金融・国際・宗教・環境の視点から見る経済循環マトリックス

(a), (b)

2021/07/16 19:00

生島さん,下田さん

実体経済の範囲内では,経済循環マトリックス計算がほぼ問題なく動作していることが確認できたものと考えていますが,いかがでしょうか?今日は,これに「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」を追加してみたいと思います.財貨の移転を伴わない純貨幣的取引として考えられるものには以下が挙げられます.

  1. 貸出と返済(利息を除く元本分の返済,分割返済を含む)
  2. 債務・債権の移転(株式,金融商品の売買など)
  3. 供与・贈与・寄付(ご祝儀,カンパ,買収,補助金,給付金,政府開発援助など)

項目1では債務と債権が当事者のそれぞれの側に新たに発生します.項目2の債務・債権の移動では支払われる金額と債権の額面が一致しない(債券の市場価格に依存して)という場合があり得ます.項目3の供与などの場合には,債務も債権も発生しません.これらを一律に扱うのはかなり難しいのですが,経済循環マトリックス計算は本来「決済システム」なので,堅牢でかつ,マトリックスの圧縮(重ね合わせ)や縮約操作がつねに加算によって実行できる(加法性が成立する)ことが要求されます.従って,かなり無理筋のような気もしますが,以下のような「統一ルール」ですべてのパターンを扱うことにしたいと思います.

  1. セルにはその取引に関わる取引金額が記載される
  2. 通貨はつねに取引金額の記載されたセルの最左列のノードから最上行のノードに移動する
  3. 取引金額はつねに正の整数とする(総取引額を集計するため)
  4. 集計用に「債権」列と「債務」行を追加する 「債権」は実体経済における「支払高」に相当し,「債務」は「売上高」に相当する
  5. 別に純債務,純損益という項目を設ける 純債務=債務-債権,純損益=損益+純債務

「純債務」は実体経済マトリックスにおける損益に相当するもので,「純損益」=「損益」+「純債務」は,経済循環グラフにおける「持ち分」つまり,中央銀行当座預金残高(の増減)に相当すると考えられます.金融経済マトリックスは(そのように設計されているので,当然ながら)GDP計算にはまったく何の影響も与えません.基本的にこれ以上追加するものはないと考えられるので,実例を挙げて見ます.サンプルとして,以前提示したA社,B社,a, b, Y国(C社, c)という二国モデルを取り上げます.これに以下のような取引を追加してみました.

  1. A社はB社の社債100を購入
  2. A社は個人bに50を消費者信用貸付
  3. B社はY国に資金20を供与(Y国高官を買収するため)
  4. aA社の新規発行株20を購入して社員株主となる
  5. aY国の国債50を購入する
  6. bはA社からの借入金のうち,20を返済
  7. bはaから(A社の)株式10の有償譲渡を受ける

※追記:金融取引のみを抜粋した金融経済循環マトリックス↓.

A B a b Y 債権
A 社債100 貸付50 150
B 供与20 20
a 新規株20 国債50 70
b 返済20 株譲渡
10
30
Y 0
債務 40 100 10 50 70 270
純債務 -110 80 -60 20 70 0

※下記では「生産額の行」と「支出額の列」に囲まれた「実体経済マトリックス」の部分は不変.その外枠に「金融経済マトリックス」部分が追加されている.

A B a b Y 支払高 仕入高 移入財 最終財 損益 支出額 債権
A 社債100 給与60 貸付50 輸出60 120 120 120 40 40 150
B 原材料100 内販60 給与60 輸出60
供与20
280 220 220 60 -20 40 20
a 新規株20 輸出 60
国債50
60 60 0 60 70
b 返済20 株譲渡
10
輸出 60 60 60 0 60 30
Y 燃料60 輸出200 販売 60
給与60
380 260 200 120 -20 100 0
売上高 160 260 60 60 360 900 0
卸売高 100 200 60 60 180 600
所得額 40 40 60 60 100 300
移出財 100 200 60 60 120 540
消費財 60 60 180 300
純移出 -20 -20 60 60 -80 0
生産額 40 40 60 60 100 300
債務 40 100 10 50 70 270
純債務 -110 80 -60 20 70 0
純損益 -70 60 -60 20 50 0

これらの取引の結果,A社は損益40から純損益-70に,B社は-20から60に,a, bは損益ゼロからそれぞれ,純損益-60, 20に,Y国は損益-20から純損益50に変化しました.債権,債務,純債務,純損益に関しては以下の式が成立します.

∑債権=∑債務=金融総取引額
純債務=0 (金融的ゼロサムゲーム)
純損益=0 (貨幣的ゼロサムゲーム)

ここで改めて,2021/07/01のメールに戻ってみたいと思います.この表↓は,一度「ぼぼデタラメに近い致命的な誤り」があるとして撤回されたものですが,もう一度引っ張り出してみました.これまでに述べた区分に従い,改めてこの表を①財貨の仕入れ(中間財取引,経費),②財貨の最終消費,③金融取引で色別に塗り直してみます.※以下の表では,資産配当を配当と略記しています.

公共 企業 金融 家計 事業支出
公共 補助金,交付金
利子補給,融資,
返済,資産投資
配当
基盤投資,資本投資
消費支出
補助金,財政投融資配当
手数料
返済,公債償還
資産投資配当
人件費
給付金
資産投資配当
歳出
財政支出
公務員給与
企業 租税
公債購入配当
払い下げ
仕入れ,外注費,運賃
資本投資,消費支出
財テク配当
返済,手数料
資産投資,配当
人件費
融資,返済
資産投資,配当
企業支出
営業費用
民間人給与
金融 租税公債購入
融資,返済,資産投資
配当
資本投資,消費支出
融資,資産投資配当
手数料
融資,返済
資産投資,配当
人件費
融資,
資産投資配当
金融支出
営業費用
銀行員給与
家計 租税,保険料,手数料
水道料金,通行料
公債購入配当
資本財購入,消費支出
融資,返済
個人投資配当
手数料
貯蓄,返済
資産投資配当
家事サービス報酬
資産投資配当
家計支出
生活費用
事業収入 歳入
公租公課
現業部門売上,配当
企業収入
中間財売上
最終財売上
金融収入
営業収入
家計収入
個人所得
配当・報酬
通貨循環量
国民総生産

まだ覚束ないところもありますが,何とか色の割当ができました.この表ではセル内の取引品目はすべて,支払側から見た仕訳になっています.公共セクタが主体となって実施する全事業を大雑把に「公共サービス」としてくくるとすると,一般政府の徴収する公租・公課はその「サービス料金」に当たるので,「最終消費」とみなすこともできますが,会計的には一般には「経費(の一種)」という認識があると思われるので,取引種別は「仕入れ」としています※.※※

※租税を「みかじめ料」のような性質のものと考えれば,「持続可能な事業」を営むための「経費(サービスに対する支払い)」のようにも見えます.直接には「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」であることも確かなので,場合によっては「金融取引」の一種とみなすことも考えられます.一般に公共サービスは原則として無料で提供されるものと考えられますが,租税を「経費」と見た場合には,その時点ですでに該サービス料金を前払いしているとも言えます.

※※「国民主権」であれば,公務員は国民の下僕であると言われる,事業者は国民,公務員報酬はその「事業経費」に相当するから,「仕入れ」になるという解釈でよいのではないか?「租税」の「性格」ないし「位置付け」に関しては,どこかで再考する必要がある…

やや問題なのは,「資産投資」を金融取引としているところです.上記では,金融取引を「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」と定義していますが,初出(廃棄メール)では,「資産投資」は以下のように定義されています.

資産投資(資産・債権の購入):投資を目的とする不動産・金融資産(株式,有価証券)の購入,資産配当(財産所得)の源泉となる 不動産は第三者に貸し付けることによって初めて配当を生じるが,金融資産はそれ自体が有利子債権である 資産の再貸付(又貸し)ないしその資産を担保とする融資なども行われる 投資の目的が配当を得ることよりも資産の価格変動による売買差益を狙う場合には投機と呼ばれる 金融債権の償還は返済に含まれる

「金融資産」の売買が「金融取引」に当たることは問題ないと思われますが,「投資を目的とする不動産の購入」では,「財貨の移転」が発生していることは明らかです.少なくとも「土地」を生産することは(一般には)できないと考えられるので(埋め立てや宅地造成などで生産される場合はあり得る),(自己使用を目的としない場合には)土地の売買を資産投資とみなすことは妥当とも思われますが,建物の場合はもう少し込み入った話になります.建物は通常「生産」されて初めて存在するので,新築された時点ではGDPに算入されなくてはなりません.

資産投資とそのリターンである資産配当は,経済循環マトリックスでは前者を金融取引とし,後者を財貨(サービス)の最終消費とみなしているので,定義上の混乱はありませんが,「財貨の転売」がどう扱われるか?は問題です.財貨の転売を通常の商行為とみなすとすれば,「転売を目的とする財貨の購入」は「仕入れ」に該当します.この意味ではすべての耐久性のある商品の購入はつねに再販が可能であると推定されるので,すべて「仕入れ」とすることもあり得るでしょう.しかし,我々の経済循環マトリックス計算では「最終消費されていない製品は生産額に算入されない(売れ残り=在庫=商品価値ゼロ)」ということになっているので,計算がかなりあいまいなものになってしまいます.

以下のようなケースを考えてみましょう.Aは建築業者Cから新築住宅を200で購入し,それまで住んでいた住まいを不動産業者B100で売却します.業者Bはこれを業者C150で転売します.このマトリックスでは総生産は200となり,確かに新築住宅の価格と一致しています.

個人A 不動産業者B 建築業者C    支払高 仕入高 最終財 移入財 損益 支出額
A 新築住宅購入
200
200 200 -100 100
B 中古住宅購入
100
100 100 100 50 50
C 住宅転売
150
150 150 150 50 50
売上高 100 150 200 450 0
卸売高 100 150 250
所得額 100 50 50 200
消費財 200 200
移出財 100 150 250
純移出 100 50 -150 0
生産額 100 50 50 200

マトリックス計算では「四面等価の原理」により,総生産=∑最終財=∑消費財ということになっているので,青字の売買価格はGDPには影響しません.従って,転売はつねに「仕入れ」として扱うというのでよいのではないでしょうか?本来ならこの生産額は建築業者Cが単独で「生成」したものなので,所得額が生成された付加価値を意味するとすれば,C200A, Bはゼロとなるような気もしますが,この三すくみの売買ではA100B50C50のように配分されます.損益はA-100, BC50ですが,B50は転売益,C50は売買の差額です.マトリックス計算では取引の履歴までは分からないので,Cの利得50は「新築住宅200を建設・販売し,中古住宅150を購入した」という解釈の他にも,「仕入れ価格150で新築住宅を購入し,それを需要者に200で転売した」と読解することもできるためです.

財貨の転売を「仕入れ」として扱うとすれば,不動産(土地・建物)の売買もすべて「仕入れ」でよいのでしょうか?財貨には,①消費財,②耐久消費財,③資本財などがあります.経済循環マトリックスでは通常これらはエンドユーザが購入する時点で最終消費財とみなされますが,これらがなにかの理由で転売されるときには「仕入れ」とする必要があります.建物(資本財)の場合もこれと同様と考えてよいと思います.土地は通常はどうやっても生産できないので,やはり,金融商品と考えるべきではないでしょうか?基盤投資(インフラストラクチャの構築)は,「最終財の消費」とみなされるので,埋め立てや宅地造成の場合に限り基盤投資(消費)とすればよいのではないかと思います.

土地・建物の購入が資産投資に含まれているのはそれらを貸し付けることで収益を得ることができるためですが,少なくとも建物の賃貸は,それ以外の財貨のレンタル業と同様サービス業とみなすというのでよいと思います.従って,非居住用建物の購入は資産投資というより資本財の購入とみるべきでしょう.ただし,土地を資本財に含めることはできないので,区分するとすれば資産投資とするよりないのではないでしょうか?資産投資と資産配当には必ずしも因果関係があるとは限らない(つねに収益を得られるとは限らない)ので,土地から上がった収益は財貨サービスの売上としてカウントすればよいのではないかと思います.まとめると「土地の購入は個人の場合でも資産投資(金融取引)に区分する.建物は個人の場合も資本財の購入として扱う.資産ないし財貨の貸借から得られる収益(レント)はすべて最終消費として扱う」とします.上の例題を土地付き住宅の売買に拡張して試してみましょう.

個人A 不動産業者B 建築業者C    支払高 仕入高 最終財 移入財 損益 支出額 債権
A 土地付き新築住宅
200+150
200 200 -100 100 150
B 土地付き中古住宅
100
+100
100 100 100 50 50 100
C 土地付き住宅
100+120
改装費用50
150 100 50 100 50 100 120
売上高 100 150 200 450 0
卸売高 100 100 200
所得額 100 50 100 250
消費財 50 200 250
移出財 100 100 200
純移出 100 0 -100 0
生産額 100 50 100 250
債務 100 120 150 370
純債務 -50 20 30 0
純損益 -150 70 80 0

土地と建物の取引をつねに分離しなくてはならないというのも厄介な話ですが,「三面等価原理」がつねに成立するマトリックスを構成するためには避けられないところです.金融取引には「仕入れ」や「消費」という概念がないので,たとえば証券会社が債券を仕込んで販売するような場合でも,すべて「モノトーンの金融取引」として処理されます.ここまでをまとめると,金融マトリックスに含まれる取引には,①融資と返済,②資産投資(土地ないし金融資産の売買),③資金移転があり,建物は資本財に区分して資産投資の対象外とする,基盤投資,資本投資,資産配当はすべて最終消費財として処理される,ただし,資本財の転売は「仕入れ」として仕訳するということになりました.(土地がある種の金融資産とみなされることと,土地の担保価値が高いことの間には相関があるのではないでしょうか?)

