATCOUNTを廃止する@20210315 8箇所
-
MakingLookUpは系統並び替えで一度だけ実行する@20210227 11箇所
▲源氏物語全系譜7.ZELの全体図 #4 明石中宮で被参照カウントの残留が起きている.TribeRelocationのフェーズAFTERMARGSAMEGENEでTribeGhostNameを実行しているところだ.障害はNAMEBOX:ExtractBox2LDRsubで対象ノードを削除するところで起きている.その後,CheckAxisLineStraightで例外が発生する.TREEVIEW:GetBaseBoxが空を返している.まず,この障害を先に見ておこう.
CheckAxisLineStraightでは「血統軸線図で軸線上の描画要素が垂直線上にあることを確認」している.TREEVIEW::GetBaseBoxはTREEVIEWが管理している基準ノードの仮ノードbaseboxを返す関数で,この値を設定しているのはTREEVIEW::SetBaseBoxだ.値は設定されているが,その後このリンクはExtractBox2LDRsubの中で削除されている.TREEVIEW::CleanSansyoでは参照解除した後,SelectBaseBoxで取り直しを実施しているのだが… ⇒実際,この時点では値は再設定されているのだが…どこかでリセットされている.再設定されてはいるが,値は削除対象リンクと同じだ.
TREEVIEW::SelectBaseBoxでは基準カードの仮ノードが無効になっている場合には取り直しするようになっているが,まだこの時点では活きているためだ.すでにNAMEBOXのデストラクタが発動された状態になっているので,disposingを見るようにしておこう.⇒解決した.この修正で上記の非参照カウントの残留も発生しないようになった.
▲上記サンプルの#6 玉鬘でAFTERMARGSAMEGENEフェーズのループが停止しなくなった.TOPOLOGY::EstablishMajorTribeChainが収束しない.EstablishMajorTribeChainでは系列木グラフを連結成分に分解しているが,3成分に分離した状態から脱出できない.分離している系列は以下の2つだ.
- TRIBEBOX #16586 先祖=#12539 中将のお許(髭黒付)(0)[34] 優先=#19098 髭黒(3)→#10720 髭黒(0) →主系列#15210:※3 type=BTW右接続関係
- TRIBEBOX #16599 先祖=#12556 木工の君(0)[35] 優先=#19115 髭黒(4)→#10720 髭黒(0) →主系列#15210:※3 type=BTW右接続関係
どちらも髭黒が系列優先ノードになっている.ループを強制脱出して描画まで進むことはできる.最終出力ではすべての系列の参照関係は解決している.2つの系列の共通の優先実ノードである髭黒(0)では当初「系列優先実ノードの絶対/物理世代番号不一致」が発生しているが,その後解消しているようだ.それでは何が原因で「物理コネクション不在」になっているのか?系列接続種別が途中でどちらも逆婚姻関係に切り替わっている.参照先も髭黒(2) →主系列#16307:右大臣(明石)に変わる.最終的には髭黒(0) を左手本人とするBTWが成立する.髭黒(0) を左手本人とするBTWには以下がある.
- rightbox=MARGBOX #8100:#11026 髭黒の前の北の方(0)+#18238 髭黒(1)→#18252 真木柱(2)
- rightbox=MARGBOX #8020:#12539 中将のお許(髭黒付)(0)+#19098 髭黒(3)→
- rightbox=MARGBOX #8276:#12556 木工の君(0)+#19115 髭黒(4)→
なぜだろう?AFTERMARGSAMEGENEフェーズではこれらの結婚に対するBTWは試されていない.MainExperiment→ ReduceMultiCard→ FindDoublyBlessedOneでは多重カードを持つ人名リンクを対象にそのノードが配偶者となっている結婚枠を総当りでチェックしているので漏れがないが,TRIBEBOX::BetweenTwoWomenでは制約条件が多いため外れている.現行方針は,AFTERMARGSAMEGENEで①すべての系列の物理コネクションを確立する,②多重不可避を除くすべてのノードで絶対世代番号と物理世代番号が一致する配置を確定する,というものになっているので,少なくとも系列優先ノードの関わるBTWはこのフェーズの中で決めてしまう必要がある.
