経済循環マトリックスと総体経済の四面等価原理

2021/06/30 5:00

生島さん

>お返事できなくすみません。今、AI系の仕事でアップアップなので経済系はお休みしています。

どうぞ,ごゆっくり.経済循環グラフのマトリックス(接続行列)からGDPを簡略に計算するための表を作ってみました.内閣府が公表している「基準国民経済計算の作成方法」とはまったく違うアプローチになりましたが,減価償却など「取引によらない資産・負債の量的移動」は計算するすべがありませんのでやむを得ません.経済循環グラフはノードと枝がそれぞれ一つの値を持っているだけなので,この表を作るためには,個々のトランザクションの内容についてのもう少し詳しい付加的情報が必要です.一つのセルにはセクターAに属するノードからセクターBに属するノードへの複数のトランザクションが合算して詰め込まれますが,マトリックス上のセルC(i, j)は,「i行のセクタ-iからj列のセクターjに通貨が移動する」のようにお読みください.

横軸で集計すると支出合計となり,縦軸で集計すると収入合計になりますから,表全体を縦横で累計すれば総支出と総収入が一致することは間違いありませんが,「国民経済計算」というのは実体経済にのみ関わる計算なのでそれを切り分ける(ヴェルナーの用語で“deaggregate”する)のが,かなり厄介なところです.下表は今のところその「試作段階」というところですが,赤字は国民総生産に関わる項目,青と茶は国民総所得に関わる部分というつもりで作りました.黒の細字の項目はGDP計算[国民経済計算]に関わりのない[金融経済にのみ関わる]数字として計算から除外します.ざっと描いてみただけの段階なので,あちこち間違っているところがあると思います.かなり興味深いものになってきたような気もしておりますので,ご批評頂ければ幸甚です.

公共 企業 金融 家計 支出合計
公共 貸付,返済
補助金,
利子補給
交付金
資産購入,
借入利息
補助金
インフラ,資本財
消費支出
資産購入,
借入利息
返済
公債償還
資産購入,
借入利息
人件費
給付金
資産購入,
借入利息
歳出
財政支出
公務員給与
企業 租税
資産購入,
地代家賃
仕入れ・外注費,運賃
資本財,消費支出
資産購入,
借入利息
貯蓄,返済
資産購入,
借入利息
人件費
資産購入,
借入利息

貸付,返済
企業支出
営業費用
事業所得
民間人給与
金融 租税,公債購入
貸付,返済
資産購入,
借入利息
貸付,預金引出
資本財,消費支出
資産購入,
借入利息
貸付,返済
資産購入,
借入利息
人件費
貸付,
預金引出
資産購入,
借入利息
金融支出
営業費用
銀行員給与
家計 租税
保険料,手数料
水道料金,
通行料
資産購入,
借入利息
住宅購入,
消費支出

資産購入,
借入利息
貸付,返済
貯蓄,返済
資産購入,
借入利息
人件費
資産購入,
借入利息
家計支出
生活費用
使用人給与
収入合計 歳入
公租公課
払い下げ
企業収入
純消費額
企業収益
金融収入
企業収益
家計収入
企業収益
個人所得
通貨循環量
国民総生産
事業所得

国民総生産国民総所得=国民総支出
国民総所得個人所得事業所得
国民総支出純消費額財政支出営業費用生活費用

  • 輸出入に関わる外部取引はすべて無視するものとする
  • 耐久消費財・資本財は買い切りとし,減価償却は行わない
  • 在庫計算・廃棄物計算は行わない
  • 自社開発ソフト・社内の研究開発などによる産出成果は無視される
  • 取引によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される

公共:政府・地方政府・公的企業

企業:法人・団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・自営業者・フリーランサーの営業活動

人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬

消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療),耐久消費財,サービスの購入

耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車

インフラ:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水

資本財:工場・機械(ロボットを含む)・設備・船舶・航空機・建物などの新規築造 / 取得

資産購入:転売:土地・資本財・有価証券(金融資産)→財産所得:地代・家賃・金利・配当

借入利息:資産の賃借料など(地代・家賃・金利・配当)

この表が完全に仕上がったら,もう少し詳しい説明を付けたいと思います.それができれば,ダグラスの等式も改めて再検証できるのではないかと思っているのですが…

2021/07/01 4:22

生島さん,下田さん

少し整理してみました.多少分り易くなったのではないかと思います.

国民経済マトリックス

国民総生産国民総所得=国民総支出
国民総所得個人所得事業所得
国民総支出純消費支出財政支出営業費用生活費用

  • 公共:政府・地方政府(地方自治体)・公的企業(独立行政法人など)
  • 企業:法人・各種団体(医療,政治,宗教,その他任意の民間非営利団体を含む)・個人事業主など何らかの生産・サービス活動を行うすべての経済主体 個人事業主は企業部門と家計部門の両面に出現する
  • 人件費:賃金・役員報酬・自営業所得・パートタイマー・専門職その他,役務に関わるすべての個人報酬
  • 消費支出:消費財(食料・エネルギー・通信・教育・衣料・娯楽・医療,その他),耐久消費財,サービスの購入
  • 耐久消費財:電気製品・家具・自動車・自転車など比較的耐用年数の長い商品
  • 資本財(固定資本財):工場・機械(ロボットを含む)・設備・車両・船舶・航空機・建物など耐久性があり,生産活動に用いて将来の収益を生み出す資本となるもの 
  • 基盤投資:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水などの大規模公共建造物(インフラストラクチャ)の築造・整備
  • 資本投資:将来の生産活動のために必要とされる資本財(生産設備)の購入
  • 融資返済:融資(ローン)は現金の貸付であり,返済にはローン元本の返済と金融債権(額面のみ)の償還が含まれる(金利・配当は別途,資産配当として計上する)
  • 資産投資(資産・債権の購入):投資を目的とする不動産・金融資産(株式,有価証券)の購入,資産配当(財産所得)の源泉となる 不動産は第三者に貸し付けることによって初めて配当を生じるが,金融資産はそれ自体が有利子債権である 資産の再貸付(又貸し)ないしその資産を担保とする融資なども行われる 投資の目的が配当を得ることよりも資産の価格変動による売買差益を狙う場合には投機と呼ばれる 金融債権の償還は返済に含まれる
  • 資産配当:融資債権,金融資産などの資産保有者の得る財産所得(地代・家賃・金利・配当)金融資産はすべての部門の任意の当事者間で取引可能であり,蓄蔵性を併せ持つので,流通速度の遅い通貨の一種とみなされる  

国民経済計算との相違点

  1. 対象領域は閉じた経済循環系であるとする.従って圏外の外部取引(輸出入など)はすべて無視される.
  2. 経済循環グラフのノードは独立の経済主体であり,ノードをつなぐ枝は1個の取引を表示する.グラフの枝リストとしてブロックチェーンを持ち,枝(トランザクション)に相当するブロックにはリアルな取引情報が記載される.
  3. 内閣府の国民経済計算では1年を四半期に分けて,2期遅れくらいで各省庁が収集・整理した各種の産別統計を突き合わせながら推計値の計算を行っているが,本試算表では国民経済の時点表示である経済循環グラフの接続行列表現(マトリックス)を用いるので任意の時点でリアルタイムに計算を完了することができる.
  4. 計算はブロックチェーン上のトランザクション情報のみを参照する.従って,「取引」によらない資産・負債の生成・移動・消滅はすべて無視される.つまり,①耐久消費財・資本財はすべて買い切りとし,取引に対応しない減価償却計算などは行わない.②流動資本財(原材料,仕掛品,製品在庫)は計数しない.原材料は購入時点で全量消費されたものとみなす.③取引実績のない資産は計量できないので研究開発費などの資産評価は行わない.
  5. 国民経済計算では国民経済を①非金融法人企業,②金融機関,③一般政府,④家計,⑤対家計民間非営利団体の5部門に分割している.本試算表では⑤を①と合併して「企業」とし,①公共,②企業,③金融,④民間の四部門に分割した.民間非営利団体(政府は公的非営利団体である)は一般企業と同様に財貨・サービスを生産・販売し,役員報酬や従業員給与の支払い,外注など外部主体との取引その他あらゆる点で,一般事業者との相違を見出すことは難しい.異なるところは(規模・目的・税制などは別として)事業収益を配当として分配するか否かの点だけと考えられるが,一般事業者でも無配どころか赤字経営というところはいくらでもあり,特に分離する意味はない.
  6. 以前に投稿した「日銀マネー循環図」では①政府,②日銀,③銀行,④国民という4部門に分割していたが,今回の試算表では「国民」を「企業」と「家計」に分割し,「銀行」を「金融」にリネームしている.「日銀マネー循環図」の「日銀」はこのマトリックスのどこにも出現しない.これは国民経済循環グラフ,つまり経済循環システムそれ自体が中央銀行システムであり,システムの全体であるために見えなくなっているものと理解される.
  7. なお,この経済循環システムでは,すべての経済主体は中央銀行に直接当座預金口座を持ち,現金(硬貨・紙幣)はすでに廃止されていることを仮定している.また,中央銀行は「近未来的貨幣中立論」の立場から経済循環系の中の参加メンバーとして振る舞うことを想定していない.

国民経済試算表の考え方

  1. 三面等価原理により,①国民総生産,②国民総所得,③国民総支出の三面が一致しなくてはならない.このうち,国民総生産は期間内に生産された財貨をカウントすればよいので,比較的簡単に計算できると考えた.国民経済を上記のような方針で部門分割しているので,すべての財貨は企業部門でのみ生産されるとしてよい.従って,企業部門で販売された最終消費財の総計が国民総生産に相当すると言える.→上の表の赤色枠で囲まれたブロック.
  2. 赤色枠の中の赤太数値の合計が純消費支出であり,それを部門ごとに集計したものが,財政支出営業費用生活費用であるから,国民総支出純消費支出財政支出営業費用生活費用となることは明らかである.
  3. 試算表の計算では企業部門で販売価格に転化されない自家消費分は消費支出として純消費支出に算入する.また,仕入れ,外注費,運賃は販売価格(消費支出)に転化される(含まれる)ものとして計算から除外する.
  4. 他の3部門(公共,金融,家計)における経済活動は主として「サービス」のカテゴリに入るものと考えられるが,そのうち家計部門の活動は主として「労働(知的生産活動を含む)」であり,これらの生産量は最終消費財の価格の中に含まれる.金融部門のサービスの貨幣価値は経済システム全体の規模と比較して相対的に十分小さいと考えられるのでゼロで近似しても大きな誤差は発生しない.
  5. 政府部門のサービスの規模は国民経済のかなりの割合を占めると考えられるが,分節するとそのほとんどすべては企業部門が生産する財貨に含まれている.政府部門の提供する公的サービスは(一部受益者負担はあるとしても)原則として「無料」であることが仮定されていると考えられるので国民総生産にはカウントしない.
  6. 国民経済は大きく分けて実体経済と金融経済に二分される.通貨の純粋な移動は基本的に金融経済的な活動とみなされる.融資,返済,資産投資,資産配当,貯蓄と預金引出し,公債の発行と償還などがそれに該当する.これらはすべて国民経済試算の対象外とする.
  7. 国民総所得の等式の右辺の「個人所得」は青色枠で囲まれた家計部門収入のうち,各部門で支出された「人件費」の総額と見てよいはずだ.
  8. 問題は「事業所得」をどうやって計算するか?という点にある.企業部門の支出合計を企業支出,収入合計を企業収入とすれば,事業所得=企業収入-企業支出となるはずだが,この計算は実物計算と金融経済の混合計算になってしまうため検証が難しい.そこで,企業部門の全支出のうち,金融経済に関わる部分だけが事業所得と推定されるという仮説を立てた.これは他部門に通貨を移転するためにはそれだけの所得がなければ実行不能と考えられるからである.→茶色枠で囲まれたブロック.所得を計算するのに支出から推定するというのはやや逆説的だが,おそらくこれしか方法がないのではないか?
  9. 青色枠の合計を個人所得茶色枠の合計を事業所得とすると国民総所得個人所得事業所得となる.問題はこの2つ,国民総所得国民総支出が一致するか否か?という点にある.もし,この計算が一致すれば,ダグラスのA+B理論は否定されることになる.ダグラスは事業所得の一部は必ず貯蓄に回るはずであり,もしそうであるとすれば純消費支出C個人所得A)+事業所得Bであり,等式を修正して純消費支出=国民総支出=個人所得+国民配当+事業所得としなくてはならないと主張している.
  10. この試算表の構成が正しいとすれば,国民総所得個人所得事業所得となるのはマトリックスの構成から見てもかなり特殊な場合に限られる.むしろ,逆にこの等式が成立する条件を見つける方が早いかもしれない.
  11. 公共部門支出にはこの他にも補助金交付金給付金などの項目がある.給付金はダグラスの国民配当に該当すると考えられるが,これらは基本的に「所得の再分配」なので,国民総生産には算入しない.(もちろん給付金の支給が国民総生産にまったく影響しないと主張するものではない.適切な所得再配分は経済成長に寄与するだろう.
  12. 家計の支出項目にベビーシッタなど家庭内の家事などのために雇った使用人に対する報酬を人件費として計上してみたが,この金額を国民総所得に算入することに関しては疑問がある.もし,これが正しいとすると専業主婦の家事労働に給与を支給することで国民総所得が増加することになってしまう.ベビーシッタの雇用を事業とみなして企業会計で処理することにしても実情は変わらない.しかし,使用人への報酬が所得計算から外されるというのもおかしい.どうすればよいか?→ベビーシッタの雇用は営利を目的とするものではないが,やはり,企業会計で扱うしかない.企業会計なら損金処理されるのでたとえば,その分貯蓄が減少するなどの形で帳尻が合う.