上記の計算表で茶色文字の取引とその集計表が金融経済マトリックス,その反転(赤文字と青文字の取引とその集計)を実体経済マトリックスとすれば,総体としての経済循環マトリックスは,この2つの計算表の重ね合わせ(一種の圧縮)として示されます.日本経済の場合で言えば,実体経済マトリックスは(規模的に)ほぼ全銀システムに相当し,金融経済マトリックスはほぼ日銀ネット(インターバンクシステム)に相当すると考えられます.中央銀行がCBDCを発行し,現金取引が消滅するときには,すべての決済はこの統合された経済循環マトリックス上で実施されることになるのでしょう.(卸売型のCBDCを採用した場合には階層的なトポロジーを持つことになります…)

PS:経済循環マトリックスの当事者(経済単位)プロパティ

以下ではすべての取引は①中間消費財(仕入れ/経費),②最終消費財(純消費),③金融資産(借用証書,土地,株式,証券など)のいずれかの売買(貨幣的取引,買い戻しを含む)に関わるものであるとする.ただし,③金融資産の場合には対象商品が「空」である場合(供与=通貨の単純な移転の場合)もあり得る.

  1. 支払高 当事者が支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む,金融取引を含まない)
  2. 仕入高 当事者が中間消費財購入のために支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
  3. 最終財 当事者が最終消費財購入のために支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
  4. 移入財 当事者が中間消費財購入のために外部に支払ったすべての金額の合計(内部取引を含まない)
  5. 損益  売上高と支払い高の差額
  6. 支出額 当事者の最終財と損益の合計=所得額
  7. 債権  当事者が金融資産購入のために支払ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
  8. 売上高 当事者が受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む,金融取引を含まない)
  9. 卸売高 当事者が中間消費財の売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
  10. 所得額 売上高と仕入高の差額 当事者によって生産された付加価値
  11. 消費財 当事者が最終消費財の売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
  12. 移出財 当事者が中間消費財の外部への売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含まない)
  13. 純移出 移出財と移入財の差額=卸売高と仕入高の差額
  14. 生産額 消費財と純移出の合計=所得額 
  15. 債務  当事者が金融資産売却によって受け取ったすべての金額の合計(内部取引を含む)
  16. 純債務 債務と債権の差額
  17. 純損益 損益と純債務の合計 当事者の持ち分の増減に当たる

所得額=支出額=生産額 (経済単位の三面等価原理)

2021/07/19 2:46

生島さん,下田さん

経済循環マトリックス計算に「財貨の移転を伴わない純貨幣的取引」を追加することによって,完璧とは言えませんが,ほぼ,地上におけるすべての経済活動を網羅的に表現できるモデルを提示することができたのではないかと思います.ツッコミどころ満載かとも思いますが,かなり長くなりましたので,そろそろまとめに入りたいと思います.

地上におけるすべての経済活動というのはやや大げさな言い回しですが,経済活動は無数の取引(トランザクション)の結合・連鎖から成り立っていることは明らかですから,すべての貨幣的取引がその上で処理可能であるとすれば,ほぼすべての経済活動を網羅するものになっていると言って過言ではありません.そこに参加する当事者のスケール(経済規模)に関わりなくすべて独立の主体として「同権である」,つまり,完全に同一のルールが適用されるという立場(法の下での平等)が,経済循環マトリックス計算の基本的な立ち位置であり,目標です.これを別の言葉で言えば,「貨幣の中立性」(誰の味方もしない)ということになります.

「結婚は両性の合意によってのみ成立する」という憲法上の規定がありますが,「取引は当事者の合意によってのみ成立する」,つまり,価格の決定を含む取引成立に関わる要件は当事者の自由意志による合意のみであり,それ以外の基準は存在しないというのが,「自由主義経済」の基本テーゼであると言えます.(もちろん,例外はあります.たとえば生活必需物資を独占的に販売している商人がある特定の相手を拒むことは認められません.物資によっては「専売制」が求められる場合もあります)「決して停止しない決済システム」というものがいつかこの地上に実現することがあるとすれば,その基底にはこのテーゼの存立が仮定されます.(複数の当事者が結託するという問題はありますが,それはまた別のテーマです.)

世の中には「貨幣的でない取引」というのもあります.たとえば,AからBに財貨Mが無償で移転するような場合です.このような「取引」には二つの解釈があり得ます.一つは,BAから財貨Mを窃取した,つまり「泥棒」ないし「略奪」という犯罪行為,もうひとつはAが善意でBに財貨Mを提供するようなケースです.経済循環マトリックスでは「貨幣的でない取引」を対象としていないので(ベースが経済循環グラフという決済システムであるため),これらのケースは対象外とされますが,後者の場合,擬似的には,①BからAに財貨Mの価格に相当する通貨を移転する,②Bはこの通貨を用いてAから財貨Mを購入するという二つの手続きを合成することによって,ほぼ同等の操作を実現することは可能です.

実際,IMFの国際収支基準では食料や医薬品などの無償供与のような取引を経常移転収支(第二次所得収支)というカテゴリで扱っています.「経常収支」という用語はしばしば登場するので,それとの関係を見ておきたいと思います.財務省の「用語の解説」というページでは以下のように説明しています.

  • 経常収支
    1. 貿易・サービス収支 貿易収支及びサービス収支の合計。実体取引に伴う収支状況を示す。
      • 貿易収支 財貨(物)の輸出入の収支を示す。
        国内居住者と外国人(非居住者)との間のモノ(財貨)の取引(輸出入)を計上する。
      • サービス収支 サービス取引の収支を示す。
        (サービス収支の主な項目)
        • 輸送:国際貨物、旅客運賃の受取・支払
        • 旅行:訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払
        • 金融:証券売買等に係る手数料等の受取・支払
        • 知的財産権等使用料:特許権、著作権等の使用料の受取・支払
    2. 第一次所得収支 対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支状況を示す。
      (第一次所得収支の主な項目)
      • 直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払
      • 証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払
      • その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払
    3. 第二次所得収支 居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支状況を示す。
      官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払等を計上する。
  • 資本移転等収支
    対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除のほか、非生産・非金融資産の取得処分等の収支状況を示す。
  • 金融収支
    直接投資、証券投資、金融派生商品、その他投資及び外貨準備の合計。
    金融資産にかかる居住者と非居住者間の債権・債務の移動を伴う取引の収支状況を示す。

これで見ると,「経常収支」というのは,ほぼ実体経済マトリックスの「純移出」に相当し,「金融収支」は金融経済マトリックスの「純債務」に相当しますが,微妙な(というか,かなり重大な)差異も存在します.「資本移転等収支」は,資本形成の援助としての道路・港湾の建設や,途上国への無償資金,金地金の購入,債務免除などが含まれるものと考えられます.「債務免除」は金融経済マトリックス上で,①債務免除額相当通貨の贈与と②それを原資とする債務返済の合成として実現できるので,金融経済の中で処理可能です.「非生産・非金融資産の取得処分等」の具体的内容は不明ですが,なんらかの「サービスの供与」のようなものとすれば,やはり実体・金融マトリックスの混合・合成ということになるのかもしれません.相違点を列挙してみましょう.

  1. 現行では,輸出入に関わる取引はすべて「仕入れ」に限定され,最終消費者が現地で直接購入するような場合には「純消費」として処理されている.従って,サービス収支:旅行などの費用は輸入に計上されない.
  2. 金融機関への手数料と利子・配当金など一括してサービス支出として処理しているため,サービス収支と第一次所得収支が分離されていない.
  3. 第二次所得収支は「対価を伴わない資産の提供」とされるが,この中には,通貨を提供/送金する場合と財貨を無償提供する場合が含まれている.その相手先も個人から国際機関までまちまちで,実体経済循環と金融経済循環のミックスになっている.
  4. 金融収支:直接投資には海外における工場建設など,資本財の購入(最終消費)が入っていると思われるが,現行ではおそらく,これらは「仕入れ」として処理されるのでなければ「投資」とはみなされない.

実体経済循環と金融経済循環を峻別するというのは悪くないスキームであると思っていますが,もう少し整理する必要があるかもしれません.整理するとすれば,①経常収支で扱う取引をすべて実体経済循環の中で処理する,②資本移転等収支と金融収支はすべて金融経済循環の中で処理されるとすべきでしょう.変更を要すると考えられる項目としては,

  1. 「財貨の移動を伴わない取引」のうち,債権・債務が発生しない取引をすべて実体経済循環に移動する
  2. (投資を目的とする)金地金の取引を金融資産取引に追加する
  3. 「資本投資」を金融経済循環に移動する
  4. 金融機関に対して支払う手数料(サービス取引)と利子・配当(第一次所得)を分離・区分して集計する
  5. 国外での純消費を輸出としてカウントする

3の「資本投資」の移動以外の実装はそれほど難しくないと考えられますが,「資本投資」を金融経済循環に移動するというのはかなり大きな副作用があるような気がします.いや,どの項目もそれぞれ厄介な問題をはらんでいるような気もします.1の場合はGDPに影響しない取引を実体経済循環に持ち込むことになります.2では,「非生産・非金融資産の取得処分等」というのは,土地と金地金の取引を意味しているのではないかと思われるので,現在の金融資産の定義から土地と金地金を除外する必要があるように思われます.4で利子・配当を分離するというのはよいのですが,そもそも利子・配当は国民総生産に含まれているのかいないのか?が問題です.

わたしは,金銭貸借も財貨のレンタルの一種と考えていて,建物,車,コンピュータなど財貨のレンタルと同様に,「通貨の使用料」としての「サービス料金」でよいと考えたのですが,利子・配当がGDPに含まれないとしたら,単に区分するというだけでなく,取り扱いを変える必要が出てきます.GDPに含まれない取引は経済循環マトリックスでは金融経済に含まれるので,むしろ金融経済マトリックスに移動するという方が筋が通っています.もし,それが正しいとすれば,むしろ第一次所得と第二次所得はどちらも金融経済で扱うという方がすっきりします.まず,この点を調べてみましょう.⇒わかり易い図がありました.京大経済学部岩本研究室国際収支(BOP)と国際投資ポジション(IIP)

ということは,①経常収支のうち,貿易・サービス収支は実体経済循環,②それ以外の(1)第一次所得収支(所得収支),(2)第二次所得収支(経常移転収支),(3)資本移転等収支,(4)金融収支はすべて金融経済循環でよいということになります.また,こういう式もありました.

※この解釈は間違っている.上掲の説明図では経常収支のうち,所得収支と経常移転収支は国民総生産に含まれないとなっているが,「国民総生産」とは国民経済を単体経済と考えたときの「生産額」に他ならないので,それを理由に所得収支と経常移転収支を実体経済に含まれないとするのはおかしい.「利払い」などを「生産額」から除外するという考え方にも一理はあるが,それをやるとすればむしろ実体経済内部の「仕分け」として扱う方がよい.従って,(個人取引,内国取引,国際貿易を区別しない)我々の立場からすると,経常収支⇔実体経済である.

経常収支+資本移転収支ー金融収支+誤差脱漏=0

中にはこれを,経常収支-金融収支=0としているサイトもありますが,多分上記が正しいのでしょう.変更点をもう一度洗い直してみると,

  1. 海外における純消費を輸入に変更する
  2. 消費と投資を分離する
  3. 利子・配当などの金融収益を金融経済マトリックスに移動する
  4. 金融資産から土地と金地金を分離する
  5. 「対価の受領を伴わない固定資産の提供」を金融経済マトリックスで扱う(資本移転等収支)

1, 2, 3, 4は問題ないように思われますが,5は多少問題があるような気がします.

2021/07/25 5:58

生島さん,下田さん

経済循環マトリックスの仕様を整理して,移出財・移入財などの要素を廃止しました.その代わりに導入を予定していた移出高・移入高も使わないことにしたので,輸出入高などの数字は支払高/売上高と内部取引額から別途求める必要があります.このような変更を行った理由は,移出財・移入財ないし移出高・移入高などの値は「内部取引を含まない」ことになっているため,マトリックスの縮約演算を実施するときに単純な加算だけでは集計できなくなるためです.支払高・売上高や消費財・最終財などの値はいずれも内部取引を含んでいるので,縦横計算を実施したときにも単純に加算するだけで正しい値を得ることができます.経常収支などの外部の統計数字と比較するときには,たとえば輸入高であれば支払高から内部取引高を控除する必要がありますが,その不便よりも,メンテナンスの容易さ・システム的な堅牢性を優先しました.

以前の純移出=移出高-移入高に相当する値として,仕入尻=卸売高-仕入高を導入し,財収支=仕入尻+純消費とすると,財収支=損益となり,財収支は経常収支の貿易収支に相当するので,実体経済の損益と貿易収支が完全一致します.単純過ぎるような気もしますが,この方が直感的かつ,シンプルなのでこれでよいのではないでしょうか?「仕入尻」というのも聞き慣れない言葉ですが,このマトリックス計算の通常と異なるところは「取引を仕入れ/最終消費で区分する」という仕組み(取引データから付加価値を切り出す計算には不可欠)にあるので,それを示す特徴的な用語とお考えください.最終消費(純消費)では,①財貨消費,②サービス消費,③資本財消費,の3種を区分しています.①財貨消費はカッコなし,②サービス消費は(),③資本財消費は[]でくくりました.集計項目名の「消費」,「サー」,「投資」はそれぞれ,①財貨消費,②サービス消費,③資本財消費に該当します.