AFTERMARGSAMEGENEのループで実行しているBetweenTwoWomenを廃止して,系列優先ノードに限定してFindDoublyBlessedOneを使ってみることにしよう.⇒いや,むしろ,EstablishMajorTribeChainにそれを組み込んだ方がよいのではないか?⇒TRIBEBOX:addTribeTreeGraphでHasPhysicalConnectionに失敗したとき,系列優先ノードのBTWを試みるようにした.⇒これにより,TRIBEBOX #16586 先祖=#12539 中将のお許(髭黒付)(0)[6] 優先=#19098 髭黒(3)→#8697 玉鬘(0) →主系列#15210:※3 type=BTW左接続関係を確立できた.しかも,これ一発ですべての障害が解決した.
このサンプルでは髭黒が多重になって,多重が6件発生しているが,髭黒(2)と(3)は同世代なので仮ノード消去できるように見える.なぜ,それができないのかを見ておこう.髭黒の仮ノードは7個あるが,可視ノードはNAMEBOX #18950 髭黒(2)と#19098 髭黒(3)だけだ.髭黒(3)は配偶者だが,BTWの左手本人になっている.髭黒(2)は消去された仮ノードの実ノードで同時にTYW枠本人でもある.TYWをLDRに転換するという関数はあったはずだが… ⇒NAMEBOX::ExtractBox2LDRsubでそれをやっている.ExtractBox2LDRはeraseGhostからしか呼び出されていない.TYW枠を吸収するという処理もあったのではないか?
TOPOLOGY::CheckAbsorbMarriageは一度も実行されていない.⇒クラスタ循環がある場合には実行を抑制している.⇒クラスタ循環がある場合もCheckAbsorbMarriageを実行するようにした.これで髭黒の多重は消えて,多重5件という最小値まで削減することができた.これ以外のパターンで多重カードが5件以上になるケースがかなりある.これは避けられないのだろうか?
▲同上サンプルの#56 今上で停止した.TRIBEBOX:CheckAbsoluteGeneで(prime->IsValidNameBox() && !primary->breakup)が起きている.(primary->getnodegene() == prime->getFloor())の場合はその直前でゼロ復帰しているので,系列優先仮ノードの絶対世代番号と物理世代番号が一致していないことを意味する.系列優先仮ノードがbreakupでないということは,そのノードがクラスタ循環でパージされた結婚に関わっていないということを意味するので,本来なら一致していなくてはならないのだが…
エラーを無視して続行すると,EstablishMajorTribeChainで停止しない状態になる.障害が起きているのは,TRIBEBOX #15140 先祖=#10448 二条太政大臣(0)[1] 優先=#9547 今上(0) で始系列だ.これはかなりおかしい.TRIBELIST::SetAbsolutePotentialでは,「絶対世代番号系と物理世代番号系を一致させる」としているのだが,一致していない.SetAbsolutePotentialは以下の3箇所から呼び出されている.
- AdjustTribeGeneration(void) (TRIBELIST)
- HeapTribeBoxes(bool symmetry) (TRIBELIST)
- SetTribeMaxGene(char * caller) (TRIBELIST)
SetTribeMaxGeneはGoDownStreamの出口で呼び出されている.また,TribeRelocationのステージ【1】系列相対世代番号を正規化するの段でNormalizeRelativeGenerationにより「系列相対世代番号を正規化する」ところでも実行される.また,ShiftDirectAbsoluteの中からも実行される.ShiftDirectAbsoluteの中からも実行されている.系統の最古世代先祖の絶対世代番号が1になっている.これはかなりおかしい.
絶対世代番号は0発進のはずだ.最古世代先祖として#10448 二条太政大臣(0)が選択されているが,明らかにこれは間違いだ.CARDLINK:#2922 @211※2[0]かないし,CARDLINK:#1473 @50※3[0]でなくてはならない.ということは,TRIBELIST::GetTheEldestが間違っているということになる.
水洗トイレが壊れてしまった 浮玉が上がっているのに水が止まらない
床に就く直前だったのですでに朦朧としていたが,工具類を引っ張り出して無我夢中に取り組むうち何とか水栓を止めて分解するところまではできたので,あとはそのままにしてぐたっと寝込んだ.
カインズに行けば多分パーツを見つけることができるとは思うが,このところ昼夜が逆転しているので,しばらくは昼間表に出られない.ともかく,(よほど太物でない限り)シャワーで流せることだけは確認してある.(もともとこのトイレにはトイペーというものは置かれていない.シャワーでお尻を洗うとき,ついでに便器も洗うというだけだ)
多重カードが最小値の5ではなく,7になってしまう原因がわかった.TribeRelocationに続くメインループTRIBELIST::MainExprerimentで打ち切っていたためだ.多重カード数が下限と推定される値に達したときには処理を打ち切ってループから脱出するようになっていた.推定下限値にはこれまでsameGeneCyclesが当てられてきたが,現行ではTOPOLOGY::Inevitables「多重不可避カード数」が適用されている.これらの値は(源氏7をサンプルとしたときの)多重カードの最小値より大きいため,最小値まで削減される前に終了してしまっている.