政府のGDP統計には「対家計民間非営利団体」というのが独立の部門として入っていますが,むしろ,「不労所得者・ギャンブラー」,「横たわり族」,「超富裕層・財団法人」などの部門を設けてその動態を分析した方が興味のある結果を得られるかもしれません.このマトリックスに「外国」という部門を設ければ一応輸出入などを扱うこともできますが,為替の問題などが発生するのでその前に複数の経済循環系が含まれる複合系(開かれた経済循環系)の経済循環グラフを描く必要があります.今回そこまで手を広げられるかどうかは,ちょっと分かりません…

「公共サービスは基本的に無料」という原則(多少の手数料は徴収される)があると思いますが,確かに「無料サービスの領域」というのはかなりの速度で拡大しているようにも感じられます.そこまでゆくとマクロ経済学は環境経済学と地続きになります.無料サービスは構成的に国民総生産に貢献しないというのも多少疑問はありますが,無料サービスに値付けをするとなると宗教の領域に入ってゆくことになるかもしれません… 政府部門に属する経済活動には「現業部門」というのがあり,これが国民総生産に入っていないのは手抜きです.健康保険料,手数料,水道料金,通行料などに対応する事業がそれに該当します.これらを取り除くと上のマトリックスは「現業部門の完全民営化」に等しい状態になりますが,むしろ方向としては,民営化ではなく無料化というのが正しいのではないでしょうか?(完全無料化には弊害もありますが,救急車が有料化されたら119番をコールするのにためらう人も出てくるでしょう)金融部門収入のセルにもピンクで着色された手数料がありますが,これも無料化するべきでしょう.

「環境」が万人を包摂する「無料サービス」であるとして,その「価値」をどのように計量・評価するか?という視点から見ると,「宗教は無料サービスの価値に関する経済学」であるとみなすことも可能である.言ってみれば,宗教は「公共経済学 / 政策」の一種である.ネオリベラリストが推進するあらゆる公共サービスの民営化というアィディアをどう評価すべきか?⇒参照:パートⅢ

かなりまとまって来たように思いますが,まだ間違っているところがあるかもしれません.お気づきの点,ご不明の点などありましたらお知らせください.このテーブルを実体経済マトリックスと呼ぶとすれば,その裏面の金融経済マトリックスというのも存在しなくてはなりません.それがどういうものになるのか?ちょっと見当も付きません.完全に「双対」なものになればおもしろいのですが…

馬場英治

2021/07/01 12:59

訂正:前便の記述にはほぼデタラメに近い致命的な誤りがあります.再考には相応の時間を要する見込みです.しばらくの冷却期間をお許しくださいますようお願い申し上げます.英治

2021/07/02 4:41

生島さん,下田さんE

どうもお騒がせしました.お手数ながら前便は速攻で破棄してください.あまりひどいので,どこが間違っていたのかの説明は致しません.さて,気を取り直してもう一度最初からやり直すことにしましょう.

目標はブロックチェーンを枝リストとして持つ経済循環グラフの接続行列を使ってある期間のGDPを求めるというものです.ブロックチェーンには該期間内のすべての取引情報がリストとして保持されているとします.ブロックチェーンのブロック一つがグラフの枝に相当し,ブロックには少なくとも以下の情報が記録されています,①取引種別,②債務者,③債権者,④債務額.取引種別では少なくとも,その取引の目的が「仕入れ」であるのか,「最終消費」であるのかが識別できる必要がありますが,それ以上の詳細情報は今のところ必要ではありません.売買取引の場合,物品がすでに引き渡されていると仮定すれば,債務者は物品の受取人,債権者は送出人,物品の価格が債務額になります.

使用する経済循環グラフはこれまでと同様ですが,以下のような拡張を行います.グラフのノードと枝の重みとして「純消費」と「仕入れ」という項目を追加します.移動量はこれらの欄のいずれかに直接書き込みます.たとえば,その取引が原材料や中間財,ないし最終財の「仕入れ」に当たるときには「仕入れ」に金額を格納し,「純消費」にゼロを記入します.取引が消費を直接の目的とする場合には,「純消費」に金額を記入し,「仕入れ」をゼロとします.それ以外の場合はどちらもゼロとします.※移動量と取引種別とした方がわかり易かったかも…

グラフのノード数をNとしたとき,グラフの接続行列(隣接行列)はNNのマトリックスとして表現されます.マトリックスの要素(セル)はグラフの枝E(i, j)に対応します.マトリックスのセルには(純消費,仕入れ)の対を格納しますが,枝が存在しないセルは(0, 0)のままとします.枝の向きはV(i)→V(j)なので,マトリックスの行がそのノードからの「支出」を表し,列はそのノードへの「収入」を表しています.マトリックスには集計用に行2つと列を3つ追加します.集計用の行は「売上合計」,「所得合計」,「最終消費」,集計用の列は「支出合計」,「仕入合計」呼ぶことにしましょう.

「売上合計」には,各ノードごとに「純消費+仕入れ」を縦に集計して格納します.「所得合計」には,付加価値=売上合計-仕入合計の値を計算して格納します.「最終消費」には「純消費」だけを加算します.「支出合計」には各ノードごとに「純消費+仕入れ」を横に集計して格納します.「仕入合計」には「仕入れ」だけを加算します.簡単なサンプルを作ってみましょう.

企業A, B, Cとその従業員a, b, cがいるとします.A, B, Cは従業員a, b, cのそれぞれに給与50円を支払って製品の製造・販売を行います.A100円の原材料をBに販売します.Bはそれを加工して200円でCに卸します.Cはこの200円の製品に100円上乗せして販売総額300円とし,A, B, a, b, cのそれぞれに60円で販売しました.Aは従業員a50円支払い,原価50円のところをB100円で売っているので,50円の収益があります.Bは原材料100円を加工するためにbに50円支払い,それに50円上乗せしてCに卸しました.Cは仕入れ価格200円の商品を300円で売っていますが,c50円支払っているので,取り分は50円です.つまり,Acのすべての当事者の所得は50円均一になります.

以下の表では(純消費,仕入れ)の形式ではなく,具体的な取引種別を示して(取引種別,価格)の形式で表示しています.「給与」,「原材料」,「製品」が「仕入れ」に該当し,「販売」が「純消費」に該当します.例えば,セル(B,A)の場合,「A100円分の原材料をBの仕入れ用に販売し,BAに代価100円を送金する」のように読んでください.※やっぱりね!そうなると思った.

A B C a b c 支出合計 仕入合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 給与50 250 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

付加価値(所得合計)=売上高(売上合計)- 仕入れ(仕入合計)

国民総支出=∑∑純消費(表の赤数字)=∑最終消費=300
国民総所得=∑∑付加価値=∑所得合計=300
国民総生産=国民総支出=国民総所得=300

A, B, Cは先日提示したマトリックスで言えば,企業部門,a, b, cは家計部門に属するので,上の表から部門別のマトリックスに転換してみましょう.難しい操作ではありません.単純に各セルを累計するだけです.まず,行を圧縮すると下図のようになります.

A B C a b c 支出合計 仕入合計
企業 原材料100 製品200 販売120 給与50 給与50 給与50 570 450
家計 販売180 180
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

これをもう一度横方向に圧縮します.ここでは本来の(純消費,仕入れ)の形式で表示しています.

企業 家計 支出合計 仕入合計
企業 純消費120,仕入れ300 仕入れ150 570 450
家計 純消費180 180
売上合計 600 150 700 全取引量
所得合計 150 150 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

国民総所得=個人所得+事業所得=150150

となっているので,明らかにダグラスのA+B等式は成立しています.ただし,家計は収入が150に対し,支出が180なので30円の赤字になっています.逆に企業は60057030円の黒字です.どうも,ダグラスの言ってることは本当なのではないでしょうか?下記(3番目の「損益」を追加した表)のように,損益=売上-支出をすべてのノードについて合計すると(∑損益),トータルはゼロになります.つまり,赤字と黒字はつねにバランスしています.ダグラスがこの意味で言っているのだとすれば,ダグラスの完全な誤解ということになるかもしれません.

上の表は部門別になっていますが,これをさらに,企業と家計を合併するとセルは一つだけになり,総計が表示されます.

国民 支出合計 仕入合計
国民 純消費300,仕入れ450 750 450
売上合計 750 750 全取引量
所得合計 300 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

一つ気になる点があります.ループ(自己取引)が存在するときにどうなるか?という問題です.最初のマトリックスに戻って試してみることにしましょう.C→Cの枝を追加して,100円分を自家消費してみます.

A B C a b c 支出
合計
仕入
合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 自家消費100 給与50 350 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 400 50 50 50 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 50 400 国民総所得
最終消費 400 400 国民総支出

特におかしなことは起きていないように見えます.国民総支出も総所得も同額増えています.売上も所得も同額だけ増加します.実際のところ,これはまさに「内需拡大」という言葉が意味しているところです.個人(家計部門)の場合はどうでしょうか?

A B C a b c 支出合計 仕入合計 損益
A 販売60 給与50 110 50 -10
B 原材料100 販売60 給与50 210 150 -10
C 製品200 販売100 給与50 350 250 +50
a 販売60 60 -10
b 販売60 60 -10
c 販売60 自家消費30 90 -10
売上合計 100 200 400 50 50 80 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 80 430 国民総所得
最終消費 400 30 430 国民総支出

これも問題ありません.国民総所得も増えています.つまり,GDPは拡大しています.損益を計算してみました→上表の最右列.Cを除いてすべてのノードが赤字になっています.ただし,これは当たり前のことですね.売上合計=支出合計なのだから,トータルでは必ずゼロになります.つまり,誰かの赤字は誰かの黒字ということでしょう.しかし,誰かが必ず赤字になるとしたら,その経済では年がら年中デフォルトが発生しそうな気がするのですが,そうならないのはなぜでしょう?わたしは前々から,貿易赤字国はなぜ存続できるのか?という疑問を抱いてきました…(まだ解けていません)所得=売上総利益=粗利=売上高-売上原価はどのノードも黒字になっています.

自家消費ではなく,給与を支払ったらどうなるでしょう?