※追記:パートⅡ後書きでは,「経済循環マトリックスのルールブック:最終案」というのを提示しているが,すでにの時点でここまで整理が進んでいるということに気付かなかった,というよりまったく覚えていなかった!「最終案」では,新たに6個の新規パラメータ,①自家消費,②純仕入れ,③内需要,④外需要,⑤中間益,⑥販売益を導入しているが,ここでは「仕入尻」と「財収支」という2つのパラメータを導入するだけで,この問題を「完全」に解決している.「仕入尻」は「最終案」の「中間益」に相当し,「財収支」は「純輸出=貿易収支」に当たる.下記のマトリックスではどのような縮約を行っても,セル内の値はつねに一意に確定する.

A B a b X Y 支払高 仕入高 最終財 消費 サー 投資 損益 支出額
A 給与60 60 農産物60
車両[60]
180 120 60 60 100 160
B 原料100
輸送(60)
内販60 給与60 160
120
機械[80] 360 160 200 60 60 80 -100 100
a 食品60 60 新車 [60] 120 120 60 60 -60 60
b 旅行 (60) 60 60 60 60
X 100120 60 60 60 220
180
60
260
720 280 440 120 120 200 -60 380
Y 燃料60 輸出200 200
60
給与60
販売 60
380 260 120 120 60 180
売上高 280 260 60 60 660 440 1100
卸売高 100 200 60 60 420 120 540
所得額 160 100 60 60 380 180 560
仕入尻 -20 40 60 60 140 -140 0
消費財 180 60 240 320 560
消費 120 60 180 60 240
サー 60 60 60 120
投資 200 200
純消費 120 -140 -120 -60 -200 200 0
財収支 100 -100 -60 0 -60 60 0
生産額 160 100 60 60 380 180 560

最終財消費を①消費,②サービス,③投資のように分割すると,下記のような式が成立します.

国内総生産(GDP)=消費(財貨+サービス)+投資+貿易・サービス収支

たとえば,X国のGDP380,消費=120120240,投資=200,貿易・サービス収支=財収支=損益=-60なので,380240200-60となり,確かに上式が成立しています.経済循環マトリックスではすべての経済単位に同一ルールが適用されるので,たとえばB社について見れば,生産額=支出額=所得額=100,消費=6060120,投資=80,財収支=損益(貿易・サービス収支に該当)=-100から,10012080-100であることが確認できます.「閉じた経済循環マトリックス」全体では「外部取引」が存在しないため,∑損益=0,つまり,貿易・サービス収支に相当する数字はゼロになります.上の表で青色のセルの560という数字が3箇所に現れていますが,これにより,所得額=生産額=支出額という三面等価原理に加えて,∑最終消費=∑消費財=総消費=総生産=総所得=総支出という「閉じた経済循環(総体経済)の四面等価原理」が成立していることが見て取れます.上記の国内総生産等式は,ときには,以下のように表現されることもあります.

所得 = 消費 + 貯蓄

所得は一国経済で見れば,国民総生産に相当し,マトリックス計算では所得額として表示される数字です.消費は上式の消費+投資に当たります(投資資本財という消費財を最終消費することなので消費に含まれます).貿易・サービス収支はマトリックス計算の財収支に当たりますが,この数字は実体経済マトリックスの「帳尻」である損益に一致するので,貯蓄と読み替えることができます(損益は持ち分=準備金の増減に当たる).もちろん,この式は国家だけでなく,すべての個別経済単位について成立しています.

  • 資本財(固定資本財):工場・機械(ロボットを含む)・設備・車両・船舶・航空機・建物など耐久性があり,生産活動に用いて将来の収益を生み出す資本となるもの
  • 基盤投資:道路・鉄道・上下水道・発電所・電力網・通信網・港湾・空港・灌漑・治水などの大規模公共建造物(インフラストラクチャ)の築造・整備
  • 資本投資:将来の生産活動のために必要とされる資本財(生産設備)の購入

ここでの「投資」は「資本投資」の意味で使われていますが,対象が国家の場合には基盤投資(インフラ構築)も含まれるとしてよいでしょう.「資本財」というのはいわば(経済主体擬人説で言う)サイボーグの肉体を構成するパーツ(プロティン)のようなものですが,わたしの個人的見解では個人が所有する車や住宅など,必ずしも生産に直結していない場合でも(肉体を増強するという意味の)資本財としてよいのではないかと考えています.耐久消費財の中でも洗濯機や冷蔵・冷凍庫,食洗機,ミシンなどの家電製品は資本財に加えてもよいかもしれません(なんと言っても我々は身体が資本です…).

さて,問題は金融経済マトリックスですが,「金融経済では純貨幣的取引のみを扱う」というのがマトリックス計算の原則なので,その線に沿ってまとめたいと思います.IMFの国際収支マニュアルとは必ずしも完全一致しないかもしれませんが,必要ならばその時点/場所で調整可能と思います.経常収支に含まれる「所得収支」と「移転収支」はマトリックスでは金融経済循環に含まれる(含まれることにした※)ので,経常収支を見るときには金融経済マトリックスを使う必要があります.※所得収支は実体経済に含まれるというのがわたしの本意でしたが…

以下の計算表では,所得収支(資産配当)に関係する数字は(),移転収支(財貨の移動を伴わない貨幣の純移転,つまり贈与)に関係する数字は[]で識別しています.

経常収支=貿易収支+所得収支(第一次所得収支)+移転収支(第二次所得収支)

A B a b X Y 支出額 損益 出金高 資産
配当
純転出 金融
資産
A 社債100 配当(10) 貸付50
配当(2)
免除[20]
150(12)
[20]
160 100 182 12 20 150
B 利子(10) (10) 供与[20] 100 -100 30 10 20
a 新規株100 100 国債50 60 -60 150 150
b 返済20
利子(5)
免除分20
株譲渡20 60(5) 60 0 65 5 60
X 140(15) 100 20(10) 50(2)
[20]
310(27)
[20]
50[20] 380 -60 427 27 40 360
Y 配当(5) (5) 180 60 5 5
所得額 160 100 60 60 380 180 560
貿易収支 100 -100 -60 0 -60 60 0
入金高 155 100 35 72 362 70 432
金融収支 -27 70 -115 7 -65 65 0
資産所得 15 15 2 32 32
純転入 20 20 20 40
金融負債 140 100 20 50 310 50 360
純負債 -10 100 -130 -10 -50 50 0
所得収支 3 -10 15 -3 5 -5 0
移転収支 -20 -20 0 20 -20 20 0
経常収支 83 -130 -45 17 -75 75 0
最終損益 73 -30 -175 7 -125 125 0

支出額・損益・所得額・貿易収支の各項目は実体経済循環マトリックスから転記したものです.「貿易収支」は上の実体経済マトリックスでは「財収支」と呼ばれています.入金高・出金高は金融経済循環の各ノードの取引金額合計で,

金融収支=入金高-出金高ですが,これは実体経済循環の損益=財収支=貿易収支に相当します.最終損益は,貿易収支+金融収支で,実体経済と金融経済を統合した統合経済循環マトリックス上の帳尻を示す数字です.金融経済循環マトリックスの当事者(経済単位)プロパティのリストを示します.

金融経済循環マトリックスの当事者(経済単位)プロパティ

以下では,すべての取引は金融取引(財貨の移動を伴わない通貨のみの移転)であるとする.通常は債務/債権を対価とする等価交換取引だが,債務/債権の存在を仮定しない通貨の純移転(非経済的取引=贈与)の場合を含む.※グレー表示した項目は金融経済マトリックスに含まれない参考値

  1. 支出額 当事者が支出した最終消費額と損益の合計(参考値←実体経済循環計算表)
  2. 損益 売上高と支払い高の差額(参考値←実体経済循環計算表)
  3. 出金高 当事者が支出したすべての金融取引額の合計(内部取引を含む)
  4. 資産配当 当事者の債務に関わる債権者への配当支出金額の合計
  5. 純転出 当事者が債務/債権に関わりなく外部に純移転した金額の合計
  6. 金融資産 当事者が支出して獲得した債権額(実取引価格)の合計
  7. 所得額 当事者によって生産された付加価値(参考値←実体経済循環計算表)
  8. 貿易収支 =財収支=損益(参考値←実体経済循環計算表)
  9. 入金高 当事者が受け取ったすべての金融取引額の合計(内部取引を含む)
  10. 金融収支 入金高と出金高の差額
  11. 資産所得 当事者の債権に関わる配当(地代・利子・配金など)の収入金額の合計
  12. 純転入 当事者が債務/債権に関わりなく外部から受け取った純移転金額の合計
  13. 金融負債 当事者の債務(証書)の代価として受け取った金額(実取引価格)の合計
  14. 純負債 金融負債と金融資産の差額
  15. 所得収支 資産所得と資産配当の差額
  16. 移転収支 純転入と純転出の差額
  17. 経常収支 貿易収支と所得収支,移転収支の合計
  18. 最終損益 貿易収支と金融収支の合計

さて,これで一応経常収支のところまではできたと言いたいのですが,国際収支統計ではその後に,①資本移転等収支,②金融収支という2つの収支統計を立てています.これらは以前は資本収支として統合されていたものですが,2009年のIMFの国際収支マニュアル改定時に別建てに変更されています.①資本移転等収支には,(1)対価の受領を伴わない固定資産所有権の移動,(2)債務免除のほか、(3)非生産・非金融資産の取得処分等の収支状況が含まれますが,以下のような理由から経済循環マトリックスでは,資本移転等収支という別枠を設けないことにしました.

経済循環マトリックス計算は「決済システム」であることを本義とするので,「通貨の移転を伴わない財貨のみの移動」という取引は基本的に対象外ですが,AからBに財貨Mを無償で移転する場合,たとえば,通貨の最小単位を1円として,BA1円を支払って財貨Mを手に入れるという取引は現実的に可能です.別の方法としては,①AからBM円の資金を提供し,ついで,②Bがその資金で財貨Mを購入するということもできます.「対価の受領を伴わない固定資産所有権の移動」はこのような「通貨の移転を伴わない財貨のみの移動」取引に含まれるため,システムを拡張することなく対処可能であるとしました.

金融経済マトリックス計算では,(a)資産配当計算,(b)通貨の純移転を除くすべての金融取引(c)は,債務者⇔債権者間の資金移動として扱われます.つまり,(a), (b)を除く一般の金融取引(c)は,すべて「債務/債権に関わる取引」であるということになります.このとき,債務の返済は債務者B→債権者Aのように表示されますが,これは債務者Bが債権者Aに新たな債務(ABに債務を負う)関係を設定していることと(外形的には)等価であり,自動的にはAの返済額分の債務が帳消しになるような動作にはなりません.これはマトリックス計算がストック(負債残高)を保持していないための事象です.

また,「通貨の移転も財貨の移動も発生しない」という取引もあり得ます.たとえば「債務免除」という取引の場合,債権者Aと債務者Bの間には資金移動は発生しませんが,明らかに債務者Bには免除額相当の利得が発生しています.上表にはこのような事例としてA社からbへの貸付50のうち,20を債務免除する取引を記載しました.この取引は実際には,①A社からbに資金20を純移転(供与)したのち,②bからA社への債務取引として20を送金するという手順の合成として実現されます.債務免除という取引は「資本移転等収支」に含まれますが,日本銀行の国際収支統計項目別の計上方法の概要では,その手続を以下のように説明しているので,上記の「合成手順」とまったく同義と考えられます.

債務免除とは、債権者と債務者の契約上の合意によって債務の全額または一部を任意で免除することです。具体的にみると、対外貸付の返済を免除した場合、「金融収支」の該当項目において資産の減少を計上し、同額を「債務免除」の支払に計上します。

「非生産・非金融資産取引」には,天然資源(鉱業権、土地等),経済資産として認識される契約・リース・ライセンス(排出権、移籍金等)およびマーケティング資産(商標権等)の取引が含まれます.ただし,これらの経済資産は財貨ではなく,「権利」のような「無形資産」と考えられているようです.しかし,これらの「経済資産」を「資産」として扱うのは,テクニカルな意味でかなり難しいような気がします.「土地」のようなものであれば,売買することにより所有権が移転することは明らかですが,「ライセンス」などの無形資産の場合,その権利が排他的なものであることは必ずしも保証されません.

知的財産権等使用料などはサービス消費に区分されますが,その所得源泉としての知的財産権などは,むしろ「資本財」の区分に入れる方がわかり易いというのが我々のポジションです(つまり,生産財).生島さんなら,多分「たとえば,AIは人間の知能・能力を増強するという意味での資本財」という立ち位置にご同意頂けるのではないかと思います…以上から,「資本移転等収支」という枠組みは,既存の実体経済マトリックスないし,金融経済マトリックスの中で(システムを拡張することなく)処理可能と考えています.

ここで,IMFの国際収支マニュアル第6版に含まれる,国際投資ポジションInternationalInvestmentPosition)という取り組みに関して少し検討してみたいと思います.国際投資ポジションとは,「年末などの特定日における,ある経済圏(国や地域)の対外金融資産・負債の残高(ストック)を表す統計表」として定義されています.上記したように,マトリックス計算では(ノードの持ち分以外の)ストック(負債残高)情報を持っていませんが,「取引データ」を使ってどこまでできるかを試してみることも意義があるのではないかと思います.