この脱出条件を止めると,処理は多重カード数が静定するまで続行するので,最小値が確実に実現されるようになる.実際,このように手配した後では,「重婚クラスタ循環を子ノード側で切断」する場合も「親ノード側で切断」した場合も同じ結果になる.つまり,重婚クラスタ循環を切断するためのカットセットは必ずしも一意ではないが,最終出力としては同じ結果が得られると言える.これで重婚クラスタ循環が存在する場合を含めて,つねに最適結果を出力することができるようになった.別の言葉を使って言えば,「系図作図問題の原理的な完全解」を得ることができた,つまり,「系図作図問題が初めて原理的に解かれた」と言える.(思えば長い道程だった…)
軸線図がおかしい.#1 光源氏の軸線図が紫の上で止まってしまう.光にはまだ他の子どもがいる.もっと長い軸線があるはずなのだが… どうしたのだろう?軸線図はすでに仕上がっているはずだったのだが…
軸線図処理は2つのパートからなっている.①TOPOLOGY:FindJikusenAncestorはDECOMPOSITIONフェーズで系列分解処理TribeDecompositionの中から呼び出されて「軸線最長鎖」を決定し,②TOPOLOGY::CallBuildShaftLineは,TribeRelocationの中からBUILDCENTERLINEフェーズで呼び出されて.軸線グラフから血統軸線を構築する.①では最初に直系血族グラフを生成し,このグラフからGetLongestChainで軸線最長鎖を切り出している.
直系血族グラフの生成は単純な処理なので間違いないと思われるが,GetLongestChainでは明らかにやり損なっている.GetLongestChainでは最初にGetHasseDiagramを呼び出して枝グラフからハッセ図を生成している.このグラフをインポートしてみよう.
この図から見ると,最長で8世代に渡る軸線が存在する.先祖ノードは※3,末裔ノードは若宮(匂宮の)だ.これから軸線を切り出すのは容易であるように思われるのだが… この後,MakeAntiChainListで反鎖リストと呼ばれるものを生成する.反鎖リストは同世代ノードリストとも呼ばれ,同世代ノードを成分とする成分分解リストである.反鎖リストもCSV形式でエクスポートできる.90度回転させるとこんな図になる.
GetLongestChainの最終出力である軸線最長鎖は間違っていない.FindJikusenAncestorの最終出力も正しい.先祖ノード:CARDLINK:#1473 @50※3[0] 末裔ノード:CARDLINK:#1482 @51若宮(匂宮の)[0]となっている.結局,CallBuildShaftLineでやり損なっているということになる.CallBuildShaftLineは重婚クラスタ検定の前に実施される.この後の重婚クラスタ検定で軸線が崩されている可能性が高い.軸線が成功するためには,紫の上の下に明石中宮が来なくてはならないのだが,実際の出力でその辺りがどうなっているのかを見てみよう.
明石中宮は世代的には紫の上(0)の下の世代に配置されているが,紫の上のもう一つのカードである紫の上(1)に連結されている.これを紫の上(0)の直下に持ってこなくてはならない.確かにこれは難しい問題だ.結婚枠(子ども枠)は親(のいずれか)の直下に配置されることになっている.明石中宮の親は光源氏+紫の上であり,その意味では光源氏の直下か,ないしその配偶者である紫の上(1)の直下しか居場所はない.紫の上(0)は光源氏の娘(養女)ではあってもその配偶者ではないからだ.
軸線を描画するためにこの原則を曲げることは可能だろうか?光源氏→ 紫の上で止まるより,光源氏→ 明石中宮→ 匂宮→ 若宮 (匂宮の)の方が長い.実際,光源氏の軸線を考えるなら,その方が妥当だろう.つまり,光源氏→ 紫の上という関係を軸線から外して考える必要がある.しかし,光源氏→ 紫の上が親子関係(養親子関係を含む)にあること自体が問題という訳ではない.そもそも光源氏+紫の上→明石中宮という関係そのものが養親子関係だ.