A B C a b c 支出合計 仕入
合計
損益
A 販売60 給与50 110 50 -10
B 原材料100 販売60 給与50 210 150 -10
C 製品200 販売100 給与50 350 250 +50
a 販売60 60 -10
b 販売60 60 -10
c 販売60 家内報酬30 90 30 -10
売上合計 100 200 400 50 50 80 850 全取引量
所得合計 50 50 150 50 50 50 400 国民総所得
最終消費 400 400 国民総支出

c→cの自己ループとして,家内報酬30というのを追加してみました.売上が+30,仕入も+30で所得には変化がありません.この設定は「専業主婦に家庭内報酬を出す」という課題と等価ですが,売上は増えても所得は変化しないので,生活には何の変化もないということになります.逆に言えば「名目的には」いくらでも「報酬」が出せるということを意味します.ただし,(家計全体で)買えるものの量は変わりません.上の自家消費と比較して異なるところは,「家内報酬」では何も買えない,「自家消費」の場合は自家生産したものが消費できる,つまりGDPが拡大するという点です.

必要なら,部門をもっと細分化して集計することも容易に可能です.たとえば,鉱工業,水産業,製造業など産業別統計を計算するとか…あるいは,地域別統計を取るなどいくらでも応用が効きます.この経済循環マトリックス計算の利点は,対象ノードの属性に関わりなく例外なしに,まったく同じルールが適用できるところです.政府,金融機関から,利益を出さない非営利団体を含めて末端の一個人まで,経済主体の大小に関わりなく一律,統一的な操作で計算することができます.ただし,内閣府の国民経済計算でやっているような,「非市場生産者(無料ないし経済的に意味のない価格で財貨・サービスを供給する生産者であり、一般政府と対家計民間非営利団体を指す)によるサービスの産出と需要先別配分については、決算書等の基礎統計により別途推計する」ようなことはできません.

いや,やろうと思えばできないこともないとは思いますが,それをやると数値的な不整合があちこちで発生するおそれがあるのであまり推奨できません.この方式のメリットはどれほど大規模な循環経済系であっても1円の誤差もない精密計算がどこまでも可能であるというところにあるので,あえてそのメリットを捨てる必要はないと思います(実際,これは「中央銀行決済システム」の設計書ですから,現実の取引と「完全」に一致している必要があります).このアルゴリズムの計算量はたかだか多項式時間ですから(アルゴリズムをきっちり書いてみないと分かりませんが,O(N^3)を超えることはないでしょう),エストニアくらいの国家の規模なら,リアルタイム(毎分?)でGDP統計を更新できるのではないでしょうか?少なくとも毎時くらいなら楽勝ですね!

2021/07/06 5:10

生島さん,下田さん

どこでどう間違えたのか?シズカちゃんの素朴な疑問に応えるというところから始まったスレッドですが,いつの間にか,中央銀行が分散型CBDCを発行し,すべての国民が中央銀行に当座預金口座を持つというモデル上で,経済循環グラフのマトリックスを用いて国民総生産をリアルタイムで計算するというシステムの概念設計を行うという流れになってしまいました.ここまでの議論の最大の収穫は「真に持続可能な経済社会とはグラフ理論的にはオイラー有向閉路を持つような経済循環グラフであり,絶対に停止(デフォルト)しない決済システムがあればそれを実現できる」という確証を得られたことです.

この構想は比較的小規模の国家であれば,今日にでも実現可能ですが,人口一億人を超えるような「大国」で採用するためには量子コンピュータの登場を待たなくてはならないかも知れません.(計算量が参加ノード数Nの累乗に比例して増大してしまう…)

経済循環グラフはある閉じた経済圏のすべての経済単位(独立の経済主体,ないしその集合)をノード集合とし,時点における取引を枝集合とする有向グラフで,それ自体がその経済圏で通用する貨幣(ないし疑似通貨)を用いた取引の「決済システム」を表現しています.決済システムでは「時点」におけるすべての取引の決済が完了すると,待ち行列に入っていたすべての取引からなる新しいグラフを生成して,次のセッション(時点決済)に移ります.(もちろん,トランザクションを一つづつ逐次処理してゆくという方法[即時決済]でも差し支えありません)グラフのノード(経済単位)は主体的に経済活動を行う取引主体(個人・法人・銀行・政府など)ですが,独立経済主体の集合(産業部門,地域,国家など)をノードとすることもできます.

経済循環グラフの接続行列は経済循環マトリックスと呼ばれ,国民総生産統計を求めるなどの統計処理に用いることができます.通常経済循環マトリックスにはある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを蓄積・圧縮(時間軸で合併)したものが使われます.経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作です.圧縮された経済循環マトリックスを略して計算表ないし試算表,その上で実施される(国民総生産などの)統計処理を経済循環マトリックス計算と呼んでいます.

ある経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを空間軸で合併して1つのノードにまとめる操作です.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列のセルの値とB列のセルの値を取引種別ごとに合算してC列を生成してから,A列とB列をマトリックスから除去します.次にA行のセルの値とB行のセルの値を取引種別(仕入れ|純消費)ごとに合算してC行を生成してから,A行とB行をマトリックスから除去します.合算は取引種別ごとに行われるので,一つのセルの中に複数の値が残る場合があります.合併によって外部取引が内部取引になる場合もありますが,それによる取引種別の変化は起こりません.つねに横方向の合併と縦方向の合併を同時に実行し,正方行列を構成するようにします.

マトリックスの圧縮ないし縮約の操作を対応する循環グラフ上で行うこともできます.この場合はまず,対応するノードを合併し,次に,この操作によって発生した(向きの同じ)多重枝を合併して1本にまとめます.圧縮ないし縮約では自己ループが発生する場合がありますが,基本的に経済循環グラフは自己ループと多重枝の存在を許すグラフであり,圧縮ないし縮約をしなくても最初から自己ループや多重枝が存在する場合があります.自己ループは同一経済単位内の内部取引(自己取引)を意味し,2つの経済単位の間で同時に複数の(同方向の)取引が並行して発生している場合には多重枝が発生します.自己ループはマトリックスの対角線上にあるセルを意味します.多重枝の場合,マトリックスのセルには複数の値が格納されます.

前回はこの方法を使って,企業A, B, Cと個人a, b, c6つの経済単位から構成される経済循環マトリックスを,企業セクタと家計セクタの2経済単位からなるマトリックスに縮約できることを見てきました.これを応用して,経済循環マトリックス計算が一国経済だけでなく,多国間の貿易を伴う大域経済圏においても適用可能であることを見ておきたいと思います.最初に前便の冒頭で提示した企業A, B, Cとその従業員a, b, cからなるサンプルを開始地点として再掲します.企業A, B, Cはそれぞれの従業員a, b, cに給与50円を支払い,BAから供給された原材料100円を加工して,製品をC200円で売却し,Cはそれを分割してA, B, a, b, cのそれぞれに60円(総額300円)で売却します.各当事者の売上は50300円とまちまちですが,所得はすべて50円均一です.

A B C a b c 支出
合計
仕入合計
A 販売60 給与50 110 50
B 原材料100 販売60 給与50 210 150
C 製品200 給与50 250 250
a 販売60 60
b 販売60 60
c 販売60 60
売上合計 100 200 300 50 50 50 750 全取引量
所得合計 50 50 50 50 50 50 300 国民総所得
最終消費 300 300 国民総支出

まず,このサンプルの(A, a),(B, b),(C, c)という(企業,従業員)のペアをそれぞれ,A村,B町,C市に見立てた地域経済モデルを作ってみましょう.A村,B町,C市で構成される経済圏をD県として,県単位の経済循環マトリックスを構成します.A村で生産された野菜は,B町で加工され,C市の販売業者によって,D県全体をマーケットとして広域販売され,最終消費されるというイメージです.

A B C 支出合計 仕入合計 損益
A 給与50 販売120 170 50 -20
B 原材料100  給与50 販売120  270 150 -20
C 製品200  販売60
給与50
310 250 +40
売上合計 150 250 350 750 総経費450
所得合計 100 100 100 300 県民総所得
最終消費 300 300 県民総支出

結構簡単にできました.マトリックスには損益という列を追加しています.損益=売上合計-支出合計で,∑損益はつねにゼロになります.損益はいまのところ設定しただけで使っていません.それぞれの市町村は独立の経済単位として相互に取引していますから,これを外国取引まで拡張するのは難しくありません.A村をA国,B町をB国,C市をC国と読み替えてみましょう.A国は英国で,B国が米国ならC国はチャイナかもしれません.経済循環系グラフはそれ自体「決済システム」を表象しているので,系が国家単位であるときには,システム全体は中央銀行を表します(政府はその中の一プレーヤであるに過ぎません).国境を超えた大域経済圏には複数の中央銀行が存在し,異なる通貨が流通していますが,為替レートは安定で,通貨の等価交換がつねに可能であることを前提とし,各国中央銀行システムを統合した仮想的な統一決済システムの存在を仮定します.

A B C 支出合計 仕入合計 消費合計 輸入 損益
A 人件費50 消費輸出120 170 50 120 -20
B 中間財輸出100  人件費50 消費輸出120 270 150 120 100 -20
C 中間財輸出200  国内消費60
給与50
310 250 0 200 +40
売上合計 150 250 350 750 470
所得合計 100 100 100 300 総所得
最終消費 300 総支出→ 300
輸出 100 200 300
純輸出 100 100 -200 0
純生産 100 100 100 300 総生産

数字的にはまったく変化はありませんが,集計用にいくつかの列と行を追加しました.いずれも輸出入に関係するものです.「輸入」はその行の国家の外部からの「純消費」を除く輸入の合計,「輸出」はその列の国家の「純消費」を除く輸出の合計,「純輸出」は「輸出」と「輸入」の差額とし,純生産は以下の式のように,「最終消費」と「純輸出」の和として与えられます.

純生産=最終消費+輸出-輸入=最終消費+純輸出

C国には消費輸出120というのが2件ありますが,これらは輸出入には勘定されません.これはアマゾンなどの大域企業(グローバル企業)が行っている海外に居住する消費者への直接販売を意味しています.通常のケースでは最終消費財の輸出では輸入国側の販売業者を経由して国内販売することになるので,そのようなパターンでどうなるかを見ることにします.上の表をアレンジしてC→Bの輸出は「消費輸出」のままとし,C→Aの輸出では財貨を中間財(仕入れ/卸し)として輸出して,A国内で販売するというパターンにしてみます.

A B C 支出合計 仕入合計 消費合計 輸入 損益
A 人件費50
財貨消費120
財貨輸出120 290 170 120 120 -20
B 中間財輸出100  人件費50 消費輸出120 270 150 120 100 -20
C 中間財輸出200  国内消費60
給与50
310 250 60 200 +40
売上合計 270 250 350 870 570
所得合計 100 100 100 300 総所得
最終消費 120 180 総消費→ 300
輸出 100 200 120 420
純輸出 -20 100 -80 0
純生産 100 100 100 300 総生産

A国では(マージンを取らず)輸入額と同じ金額で販売しているので,A国の所得合計には変化がありません.表の対角線上にあるA国の自己取引セル内に追加された財貨消費120を取り除くと,A国ではC国から輸入した財貨が売れ残っている状態になるため,売上と所得がその分減少し,大域的な総消費=総所得=総生産もその分連動して減少します.経済循環マトリックスでは最終消費された製品・サービスのみが純生産としてカウントされる(価格が付いていない商品,つまりまだ売れていないものはその時点では無価値とみなされる)ためです.

外国貿易を扱うために,「輸入」,「輸出」などの項目を追加しましたが,これを国内経済計算に応用することはできないでしょうか?上の表では,経済単位が国家なので,「所得合計」は「国民総所得」に相当し,「純生産」は「国民総生産」を表すものと見ることができます.「純生産」の値を得るためには,「純輸出」を計算しなくてはなりませんが,国内経済でも外部取引を移出・移入と捉えれば,翻案できるのではないかと思います.それができれば,国内経済についても,もう少し詳しい議論が可能になる上,国内経済と外部経済を一つの計算表上で完全に同じレベルで解析できるようになります.