下記のマトリックスは,上の金融経済マトリックス計算表から起こした負債残高表です.負債残高はマトリックスのセルに個別に記録された{}で囲まれた数値で,N()をi番目のノード,C(i,j)をi行・j列のセルとすると,C(,)の負債残高{}は,ノードN()はノードN()にdの負債を負っていることを意味します.金融経済マトリックス計算では,金融資産と金融負債の絶対値にはあまり意味がなく,その差額である「純負債」のみが正しい値になっていましたが,負債残高表を使えば「正味資産/負債」を計算することができます.下記の表では金融所得取引と純移転取引は省きました.

A B a b X Y 支出額 損益 出金高 純転出 金融
資産
正味
資産
A 社債100
{100}
貸付50
{10}
150
{110}
160 100 182 20 150 110
B (10) 100 -100 30 20
a 新規株100
{100}
100
{100}
国債50
{50}
60 -60 150 150 150
b 返済20
免除分20
株譲渡20
{20}
60
{20}
60 0 65 60 20
X 140
{100}
100
{100}
20
{20}
50
{10}
310
{230}
50
{50}
380 -60 427 40 360 280
Y 180 60 5 0
所得額 160 100 60 60 380 180 560
貿易収支 100 -100 -60 0 -60 60 0
入金高 155 100 35 72 362 70 432
金融収支 -27 70 -115 7 -65 65 0
純転入 20 20 20 40
金融負債 140 100 20 50 310 50 360
正味負債 100 100 20 10 230 50 280
純負債 -10 100 -130 -10 -50 50 0
所得収支 3 -10 15 -3 5 -5 0
移転収支 -20 -20 0 20 -20 20 0
経常収支 83 -130 -45 17 -75 75 0
最終損益 73 -30 -175 7 -125 125 0

やってみましたが,これも手間が掛かる割にはあまり引き合わない計算であるような気もします.というのは,この{負債残高}はすべての債務・債権の合算であり,たとえば貸付も株式所有も証券もすべて一緒くたに合算したものになっているからです.しかも,この計算方式では「持ち合い」ということもうまく表現することができません.ノードN()とノードN()が同額の株を持ち合っていた場合には,C(,)の値も,C(,)の値もどちらもゼロになってしまうからです.「返済」という取引を表示するのに,取引金額に「負値」を使うことを許すことにすれば,この問題は解消できる可能性はあります.T(,)という取引では,通貨はつねにノードN()からN()に移動するものとしていましたが,値がマイナスの場合には移動方向を逆転させるということは実装可能です.この方針でもう一度負債残高表を書き直してみましょう.

負債を減額するような取引はすべて負値で表示するということになるので,上記の例で言えば,b→A社の返済20と,A社→bの債務免除に対応した,b→A社の免除分20の取引が負値となり,取引の位置も(A社, b)から(b, A社)に移動することになります.b→aの株譲渡20というのはどうなるのでしょう?これはaの持っている債権20をbに移転するという取引ですが,そのためには,aの資産を減額し,bの資産を同額増額する必要があります.現行では,bの資産が増額し,aの負債を増額するという動作になっています.取引額にマイナスを与えた場合の動作T(x, y)はxの資産を減額し,yの負債も同額減じるような動作になるはずです.aの資産の源泉である負債の債務者Xが特定できれば,Xがaからその債権を買い戻し,ついでbにそれを売却すればよいのですが,そこまでの履歴は残っていません.少し考えてみましょう.

金融取引ではすでに3種の取引種別(債権取引,資産所得,純移転)を導入しているので,これ以上複雑にしたくないところですが,少なくとももう一種の取引を導入するしかなさそうな感じです.債務/債権取引には以下のパターンがあります.

  1. Aの資産増加,Bの負債増加 通貨(+)の移動はA→B 負債の発生
  2. Aの資産減少,Bの負債減少 通貨(-)の移動はB→A 負債の返済
  3. Aの資産増加,Bの資産減少 通貨(+)の移動はA→B 債権の移転 
  4. Aの負債増加,Bの負債減少 通貨(-)の移動はB→A 債務の移転

2のパターンは1の逆と考えられるので,1の取引パターンで取引額に負値を与えることで表現できます.4の取引も同様に,3のパターンの逆パターンとみなすことができるとすれば,3の取引種別を導入すればよいということになりそうです.⇒いや,この方法には欠陥があります.マトリックス計算の縦横計算,つまり複式簿記算法が崩れてしまいます.これを避けるためには,たとえば,b→a+20bの資産を+20)とした上でa→a-20aの資産を-20)とすれば,3のパターンをカバーすることは可能ですが,セルごとの負債残高をキープしようと思ったら,これだけでは足りません.やはり,a→A-20b->A+20という2ステップの合成しかなさそうです.逆に言えば,負値を許すことにすれば取引種別は標準的な「債権取引」があればよいということになります.いまのところ個別ノード間の債務状況までの興味はないので,負債残高表は作らないという方針で,前者の方法※※を試してみることにします.

aが保有するA社の株式20をbに有償譲渡する手順.A社の負債20がaからbに移転するため,a→A-20,b->A+20という合成ステップになる.

前者の方法:aが保有する株式20をbに有償譲渡(転売)するという取引を①b→a+20,②a→a-20という合成ステップとして実現する手順.この取引によってaの資産は20減少し,bの資産は20増加する.

A B a b X Y 出金高 資産
配当
純転
金融
資産
A 社債100 配当(10) 貸付50配当(2)
免除[20]-20
返済-20
(12)[20]
150-40
142 12 20 110
B 利子(10) (10) 供与[20] 30 10 20
a 新規株100 資産減-20 100-20 国債50 130 130
b 利子(5) 資産増20  (5)20 25 5 20
X (15)100 100 (10) (2)[20]
50
-40
(27)[20]
250-40
[20]50 327 27 40 260
Y 配当(5) (5) 5 5
入金高 115 100 15 32 262 70 332
金融収支 -27 70 -115 7 -65 65 0
資産所得 15 15 2 32 32
純転入 20 20 20 40
金融負債 100 100 10 210 50 260
純負債 -10 100 -130 -10 -50 50
貿易収支 100 -100 -60 0 -60 60 0
所得収支 3 -10 15 -3 5 -5
移転収支 -20 -20 0 20 -20 20
経常収支 83 -130 -45 17 -75 75
最終損益 73 -30 -175 7 -125 125 0

前の債務残高表と比較すると,金融資産/負債の帳尻が280から260に減じています.これは前回の計算には株譲渡20の調整が入っていなかったためと思われます※※.この方式では債務残高表を作ることはできませんが,正味資産/負債は正しく計算できます.もし,債務残高表を作るのであれば,「債務/債権の移転」では一つの取引を分解して元の債務関係を調整するステップを追加する必要がありますが,IMFの「国際投資ポジション」でも,そこまでは要求していないようなので,ここまでとします.国際投資ポジションでは債権を分類して区分集計していますが,これもパスとします.(国際投資ポジションでは,直接投資,証券投資,その他投資,外貨準備を区分,さらに直接投資を株式資本,再投資収益,その他資本に区分,証券投資を株式と債券に分割し,債券では中長期債,短期債,金融派生商品を区分している)

※注意:金融資産/負債の数値は実取引金額から起算しているので,必ずしも債券額面の総額を示すものではありません

※※前回の計算」に見える「b→a株譲渡20」は実質的には「bはaに20貸付」という意味になり,「株譲渡」の手順になっていない.

IMFの国際収支基準は何度か改訂されていますが,2009年の改訂にはリーマンショックの反省が込められていると見ることもできます.ただし,その反省が,金融経済の欠陥を正すためのものであるのか?それともその欠陥をむしろ隠蔽することを意図するものであったのかはよく分かりません.少なくとも実体経済と金融経済をできるだけデカップリングするという方向性だけは伺われるように思われます.実体経済と金融経済は一卵性シャム双生児のように身体のごく一部で結合しているだけで,ほとんど「昼」と「夜」くらいの隔たりがあります※.

※一例を挙げると,上の計算表で個人bは,A社から50の貸付を受け,うち20を返済して,20を債務免除してもらっていますが,実体経済の計算表で見ると,Y国に海外旅行して60を消費しています(笑).この人物は給与60B社から得ているので,自分で稼いだ分を使っているのかも知れませんが…まぁ,昼と夜の顔が違うのは仕方ありません…

実際,経済循環マトリックスで見ると,実体経済循環と金融経済循環の接点は「持ち分」の共有という一点に尽きます.金融経済の「資本投資」と実体経済の「資本投資」では同じことばを使いながら,実態はまったく異なると言ってよいくらいです.一応ここまでできたので,経済循環マトリックスを使って少し遊んでみることにしましょう.たとえば,儒教的経済循環マトリックス,仏教的経済循環マトリックス,イスラム的経済循環マトリックスなどこれまで経済とは無関係と思われてきた観念が経済と深く結びついていることが確認できます.

通貨の純移転という取引は標準の金融循環マトリックスでは金融資産/負債収支に関わりがありませんが,これを金融収支に直接組み込んだものが儒教的経済循環マトリックスです.つまり,通貨の無償供与を償還期限無期限の債務と捉えるという考え方です.別のことばで言えば,「恩義はいつか返す必要がある」という倫理規定を経済の用語で説明し直したものと言えるでしょう.「贈与」という関係/取引は通常では「債務」を発生させませんが,儒教的世界観ではそうではありません.ただでもらったものはいつか必ず「恩返し」しなくてはならないという強い観念(原理)が存在します.親子関係における「孝」や,主従関係における「忠/恩」などの観念はそれを「徳目」として強調したものですが,ある意味で合理的/数理的な考え方であるようにも思われます.かつては先進国からODAを受けていた開発途上国が経済発展して債権取り崩し国となった老大国を援助するような逆転現象も,「国際収支発展段階説」で説明するより,むしろ「儒教的経済循環」で説明した方がわかり易いかもしれません.え!?,中国の孔子学院ってそのために設立されてたの?

仏教的経済循環マトリックスというのも,これと似ていますが,負債残高表を持たないところにその特長があります.儒教的経済循環マトリックスには負債残高表が存在し,誰から誰への負債か,その額はいくらかということが「記憶」され,債務返済はその債権者に対して直接なされなくては意味がありません(親は一組しかいないし,忠臣は二君に仕えることはできない).一方,仏教的経済循環マトリックスでは負債残高表を持たないので,誰にいくら借りがあったのかを追跡することができません.しかし,その債務はいつか必ず返済されなくてはならないものであり,また,なんらかの複雑な経路を経て自分自身のところにも帰還してくるものであると説いています.この理論はグラフ理論的にはかなり納得のいくものです(実際,経済=エコシステムが本質的に循環であることは明白です).「借りたものは返さなくてはならない」というのは交換経済の鉄則ですが,その返済は必ずしも当の相手に対するものである必要はないという自由度がこの経済循環システムのおおらかなところです.システム的にはこれで完全に整合するので,ある意味で儒教的経済循環より一回り大きいスケール感があります.

イスラム的経済循環マトリックスというのは,所得収支を金融経済循環から実体経済循環に移動したものと見ることができます.イスラムではお金を貸して利息を取ることを教義的に禁じていますが,イスラムの教義に従って運営されるイスラム銀行というのも存在します.イスラム銀行も通常の銀行と同様の融資(貸出)を行いますが,貸したお金に対する利息ではなく,金融サービスに対する対価として妥当な手数料を徴収します.これは結局,所得収支を実体経済マトリックス上で計算することを意味します.わたしは元々,所得収支というのは,お金の使用料(レント)であり,レンタル料金と同種の性格のものなのだから,実体経済で扱うべきだと考えていたので,イスラム的経済循環の方がしっくりきます.経済循環マトリックスの帳尻がゼロサムゲームであるというのは,厳然たるというより,数理的な自然法則ですが,そのゲームを弱肉強食の勝者総取りゲームとするのか,それとも相互に助け合う共助共栄のシステムにするのかはすぐれてシステム設計に依存します.このような意味で,過去の偉大な宗教家はそれぞれなんらかの意味で,経済循環システムの設計者でもあったことは確かでしょう.

NHKの大河ドラマ「青天を衝け」の主人公渋沢栄一はわたしが居住しているこの町が生んだ「郷土の偉人」ですが※,その彼に「論語と算盤」という本があります.わたしはこの本をまだ読んでいませんが,西欧流の資本主義を学んだ栄一による西欧流資本主義批判であったのではないか?という気がしています.経済と倫理・宗教が表裏一体の関係にあることはある意味で当然かもしれません.ユーゴーのレ・ミゼラブルの中に,刑務所から脱走したジャン・ヴァルジャンが泊めてもらった教会から夜中に銀の食器を盗んで逃走し,警吏に不審者として見咎められてミリエルという田舎司教の前に引き出されるという場面があります.ここでは「貨幣的でない取引」の意味する「窃盗」という通常の解釈が,第二の解釈である「善意の贈与」に逆転し,倍返しで「銀の燭台」まで差し出されるという劇的なシーンです.ジャン・ヴァルジャンを連行した警吏はこの経済学的解釈の大逆転に対抗することができません.経済とは,広い意味での世界解釈と言えるのではないでしょうか?