軸線に反映する親子関係を実親子関係に限定するという割り切り方もあるのではないか?いや,それもやや疑問だ.光源氏→ 紫の上を実親子関係,光源氏+紫の上→明石中宮を実親子関係としても同じ問題が発生する.一番わかり易いのは,重婚クラスタ検定を経た後の「正則系図」上で軸線を考えるということではないだろうか?多系列にまたがる軸線というのを描画できるだろうか?現状では少し難しいように思われる.
現行枠組みを維持したまま,軸線図検定で光源氏→ 紫の上という親子関係をパージするというのがもっとも望ましいのだが… 重婚クラスタ検定を系列分解より前に実施することは可能だろうか?重婚クラスタ検定で用いているのは,①婚姻関係と②親子関係だけであり,系列という概念は持ち込まれていないはずだ.重婚クラスタ検定を先行実施できれば,「正則系図(絶対世代番号を付与されたハッセ図)」上で軸線を考えるということも可能になるのではないだろうか?不可能ではないような気がするので挑戦してみよう.
重婚グラフ検定はBuildSameGeneMarriageGraphとGetHasseDiagramという2つのパートに分かれていて,TRIBERELOCATIONとSAMEGENEMARRIAGEという2つのフェーズにまたがる大きな処理だが,一つにまとめることができる.これをまず,関数化しておこう.⇒TOPOLOGY::CheckWeddingClusterとしてみた.⇒まったく問題なさそうだ.少し面白くなってきた.⇒ダメだ.反例が出てしまった.桐壷院でソートしたら,EstablishMajorTribeChainで収束しないようになってしまった.⇒これは改修する前の版でも起きる.まず,このバグを取らなくてはならない.
▲源氏物語全系譜7.ZELを#1041 桐壷院でソートして,AFTERMARGSAMEGENEフェーズでTOPOLOGY:EstablishMajorTribeChainが収束しない.主系列が決定できないのは,TRIBEBOX #189411 先祖=#183114 三位中将(0)[27] 優先=#192114 夕顔(2)→#190999 夕顔(1)だ.系列接続種別は婚姻関係,系列優先仮ノードの夕顔(2)は消去された仮ノード属性を持ち,始系列の一院系列所属の優先実ノードの夕顔(1)は実ノード属性を持っている.何の問題もないように見えるのだが…
実ノードの絶対世代番号が物理世代番号と一致しないという理由だ.
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即席のドーナツを作ってみた.小麦粉+ベーキングパウダを水で溶いて熱した油の中にポトンと落としただけ.速攻3分でできあがり.ただし,画像をアップロードするのに2日掛かった.
重婚クラスタ循環は多重カードが発生する原因だが,循環に関係するクラスタに属するすべてのノードが関わっているという訳ではない.むしろ,循環を解消するためにパージされた婚姻グラフの枝,つまり結婚当事者ノードに関わりがある.循環の発生している重婚クラスタに属するノードにはCARDLINK::samecycle属性が付与されているが,それを代替するものとして,breakup属性を導入し,循環を解消するために削除された婚姻枝の結婚枠とその当事者ノード付与するようにした.{samemcycle} ⊃ {breakaup}でbreakup属性の方がより範囲が狭い.つまり,焦点深度が深い.CARDLINK::samecycleは廃止した.
TOPOLOGY::BuildSameGeneMarriageGraphのステージ【13】重婚グラフの循環が止まるまで枝を除去するの段では,「重婚クラスタ循環が存在するとき,親子枝の親ノードの配偶者の配偶者関係を切断」していたが,ターゲットを「親子枝の子ノード」に切り替えてみた.サンプルの源氏物語全系譜7.ZELでは,この親子枝は光源氏→夕霧に該当し,これまでは親の光源氏をクラスタから切断するという処理になっていたところを,子ノードの夕霧で切断するという操作に切り替えた.この結果,多重カードは現行の7から5まで削減することができた.修正前の多重カードは以下の7点だが,▲マークの付いた,源典侍と真木柱は修正後の版では多重になることを免れている.
- @5紫の上(若紫)[5]
- @57女三宮[4]
- @100源典侍[4] ▲
- @101朧月夜[4]
- @103空蝉[4]
- @104藤壷の宮[4]
- @144真木柱[6] ▲
これで見る限り,修正後の版の方が高品質であるように思われるが,親ノードと子ノードのどちらを切断する方が有利かはケースバイケースであり,本来ならその優劣を計量して決定すべきところだが,多重カードの出現数はコンテキストに依存して決定されるため,この時点では確定することができない.実際,「子ノードで切断」する方式の場合,削除される枝数は以下のようにむしろ増加している.下記▲は「親ノードで切断」には含まれない循環/削除枝.