該サンプルをアレンジして,企業A, Bと従業員a, bから構成される経済圏をX国,企業Cと従業員cからなるY国に分割してみましょう.Y国は1国を経済単位とし,X国ではすべての構成メンバーがそれぞれ独立の経済主体であるようなモデルを考えます.Y国にはアマゾンのようなグローバル企業が存在し,世界中に商品を直販しています.ただし,A社は外販を目的としてY国から輸入していますが,「時点」では販売実績がないため「在庫」の状態になっています.B社ではそれを外販せず,Y国から輸入した製品の全額を社内消費して内販60とします.aとbは個人なので最終消費の目的でY国から直接購入します.やってみましょう.

A B a b Y 出金額 仕入高 移入財 消費額 損益 総支出
A 給与50 製品輸出60 110 110 110 -10 -10
B 原材料100 内販60 給与50 製品輸出60 270 210 210 60 -10 50
a 消費輸出 60 60 60 -10 50
b 消費輸出 60 60 60 -10 50
Y 輸出200 国内販売 60
給与50
310 250 200 60 40 100
入金額 100 260 50 50 350 810 570 0
総所得 -10 50 50 50 100 240
移出財 100 200 50 50 120 520
純消費 60 180 240
純移出 -10 -10 50 50 -80 0
総生産 -10 50 50 50 100 240

できました.このマトリックスは外国貿易を伴う外部経済と内国経済が混合した広域循環マトリックスですが,完全に汎用的な(ありとあらゆるケースに適応可能な)循環マトリックス計算が確立できたと思います.内容的には一番最初に提示した33雇用者のマトリックスと「ほぼ」同じですが,A社ではY国から製品輸入した商品をまだ販売していないため,総所得が-10という赤字の状態になっています.

すべての財貨・サービスの売買取引は経費(仕入れ)純消費(最終消費)に二分されます.これらの区分はその取引が国外(輸出入)であるか国内(移出入)であるかによりません.自己取引(経済単位内の内部経済)の場合でも同じです.つまり,その経済単位がどのような規模のものであっても例外なく同一のルール・手順によって計算されます.海外への報酬支払い(送金)はサービスの輸入,国内における出稼ぎもサービスの移出としてまったく同じ扱い(移出/入財)になります.海外からの観光客の現地での買い物は消費移出財です.

上の三国経済循環マトリックスの輸入,輸出,純輸出,純生産となっていた項目をそれぞれ,移入財,移出財,純移出,総生産に改め,新たに消費額,損益,総支出という項目を追加しました.また,一行を短くするために,売上合計,所得合計,最終消費,支出合計,仕入合計,消費合計をそれぞれ,入金額,総所得,純消費,出金額,仕入高,消費額のようにリネームしました.

集計行と集計列の各項目は以下のように定義されます.

出金額=∑(行の全要素)
入金額=∑(列の全要素)
仕入高=∑(行の仕入れ)=(内部経費)+移入財

損益=入金額-出金額
総所得=入金額-仕入高

移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

消費額=∑(行の純消費)
純消費=∑(列の純消費)

総支出=消費額+損益
純移出=移出財-移入財
総生産=純消費+純移出

(入金額)=∑(出金額)
(損益)=0
(純消費)=∑(消費額)=∑(純生産)
(移入財)=∑(移出財)
(純移出)=0

∑(総所得)=∑(総支出)=∑(総生産)=∑(消費額)=∑(純消費)
  = 全所得 = 全支出 = 全生産 = 全消費

今回は個別経済単位ごとに,総所得,総支出,総生産を計算し,それらが完全に一致していること(三面等価の原理)が確認されました.広域的には,∑総所得,∑総支出,∑総生産,∑消費額,∑純消費がすべて完全一致しています.(上表でで塗りつぶされている部分).個別経済単位に業種・地域などの属性が与えられていれば,それに従ってあらゆる種類の統計(産業別・地域別などなど)がたった一つのブロックチェーン(取引台帳)から導き出せることが確認されました.しかも,それを全自動で実行することができます.取引の品目が分からなくても,また,その製品の生産プロセスに立ち入らなくても,その取引が仕入れ(経費)であるか純消費であるかを見るだけでここまでできるというのはある意味,すごいことであるような気がします.

2021/07/06 13:57

前便でもご説明したように,循環マトリックスの対角線上にあるセルは内部取引(自己取引)を意味します(グラフでは自己ループ).これは主にマトリックスが縮約マトリックスである場合に起きる現象ですが,その(自己)取引が仕入れ(経費)であれ,純消費であれ,適用されるルールには変わりありません.B社は内販によって所得が+50になっているのに対し,A社の所得は-10になっています.B社の社内販売では資金はB社の内部で動いている(出金と同額が入金している)だけで収支には関わりなさそうに見えますが,ABの相違点は,A社で保有している製品在庫はまだ評価されていない(販売されていない)ため,値が付いていないのに対し,B社ではどの部門かがその製品を購入したことによって値が確定し,その製品が「使用できる状態」になったためと言えます.

内部取引については,前にも「専業主婦の家庭内労働賃金は誰が支払うのか?」という「難問」として何度か触れていますが,この場合も,家事労働に(名目上)賃金を支払えば,その家計の所得は増加します.これは「その労働が評価されたこと」を意味するもので,逆に言えばどっちみちお金は動かないのだから,主婦にはいくらお金を払ってもよい,とも言えます(夫と妻が別財布ではそうも言えませんが…).この「労働が評価されたこと」=「所得が増加すること」の意義は,たとえば,子どもに「お小遣いやるから~やって」と頼むようなケースを考えれば分かります.この場合はお金をやらなければその仕事はなされなかったと考えられるので,「お小遣い」によってその金額相当の「労働」が実行され,それが「生産」として評価されたと言えます.もっとわかり易い例で言えば,「最近やってないけど,これでどう…」と言って妻にお金を渡し,それに妻が応じたとすれば,明らかに家庭内売買春という完全な経済行為(貨幣的取引)が成立すると考えられます.サービス残業などは企業内で起きている「無賃の家事労働」かも知れません.

本システムでは「在庫」を価格的に推計するのはかなり難しいような気がします…多分,できません.仕入れ額がどの製品にどれくらいの割合で分配されているかを推計する手段が存在しないからです.もちろん所得がマイナスになれば,販売不振という状況にあるくらいは推定できますが…まぁ,これは「決済システム」ですから,そこまでやる必要もありません.※イクシマさんのデジタルレーニン主義ではそこまでやるのだろうか?AIを使えばそれも可能になる?(少なくとも現状を見る限りではデジタルマオイズムもそこまで成功しているようには見えない…)

B.A.

訂正:用語の使用,特に集計行および集計列で用いられる項目名の見直しを行い,経済循環マトリックスの構成と整合するような名称に統一するための修正を行った.経済循環マトリックス上のセルは1つないし複数の貨幣的取引を表示し,通貨は最左列のノードから最上行のノードに移動するので,「行」は最左ノードの支出,「列」は最上ノードの収入を意味している.純消費→最終財,消費額→純消費とし,総支出,総所得,総生産はそれぞれ,支出額,所得額,生産額に改めた. (2022/05/12)

2021/07/07 4:01

生島さん,下田さん

GDPを算出するための経済循環マトリックス計算の核となる部分はほぼ固まったのではないかと思いますが,もう少し調べてみたいと思います.もっとも興味深いのは,生産額が,

生産額 = 純消費 + 損益 

という式で与えられるという点です.この損益という値は,ある経済単位の収入と支出の差分をあらわすもので,経済循環グラフ的に言えば,グラフの各ノードの重み(持ち分,中央銀行の当座預金残高)の増減を表します.国民経済計算の解説の中ではあまり見かけない数字ですが,これはなぜかというと,ある閉じた経済循環系においては,∑損益は必ずゼロになると考えられるからです.つまり,「損益」の出番がありません.同じ様にトータルでつねにゼロになる数字に純移出(純輸出=輸出高-輸入高)という数字があります.ただし,開いた経済循環系ではむしろゼロにならない方が普通なので,国民経済計算の中ではかなり重要な役どころです.※この等式は,「働かざるもの食うべからず」という命題を数式化したものに他ならない

一部の教科書はこの「損益」の代わりに「貯蓄」という用語を使っている場合があります.家計部門などでは 所得=消費+貯蓄(可処分所得のうち消費しなかった金額),企業部門では貯蓄の代わりに投資という用語を用いて,所得 =消費+投資のように表現されたりします.循環マトリックス上の時点ではまだこれらの資金の処分(貯蓄や投資)は実現されていないので,あくまで損益と見ておいた方がよいと思います.

売上高=∑(列の全要素)=∑中間財の販売+∑最終財の販売
支払高=∑(行の全要素)=∑中間財の仕入れ+∑最終財の購入
純消費=∑(行の純消費)=∑最終財の購入
損益=売上高-支払高=∑中間財の販売+∑最終財の販売
      -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
支出額=純消費+損益
   =∑最終財の購入+∑中間財の販売+∑最終財の販売
           -∑中間財の仕入れ-∑最終財の購入
   =∑中間財の販売+∑最終財の販売-∑中間財の仕入れ
   =∑最終財の生産額+∑中間財の生産額-∑中間財の仕入れ
   =∑最終財の純生産額+∑中間財の純生産額=生産額

支出額=生産額は確かに成立しているようです.マトリックス上で実際に確認して見ましょう.Y国の場合に注目します.下表では,Y国の支出側(行)に純消費項目が出現するように,A社からY国に燃料60の輸出を追加しました.これにより,Y国の純消費は120,損益は-20に変化して支出額は100になりました.以下の表から数字を拾い出し,上の式に代入してチェックしてみます.

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与50 製品輸出60 110 110 110 50 50
B 原材料100 内販60 給与50 製品輸出60 270 210 210 60 -10 50
a 消費輸出 60 60 60 -10 50
b 消費輸出 60 60 60 -10 50
Y 燃料60 輸出200 国内販売 60
給与50
370 250 200 120 -20 100
売上高 160 260 50 50 350 870 0
卸売高 100 200 50 50 170 570
所得額 50 50 50 50 100 300
移出財 100 200 50 50 120 520
最終財 60 60 180 300
純移出 -10 -10 50 50 -80 0
生産額 50 50 50 50 100 300

売上高=製品輸出60x2+消費輸出60x2+国内販売60+給与50350
支払高=燃料60+輸入200+国内販売60+給与50370
損益=(製品輸出60x2+消費輸出60x2)-(燃料60+輸入200)-20
純消費=燃料60+国内販売60120
支出額=純消費120+損益-20
  =国内販売60+消費輸出60x2+製品輸出60x2-輸入200
  =∑最終財生産額180+∑中間財生産額120-∑中間財仕入れ200
  =∑最終財の純生産額180+∑中間財の純生産額-80
  =生産額100

Y国で販売されたすべての財貨(仕掛りの中間財を含めて)はY国の生産物としてカウントされます.ただし,それらの財貨を生産するために外部から移入ないし輸入した中間生成物のコストを控除しなくてはなりません.上の計算式はこれらのことを抜かりなく実行するための手順書になっています.純消費+損益から生産額が直接算出できるというのはまったくもって直感的ではありませんが,恒等的に成立する(マクロ経済学の原理の一つ)ことが示されました.生産額=支出額の等式は,支払高=移入財+最終財+内部経費,売上高=移出財+純消費+内部経費の関係を使って,もう少しスマートに証明できます.