イエスは「カエサルのものはカエサルに」と述べていますから,彼が経済循環,特に貨幣の循環について深い洞察を持っていたことは確かだと思いますが,キリスト的経済循環マトリックスの具体的なイメージはただちには思い浮かびません.しかし,「一日の苦労は,その日一日だけで十分である」と述べているところからも,その経済循環が「持ち分」の増減の少ない,従って所得格差も極小であるような(入次数と出次数が一致する)オイラー有向閉路的な持続可能社会を目指していたことは間違いないように思われます.「貨幣的でない取引」の一方の極には「略奪」があり,それを転倒するものがミリエル司教の「贈与」であるとすれば,「地上のものではない」とされる「イエスの天国」も意外に身近な現実性を帯びて来ます.

※蛇足:渋沢栄一が新一万円札の顔になるというのはある意味で妥当な帰結と思われますが,それを一番最初に提案したのはわたしの高校時代の友人加藤浩康です.加藤は埼玉県議をやっていましたが,渋沢栄一翁顕彰事業の一環として,栄一の肖像を一万円札に採用することを十年前に提唱し,率先して活発な議会活動を行っていました.

経済循環マトリックス計算のルールブック(更新:2021/07/25

支払高=∑(行の全要素)=仕入高+最終財
売上高=∑(列の全要素)=卸売高+消費財
仕入高=∑(行の全仕入)支払高-最終財
卸売高=∑(列の全仕入)=売上高-消費財

最終財=∑(行の純消費)=支払高-仕入高
消費財=∑(列の純消費)=売上高-卸売高
純消費消費財最終財

仕入尻卸売高仕入高
財収支=仕入尻純消費
損益=売上高-支払高=財収支

所得額=売上高-仕入高
生産額=消費財仕入尻
支出額=最終財+損益

所得額=純支出=純生産(単位経済の三面等価原理)

総消費=∑消費財)=∑(最終財
総生産=∑(生産額)
総所得=∑(所得額)
総支出=∑(支出額)=∑(生産額)

総生産=総所得=総支出=総消費(総体経済の四面等価原理)

総取引額=∑支払高=∑売上高
中間総取引額=∑(卸売高)=∑(仕入高
総取引額(トランザクション総量)=中間総取引額+総生産

金融収支=純負債+所得収支+移転収支

最終損益=貿易収支(損益)+金融収支

(損益)=∑(財収支)=0(財貨的ゼロサムゲーム)
(金融収支)=0(金融的ゼロサムゲーム)
(最終損益)=∑(損益+金融収支)=∑(損益)+∑(金融収支)=0(貨幣的ゼロサムゲーム)

国内総生産=消費+投資+政府支出+純輸出

経常収支=貿易収支+所得収支(第一次所得収支)+移転収支(第二次所得収支)

国民総所得(GNI)=国内総生産(GDP)+所得収支
国民総可処分所得(GNDI)=国民総所得(GNI)+移転収支

2021/07/27 15:25

生島さん,下田さん

「経済」とは「個別取引」の総和ですが,取引の形態にはいくつかのパターンがあります.

  1. 財貨と財貨の交換 (物々交換)
  2. 財貨のみの移転  (略奪/贈与)
  3. 財貨と通貨の交換 (実体経済)
  4. 通貨のみの移転  (金融経済)

「財貨と財貨」の交換は「物々交換」の時代に行われる取引で,現在はかなり特殊な場合(外貨不足国家間のバーター貿易,禁輸品の交換取引など)にしか行われません.「財貨のみの移転」は「物々交換」よりももっと古い取引形態で,その経済主体の特性,意図により,窃盗・詐取・略奪・侵略・戦争(国家も独立した経済主体の一つ)から物資の配給・供与・分配・養育・扶養・介護・ギフト・災害支援・困窮者支援,その他の幅広いスペクトラムを持つ経済行為です.(これら2つの取引形態は経済循環マトリックスでは原則として扱われません)実体経済マトリックスでは「財貨と通貨の交換」のみを対象とし,金融経済マトリックスは「通貨のみの移転」を扱います.ただし,実体経済マトリックスと金融経済マトリックスを合併した統合経済循環マトリックス上では「財貨のみの移転」取引を,金融経済マトリックス上での「資金提供」と実体経済マトリックス上の「提供資金による購入」手続きに分散/分割することにより,擬似的な「貨幣的取引」として扱うこともできます.

「デフォルトしない決済システム」上に構築された「健全な経済循環グラフ」をエコシステム(永続経済循環グラフ)と呼ぶとすれば,「永続経済循環グラフ」の定式化はほぼ「持続可能社会の実現」と同義であると考えられます.「健全な」という用語は未定義ですが,ここでは「病理的な」という語句の反対語とお考えください.(現在の貨幣循環システムはかなり「病理的(pathological)」であるという認識があります)健全な経済循環グラフを定式化するためには,おそらく環境経済学の領域にまで経済循環グラフを拡張する必要があるでしょう.

自然界は完璧な食物連鎖ネットワークからなる「無駄のない」エコシステムと考えられますが,それを経済循環グラフとして表現するにはどうしたらよいのでしょう?食物連鎖は複数の経済的取引からなる循環系と考えられますが,明らかにこの「取引」は「財貨のみの移転」カテゴリーに属する「略奪」や「捕食」の世界です.「捕食者」は相手を丸ごと食べてしまうので,仮に自然界で通用する「仮想通貨」を考えたとしても,それを供与する相手がすでに存在しないため,意味をなしません.生命のようなものを一種の「通貨」とみなして「通貨のみの移転」とするスキームは考えられますが,この通貨はただちに「蒸発」してしまうので,計量に向きません.

ともかく,自然界を①植物界,②動物界,③人間界,④環境(大気・大洋)の4セクタからなる酸素循環系として構成するところから始めてみましょう.取引対象となる「財貨」は経済主体である生物の個体そのものですが,(ほとんど)すべての生物は有機物(炭素化合物)であると考えられるので,その個体に含まれる炭素原子量を個体の「価格」とみなすことにします.通貨単位は酸素分子です.二酸化炭素は1個の酸素分子と1個の炭素原子が結合したものですから,n単位の個体生物を分解するためには,n分子の酸素を要すると仮定できます※.つまり,n単位の個体生物とn分子の酸素は等価であると言えます.

生物の通常の生命活動の部分を(通貨の移動を伴わない)実体経済とし,酸素通貨の交換プロセスをその裏面の金融経済(酸素経済)として見ることもできるかもしれません.「環境」はこのモデルでは,一種の中央銀行のような役割を果たしているものと考えられますが,酸素経済ではすべての球が集まってくるピッチャのようなポジションですから,むしろ主要プレーヤとも見られます.植物界には1000単位の植物が生育し,動物界には100単位,人間界には20単位の個体が生息しているものとしましょう.以下のようなシチュエーションを考えます.

  1. 植物1000単位のうちの400単位は草食動物の食料となり,100単位が人間の食料になります.
  2. 人間は,さらに植物200単位を燃料として消費します.
  3. 植物は生成した有機物のうち,100単位を自身の生命活動のために消費し,残り200単位は土壌に還ります.
  4. 土壌に戻った200単位は植物界の微生物によって全量が水と二酸化炭素に分解されるものとします.
  5. 動物100単位のうち50単位は別の肉食動物の食料として消費され,20単位が人間の食料となります.
  6. 動物は食物の動植物から摂取した有機成分のうちの350単位を自身の生命活動のために消費します.
  7. 捕食されなかった30単位の動物は,植物界の微生物によって全量が水と二酸化炭素に分解されます.
  8. 人間は食物の動植物から摂取した有機成分のうち100単位を自身の生命活動のために消費します.
  9. 誰からも捕食されずに死を迎えた人間はすべて荼毘に付されて環境に召還されます.
植物界(1000) 動物界(100) 人間界(20) 大気・大洋 仕入高 最終財 酸素
排気
CO2
排気
酸炭
損益
植物界 P生産1000
P
活動100
P
分解200
P草食400 P菜食100
P
燃料200
O2排気1000
CO2
排気500
1500 500 1000 500 500
動物界 A分解30 A生産100
A
捕食50
A
活動350
A肉食20 CO2排気380 170 380 380 -380
人間界 H生産20
H
活動100
H
分解20
CO2排気120 20 120 120 -120
大気・大洋 O2吸気330
CO2
吸気1000
O2吸気350 O2吸気320
卸売高 1000 550 140 1690
消費財 330 350 320 1000
酸素吸気 330 350 320 1000
CO2吸気 1000 1000
酸炭収支 -670 350 320 0

この経済では実体経済マトリックス上では通貨の移動は行われないので,支払高と売上高の集計はありません.また,酸素と二酸化炭素はコインの裏表のような関係にあります.この経済循環マトリックスは化石燃料が使われる以前の主に農耕を主たる産業とする経済モデルですが,(薪炭)燃料200というのが計上されているので(この数字には食用および灯火用の油が含まれていると考えるのが妥当でしょう),産業革命以前のほぼほとんどの国,ないし地域の環境経済に適用できるのではないかと思います.このマトリックスを読む上でもっとも重要なポイントは,「この経済ではいかなる事態が起ころうとも,酸素供給量が全生物の生存に要する所要酸素量を下回ることはない」,つまり,「この環境経済ではストックとしての酸素量は増加することはあっても,減少することはない」と言えるという点にあります.なぜ,そんなことが言えるのでしょうか?ぜひ考えて頂きたいと思います.

このマトリックスに化石燃料の収支を導入する前に,これを少しアレンジして,人類の生命維持系経済循環とでも呼ぶべきマトリックスを提示してみたいと思います.経済循環系を4つのセクタに分割します.①農地・飼料用農地(放牧地を含む)・果樹園・緑藻(海洋植物系),②家畜・魚介類(人間の食糧となる動物性タンパク源),③人類,④環境(大気・海洋).この経済圏は第一次産業分野(農林水産業,ただし林業を除く)にほぼ重なります.

農地・果樹園
・飼料用農地
・緑藻(1000)
家畜・魚介類
(100)
人類(20) 環境(大気
・海洋)
仕入高 最終財 酸素
排気
CO2
排気
酸炭
損益
農地・果樹園
・飼料用農地
・緑藻
P生産1000
P
活動100
P
分解200
P草食400 P菜食100
P
薪炭200
O2排気1000
CO2
排気500
1500 500 1000 500 500
家畜・魚介類 A分解30 A生産100
A
捕食50
A
活動350
A肉食20 CO2排気380 170 380 380 -380
人類 H生産20
H
活動100
H
分解20
CO2排気120 20 120 120 -120
環境(大気・
海洋)
O2吸気330
CO2
吸気1000
O2吸気350 O2吸気320
卸売高 1000 550 140 1690
消費財 330 350 320 1000
酸素吸気 330 350 320 1000
CO2吸気 1000 1000
酸炭収支 -670 350 320 0

かなり手抜きですが,数字はまったく変わっっていません!変更したのはトップ行のラベルのみです.これを示したのは,人間が生命を維持するために必要な最小限の環境経済循環を確認したかったからです.人間は,農場と果樹園から収穫した穀物と野菜と果実を食べ,飼料用農地や牧草地で生産した飼料によって飼育された家畜・家禽の肉や卵を食し,海洋(淡水域を含む)から漁獲された魚介類を食べて生きています.家畜類はすべて草食と考えられるので家畜・魚介類の自己取引セルの中にある「捕食」という取引は不要と考えられますが,大型の魚類は小型の魚類を食べるので,残しておきます.魚介類の食物チェーンは植物性プランクトンから始まりますが,「緑藻」と書いている中にはこれらの微小植物も含まれるとお考えください.(人間の食物にはタバコや酒などの嗜好品・お菓子類も含まれますが,食品の加工や運搬などに掛かるコストは除外されます)

上記したように,「この環境経済ではストックとしての酸素量は増加することはあっても,減少することはない」ため,人類および,その生存のために必要なすべての食物生物を供給する生態系を維持するために必要な「酸素」は,海洋を除けば,農地(飼料用農地・果樹園などを含む)面積を維持するだけで十分であるということが分かります.このことは温暖化ガスの議論の中であまり重視されていませんが,かなり重要なポイントであると考えます.これを逆に言えば,「化石燃料」の追加・導入による酸素経済収支を考えるときには,「化石燃料」と「森林面積」ないし,「化石燃料による二酸化炭素の排出量」と「森林の酸素供給キャパシティ」だけを対比させればよいということになります.これを確認するのに難しい数学は必要ありません.

森林 化石燃料
(石炭・石油)
環境(大気) 仕入高 最終財 酸素
排気
CO2
排気
酸炭
損益
森林 森林資源産出量=
落葉蓄積量+
材木生産量
5000
森林呼吸量500
落葉分解量500
O2排気5000
CO2
排気1000
5000 1000 5000 1000 4000
化石燃料 化石燃料の
酸素消費量
4000
CO2排気4000 4000 4000 -4000
環境
(大気)
O2吸気5000
CO2
吸気1000
卸売高 5000 5000
消費財 1000 4000 5000
酸素吸気 1000 4000 5000
CO2吸気 5000 5000
酸炭収支 -4000 4000 0

カーボンゼロを実現するために必要な条件は,

化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量
森林資源産出量=材木生産量+落葉蓄積量=材木生産量+落葉生産量落葉分解量
落葉分解量=落葉生産量x落葉分解率

落葉分解率は樹種,地域,気温などによってかなりのばらつきがありますが,亜熱帯地方でも0.5程度と思われます.熱帯地方ではもっと大きくなるため残存炭素量は「かなり」少なくなります.上の生命維持系経済循環マトリックスでは,(安全を見て)この値を1.0(残存炭素量ゼロ)としています.土壌中の残存炭素量は時間経過とともにおおむね均衡状態に達しますが,この段階では一定量の炭素が地下水系から外部環境(大洋?)に流出しているものと思われます.(このマトリックスでは森林に生息する動物たちの酸素収支が無視されていますが,動物たちの食糧となる植物の酸素量は「森林資源産出量」からあらかじめ控除されていると考えられるので,特に問題はありません.むしろ問題になるとしたら,熱帯雨林の酸素収支がほとんどゼロに近いと推定される点でしょう.もちろん,バイオエタノールなどバイオマス資源から生成される燃料分の酸素も控除されなくてはなりません.)