- 削除枝:直系血族配偶者 MARGBOX #8260:#8612 光源氏(0)+#17138 紫の上(若紫)(1)→#8663 明石中宮(0)
- 循環枝:【2】⇒【2】 【CARDLINK:#1095 @8夕霧[0]】⇒【CARDLINK:#1032 @1光源氏[0]】
- 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #6916:#17276 落葉の宮(1)+#9938 柏木(0)→ ▲
- 循環枝:【2】⇒【2】 【CARDLINK:#1032 @1光源氏[0]】⇒【CARDLINK:#1041 @2桐壷院[0]】▲
- 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #8548:#17672 柏木(1)+#17686 女三宮(2)→#17700 薫(2)
- 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7252:#10601 伊予介(0)+#18368 空蝉(2)→
- 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7076:#9887 致仕太政大臣(0)+#17571 夕顔(1)→#17585 玉鬘(1)
- 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7092:#9887 致仕太政大臣(0)+#17600 源典侍(2)→
- 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #7380:#9309 朱雀院(0)+#17339 朧月夜(1)→
- 削除枝:重婚配偶者 MARGBOX #8292:#8629 桐壷院(0)+#17389 藤壷の宮(1)→#17403 冷泉院(3)
直系血族婚はあらかじめ除去されているので循環枝に含まれていないが,それを含めれば,修正前の方式では循環を解消するために2箇所の切断が必要であり,修正後の方式では切断は3箇所に増加,パージされる婚姻関係(削除枝)は前者が7であるのに対し,後者では8に増加している(しかし,多重カード数は後者の方が少ない).
HasPhysicalConnectionで系列優先実ノードの絶対世代番号と物理世代番号の一致を求めるように修正した.HasPhysicalConnectionはDoesMajorTribePathExistとaddTribeTreeGraphから呼び出されている.DoesMajorTribePathExistはIsConnectedとSetMinorTribe,TribePrimaryCandidateで使われている.addTribeTreeGraphはEstablishMajorTribeChainから実行される.この修正により,源氏物語全系譜7.ZEL #1 光源氏で起きていた「絶対世代番号と物理世代番号の不一致」は解消した.
多重カードは5枚.多分これは最少多重カードになっていると思う.ZT BASICではグラフ検証系を使えないため,9件の多重カードが残る.最近の修正をフィックスしておこう.
- CARDLINK:samecycleを廃止する@20210315 12箇所
- MAXREPEATCOUNTを廃止する@20210315 8箇所
- MakingLookUpは系統並び替えで一度だけ実行する@20210227 廃止 10箇所
- TESTABSOLUTEGENERATION 3箇所
- 仮修正 2箇所,OBSOLETE 1箇所
Version 2.2.0.029 Release 2021-03-17を所内リリースした.⇒ダメだ.多重カードが7に戻ってしまった.修正フィックス前の版でも同じ.⇒ZELKOVA 2021-03-15-2まで戻れば復活する.WinMergeでファイルを比較してみたが有意差は見つからなかった.この版とZELKOVA 2021-03-16の相違点はグラフ関係の関数を移動していることと「MAXREPEATCOUNTを廃止する」修正がまだ入っていないくらいだ.その他TribeRelocation.cppには細かい差異があるが,一瞥しただけでは致命的なものは見つからなかった.
ともかく,この版に戻って出直すしかない.まず,この版で「CARDLINK:samecycleを廃止する@20210315」と「重婚クラスタ循環を子ノード側で切断する@20210315」をフィックスしておこう.⇒後者はSPECIFICATIONとして温存しておいた方がよい.この版でリリース版を起こしておくことにする.その前にZT BASICで動作することを確認しておこう.⇒OKだ.改めて,「MAXREPEATCOUNTを廃止する」を入れておこう.
重婚クラスタ検定論理の修正
TOPOLOGY::BuildSameGeneMarriageGraphを修正して,ステージ【3】婚姻関係にある2つの人名を連結する枝をグラフに追加するの段で「直系血族婚関係を重婚クラスタグラフからあらかじめ排除する」ようにした.また,重婚クラスタ循環が存在するとき,親子枝の親ノードPの配偶者の配偶者関係を切断する処理で,配偶者Aの配偶者Bとの関係が配偶者Bの唯一の結婚の場合には切断しないように修正した.