支払高=移入財+純消費+内部経費
売上高=移出財+最終財+内部経費
損益=売上高-支払高=(移出財+最終財+内部経費)
              -(移入財+純消費+内部経費)
  =移出財-移入財+最終財-純消費
  =純移出+最終財-純消費
支出額=純消費+損益
   =純消費+純移出+最終財-純消費
   =最終財+純移出
   =生産額

さて,気になるのはこのマトリックスに含まれている2つの「ゼロサムゲーム」です.明らかにこのゼロサム式は恒等的に成立します(※⇒上表からも明らかなように「損益」と「純移出」のそれぞれの累和はつねにゼロになる.つまり,参加メンバーの一方がプラスになれば,他方はかならずマイナスになる).「競争社会」とはよく言われますが,まさに生きるか死ぬかの弱肉強食の世界ですね.経済がこんなにシビアなものだとは思いませんでした.平均すれば常時半分くらいの人は損益マイナスの状態にあり,国家の半数あるいはそれ以上の国家が貿易収支の赤字で悩んでいる姿が目に浮かびます.損益マイナスの状態から脱出するのは容易いことではありません.それにしては,破綻して自殺を選ぶ人がそれほど多くはないというのはどういうことでしょうか?※

※⇒個人は収入に合わせてなんとか生計をやりくりしているので,帳簿尻は中小零細企業にしわ寄せされているものと推定される.これは構造的と言うより,むしろ原理的と言うべきものだろう.未開発ないし発展途上国がODAを必要とするのも同じ原理だ.財政赤字国に対するIMF融資が逆にその国の経済を破壊する結果に陥りがちな理由もそこにある.農業国が貧しいのもそれが原因と言えるだろう.すべては経済循環マトリックスがゼロサム・ゲームであるためだ.

この2つのゼロサムゲームは相互に影響し合うことはあり得ますが,かならずしも連動しているものではありません.実際,対外収支(貿易収支)赤字でも損益黒ということはあるし,その逆も真です.わたしの感覚ではどちらがシビアかと言えばやはり損益の方ではないかという気がします.というのは,損益はあからさまな資金ショートを意味しますが,純移出(純輸入)の赤字では資金的には赤字でもそれに見合った財貨を輸入(移入/購買)しているのだから,必ずしも悲観するまでもないのではないかと見ています.※⇒実際のところ,国際収支における最大の「赤字国」はアメリカである.「赤字」に対する「見方」を変える必要があるのかもしれない…

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与60 製品輸出60 120 120 120 40 40
B 原材料100 内販60 給与60 製品輸出60 280 220 220 60 -20 40
a 消費輸出 60 60 60 0 60
b 消費輸出 60 60 60 0 60
Y 燃料60 輸出200 国内販売 60
給与60
380 260 200 120 -20 100
売上高 160 260 60 60 360 900 0
卸売高 100 200 60 60 180 600
所得額 40 40 60 60 100 300
移出財 100 200 60 60 120 540
最終財 60 60 180 300
純移出 -20 -20 60 60 -80 0
生産額 40 40 60 60 100 300

このサンプルは企業3社と個人3人でうち11名はY国という構成になっていますが,すべての家計で赤字になっています.これは給与が50円に対し,消費が60円掛かっているためです.仮に60円というのが労働力再生産のための最小限のコストであるとすれば,そこまで給与を上昇させない限り,この経済は持ちません.そこで,とりあえず,給与を一律10円アップして60円としてみました.個人cはY国の中に入ってしまっているため見えませんが,ともかくすべての家計で損益ゼロという状態を確保することができたと言えます.さて,その尻拭いはどこへ行くのでしょう.個人の損益がすべてゼロないし黒字であるとすれば,そのしわ寄せはすべて企業セクタに回るしかありません.なるほど,少し分かりかけて来ました.

日本全体の企業の99.7%は中小企業であると言われていますが,そのうちの7割が赤字という数字があります.わたしはこれまでどんな企業でも経営努力しさえすれば黒字転換は可能なはず,赤字決算のかなりの部分は脱税のための粉飾ではないかと思っていましたが,どうも,そういうことではなかったようです.総和がゼロのゲームでは,誰かしらが貧乏くじを引くしかありません.もし,この赤字が「変動」であって,平均すればゼロというのならまだよいのですが(「持ち分」のベースラインを一律引き上げて残高がマイナスにならないようにするなどの方策があり得る),大きいところはまず赤字にはなりませんから(もちろんときどきニュースで耳にしますが,大概は脱出できます),小さいところがそのあおりでほぼ恒久的に赤字を出し続けるのは避けられないように思われます.しばしば「時代遅れのビジネスはとっとと市場から退出しろ」という声が聞こえますが,それも違うのではないでしょうか?確かに廃業して賃金労働者になれば最低限食ってゆくことはできるかもしれませんが…

「ウィンウィン」ということばがありますが,原理的にあり得ない話です.これが現実であるとすればどんな手を使ってでも相手を出し抜くしかないということになってしまいます.「金融システム」云々より以前にこの原始的な競争社会を転換する必要があるのではないでしょうか?まぁ,赤字経営を続けていても,それが「常態」であるという悟りを開けば存続可能なのかもしれませんが…日本経済の過半の部分はボランティア経済である,つまり採算の取れないビジネスで何とか回しているとは前々から思っていましたが,確かに日本経済の現状,というより世界経済と言っても同じですが,原理的にそうなるしかないような気がしてきました.クリフォード・ダグラスが説いていたのはおそらくそのことなのだろうと思います.だとすれば,ベーシックインカムはむしろ企業にこそ分配すべきものであるのかもしれませんが,企業にはデット・エクイティ・スワップ(企業の債務を債権者が債権による現物出資をおこない株式化すること,もしくは、債権者が金銭出資をおこない株式を取得し、その出資で債務の弁済を受けること)という奥の手もあります…

日本の中小企業は従来から運転資金を銀行等からの借入のローリング(半永久的な借り換え)で賄う傾向があり、これは中小企業の資本性借入れ(擬似エクイティ融資)として問題視されてきた。銀行等の融資は、満期には完全に返済されることを想定しており、恒常的に必要な資金は、本来は株式で調達する(株主からの出資で賄う)べきである。出典:増田安良(東洋大学)

考えられる最善手は,おそらく「経済循環システムの持ち分の変動を許容範囲内に収めるような仕組み」を構築することではないでしょうか?そのためには富の再配分しかないような気もします…つまり極端に過剰な持ち分を削って平坦化する…もちろん,異常に落ち込んでいるところはその原因を突き止めて対処する必要はありますが…損益を改善するためにはやはり輸出しかありません.当然ですが,内需拡大は[GDPを増加させる効果はありますが]損益[対外収支]にはまったく反映されません.下図ではY国の内需を200まで拡大した上で,Y国からA社への輸出を100に増加させてみました.この結果,これまで+40あったA社の損益が0になり,Y国の損益は+20になりました.輸出が伸びたので純移出のマイナスもその分だけ減少しています.

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 純消費 損益 支出額
A 給与60 製品輸出100 160 160 160 0 0
B 原材料100 内販60 給与60 製品輸出60 280 220 220 60 -20 40
a 消費輸出 60 60 60 0 60
b 消費輸出 60 60 60 0 60
Y 燃料60 輸出200 内需 200
給与60
520 260 200 260 20 280
売上高 160 260 60 60 540 1040 0
卸売高 100 200 60 60 220 640
所得額 0 40 60 60 280 440
移出財 100 200 60 60 160 580
最終財 60 60 320 440
純移出 -60 -20 60 60 -40 0
生産額 0 40 60 60 280 440

PS:多少修正が入っているのでアップデートしました.これは経済循環マトリックス計算のルールブックです.

支払高=∑(行の全要素)=移入財+純消費+内部経費=純消費+仕入高
売上高=∑(列の全要素)=移出財+最終財+内部経費=最終財+卸売高
仕入高=∑(行の仕入れ)移入財+内部経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財+内部経費
損益=売上高-支払高
所得額=売上高-仕入高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

純移出=移出財-移入財
生産額=最終財+純移出
支出額=純消費+損益

(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
(卸売高)=∑(仕入高)
(移入財)=∑(移出財)

所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

2021/07/07 22:23

生島さん

>いよいよGDPになってきて嬉しいと思います。

確かに,このスレッドはある程度まで生島さんのご要望に沿う方向で進めているところがあるというのは事実です(バックキャスティングってやつですね).ただ,そのリクエストのレベルが高過ぎて…なかなか…

>ここはある意味マクロ経済学のキーだと思いますのでありがたいです。

サンプルとして示している計算表は,「スプレッドシート」があれば造作もなく書けるものですが※,この簡単な図表から読み取れることはとても深いものがあります.わたし自身思わぬ発見がいくつもありました.セルの数字をあちこちいじると色々なことがわかってくるのですが,これを自動化したいですね.30年前に「イカロス」という名前の「シミュレーションソフト」を開発したことがあります.そのころは中学校の職業家庭科に「情報基礎」という領域があって,その授業の教材として使うためにBTRON-OS向けに開発されたものですが,非関税障壁だとかなんだとかアメリカから難癖を付けられてBTORON自体が葬り去られてしまったため,陽の目を見ることがありませんでした.もし,これがいま手元にあったら,わたしは何のためらいもなく「経済循環マトリックス計算」をこのソフトの上に乗せていたことでしょう.イカロスにはそのために必要な機能がすでにすべて備わっていました.

経済循環マトリックスの計算表では一つのセルが複数の値を持つ場合があります.スプレッドシートで表現する場合には複数行に分けるしかないかもしれません…

GDPギャップもよく言われているのできちんと見たいと思っています。

えええ,もう次のご注文ですか!ま,待ってください.というか,こういう部分はたとえばイカロスのようなソフトがあればカバーできますよね.イカロスでは「数式入力」もサポートしていたので,「数式」を直接入力してそれを「コード」として動かすことができます.誰か作ってください!

>などとも用語統一というか、オントロジーですね。定義したいところです。

用語の統一は重要なポイントですが,まだ,何がどうなっているのか完全に把握しきれていないので,わたし自身ぐらぐらしています.昨日のメールでは純生産=純消費+損益としましたが,読み直してみると,やはりこれは「純生産」ではなくて「純支出」でした.というか,「純生産」とか「純支出」なんて用語は普通使いませんよね.「純輸出」というのはありますね.「純消費」ということばもどこかで使われていたと思います.用語はできるだけ統一したいと思っているのですが,わたしはグラフ理論を昔の古い教科書で学んでいるので,たとえばグラフの「辺」を「枝」と呼んでみたり,あるいは,「隣接行列」を「接続行列」と呼んでしまったり…グラフの「頂点」もわたしは「ノード」と呼んでいますが,グラフ理論家には嫌われるかもしれません(以前は「点」という呼び方をしていました).ネットワーク理論では「頂点」を「ノード」と呼ぶ方がむしろ普通だと思いますが…この辺りは完全に主観的な「こだわり」の部分なので,できるだけ「世間一般」に通用するように心がけてはいるのですが…

ただ,用語は厳密な定義を与えてから使用するべきですが,そうすると,定義部分のボリュームばかり大きくなって,テキスト全体が過剰に堅苦しいものになり,結果的に読者側に余分な負担を掛けるようになってしまう恐れもあって,まぁ,(いまのところ)アバウトに読み取ってもらえればというつもりで書いています…用語に厳密な定義を与えると間違っているところが見つかったりして,それもまた必要なのですが…

>問題は政府ですが、これが魑魅魍魎の世界です。

デジタル庁などと言っていますが,まず,政府財政をガラス張りにするところから始めないことには…

>山口先生の本でも2章でその関係の話が出てくるので用語整理しておくとありがたいです。

イカロスはインタプリータ言語を内蔵したシミュレータで,数式を含む任意のコードを直接入力し,クロックに同期して擬似的な並列プロセスを実行して,その結果を画面に描画することができます.複数のレイヤー上に矩形・円弧・線分などの各種図形,テキストの他,透過ビットマップも表示できるのでそれぞれのオブジェクトが独立に動作するようなアニメーションも表示できます.システムダイナミックスもかなり高度なことができるようですが,この2つをミックスしたようなものができるとさらにおもしろいかもしれません.

数理研究所でやりませんか?たしか,20年度の予算が4兆円くらい残っていたような…いや,もっとありますね.4兆円というのは新規発行国債の減額分で,それ以外に予算執行不用額が3.9兆円,国債償還や補正予算に充てる純剰余金が4.5兆円もあります!