2050年までにカーボンゼロというと,2050年には石炭やガソリンは使えなくなるのか!?と思ってしまいますが,それは間違いです.森林が存在する限り,逆に言えば地中に埋設された化石燃料が存在する限り,それを使い続けることができます.「化石燃料の使用量を削減しなくてはならない」という言い方が誤解を招いているのではないでしょうか?つまり,「化石燃料の使用量を削減しなくてはならない→化石燃料使用ゼロまで」のように受け取られている気配があります.むしろ,「どこまでならよいのか」という限度を明示してそれを維持するにはどうすればよいかを考えた方がよいような気がします.現在は地球周回軌道上に無数の人工衛星が存在し,それらから解像度の高い衛星画像を得ることができるので,森林面積を特定することは難しくありません.

森林資源産出量を決定するためには,その地域の林業の材木生産量や樹林の落葉生産量と分解率をそれぞれ個別に計測しなくてはなりませんが,それも不可能ではありません.地域ごとに公的機関によって認定された森林の酸素産出量に応じた「酸素チケット」を発行し,ある酸素単位の化石燃料を消費するには,それと同単位の酸素チケット(グリーン券)が必要であるということにすればよいのです.言ってみれば,炭素税ならぬ酸素税ですが,1単位の酸素の価格は酸素チケットをオークションに掛けることによって市場で決定することができます.その価格が再生可能エネルギーの価格より高ければ,消費者は化石燃料の消費を減らして再生可能エネルギーを使う方向に向かいます.この方法の利点は「いつかある日その目標を達成できるときが来る」のではなく,この制度を始めたその日から目標が達成されている,つまり酸素供給量を超える化石燃料はルールにより使えないというところにあります.森林を持っている地域には直接収入となるので,森林を維持するための強いインセンティブになるでしょう.

――グリーン車にご乗車になる方は車内でグリーン券をお求めください

2021/07/27 20:17

訂正:森林経済循環マトリックスにやや混乱したところがありますので,以下のように修正します.

森林 化石燃料
(石炭・石油)
環境(大気) 仕入高 最終財 酸素
排気
CO2
排気
酸炭
損益
森林 森林生産量
6000
森林呼吸量500
落葉分解量500
その他控除1000
O2排気6000
CO2
排気2000
6000 2000 6000 2000 4000
化石燃料 化石燃料の
酸素消費量
4000
CO2排気4000 4000 4000 -4000
環境
(大気)
O2吸気6000
CO2
吸気2000
卸売高 6000 6000
消費財 2000 4000 6000
酸素吸気 2000 4000 6000
CO2吸気 6000 6000
酸炭収支 -4000 4000 0

カーボンゼロを実現するために必要な条件は,

化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量
森林資源産出量=材木生産量+落葉蓄積量=材木生産量+落葉生産量落葉分解量
落葉分解量=落葉生産量x落葉分解率

森林生産量=森林資源産出量+森林呼吸量+落葉分解量+その他控除

その他控除にはバイオエタノール生産などに用いられるバイオマス資源や,森林内に生息する動物たちの食糧となる木の実などの生産量が含まれます.落葉生産量には,枯死した倒木や落枝などの他,製材などの加工から発生する(焼却処分される)残滓が含まれます.化石燃料の酸素消費量の上限を決める森林資源産出量材木生産量落葉蓄積量から決定されるので,その他控除の多寡には影響されません.「材木生産量」の「材木」に相当する木材は,相当の長期間(50100年以上)分解されない(焼却しない)用途に使われることを想定しています.

2021/07/29 22:03

生島さん

>非常に壮大な構想ありがとうございます。

どうも,どこまでも広がって止まりません…そろそろ手仕舞いしなくては…

>2つの目標とは
1.2050
年 カーボンニュートラル
2.2030
年 世界的飢餓撲滅

明らかに「食糧生産」の問題はカーボンニュートラルとトレードオフの関係にあります.「熱帯雨林を潰すな!焼き畑を止めろ!」という大合唱が聞こえますが,わたしからすると転倒しているような気がします.前便でも指摘したように,「耕地面積」と「人類」生存のための所要(最小)酸素量はほぼ「対応」しています.従って,人口が増えたら,それだけ耕作地を増やす以外の対策はわたしには考えられません(日本には半強制的に休耕している農地が相当あります).これが森林面積の縮小を意味するとしたら,それだけ化石燃料の消費を減らし,再生エネルギーの利用に振り替えることで対処できます.砂漠を緑化するということも考えられます.ただし,砂漠はおそらく地球環境にとっては,クーリングシステムの作用(輻射機能)を持っていると思われるので,地球温暖化を促進するかも知れません…(農業国=貧乏国という設計がそもそもの間違いです

(考えてみれば当然のことですが)人間が口から食べた食物の量と,人間が鼻から取り込む酸素の量が(酸素経済通貨単位で)ほぼ厳密に(遺骸として死後に残存する物質量と母親の胎内にいる時期の収支を除き)一致しているという事実はわたしに取ってもかなり意外な発見でした.この事実がほとんど見落とされているのは,酸素の供給者と需要者の距離が離れ過ぎていて,絶望的なまでに「トレーサビリティ」を欠いているためと考えられます.前便の「仏教的経済循環マトリックスでは負債残高表を持たないので,誰にいくら借りがあったのかを追跡することができません.しかし,その債務はいつか必ず返済されなくてはならないものであり,また,なんらかの複雑な経路を経て自分自身のところにも帰還してくるものであると説いています.」という説明は多少分かりづらいところがあったかも知れませんが,わたし達が,どこに生えているのかも知らない名もなく声を上げることもない植物が無償で提供してくれている酸素を「毎日」呼吸しているというこの「環境経済」の不思議な仕組みを考えれば,仏陀の説いた超経済(仏教的循環マトリックス)のリアリティが実感されるのではないかと思います.

>私はときどきこれを見て北極海の氷がなくなる日を予想しています。

北極海を真っ白いスワンのようなフェリーが行き来する光景が目に浮かびます.すでに「北極航路」はホットなプロジェクト次元に入りつつあり,中国も虎視眈々とこの海域を睨んでいるようですが,最近イタリアがロシア主導のプロジェクトから脱落しました.日本はこのプロジェクトに10%程度加担しているようですが,もっと力を入れてもよいと思います.ロシアにはこれから環境条件の好転するシベリアという広大なフロンティアもあります.実は,この計算表を見直しているうち,地球温暖化の行く末に関してはかなり悲観的な見通しに達してしまいました.前回の訂正便では,カーボンゼロを実現するための必要条件は,

化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量=材木生産量+落葉生産量落葉生産量x落葉分解率)

であるとしていますが,正確には,

化石燃料の酸素消費量≦森林資源産出量=材木生産量+落葉生産量x落葉残存率

とした方がよいかも知れません.というのは,落葉分解率というのは一般には「分解速度」を意味しているからです.落葉残存率は分解されないで最終的に土壌中に残留すると推定される資源量の生産量に対する割合です.この式では材木生産量を化石燃料の酸素消費量の上限である森林資源産出量に計上していますが,このクレームが通るかどうか?が問題です.「材木」は資本財ないし耐久消費財(またはその原料)と考えられますが,その耐用年数はそれほど長いものではありません(もちろん,法隆寺のような例外もあります).耐用年数を過ぎた木材は最終的に焼却などの経路でほぼ全量が二酸化炭素と水に分解されます.もし,材木生産量を含めることが妥当でないとすれば,化石燃料に割り当て可能な資源量は土壌中に(ほぼ恒久的に)残存する落葉(倒木その他を含む)に限られることになります.多めに見積もってもこの落葉残存量は落葉生産量の半分程度です.悪いことに,頼みの綱の熱帯雨林の落葉分解率は非常に高いため,多くを期待できません.最悪,残存量ゼロということすら考えられます.つまり,熱帯雨林はほとんど自家産出酸素を100%自家消費してしまっている可能性があります!(針葉樹の落葉残存率は比較的高めですが,悲しいかな落葉生産量自体が多くない…)

化石燃料の酸素消費量≦森林再資源量(リサイクル資源)=落葉の地層残存量+二酸化炭素溶解量

結論的には,森林生産量のうち,化石燃料の酸素消費量に割り当てることができるのは,土壌深部に蓄蔵された未分解の落葉有機成分とそこから流出しておそらく大洋に帰還すると推定される水に溶解した二酸化炭素くらいしかないだろうということになります.これは,化石燃料の使用が認められるのは,遠い将来に鉱物性燃料に化成されるであろうリサイクル資源と相対で置換される場合のみということを意味します(確かにこれが経済収支原則というものでしょう).もし,これがカーボンゼロの意味しているところであるとすれば,それを達成することは著しく困難であるような気がします※.落葉分解率などに関しては詳細な実地研究が行われているようですが,地球規模で半恒久的に埋蔵される森林資源量を推計するなどの研究は見当たりません.まぁ,100年間くらいの移行期間を考えて,その間は材木生産量を化石燃料に割り当ててもよいとするのであれば,かなり緩和されることになりますが…怖くて,みんなして目をつぶっているのでしょうか?

※というより,不可能であることは自明と言うべきです.仮に化石燃料を生成するのに1万年掛かったとして,それを100年のオーダーで使い切ろうとしているのですから…え,数千万年ですか?あちゃー.しかし,逆の見方をすれば,森林面積がゼロになることは想定外であるとして,少なくとも森林再資源量(リサイクル資源)がゼロになるということもあり得ないと考えられるので,その限りにおいては,化石燃料の消費は恒久的に保証されているとも言えます.ただし,その前にピークオイルが到来することもおそらく不可避でしょう.この意味で石炭資源を含め,あらゆる資源は最後まで大切に使われるべきものです.逆に材木生産量をリサイクル資源から除外したとしても,「グリーンチケット」の有効性が損なわれるものではありません.むしろ,その重要性はより喫緊のものになると言っても過言ではありません.森林資源の保護は,「人類文明と天然自然の調和」を追求する中での資源配分の問題であり,絶滅危惧種問題にも関わりがありますが,森林保護と化石燃料の使用が敵対関係にあるという見方には同意できません.むしろ共存関係にあるというべきではないでしょうか?

>私は『自然界は完璧な食物連鎖ネットワークからなる「無駄のない」エコシステム』とは思っていません。

広い宇宙には,想像も付かないような生態圏(たとえばカーボンの代わりにケイ素を主成分とする生物とか…)があり得るでしょうし,あり得ないレベルで効率的なエコシステムがあっても不思議ではありません.ただ,ここで「無駄のない」と言っているのは,「効率」ではなく,「行き届いている」という意味で…わたしには「一カケラの落ちこぼれもいない世界」のように見えます(もちろん,人間界を除いては…).

>そして、システムダイナミックスの更なる普及と利用ですね。

経済循環マトリックスとシステムダイナミックスがリンクしたら,かなりおもしろいことになりますね!生島さんが予算取ってきてくれたらやってもいいですよ.てか,わたしも中断している仕事があるので,そろそろ戻らないと手遅れになります…うちのノウハウをそっくり提供しますので,やってくれませんか?メシが食えていればうちのコードをオープンソース化してもよいのですが,まだ,BIが始まるのには時期尚早だし,その前に,基礎年金(ベーシック・ペンション)を出してくれと言ってるんですけどね…これが,なかなか…消費税を廃止して,一般取引税に切り替えてしまえば,「財源フリー」になるのですが…いまは,赤字国債で時間をマブっているので,なかなか大胆なことができません…

>これは、AI兵器危機、今回のコロナ禍でわかったバイオハザードリスク、そして核リスクですね。これを見える化させるには相当なルール改正が必要です。

AI兵器については,わたしはn十年も前から警告を発していますが,多分ロボット法(ロボット工学三原則)では「ロボットが人間に危害を加えること」を禁止しています.しかし,「兵器」はもともと「人間に危害を加える目的」で開発された機械であり,自動化されればロボットですから,兵器全般の製造・保有・行使を全面的に禁止するしかありませんが,現行国際法秩序では毒ガスなどの化学兵器,細菌(ウィルスを含む)など生物兵器,核兵器(劣化ウラン弾なども),地雷以外は特に規制はありません.わたしには通常兵器(爆弾やミサイル)とこれらを区別する合理的な理由を見つけることができませんでしたが(残虐でない兵器がどこにありますか?フマキラーよりもハエたたきの方が道徳的という根拠はどこに?),最近になって,もしかするとこれかなと思われることがあります.それは「環境を汚染する兵器は禁止する」という発想です.不可逆的に汚染された環境を回復するためには幾世代にもわたる時間が必要ですが,その影響は戦争の勝者側にも不可避的に及びます.(最近は復活する動きもあるようですが)核実験が全面的に禁止されたのは,その「非人道性」を深く憂慮してというより,それによる大気・海洋汚染が「すでに」看過できないレベルに「達している」ことに科学者たちが気づいたためではないかと考えています.わたしはすでに海洋は十分過ぎるほど汚染されていると見ています(漁獲量の減少・漁獲物の小型化などさまざまな兆候から…).