これはこの切断によって配偶者Bが孤立してしまうことを防止するためである.この関係を切断しなくても,クラスタの世代分割には支障はない.配偶者Bは配偶者Aとともに親ノードPのクラスタに移籍するようになるからだ.これで,少なくとも大臣(葵)系列と蔵人の少将 (夕顔)系列で発生していた,「絶対世代番号と物理世代番号の不一致」は解消したが,まだ複数の「絶対世代番号不一致」が残っている.
この中には,先帝系列,※6系列,※7系列,按察の大納言(若紫)系列が含まれているが,問題は系列優先ノードとその他のノードとの位置関係にある.このブロックの中心は先帝系列でその優先ノードの紫の上(若紫)が光源氏との直系血族婚関係にあるため多重出現していることが関係しているのではないか?だとすれば,どうすればよいか?
系列優先ノードでsamecycle属性を持っているノードが14点,breakup属性を持っているノードが4点ある.samecycleは循環の発生している重婚クラスタに属するノードで,breakupは循環を解消するために削除された婚姻枝の当事者ノードだ.breakupノードは一般にsamecycleノードでもあるが,紫の上(若紫)は上記修正により,重婚クラスタ検定に入る前に直系血族婚関係で除去されているため,breakup属性しか持っていない.breakup属性を持つ優先仮ノードには以下がある.
- TRIBEBOX #15205 先祖=#8765 一院(0)[1] 優先=#8612 光源氏(0) 始系列
- TRIBEBOX #15349 先祖=#10533 先帝(0)[4] 優先=#50277 紫の上(若紫)(3)→#17138 紫の上(若紫)(1)
- TRIBEBOX #15593 先祖=#10516 衛門督(箒木)(0)[15] 優先=#18334 空蝉(1)→#10346 空蝉(0)
- TRIBEBOX #16087 先祖=#10414 三位中将(0)[28] 優先=#18734 夕顔(2)→#8612 光源氏(0)
このグラフのクラスタ図を見てみよう.
※6系列と※7系列が中務宮と同じ世代まで下がっているところが特徴的だ.※3と並ぶ※2系列は実際の出力では左端に移動しているが,高さは変わらない.実際の系図出力は下図のようになっている.
系図全体の世代高さは同じ9世代だが,クラスタ図には冗長なところが存在しない.どこでこの差異が発生しているのかを突き止めなくてはならない.紫の上のカードは2つ出ている.紫の上(0)は葵の上の直下の子ども枠内で絶対世代番号と物理世代番号は一致している.紫の上(1)はその一つ上の世代,光源氏の結婚枠内で絶対世代番号5に対し,物理世代番号は4になっている.
クラスタ図上には人名カードの重複は存在しないから,クラスタ図上では絶対世代番号5の位置にあり,他の場所から参照される場合もその位置で参照されているはずだ.先帝系列の優先ノードを紫の上と決定したときの選択に誤りがあるのではないだろうか?つまり,クラスタ上で決定した位置に配置されるべきノードを選択すべきだったのではないだろうか?⇒少なくとも系列優先実ノードの絶対世代番号≠物理世代番号であることが決定因であることは間違いなさそうだ.
クラスタ図を用いて絶対世代番号を決定した後の処理
重婚クラスタ検定でクラスタ図を用いて絶対世代番号を決定した後の処理を見直す必要がある.ここでは2つのことを実施している.①絶対世代番号を用いて各描画要素の配置を決定すること,②系列間の参照関係を確立し,物理的なコネクションを確保すること.①は主にTRIBELIST::ShiftDirectAbsoluteとAdjustTribeGenerationによって実行され,②はTOPOLOGY::EstablishMajorTribeChainが担当する.
①の状態を検査するためにTREEVIEW::TestAbsoluteGenerationを復活させた.系列参照関係はすでにMAKEUPTREEフェーズで基本的には確立しているが,物理的なコネクションを構成するためにTRIBEBOX::TribeGhostNameとBetweenTwoWomenが発動される.また,これらの処理によって描画要素の垂直位置関係に矛盾を解決するためにCheckTribeVerticalPositionが用いられる.
重婚クラスタ循環がない図面ではこれらの道具立てで十分処理できるのだが,問題は源氏のように重婚クラスタが無数に存在するような図面の場合だ.このような図面に多重カードが発生することは避けられないが,それを極小化するためには,絶対世代番号を用いた配置とそれからの逸脱をコントロールする必要がある.どうすればよいか?
まず,重婚クラスタグラフからハッセ図を生成するときに除去された削除枝(結婚)を追跡できるようにしておこう.一度バックアップに戻って出直すことにする.