2021/07/08 0:18

誤:1nYLH)=1nA+a1nKSLH
正:lnYLH)=lnA+alnKSLH

上の式は,生島さんご紹介の「内閣府 付注1-2GDPギャップの推計方法について」に出てくる「コブ・ダグラス型生産関数」を対数変換したものですが,致命的なタイプミスがあります.いや,わたしも最近急速に視力が落ちているので,間違っていたらゴメンナサイ.

2021/07/09 20:30

生島さん,下田さん

前便のタイプミスはわたしが書いたものではありません.内閣府のサイトの「GDPギャップの推計方法について」で見つけたものです.わたしはプログラマなのでこういうのは得意なんですよ.プログラマがコードの中でこんなもの見落としてたら,それこそ生命いくらあっても足りません.些細なミスですが,この1文字の誤記を見ただけでもかなりのことが分かります.①担当部署はこのホームページ作成を外部業者に丸投げしている,②検収をほとんど無検査で通している,③担当者はこの記事が読まれることをほとんど期待していない,④実際,この分野を専門とする研究者でこの記事を閲読したものはほとんどいなかったのだろう,⑤発注価格はおそらく腰を抜かすくらい高額で,直接作業者の日当はおそらく青ざめるくらい安かったものと推定される,⑥当然,作業者はほとんど何も知らない字が読めるというレベルのアルバイトだ,⑦これもまた,どうせ,パソナか,電通がらみ?

>なかなかついていけてません。

済みません.「誤りを含む証明」を読むときの苦痛は身に覚えがあります.確か,ロシアのノーベル賞受賞者がこんなことを言っていました.「わたしは人の論文を読むときは,頭の部分としっぽしか読まない.もし,その命題が正しいとすれば,自分で証明を考えてしまった方が早い」.こんな偉い人でもそうなのですから,まして「整理されてない論」を読むのは,(生島さんのような方であっても)大変なことは重々承知しています.本論で分かりづらいところは多分,「移入財」と「移出財」の定義の辺りではないかと思います.「輸出入」と言ったのでは国家間の国際取引しか扱えないので,あえて「移出入」という用語を用いている点に関してはご理解頂けるものと思いますが,本論で定義された「移入財」,「移出財」は通常の「輸入財」,「輸出財」とは微妙なところで差異があります.ルールブックには以下のようにあります.

移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

「取引」は「通貨」と「財貨」の等価交換なので,つねにグラフの枝の両方の向きで移動が発生しますが,経済循環グラフでは「通貨」の移動だけに着目しているので,片側だけの「有向グラフ」として表現します.グラフをマトリックスに転換すると,「セル」はグラフの枝(取引)に相当しますが,「行」はそのノードからの「支出」を表し,「列」がそのノードへの「収入」になります.「財貨」はその逆向きに動いているので(通貨の動きと反対方向),たとえば,計算表上で「輸出」と書いてあるときには,「上」のノードから「左」のノードへの「輸出」であるということになります.「外部からの」としているのは,この集計には「自己取引」,つまり,「内部経済」を含まないという意味です.ここまではいいと思うのですが,問題は「仕入れ」としている点です.明らかにこれはかなり直感に反する定義になっているのではないでしょうか?※つまり,最終財の移出入は計数に含まれない!

「仕入れ」と呼ぶものの中には「中間財」の購買と,給与など報酬(労働サービスの対価)の支払いが含まれます.つまり,最終消費財の価格の中に転化される(埋め込まれる)と考えられる財貨・サービスがすべて含まれます.これらを控除しないと正しい生産額を計算できません.「最終消費財」の価格は「仕入れ」+「収益」で,この収益分が「付加価値」と呼ばれるものです.輸出入の用語では,純輸出=輸出-輸入となりますが,この「輸出」ないし,「輸入」は通常の理解では,「最終消費財の輸出を含めた全輸出」あるいは,「最終消費財の輸入を含めた全輸入」となります.しかし,「移入財,移出財には最終消費財を含めない」というのが我々の与えた定義です.この定義を従来の定義に戻して,「移入財=移入されたすべての財貨,移出財=移出されたすべての財貨」のように補正して再計算すると,

移出入=移出財-移入財=売上高-支払高=損益

という結果になり,結果的に,財貨的ゼロサムゲーム貨幣的ゼロサムゲームが完全に一致するようになります!確かに,これはわたし達が直感的に感じる「語感」とマッチしています.つまり,「貿易収支が赤字なら損益もマイナスになるはずだ(その逆も真)」という理解です.むしろ,逆に「財貨的ゼロサムゲーム」と「貨幣的ゼロサムゲーム」が交叉しているという方が分かりづらいと言ってよいと思います.下記のような定義を「移出入の古典的定義」ないし,古典的移出入と呼ぶことにしましょう.

移入財=移入されたすべての財貨
移出財=移出されたすべての財貨

確かに,近来までの外部経済取引は「古典的定義」と一致するような動きになっていたのだと思います(産品は一度「仕入れ」されてから国内で販売・加工される).今回の議論で初めてそれが修正されようとしているのですが,そのことは実体経済の最近のトレンド,つまり,グローバル企業による国境を超えた財貨の取引が急速に増加してきたという変化が背景にあるのではないかと推測しています.これらの企業,主にGAFAMなどですが,かれらは外国居住者に直接財貨・サービスを販売することができます.いま,OECDで議論になっている巨大IT企業に対する「デジタル課税」というのはこのような状況変化を直接反映したものです.実際,貿易収支,経常収支などの用語の定義でさえ,近年になって大幅改訂(IMF国際収支マニュアル,2014)されています.このことが意味するものをもう少し,俯瞰的に考えてみます.

経済循環グラフのノードは独立した経済主体ないしその集合,枝はノード間の貨幣的取引と定義されます.経済主体と呼ばれるものには,個人,企業,政府,金融,非営利団体などすべての個人・団体が含まれます.これらの経済主体がその規模の大小・属性・目的などに関わりなく完全に同一レベル・同一ルールのもとに取引を行っている状況を表現することがこのモデルの目標です.国民総生産や国民総所得などは国家単位で計算されますが,ここではすべての経済主体が同一レベル(同じテーブル)で経済活動を行っていると考えられるので,すべての経済単位について,それぞれ,総生産(生産額)や総所得(所得額)が同時並行的に計算できなくてはならないというのが我々の立場です.このことと,上のような問題が起きていることには深い関わりがあります.

通常,輸出入と言えば海外からなにかの財貨を輸入(仕入れ)して,それを直接ないし加工して販売(国内消費,ないし再輸出)するというプロセスを考えますが,現状はすでに国境を超えた個人・企業の取引が実行されている,つまり,企業や個人が国家と肩を並べるような状況になりつつあります※.これは生島さんがよく言われている,国家→企業→個人のような潮流と関わりがあるように思われます.このような状況はすべての経済主体を擬人化したモデルで考えるとわかり易いかもしれません.企業にとって,工場や設備,運搬車両などは人間の肉体に相当するものであり,いわば増強された肉体(サイボーグのようなもの)ですが,それ自体が意思決定能力を持っているという点において,主体であると言えます.「経済」とは,これらスケールの異なる「主体」(蟻ん子から象さんまで)がミックスして生息・活動するエコシステム,ある種の自然環境であると言えるでしょう.

※地域経済主体間の財貨の移動を「移出入」,国家経済間のトレードを「輸出入」と呼ぶとして,多国籍企業によるボーダーレス取引をなんと呼べばよいのだろう?なかには,個人輸入ビジネスなどというものもあるが,その個人の国籍,居住地はもはや主要ファクタではない.

「損益」は資金の増減であり,通常,「損益」がマイナスでも「所得」は立っています.所得=生産ですから,所得がないということはすでに経済活動終了しているということになるので,赤字企業と言っても操業している限り所得はプラス水準にあります.税務的な赤字というのは損益がマイナスになることですが,これまで見てきたように損益がマイナスというのは原理的・数理的に「ノーマル」な状態であり,ほぼ半数の経済単位が損益マイナスになるのは「どうやっても」避けることはできません.従って,ギリシャやウクライナが破綻に追いやられるというのはかなりおかしな話です.仮にこれらの国が債務国から脱却したとしても,それは単に赤字を他国に移転したことにしかなりません.IMFのように債務国の経済をぎりぎり締め上げて財政再建するというスキームは明らかに基本的なところで間違っています.それをやっていたら,世界中が窒息してしまいます.

三面等価原理が恒等的に成立するというところも国民経済計算で分かりづらいところかもしれません.生産・所得・支出の3面はそれぞれ完全に独立の活動であるように見えるからです.これに関しては説明してもなかなか分かりづらいところがあるので,簡単な「証明」でそれに代えたいと思います.純支出=純生産というところは既出ですが,再掲します.ただし,「純支出」と「純生産」という用語は多少紛らわしい(というより混乱していた)ので,「生産額」と「支出額」にリネームしました.生産額=最終財+純移出支出額=純消費+損益で,生産額は,その単位経済で生産され,最終消費ないし移出された正味財貨の合計,支出額はその経済単位が最終消費財として消費ないし移入した財貨+損益(剰余)です.これはよく見る,所得=消費+貯蓄という(教科書的)記述に対応するものです.以下では赤字は最終消費,青字は仕入れ中間消費)です.

単位経済の三面等価原理:所得額=支出額=生産額

証明:単位経済の三面等価原理

支払高=移入財経費純消費仕入高純消費
売上高=移出財経費最終財=支払高+最終財
仕入高=移入財経費
損益=売上高-支払高
=(移出財経費最終財)-(移入財経費純消費

  =移出財移入財最終財純消費
  =純移出最終財純消費

支出額純消費+損益
   =純消費純移出最終財純消費
   =最終財純移出
   =生産額

所得額=売上高-仕入高
   =(移出財経費最終財)-(移入財経費
   =最終財移出財移入財
   =最終財純移出
   =生産額

総体経済の四面等価原理:総生産=総所得=総支出=総消費

証明:単位経済の三面等価原理より明らか

総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)

総生産総所得総支出

ただし,総消費に関しては別途証明を要する

支払高=∑仕入高+∑純消費 から
∑純消費
=∑支払高-∑仕入高
    =∑(支払高-仕入高)
    =∑(所得額)
    =総所得

総消費=∑純消費)=∑(最終財)=総所得

QED

上記で,赤字は最終消費財・サービスの移転,青字は中間消費財・サービス(内部経費を含む)の移転,経費(内部経費)は製品価格に含まれる内部取引額(社員給与など).

単位経済では所得=支出=消費は成り立ちません.これは当然の理(失業中に競艇場に走ったり…)と言えますが,生産=所得=支出であるとすると,不労所得者の経済はどうなっているのだろう?というのが次の宿題(金融経済マトリックス)です.

比較参照用にサンプルを出しておきます.参考データとしてX国={A社,B社,a, b}の集計を入れました.セルの取引種別には供給者から需要者に送られる財貨の種別が書いてありますが,この計算表ではトップ行が供給者,最左列が需要者を示しているので,個人aA社に「給与」を送るというのは意味が通りません.そこで,給与→労働に改めました.つまり,個人aA社に労働サービスを提供し,その対価として給与60を受け取っています.XA+B+a+cの計算を実行しておくと,あとの集計はXYを計算するだけで簡単に終わります.