>馬場さんのエクセルレベルのオントロジーは、是非何らかの標準化団体で仕様検討して欲しいものです。。

済みません.まだまだ未完成です.わたし自身使いこなしていません.前回提示した,環境経済循環マトリックス(植物界・動物界・人間界・環境)では,「この経済では実体経済マトリックス上では通貨の移動は行われないので,支払高と売上高の集計はありません」と書いていますが,苦し紛れの「虚言」です.わたし自身この図式の有用性は認めていますが,まだ,整理しきれていません.生島さんに突つかれて大慌てで見直したものですが,以下のように訂正しておきます.標準的な経済循環マトリックスでは「行」がそのノードの「支出項目」を,列がそのノードの「収入項目」を示していますが,環境経済マトリックスでは「通貨の移転」と「財貨の移動」の関係がよく呑み込めていなかったため,次元が逆の図を書いていました.下記の訂正版では,行列を反転して(縦横を入れ換え)標準的な経済循環マトリックスに出てくる集計項目をすべて復活させています.

植物界 動物界 人間界 支払高 仕入高 損益 最終財 支出額 大気・大洋 酸素
吸気
CO2
吸気
酸炭
損益
植物界 P生産1000
P
活動100
P
分解200


A
分解30
1330 1000 670 330 1000 O2吸気330
CO2
吸気
1000
330 1000 -670
動物界 P草食400 A生産100
A
捕食50
A
活動350
900 550 -350 350 O2吸気350 350 350
人間界
P
菜食100
P
燃料200

A
肉食20
H生産20
H
活動100
H
分解20
460 140 -320 320 O2吸気320 320 320
売上高 2000 550 140 2690
卸売高 1500 170 20 1690
仕入尻 500 -380 -120 0
消費財 500 380 120 1000
純消費 170 30 -200 0
財収支 670 -350 -320 0
生産額 1000 0 0 1000
大気・大洋 O2排気1000
CO2
排気500
CO2排気
380
CO2排気
120
酸素排気 1000 1000
CO2排気 500 380 120 1000
酸炭収支 500 -380 -120 0

この計算表で見ると,以下のことが分かります.

  1. 酸素吸気=最終財
  2. CO2排気=消費財
  3. 酸炭損益=最終財-支出額=-損益
  4. 酸炭収支=生産額-消費財=仕入尻
  5. 環境(大気・大洋)は経済単位(参加メンバー)ではなくシステム
  6. 環境経済循環は「実体経済」であり,裏経済(金融経済)は不要
  7. 酸素を通貨単位として酸素1分子と二酸化炭素1分子,炭素原子1個は等量
  8. 有機体価格(生産/消費量)はその有機体が含む炭素原子数

これに従って,計算表を簡略化すると下図のようになります.

植物界 動物界 人間界 支払高 仕入高 損益 最終財:
酸素吸気
支出額
植物界 P生産1000
P
活動100
P
分解200


A
分解30
1330 1000 670 330 1000
動物界 P草食400 A生産100
A
捕食50
A
活動350
900 550 -350 350 0
人間界
P
菜食100
P
燃料200

A
肉食20
H生産20
H
活動100
H
分解20
460 140 -320 320 0
売上高 2000 550 140 2690
卸売高 1500 170 20 1690
仕入尻 500 -380 -120 0
消費財:
CO2
排気
500 380 120 1000
純消費 170 30 -200 0
財収支 670 -350 -320 0
生産額 1000 0 0 1000

この計算表を一目してわかることは,「環境経済循環の生産者は植物のみ」であるという紛れもない事実です※.これは単に人間を含む動物が,生存のために呼吸するすべての酸素を植物界に負っているというだけでなく,その実体を構成している物質(カルシウム・カリウムなどの無機物を含む身体構成物質のほぼ全量)もすべて植物由来,その活動に必要なすべてのエネルギーもまた植物に依存していることを意味します.つまり,すべての動物はまるごと植物におんぶに抱っこしているのです.生産活動を「労働」と言い換えれば,自然界で働いているのは「植物」だけで,残りは全員手ぶらで遊んでいるようなものです(狩猟がゲームであったことはオリンピックの槍投げを見れば分かります).100年の寿命を保つ樫の木は,その100年の間に1本の苗木を育てることができれば,最小限その種を維持することはできますが,足元をうろちょろする小動物のために惜しげもなく何千個という樫の実を毎年散布しています.なぜ,植物たちはこんなにも気前がいいのでしょう?それを思うとわたしは不覚にも涙腺が緩むのを禁じ得ません…すべての生物はDNAでつながっていると考えられるので,植物たちは,わたし達動物類を,親代わりに養っているのでしょうか?あ,そう言えば縄文土器(というより,土偶)に関して一つおもしろい記事があったのでリンクを貼っておきます.日本考古学史上最大の謎「土偶の正体」がついに解明

※この計算表を見て,これがマルクスの剰余価値理論の原理図だとわかった人は,資本論をかなり深く読み込んでますね.実際,経済循環マトリックスで,「資本家」の利潤がゼロになるようなマトリックスを描いてみれば,全生産価値=∑付加価値がすべて「労働者」に帰属するものであることを容易に示すことができます.ただし,よく見ると,上の計算表は剰余価値理論の逆論理になっているのかもしれません.剰余価値説では労働階級を再生産するのに最小限必要な生産価値を「控除」して,それを超える部分を余剰価値と呼んでいますが,樫の木の場合は,小動物が欲するだけの樫の実を存分に与えた上での(次世代再生産のための)余剰生産,つまり引き算ではなく,足し算になっています.これがガイアの豊かさと呼ばれるものでしょうか?(あえて蛇足を加えるなら,「情報経済循環」の世界はこの世界(ガイア経済)にかなり類似しているような気もします.)

実体経済循環マトリックスの取引種別には仕入消費2種しかありません.上記計算表のグレーの枠内に,青字で記入されている数字が「仕入」,赤字が「消費」です.「仕入」は「中間財」と呼ばれることもありますが,最終消費財の価格の中に含まれる中間製品の価格です.自然界の捕食関係は,この中間財の仕入れに相当します.実体経済マトリックスで一番重要なポイントは,循環経済の総体ではつねに4面等価原理が成立するという点です.これは総生産=総所得=総支出という三面等価原理に加えて,総生産=総消費の等式が成立することを意味します.グレー枠内の赤字をすべて合計すればそれが即,「総消費額」です.仕入れというのは多段に行われることがあり,何と何を組み合わせてどんな製品が構成されているのかは計算表を見ただけでは分かりませんが,少なくとも赤数字を合計することで総消費額だけは確定します(同時に総生産額・総所得額・総支出額も確定).このあとは,任意のセルに任意の仕入れ(青数字)を記入して,つねに整合した(四面等価原理が成立する)テーブルを構成できます(必ずしも赤と青の数字の連関を考える必要はありません).上の表を少しアレンジしてみましょう.

  1. (人間界,人間界)のH分解20を(植物界,人間界)に移動
  2. (動物界,動物界)のA捕食50A捕食90に増量
  3. (人間界,動物界)のA肉食20A肉食50に増量

1項は人間20を火葬しないで放置(野ざらし・風葬・水葬・土葬)した結果,微生物等によって分解されて無機化したという意味です.第2項の捕食+40は肉食動物の狩りの収穫が増えたのか食物連鎖が多段になった結果でしょう.第3項の人間による肉食+30は単純に食習慣が変化して肉食の機会が増えたためと推測されます.この変更では赤字合計,つまり総消費額は変化しないので,総支出額,総生産額,総消費額は不変です.

植物界 動物界 人間界 支払高 仕入高 損益 最終財:
酸素吸気
支出額
植物界 P生産1000
P
活動100
P
分解200
A分解30 H分解20 1350 1000 650 350 1000
動物界 P草食400 A生産100
A
捕食90
A
活動350
940 590 -320 350 30
人間界 P菜食100
P
燃料200

A
肉食50
H生産20
H
活動100
470 170 -330 300 -30
売上高 2000 620 140 2760
卸売高 1500 240 20 1760
仕入尻 500 -350 -150 0
消費財:
CO2
排気
500 380 120 1000
純消費 150 30 -180 0
財収支 650 -320 -330 0
生産額 1000 30 -30 1000

(植物界,動物界)のA分解30の値は変更されませんでした.この値は「捕食されなかった動物」の量を示すもので,「植物界の微生物によって全量が水と二酸化炭素に分解」されるのですが,だとすれば,人間の肉食が30増加しているのだから,「捕食されなかった動物」は30だけ減少しなくてはならないように思われますが,そうなっていません.その理由は,これらの数字が「個体数」ではなく「物量」をカウントしているためです.A肉食50A肉食100に変えたとしてもこのテーブルは成立しますが,このとき,「豚」はどのプロセスで50太ったのでしょう?50太ったとすればその50をどこかで供給しなくてはなりませんが,それはどこから来たのでしょう?経済循環マトリックスで言えることは,「計算はつねに正しい」ということだけです.

>今はこのレベルで大きく考える必要がある時代かなと思います。

イエスの天国=キリスト的経済循環マトリックスをイエスは「明示」したことがありません.しばしばそれを「天国とは~のようなものである」ということばで説明していますが,それらは暗示的なメタファーに留まるもので決して具象的なプランとして提示されることはありませんでした.そろそろ,その最終解を提示する,ないしそれを提示することが可能な時期に来ているのかもしれません.経済循環マトリックスを読み解くことができれば,世界経済を深く読み解くことができるとわたしは信じます.まだまだ続くのですが,お後がよろしいようで…ここで,一旦スレッドを閉じたいと思います.

このスレッドは2021/05/09に下田さんのYouTube動画「みんなのお金その4万年筆マネー」に付けたコメントから始まりました.3ヶ月近くの長期にわたり忍耐強くお付き合いくださった皆さまに心より感謝申し上げます.m(__)m

2021729日 ゼルコバの木テント村宿営地より

馬場研究所代表,系図ソフトゼルコバの木開発者
馬場英治

366-0026埼玉県深谷市稲荷町1-3-72コーポEMI2H
E-mail:babalabos@gmail.com
さあ,もう一度ゼロから始めようゼルコバの木テント村 
冷たい森(馬場研究所HP 
静かなる革命2009(政治ブログ) 
税制を変えれば政治も変わる一般取引税を導入して夢のジパングへ
《共同的資本主義論》新たなる国生みへの手がかりへ 

(完)

PS:スマホ(ファーウェイ製)が不調ですぐに(2,3時間くらいで)バッテリーが上がってしまいます.WiFiルーターを解約してスマホのテザリングでネットに接続しているので,そのうちまたネットにアクセスできないようになるかも…

2021/07/31 1:01

生島さん

応答ありがとうございます.

>人口増加を100億人で止め、30億人ぐらいにする説です。世界人口の増大が鈍化、2050年に97億人に達した後、2100年頃に110億人で頭打ちか:https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/
1
年に約1億人弱増加していますから現在79億弱です。

人口削減計画ですか?(笑)未来予測の中でも人口動態予測というのはかなり精度が高いのでこれらの数字を軽視することはできません.「人口に比例して耕作地面積を拡大する」というのが環境経済マトリックス計算から得られる(暫定的な)結論ですが,現在人口を79億人としてピークが110億人とすると,耕地面積を40%拡大する必要があります.この数字は必ずしも実行不可能な目標ではないのではないでしょうか?

>現在の課題は第4次産業革命で、AI、ロボットによる自動生産です。

「環境経済循環の生産者は植物のみ」というのは,厳然たる「事実」ですが,見方を変えると,たとえば生い茂った葉叢を持つ樹木は一種の「資本財」であるようにも見えます.光合成のプロセスはほぼ「全自動機械」の動作とも考えられるので,樹木は言わば「光合成工場」ですから,それを「所有」している植物はむしろ「資本家」に当たると言えるかもしれません.植物界が一種の自動アップデート機能(自己再生産機構)を備えたある種の「社会資本」であるとすれば,それに「AI,ロボット」が加わってくるというのは自然な構図であるようにも見えます.

AI系で言われるのは食料とエネルギーの地産地消です。

確かに,わたしもそれが理想形であるとは思いますが,穀物生産などはかなり集約的でかつ大農化が可能なので産出国と消費国に分かれてもよいのではないかと思っています(日本は産出国になれます).エネルギーの場合,トリウム溶融塩炉は可搬可能な程度まで小型化が可能なので,消費地の近くに分散配置できます(潜水艦・航空機にも積載可能).中国では2030年商用炉の建設を目標に開発を進めていますが,早くも9月には実験用原子炉が稼働します.(わたしが読んだ記事では確か2MWで高さ3m,半径2mくらいの大きなドラム缶というイメージですが,記事が見つかりません)日本では東芝が手掛けていますがかなりピンチな状況と認識しています.「地上の太陽」と言われる核融合炉の難易度は高く,国際的なコンソーシアムを組んで取り組んでいるところですが,核融合炉の燃料資源であるトリチウムを惜しげもなく海中投棄しようとしているくらいですから,当面あまり期待はできないでしょう.