A B a b X Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 支出額
A 資材40 労働60 100 輸出60 160 100 60 100 60
B 原材料100 内販60 労働60 160
60
輸出60 280 220 60 220 80
a 輸出 60 60 0 60 0 60
b 輸出 60 60 0 60 0 60
X 100 40 60 140
60
560 320 240 320 260
Y 燃料60 輸出200 60 60 内販 60
給与60
380 260 120 200 100
売上高 160 300 60 60 580 360 940 総取引
損益 0 20 0 0 20 -20 0
卸売高 100 240 60 60 460 120 580 重複
所得額 60 80 60 60 260 100 360 総所得
最終財 60 60 0 0 120 240 360
移出財 100 240 60 60 460 60 520
純移出 0 20 60 60 140 -140 0
生産額 60 80 60 60 100 360

経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14

支払高=∑(行の全要素)=移入財経費純消費仕入高+純消費
売上高=∑(列の全要素)=移出財経費最終財卸売高+最終財
仕入高=∑(行の仕入れ)移入財経費
卸売高=∑(列の仕入れ)=移出財経費

所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ
移出財=∑(列の外部からの仕入れ

純移出移出財移入財卸売高仕入高
生産額=最終財純移出
支出額=純消費+損益

純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
(純損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
卸売高)=∑(仕入高
移入財)=∑(移出財

所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑純消費)=∑(最終財
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

2021/07/14 1:54

生島さん,下田さん

応用問題をやってみましょう.下図↓は,富山大学経済学部岸本研究室のサイトで見つけたものですが,貿易収支を見るときの「国籍基準」と「企業基準」の違いについての説明図です.経済循環マトリックスを試す格好の材料なので,2つの場合(国籍基準|企業基準)の計算表を書いてみたいと思います.(以下では数字の単位は10億ドル)

企業基準で見た米国の貿易収支の例

この図版で具体的な数字を明示されている取引は8つで,米国の輸出(581),輸入(609)の中にはこれらの取引が含まれているものとします.とりあえず,これら8つの取引の数字を元に「国籍基準」によるマトリックスを書いてみました.下の表では図中の米国をX国,外国をY国,米国本社をA社,外国企業をB社,米国系企業をα,外資系企業をβのように表記しています.各企業の所在地(居住地)から国内・A社・β社がX国籍,国外・B社・α社をY国籍とします.

国内 A β X 国外 B α Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 内販
1066
外商
1066
1066
1066
[輸入]
318
318 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
β 仕入
993
993 逆輸出
182
182 1175 1175 1175 -9 -9
X 993
1066
1066 2059
1066
318 291
609
3734 2668 1066
609
-28 1038
国外 [輸出]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 1189 1189 1189 0 0
α 輸出
140
輸出
100
240 仕入
1115
1115 1355 1355 1355 125 125
Y 341 140 100
581
1115 1189 1189 2304
1189
4074 2885 1189
581
28 1217
売上高 2400 140 1166 3706 1433 1189 1480 4102 7808 0
卸売高 1334 140 1166 2640 1433 1480 2913 5553
所得額 1016 31 -9 1038 1092 0 125 1217 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1166
581
1433 1480
609
5553
1190
純移出 -50 31 -9 -28 1092 -1189 125 28 0
生産額 1016 31 -9 1038 1092 0 125 1217 2255

輸出額と輸入額として与えられた581609という数字に合わせるために,差額として国内→国外[輸出]341,国外→国内[輸入]3182つを図面上には見えない取引として追加します.β社の国内販売(1065.6)B社の現地販売(1188.5)の末端価格は不明なので,仕入れ価格と同一としておきます.これで一応与えられた数字をすべて使った計算表ができました※.これをアレンジして「企業基準」によるマトリックスを書いてみます.α社はA社の子会社,β社はB社の子会社です.

総輸出=∑移出財,総輸入=∑移入財とするとき,経済循環マトリックス計算では,移入財=仕入高-経費,移出財=∑卸売高-経費のように計算されるので,複数の経済単位を縮約して作った計算表(上表ではX国,Y国の行と列に該当)では,経済主体の合併によって「内部取引=経費」が増加するため,縮約前の総輸出/総輸入の値と縮約後の総輸出/総輸入の値は一致しない.今の場合,縮約前の値は総輸出=総輸入=5553,縮約後は1190に変化している.※⇒(移出財,移入財)のセル

この図面の下には国籍基準と企業基準で収支がどう変化するかを説明する式↓が掲載されています.

米国の貿易収支

かなりややこしい式ですが,これで見ると,企業基準では輸出額は2523,輸入額は2499になるとされるので,輸出額-輸入額=24の黒字になると考えられます.国籍基準では-28の赤字だったので,貿易収支は24+28=52だけ「増加」していることが,523億ドルという数字に現れています.(企業基準で算出した実際の貿易収支黒字額は240億ドルです)ともかく「企業基準」の計算表を出してみましょう.

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 販売
1066
1066 [輸出]
318
外商
1066
1384 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
輸出
100
1215 1355 1355 1355 125 125
X 1066 140 109 249
1066
1433 1166
2599
3914 2848 1066
2599
106 1172
国外 [輸入]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 1189 1189 1189 0 0
β 仕入
993
逆輸出
182
1175 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1371
2705
1189 1189 3894 2705 1189
2705
-106 1083
売上高 2400 140 1480 4020 1433 1189 1166 3788 7808 0
卸売高 1334 140 1480 2954 1433 1166 2599 5553
所得額 1016 31 125 1172 1092 0 -9 1083 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1480
2705
1433 1166
2599
5553
5304
純移出 -50 31 125 106 1092 -1189 -9 -106 0
生産額 1016 31 125 1172 1092 0 -9 1083 2255

米国の輸出が2705,輸入が2599で純輸出106となり,与えられた数値と一致しません.「総所得」などの縦横集計(複式簿記的な計算)はすべて一致しているので,計算自体には誤りはないはずですが,どこかで「図の解釈」を間違えているように思われます.輸出で+182,輸入で+100の差額が出ています.数値を突き合わせてみると,この差異はおそらく,α社→β社の逆輸出182β社→α社の輸出100が関係しているように思われます.上に掲示した式の中では,どちらも輸入額から控除されている金額です.輸入額から控除されているということは,国籍基準では輸入項目だったということになるので,国籍基準の計算表でどうなっているのかを見てみましょう.

α社→β182というのはおそらく,図の読み間違いと思われます.つまり,「在来外資企業の輸入(182.2)」というのは,α→βではなく,B社→βと思われます.在米外資企業の輸出(▲100.0)というのも,「⇒」はα社のサークルに掛かっているように見えますが,真意はβ社→Bということなのでしょう.これを修正してもう一度作り直してみます.ただし,これをやるとおそらく,輸出入の調整額も変化することになるので,もう一度一からやり直すしかなさそうです.いや,それは不用かも知れません.この修正を行っても,国籍基準の輸出入額には変化はないはずです.(「在来外資企業の輸入」と「在米外資企業の輸出」は国籍基準計算表ではどちらも「内部取引」になっているため)

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純消費 移入財 損益 支出額
国内 販売
1066
1066 [輸出]
318
外商
1066
1384 2450 1384 1066 1384 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
1115 1255 1255 1255 43 43
X 1066 140 109 249
1066
1433 1066
2499
3814 2748 1066
2499
24 1090
国外 [輸入]
341
341 販売
1189
1189 1530 341 1189 341 -97 1092
B 納品
1189
1189 輸出
100
100 1289 1289 1289 82 82
β 仕入
993
993 逆輸出
182
182 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1189
2523
182
1189
100 282
1189
3994 2805 1189
2523
-24 1165
売上高 2400 140 1298 3838 1433 1371 1166 3970 7808 0
卸売高 1334 140 1298 2772 1433 182 1166 2781 5553
所得額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255
最終財 1066 1066 1189 1189 2255
移出財 1334 140 1298
2523
1433 182 1166
2499
5553
5022
純移出 -50 31 43 24 1092 -1107 -9 -24 0
生産額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255

できました!X国の移出財=2523,移入財=2499で完全に上記に記載された数字と一致しています.これはほんの一例ですが,経済循環マトリックス計算により,国家,地域,政府,企業,個人,団体などあらゆる属性を持った経済主体とその集合からなる経済循環において,それぞれの経済単位の対外収支を完全に計算できる(場合によっては,不足するデータを補うことすらできる)ことが示されました.

ただし,ここまではすべて財貨の移転を伴う実体経済マトリックスにおける計算なので,これに金融取引(財貨の移転を伴わない純貨幣的取引)を加えなくてはなりません.

PS:経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/14

支払高=∑(行の全要素)=移入財経費純消費仕入高+最終財
売上高=∑(列の全要素)=移出財経費最終財卸売高+消費財
仕入高=∑(行の仕入)移入財経費
卸売高=∑(列の仕入)=移出財経費

所得額=売上高-仕入高
損益=売上高-支払高

純消費=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
最終財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
移入財=∑(行の外部からの仕入れ)
移出財=∑(列の外部からの仕入れ)

純移出移出財移入財卸売高仕入高
生産額=最終財純移出
支出額=純消費+損益

(純移出)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
∑(損益)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

支払高=∑売上高
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(移入財)=∑(移出財)=仕入高-経費

所得額=純支出=純生産(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑(純消費)=∑(最終財)
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

※現行のマトリックス計算では,純移出には仕入れ=中間財の移出入しか含まれていません.つまり,最終消費財の輸出入はこの計算からは除外されています.これを移出入に算入するために,純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加してみます(セル中の最終消費を意味する「純消費」とは異なるものです).∑消費財=∑最終財なので,∑純消費=0となります.これを使うと,損益=純移出+純消費となるので,仮に,純輸出=純移出+純消費とすれば,

∑損益=∑純輸出=0

が成立するため,財貨的ゼロサムゲームと貨幣的ゼロサムゲームの差異が消失し,貿易収支の赤字=損益の赤字という「伝統的解釈」と一致することになるので,確かにこの方が直感的であるような気もします.しかし,生産額と支出額の計数ではいずれ消費財・最終財を算出しなくてはならないので,最終消費・中間消費を区分することは,このマトリックス計算上不可欠であると判断されるため,最終的な結論は保留したいと思います.見通しとしては,「国際収支発展段階説」がヒントになるのではないか?という感触を得ています.

国際収支発展段階説では,国際経済循環が一種のゼロサムゲームであるということを認めた上で,それぞれの国が①未成熟の債務国,②成熟した債務国,③債務返済国,④未成熟の債権国,⑤成熟した債権国,⑥債権取り崩し国の各段階を経由するというものです.この説によれば,ブラジル,アルゼンチン,スペインなどは未成熟の債務国,イギリスや米国などは債権取り崩し国なのだそうです.

※クローサーは,「国際収支がゼロサムゲームであること」に気付いているとは思われるが,この理論を単純に適用すると,「奨学金借りたら人生こうなった」のような悲劇の再現で終わりそうな気もする…

前記したように,わたしはときに各経済主体を擬人化して見ることがあるので,それが幼児期から青年期を経て老年期に至るという説明は合点が行きます.ただし,老年期のあとには「死」しかないということではありません.人間の場合,次の世代を養育するのは親の義務であり,未来に対する投資と考えられますが,同様のことは国家や企業体についても言えるのではないでしょうか?(そのような国家の世代交代のようなものがあるとすれば,おそらくそれは何かしらの「政治変革」を伴うようなものになる可能性はあるかも知れません)

パートⅡ後書き (2022/05/20)

上記では「純消費=消費財(最終消費財の購入)-最終財(最終消費財の販売)というパラメータを追加」することによって,∑損益=∑純輸出=0が成立するような「移出入の古典的定義」に回帰することを提案しているが,最終的な結論は保留としている.しかし,常識的に考えても移出入(輸出入)から最終消費が除外されているというのはおかしいので,ここでもう一度再考してみたい.移出入から最終消費を除外すると,たとえば「インバウンド収入」が輸出にカウントされない,あるいは「地域外の電力会社に支払った電気料」が地域の生産物にカウントされてしまうなどの不都合がある.

「移出入から最終消費を除外する」ようになった経緯というのはよくわからないが,それでも計算上は整合し三面等価原理も成立しているので,主に「問題の複雑度を軽減する」という動機(手抜き)から採用された方式であるように思われる.以下では「経済循環マトリックスのルールブック」を大幅に改訂した「最終案」と呼べるものを提案する.最終消費を移出入に算入するために新たにいくつかの用語を追加した.また,語義的な混乱を避けるためいくつかの既存パラメータを以下のようにリネームしている.①新規→自家消費,②新規→純仕入れ,③新規→内需要,④新規→外需要,⑤新規→中間益,⑥新規→販売益,⑦経費→内部経費,⑧純消費→全消費,⑨移出財→中間財

この新しい定義に従って,上記の「米国の貿易収支」のマトリックスを書き換えてみよう.その前に,まず,用語の日本語定義を与えておく.

  • 経済:経済とはある圏域において独立に取引を行う決定権ないし代表権を有する経済主体が相対で行う経済的取引の総体であるとする.ここでは「経済的取引」を通貨を媒介とする「貨幣的取引」に限定する.経済主体には,個人,企業,非営利団体,各種機関,政府・地方政府,およびそれらの集合を含むものとする.「経済主体の集合」には,家計,企業,銀行,地域,地方,国家,産業分類,職業分類など任意の区分に従う各種の「セクター」ないしその混合が含まれる.
  • 経済循環グラフ:個別の経済主体をノードとし,取引(トランザクション)を枝(辺)とする重み付き有向グラフ(ネットワーク).有向グラフの枝の向きはつねに,通貨の移動方向とする 経済循環グラフはループ(自己取引)ないし多重枝(同時並行取引)を持つ場合がある.経済循環グラフはブロックチェーン(分散台帳)や中央銀行準備金口座台帳などの取引情報をベースに構築され,取引の全時間リアルタイム決済システムとして機能することを予定する.経済循環グラフ上の取引はすべて「貨幣的取引」であると仮定する.財貨の無償提供などの非貨幣的取引は,①代価1円(最小貨幣単位)の取引とみなすか,ないし,財貨の受け渡しに先行して,財貨の提供者が財貨相応の通貨を財貨受領者に給与し,受領者はその通貨をもって財貨を購買するという「擬似貨幣的取引」として扱うことにしてもよい.
  • 経済循環マトリックス:経済循環グラフの接続行列として表現された計算表 参加メンバー(経済主体)数をNとするとき,N x N の2次元正方行列(マトリックス)として構成される.マトリックスの1個の「セル」は経済循環グラフの1個の枝(トランザクション)に相当する.経済循環マトリックスの主な目的は国民総生産統計などの経済循環統計を計算することにある.このためには,すべての取引が①仕入れ,②最終消費純消費)のいずれかに区分されなくてはならない.内部経済において生産・サービス提供のために消費されたコスト(経費)は①仕入れに区分される.経済循環マトリックス上の通貨移動は,つねに最左列のノード(経済主体)から最上行のノードに向かうものとする.
  • 経済循環マトリックスの圧縮と縮約:経済循環マトリックス上のデータを加工して所望の計算結果を得るための手法として,マトリックスの圧縮と縮約が用いられる.ある一定期間におけるすべての時点マトリックスデータを時間軸で合併する操作を「圧縮」,空間軸で合併する操作を「縮約」と呼ぶ 経済循環マトリックスの圧縮とは同一ノード集合を持つ複数の(同型の)経済循環マトリックス上で同一座標にあるすべてのセルの取引データを加算して1個のマトリックスにまとめる操作,経済循環マトリックスの縮約とは経済循環グラフ上の複数のノードを合併して1つのノードにまとめる操作である.ノードAとノードBを合併してノードCとする場合には,まず,A列とB列のセル値を合算してC列とし,ついでA行とB行のセル値を合算してC行を生成する.縮約によって外部取引が内部取引になる場合もある.
  • 実体経済と金融経済:経済循環マトリックスを取引の様態によって,(1)実体経済循環マトリックスと(2)金融経済循環マトリックスに大別する.(1)には「財貨の移動を伴う取引」が含まれ,財貨の移動を伴わない「純貨幣的取引」は(2)金融経済循環マトリックスで扱う.
  • 集計項目:経済循環計算を実施するために,マトリックスに以下のような集計項目を追加する.以下では,ある経済主体の内部で完結する取引を内部経済,それ以外の取引を外部経済(対外取引)と呼ぶ.
  1. 内部経費:該ノードの生産活動の内部コスト(給与など)
  2. 自家消費:該ノードが生産し自ら消費した最終消費財(純消費)
  3. 純仕入:該ノードが外部経済から購入した中間財(仕入れ)
  4. 内需要:該ノードが外部経済から購入・消費した最終財(純消費)
  5. 輸入財:該ノードが外部経済から購入した財貨の総額
  6. 全消費:該ノードが最終消費した財貨の総額(純消費)
  7. 仕入高:該ノードが購入した内部経費を含む中間財の総額(仕入れ)
  8. 支払高:該ノードが購入・消費した自家取引を含む財貨の総額
  9. 中間財:該ノードが生産し外部経済が購入した中間財(仕入れ)
  10. 外需要:該ノードが生産し外部経済が消費した最終財(純消費)
  11. 輸出財:該ノードが生産し外部経済が購入した財貨の総額
  12. 最終財:該ノードが生産した最終消費財の総額(純消費)
  13. 卸売高:該ノードが生産した内部経費を含む中間財の総額(仕入れ)
  14. 売上高:該ノードが生産した自家取引を含む財貨の総額
  15. 中間益:該ノードによる中間財の売買における利得(仕入れ)
  16. 純輸出:該ノードの輸出入(対外取引)財貨の差額
  17. 販売益:該ノードによる最終財の売買における利得(純消費)
  18. 所得額:該ノードの経済活動により増加した付加価値の総額
  19. 生産額:該ノードが生産した財貨の総額
  20. 支出額:該ノードが最終消費した財貨の総額+損益
  21. 損益:該ノードの対外取引による最終利得(帳尻)

※内需要・外需要は通常の内需(国内需要)・外需(海外需要,財貨・サービスの輸出)とは微妙に異なる意味で使われていることに注意.また,ここでは個人対個人の場合を含めて,すべての対外取引に「輸出入」という用語を割り当てている.この結果,純輸出=損益となる.

前出の「米国の貿易収支」サンプルに「最終案」を適用して,その妥当性を検証してみよう.以下のマトリックスでは「仕入れ」を青字,「最終消費(純消費)」を赤字で表示する.下表は「国籍基準」のマトリックスで,X国は,{ 国内,A社,α社 }を合体(縮約)したもの,Y国は{ 国外,B社,β社 }の合体(縮約)である.対角線上の自己取引セルはピンクで塗り潰した.

国内 A α X 国外 B β Y 支払高 仕入高 純仕入 輸入財 全消費 損益 支出額
国内 販売
1066

1066
輸出
318
外商
1066
1384 2450 1384 1384 1384 1066 -50 1016
A 逆輸出
109
109 109 109 109 109 31 31
α 輸出
140
140 仕入
1115
1115 1255 1255 1255 1255 43 43
X 1066 140 109 249
1066

1433 1066 2499
3814 2748 (2748)
2499
(2748)
2499
1066 24 1090
国外 輸入
341
341 販売
1189
1189 1530 341 341 1530 1189 -97 1092
B 納品
1189
1189 輸出
100
100 1289 1289 1289 1289 82 82
β 仕入
993
993 輸出
182
182 1175 1175 1175 1175 -9 -9
Y 1334 1189 2523 182
1189
100 282
1189
3994 2805 (2805)
2523
2523 1189 -24 1165
売上高 2400 140 1298 3838 1433 1371 1166 3970 7808
卸売高 1334 140 1298 2772 1433 182 1166 2781 5553  
中間財 1334 140 1298 (2772)
2523
1433 182 1166 (2781)
2499
  (5553)
5022
輸出財 1334 140 1298 (2772)
2523
1433 1371 1166 (3970)
2499
    (6742)
5022
最終財 1066 1066 1189 1189
  2255
純輸出 -50 31 43 24 -97 82 -9 -24   0
所得額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255
中間+
最終財
2400 140 1298 (3838)
3589
1433 1371 1166 (3970)
3688
 
生産額 1016 31 43 1090 1092 82 -9 1165 2255

上掲のマトリックスで黄色で塗り潰したセルはそのセルでクロスする行と列のトータルが一致していることを示している.これは,下記ルールブックで①∑(支払高)=∑(売上高),②∑(卸売高)=∑(仕入高),③∑(中間財)=∑(純仕入),④∑(輸出財)=∑(輸入財),⑤∑(損益)=∑(純輸出)=0としているところと照応する.緑色で塗り潰したセルは「総体経済の四面等価原理」の成立を示すもので,総支出=総所得=総生産=総消費が完全に一致していることが看て取れる.

支出額,所得額,生産額を集計した各行,各列のフィールドは個別ノードごとにそれぞれ完全に一致している.これは「単体経済の三面等価原理」が成立していることを示している.濃いグレーで塗り潰された行と列(X国・Y国)はこれらのノードが複数の単体経済の「縮約」であることを意味する.このような「ノードの縮約」によって,「対外取引」が「内部経済」に転化することによって影響を受ける項目には背景色として薄いグレーを用いている.このような項目には,①純仕入,②輸入財,③中間財,④輸出財がある.⑤中間+最終財は計算上の便宜を図るために導入された作業用パラメータである.

これらの項目ではそれぞれの取引が「対外取引」であるのか,「自己取引(内部経済)」であるのをチェックしなくてはならないので,集計はやや厄介なものになるが,自動計算は可能である.これら以外の項目では集計は単純な「加算」のみで完全に整合的な計算を実施できる.これらの「圏域に依存するタイプの集計項目」では,参考値として集約計算前の「原マトリックス」上での集計値を「(,)」で括って示した.

上記したようにすべての集計行と集計列はそれぞれに対応する項目を持ち,それぞれの集計値は完全に一致する.この水平計算と垂直計算が一致するという経済循環マトリックス計算の性格は,この計算方式が「複式簿記」という会計計算法の「拡張」となっていることの証左である.三面等価原理が個別ノードについて成立していることから鑑みると,「複式簿記」が2次元の平面計算であるとすれば,3次元の立体計算になっていると言ってよいのではないだろうか?

経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2022/05/20)

内部経費=対角セルの仕入れ
自家消費=対角セルの純消費

純仕入=∑(行の対外仕入れ
内需要=∑(行の対外純消費
輸入財=∑(行の対外支払い) 
   =∑(行の対外仕入れ)+∑(行の対外純消費
   =純仕入内需要
全消費=∑(行の純消費)=内需要自家消費
仕入高=∑(行の仕入れ)= 純仕入内部経費
支払高=∑(行の全要素)=仕入高全消費

中間財=∑(列の対外仕入れ
外需要=∑(列の対外純消費
輸出財=∑(列の対外売上げ)
   =∑(列の対外仕入れ)+∑(列の対外純消費
   =中間財外需要
最終財=∑(列の純消費)=外需要自家消費
卸売高=∑(列の仕入れ)=中間財内部経費
売上高=∑(列の全要素)=卸売高最終財

中間益=中間財純仕入卸売高仕入高
純輸出=輸出財-輸入財
   =(中間財外需要)-(純仕入内需要
   =(中間財純仕入)+(外需要内需要   =中間益販売益
販売益=最終財全消費外需要内需要
   =純輸出-中間益

所得額=売上高-仕入高
   =(中間財内部経費最終財)ー(純仕入内部経費
   =中間財純仕入最終財中間益最終財
損益=売上高-支払高=(卸売高最終財)-(仕入高全消費
  =(中間財内部経費最終財)-(純仕入内部経費全消費)
  =中間益販売益=純輸出
生産額=最終財中間財純仕入
   =最終財+(中間財内部経費)-(純仕入内部経費)
   =最終財卸売高仕入高最終財中間益=所得額
支出額=全消費+損益
   =全消費+(卸売高最終財)-(仕入高全消費 
   =最終財卸売高仕入高最終財中間益=所得額

∴所得額=支出額=生産額(単位経済の三面等価原理)

∑(損益)=∑(純輸出)=0(経済循環的ゼロサムゲーム)
∑(支払高)=∑(売上高)
∑(卸売高)=∑(仕入高)
∑(中間財)=∑(純仕入)
∑(輸出財)=∑(輸入財)

総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)
総消費=∑(全消費)=∑(最終財) =∑(支払高-仕入高) 
   =∑(支払高-(売上高-所得額)) 
   =∑(所得額-(売上高-支払高)) 
   =∑(所得額-損益) =∑所得額-∑損益=総所得

∴総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

 

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