>スタトレではこれをレプリケータ、フードディスペンサーなどと言っています。

ほとんど宇宙食の世界ですね!わたしはやっぱり,有機農法で育てた野菜が食べたい…いや,将来,流動化した食材をガスや水道のようにパイプラインで各戸に供給,3Dプリンタで印刷して食べるという時代が来ないとは言いません…

>問題無い派は輻射熱を主張します。エネルギー消費が進めば地球からの輻射が増えるだけ説です。

地球温暖化は単純な「ファクト」ですが,「二酸化炭素の温室効果ガス説」には多少の疑問を持っています.「正しい命題に誤った証明を与える」というケースはよくありますが,元の「命題」が正しいので,その「証明」の誤りを見つけるのは中々困難です.直感的には,「温室効果」なら寒暖の差は縮まるはずなのにむしろ逆のように見えます.わたしの見立てでは,化石燃料の消費に伴う問題は二酸化炭素の過多よりも,むしろ酸素量の(相対的)低下ではないかという気がしています.これによってオゾン層の破壊が進み,太陽の直射に晒されるようになっているのではないか?従って,二酸化炭素の過剰は地球からの輻射(の低下)にはあまり影響していないのではないか?むしろ問題は「エネルギー消費」の「絶対量の増加」であり,これは再生エネルギーを使うようになってもそれほど変化しないため,「地球温暖化」を食い止めることはできないかもしれない.逆に言えば,「エネルギー消費の絶対量の増加」がすでに地球からの輻射のキャパを超えているのではないか?

「環境経済循環の生産者は植物のみ」と言いましたが,植物の中には他の植物に「寄生」するものもありましたね.細菌や真菌類はその一例ですが,その中には,有機物分解など有益な活動を行っているバクテリアも含まれます.下の写真は「ストライガ」別名「魔女の雑草」と呼ばれる植物です.この花はアフリカではトウモロコシ畑を全滅させる悪魔の植物として恐れられています.生物学者と化学者の“ラーメン屋会議”が食糧危機を解決!?

ストライガ(魔女の雑草)

わたしが「貨幣論」に首を突っ込むことになったのは,theory-edgeという離散数学系のメーリングリストを主宰していた,ウラジミール・Z・ヌリという人物が書いた「経済的寄生としての部分準備銀行(VladimirZ.Nuri,FractionalReserveBankingasEconomicParasitism)」という小論文※(いや,結構長い62ページもある)を読んだことがきっかけですが,この中でヌリは部分準備銀行システムの信用創造について説明し,銀行は経済社会(実体経済)の寄生者であると喝破しています.現在は高校の教科書にも「銀行の信用創造」についての説明が載っているという話ですが,この時代(2000年頃)にはまだそんなことに気づいている人はほとんどいませんでした.(米国の若手経済学研究者の間ではその頃すでに議論が始まっていた模様です)今回のセッションの目的の一つは,「実体経済」と「金融経済」を(計数的に)厳格にデカップリングするというところにありましたが,その相互作用にまで深入りすることはできませんでした.「寄生者」と呼んでしまえばそれまでですが,現代資本主義の基盤をなす「金融経済」の功罪とそのメカニズムを解明することが喫緊の課題であると考えています.

WikiTalk:Criticismoffractional-reservebanking/Archive
Editorshavebeenbanned,peoplehavebeencalledallsortsofuglynames.There’sbeensomenasty[g]nashingofteetharoundhere というサーベイの22項目で言及されています.この種の論文がある種の禁書であった時代です..いや,今でもそうかも知れません…

もう一つ見落としてならないのは,「環境汚染」の問題です.わたしに取っては,温暖化よりもこちらの方がずっと気になります(原子力発電を含めて,核問題はわたし的には環境汚染問題です.そうでないとすれば,今日にでも地下シェルタを掘らなくてはなりません.東京の大深度地下はそのためという説もありますが…).東京オリンピックで東京湾の汚染が改めて浮き彫りになりましたが,197080年代のコペンハーゲン港(デンマーク)も同じように下水や工業排水が流れ込み悪臭を放つヘドロで埋まっていました.それが,2003年にはハーバーバスと呼ばれる海水浴のできる市民の憩いの場に生まれ変わっています.経済を持続可能な完全なエコシステムに変えるためには,廃棄物処理と資源リサイクルの問題を素通りすることはできません.いまは少し,カーボンゼロの方に引きずられ過ぎているような気がします.

北欧の人は日本が羨ましい? デンマークのすごい「自然のプール」が教えてくれたこと

2021/08/01 20:57

生島さん

切りがありませんので,気になる点だけコメントします.

>現在、途上国でも既に炭水化物は自給できる可能性が高いです。

縄文からポリネシアまでイモを常食して(豊かに)生きてきました.(飢餓を持ち込んだのは文明国です)

>従って2030年の飢餓撲滅は単に食糧の世界的サプライチェーンの構築で実現できるはずです。

問題は,農薬の大量散布+農薬耐性を持つ遺伝子組み換え植物の組み合わせですね.

>その頃の人口は30億人、ここに持っていきたいわけです。個人的には。

人口削減目標30億人って生島さんのご計画だったんですか!?(^^;

>体の健康について6大栄養素(水、ビタミン、ミネラル、タンパク質、脂質、炭水化物)のサプライチェーンが必要であるということです。

いまや,サプリメント業界は一大産業にまで成長しました.

>日本の農業人口はどう推移している? 農業現場へ与える影響とは

農業の自動化(ロボット化)という動きはすでに(わたしの町でも)始まってます.あとは移民でしょうか?すでに北海道などには海外からかなりの出稼ぎ労務者(研修生?)が入っているようですが…

>そして次が、人工「葉緑素」ですね。

人工「葉緑素」とか人工「肉」とかありますが,問題は「おいしい」かどうか?ですね.美味しければ食べますよ.ただ,わたしの直感では,「おいしさ」とその動植物が生育していた環境は相関があるように感じているので…つまり,ハッピーに暮らしていた生き物は食べてもおいしいような気がしています…

>「トリウム溶融塩炉」などは論外ですね。

わたし的には,むしろ「森林」を潰して「太陽光発電」なんて論外という感覚です.

>これは常に私が書いていることです。
1.
宇宙、物質を知りたいと思って、核リスクを作った
2.
生命を知りたいと思って、バイオハザードリスクを作った
3.
心を知りたいと思って、AIリスクを作った
ということです。

何をやるにしても「リスク」は付きまといます.プロメテウスは「火」を盗んだ罪で神から罰せされました.消防団を組織し,耐火・防炎材の使用を義務付けるなどの対策を積み重ねることで,火災による被害はかなり軽減されています.

>記事の記者さんにこうコメントしました。

この行の「主語」は生島さんという理解でよろしいですか?

>最後は、やはり、人間の欲望に歯止めがかからなく点ですね。
実質、無限のエネルギーを得られますから、、

人間は無限なるものを追い続けて来ました.事物の世界は有限ですが,貨幣や情報は「可能的無限」を内包しています.これに「エネルギー」が加わったらどんなことになるのやら?いや,もちろん,それは必ずしも悲観材料ではありません…

>個人的には、月、他の惑星で、無人の状態で核融合、核分裂は使うべきと思っています。地球のリスクは無くなります。

同意します.喧嘩は外でやってくれ!ロボット大戦はシアター・マースでお願いします.

>そして大部分はコンピュータの計算パワーに使われると思っています。
問題は情報処理に関する電力消費です。

生島さんから紹介された記事を拾い読みしてるだけで一日が終わってしまいます.一国の総理である菅さんが一日に受け取って処理する情報の量と一般庶民の情報量(の質も…)は今やほとんど変わりません.我々はすでに情報洪水の中にいます.大半のエネルギーが情報処理に使われるようになるというのはあり得る話かも知れません…

>従って、天気予報は過去データで補正する「データ同化」を使い出しました。

人間ニューロコンピュータですか?!

>そうなると、今までの気象常識は成り立たなくなります。台風の巨大化、偏西風、深層海流などの世界的スケールでの循環が変わりつつあります。

地球がエントロピー最大の熱平衡状態になれば,「気候/気象」という事象は消滅しますが,それではあまりおもしろくありません.経済循環マトリックスで(すべてのノードで収入と支出が等しい)オイラー均衡状態に達すれば,「持続可能社会」が実現しますが,それは,所得格差が固定したままの一種の「身分制社会」になるかもしれません.熱力学的なムラ(不均衡)があって初めてダイナミズムも発生します.わたしはそれが「自然」なのではないかと考えています.逆に言えば,「停滞している社会」はほとんど経済循環的に均衡しています.持続可能社会と言ってもさまざまなモードがあり得ます.

平成27年度 オゾン層等の監視結果に関する 年次報告書

ざっと読んでみましたが,いろいろおもしろいことが書いてあります.

「成層圏においてGHG※は、対流圏とは異なって、赤外線を宇宙に向けて放射することで加熱された成層圏大気を冷却する働きを持っているGHGの中でもCO2は最も濃度が高く、成層圏におけるCO2の増加は成層圏気温の低下に最も大きな影響を及ぼす。」GHG:グリーンハウスガス(二酸化炭素,メタンなどの温室効果ガス)

「経度方向に平均化された二次元モデルを用いた数値実験からは、北半球中緯度では、N2Oの増加はオゾン層を破壊し回復を遅らせる方向に、またCH4の増加はオゾン層の回復を早める方向に、さらにCO2の増加はオゾン層の回復を早める方向に働くことが示された。」

「なお数値モデル予測によれば、南北両半球とも中緯度域でのオゾン全量は21世紀後半には1960年レベルを超える見通しである。このような予測結果となるのは、EESCの減少の影響に加え、GHG(特にCO2)の増加による成層圏気温の低下(オゾン分解反応の減速)とブリューワ・ドブソン循環の強化(オゾンを多く含む空気塊の輸送の増加)による…」

ユヴァル・ハラリは「人類はフィクションを作りだすことによって文明を築いた」と言っていますが,「モントリオール議定書」などその典型かも知れません.そもそも,フロンって不燃性ですからね.それを「フロンを廃棄物と混合燃焼させて破壊処理」って何なのでしょう(爆)国内法令では,少なくとも一年に一回はフロン破壊処理装置の排ガスを検査して基準をみたしていることを確認することになっていますが,わたしには,ただ「希釈」しているようにしか見えません.トリチウム処理水を「希釈して海洋投棄」するというのとまったく同じ発想で,ただのごまかし,目くらましのように思われます(少しずつ燃せばよい,と言っても,燃えないので単に混合しているだけ).冷媒としてはほとんど理想に近いフロンの使用を禁止して,今では爆発の危険のある可燃性ガスを無理やりその代替に使っています…UNEP※が出している「オゾン層破壊と気候変化との相互作用による環境影響:2014アセスメント」という文書(上記URLP.201)には,なんと書いてありましたか?

UNEP:国連環境計画

「オゾン層破壊物質の代替物およびその分解生成物が、環境へ悪影響を与えるという新たな事実は発見されていないしかしながら、いくつかのオゾン層破壊物質の代替物に関しては、濃度が現在のレベルより高まれば地球の気候変化に影響を与えると思われる。」

つまり,それを使うとどういうことになるのか分からない物質をとりあえず,「代替物」として押し付けているだけです(いや,「影響を与える」と明言しています).随分無責任な…と思いませんか?Wikiにはこのように記述されています.

「フロン類の構造は多様であり、種類によって物理的性質は異なる。一般に無色・無臭で、熱的・化学的に安定。大気中に放出されたCFC紫外線によって分解し、塩素ラジカルが発生する。塩素ラジカルはオゾンと反応し、酸素分子と一酸化塩素ラジカルになる。この時発生した一酸化塩素ラジカルは再度オゾンと反応し、塩素ラジカルへと戻る。このサイクルが繰り返されることによりオゾン層が破壊される。但し、理論上そうなるということであり、大気圏中における実際の作用は不明であり、オゾンホールとの因果関係は予測の域を越えていない。」

上の反応プロセスで生成されるのは酸素分子です.成層圏では酸素分子は紫外線により分解されてオゾンに変わります.結局,オゾン量と酸素分子量は(フロンによるオゾン破壊という介入があったとしても)ある状態で均衡します.わたしはすでに我々の「大気」は(二酸化炭素過多というより,むしろ)「酸素欠乏」状態に入っているのではないかと推測しています.

>を再記しますが、再生エネルギーの重要性は太陽エネルギーしか使わないので、人間の経済行為でのエネルギー発生は0になります。これが地球倫理として重要なわけです。。(笑)

「再生エネルギーの重要性は太陽エネルギーしか使わない」というのは確かですが,これは,「エネルギー消費の絶対量の増加」の問題を解決しません.「エネルギー消費」というのは「エネルギーが熱に変換される」ことを意味します.地球を開放系として見た場合には,確かにエネルギー収支はトータルでゼロと言えますが,熱が地球にこもってしまう,つまり,地球が熱力学的な閉鎖系になっている,という状況は再生エネルギーを使用しても変わりません.このため,エネルギー発生量(追加エネルギー量)はゼロでも,「熱収支」はゼロにはなりません(太陽光発電の電気でも,化石燃料を使った電気でも,エアコンを回したとき外部に排出される熱量には変わりありません).もし,これが無視できるのであれば,「エネルギー消費が進めば地球からの輻射が増えるだけ説」が正しいということになってしまいます.

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